ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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55話

 ソニアの来訪から一月。

 あいつとバトルした後も島のフィールドワークに同行させられ、振り回されまくったものの、無事ソニアも研究所に帰還した。

 道場内も落ち着きを取り戻し、ソニア来訪以前の日常が繰り広げられている。

 

「ガオガエン、かえんほうしゃ」

 

 この一月でポケモンたちも新たな技を習得した。その一つがガオガエンのかえんほうしゃであるのだが、どうも覚えた直後程の安定さが炎にない。というかガオガエン自身、この一月どこか心ここに在らずという感じだ。

 

「どうした、ガオガエン。いつにも増して炎に勢いがないぞ」

「ガゥ……」

 

 全て理由は一つに直結する。一月前にジャングルの主に負けたのを相当引きずっているのだ。

 

「ジャングルの主に負けたのをまだ気にしてるのか?」

「………」

 

 返事はないが、下を向くあたり図星である。

 

「あれはどっちかっつーとトレーナーの俺が標的にされたようなものだって言ってるだろ。トレーナーの目を使えなくしたら、そりゃ半端なバトルになって勝てるもんも勝てなくなるって」

 

 ただ、あれはジャングルの主がガオガエンと戦いながら、トレーナーの俺を機能不全に陥らせたがための結果だ。つまり負けたのは俺だ。人間であるという性質をよく理解していた主に俺が負けたのだ。

 そうずっと言っているのだが、ガオガエンは落ち度は自分にあると一人で抱え込んでしまっているのが現状である。半年前はニャーニャー鳴いて甘えてきてたというのに、進化したら異様に責任感じるようになっちゃったもんだから、本当どうしたもんかね………。

 

「ガゥ………」

「………ふぅ。ん? 『………サーナイトミタイニツヨクナリタイ』。強くなりたい、ねぇ…………」

 

 再会してからというもの、一段と俺専用の翻訳機になりつつある影の中の住人から火の玉が送られてくる。そこにはサーナイトのように強くなりたいというガオガエンの呟きが記されていた。

 サーナイトのように強くなりたい、か。

 確かに俺たちが出会った頃には既にサーナイトは今のように強くなっていたが、それはあっちの世界でダークライとクレセリアに鍛えられ、ギラティナと対峙したからに他ならない。ガオガエンもあいつらに鍛えられればあるいは、と思わなくもないが恐らくそれは無理だろう。サーナイトはタイプや戦闘スタイルがダークライやクレセリアに近いものがあったからあいつらのやり方を真似れたのであって、ガオガエンでは戦闘スタイルから異なるため、あいつらでもサーナイト並みにガオガエンを強くするというのは難しいように思う。

 

「どうしたものか………」

 

 手っ取り早いのはジャングルの主と何度も実践積み重ねることだろうが、人間と一定の距離を取るあいつらではそれも期待できないだろう。

 ここにゲッコウガやジュカイン辺りがいれば楽だったのだが、いないものを強請ってもしょうがない。

 それにガオガエンだけに時間を割いてもいられない。育てなきゃいけないのはヤドランもキングドラもクズモーも同じである。クズモーに至ってはまだ子供に近いため、自ずと使える技も攻撃はようかいえき、あわ、みずでっぽう、たいあたり、だましうちしかないし、変化技に至ってはえんまくしかなかった。

 なので今はヤドランとキングドラの指導の下、どくとみずタイプの技を中心に海で練習中である。まあ、ヤドランは砂浜で見てるだけなんだが。

 それでもヤドランとキングドラ自体がガオガエンレベルにすら至っていないため、本当に入りの段階なのだ。

 だからゆくゆくはあの三体もまとめてどうにかしたいのだが………悩みの種が増える一方である。

 

「およ、はっちんどったの? 難しい顔して」

「師匠……」

 

 そんなことを考えていると後ろから爺さんが声をかけてきた。

 振り返ると爺さんの後ろにいたウーラオスと目が遭う。

 

「あっ………!」

 

 いた。

 ガオガエンと同じ戦闘スタイルのポケモンがこの道場にいたではないか。しかもガラル空手の元となった武術の使い手だとか諸説あるポケモンが。

 

「えっ? なに? ワシちゃんそんなに見つめられちゃうと照れちゃう」

「気持ち悪いこと言ってんじゃねぇよ、爺。あとクネクネすんな」

 

 俺がウーラオスのことをじっと見ていると何を勘違いしたのか爺が照れだした。

 何故照れる。何故クネクネする。いい歳した爺さんが気持ち悪い動きするなよ。

 

「ガオガエン、しばらくウーラオスにガラル空手を教えてもらったらどうだ?」

「ガゥ?」

 

 爺のことは放っといてガオガエンに提案してみる。

 そのガオガエンはキョトンとした顔だ。

 

「サーナイトみたいにって言っても、お前とサーナイトではバトルスタイルが違い過ぎる。同じようなことをしても今よりもジャングルの主には勝てないと思うぞ。それよりもお前の長所である肉弾戦に幅を持たせられるようになれば勝ち目は出てくる。ただ攻撃を当てるだけにしても、身体捌き一つで相手の攻撃するタイミングを奪うことも出来たりするからな」

 

 結局のところ、今のガオガエンに必要なのはバトル中の身体捌きである。それをサーナイトやダークライたちでは戦闘スタイルが違うために無理がある。

 

「俺の最初のポケモンはリザードンだったって話は覚えてるか?」

「ガゥ」

「あいつも旅をする中で伸び悩んでる時期があったんだ。その時にアニメで見た飛び方をリザードンにもさせてみたら攻撃に幅が出てくるようになってな。そこからは負けることも少なくなった」

 

 元々負けることは少なかったが、それでもナツメには勝てなかったし、サカキとやり合おうとも思わなかった。とにかく強さを求めていた。ただそれだけだったのだ。そこにアニメからいろいろな飛び方を仕入れたことで再戦したナツメにも勝てたし、リザードン一体でポケモンリーグ優勝までいけたのである。

 

「リザードンみたいにアニメから肉弾戦のやり方を仕入れるにしても、今の環境だとそれも難しくてな。だからガオガエン。ウーラオスに習ってお前もポケモンの技ではない業を習得してみろ。確実に勝てるようになるとは断言出来ないが、攻撃の幅は広がると思うぞ」

「……ガゥ!」

 

 だが、そこまでいっても上には上がいる。世界なんてそんなもんだ。

 

「つーわけで師匠。ウーラオスにガオガエンのこと任せていいっすか?」

「いいよん。まさかワシちゃんもこんな形でちゃんと師匠らしいことができるなんて、ワシちゃんうれぴーよ」

 

 師匠らしいこと、ね。

 確かに他の門下生に比べたら師匠らしいことをしてもらったことは数えられる程あるかどうかだろう。何ならゲームに付き合わされたり、面倒事を押し付けられたことの方が多い。けど、そのおかけで俺はここでの人脈が増えていったのも事実。俺的には態々自分から働きかけなくても仕事をこなせていくので、どっちかつーと有難い限りだ。

 

「というわけでウーラオス。これからガオちんに肉弾戦のやり方叩き込んであげて欲しいのね」

「ラオス!」

「ウーラオス、俺からもよろしく頼む」

「ガゥ」

 

 ガオガエン共々ウーラオスに頭を下げるとウーラオスはコクリと深く頷いた。

 

「さて、はっちんはこれからどうするのん?」

 

 ウーラオスに連れられ、フィールドの端にいくガオガエンの背中を眺めていると、横からそんな問いが飛んできた。

 

「育てなきゃならんのはあいつだけじゃないんで。キングドラたちの力をどう引き出していくか調べてみようかと」

「ワシちゃんの本だったら好きに使ってくれていいからねん」

「うす」

 

 元々爺さんの本棚も見てみようと思っていたので、本人から了承を得られたのなら話は早い。

 俺はガオガエンをウーラオスに任せて道場に戻った。

 途中、玄関近くの窓から海を眺めるヤドランの姿が見えたが、相変わらずぼーっとしていたのは言うまでもない。

 

「………さて、何かあるかな……と」

 

 爺さんの本棚を上から見ていく。

 ここにはヒスイ図鑑の複製版があったからな。今回も何かあると期待しているのだが………あるといいな。

 

「特にみずタイプのことに関するのがあればー………と」

 

 みずタイプは大きく二種類に分けられる。

 一つはゲッコウガのように手足があるポケモン。もう一つはキングドラやクズモーのように手足のないポケモンだ。

 基本的に手足のないみずタイプのポケモンは泳ぐ以外の移動方法がなく、手足のないアーボなどとは違いウネウネと陸を移動するのは苦手としている。何ならコイキングのような姿をしているポケモンは飛び跳ねたりする以外に方法がない。

 

「海のポケモンに関しての本は…………この段にはないか」

 

 だからその特殊性をトレーナーがしっかり理解しておかなければ、咄嗟の対応もミスしてしまう可能性がある。それだけは避けたいし、しっかり理解しておけばバトルスタイルの確立にも繋がるというもの。

 なのだが………目ぼしい本が見つからない。

 やっぱりアレだな。一回この本棚を整理してジャンルごとに分けた方が良さそうだよな。一応通巻本はまとめられてはいるが、雑誌から専門書まで一緒くたに収められているため、非常に探しにくい。

 確か各タイプの基本書的なのは一番下の段にあったはずだから、最悪それを読み漁るしかないか。

 いっそ、雑誌も読んでみるか?

 こんなところに一緒に入れてるくらいだからコマチらが読んでいるような頭の悪そうなのでもなさそうだし、ポケモンに関することが何か書かれているだろ。

 

「意外とこういう雑誌に載ってたりして………」

 

 手に取ったのは『月刊オーカルチャー』という雑誌。

 ペラペラと流してみていくとポケモンらしき写真を見つけた。

 

「あ、なんかいた。ディグダの顔に似てるけど、こんなディグダ見たことないな」

 

 ディグダのような顔をしていながら、その身体は白く細長い。ディグダのリージョンフォームか?

 

「ウミディグダ。みずタイプ……『浜辺に生息し、敵の気配を察知すると地中に潜る。その行動と見た目からディグダの亜種と思われがちだが、全く別のポケモンである』、か」

 

 全く別のポケモンということはリージョンフォームではないということか?

 ガラルにはこんなポケモンもいるのか。

 

「『ちなみにパルデア地方の陸にはディグダも生息しているため、気になる方は両者を捕まえて見比べてみるのもおすすめ!』……はっ? パルデア地方?」

 

 パルデア地方って確かカロスの南西にあったよな………。

 すると何か?

 ウミディグダってのはパルデア地方に生息しているポケモンで、そんなポケモンを記事にしているってことは…………この雑誌、パルデア地方のってことじゃね?

 

「……………うわ、マジか。これガラルの雑誌じゃねぇ」

 

 最初の方から見返していくと、ちょいちょい文章にパルデアの文字が出てくるではないか。

 マジか………何でそんなもんがこんなところにあるんだよ。

 

「つか、表紙。めっちゃパルデア地方って書いてあるし………」

 

 背表紙しか見てなかったわ。

 じゃあ、最初の方のグルメのページもパルデア地方ので直近の俺には何一つ役に立たないと。

 いや、まあ取り敢えず最後まで目を通すか。

 月刊って書いてあるし、棚にも3月号より前のも5月号以降のも並んでいるから、キングドラやクズモーに近いポケモンのことが書かれている可能性だってある。読んでみるだけ読んでみよう。

 というかこれ4月号か。

 

「……………はっ? パルデア未確認ファイルNo.04? 『原始のボーマンダ!? 謎の生物トドロクツキ。奇書スカーレットブックに書かれた謎の生物が名前の由来になっている。その姿はほかの地方でボーマンダに発生するとある現象の結果に酷似しているが関連性は不明。羽毛をまき散らしながら高速で飛びまわり獲物を襲う。その凶暴な性質はボーマンダ以上と考えられており遭遇することがあっても絶対に接触を避けるべきである』

 

 なんだこれ。

 パラパラめくっていくと一ページ丸々使った白黒スケッチのポケモンと思しき絵が出てきた。

 確かにここに書いてあるようにボーマンダに似てなくもない。というか姿形だけならメガボーマンダの方に似ている。三日月型の翼なんかまさにそうだ。綺麗な三日月型かギザギザとした毛が立っている三日月型かの違いはあるものの、よく似ている。これがカラーの絵だったらよかったのだが、古い文献からの引用なのだろう。体色までの判別が付かないところが惜しい。

 身体もメガボーマンダをさらに野生味溢れる姿ともすれば、表題の原始のボーマンダってのも頷ける。

 えっ、なに、マジでこれ原始のボーマンダなのか?

 パルデアの雑誌であることからパルデア地方に生息していたと思われるが…………今も生息しているのだろうか。遭遇することがあってもって書いてあるし、いるのだとしたら新たなリージョンフォームとも言えなくもないぞ。

 ただ原始のって付けるところが引っかかる。パルデア地方には既に現在の姿のボーマンダが生息している可能性だってある。

 いっそマンムーやモジャンボみたいにげんしのちからを覚えたことで進化するコモルーからの分岐進化だったら、現代にも蘇らせることも出来そうなのだが、そもそも本当にいるのかどうかすら検証できないのではどうしようもないか。

 原始のポケモンーー古代のポケモンといえば、化石ポケモンやげんしのちからを覚えて進化するポケモン、それにホウエン地方の伝説ポケモングラードンとカイオーガのゲンシカイキが挙げられるが、それと同等の力を得たレックウザ発祥のメガシンカもそれに近いものがある。メガボーマンダとこのトドロクツキを見ても何かしら関係はありそうだ。

 ああ、そうだ。確かプテラもメガシンカすることで古代の姿を模倣しているとかって話を、化石研究所の職員から聞いたことがあるな。

 なんだこれ。めちゃくちゃ面白そうな題材じゃないか。

 たった一体の存在でここまで話が膨らむとは、これがガセネタだったとしても夢のある話だぞ。

 

「この本棚って意外と宝庫だな」

 

 もしこの本棚の前にあの博士軍団を放置したら、皆が皆本を手に取りああでもないこうでもないと議論が繰り広げられるだろう。何なら世界的権威ばかりであるため、新たな論文作成にまで発展しそうである。

 既に俺が目を通しただけでもリージョンフォームと思しきポケモンがわんさかと出てきてるのだ。何かしらの発見はあるだろう。

 果たしてその時ソニアを博士ズの中に放り込んだらどうなるだろうか。

 ………オーキドのじーさんたち爺ズには萎縮し、変態一号二号にはドン引きだろうし、まともに会話できそうなのってウツギ博士とオダマキ博士くらいじゃね?

 まあ、あいつはいずれあの軍団に入り込めるように精進することだな。

 

「………っと、こんな寄り道してる暇じゃなかった。キングドラたちの育成方法を考えねば」

 

 これはこれで面白かったので、後日改めて月刊オーカルチャーを読み漁ることにしよう。

 多分ヒスイ図鑑と同様頭を悩ませる何かに遭遇するだろうが、時間はまだまだある。バスラオ問題と併せて地道に思考していくしかない。というかバスラオ問題のヒントの一つでもあれば嬉しいんだけどな。まあ、ないだろうな。

 

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