ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

57 / 154
52話

 ドォォォン!!

 辺りが暗くなり始めた頃。

 クズモーを起こして事情を話し、クズモーの意思を確認してからキングドラ含めてボールに収めたりしていると、チャレンジビーチの北東にある集中の森の方から、黒いオーラが打ち上げられた。

 

「………マジで何かあったのかよ」

 

 さて、どうするか。

 ソニアのポケモンたちを全員連れていくのも大所帯だし、かと言って置いていくのもな…………。

 

「お前ら、マスター道場への帰り方は分かるか?」

「ワパ!」

「なら、ワンパチの先導で道場に戻っててくれねぇか? ソニアのところには俺が行くから」

「レザ!」

「ラグ!」

「えぇー………」

 

 めっちゃ拒否られたんだけど。

 エレザードとラグラージは特に強い意思を見受けられる。

 

「何が起きてるのか分からないんだぞ?」

「レザ!」

「ラグ!」

 

 ストリンダーやサダイジャはじっと俺を見てくるだけだが、その目は笑っていない。恐らくこいつらもエレザードたちと同じ意思なのだろう。

 

「………はぁ、連れていくしかないか」

 

 ………あれ?

 ライボルトは?

 いなくね?

 

「なあ、ライボルトは?」

「ラグ」

「レザ」

 

 声を発しないストリンダーとサダイジャも一斉に北東の方を指した。

 …………えっ? マジで?!

 

「あいつ、真っ先に行っちゃったのか?」

「レザ」

「えぇー……」

 

 いつの間に………。

 逆にこいつらはよく残ったな。こいつらの方が真っ先に駆けつけそうなのに。一応この場にいる俺の判断を仰いでからってつもりだったのかね。

 

「分かったよ。お前らも連れていく。ライボルトだけにおいしいところ取られるわけにはいかないもんな」

「レザ!」

「ラグ!」

 

 よっしゃー! って感じで拳を握る三面にサダイジャとワンパチも跳ねている。

 ………一応、壱号さんに報告しておくか。もしかしたら犯人確保の可能性もあるわけだし。本土にいる国際警察がヘリでも寄越してくれるだろう。

 スマホを操作してメールを一通送っておく。ソニアが走り去ってからも事のあらましを報告するためにメールを一通送っているが、これですぐに対応してくれるはずだ。犯人確保とならずとも捜査員がこの島に上陸してくるのには変わりない。犯人もそう簡単には逃げられなくなるだろう。

 

「………さて、メールも送ったし、行くとしますか」

 

 まあ、こんな悠長にしていられるのもソニアの側にダークライを行かせているからなんだが。そうでなければ、ソニアのポケモンたちと一緒に走り出していたと思うわ。

 

「………森とかほとんど行ったことねぇんだけど」

「ワパ!」

「ん? どうした、ワンパチ」

「クンクンクン、クンクンクン」

「あー……ソニアの匂いを探すのね。そりゃ妙案だわ」

 

 森にいることは分かったが、森のどの辺りかまでは分からない。それをワンパチの鼻で探り当てようということらしい。

 探す手間が省けていいね。ワンパチに感謝だわ。

 先導するワンパチに続いて俺たちは砂浜を北上し、森の中へと脚を踏み入れた。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 集中の森に入った俺たちは、川沿いをただひたすらに北上していた。

 もうね、日が暮れそうな森の中とか薄暗くてほとんど何も見えないわけよ。

 ワンパチが匂いでソニアを探しているが、最早こいつの鼻だけが頼りかもしれない。

 夜の森とかマジで勘弁してほしいわ。それもこれも今回の巨大化事件を引き起こした犯人のせいだ。巨大化したポケモン二体とバトルする羽目になるわ、そのせいでソニアのトラウマを過剰に刺激することになるわ、こんな暗い森を散策しなければいけなくなるわ………踏んだり蹴ったりである。犯人を取っ捕まえたらどうしてくれようか。

 

「ニョロトノ、みずのはどう!」

 

 すると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 はぁ………マジかよ。

 

「きひひっ、ヨノワール……シャドーボール」

 

 もう一人、怪しい人物の声が聞こえてくる。

 この状況でこんな悪人口調の男の声なんて一人しかいないよな………。

 予想が的中とかマジ勘弁しろし。

 

「ハッ、勝ち組から負け組に堕ちた雑魚に、オレたちが負けるわけねぇだろォが!」

「くっ……」

 

 聞こえてくる状況的にソニアの方が劣勢なようだ。

 それにしてもこの男、典型的な悪人口調すぎない? 笑えるレベルだぞ?

 

「ほーら、叫べ! 泣き喚け! お仲間の男に聞こえるくらい泣き叫べよ!」

「ライラ!」

「なんだァ? もうヒーローのご登場か?」

「ライボルト………なんで………」

 

 そこへ先に行っていたはずのライボルトが到着した。

 あいつ、本当にソニアのところにまで向かっていってたのね。でも何で俺たちの方が早くたどり着いてんの?

 

「待て。今あいつは自分からバトルをしてるんだ。劣勢だが、それでも足掻き続けている。もう少し、もう少しだけ様子を見ててくれ」

 

 ライボルトに呼応するかのように俺といるソニアのポケモンたちも飛び出して行こうとするが、ソニアが状況的に仕方なくとはいえ自らバトルしているのだから、もう少し様子を見るために待ったをかける。

 ポケモンたちもソニアの葛藤を見てきているからか、しばらく見守る事を選んでくれたようで、前に出かけていた脚を引っ込めていく。

 

「このライボルトはさっきあなたが仕掛けた大量のねがいのかたまりによって、強制的にダイマックスさせられた被害者よ」

「あぁ、なるほど。あの男が戦ってた二体にライボルトはいなかったからなァ。お前も戦ってたのか。トレーナーを引退した出来損ないのシンダーソニア」

 

 よし、取り敢えずボイスレコーダーを起動っと。

 ところでシンダーソニアってなに?

 

「要はお前に倒されるくらい弱いポケモンってことだろ? 相手にならねぇよ。ヨノワール、おにび!」

 

 ライボルトの目の前に現れたヨノワールが火の玉でライボルトを包んでいく。

 

「たたりめ!」

 

 そして男の方に戻ったヨノワールが藍色の光線をライボルトに向けて放った。

 

「ライボルト、ほうでん!」

 

 ライボルトはソニアの指示で放電し始めるも、その隙間を縫うようにして藍色の光線がライボルトに突き刺さっていく。

 火傷状態にたたりめは威力が高くなるコンボ技だ。まともに受けたんじゃ………。

 

「ほーら、だから言ったじゃねぇか。雑魚に雑魚が合わさっても雑魚でしかねぇんだよ」

 

 男の言う通り、ライボルトは一撃でボロボロになっていた。

 それでも立ちあがろうと足掻いている。

 

「………わたしのことを悪く言うのは一向に構わないわ。事実だもの。サンダーソニアなんて通り名も今ではシンダーソニアって呼ばれてるみたいじゃない? ふふっ、笑えるわね。シンダーソニア。まるでわたしが死んだみたい。………そうね、引退したのだからトレーナーとしてのソニアは死んだも当然か」

 

 あっ、シンダーソニアってそういう?

 つか、ソニアにも通り名があったんだな。

 サンダーソニア。名前から察するに当時からでんきタイプを使っていたのだろう。

 そして、負けたから、あるいはトレーナーを引退したから通り名もシンダーソニアに変わったと。シンダーって死んだと掛け合わせてんの? ガラルの人たちの言葉選びのセンスよ。最早有名人に対するいじめじゃねぇか。

 そら、ソニアも嫌になるわけだ。ただでさえ祖母の偉大さを押し付けられ、その上稀代の天才の幼馴染として名前が出てしまえば、プレッシャーの桁が違うというのに、負けたらこんな言われようでは精神がおかしくなっても仕方がない。バトルから離れることを選んだソニアの判断は正しかったのだろうな。続けていれば、ソニアはソニアでなくなっていただろう。

 

「でもね、あなたのそのポケモンを下に見る発言は、ポケモン研究者の端くれとして看過できないわ! ましてや野生のポケモンを巻き込んだ実験なんて許されるものではないのよ!」

「ハッ、何とでも言えばいい。だが、いずれガラルは恐怖に陥るだろうな。今回や前回の比じゃねぇ。ガラル中でダイマックスしたポケモンたちが暴れ回り、ガラルは崩壊だァ」

 

 うん、もうこれは的中だね。もしかしなくても今回の犯人だわ。

 ただ、時折見える顔がカブさんからもらった写真の顔と違うように見えるんだよなー………。いや、うーん………そういうことと判断していいのかね………。

 

「あら? いいの? そんなにベラベラ聞いてもいないことを話しちゃって」

「構わねぇさ。お前は今ここで死ぬんだからな! 文字通りのシンダーソニアになりやがれ!」

 

 おっと、ソニアのおかげで聞きたい情報は聞けたのだ。

 最後の手持ちと思われるニョロトノも駆けつけたライボルトもこれ以上戦えそうにないとなると、こいつらを引き止めておく理由はない。

 ソニアも闇堕ちしそうな雰囲気もないし大丈夫だろう。

 

「GO」

「ワパ!」

「ラグ!」

「レザ!」

 

 俺が一言合図を出すとワンパチとラグラージとエレザードの三体が真っ先にソニアの前に躍り出た。

 

「ジャーッ!」

「ダァァァァ!」

「みんな!?」

 

 それに気を取られている間に闇夜を移動し、男たちの背後から襲い掛かるサダイジャとストリンダー。

 こいつらトレーナーいなくても連携取れるのね。ヨノワールを倒している辺り、先に誰がどう動くかを決めていたのだろう。

 

「チッ、まだいやがったか。戻れ、ヨノワール。ゲンガー、タチフサグマ。全員の息の根を止めろ」

 

 ヨノワールを戻した男はゲンガーとタチフサグマを繰り出した。

 さて、ボイスレコーダーはオフにして、と。

 そろそろ仕事しますかね。

 

「「ッ!?」」

 

 俺は帽子を深く被り、殺気を放っていく。

 

「な、なんだァ? この……プレッシャーは………」

「ぁ……ぁ………」

 

 それに気づいた二人はバトル中にも関わらず辺りを見渡し始めた。

 ポケモンたちも目の前の敵を忘れて索敵し始めている。

 

「全員動くな」

 

 一歩一歩とソニアの背後から姿を見せると男と目が合った、ような気がする。

 

「な、何者だ?!」

 

 震えた、だけどそれを見せないように気高に振る舞っている男の何という滑稽なことか。

 ソニアなんかペタンと尻餅ついてめっちゃ震えてるからな。バイブレーションかって感じだ。

 

「………国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係。コードネーム、黒の撥号」

 

 低く、ドスの効いた声でそう応えると男の目が見開いた。

 

「国際、警察………だと!?」

 

 そして口をわなわなさせて段々と怯え出していく。気高に振る舞うことも出来なくなったか。

 

「随分とやってくれてるみたいだな。しかも出回っている顔とは別の顔。まさか複数犯だったとは……」

「何故ここに……警察が………!」

「何故? ハッ、そんなもんお前を殺すためだが?」

「なっ………!?」

 

 殺してやりたいのは本音。

 だけど、そういうわけにもいかないので半殺し程度に留めておこうと思う。

 ただ、ソニアの影から戻ってきたうちの演出家はいつもながら上手いな。俺の言葉に合わせて徐々に黒いオーラを纏わせて、男の恐怖心を煽ってるぞ。

 

「く、くそ、クソォ、クソがァァァ! ゲンガー、シャドーボール!」

「ダークホール」

 

 影の弾を黒い穴で呑み込みながら一歩近づく。

 

「な、に………」

 

 それだけで男は一歩後退りした。

 

「お前らのような雑魚に俺を殺すことは愚か、傷一つ付けることすら不可能だ。ダークホール」

「ゲンガー?!」

 

 ゲンガーを黒い穴に落とすと男は悲鳴のような声でゲンガーに呼びかけた。

 だが当然、ゲンガーからの応答はない。

 

「ほら、もっと叫べ。泣き喚け。本土にいるであろうお仲間に聞こえるくらい無様に泣き叫べよ」

 

 さっき男がソニアに放っていた口調で言葉も真似てそっくり返してやりながら一歩近づくと、みっともなく股が濡れ始めた。

 あいつ、とうとうお漏らしし始めたぞ。

 

「うぁ、うぁ、うぁぁぁっ! タチフサグマ!」

「ダークホール」

 

 タチフサグマが一歩前に出た瞬間に黒い穴で呑み込む。

 

「ぅぁ……ぁぁ………ぁぁああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ………!?!」

 

 すると、とうとう男の精神が壊れてしまったようだ。

 こうなったらしばらく目を覚ます事はない。目を覚ましてもまともに会話が出来るかどうかも怪しいレベル。

 過去、こんな目に遭った奴らはそれなりにいる。特にRが目印の人たち。多分、ダークライがさいみんじゅつを施し、奴の特性の効果が発動して、俺の殺気を何倍にも増長させているんだと思われるが、その辺のことはダークライのみぞ知ることだ。うちの演出家はやるならとことんまでやるからな。

 でもなんか懐かしいな、この荒んだ気分は。

 だが、それでいい。俺はいつだってそうしてきたのだ。カロスでの日常が日常過ぎただけのこと。

 

「………チェックメイト」

 

 ただ、一度あの日常を手にしてしまったから、こっちの手を使ってでも足掻いているのだ。

 俺の邪魔する奴らはーーー。

 

「ガラルの裏も一寸先は闇、か」

「……ぁ、ま……って……」

 

 口から泡を吹いている男の首根っこを掴んで引きずって行こうとすると、枯れた声で呼び止められた。

 

「ハチ……くん、だよね?」

「通りすがりの国際警察だ」

「絶対、ハチくん………だよ、その返しは………」

 

 おっと、名乗りもしてないのにバレてしまったぞ。

 お股を濡らしているくせにそういうところだけは勘が働くのね。

 

「たかだか殺気くらいで腰抜かしておしっこ漏らしてる奴は、知らんふりをしておくもんだぞ」

「も、漏らしてな………っ!?」

 

 あっ、こいつ今気づいたらしい。

 みるみる内に顔が赤くなっていっている。耳まで赤いぞ。

 

「ッ!? ソニア!」

 

 俺は男を投げ捨て、ソニアを押し倒しながら覆いかぶさった。

 するとヒュンヒュンという音が次々と俺たちの周りに降り注いでくる。

 ポケモンたちも自己防衛に勤しみ、ソニアにまで気が回っていない。

 

「ワンパチ、ラグラージ、エレザード! 死にたくなければ今すぐソニアを担いで道場へ向かえ!」

「ちょ、まっ、なっ……!」

 

 音が止んだ瞬間に身体を起こしてポケモンたちに指示を出していく。

 

「ストリンダーはライボルトを連れてけ!」

 

 倒れているライボルトを二足歩行のストリンダーに任せ、ポケモンたちに無理矢理担がれていくソニアを見送った。ソニアは気づいてないみたいだが、この散らばった葉っぱの攻撃を受けたポケモンたちは状況のヤバさを理解しているみたいだな。

 新たな敵。

 犯人の男とは比べるべくもなく危険な殺気を放っている。しかも一つや二つではない。

 

「団体さんのおでましか」

「ライ………」

 

 とうとうダークライも姿を見せ、辺りを警戒し始めた。

 ダークライですら反応するということは、それ相応の手練れということだろう。

 ジャングル、手練れ、そしてこの殺気ともなれば、話でしか聞いたことないが奴らで間違いないだろう。

 いつぞやに爺が言っていたジャングルの主。格闘家のウーラオスよりも細いシルエットの複数体いる先住ポケモン。

 

「「「ザルゥゥゥゥゥゥッッ!!」」」

 

 四方から取り囲んでくる黒い身体に長い腕、闇夜でも分かる赤い目の集団。

 ジャングルで過ごす内に頭の炎が危ないのでなくなり、夜行性になったため身体が黒くなった、ゴウカザルのリージョンフォームと言われても、まあまあ信じてしまいそうな見た目である。

 

「サナ!」

「ガゥ!」

 

 するとサーナイトとガオガエンが勝手にボールから出てきた。

 

「ガゥ、ガウガ」

「サナ? ………サナ、サナサナ!」

 

 二人で会話し始めたかと思うと、ガオガエンが一歩前に踏み出した。

 ………お前が戦うっていうのか?

 正直、メガシンカしたサーナイトかダークライくらいでないと対応できないと思うんだが…………仕方ない。やるというのならやらせてみよう。

 さて、あいつらのタイプは何だろうな。

 黒い見た目からあくタイプか? んで、腕の先にある緑色のアームカバーのようなものからくさタイプ………なんていうのは安直すぎるか。くさとあくの組み合わせならワンチャンウルガモスもいけそうな気がしなくもない。ガオガエンだって、その組み合わせなら正気はありそうだが、いかんせんここは奴らの縄張りだ。勝って知ったるフィールドでタイプ相性なんざ意味をなさなくなるだろう。

 最悪かくとうタイプという可能性もある。身軽さなのは囲まれるまでに見せてくれた。長い腕から繰り出される技は危険だろう。

 

「さて、誰から相手してくれるんだ?」

 

 俺たちのことを取り囲みはしたが、なかなか飛びかかってこない。

 警戒はされているため、どう出るか様子を伺っているのだろうか。

 

「ザルゥゥゥ……」

 

 ただ俺たちが戦闘態勢に入ると、ジャングルの主の一体が前に出てきた。

 

「お前からか。ガオガエン、まずはご挨拶だ。ニトロチャージ」

 

 てっきり集団で来るものだと思っていたため、単独で出てきたのには驚きだ。だが、一対一を望むのであればこちらもそれに応えるとしよう。

 挨拶代わりに炎を纏って突進していくと、ジャングルの主は腕から蔦を伸ばして頭上の木に巻きつけ、大ジャンプして躱された。

 

「っ!?」

 

 腕のあれは蔦を巻き付けていたのか。

 だが、おかげであいつはくさタイプの可能性が高くなった。

 

「ザッ!」

 

 振り子の要領で勢いをつけて、上から飛び掛かってくるジャングルの主。

 

「ガオガエン、フレアドライブで腕をクロスして受け止めろ」

 

 振り下ろされる拳を炎を纏って腕をクロスさせて受け止めた。

 

「弾け」

 

 反対の拳で腹を狙ってきたので、弾き飛ばして距離を取ると、ジャングルの主は着地と同時にガオガエンの足元から蔦を伸ばして脚を絡めとった。

 

「ガ、ガゥ……!?」

「ガオガエン、ニトロチャージで蔦を燃やしてそのまま脱出しろ」

 

 炎を纏い足元の蔦を焼き切ったガオガエンは、地面を蹴り出し加速しーーー。

 

「ガゥ!?」

 

 ーーーようとした瞬間、暗闇から現れたジャングルの主により足払いされてしまった。

 こいつ………戦い方に無駄がない。というよりも暗闇を自分のフィールドにしていやがる。恐らく現状況下において一番役に立たない目をしているのは俺だ。ガオガエンも夜目が効く方だろうし、ダークライたちも経験から勘が働くだろう。それに対して俺の目は人間の至って普通の目だ。夜目は効かないし、動体視力もポケモンたちには追いつかないだろう。

 

「………チッ、暗闇に逃げられたか」

 

 しかも暗闇を利用したヒットアンドアウェイ。

 どう見ても指示を出す側ーーつまり俺を機能させないようにしている。

 

「ガオガエン、お前の勘で躱せ」

「ガゥ!?」

「この暗闇ではお前の目の方が優秀だ」

「………ガゥ!」

 

 こうなっては俺が下手に指示を出すよりもポケモン自らが判断して躱した方が勝率は高くなるだろう。

 いやはやジャングルの主というのは、対人間に対して非常に慣れている。だからこそ、人間に見つからずジャングルの主としていられるのかもしれない。

 

「ガゥ?!」

 

 突如、飛び上がったガオガエンの真下に拳が打ち込まれた。

 パンチ一つで地面が割れるこの威力。今のはアームハンマーか。

 

「アクロバット」

 

 ジャンプしていたのをいいことに、空気を蹴り上げ突撃させた。

 くさタイプを持つであろうジャングルの主には効果抜群のはず。

 

「ザ、ルゥッ!」

 

 だが、主には届かなかった。その前に岩石で守りを固められてしまったのだ。

 がんせきふうじをそういう風に使えるくらいの手練れなのか。最早人間の発想と同じレベルである。それだけ知能も高いのが伺えるな。

 

「にどげりでぶっ壊せ」

 

 勢いをそのままに目の前の岩壁を二度蹴り付けて、吹っ飛ばした。

 だがその瞬間、蹴飛ばした岩に何かが突き刺さり、そのままガオガエンへと向かってくる。

 

「ガゥ!?」

 

 真っ直ぐ突っ切ってきたであろう蔦を身を捻って躱すも、捻ったことにより主側に背中が向き、その一瞬で背中から叩き落とされた。

 つるのムチ………いや、パワーウィップか?

 こんな大きな隙を軽い技で突いてくるとは思えない。それだけの知能はあるはずだ。

 

「ガオガエン、オーバーヒート!」

 

 これ以上追撃されないように一度身体から大量の炎を迸らせる。

 この炎が主に届くかどうかは考えるまでもないだろう。

 

「ッ!?」

 

 ガオガエンの炎が一旦落ち着くと、ジャングルの主がいるであろう方角から一際輝く剣が見えた。

 なんだ、あの剣は?!

 炎を……いや、光を吸収している………?

 まさか炎の熱を…………?

 ソーラー………ブレード……………。

 

「ザ、ルッ!」

「ガオガエン、躱せ!」

 

 ジャングルの主は光の剣を携え、斬り込んでくるものとばかり考えていたら、まさかのそのまま投げつけてきた。しかもガオガエンの後ろには俺もいるわけで、咄嗟に俺も右の草むらに飛び込まざるを得なかった。

 

「ガッ!? グゥッ?! ガァァァッ!?」

 

 顔を上げるとガオガエンがジャングルの主にめっためたに殴りつけられているところだった。

 インファイト。

 防御を捨ててなりふり構わず殴りつけるかくとうタイプの高威力技。あくタイプを持つガオガエンには効果抜群だ。

 

「ガ……ゥ…………」

 

 ドサッ! と地面に叩きつけられたガオガエンは息をしてはいるものの、起き上がる気配もない。身体もピクリともせず、完敗だった。

 

「ザルゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウッッ!!」

 

 強い。

 根本的に強そうではあるが、この夜のジャングルという特殊な状況下においては無類の強さを発揮していたと思う。何よりトレーナーである俺が機能していなかった。それも故意に。

 狙われていたのは終始俺だったというわけだ。

 

「………全く、バカ野郎が。お前のおかげでこいつらの戦い方は掴めたよ。ゆっくり休め」

 

 …………ふぅ、ガオガエンのおかげでどう動くべきなのか方針が決まった。

 

「サーナイト、犯人が起きて逃げ出さないか見張っといてくれ」

「サナ!」

 

 狙われているのは俺。

 その邪魔をするからガオガエンはコテンパンにされてしまった。

 

「ザッ!」

「ザッ!」

「ザッ!」

「ザッ!」

「ザッ!」

「ザッ!」

「ザッ!」

「ザッ!」

 

 なら、こうするしかないよな。

 

「来い、ウツロイド」

 

 ジャングルの主たちに全方位囲まれながら、俺は一つのボールから白い魔獣を呼び出した。魔獣は俺を呑み込んでいき、その白い身体を黒く染め上げていく。身体も膨張し徐々に身体が浮遊感に襲われ始めた。

 勝ったもん勝ち。

 ガオガエンを倒したジャングルの主たちの仲間は、そう主張するように襲いかかってくる。

 

『「マジカルシャイン」』

 

 それを光を迸らせて一掃した。

 こんな暗闇で夜目の効く相手には持ってこいの技である。ガオガエンも使えたらよかったんだがな。生憎とフェアリータイプの技とは相性が悪いみたいだし、ガオガエンという種族自体がフェアリー技のイメージがない。

 まあ、ウツロイドもウツロイドでイメージはないんだが。

 

「ザゥ!」

 

 だが、一体だけ攻撃に参加していなかったためか、遅れて俺に飛び掛かってきた。ガオガエンを倒した主だ。

 

『「カラミツク」』

 

 そいつを触手で絡み取り拘束していく。

 

『「シメツケル」』

 

 そして力を加え脱出しようとする気概を奪っていく。

 

『「サイコショック」』

 

 折れた木の枝や石を操り、背後から拘束した主にぶつけた。だが、主に触れるとサイコパワーは消滅し、枝や石がボトボトと地面に落ちていく。

 ………なるほど、そういうことか。

 この主たちは恐らくくさ・あくタイプ。少なくともあくタイプは決定だ。くさタイプも腕から蔦を出したのを見るに間違いないと思われる。

 

『「ドクヅキ」』

 

 身動きの取れない主に触手で次々と殴りつけていく。

 それにしても誰も助けようとはしないんだな。仲間が拘束されてやられているというのに。

 

『「マジカルシャイン」』

 

 毒状態にこそならなかったものの、何度も殴られ続けたジャングルの主はぐったりしている。そこへトドメと言わんばかりに再度光を迸らせると主が白眼を剥いてしまった。こいつが反撃してくることはないだろう。

 拘束を解くと地面にドサッ! と落ちたのが何よりの証拠だ。

 

『「サァ、ツギハダレガコロサレタイ?」』

 

 死んではないが他の奴らにそう問いかけると、一歩一歩じりじりと後退しているのが見えた。本能的にヤバいと判断したのだろう。

 そりゃそうだ。ポケモンじゃなくトレーナーの方にやられるなんて、こいつらからしたら前代未聞だろうからな。ましてやそのトレーナーが謎の生物に寄生されてるんだ。いくらジャングルの主とはいえ、手に負えるレベルではないだろう。

 そして遂には仲間を捨て、音もなく去っていってしまった。

 

『「ウツロイド」』

 

 危機も去ったことだしウツロイドに促して寄生を解除する。

 ふぅ………、どうしようか。このジャングルの主も、今回の犯人も。一応連絡はしてあるのだから誰かしらは来るとは思うが…………。だとしても主の方はマジでどうしよう。こちらとしても遭遇するのは想定外だし、本部の方も預けられたところでって感じだろうし。やっぱり俺が連れて帰るしかないのか………?

 するとこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。

 

「………遅くなりました。国際警察です」

 

 ようやく来たか。

 

「遅かったな」

「先に向かわせていた部下が途中で腰を抜かしていました。恐らくあなたの殺気に充てられたのかと」

「ああ、それはすまなかった」

 

 なんだ、他にも来てはいたのか。

 だけど、ソニアみたいに腰を抜かしていたと。

 

「国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係。コードネーム、黒の撥号。巨大化ポケモン大量発生に深く関わっている男を拘束した」

「了解しました。その男が犯人ですね」

「ああ」

 

 そう言って俺の横を過ぎて男の元へいくスーツ姿の女性警察官。ただその一瞬、俺は彼女の横顔を見てしまった。

 そうか。

 もうこの時には既にーーー。

 

「そのポケモンは………?」

「さあ? このジャングルの主の一体としか……」

「そのポケモンも彼が?」

「いや、これは副産物だ。俺の殺気に反応して集団で襲撃してきた」

「その割には………」

「追い返したからな」

 

 男に手錠をかけ、引き立ってくる彼女は俺の傍らに倒れている黒いポケモンが気になったようだ。

 

「伸びたままここに放置しておくのも、か。犯人輸送の任務はそちらに任せる。俺は引き続き、自分の任務を遂行させてもらう」

「了解しました」

 

 なんか敬礼されたので俺も一応敬礼で返しておく。手の角度とか細かい規定があるんだろうけど、知ったこっちゃない。

 

「………Fall」

「はっ?」

 

 だが、俺の横を通り過ぎようとした際、彼女はそう呟いた。

 Fall。

 どこかで聞いたような気もするが、一体何を指す言葉だったか。

 

「ここにきてからずっと、あなたからウルトラビーストたちと同じオーラを感じます。もしやあなたも………?」

 

 記憶を辿っているとウルトラビーストなるキーワードが彼女の口から出てきた。

 ああ、そうか。そうだったか。Fall、ウルトラビースト、そして彼女ーーリラ。ようやく何を指している言葉なのか合点がいったわ。

 

「そう感じたのならそうなんじゃねぇの。俺にはさっぱりだが」

 

 Fall。

 それはウルトラホールに囚われた人間が、ホール内のエネルギーを取り込んでしまい、身に纏った状態になった者を指す。そしてホール内のエネルギーはウルトラビーストも纏っているため、同じをオーラを感じたしまうというものだ。

 …………これ、気をつけないと自分はFallですって言ってるようなものなんだけどな。国際警察内では周知の事実なのかね。

 

「で、では何故そんなに普通でいられるのですか!」

「知らねぇよ。異界だろうが何だろうが、生き物は生き物だ。人間同士ですら相性があるんだから、どんな相手にだって相性はあるだろ。俺はたまたま順応しやすい体質だった。それだけのことじゃねぇの?」

 

 ただ、一つだけ彼女と違うのは、俺にはさっぱりそのオーラを感じ取れないということだ。ウルトラホールに囚われていた時間は短いだろうが、ウツロイドに寄生されるというもっと濃厚な接触をしているのだから、こちらもリラのオーラを感じ取れてもおかしくはないと思うのだが、分からないものは分からない。

 やはり彼女にはホール内でもっと何か重大なことが起こっていた可能性がある。

 

「あ、そうだ。犯人のポケモン出してくれ」

 

 ホールで思い出したが、犯人のポケモンを呑み込んだままだったな。

 黒い穴からポイッと投げ出されるゲンガーとヨノワールとタチフサグマの三体。眠りこけているため、襲いかかってくることはない。

 

「黒い穴から……!? まさかウルトラホール?!」

「この三体はその男のだ。ついでに連れてってくれ」

 

 どうやら黒い穴をウルトラホールと勘違いしてくれたらしい。ダークライのことを広めるつもりもないので、勘違いしてくれたのならそれでいい。

 

「アンタにもポケモンたちがいる。記憶がないからって自分を見失うなよ、リラ」

「な、何故わたしの名前を………!」

 

 まあ、今はこれ以上関わる気はないのでさっさと退散するに越したことはない。

 今の俺が彼女と関わったところであの会議での再会が矛盾してしまいそうだし、俺が言わなくとも分かっているかもしれない。

 彼女に関しては未来の俺に託すことにしよう。

 そう結論付けて、伸びているジャングルの主を引きずってマスター道場に帰ることにした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。