ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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今年最後の投稿です。
本作二年目も無事終えられることが出来ました。
昨年の最後の投稿で三分の一くらい進んだと言っていましたが、なんだかんだでまだ五分の二にも到達してなさそうな予感がします。
来年の四月くらいには本土に行けるといいなー………でもそこからまだ長い気がするなー………と完結するまでにあとどれくらいかかるのか分からない状況です。意外とソニアの話が膨らんだのが原因でしょう。
とはいえ、完結に向けて地道に進めていくので来年もよろしくお願いします。
それでは皆さん、良いお年を。


53話

 道場に戻る途中で、引きずってきたジャングルの主を一応ボールに入れておくことにした。意識はないため同意は得られないが、人間から比較的隔離されたジャングルで人知れず生きているこいつを、道場に堂々と連れて帰るのもそれはそれで新たな火種になりそうだからな。これ以上俺の仕事が増えないようにするためにもボールの中に隠れてもらうのが一番手っ取り早いのだ。

 

「ただまー」

「およ、おかえりはっちん」

 

 うん、いつも通りの軽い爺さんだわ。爺だけは。

 俺の声が聞こえるや否やドタドタドタッ! と道場内を駆ける音が複数聞こえてくる。

 

「ハチさん、怪我はないっすか!?」

「犯人捕まえたって本当っすか!?」

「ってか、またあのダイマックスの鬼連チャンが起きてたんすか!?」

 

 ソニアから事情を聞いたのであろう門下生たちが次々と俺を取り囲んでいく。

 同時に質問されても順番にしか答えられないからね?

 それも聞き分けられたのくらいしか無理だよ?

 だから一旦落ち着こう?

 ………多分、興奮してるこいつらには言っても意味ないだろうな。

 

「別に怪我はない。鬼連チャン引き起こした犯人は捕まえたし、警察に引き取ってもらった。鬼連チャンも原因となるねがいのかたまりの塊を除去したから、もう大丈夫だと思うぞ」

 

 鬼連チャン。

 なるほど、上手い表現の仕方だ。今度から使わせてもらおう。

 

「で、ソニアは?」

「………裏のフィールドよ。ポケモンたちに運ばれてきた時には大変なことになっていたからお風呂に入ってもらったんだけど、それから一人にしてって」

「そうですか」

 

 遅れてやってきたミツバさんがソニアはあっち、と道場裏のフィールドを指した。

 

「………ソニアさん、お風呂から出てきた時、めちゃくちゃ目が赤かったっす。多分お風呂で泣いてたんじゃないかな」

「道場に運ばれてきた時も『ハチくんが! ハチくんが!』って、ずっと心配してましたし」

「それでよく事情を聞き出せたな」

「ソニアちんが聞く前に全部話してくれたからねん」

 

 器用なやつだな。

 いや、事の詳細をしっかり伝えることで救助を確実なものにしようとしたのかもしれないな。そこまで考えられていたかは定かではないが。

 

「因みになんて返したんだ?」

「師匠が『はっちんは大丈夫だよん。あれは化け物だから』って」

「おい」

 

 誰が化け物だ、誰が。

 

「一人の方が強いっても言ってました」

 

 まあ、それは間違いないな。下手に気にかけなきゃならん奴がいる方がやりにくいのは確かだ。

 

「………ハチ君、今のソニアちゃんはジムチャレンジが失敗に終わった頃に近い状態だと思う。少なくともそっち方面に向かってる状態なのは確かだよ」

「それ、俺があいつの事情を知ってる前提で話してません?」

「聞いてないの?」

「聞いてますけど」

「だと思った」

 

 本当にこの人は恐ろしい。

 何で俺がソニアの事情を聞いたって分かるんだよ。絶対理由を聞いても女の勘としか答えないだろうし。………マジで恐ろしいわ。

 

「はっちん、ソニアちんをお願いね」

「へいへい」

 

 ジムチャレンジの頃のソニアがどんな感じだったのかは知らないが、話を聞く限り良くはないのは確かだ。

 はぁ………帰ってきてからもまだ仕事しないといけないとか。残業手当出ないかな………。

 

「あ、ならこいつら回復しといてください」

 

 そう言って爺さんにガオガエン、ウルガモス、ヤドラン、キングドラ、クズモーのボールを投げ渡した。ダークライ、クレセリア、ウツロイドとジャングルの主の四体は人前で出すわけにもいかないし、サーナイトはまだピンピンしてるからな。

 

「あれ? なんか増えてない?」

「二体くらい増えましたね。キングドラとクズモー」

「モテモテだね」

「キングドラのせいですよ。そいつに保護しろってしつこく言われて」

「普通自分から保護しろなんて言わないのよん?」

「でしょうね」

 

 だから俺も驚いたし。

 まあ、そう言ってくるのも理解できなくもないが。元々キングドラは危険を知らせるためにハニカームの海で暴れ回っていたのだ。だから他のポケモンたちからすれば縄張りを荒らす邪魔者でしかないし、群れがあったとしても再び引き戻そうとはしないだろう。クズモーに至っては意識がなかったからな。あのまま海に漂流させておいたらどうなっていたか分からないし、キングドラがまとめて保護しろというのも正しい判断だと思う。

 

「んじゃ、俺はもう一人の問題児を相手してくるんで。あいつのためにも覗かんでくださいよ」

「はいはーい」

 

 門下生共々、笑顔で俺を見送ってくる。

 なんだろう、あの嫌な笑みは。なんか含みがあり過ぎて、ドッキリを仕掛けられている気分だわ。俺はこれからどんな目に遭うのだろうか。

 裏のフィールドに出るとフィールド上にソニアの姿はなかった。

 さて、あいつはどこへ行った?

 こんな真夜中にかくれんぼとか本当にやめてほしい。ついさっき暗闇での戦いで苦戦を強いられたってのに。まだ目を酷使しろってのかよ。

 

「………!」

 

 すると気配もなく後ろから軽く引っ張られた。

 

「………おかえり」

「お、おう……ただいま」

 

 声でそれがソニアだということが分かった。

 これ服を引っ張られて何かを押し当てられてるよな。柔らかくはないからそんな嬉しいものではなさそうだけど。

 

「怪我は……ないの?」

「ああ、ガオガエンがコテンパンにされたが、逆にコテンパンにしてやったら、お仲間さんたちも逃げてったぞ」

 

 震える声はか細く、今にも消え入りそうである。

 

「犯人は………?」

「警察に引き渡した」

 

 対して服を引っ張る力は段々と増している。

 

「………なんでわたしを逃したの」

「危険だと判断したからだ」

「わたしはまだ戦えた!」

「無理だ」

 

 ぎゅっと服を強く握られる。

 それだけ本人には戦う意思があったのだろう。

 だけど、ジャングルの主たちはそんな気持ち程度で相手になるような奴らではなかった。

 

「俺の殺気に腰を抜かして、襲いかかってきた奴らの殺気も感じ取れないような奴に、あの場で残られても迷惑なだけだ」

「………やってみないと分からないじゃない」

「やってみた結果、死ぬことになってもか?」

「ええ、いいわよ。わたしなんか生きている価値もないんだから、死んだって誰も悲しまないわ」

 

 っ!?

 これは驚いた。

 まさかここまでの状態になっていたとは。

 これはもう自暴自棄になっていると見て間違いないな。何が原因か、までは考えるまでもないだろう。

 

「………残されたポケモンたちはどうする。少なくともお前のポケモンたちはお前が死んだら泣くぞ」

「それは………」

「それにダンデたちだって、この道場の奴らだって流石に死んだら悲しむに決まってんだろ。カブさんなんか逆に落ち込むぞ。守ってやれなかったって」

 

 自暴自棄になっているとはいえ、ポケモンたちのことを考えさせるとまだまだ心が揺らぐようだ。ただ単に自分だけ安全な場所に送り込まれたやるせない気持ちだけが先走っているだけかもしれない。

 つくづく人間は面倒な生き物だと思う。

 本能とは別に理性なんてものを有するが故に苦悩し、上手くコントロール出来なければ破壌してしまう。感情にして吐き出せればまだ抑えられるかもしれないが、俺やソニアみたいな内に溜め込むタイプはそれが出来ないから、一気に爆発することがある。

 今のソニアはその時なのだろう。

 

「でもその時だけじゃん! 結局、わたしなんてダンデくんみたいにもなれないし、おばあさまみたいにもなれない! 半端者のいる居場所なんてどこにもないのよ! わたしはハチくんとは違うの! ダンデくんに勝てたり、おばあさま並みの頭脳を持ち合わせていないわたしなんか生きてたってしょうがないじゃない!」

 

 そしてその起因は強い劣等感。

 大勢の前でバトルを楽しめ、尚且つ最強の座を手にしている幼馴染。

 ガラルでは有名なポケモン博士という、どこぞのじーさんと図鑑所有者のような関係の祖母。

 その二人と比較され続けていれば、自分の価値を見失い存在価値が見出せなくなり、死をも考えてしまうといったものか。

 まあ、俺は幸い劣等感に苛まれることはなかったため、死にたくなるということはなかったが………。

 とはいっても自分が傷つくことを厭わない、ある意味死んでも構わないような立ち回りをしていたのも事実なわけで、そういう意味では俺もソニアも似ているのかもしれないな。

 ただ、そんなことを考えられるのは死を目の前にしたことがないからだ。暗殺未遂に遭った今だからこそ、やる側とやられる側の両方を体験したからこそ、分かったことだ。

 

「………それは生きてるから言えるんだよ」

「えっ……?」

「死んだら何もかもが終わりだ。ダンデがだのおばあさまがだの、そんなことを言ってられる内はまだいい方なんだよ」

 

 背中からはさっきの勢いから一転、虚を突かれたかのような素っ頓狂な声が漏れた。

 

「忠犬ハチ公って知ってるか?」

「………聞いたことない」

「そうか。そいつはな、カントーのポケモン協会の奴なんだが、ある組織に大ダメージを与えたことで協会内では有名なんだ。それも畏怖の対象として。…………そいつが乗り込んだアジトは一人残らず姿を消される。怪我人も死体も残らない、生きたままあの世送りにされるんだ。そいつを目の前にしたが最後、一瞬で消されるんだとよ」

「っ………!?」

「終わりなんていつくるか分からない上に一瞬だ。だから生きていられる内は、無駄に死のうとするな」

 

 やる側は特に何の罪悪感もなく、ただただ敵と見做した者を次から次へとあの世送りにし、やられる側の時は何としてでも生き残ろうと踠いたものだ。

 結局、人間は口では死んでやるとか死にたいとか言ったりするものの、心のどこかでは絶対に死にたくはないし、死ぬのが怖い。

 そもそも何で人様の都合で死ななきゃならないんだって話だ。俺の人生は俺のものなんだし、死ぬのも生きるのも俺の勝手だろうが。それを人と比べて劣等感を抱いて、承認欲求が満たされないから死を選ぶとか間違ってるとしか言いようがない。少なくとも正しい死ではない。まあ、生きたまま殺めた俺が言えたことではないがな。

 

「それに、何も周りの奴らみたいに成功する必要なんてないだろ。ダンデたちはダンデたちでお前を羨んでると思うぞ。何にも縛られず自由に生きられる、まだまだこれから選択していける人生なんだ。既にチャンピオンやジムリーダーになんて就いてたら、新たな道を開拓していくのも難しいからな」

 

 それに今のソニアは何の役職にも就いていないフリーな状態だ。それは持てそうで中々持てない自由というものを手にしている状態なのだ。毎日ニュースの記事に取り上げられることも人前に出る必要もない。今だからこそ、得られた貴重な時間なのである。

 それをみすみす手放すとか勿体ないどころの話ではない。

 

「喜べ、自由人。ダンデたちがもっと羨むくらい自由を謳歌してやれ」

 

 振り返ってソニアに面と向かってそう言うと、彼女の瞳は揺らめき、目尻からツー……と一雫の涙が溢れていった。

 

「ああ、それと周りの目が気になるのなら、ぼっちになることをお勧めするぞ。ぼっちはいいぞ。自由の塊だからな。何をするにも誰かの意見を聞く必要もない。好きなことを好きな時にできる。プロぼっちともなれば、周りの目すらも気にならなくなり、気配を消すこともできる。まさにぼっちの中のぼっちだ」

 

 早口で捲し立てるとソニアは袖でゴシゴシと涙を拭い、トスッと一突きのパンチを入れられた。力は篭っておらず、そのまま服をぎゅっと掴まれ、胸に顔を埋められてしまう。

 

「なんでそんなにぼっちを熱く語れるのよ、バーカ」

 

 多分、顔を見られたくなかったのだろう。

 声はさっきよりも明るく、憎まれ口を叩けるくらいには気持ちも前を向いたであろうことは分かるが、涙だけはコントロール出来なくなってるのだろうな。

 それなら出るもの全部出してしまえばいい。結局のところ、こいつは吐き出し方が分からず溜め込み過ぎて、その上で劣等感に狩られて承認欲求が満たされなくなっていったのだろう。だから本能的に二人から離れられる環境を選び続けていた。

 ……………うん、やっぱり人間は面倒な生き物である。

 

「ぅ、ぅぅっ…………、ぅぁぁ………っ……」

 

 遂に決壊した嗚咽がしばらく俺の胸の中で鳴り響いていた。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「ねぇ、明日わたしとフルバトルしてくれない?」

 

 どれだけそうしていただろうか。

 ようやく涙が引っ込んだかと思うと、ソニアの口からそんなことを言い渡された。

 

「………正気か?」

「正気よ」

 

 出すもの出せとは思ったが、出し過ぎて頭がおかしくなったのかと思っちゃったぞ。

 

「なんでまた急に……」

「ハチくんとだったらわたしも緊張しないで済むかなって」

「なに? 俺舐められてる?」

 

 一応ダンデに勝ったって伝えてるよね?

 ダンデを想起させるから会いたくなかったとか言ってたよね?

 それなのに俺相手だと緊張しないかもってどういうことだってばよ?

 

「んーん、ダンデくん相手に勝ち越せてる人に勝てるとは到底思ってないよ。ただ、知っておきたいの。ダンデくんが見てる世界を。今はまだダンデくんに会いたくないし」

 

 ダンデが見ている世界、か。

 高みの世界のことなんだろうが、ダンデが見ている世界なんて言い回しだと、おバカな世界しか想像出来ないのは俺だけだろうか。そんな世界だったら絶対に見たくないけどな!

 

「それはいいが………面子は揃っているとはいえ、ここでは出せないポケモン入れないとフルバトルにならないぞ?」

「サーナイト、ガオガエン? だっけ? それにウルガモス、ヤドラン、キングドラ、クズモーで揃ってるじゃん」

「クズモーは無理だろ。キングドラもやるかどうか分からんし」

「ハチくんなら一枚二枚抜いたって大丈夫でしょ? ハンデってことで」

「そんなにフルバトルがいいのかよ」

 

 一枚二枚抜きにしてでも俺とフルバトルがしたいとか、涙と一緒にバトル嫌いも流れてっちゃったのかね。

 

「………昔ね、思い描いたバトルがあったんだ。そのためにポケモンたちにもいろいろと技を覚えさせたりもした。けど、本番で緊張して何もできなかったから…………さ」

 

 ああ、元々ダンデより強かったんだもんな。それにソニアは頭脳派だろうから、バトル前に作戦を組み立てておく方っぽいし、それを今になって実践してみたいとか、そういうことなのだろう。

 それならまあ、付き合ってやらなくもない。理不尽とは言え、俺が原因でソニアのトラウマを強く刺激してしまったのは事実だからな。最後の吹っ切れるキッカケに使われるのも吝かではない。

 

「分かったよ。ただし、俺はそれを超えるかもしれないぞ?」

「望むところよ!」

 

 ようやく上げた見せたソニアの顔には笑みが戻っていた。

 サンダーソニア、お手並み拝見だな。

 

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