ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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54話

 皆が寝静まった夜更け。

 俺は裏のバトルフィールドに再度来ていた。

 

「出てこい」

「ザルゥ」

 

 ジャングルの主をボールから出すと、流石に意識を取り戻していた。

 よかった。このままずっと意識戻らなかったら、こいつをどうしようか悩むところだったわ。

 

「どうやら目が覚めてたみたいだな」

 

 辺りを見渡しているジャングルの主からの反応はない。それくらい人里が珍しいのだろう。

 隔絶されたジャングルで同族たちと群れていれば、人間に関わろうなどとはしないだろうし、それが普通の生態系だ。だからこそ、ジャングルの主だなんて呼ばれてたりするのだろうしな。

 

「取り敢えずこれ食っとけ」

 

 俺は持ってきていたオボンの実を投げ渡すと匂いを嗅いでから一噛みし、そこから無くなるのは時間の問題だった。

 腹も減ってたのだろう。

 もう三個投げ渡すとびょんぴょん飛んでキャッチし、勢いよく腹の足しにしていっている。

 

「伸びたお前をあのまま放置しておくのも何だったからボールに入れて連れてきてたんだが、回復したみたいだしどうする? 帰るか?」

「ザルゥ」

 

 元気を取り戻したジャングルの主は首を縦に振った。全くこっちを見ないがな。そんなにオボンの実が美味いのかよ。

 

「ん。お前らの森はあっちな」

 

 あ、こっち見た。

 んで、俺が指刺す方を見て……………腕を組んでなんか思案顔である。

 えっ、なに?

 帰るじゃないのん?

 

「ザル、ザルゥ」

「え? 何だよ……」

 

 するとポゥッと鬼火が現れ、文字が浮かび上がってくる。

 流石うちの通訳さん。分かってらっしゃる。

 

「えっと、『ワレラハニンゲンニホドコシヲウケルワケニハイカナイ。カリハカナラズカエス』。いや、借りとか思ってないから」

「ザルゥ」

「分かったよ。なら、そん時は頼むわ」

「ザル」

 

 俺が了承したことを理解すると闇世の中に消えていった。身体が黒いからすぐに見えなくなったな。

 あまり機会はなかったが、今後は夜に黒い身体のポケモンとバトルする可能性も視野に入れて策を練っておかないとな。今日みたいに集団で襲われて、ダークライたちを使えない状況に陥っていたら、今のままだと万策尽きてしまう。

 今日はその気づきを得られたってことで良しとしとこう。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「さて、クズモーさんや。ここがどこで俺が誰だか分からないとは思うが、こいつのことは分かるか?」

「ドラ!」

「モ?」

 

 翌日。

 ソニアとのバトルの前にクズモーの様子を伺うことにしたのだが、ボールから出すとずっとキョロキョロと辺りを見渡している。

 そこへぬっとキングドラが顔を覗かせても動じることなく、小首を傾げるのみであった。

 案の定ではあるが、まあ想定内の答えではある。

 さて、どうしたものか。

 陸に生息するポケモンなら家族を探すこともまだ可能ではあったのだが、海の中ともなるとな…………。

 

「お前、家族と逸れたのか?」

「モ? …………ズモズモ」

 

 家族のことを聞くとクズモーは首を横に振った。

 ということは元々家族と離れて生活していたということか。なら、家族を探す必要性は低そうだな。あとはクズモーがどうしたいかだ。

 

「一応説明しておくとだな。クズモーたちが住んでいた海でポケモンたちが巨大化してな。その時にこのキングドラも一緒に戦ってたんだが、恐らくその時に周辺に広がる大波に攫われて、こいつに絡まってたんだわ。しかも意識を失ってたみたいだからそのまま海に放置しておくのも危険だと判断して、一旦ボールに入れさせてもらって今に至るわけだ」

 

 黙ってじっと聞いているクズモー。

 

「それでだ。クズモーはどうしたい? 海に帰るか?」

「ズーモ………」

 

 ここで即答しない辺り、外の世界への興味もあるのかもしれない。

 独り身ということもあり、どうしたいかは自由だ。

 

「別に今決めてくれなくていいぞ。お前は俺たちのことを知らないんだ。それでここに残りますって言われても逆に心配になる。今からバトルするんだわ。それを見ながらでも考えててくれ」

 

 事態の把握もままならないだろうし、こいつが今後どうするかを決めるまでは俺はここにいてくれて構わないと思っている。まあ、ヤドランの時と同じだな。クズモーが海に帰るのなら見送るだけだし、ここに残るというのなら、クズモーの力を引き出してやるまでのこと。

 

「それでだ、キングドラ。お前はどうする? 何ならバトルしてみるか?」

「ドラドラ!」

「分かった分かった。分かったから、そんな押し倒すなって」

 

 何故こいつは事あるごとに俺に体当たりしてくるのだろうか。地味に身体デカいんだから押し倒されるこっちは堪ったもんじゃないんだぞ。

 

「そ、それならお前が使える技を教えてくれ。ああ、影に向かって口で言ってくれればいいからな。優秀な翻訳者がいるから」

 

 影にも聞こえるように伝えるとキングドラは捲し立てるようにドラドラ言い始めた。そしてすぐにぽわっと火の玉が出現した。

 

「えっと、『うずしお、たつまき、なみのり、かなしばり、あわ、バブルこうせん、みずでっぽう、ねっとう、ダイビング、クイックターン、りゅうのいぶき、りゅうのはどう、えんまく、あまごい、かげぶんしん』か。ダイビングは今回使えないが、いい技もあるじゃねぇの」

 

 ハイドロポンプやげきりん、りゅうせいぐんといった高威力の技こそないものの、なみのりやりゅうのはどう、それに皆大好きえんまくや特性を活かせるあまごいもあるから、充分に戦えるだろう。ねっとうとかも面白いかもな。

 これで五体目は確保できたし、あとはどう組み立てるかだな。ソニアは自分で自分の実力を理解してないみたいだし、それで昔構築したバトルをやろうってわけなのだから、何が出てくるのか不安と楽しみが混ざり合って複雑な気分だわ。

 しかもこっちは一枚抜きでって言われてるし………できればメガシンカもZ技も使わないで済むといいんだけどな。

 

「んじゃ、お前の戦いぶりを見せてもらうのも兼ねて、ソニアとのバトルを始めますかね」

「ドラァ」

 

 何故かやる気満々なキングドラであるが、果たしてどこまでやれるのだろうか。一緒にレイドバトルをしたとはいえ、結局はサポートに徹していたからな。実力はまだ推し測れないでいる。

 できればこいつのポテンシャルを引き出してやれるといいのだが…………。

 

「準備はいい?」

「ああ、いつでも構わん」

 

 既にバトルフィールドに出ていたソニアが真剣な目でこっちを見てくる。

 どうやらあいつも覚悟は決めたようだ。

 今回のバトルには俺とソニア以外、誰もこの場にはいない。ソニアが俺となら緊張しないでバトルできるかもってことだったため、渋る門下生たちを抑え、道場内で待機させている。だから当然、審判もいない、

 まあ、どうせ爺さんを筆頭に窓から覗いていそうだけど。

 

「ソニア、まずは結果を求めるよりもバトルを楽しめよ」

「うん、分かってる!」

 

 ソニアからバトルしたいと言い出したものの、トラウマというものはそう簡単に克服できるようなものではない。ましてや比較対象を間違えていることに気付いていないおバカさんでは、傷を抉ることになりかねない。

 ソニアが俺たちのバトルを見て倒れるようなことがあれば、即中断しよう。

 

「いくよ、エモンガ!」

「んじゃ、早速頼むぞ。キングドラ」

「ドラ!」

 

 ソニアの最初のポケモンはエモンガのようだ。

 昨日聞いていた手持ちのポケモンの中にはいなかったところを見るに、このバトルのために手持ちを入れ替えてきたのだろう。

 となると昨日の手持ちポケモンたちと予想してバトルを組み立てていくのはやめておいた方がいいな。何がくるのか分からない、初対面のバトル相手と見做すべきだ。

 

「エモンガ、こうそくいどう!」

「キングドラ、あまごい」

 

 でんき・ひこうタイプのエモンガはすいすいとキングドラの周りを飛び回り加速していく。

 その間にキングドラは雨雲を呼び出し、雨を降らせた。

 

「10まんボルト!」

「たつまき」

 

 素早さの上がったエモンガに対して、雨が降っていることによって特性すいすいが発動したキングドラが食い下がっていく。

 キングドラに向かう電撃は、キングドラを中心にした発生した竜巻により、上へ上へと向きを変えて放電していった。

 

「やるね、ハチくん」

「これくらいは読めて当然だろ」

「なら、もっと速く移動するのみよ! エモンガ、こうそくいどう!」

 

 今のキングドラにこれ以上素早さを上げる術はない。故に三回目以降は封じさせてもらおう。

 

「かなしばり」

 

 高速で移動しているエモンガに変化は見られない。

 多分、気づいてもいないのだろう。それならそれで構わないからな。次使う時に技が焦ってくれればそれでいい。

 

「エモンガ、バトンタッチ!」

 

 とか思っていたら逃げられた。

 まさかソニアのバトルスタイルって割と陰湿だったり………?

 

「お願い、ジャラランガ!」

 

 ボールから出てきた鉄の鎧を着たようなポケモンが、エモンガとタッチして能力を引き継いでいく。

 ジャラランガ。この島にも生息するドラゴン・かくとうタイプ。何故知っているかと言えば、かくとうタイプだから。爺の与太話にはかくとうタイプのポケモンが出てくることがあるため、そのおかげで一部ではあるが俺の知らないポケモンのことも知れたりするのだ。特にこの島に生息するポケモンや、本土の方に生息するポケモンのことについてだと、直近で必要になってくる知識であるためすごく有難い。言わないけど。

 

「すなあらし!」

 

 はっ?

 ジャラランガはいわタイプでもじめんタイプでもはがねタイプでもないんだぞ?

 だが、ソニアがそんなヘマをするとは思えないし…………いや、待てよ。確か特性に何かあったはずだ。

 えっと……ぼうおん……ぼうだんでもなくて…………ぼうじんだ!

 って、珍しい方の特性じゃねぇか。

 しれっとそういうの出してきやがって。

 おかげでキングドラの特性を無効化されちまったじゃねぇか。これはタイミング見て、再度雨を降らせないと厄介だぞ。

 

「ドラゴンクロー!」

 

 ジャラランガは目にも止まらぬ速さでキングドラを竜の爪で切り付けた。

 流石はジャラランガ。弱いわけがない。

 

「大丈夫か、キングドラ」

「ド、ドラ……!」

 

 ドラゴンタイプにドラゴンタイプの技は効果抜群。一撃で落ちなかったとはいえ、あと何発耐えられるか定かではない。

 ならば、当たらないようにするしかないか。

 

「かげぶんしん」

 

 キングドラは分身を増やしてジャラランガの周りを取り囲んでいく。一方向に集まってしまえば、範囲技でやられると判断したのだろう。

 ただ、このままだといつまで経ってもダメージが蓄積していくはがりである。今のうちにさっさと天気を変えてしまおう。

 

「キングドラ、あまごい」

 

 これでジャラランガの攻撃に立ち向かえるだろう。

 

「ジャラランガ、スケイルノイズ!」

 

 チッ、今度は広範囲へのノイズ音か。

 キンキンして耳がイカれそうだ。

 

「りゅうのはどうで包み込め」

 

 ノイズ音の発生源に向けて一斉に赤と青の竜を模した波導が、ノイズ音を押し返していく。

 正直ここまでの時点でソニアのトレーナーとしての力量は一般人を超えている。ジムリーダー辺りが使いそうな戦略をポンポン出してきやがる。というか技のチョイスがいちいちいやらしい。

 本当、何でダンデなんかと比較してしまうかね………。

 

「回り込んでねっとう」

「かみなりパンチ!」

 

 ノイズ音を相殺した爆風の中、キングドラがジャラランガの背後に回り込み熱湯を吹きかけた。

 当然、素早さが上がっているジャラランガは反応速度も上がっており、振り向き様に電気を纏った拳で殴りつけてきたようだ。

 両者、弾き飛ばされながら距離を取っていく。

 ドラゴンタイプにみずタイプの技は半減されてしまったが、それでも雨の効果もあるし、狙い通りジャラランガの右腕は火傷を負っていた。ついでにキングドラも麻痺をもらってしまったが………。

 あそこで咄嗟にかみなりパンチを選択してくる辺り、覚えるポケモンには全員にでんきタイプの技を覚えさせていそうだ。流石はサンダーソニアといったところか。

 

「ジャラランガ、ソウルビート!」

「ジャラァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 何やら雄叫びを上げているが攻撃してくる気配がない。恐らく、能力上昇の技なのだろう。ソウルビートに関しては後で確認しておくとして、それならこっちは一度離脱だな。

 

「キングドラ、えんまくだ」

 

 黒煙を撒き散らして俺のところまで離脱してくるキングドラ。

 身体が痺れて特性が意味を成していないな。

 

「ついでにかげぶんしん」

 

 時間稼ぎにしかならないだろうが、その間に次の手を打たないと。

 

「今だよ、すなあらし!」

 

 ッ!?

 あいつ、この時を伺ってたのか!

 

「ハイパーボイス!」

「ジャラァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 雨が止み、砂嵐が吹き荒れ出した中、轟音が鳴り響く。黒煙は既に砂嵐によってかき消され、分身も轟音によって消滅してしまった。

 

「ド、ドラ………!?」

 

 マジか。

 こんな時に痺れて動けなくなるとか、タイミングが悪すぎるだろ。

 身体が痺れて動けないでいるキングドラは、諸に轟音を浴びせられてしまった。

 恐らく轟音の振動がより痺れを際立たせているに違いない。

 

「いっけぇー! ドラゴンクロー!」

 

 そしてそんな大きな隙を取りこぼすような奴ではないのがソニアだ。

 砂嵐の中、ジャラランガがキングドラを竜の爪で掬い上げて切り飛ばした。

 ドサッ! と俺の前に不時着したキングドラの意識は既にない。

 キングドラ、戦闘不能……か。

 

「まずは一勝! だよね!」

「………ああ、そうだな。戻れ、キングドラ。すまんな、勝たせてやれなくて」

 

 キングドラのポテンシャルを確認するつもりであったが、なかなかどうして終始ソニアの掌で踊らされていた気分だ。

 何が敗因か、なんて自分のポケモンのことをちゃんと知っているかどうかの違いもあるし、心のどこかで舐めていたとか数え出したらキリがないだろう。ただ、一つ言えるのは特性を活かそうとして天候操作に手を出したが最後、ソニアのペースに呑まれたということ。恐らく、天候操作はソニアの得意分野なのだろう。

 本当、こんな高度なバトルを最初から仕掛けてくるなんて、バトルが苦手とか吐かす奴がやることじゃないぞ。

 

「サーナイト」

 

 分かってはいたが、想像以上にソニアは強い。

 心のどこかでソニアの言葉に騙されている俺がいる。

 ソニアは手加減とかする必要もないし、する暇もない。既に一枚抜きになっているのだから、それで勘弁してくれと言いたい。そういうトレーナーだ。

 だからこそ、俺もスイッチを入れないとな。

 

「サイコキネシス」

 

 サーナイトに砂嵐を超念力で止めさせた。

 

「へっ!? 砂嵐が………!」

 

 一瞬の出来事にソニアもジャラランガも驚いているが気にしない。

 

「おにび」

 

 漂う砂の中に火の玉を投げ入れる。

 

「しまっ………!?」

 

 ソニアの焦った表情は連続する爆発に隠され、漂う砂の中にいたジャラランガを呑み込んでいく。

 

「くっ、ジャラランガ! アイアンテール!」

 

 流石の反応速度だ。

 ソニアの指示を待たずに自ら粉塵爆発の中から飛び出してきた。

 

「トリックルーム」

 

 そして、そのまま鋼の尻尾を振り下ろしてくるが、あと五メートルという辺りで素早さが反転する空間を作り上げた。

 

「マジカルシャイン」

 

 エモンガから引き継いだ素早さのおかげでジャラランガは止まっているように見える。

 そこへサーナイトの身体から眩しい光を迸らせ、ジャラランガを包み込んでいった。トリックルームの部屋の壁により乱反射も起きて、光が二度ジャラランガに襲いかかっているようだ。

 

「サーナ!」

 

 そのまま光を強くして衝撃波を生み出すと、ジャラランガは部屋の壁を突き破りながらソニアの方へと吹き飛ばされていった。

 

「ジャラランガ!?」

 

 ソニアが声をかけても反応はない。

 そりゃそうだ。ドラゴン・かくとうタイプのジャラランガにフェアリータイプの技は超効果抜群。加えてあんな無防備な状態で至近距離から攻撃されたのでは、意識がある方がおかしいわ。

 

「一勝したからって気を抜くなよ。流れが変わるのは一瞬だ」

「………性格悪」

「聞こえてんぞ」

 

 俺のことを性格悪いと言ってくれるが、ダンデならこれくらいのことはやってのけるだろう。そうでなければ、無敗のダンデは生まれるはずがない。チャンピオンの座を虎視眈々と狙うカブさんたちもいるのだから、これくらい切り替えが早くなければすぐに相手のペースに呑まれてしまう。

 

「戻って、ジャラランガ」

「サーナイト、お前も一旦交代な」

 

 お互いにポケモンをボールに戻して次のポケモンのボールに手をかける。

 

「いくよ、サダイジャ!」

「ヤドラン、出番だぞ」

 

 ソニアの三体目はサダイジャか。

 巨大化したライボルトとのバトルではタンク役を買って出ていたようだが、今のところ俺はじめんタイプということしか知らないからな。

 既に読み合いではタイプ相性で失敗しているし、そこら辺をどうカバーしていこうか。

 

「みずのはどう」

「とぐろをまく!」

 

 とはいえヤドランは元々みずタイプを持っていた種族。リージョンフォームしてとはいえ、元々の適正も残っているわけで、さらにたまに発動するクイックドロウもいい仕事をしてくれる。

 

「ッ!?」

 

 初手からサダイジャの動きを封じるように攻撃を当てたものの、その直後何故かサダイジャの身体から大量の砂が撒き散らされ、砂嵐が発生し出した。

 俺が驚いている間にもサダイジャは鳥栖を巻いていく。

 

「あくび」

 

 恐らくサダイジャの特性辺りなのだろうが、発動条件がさっぱりだ。

 

「ヤーン」

 

 分からないのなら眠ってもらおうとヤドランにあくびをさせると、釣られてサダイジャも大きなあくびをした。

 これでその内眠ってくれるだろう。

 というかやっぱりヤドランにあくびは似合うな。

 

「くっ………、眠ってしまう前に倒すよ! サダイジャ、ドリルライナー!」

 

 交代という選択肢もある中、身体を回転させて攻めの一点張りを選択してきた。

 

「シェルアームズで受け止めろ」

 

 軌道が一直線だったため、左腕の巻貝で受け止めること自体には最高した。ただ、押し込む力はサダイジャの方が上らしい。ギチギチと徐々にヤドランが後退させられている。

 それならーーー。

 

「ーーーヤドラン、左手を引いて右手でシェルブレード」

 

 一度左腕から力を抜き、前のめりになっていたサダイジャのバランスを崩すと、すかさず右手のかいがらのすずを使って水の刃を作り出し斬り込んだ。

 またもやサダイジャから大量の砂が撒き散るものの、砂嵐によるダメージはかいがらのすずのおかげで帳消しになっている。

 

「左手も使ってもう一度シェルブレードだ」

 

 今度は二刀流でサダイジャを斬りつけ、ソニアの方へと吹き飛ばした。

 

「二刀流?!」

 

 再三に渡り攻撃を加えるとサダイジャから大量の砂が撒き散るのを見るに、攻撃をもらうと身体から大量の砂を撒き散らし、砂嵐を発生させるような特性なのだろう。少なくともそれに近い能力を有しているのは明白。

 となるとこっちもうかうかしていられない。かいがらのすずがあるとはいえ、こんな視界の悪い中でのバトルは、ヤドランにとって不利な状況でしかない。

 

「グー………」

 

 あ、寝た。

 よし、今のうちに徹底的にやってしまおう。

 

「サダイジャ!?」

「ヤドラン、うずしおで砂嵐を呑み込め」

 

 ヤドランが左腕の巻貝から出した水を回転させて渦潮にしていく。次第に大きくなっていくにつれて、砂嵐も巻き込み呑み込んでいった。

 

「そんなことまで………。それなら賭けだけど………サダイジャ、ねごと!」

 

 ねごとは技を覚えているだけ何を使うか分からない博打の技でもあるからな。ねごとで使う技を思うように選択させたトレーナーなんて聞いたことないし、俺だって無理だ。ボーマンダで使っていたユキノですら、運が良かっただけのこと。

 

「おおっ!?」

 

 するとサダイジャが振るう尻尾によって地面が揺れ出した。

 規模的にはじしんではない。あれはもっと立っていられなくなるような技だからな。威力が低い似たような技だとじならしか、あるいはマグニチュードの低い数字か………。

 

「サダイジャに投げつけろ」

 

 ヤドランはフラつきながらも渦潮をサダイジャへと投げ込んだ。

 

「シェルブレードで追い討ちだ」

 

 まだサダイジャに当たってもいないが、眠っているため躱せるとも思えないので、そのまま追撃に向かわせることにした。

 

「サダイジャ、もう一度ねごと!」

 

 今度は何がーーー。

 

「おわっ!?」

 

 ーーーくっ、これ、今度こそじしんだろ………。耐えるのに精一杯だぞ。

 

「ヤ、ヤドラン!」

「ヤーンンンン………」

 

 ヤドランに呼びかけると、ヤドランも踏ん張っていた。

 だよな。もうこんなん攻撃どころじゃないわ。

 

「………ふぅ、ヤドラン!」

「ヤン!」

 

 揺れが治ったのを見計らってヤドランに再度呼びかけると、ヤドランは既に駆け出していた。

 分かってるじゃないか。

 

「ジャァァァーッ!」

 

 ここで目を覚ますか!?

 

「サダイジャ、てっぺき!」

 

 目を覚ましたサダイジャは寸でのところで鉄壁を張り、ヤドランの水の剣を受け止めた。

 

「回り込め」

 

 鉄壁に何したところで時間の無駄だ。それよりも回り込んで背中を狙った方が確実である。

 

「ヤン!」

「サダイジャ、躱して!」

 

 流石のサダイジャも背中からの攻撃には上手く反応出来なかったようだ。

 二度の斬撃を受けたサダイジャは大量の砂を吐きながら転がっていく。どうやらまだ意識が残っているようだな。

 

「……まだ倒れないか。ヤドラン、そのままみずのはどうでトドメを刺してやれ」

「ヤ、ン!」

 

 サダイジャが振り向くのも許さぬまま、ヤドランは水を弾丸にして撃ち込んだ。

 

「サダイジャ?!」

 

 ………ふぅ、やっと倒れたか。

 無駄にしぶとかったな。

 それに最後まで大量の砂を吐き出しやがって、また砂嵐状態である。もういちいち対処するのも面倒になってくるわ。やってもやってもキリがない。

 

「お疲れ様、ゆっくり休んで。………何なのよ、ヤドランがシェルブレードを二刀流って。聞いたことがないよ」

 

 サダイジャをボールに戻しながら、そう聞いてくるソニア。

 

「かいがらのすずは知ってるか?」

「知ってるけど………はぁ!? まさかそういうこと?!」

「かいがらのすずだって立派なシェルだろ?」

「いやいやいや、そんな言葉遊びみたいに言われても無理があるでしょ!」

「知らねぇよ。試しにやってみたら出来たんだからいいじゃねぇか」

「………ハチくんの思考回路ってどうなってるのよ」

「迷路になってるんじゃね?」

「こっちが迷路に迷い込みそうだよ…………」

 

 答えてやったのにその目はどういうことだってばよ。

 俺だって何も迷路に彷徨った結果閃いたってわけじゃない。基本的に戦闘中ポケモンに効果をもたらす道具は、例えば腕とかに付けていた場合、相手の技を一緒に受けることになったりするのだから、それでも壊れないということはそれなりの耐久性を兼ね備えているのと同じだと思っている。だから、攻撃にも使えたら一石二鳥ではないか。

 

「なら、こっちも聞くがサダイジャのあの大量の砂は何なんだ?」

「特性だよ。特性すなはき。攻撃を食らうと大量の砂を吐き出して砂嵐を発生するの」

 

 割と予想通りだな。

 耐久力を上げたサダイジャなら、ダブルバトルとかで永遠と砂嵐を発生させることもできるかもしれない。使い方次第では特性すなおこしを持つバンギラスよりも使い勝手が良さそうな場面もありそうだな。

 ソニアもぼうじんのジャラランガを連れていたことだし、狙ってはいるのだろう。

 

「へぇ、ぼうじんといい砂パでも目指してんのか?」

「あー………いや、まあ、サダイジャの特性に巻き込まれないポケモンも必要かなって、昔………」

「結構ちゃんと考えてたんだな。サンダーソニアなのに」

「それは言わないで。最初はそういうんじゃなかったの」

「なら、そのサンダーソニアって言われた所以を見せてくれよ」

「はあ……、分かったよ。いくよ、エレザード!」

 

 四体目はエレザードか。

 でんき・ノーマルタイプ。

 先のレイドバトルではなみのりも使ってたっけか。

 

「こうそくいどう!」

 

 おい、こいつもかよ!

 砂嵐の中、駆け出したエレザードの姿は見えなくなった。

 エレザードってそんなに速いポケモンだったっけ?

 というかこの砂嵐の中、よくそんな速い動きが出来るな。

 

「エレキボール!」

 

 ソニアの指示は聞こえるが、肝心の電気の弾が見えてこない。俺が聞こえてるくらいだから、エレザードにも届いているはずだし、聞こえてないって線はないだろう。

 となると………。

 

「ヤドラン、この砂嵐を利用して近づいてくるーーー」

「レザッ!」

「ーーーッ!? シェルアームズ!」

 

 言い終える前に正面からエレザードが現れ、尻尾に溜めた電気の弾丸を弾き飛ばしてきた。

 反応が遅れてしまったものの、幸いクイックドロウが発動してくれたおかげで毒の弾丸をぶつけることに成功し、事なきを得た。

 

「10まんボルト!」

 

 だが、それも束の間の安堵で、続け様に背後から電撃を浴びせられてしまう。

 ………またもや見えなかった。

 ジャングルの主といい、俺の目を封じてくる戦法はガラルのポケモンなら当たり前なのだろうか。

 

「みらいよち」

 

 ひとまず未来に向けて攻撃を仕掛けておくことにした。

 それまでにエレザードをどう捉え、どう攻撃を加えるかを考えないとな。

 

「でんこうせっか!」

 

 まあ、考える時間を与えちゃくれないか。

 

「シェルアームズ!」

 

 再び左腕の巻貝にエネルギーを溜め、一直線に向かってくるエレザードに向けて振りかぶった。

 

「ヤン!?」

 

 が、間に合わなかった。

 

「エレザード、じならし!」

 

 立て続けにエレザードは地面を蹴って揺さぶってくる。

 あ、そうだ………!

 

「ヤドラン、俺を運んだ時のことを思い出せ。サイコキネシスで身体を浮かせろ」

 

 緊急事態だったため何をしていたか忘れていたが、ヤドラン君に結構すごいことをさせていたんだった。しかも出来ちゃったんだから、技術として覚えさせておくべきだったな。

 

「砂嵐も終わり、か………」

「レザッ?!」

「エレザード!?」

 

 超念力で自身の身体を浮かせてエレザードの攻撃を回避していると、ピタリと砂嵐が止んだ。それに併せて何もない背後から撃ち抜かれているエレザードの姿も急に見え始めてくる。

 そうか、そうだったな。

 エレザードの特性はどれも天気に関係するもの。その内、ソニアのエレザードはすながくれなのだろう。特性すながくれは砂嵐状態の中だと、姿が見えにくくなり技の回避率が一気に上がるものだ。だから、砂嵐の中ではエレザードの姿を確認出来なかったのだろう。

 ………やっぱり砂パだな。サンダーソニアはどこだよ。

 

「あくび」

 

 姿が見えるようになったので、取り敢えず寝てもらうことにした。

 

「そう簡単には眠らないよ! エレザード、エレキフィールド!」

 

 うわ………本当こいつどこが弱いんだよ。

 瞬時に眠りの目を詰んできやがった。そりゃ、サダイジャで学習済みだろうけど、一度見て、次のポケモンで対策してくるとか割と高度なことしてると思うんだけどな。

 これだけの実力があるのにジムチャレンジのプレッシャーには耐えられなかったとか、どんだけ重圧を背負わされてたんだよ。ソニアの中でのダンデと婆ちゃんは、偉大なる二大巨頭なのかね。

 うん、やっぱり大好きすぎるだろ、二人のこと………。

 

「ライジングボルト!」

「シェルアームズ!」

 

 ライジングボルト。

 知らない技だが、地面から特大の電撃が立ち上っていく。恐らくフィールドに広がった電気によってここまで大きくなっているのだろう。電撃はヤドランを襲い、一瞬骨格が見えた気がする。

 その中を左腕の巻貝から打ち出された毒の弾丸が突き進んでいく。さながらレールガンのようだ。

 あ、加速して一気にエレザードに当たった。

 

「どっちも戦闘不能、だな」

 

 バタリとヤドランもエレザードも後ろに倒れ、ピクリとも動かなくなった。

 お互い躱す余裕もないくらい最後の技に集中していたのだろう。

 まあ、指示を出す俺たちですらタイミングを失ってたからな。力を出し切る以外の選択はなかったと思う。

 

「お疲れさん、ゆっくり休め」

「戻って、エレザード。いいバトルだったよ」

 

 二人ともポケモンたちを戻し、次のボールに手をかけた。

 

「ふぅ………、ここまでやって相打ち、か」

「俺としてはまだ砂パの続きかよって思ったがな。だが、最後の一撃はサンダーソニアの一端を垣間見たような感じがしたわ」

 

 特性すながくれを持つでんきタイプっていう妙なチョイスをしやがって。まあ、確かに硬いサダイジャを使うなら後続には砂嵐のダメージを喰らわないポケモンの方がいいけどもだな。それにしたって次はエレキフィールドだぞ? どんだけフィールド操作が好きなんだよ。

 

「エレザードはうちのエースだからね。そのエースがヤドランと相打ちってのが、今のわたしの実力ってことでしょ」

 

 え、エレザードってソニアのエースなの?

 ………思い返せば、ライボルトとのレイドバトルでも前衛で掻き回してはいたか。だとするとメイン火力になっていたストリンダーとやらは?

 あいつはどういう位置付けなんだ?

 エレザードでヤドランと同等というのなら、ストリンダーはキングドラ並みにしかならないぞ。そうじゃないだろ。

 

「はっ、あれでサンダーソニアの実力なら、お前を散々煽ってプレッシャーをかけていたマスゴミたちの目は節穴だったってことだな。流石はマスゴミ。見る目がない。この程度で持て囃すなんざ時間の無駄だろうに。それに踊らされたお前も大概だけどよ」

「言ってくれるね………。わたしは弱い。それは変わらない事実よ。でも、サンダーソニアは野良のバトルでは強かったのも事実なのよ! だから、あの頃よりも知識をつけた今のわたしがあの頃のわたしより強いって証明してみせる!」

 

 ちょっと煽ったらこれだ。

 こいつ煽り耐性なさすぎない?

 だからマスゴミたちの声に踊らされて、無駄にプレッシャーを感じる羽目になったんじゃねぇの?

 ………結局、バトルが強かろうがメンタルが弱けりゃ実力を発揮することも出来ないってわけだ。

 

「もう一度だよ、エモンガ!」

「ウルガモス」

 

 再び出てきたエモンガに対し、こちらはウルガモスで対峙することになった。

 相性でいえば、むしタイプがひこうタイプに弱い分、不利ではある。

 

「こうそくいどう!」

「ちょうのまい」

 

 お互い最初は動きを速めるための技を繰り出していく。

 

「エモンガ、エアスラッシュ!」

 

 そしてウルガモスの周りを高速で旋回するエモンガから仕掛けてきた。

 空気の刃を無数に作り出し、中央にいるウルガモスに向けて次々と飛ばしてくる。

 

「ぼうふうで自分の周りに壁を作って受け止めろ」

 

 移動しながらということもあり、全方位から迫り来る空気の刃を、自分の周りに暴風を発生させて呑み込んでいった。

 

「うそっ!? 全部呑まれた?!」

 

 暴風の外ではソニアとエモンガが驚いている。

 

「それなら! エモンガ、ライジングボルト!」

 

 まだフィールドに残っていた電気によりに、まるで雷のような電撃が地面から立ち上ってくる。

 

「最大パワーでぼうふう」

 

 だが、出力を最大にしたことで、電撃が地面から立ち上がった瞬間に暴風に呑まれ、弾けて霧散した。

 

「………攻撃が………届かない…………っ」

 

 全方位からも下からの攻撃も全て暴風により呑まれてしまったことに、ソニアは唖然としている。

 

「エモンガ、バトンタッチ!」

 

 やはりそれを選んできたか。

 エモンガの攻撃が届かないと判断したら、すぐに使ってくるとは思ってたからな。読み通りではある。

 

「ラグラージ、アクアブレイク!」

 

 交代でエモンガとタッチして能力を引き継いだラグラージが、そのまま水の力を利用して突進してきた。

 その間にフィールドの電気が弾け、エレキフィールドの効果が収まった。

 

「くっ、届かない………っ!」

 

 突進してきたラグラージをひょいと躱すウルガモス。

 

「にほんばれ」

 

 その流れで日差しを強くしていく。

 今度はこっちがフィールドを制圧する番だ。

 

「ッ! それなら、いわなだれ!」

「ラグゥゥゥ!」

 

 着地したラグラージはすかさずウルガモスの頭上から岩々を出現させて落としてきた。

 

「躱せ」

 

 これもひょいひょいと躱していき余裕の表情。

 

「ラグラージ、上から狙って! アクアブレイク!」

 

 ただ、下からラグラージが落下してきた岩を次々と足場にし、ウルガモス以上の高さまで到達してしまった。

 

「ウルガモス、ソーラービーム」

 

 そして最後の岩を蹴り飛ばし、ウルガモスの方へ方向を変えたラグラージに対し、太陽のエネルギーを得た光線を撃ち放った。

 軌道が一直線になっていたため、ラグラージは躱すことが出来ず、近距離で直撃したラグラージはそのまま地面に落下していく。

 一応渦巻く炎の中に閉じ込めておくか。

 

「ほのおのうずに閉じ込めろ」

 

 着地の瞬間に渦巻く炎で取り囲んだ。

 効果はあまりないが、あそこから出てくるまでじわじわとダメージを蓄積させられればそれでいい。

 

「ラグラージ、なみのりで消火して!」

 

 すぐに消火に動いたラグラージは波を起こして炎の根本から一気に消していった。

 次第に上の方の炎も消えていき、ラグラージの少し焼けた姿が見えてくる。

 

「ソーラービーム」

「ラグッ!?」

 

 すかさず太陽光を浴びせ、ソニアの方へと押しやった。

 二度も高威力で超効果抜群の技を受けたというのに、ラグラージはまだ倒れることがない。だが、青色のオーラがラグラージから漏れ出したということは、特性げきりゅうが発動したということだろう。

 運良くギリギリ耐え抜いた、といったところか。

 

「一度もダメージを与えられてないのに、もうげきりゅうが………!」

 

 エモンガにもラグラージにも未だダメージを与えられていないウルガモスは、ソニアの目にどう映っているのだろうか。

 

「ラグラージ、ストーンエッジ!」

 

 地面を叩いて岩を次々と突き上げてくるが、高さを保ってしまえば怖くない。

 

「全てを貫け。ソーラービーム」

 

 しかもそのまま太陽光で破壊してしまえばなんてことはない。

 

「アクアブレイク!」

 

 ウルガモスの真下から水を使って飛び上がってくるラグラージ。

 未だ光線を出し続けているウルガモスがそれに気づいて下を向けば…………ねぇ。

 ウルガモスも「あっ……」って感じで言葉を失ってるぞ。

 なるほど。何となくソニアの悪い癖というか追い込まれた時の心境が見えてきたな。

 プレッシャーやら何やらあったのだろうが、バトルに関してだけ言えば、結局のところ追い込まれると冷静さを失って、打開策が一直線になってしまうのが敗因だろう。

 追い込まれている時こそ、冷静に状況を分析して、相手の動きを予測し、攻撃の芽を摘んでいかないと勝てるものも勝てなくなってしまう。

 

「…………ヤドランとウルガモスの実力、違いすぎない?」

「そりゃそうだろ。現時点でサーナイトに次ぐ強さだぞ」

「サーナイトってこれよりも強いんだ…………」

 

 何を今更。

 ヤドランなんてこの半年ほぼ毎日道場前の砂浜でぼーっとしてたような奴だぞ?

 対してウルガモスは一人でレイドバトルした時から割と強かったからね?

 そりゃ、実力の差は開いているに決まってるだろ。

 

「ウルガモス、交代だ」

 

 まあ、ウルガモスはここまでだけどね。

 ソニアのポケモンもエモンガ含めて残り二体だし、まだバトルしていないガオガエンを出してやらないと拗ねそうじゃん?

 昨日はジャングルの主に負けているし、ここで挽回したい気持ちもあるだろうしな。

 

「………交代するんだ」

「例外供を除いて全員出してやるつもりだからな」

 

 ウルガモスをボールに戻すと、気に食わないって顔でソニアが呟いた。

 多分、一撃だけでもウルガモスに攻撃を当てたかったんだろうな。

 だが、それはまた今度。いつの日かまたバトルすることがあれば。俺はないと信じるが。

 

「ガオガエン、昨日のことは気にせず気楽にやれよ」

「ガゥ」

「いくよ、エモンガ! あの余裕面に吠え面かかせてやるんだから!」

 

 うわ………なんか物凄いこと言ってるんだけど。

 しかしこうまでして六体目は最後まで出してこないとなると、やっぱりエース以外の何かってことだよな………。

 

「エモンガ、こうそくいどう!」

 

 先手で動いたのはソニアの方。

 まあ、ここまでくるとどう動くかなんて予測出来ちゃうんだけどね。

 

「ガオガエン、ニトロチャージで動き回れ」

 

 ガオガエンは炎を纏いフィールド上を走り出し、エモンガがその上を高速で動き回り始めた。

 なんだこれ………。異様な光景すぎるわ。

 

「あっ、日差しが戻ったか」

 

 そんなこんなしていたら日差しが弱まり元に戻ってしまったではないか。

 

「10まんボルト!」

「躱せ」

 

 俺の気が日差しにいった瞬間、ソニアが動き出した。

 エモンガはガオガエンの背後を取り、電撃を走らせる。

 だが、ガオガエンも急に方向転換することで背後からの電撃を上手く躱していく。

 

「かげぶんしん」

 

 ついでに分身も作り出して、逆にエモンガを取り囲んだ。

 

「エモンガ、ほうでん!」

 

 囲まれたエモンガは身体から放電し、次々と分身を貫いていった。

 その間にガオガエンの本体と目が遭い、顎で後ろへいくよう指示すると、そそくさと移動していく。

 

「オーバーヒート」

 

 後ろを取られたのだから、今度はこっちも後ろから攻撃してやった。

 燃え盛る炎を身体から発して、エモンガを呑み込んだ。

 ふわふわ飛んでいた身体は火傷を負って、地面に落ちていく。

 

「DDラリアット」

 

 ガオガエンは両腕を開いてぐるぐると回転しながらエモンガへ突進し、ラリアットをかました。

 どうやら昨日負けたことで、寝て起きたら使えるようになっていたのだとか。

 そんなことで新しく技覚えたりすんの?

 ポケモンってマジ不思議な生き物だわ。しかももう一つ使えるようになった技もあるしな。

 

「エモンガ、大丈夫?!」

「エ、エモ……!」

 

 何とか立ち上がったエモンガは、それでも飛ぶまでには至っていない。

 

「エアスラッシュ!」

 

 ようやく技を放つのにジャンプし、空気の刃を作り出すものの、飛ばしたところでストンと着地している。

 

「ガオガエン、フレアドライブで全部燃やせ」

 

 飛んでいないというのは何と狙いやすいことか。

 襲い掛かる空気の刃を全て炎で溶かし無効化しながらエモンガに突進していった。

 

「エモンガ、躱して!」

 

 ソニアは躱すように指示を出すも、当のエモンガは火傷したところを押さえて動けないでいる。

 そしてそのままガオガエンにタックルされてソニアの方へと飛んでいく。

 何というか一方的過ぎないか?

 ガオガエンが昨日の憂さ晴らしをしているみたいではないか。

 

「トドメだ、ガオガエン。じこくづき」

「くっ……エモンガ、あまごい!」

「エ、エモーッ!」

 

 ガオガエンがエモンガの元へ辿り着く間に、エモンガは雨雲を呼び寄せた。

 それを見届けながら、エモンガはガオガエンの黒い拳で意識を手放した。

 

「………最後のポケモンに繋げたな?」

「あの状態では躱せないと思っただけだよ」

 

 最後に雨を降らせてくるとか、絶対最後のポケモンのためだろ。

 よく、あの瞬間にそっちへ思考がいったものだ。

 視野が広いんだか、狭いんだか。焦ってるんだか、冷静なんだか状況によってムラがありすぎだろ。そういうところもソニアのトレーナーとしての欠点なのかもしれないな。

 

「どした、ガオガエン」

「ガゥ……」

 

 戻ってきたガオガエンが、右手を気にしているようだったので声をかけてみた。

 すると見せられたのはバチバチと電気が時折走る右手。

 

「えっ……痺れてんの?」

「戻って、エモンガ……………何でせいでんきが発動するのが最後なのよぉ………」

「あ、エモンガの特性ってせいでんきなのね………」

 

 特に考えていなかったわ。

 すまんな、ガオガエン。気づいていれば、他の直接触れない技でトドメ刺させたな。

 

「まあ、ソニアのポケモンも最後だし、お前はゆっくり休んでてくれ」

「ガゥ」

 

 ガオガエンをボールで休ませ、ついに大トリのボールに手をかけた。

 

「ソニア、これが最後だ。マスゴミたちがお前を持て囃したサンダーソニアとしての全力、俺に見せてくれ」

「見せろっていう癖に、さっきから見せることすら出来てないんだけど」

「こっちも下手に手を抜くといつやられるか分からんからな。現時点で既に並のトレーナーよりは上だという思ってる。特にこれだけのフィールドへの干渉はなかなか出来るものではない。だからこっちも手が抜けないんだよ」

「余裕な癖に………いくよ、ストリンダー!」

 

 お、最後は黄色いモヒカンのストリンダーではないか。

 モヒカンという特徴が強すぎてすぐに名前と姿を覚えられたわ。

 

「かみなり!」

 

 早速使ってきたか。

 そのための雨だろうし、何というかソニアの手は読みやすいものが多いな。

 

「まもる」

 

 まあ、それも経験の少なさってのがあるのだろう。

 手が読めればこうやって防ぐことも容易だ。そう思うとダンデのあの超攻撃スタイルは攻撃がくるのは分かっていても、どの技でくるのか、威力はどれくらいなのかと読めない点が多く、やり難さはあったな。

 

「サイコショック」

 

 ラグラージが残した岩石の破片を使い、サーナイトはストリンダーに襲い掛かる。

 

「ほうでんで相殺して!」

 

 それをストリンダーは細かい制御を捨て、無作為に放電し撃ち落としていく。

 ストリンダー、エレザード、ジャラランガだと割といい動き見せるんだな。逆にエモンガ、サダイジャ、ラグラージはまだまだ戦略を練った上での育成が必要な気がする。ただ、エモンガはサポートがメインだったし、自分で倒すとなるともう少し様子を見てみないと分からないこともありそうではある。

 なるほど、サンダーソニアか。主にでんきタイプを得意とするというのは伊達ではなさそうだ。

 

「ストリンダー、ギアを上げてくよ! ギアチェンジ!」

「サーナイト、こっちもめいそうだ」

 

 ストリンダーは内側に意識を集中させ、ギアを上げているようだ。

 それに併せてこっちもサーナイトに瞑想させて集中力を高めさせた。

 

「かみなり!」

「まもる」

 

 かみなりの「か」が聞こえた瞬間にサーナイトに防壁を張らせて正解だったな。

 雨が降っていると落雷は一瞬だ。

 目で追って対処しているんでは間に合わなかっただろう。初手のかみなりのあの読みやすさは本当にトレーナーとしてどうにかした方がよさそうだ。ダンデなら場の空気だけで手を読んでくる可能性だってあり得るぞ。

 

「どくづき!」

 

 防壁に雷が突き刺さった時には既にストリンダーが地面を蹴り出していた。

 力を溜めている右腕は紫色に光り、毒々しさが増していく。

 

「テレポート」

 

 防壁を連続で張らせると効果が薄くなってすぐに壊される可能性もあるため、ここはテレポートで回避しておく。

 

「サイコキネシス」

 

 そして背後を取ったサーナイトは超念力でストリンダーを拘束し、地面に叩きつけた。

 

「ストリンダー!?」

 

 お、ようやく雨が上がったか。これで落雷はなくなるだろう。

 

「おにび」

 

 ダメ押しでいくつか火の玉をストリンダーに飛ばす。

 

「ストリンダー、ばくおんぱ!」

「ンダァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 するとストリンダーは起き上がりながら、大口を開いて爆音を発し、火の玉を全て霧散させた。

 ………急にばくおんぱを発するのはやめておしい。ハイパーボイスといい耳が痛いんだよ。

 

「ほうでんしながら距離を詰めて!」

 

 俺もサーナイトも耳を塞いでいる間に、ストリンダーが放電しながら走り迫ってきた。

 

「どくづき!」

 

 そして再度紫色に光った右腕を振りかざしてくる。

 

「テレポート」

 

 それをテレポートで躱し、こちらも再度ストリンダーの背後を取った。

 

「サイコキネシス」

「まもる」

 

 先程と同様、超念力でストリンダーを拘束しようとしたら、防壁を張られて塞がれてしまった。

 二度も同じ手は食らわないってか。

 

「ストリンダー、エレキフィールド」

 

 ストリンダーはソニアの元に戻ってフィールドに電気を張り巡らせてきた。

 

「いくよ、ストリンダー!」

 

 っ!?

 あれは………っ!!

 

「キョダイマックス!」

 

 ストリンダーはソニアが持つボールに吸い込まれていき、右腕に巻き付けてあるバンドからエネルギーが送り込まれ肥大化していく。

 そしてボールから投げ出されたストリンダーは四つん這いの巨大化した姿になっていた。

 キョダイマックス。

 そうか、ストリンダーもキョダイマックスした姿があったのか。

 なるほど、だからエレザードはエースなわけね。切り札は別にキョダイマックスを隠していたわけだ。

 

「キョダイカンデン!」

 

 こうなると俺も使わざるを得ないな。

 

「サーナイト、メガシンカ」

 

 巨大な雷撃が当たる瞬間、メガシンカエネルギーが放出し、過剰なエネルギーのぶつかり合いにより大爆発が生じた。

 

「えっ……なに?! 何で耐えられてんの!? しかもこれ………ミストフィールド?!」

 

 煙の中に佇むサーナイトのシルエットにソニアは驚愕しているようだ。ホウエン地方に留学していたのならメガシンカを知っているかもと思ったが、どうやらそこまでは勉強してきていないらしい。

 まあ、実物を見たことなければ、例え知識でメガシンカのことは頭にあったとしても結びつかないかもな。

 

「ストリンダー、ダイアシッド!」

 

 煙諸とも呑み込まんとする大量の毒がストリンダーの口から吐き出された。

 これもう最早………言葉にはしないでおこう。

 

「テレポートで頭の上を取れ」

 

 あんなのに呑み込まれたら一溜りもないので、テレポートで回避の意味も込めて、ストリンダーの頭の上に移動させた。

 

「のしかかり」

 

 折角なのでそのままストリンダーの頭を踏みつけさせた。メガシンカしたことで特性がフェアリースキンになっているため、ノーマルタイプの技であるのしかかりはフェアリータイプの技になり、でんき・どくタイプのストリンダーには効果があまりないけどね。ついでだついで。

 

「キョダイカンデン!」

 

 するとやはりというかストリンダーの背中から巨大な雷撃が放出された。

 ッ!!

 一つ思いついたが………やれるか? というか効果あるのか? ポケモンには効果あっても技に対してはーーー。

 

「ーーーサーナイト、トリックルームに閉じこもれ!」

 

 未知数だが、やってみる価値はあるだろう。

 雷撃の速さはポケモンの比じゃない。圧倒的にサーナイトよりも速いため、素早さが逆転するトリックルーム内ではもしかしたら躱せるかもしれない。何なら貫通しなかったら儲けもんだ。

 

「な、何する気なの………?」

 

 俺もどうなるかは分からん。

 賭けではあるが、今後のためにも試しておく価値はあると思う。

 巨大な雷撃が直撃する直前にサーナイトはサイコパワーで作られた部屋の中に閉じこもった。

 そこへ雷撃がぶつかるも案の定貫通。ただ巨大なままではなく無数に分裂し細くなった電撃となり部屋に侵入していった。

 中で動くサーナイトの姿は速くて目で追えないが、一応は直撃を免れているように見える。

 これはいい勉強になった。トリックルーム内では技も速さが逆転する可能性が出てきた。雷撃一発でそう結論付けるわけにもいかないので可能性として留めておくが、これは大きな発見だろう。あるいはメガシンカしている状態でのトリックルームだからという可能性もある。色々と検証は必要だが、ジムチャレンジに参加させられるのが決定している以上、これは武器になりそうだ。

 

「うそっ………キョダイマックス技を、耐え切るなんて…………」

 

 巨大な雷撃をやり過ごしたサーナイトはテレポートで俺のところまで戻ってきた。

 その間にキョダイマックスのタイムリミットが来たのか、ストリンダーが元の大きさへと戻っていき、ソニアの顔は蒼白としており、あり得ないものを見る目でこっちを見ている。

 

「ガラル地方においてダイマックスは切り札とされる傾向があるようだが、やりようによってはこうやってやり過ごすことも可能だぞ」

「ッ、ストリンダー! オーバードライブ!」

 

 流石にやり過ぎたか?

 だが、これくらいの現実をぶつけてやらないとダンデ以外にも上には上がいると分からせられないと思う。

 

「ハイパーボイス」

 

 ストリンダーが胸の突起を掻きむしり、ギターのような音を鳴らしてきた。

 そのため音には音ということでハイパーボイスで相殺させていく。

 

「トドメだ、サイコキネシス」

 

 相殺時に軽い爆発が起きるも、その最中にストリンダーを拘束し、ソニアの方へと投げ飛ばした。

 

「ストリンダー!?」

 

 ふぅ、やっと終わったか。

 ストリンダー、中々だったな。切り札感はちゃんとあった気がするわ。

 

「は、ははっ、あはははっ! ハチくん強すぎ! サーナイトにもガオガエンにもウルガモスにも全然歯が立たなかったよ………」

 

 ストリンダーをボールに戻しながら急に笑い出すソニア。

 急に笑い出すとかホラー感強いからやめてくんない?

 しかもバトル終わったらって、俺のせいで頭がおかしくなったみたいじゃん。

 

「ダンデくんもこんなバトルするのかな………」

「いや、今回は結構抑えてた方だからな。ダンデを相手するとなるともっとあの手この手と尽くさないと無理だ。ましてや俺はまだダンデのリザードンとしかバトルしたことがない。フルバトルともなると未知数過ぎてどうなることやら…………」

 

 この島に来て二日目でのダンデとのバトルは、ある意味不意打ちだったからな。だから勝てたのであって、これが公式戦ともなれば技の使用制限も相まって、より苦しい戦いになるだろう。手札を全部使って勝てたあの時とは違って、少ない手札でダンデに勝てるかといえば無理だろうな。

 それくらいのトレーナーなんだから、このバトルの俺の強さがダンデの強さだとは思わないで欲しいね。

 

「まあ、何にせよ最後までバトルが出来たんだ。当初の目的は達成だろ?」

「そう………なんだけどさ。サーナイトのあれなに? 何でキョダイマックス技を耐えられるの!? ちょっと姿が違ったように見えてたのと関係あるの?!」

「そこは自分で調べろ。お前の婆ちゃんなら何か知ってるかもだし、調べてる内に無駄知識が増えてくぞ」

「いや、今教えなさいよ。何でそんな焦らすのよ」

「お前が研究者だからだ」

 

 メガシンカについてはやはりというか知らないみたいだ。それならそれで研究者の卵らしく自分で調べたらどうなんだって感じだ。

 研究者見習いというか助手見習いなら、そういうところから始めて自分の婆ちゃんを超えないと一生コンプレックスで終わるぞ。

 

「いいか、自由人。お前は時間を持て余した研究者見習いだ。なら、その間に知ってることも知らないことも自分で一から調べてみろ。研究者にとって必要なのはどこに興味を持つかだ。興味を持つためには知識が必要だし、見聞を広めなければ興味の幅が狭まるだけなんだよ。俺の知り合いの研究者たちはみんな変人ばかりだぞ。ただ、全員がどんなポケモンについても興味深々だ。ソニアもそれくらいポケモンに没頭出来れば、自分のテーマも見つかるんじゃないか?」

「………ハチくんって何でもお見通しだよね」

「お前が分かりやすいだけだ」

 

 分かりやすいというか、何というか。

 ソニアは予想通り、本当に先のことに目がいってなかったみたいだ。ずっと過去に囚われて過去から逃げることに必死で。先のことなんて考える余裕もなかったのだろう。

 

「なあ、ちなみになんだが、ポケモンたちの捕まえた順番とか覚えてるか?」

「えー? 捕まえた順番? ハチくんに見せたポケモンでいうと小さい頃から一緒だったワンパチが最初でしょ。それからおばあさまからもらったタマゴから孵化したストリンダー。で、エレザードにサダイジャ、この鎧島でジャラランガとエモンガとニョロトノでしょ。トレーナー辞めてから留学先のホウエン地方でラグラージ。そしてライボルトって感じかな。他にもいるけど、トレーナーを辞めてからはちょっとギクシャクしてたりお別れした子もいるから………」

 

 あ、全部進化前からね、と最後に付け加えるソニア。

 なるほど、最初はちゃんとでんきタイプが中心だったんだな。だから割とでんきタイプの扱いには長けていたのか。

 

「それがどうかした?」

「いや、割とでんきタイプの扱いには長けていたから、サンダーソニアの名もそういうところから来てるんだろうなって」

「そんなに差があった?」

「あったな。俺が中々攻撃させなかったってのもあるだろうが、それでもサダイジャとラグラージはまだまだ使いこなせてない感じがあった」

 

 サダイジャはまだ特性を活かしてる部分があったが、ラグラージはほとんど長所を活かせていなかった。相手がウルガモスだったからってのもあるが、それならそれで交代も視野に入れておくべきだっただろう。

 

「やっぱりわたしはでんきタイプしか使えないのかな………」

「そこは何とも言えないな。ただ、ソニアの武器はフィールド操作なのは確かだ。あれをどう活かすか、それに合わせてどのポケモンを使うか、ポケモンたちをどの順番で出していくか。それを意識するだけでも案外コロッと変わるもんだぞ」

「バトルってやっぱり奥が深いね…………」

「そこはもう経験だな。ソニアの最大の欠点は圧倒的な経験不足だろうし」

「そりゃ、まあ………ね。自覚はあるよ。トレーナー辞めた身だし」

 

 自覚があるそれでいい。

 一番怖いのは自覚がないことだから。自分の実力を分かっていなければ、課題も理解できず強くもなれない。

 まあ、ソニアに関しては強くなるつもりもないだろうがな。

 

「でも、その、ありがと。ハチくんのおかげで今でもバトルは出来るんだって分かったから。ただその………まだダンデくんたちとはやりたくないかな」

「当たり前だ。逆にやり過ぎた気もしてトラウマを増やしてないかってヒヤヒヤしてたくらいだぞ」

「本当だよ。折角トラウマ克服の第一歩かもしれないのに、逆にトラウマになりそうな強さ見せつけてさ」

「でも、トラウマにならなかったんだろ?」

「うん……」

 

 もしこれでトラウマが増えたとかって言われてたら、俺はどうしてただろうな。土下座かな。土下座だろうな。ここまでトラウマを植え付けるような原因にもなった存在と同列にはなりたくないしな。ソニアの気がすむまで謝り倒していただろう。

 

「………ソニア、別に逃げることが悪いことじゃない。逆に自分を本能的に守ろうとする正しい行動だ。俺なんか自ら記憶喪失になってまで逃げたこともあるからな。まあ、流石にそれは俺を知る奴らに心配させてしまったからやり過ぎたとは思うが、それで非難されるならお前が俺たちが逃げたことをやってみやがれ! って言ってやれ。ドッペルゲンガーやクローンでもない限り、個人差があるのは当たり前なんだから、結果に拘る必要はない。ソニアはソニアらしく、なんて言うと『らしく』って何だよってなるからアレだが、好きに生きろ。人のペースに呑まれるな。お前の人生なんだ。その代わり、自分の尻は自分で拭くんだぞ」

「あーもー、だからどうして君はさらっとそういうこと言えちゃうのよ! 聞かされるこっちが恥ずかしいじゃない!」

 

 ギャーギャー騒ぎ出すソニアは、心なしか嬉しそうである。

 俺にはこんなことを言ってくれるような存在はいなかったからな。あったのは守らなければいけないと心のどこかで思っていた存在だけ。ただ、その存在があるかないかで人は必死さが桁違いになることも思い知らされた。

 

「そんなの決まってるだろ。俺の仕事を増やさないためだ」

「………ああ、うん。確かに君の人生は逃げてばっかなんだろうね。説得力ありすぎ………」

「なんだよ、悪いか」

「別に。気楽そうでいいなーって思っただけよ」

「………気楽になれたのもあいつらのおかげだけどな」

「………? ハチくんの大切な人?」

「そうだな。俺の大事な家族だ」

「そっか……」

 

 昔は俺も余裕がなかったからな。

 強さを求めるのに必死で周りが見えず、ふと見た瞬間には自分が拉致されてたり、ユキノが人質になってたりと散々だったし。コマチに何も危害が及ばなかったのがせめてもの救いかもしれない。

 

「ところでさ。あの人たちどうしよっか」

「いないことにしとけ。無駄に絡まれるだけだぞ」

「自分の師匠に冷たくない?」

「いいんだよ、どうせどこかで絡んでくるんだから。それなら絡まれる回数を減らすしかないだろ」

「やっぱりハチくんって冷たいよ………」

「へーへー、すんませんね」

 

 まあ、その後案の定爺さんたちが乗り込んできて、いいバトルだっただの散々絡まれたのは別の話だ。

 クズモーとライボルト?

 二体とも無事に俺たちのポケモンになったぞ。どうやらそれぞれ俺たちのことを気に入ってくれたみたいだ。

 

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