ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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51話

 ハニカーム島まで戻ってくると、その北側でクレセリアに乗ったソニアが巨大化したライボルトとバトルしていた。

 

「サダイジャ、受け止めて!」

 

 ウルガモスに担がれながら様子を見ていると、ライボルトの巨大な雷撃を茶色いポケモンが前に出て全身に浴びていく。

 

「エレザード、りゅうのはどう! ストリンダー、ヘドロばくだん! ラグラージ、10まんばりき!」

 

 その間に波に乗ったエレザードとソニアの後ろにいる紫色のポケモンが遠隔から攻撃していき、それに気をやった瞬間にラグラージが突撃していった。

 だが、それで倒れるわけではないようで、再度巨大な雷撃を作り出し始めた。

 

「次くるよ! サダイジャ、てっぺきで受け止めて!」

 

 雷撃の発射と同時にこれまた先程と同様、茶色いポケモンが鉄の壁を張りながら突進していく。

 あいつ、じめんタイプか?

 ということはあれがサダイジャってやつか。で、ソニアの後ろにいる黄色いモヒカンで身体が紫色のがストリンダーってやつだな。

 道場に帰ったら詳しく調べてみよう。

 

「エレザード、ラグラージ! なみのりで挟み込んで!」

 

 バトルが苦手という割には組み立て方が普通に上手いと思うのは俺だけだろうか。

 役割分担をしっかりしており、今もサダイジャが攻撃を受け止めている間にエレザードとラグラージで挟み込んでいる。両側から押し寄せる波に足元が安定しないライボルトは撒き散らすように電撃を放っているが、ラグラージとサダイジャには効果がなく、エレザードも平然としており、唯一効きそうなクレセリアもしっかり防壁を張って守っている。

 

「トドメよ! ストリンダー、ベノムショック!」

 

 そんな中一体だけが既に反撃に移っており、毒の衝撃波を撃ち放った。

 ベノムショックは相手が毒状態ならば、さらに技の威力が上がるのだが、ライボルトも例に漏れず毒状態になっていたようで、その一撃でダイマックスエネルギーが飛散していく。

 これでバトルが苦手とかおかしな話だよな。ポケモンのタイプから技の相性まで、全てにおいて無駄がない。無駄に攻撃するわけでもなくしっかりと役割分担させるなんて、なかなかできることではないんだけどな。

 一体誰と比べてバトルが苦手とか言ってるんだか…………。

 

「た、倒せた………」

「お見事。普通に戦えるじゃねぇか」

「ハチくん!?」

 

 当の本人は一人でレイドバトルを切り抜けられたことに心底驚いているようだ。

 声をかけたらめちゃくちゃ肩が飛び跳ねたぞ。

 

「………たまたまだよ、たまたま。クレセリアがわたしのことを守ってくれてたし、みんなのサポートもしてくれていた。だからみんなもわたしのことを気にせずに戦えたから勝てたのよ。クレセリアがいなかったら、こんな海の上でなんて無理よ。地上でも一人でレイドバトルなんてしたことないんだし」

 

 背中から負のオーラが出てそうな程暗くなるソニア。

 今ならあくのはどうも撃てそうな暗さだぞ。

 あくまでも頑張ったのはポケモンたちであり、自分はずっと守られていたただの役立たずとでも思っているのだろう。俺もそう思わなくもない時があるため、その気持ちは分からなくもない。

 

「だとしても。お前の采配でバトルして勝ったのは事実だろ。それを否定したんじゃ戦ったポケモンたちに失礼だと思うぞ」

 

 ただ、あまりに卑下しすぎると、それはそれで戦ったポケモンたちにも失礼だとも思っている。ポケモンたちはトレーナーを信じて前に出ているのだから、トレーナーの采配で動いた結果勝てたとなれば、ポケモンたちからすれば自分のトレーナーの勝利と感じていてもおかしくないからな。強敵相手ならば尚更だろう。

 まあ、そうは言ったってっていうのがソニアなんだろう。どんな闇を抱えているのかは知らんが、その闇を取っ払わない限りはこのままなんだろうな。

 

「ラグラ」

「あ、ラグラージ。お疲れさま。ライボルト、連れてきたんだね」

 

 なんてソニアの背中を見ながら観察していると、ソニアのラグラージが背中に気を失ったライボルトを連れて戻ってきた。

 

「放っておくのも忍びなかったんだろ。海の上にみずタイプでもない奴を放っておくのは危険だからな」

「う、うん、そうだね………」

「取り敢えず、ビーチの方にまで戻ろうぜ。こんな状態じゃポケモンたちも休まるもんも休まらんだろ」

「………うん」

 

 心配そうにラグラージがソニアの顔を覗き込んでいるが、一度入ったスイッチは中々切り替わらないのだろう。

 面倒くさい。実に面倒くさい。見た目は陽キャのくせして中身が陰キャとかタチが悪いにも程があるだろ。

 俺も含めて面倒な奴は多々いるし、実際周りにもユキノとかザイモクザとか面倒なやつはいたからな。それでもソニアに比べれば可愛いものだ。何ならユキノの面倒くささは超可愛いまである。

 いや、うん。それはいいとして、ソニアの知り合いにガツンと言える奴はいないのだろうか。それともそれすらも言えない過去がこいつにはあるというのだろうか。

 あまりにも知らないことだらけで俺にはお手上げだわ。

 だからと言って知りたいとも思わんがな。どうせこいつとは今回きりの関係だし。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「で、キングドラさんや。そちらは?」

 

 チャレンジビーチに戻ってきた俺たちは、それぞれポケモンたちの回復に務めているのだが、その一環で俺たちについてきたキングドラに一体のポケモンが付着しているのを発見した。

 クズモー。

 どく・みずタイプ。

 カロス地方の海にも生息しているポケモンだ。

 

「ドラ、ドラドラ」

「『キガツイタラワタシニヒッカカッテイタ』と。ほう、それで?」

「ドラドラ、ドラ、ドラドラ」

「『ホゴシテホシイ。ツイデニワタシモホゴシロ』。おう、なんかお前遠慮ねぇのな。絶対後半が目的だろ」

 

 こいつ、引っ付いてきたクズモーを出汁に自分の保護を要求してきやがったぞ。

 

「ドラドラ!」

「いて、いっ、ちょ、バカ、乗るなっつの!」

 

 悪態吐いたらこれだからな。

 こいつ、つつけば何とかなるって思ってないだろうな。

 

「分かった分かった、分かったから! お前ら二人とも保護するから!」

 

 まあ、しちゃうんだけどね。

 だって痛いんだもん。

 キングドラって間近にいると俺よりも身体デカいし、その身体にのし掛かられてつつかれたんじゃ堪ったもんじゃない。

 ったく、クズモーはいいとして、何故にキングドラまで…………。

 

「ライボルトの回復終わったよー………って、何してるの?」

「な、んか、自分を、売り込んで、きやがった…………ふぅ、おもっ………」

 

 チャレンジビーチに戻ってくる頃には明るくなったソニアが、訝しむんでくる。

 おい、見てないで助けろよ。マジで重いんだよ。

 

「ちょ、いて、こら、つつくなっつの!」

「めっちゃ懐かれてんじゃん」

「これのどこが懐いてんだよ。めっちゃ攻撃してくるんだけど……いて」

 

 保護すると断言したのに未だに俺の上から退いてくれないんだけど。しかもつついてくるし。何なのこいつ。ボールに入れてそのまま海にポイするぞ。

 

「………白い髭。ということはその子、メスだよ」

「だから、なんだよ……っ」

「惚れたんじゃない?」

「サナ!?」

 

 いや、待て。

 何故そこでお前が驚くんだよ、サーナイト。

 

「サナー! サナサナー!」

 

 あ、キングドラを弾き飛ばして馬乗りになったよ。

 おかげで俺は解放されたけども。

 

『ダメー! パパハサナノー!』

 

 スッと出される鬼火にはそう書かれていた。

 ………いや、うん。

 そこは訳してくれなくていいからね。

 そして何気にパパと呼ばれているという事実に驚きだわ。確かにそんな関係性に近いかもとは思っていたが………。実父はカロスにいるでしょうに。

 

「ドラ?! ドラドラ………ラァ…………」

 

 あーあ、サーナイトの勢いに負けてブンブン揺さぶられたかと思えば、ぐったりとしていくキングドラ。

 これ以上はいくらキングドラ相手だろうと、流石に止めないとだな。

 

「サーナイト、締めすぎ締めすぎ。落ち着け。キングドラが白眼剥いてるぞ」

 

 馬乗りになって揺さぶるだけで戦闘不能に追い込んでしまうなんて………。

 

「サナー!?」

「大丈夫大丈夫。死んでない死んでない」

 

 気づいてなかったのか、サーナイトはキングドラの様子を見てガチめに焦っている。

 

「サナー!」

「俺はお前から離れる気はないから落ち着け」

「サナ………」

 

 だから後ろから頭を撫でて引き寄せると、ようやく落ち着きを取り戻してくれた。

 キングドラもこれで少しは分かってくれただろうか。下手に俺にちょっかいを出すとサーナイトにやられてしまうことに。俺も初めて知ったけど、まさかここまでの反応を示すとは。

 

「………ハチくんを見ているとわたしが培ってきたもの全てが意味を為さなくなるような気がしてくるよ」

「はっ? 急に何言ってんの?」

「バトルはダンデくんに勝つくらい強いし、レイドバトルだって結局二体ともハチくんが倒したんでしょ? それでいてポケモンの知識もおばあさま並みだし。ううん、実践経験がある分、ハチくんの方が上かも………」

 

 何だ、こいつ……急に。

 ハイライトを無くした目で、ソニアは何が言いたいんだ?

 

「何故俺と比べる必要がある。お前はお前だろうが。さっきのライボルトとのバトルだって、道場の門下生に比べたらポケモンの知識もバトルのセンスも上だと思ったぞ。なみのりを覚えたエレザードとラグラージが陽動、じめんタイプのサダイジャを壁役、飛べないストリンダーをクレセリアに乗せてどの位置からでも攻撃を可能にするという的確な役割分担に、技の組み合わせ。最初の方にライボルトを毒状態にしておいたんだろ? でなければ、ベノムショックの威力があそこまで上がることはない。これでバトルが苦手だなんておかしな話だと思うんだがな」

「………こんなのまだまだ下の下よ。わたしの知るポケモントレーナーはもっともっと巧妙で一撃が重くて、圧倒的なんだから」

 

 いや、下の下って。

 少なくともジムリーダークラスだと思ってたんだが、こいつは一体誰を基準に考えてるんだよ。

 あれで下の下だったら、他のジムリーダーたちーーカブさんたちはどうなるんだよ。中の中にすら届かねぇんじゃねぇの?

 それに俺と比べるのは間違ってるだろ。こいつに言ってはいないが、俺は特殊な部類だぞ? 手を汚しまくった強さと比べるもんじゃねぇだろ。

 

「なら、尚更俺と比べるなよ」

「最強のトレーナーにも最高の研究者にもなれるハチくんには分からないでしょうね! この惨めさは!」

 

 だが、一度封を切ったソニアの感情は火山のように湧き出てくるようで、俺の言葉に耳を傾けている素振りもない。

 これが所謂感情的になっている、の究極バージョンってやつだろう。最早感情の暴走だな。

 

「小さい頃からマグノリア博士の孫って見られて、いつでもどこでも期待される! ジムチャレンジに参加したってその目は変わらず、何ならダンデの幼馴染だって目でも見られる! これでプレッシャーを感じないわけないじゃない! 片や順調に勝ち進んでチャンピオンにまでなったダンデくんに対して、わたしはバッジ五つ目でプレッシャーに呑まれて敗退……。SNSにだって何度も何度も誹謗中傷の言葉を書かれるわ、実際に被害に遭うわで………。トレーナーを辞めて研究者の道を目指しても今度は留学先でもマグノリア博士の孫って肩書きがついて回るし。もう、うんざりなのよ! ダンデの幼馴染だとかマグノリア博士の孫だとか、ちゃんとわたしを見てよ! わたしはわたしなんだから! 二人の顔を見る度に黒い感情しか芽生えなくなっちゃうじゃん!」

 

 ………なるほど。

 昨日から時折感じていたソニアの闇はこれだったか。

 有名博士の孫という生まれた時から言われ続けた肩書きに、もう一つ背負うことになったチャンピオンの幼馴染。いつの頃に参加したのかは知らんが、恐らくジムチャレンジ中もダンデはバトルを楽しみ、ソニアはプレッシャーに呑まれて思うようにできなかったのだろう。それが今ではトラウマになってるってわけか。

 

「………だからこれ以上大好きなダンデくんを大嫌いにならないように距離を取って、憧れのおばあさまからも離れられるようにこの島の調査を買って出たっていうのに、何でこの島でまで二人のことをチラつかせるあなたがいるのよ…………やめてよ…………わたしにこれ以上惨めな思いをさせないでよ! 二人を大嫌いにさせないでよ!」

 

 全く以って理不尽極まりない。

 俺の存在そのものがソニアにとって悪とか、なら俺にどうしろって話だわ。

 爺も爺だ。あの爺のことだから、当時のソニアのことも知ってるだろうし、何があったかも承知のはずだ。だから俺の存在はソニアにとって二人を想起させる原因にしかならないと分かるだろうに、敢えて俺に護衛の任務を押し付けてくるとか、何を考えるんだよ。

 あれか? 感情を吐露させて受け止めてやれってか?

 生憎俺にそんな高度な対人スキルは備わってねぇし、同情もしてやれるわけないだろ。俺も訳ありだから理解してやれるとでも思ったのかもしれないが、今回ばかりは采配ミスでしかない。ケースが違い過ぎるんだよ。

 

「もう、わたしに関わらないで!」

「あ、おい………!」

 

 最後にそう言い残して、ソニアは走り去ってしまった。

 どうするよ。今行ったって絶対喧嘩になるし、感情がさらに暴走するだけだろう。

 あー、くそ。何で俺がこんな役回りしなきゃならねぇんだ。アホ臭いい。結局あいつ、二人のことが大好きなんじゃねぇか。嫌いになりたくないから距離を取るって…………あー、もう面倒くさい!

 

「………ったく。すまん、ダークライ。あいつの影にいてやってくれ。俺が今行っても悪化するだけだろうから。何かあったら空に黒のでも打ち上げて合図をくれ」

「ライ」

 

 一応護衛としての役目は果たしておくことにする。さっきまで第二の巨大化事件が起きるところだったんだ。犯人はまだこの島にいるだろうし、ソニアが鉢合わせる可能性もある。

 

「ワパ」

「おー、ワンパチー。お前のご主人様は面倒な生き物…………えっ? ワンパチ?!」

 

 振り返ればワンパチの他にもエレザード、ラグラージ、サダイジャ、ストランダー、ライボルトと回復するためにボールから出ていた面々が佇んでいた。

 

「おいおいおい、マジかよ………」

 

 あいつ今手持ちのポケモンほぼいねぇじゃねぇか!

 そんなんでどっか行くとか……………。

 

「だぁぁぁ、もう! 次から次へと!」

 

 どうするんだよ、こいつら。ボールはソニアが持ってるだろうし、ここに残して追いかけるわけにもいかないじゃねぇか!

 

「ワンチャン、戻ってきたりしねぇかな…………」

 

 そんな俺の希望的観測は太陽が傾き始めても叶うことはなかった。

 

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