ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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56話

 月刊オーカルチャー。

 あれ、マジで凄かった。

 トドロクツキの他にもムウマらしきハバタクカミ、モロバレルを進化させたかのようなアラブルタケ、砂鉄を操るレアコイルのようなスナノケガワ、メラルバの姿のままウルガモスの特徴を取り入れたようなチヲハウハネ、ドンファンにマンムーの牙が付いたイダイナキバ、プリンがポニーテールにしているかのようなサケブシッポ、と各月で古代の姿のようなポケモンが特集されていた。これがもし本当ならポケモン進化論やリージョンフォーム、さらにはメガシンカにも何かしらの関係が出てくるだろう。

 残念ながら当初の目的であったキングドラやクズモーの育成方法のヒントになるようなことは見つからなかったが、この一ヶ月とにかく海で泳ぎをマスターしたためか、クズモーの動きは飛躍的によくなった。

 あとクズモーが陸でも浮いていられるようになった。イロハのキングドラもシードラの時から浮いていたし、最終進化形がドラゴンタイプだとその進化前の姿でも浮いていられるのかもしれない。ほら、ドラゴンタイプってポケモンによっては翼がなくても飛べたりするじゃん? 多分その辺と何かしらの関係があるのだと思われる。

 ただ一つ懸念材料とでも言えばいいのだろうか。今のところクズモーはアクアジェットが使えない。どうも水を纏うよりも水を操る方に長けているようで、典型的な遠距離射撃派だった。

 そのおかげか新たに習得したみずのはどうは最初から使いこなせていたし、逆にポイズンテールは不発になることもある。唯一攻撃したらボールに戻っていくクイックターンだけは何故か毎回上手く発動できた。謎だ。

 もう少し技の種類が増えればクズモーの得手不得手の基準が分かってくるのだろうが、今のところはまだ手探り状態である。

 とはいえ、俺もクズモーが加わったことでようやく表立って出せるポケモンが六体になったわけで、いよいよ爺とフルバトルする日が迫ってきている。まあ、今の状態ではまだまだであるが。

 

「ハチはいるかーっ!」

 

 さて、今日も一日クズモーたちの特訓と並行して、ガオガエンの様子も確認しておかないと、などと考えていたら嵐が来た。

 

「おう、ハチ! 手持ち六体揃ったそうじゃねぇか! フルバトルしようぜっ!」

 

 このおっさん、どこからそんな情報を仕入れてくるんだろうか。

 

「ハチ兄、バトルの後は勉強教えて!」

 

 あ、いたわ情報源。

 出会ってからというもの、シャクヤは月に何回かは道場に来るようになり、俺が勉強を見てやるという行事が出来上がっていた。基本シャクヤに聞かれたことを解説してたりするのだが、チラッと手持ちが六体揃ったって話をしたかもしれない。いや、あるいは前回四対四のバトルをおっさんとしているため、キングドラとクズモーの名前を出しただけで手持ちが六体になったと計算した可能性もある。シャクヤは決してバカではないからな。それが今に繋がっているのだろう。

 

「毎度毎度普通に入って来れねぇのかよ、おっさん」

「いいじゃねぇか、別に。コソコソ入って来られる方が嫌だろ」

「そもそも唐突に来て唐突にバトルを申し込まれる方が嫌だわ」

「ケチくせぇなー」

 

 俺はジムリーダーじゃないんだ。

 いつでもバトル歓迎なんて営業はしてないし、する気もない。

 

「んで、今日はカブさんは?」

「あん? カブちゃん今日はいねぇよ。何か用あったのか?」

「おっさんのお守り役はいないのかなと」

「親父のお守りはアタシだよー」

「シャクちゃん!?」

 

 娘にまでお守りされてるのか。

 このおっさん、やっぱり外に野放しにしておいていい存在ではないのでは?

 これのフォローをしてるってカブさん、相当苦労してるんだろうな。

 

「おおー、誰かと思ったらピオちんじゃん。はっちんとバトル〜?」

「おうよ! つーわけで裏のフィールド借りるぜ!」

「おっけーおっけー。みんなもはっちんたちのバトル観戦するよー」

「「「押忍!」」」

 

 によによと不敵な笑みを浮かべながらやってきた爺の合図で、門下生たちが一気に観戦モードへと相なった。

 いや、お前ら自分たちのメニューやっとけよ。

 呆れた目で門下生たちを見ていると、シャクヤに手を掴まれ裏のフィールドへと連行されていく。

 何この一気に道場内で味方がいなくなる感じ。

 ふと目が遭ったミツバさんに目で助けを求めたが、案の定微笑まれただけである。

 俺に味方はいないのだろうか。

 事俺がバトルを申し込まれる時に限っては、道場内の団結力が凄まじい気がする。そうでなければ誰かしら待ったをかけるだろ。

 これ、俺が本気でボイコットしたらどうなるんだろうな。場が白けるのは目に見えているが、その後の門下生たちの目も気になるところだ。一応集団生活をしている手前、下手な行動にも移せない。これがプライベートであれば、最終的に俺が道場を去れば終わる話なのだが、ガラル地方でのパイプを作るという仕事がある以上、素直に従う他あるまい。

 本当、世知辛い世の中だこと。やっぱり社畜にはなりたくねぇわ。

 

「はぁ、フルバトルとか面倒な………」

 

 シャクヤに無事フィールドの所定の位置にまで連れて来られた俺は、自然肩が下がってしまう。せめて事前にフルバトルするぞって連絡してくれれば、こちらもそれに向けて嫌々ながらも準備したってのに。

 

「爺さんに聞いたぜ。いずれ爺さんとフルバトルするんだろ? だったらその前に数こなしておくに越したことはねぇだろうよ」

「そうは言ってもようやく陸でもバトルできそうな段階に入ったところの奴らもいるんだぞ。陸上での技の使い方はこれからだってのに……」

「硬ぇこと言うなよ。それこそ実践を伴わなければ成長出来ねぇだろ」

 

 はぁ、ダメだこりゃ。

 この豪快な性格は言ったって聞き入れはしないだろう。言ってることに間違いはないのだが、もう少し様子を見ていたかったというのが俺の本音だ。

 

「じゃあ、俺が勝ったら賞金として一万円な。それくらいないとやる気が出ん」

 

 金はまあ月々振り込まれてくるから困っちゃいないけどな。何ならまだ給料に手をつけてねぇし。そもそもこの島で金を使う場所がない。唯一取り寄せたポケモンボックスも結局はミツバさんが買ってくれたし。

 

「チッ、わーったよ! 勝ったらな!」

 

 語気を強めた辺り勝つつもりでいるのだろう。

 そんなに前回のバトルが悔しかったのだろうか。そんなにバトルしたいのなら、またジムリーダーになればいいのに。それくらいの実力は充分にあるだろ。

 

「んじゃ、審判はワシちゃんがやるよん。ルールは前回と同じでよろぴー?」

「ああ、いいぜ! ハチに全力を出させた上で勝つ!」

 

 ルールはいつも通り、手持ち全て戦闘不能になった方が負け、技に使用制限をかけない、交代有り………なのだろう。

 最早ルール確認も適当になってきたか。ソニアとのバトルなんか戦闘不能になったかどうかしか見てないし、いいんだけどね。

 

「いくぜ、エアームド!」

「クズモー、対人戦は初陣になるが気楽にな」

「ズモ!」

 

 最初は小手調にくるだろうとこちらもクズモーを出したものの、まさか一体目からエアームドがくるとは………。

 これは流石にクズモーでどうにかできる相手じゃない。というか初陣のクズモーにおっさんのポケモンの相手はまだ無理だろうし、様子を見てクイックターンで戻すとしよう。まずはクズモーには格上とのバトルに出て、その空気だけでも味わってもらうだけでいい。無茶させてソニアみたいにトラウマになられても困る。

 

「最初からぶっ放すぜ! ブレイブバード!」

「クズモー、えんまくで撹乱してそのまま躱せ」

「ズモーッ!」

 

 勢いよく突っ込んでくるエアームド目掛けて黒煙を吐き出した。身体の小さいクズモーはすぐに黒煙に包まれて視認できなくなっていく。

 そこへエアームドが突っ込んできて、そのまま黒煙が流されていき一瞬で黒煙タイムは終わってしまった。

 だが、当初の目的は果たせたようなので良しとする。

 

「チッ、躱されたか。エアームド、ステルスロック!」

 

 あ、あのクソ親父、厭らしい手を使いやがって!

 ソニアが帰ってからのこの二ヶ月、ポケモンたちに色々と技を覚えさせといて正解だったな。

 

「クズモー、だましうち」

 

 エアームドが尖った小さい岩を無数に撒き散らしている間にクズモーを視線で合図し、エアームドの背後に回らせておき、終わった瞬間に技の指示を出す。

 当然、ステルスロックを仕掛けることに意識が傾いていたエアームドは背後のクズモーにようやく気がついたようだがもう遅い。

 クズモーの体当たりがエアームドの首に入った。

 よりにもよってそこを狙うか。いい判断だ。

 

「そのままクイックターン」

 

 恐らく同じ手はもう使えないだろう。となると対エアームドにおいてクズモーの取れる戦略はどうにも寂しいものになるため、迷わず交代させることにした。

 下手に攻撃を受けようものなら一撃でやられる可能性もあるからな。それでバトルは怖い、なんて思われてもだし、初戦はこれくらいでいい。

 

「なっ!? いいのか、交代しても!」

「いいんだよ。本当はよくねぇけど………ウルガモス」

 

 クイックターンの効果でボールに戻ってきたクズモーの代わりにウルガモスをボールから出した。

 すると鋭利の効いた無数の岩の破片がウルガモスに襲い掛かる。いわタイプの技でステルスロックが発動すると、むし・ほのおタイプのウルガモスには痛手だな。だが、後のことも考えるとステルスロックに対処できるのもウルガモスしかいないため、このダメージは仕方あるまい。

 

「ウルガモス、きりばらい」

 

 最近覚えた技その1。

 相手の回避力を下げたり、リフレクターやひかりのかべを吹き飛ばせる他、フィールドに仕掛けられたトラップやエレキフィールドなどのフィールド変化も解除できる優れもの。ぼうふうやねっぷうでクズモーたちの技を吹き飛ばしていたら、いつの間にか覚えていた。多分、羽ばたき方を色々調整して手加減していたら、上手く噛み合ったのだろう。

 

「んなっ!?」

 

 ウルガモスが大きく羽ばたくと、無数の岩の破片が砕けていった。

 ウルガモスがそんな技を覚えているとは思いもしなかったおっさんは、お口あんぐりで驚いている。

 

「狙いはこれだったか………。エアームド、エアスラッシュ!」

 

 だが、すぐに切り替えて次の指示を出してきた。こういうところはやはり元ジムリーダーなのだろう。

 

「ぼうふう」

 

 無数の空気の刃を暴風で呑み込み一掃。

 そもそも遠隔系の技はエアームドよりもウルガモスが得意とするところ。これくらい当然の結果だろう。

 

「おいおい、マジかよ………」

 

 おっさんは呆気に取られているが、そのせいで隙だらけである。

 

「にほんばれ」

 

 まずはウルガモスが得意とする状況に持っていくことにした。

 日差しが強くなり、エアームドの鋼の身体に太陽光が反射して眩しい。

 

「エアームド、いわなだれでウルガモスを撃ち落とせ!」

 

 どうしてもウルガモスを撃ち落としたいのか、さっきから上方からの攻撃ばかりになっている。攻撃される方向が限定されれば対処も楽だ。

 

「ウルガモス、ソーラービーム」

 

 瞬時に降り注ぐ岩を太陽光を凝縮した光線で消し去る。

 チャージ時間がないと相手の次の動きまでの時間ができるため、その間に回復することも可能だ。

 こんな風に。

 

「あさのひざし」

 

 ウルガモスが新しく覚えた技その2。

 太陽光からエネルギーを吸収して回復する技。

 日差しが強いと回復量が増えるため、太陽の化身とか言われているウルガモスには打ってつけである。

 

「チッ、エアームド! ドリルくちばし!」

 

 隙あらば回復してくるというのを見せつけたためか、おっさんの顔がより険しくなっている。ただでさえ怖いのに、バトルに夢中になると余計に怖いな。

 

「ウルガモス、ちょうのまいで躱せ」

 

 嘴を突き出し、身体ごと回転させて突っ込んでくるエアームドを、ちょうのまいでヒラヒラと躱した。

 

「ステルスロック!」

 

 一直線に突っ切っていったエアームドがターンすると、その勢いを利用して再度鋭利の効いた岩の破片をフィールドにばら撒いていく。

 ひこうタイプにいわタイプとこちらの弱点を突いてくる技はいくらでもあるってわけか。隙あらばあちらもステルスロックをばら撒いてくると。

 これはもう一気に片付けるしかなさそうだ。

 

「ウルガモス、連続でほのおのまい」

「エアームド、ブレイブバード!」

 

 エアームドが翼を折り畳み、急加速して突っ込んでくる前に次々と炎をぶつけていく。何度か遠隔系の攻撃力が上がり、一発一発の威力が増している。

 だが、エアームドはそれを耐え切り急加速してきた。

 

「モォォォォォスッッ!!」

 

 それでもウルガモスは炎をぶつけることを止めず、エアームドの嘴が差し迫ったところで顔面に炎をぶつけ、ようやく撃ち落とすことに成功した。

 無駄に頑丈な身体をしている。はがねタイプを持つエアームドには効果抜群のはずなのにこれなのだから、相当鍛えられているのだろう。現役を引退した今でこれなのだから、当時はもっと凄かったのだろうと窺い知れる。

 

「………エアームド、戦闘不能だよん」

 

 まずは一体。

 まだこれが五体も残っているのかと思うと、ただただ面倒だ。

 

「チッ、戻れエアームド。やるじゃねぇか、ハチ。あの速さで連射撃ちとか、えげつねぇことしやがるぜ」

「そりゃ、ウルガモスだからな。これがガオガエンだったら無理であるが、元々実力のあるウルガモスならではの連射撃ちだ。ほのおのまいってのも肝だな」

 

 技を撃ちながら次の技を用意し、自分の周りを回転させて一周したら撃ち出すというのをやっているのだが、あくまでも同じ技ーーーそれもほのおのまいという炎を自在に操る技だからできるのであって、他の技であればこうもならない。しかもそれを制御する技術も必要となり、如何にウルガモスの実力が高いかが分かるだろう。俺もそんなことできちゃうのかと驚いたくらいだ。

 何だろうな。ウルガモスにはリザードンやゲッコウガみたいな派手さはないのに、地味に強さを誇示してくる感じ。

 俺としてはそういう奴もいていいと思う。というかあの三巨頭が無駄に派手なだけだと思いたい。ただガオガエンはどちらかというとそういう派手な、豪快な感じが好きそうではある。

 あれかな………肉弾戦もやる奴らはそういう傾向になりやすいのかもな。

 

「まずはそのウルガモスをどうにかしねぇとな。いくぜ、ボスゴドラ!」

 

 おっと、ここでまさかのボスゴドラかよ。

 あいつ、おっさんのエースポケモンの一体じゃねぇの?

 それくらいのを出さないとおっさんには手がないってことか?

 そりゃいい。地味でも相手のエース級を出させられるというのは、それだけの実力がある証拠だ。

 

「ストーンエッジ!」

 

 ただ、同時にエアームドとは目に見て分かるくらいの実力の差があるということ。

 

「ウルガモス、ソーラービームで撃ち砕け」

 

 地面から突き出してくる岩々に向けて太陽光を凝縮した光線を放ち一掃した。

 あ、日差しが弱まってしまったか。

 なら、今のうちにステルスロックを解除しておこう。

 勝負はここからだ。

 

「きりばらい」

 

 ウルガモスが羽ばたくと鋭利の効いた岩の破片がフィールド外へと吹き飛ばされていく。岩の破片同士、あるいは地面に当たることによって最終的には粉々に砕けていってしまった。

 

「チッ、このタイミングでか。ボスゴドラ、ほえる!」

「ボラァァァァァァッ!!」

 

 あ………………。

 

「ヤン?」

 

 ウルガモスが強制的にボールへと戻されてしまった。

 代わりに状況をあまり理解していなさそうなヤドランが小首を傾げている。

 お前は相変わらずだな………。

 

「ヤドラン、ウルガモスが強制的に交代させられたんだ。しっかり頼むぞ」

「ヤン!」

 

 それだけ伝えればちゃんと伝わる辺り、聞き分けはしっかりしている。

 多分、普段からぼーっとしている分、自分の目で見たものは頭を通さず流れているのだろう。

 

「ボスゴドラ、じしん!」

「ヤドラン、サイコキネシスで身体を浮かせろ」

 

 ハニカームでのレイドバトル以降、ヤドランは超念力により自分の身体を浮かせて自在に移動することができるようにまで成長した。最初は目標地点を定めて、そこまで一直線ってのが常だったのに、今では不規則な動きまで可能としている。本当にポケモンの成長というのは早いものである。

 

「はぁ!? んなのアリかよ! 戻れ、ボスゴドラ!」

 

 ヤドランがフラフラと宙を移動しているのを見たおっさんは、さっさとボスゴドラを引っ込めてしまった。

 あれ?

 交代すんの?

 マジでウルガモスを引っ込めさせるためだけの役割だったくね?

 いいのか、エース級をそんな扱いで。

 ウルガモスをステルスロック解除要員に使っている俺が言えたことじゃないけども………。

 

「いけ、ニャイキング! ねこだまし!」

 

 と思ったらこれだ。

 ボールから出てきた勢いのままヤドランの元へ飛び出していくと、目の前で一拍手し驚かせた。

 

「そのままじこくづき!」

 

 間髪入れずに拳が黒いオーラを纏いーーー。

 

「じならし」

 

 ーーーヤドランの腹に打ち込まれる瞬間、ニャイキングがバランスを崩した。

 

「ニャイキング?!」

 

 ヤドランの特性クイックドロウが発動したようで、一瞬の間に地面を揺らしてニャイキングのバランスを軽く奪った。

 

「シェルブレード」

 

 そして、隙だらけのところに左腕のシェルから水の刃を伸ばし、横一閃に殴りつけた。

 

「後ろに躱せ!」

 

 おっさんの指示よりも前にニャイキングは胸を逸らして水の刃を躱し、その態勢からバク転しながら距離を取っていく。

 おっさんのポケモンの中では一番小回りが効きそうなポケモンだからな。これくらいの動きをしてきても当然だ。

 

「ニャイキング、いやなおとを出しながら走れ!」

 

 爪を地面に突き立てながら、こちらに走り出したニャイキング。

 たったこれだけの動きで耳が痛くなるような音を出してくるとは。身体の奥からゾワゾワしたものを感じる。恐らくヤドランもこの不快音に気持ち悪くなっていることだろう。

 

「じごくづき!」

「かえんほうしゃ」

 

 防御力を下げられた今、下手に動くよりは待ち構えて一発ぶち込んだ方が得策と考え、限界まで引きつけると、ヤドランは口から炎を吐いてニャイキングを押し返した。

 

「ニャ!?」

 

 不意を突かれたニャイキングの声が炎の中から聞こえてくる。

 やっぱりあれ一発では戦闘不能にならないか。

 

「チッ、メタルバースト!」

 

 効果抜群の技を受けたことで大ダメージが入ったのを見越して、おっさんはメタルバーストを指示してきた。

 

「シェルブレードを上から振り下ろせ」

 

 左腕の水の刃を振り下ろし、鋼の光線を真っ二つにした。割れた光線はヤドランの両側を抜けていき、俺のすぐ側で綺麗に霧散していく。

 

「へっ、足下がガラ空きだぜ! ニャイキング、シャドークロー!」

 

 あ?

 何言ってんだ? と思ったらヤドランが打ち上げられてしまった。

 ニャイキングが爪を地面に突き立て、ヤドランの足下から爪の形をした影が伸びている。

 そういえば、前回もシャドークローって使ってたっけな?

 効果抜群の技を受け、まあまあなダメージを受けたヤドランは、相変わらずアホ面をしている。

 まあ、ヤドランだしな。

 

「ヤドラン、マッドショット」

 

 それ故に攻撃されてもあまり怯むことなく次の行動に移すことができる、というのを最近知った。

 ヤドランはニャイキングに向けて左腕のシェルから泥を撃ち出していく。

 

「メタルクローで弾き落とせ!」

 

 空中から撃ち出したことでニャイキングに降り注ぐ形になったのだが、当の本人は鋼の爪で弾いて全て軌道を逸らしてしまった。

 

「わるだくみ!」

 

 そして悪い顔が一層悪い顔をしている。

 

「構わずじならし」

 

 何を悪巧みしてるのか定かではないが、遠距離技の威力を上げてもニャイキングの得意とするところではない。

 その技を使うくらいなら、つめとぎの一つでも使っているところだ。

 

「ねっとう」

「ニャイキング、バトンタッチだ!」

 

 着地と同時に地面を揺らしニャイキングのバランスを崩すと、追い討ちをかけるように熱湯を放った。

 だが、熱湯は当たることなく、ニャイキングはおっさんの方へと戻っていき、代わりに出されたドータクンとタッチしてボールへと吸い込まれていった。

 

「ドータクン、みらいよち!」

 

 なるほど、悪巧みしていたのはこれだったか。

 遠距離技の威力を能力上昇を引き継がせて、最も邪魔されにくい初手にみらいよちを仕掛ける。

 中々嫌な戦い方をしてくるな。

 当たらなければいい話ではあるのだが、どこに仕掛けられたのか全く読めない。発動前に空間が歪んだりするのだが、その兆候に気づいた時にはヤドランの脚では躱すことも難しいだろう。

 一つ分かっているのは、相手が技を二回使った、あるいは使う動きをした後くらいに発動するということ。そこを意識しておかなければシャドークローのダメージもあり、一撃で戦闘不能にされられてしまうことも考えられる。それまでの攻防でダメージを受けてしまえば尚更だ。

 

「ヤドラン、マッドショット」

 

 だが、その前に一つ確かめなければならないことがある。

 ドータクンの特性だ。たいねつかふゆうかによって使う技も変わってくる。ヘビィメタル? あれは特にこちらの技に影響ないから知らん。

 

「ジャイロボール!」

 

 ドータクンはヤドランが撃ち出した泥の弾丸をジャイロ回転して弾き飛ばしていく。

 マッドショットにはこの対応か。

 なら次だ。

 

「かえんほうしゃ」

「ドータクン、引いてシャドーボールをぶつけろ!」

 

 すかさず口から炎を吐き出すとドータクンは後ろに下がり、自分がいたところに影の弾丸を撃ち飛ばした。ドータクンの代わりに炎とぶつかり小爆発が起きる。

 なるほど、じめん技は弾きほのお技は躱すのか。

 となるとたいねつではないと疑いたくなるが、そんな分かりやすいことをする程バカだとも思えない。

 

「戻れ、ヤドラン」

 

 俺はさっさとヤドランをボールに戻し、交代先のボールの開閉スイッチに指をかけたところで、空間に歪みが生じた。

 あっぶね。下手に考え込んで交代が遅くなってたらヤドランが撃ち抜かれてたな。

 

「ガオガエン、ウーラオスに鍛えてもらった実力を俺に見せてくれ」

 

 はがね・エスパータイプのドータクンにほのお・あくタイプのガオガエンはタイプ相性だけ見れば最高である。ここに特性たいねつが加われば、ほのお技が思ったよりも効かないという決め切れない事態になりかねないので、さっきは特性を確認していたのである。

 まあ、恐らくはたいねつの方だろう。ふゆうと思わせた上でほのお技を耐え、反撃に出る。おっさんならそれくらいのことはやってきてもおかしくはない。

 

「かえんほうしゃ」

 

 まあ、はがねタイプを持つドータクンがたいねつを持っていたとて、効果抜群ではなくなるってだけで普通にダメージは入るし、ダメージを蓄積しないに越したことはないので、躱すって選択はそもそもが当たり前である話なのだが。

 

「ドータクン、ジャイロボール!」

 

 身体を包み込んだ炎をジャイロ回転して消し去っていく。

 

「ニトロチャージで詰めろ」

 

 

 その間に炎を纏い加速して、一気にドータクンとの距離を詰めさせた。

 

「くるぜ! 力を溜めろ!」

 

 力を溜める?

 ソーラービームでも撃つ気か?

 

「ガオガエン、かげぶんしん」

 

 何を企んでいるのか分からないので、一応予防線として分身を作らせておこう。

 

「メテオビーム、発射ァ!」

 

 ガオガエンが分身体でドータクンの周りを取り囲むと、ドータクンはくるっと一回転して全方位に向けて水色の光線が撃ち放たれた。

 

「ガゥ!?」

 

 チッ、背後にいても顔に掠めたか。

 

「構うな、じごくづき」

「ガゥアッ!」

 

 メテオビーム。

 知らない技だが、メテオというからにはエスパーやいわタイプ辺りの技だろう。いや、あくタイプを持つガオガエンに効いたのだ。エスパータイプという線はないか。となるといわタイプ………? はがねタイプという可能性も考えられなくもないが、まあいい。

 ガオガエンはドータクンの真下に潜り込むと拳を掬い上げ、ドータクンを真上に突き上げた。

 

「そのまま押しつぶせ! ボディプレス!」

 

 だが、それで終わる相手ではない。

 突き上げられたのを利用し、体重をかけて落下してきた。

 

「にどげり」

 

 それを一度目の空中蹴りで勢いを半減させ、二度目の回し蹴りで停止させる。

 

「ブレイズキック」

「ガゥアァッ!!」

 

 そして一度着地してすぐに炎を纏った三度目の蹴りでおっさんの方へと蹴り飛ばした。

 

「ガオガエン、ほのおのうずで閉じ込めろ」

 

 そして間髪入れずに渦巻く炎に閉じ込めた。

 まあ、これまでを見るにあの炎はすぐに消されるだろう。

 タイミングは消している最中だ。

 

「ドータクン、渦とは逆にジャイロボールだ! 渦を掻き消せ!」

「今だ、詰めろ。最後はお前自身の選択で決めてこい。ウーラオスに鍛えてもらった肉弾戦の成果をここで見せてみろ」

 

 炎の中でジャイロ回転を始めたのを確認して、最後の一撃をガオガエンの判断に委ねることにした。

 ともするやガオガエンは勢いよくジャンプし、一度両脚を折りたたむと炎を纏った右脚を伸ばして、渦巻く炎の中ジャイロ回転するドータクンへと突っ込んでいった。

 それはもう正にライダーキックであった。

 

「ドータクン!?」

「ドータクン、戦闘不能だよん!」

 

 俺はいつから特撮ヒーローを育てていたのだろうか。

 いやまあ、ブレイズキックなんだろうけども。

 これはあれかな。ライダーパンチも覚えさせるべきかな。いや、もしかするともう習得しているかもしれない。

 というか、だ。何故俺のポケモンたちは技でネタを披露しようとするのだろうか。そりゃリザードンにはアニメを参考に飛び方を仕込んだぞ? けど、ゲッコウガは違う。あいつは勝手にネタを仕入れては披露してくるし、ウツロイドは技なのかも分からんハチマンパンチ以下三つの技を持ってるし、ついにガオガエンもその路線に走る気なのだろうか。

 

「………水で作ったギャラドスの首だけとか、ハチロイドとかよりは全然いいけどよ。見栄えもよかったし」

 

 まあ、よしとしておこう。

 エンターテイメントを求められるジムチャレンジでも使えるかもしれないし。

 

「お疲れさん」

「ガゥ!」

「最後のキックもよかったが、落下してくるドータクンを受け止めた三段蹴りも見事だったぞ」

 

 俺としてはそっちを褒めたかったんだけどな。ウーラオスに鍛えてもらう前はあんな動きできなかったんだし。それがものの一ヶ月であれだけの動きができたのだ。その上で最後のライダーキックともなれば上出来である。

 

「んじゃ、一旦休憩な」

「ガゥ!?」

「心配するな。お前の見せ場はちゃんと作ってやる」

「ガゥ!」

 

 ここまでやってまだエアームドとドータクンしか倒していないんだよな。ニャイキングもボスゴドラも交代してしまい、恐らくあとの二体はハッサムとダイオウドウだろうから、必ずガオガエンの出番は回ってくる。ただ、それ全部を連戦で倒せるほどの実力はガオガエンにはまだない。

 それなら折角ライダーキックを習得したんだから、最後まで出番を残しておいた方が心躍る展開ってもんだ。

 ………うん、俺もあのキック一発で相当心が踊ってるな。自覚なかったわ。何なら今度は誰かにプリティでキュアキュアな技を覚えさせてみるか?

 

「キングドラ」

「もう一丁、いくぜ! ニャイキング!」

 

 ガオガエンを戻し、再度キングドラをボールから出すと、おっさんも再度ニャイキングを出してきた。

 

「ねこだまし!」

「えんまく吐いて下がれ」

 

 二度も同じ手に引っかかるわけがないだろうに。

 黒煙を吐いてその場から下がらせる。

 

「チッ! ニャイキング、ジャイロボールで黒煙を消せ!」

 

 すると黒煙の中に取り残されたニャイキングがジャイロ回転をして黒煙を消し去ってしまった。

 まあ、それは時間稼ぎでしかない。

 

「あまごい」

 

 どうせ初手はねこだましだろうというのは読めていたし、キングドラの得意とするのは雨が降っている状況下である。ニャイキングの身動きを一瞬でも封じて雨を降らせられればこっちのもんだ。

 

「タネばくだん!」

 

 キングドラの姿を見つけたニャイキングは口から何かの種を撒き散らしてきた。

 

「躱してバブルこうせん」

 

 だが、特性すいすいを持つキングドラはいとも容易く躱し、ニャイキングの背後へと回り、次々とバブルを吹き付けていく。

 あれ、何で弾けるだけでダメージ与えられるんだろうな。怖いよな、泡なのに。要はアレ、デカいシャボン玉だぞ? それが破裂してダメージになるとか怖すぎるだろ。

 ただ、キングドラがいたところもタネばくだんにより次々と小爆発が起き、今度は白煙が立ち上っていく。

 

「ンニャ!?」

「なっ!? まさか特性すいすいかっ!」

「なみのりで呑み込め」

 

 驚いてるところ悪いが、片膝立ちになっているニャイキングではもう間に合わないぞ。

 

「ニャイキングーッ!」

 

 大きな津波に呑まれたニャイキングはどこへ流されただろうか。

 

「…………どこだ、ニャイキング!」

 

 ニャイキングに呼びかけて頭を忙しく振っているが、多分そんな流されてはいないと思うんだよな。

 

「ピオちん、中央中央」

「ニャイキング!」

 

 爺に促されようやく気づいたおっさんが大声で呼びかける。

 声デカすぎ。耳痛くなるわ。

 

「………うん、ニャイキング、戦闘不能だよん!」

 

 そりゃあね。ヤドランとのバトルのダメージもある上に、雨が降っている状態でのタイプ一致の技を受けたんだ。耐えられるとは思えねぇよ。

 

「くぅ………そいつ新入りだろ? 何でそんな強ぇんだよ」

「いや、単に特性活かしただけだし。セオリー通りのバトルしてるだけだろうが」

 

 ニャイキングをボールに戻しながら嘆いている色黒のおっさん。その内あの人泣き出したりしないよな?

 ああいうタイプってなんか豪快に泣き出しそうじゃん? 男泣きっていうか。

 

「そのセオリー通りにバトルを進められるだけの技量がすげぇつってんだよ」

「んなこと言われても………」

 

 普通じゃね?

 セオリー通りのバトルすらできないのなら、それはもうトレーナーとしてダメだろ。その上でポケモンたちがやりたいバトルに変えていくのが普通だと思ってたんだがな…………。

 俺の基準ってやっぱり狂ってるのか?

 

「だったらこっちもセオリー通りのバトルをさせてもらうぜ! ハッサム!」

 

 次に出てきたのはハッサム。ハッサムのセオリー通りのバトルってなると…………特性テクニシャンからのバレットパンチ?

 

「キングドラ、なみのり」

「こうそくいどうで躱せ!」

 

 逃げられないように全体的に襲うなみのりを選択。

 津波を起こしてハッサムを呑み込んでいくが、多分もういないだろう。

 

「すなあらし!」

 

 上空に現れたハッサムは両腕を広げて風を起こし、砂を巻き上げていく。そのせいで雨雲も流されていき、雨が降り止んでしまった。

 セオリー通り、というわけでもないがまずは自分が有利な状況を作り上げたってことか。

 

「ハッサム、バレットパンチ!」

 

 一瞬で姿を消したハッサムがキングドラの目の前に現れ、両腕の鋏で連続で殴りつけていく。

 

「キングドラ、かなしばりだ」

 

 最後一発を入れられたところで、かなしばりでバレットパンチを封じることに成功した。これでしばらくはセオリー通りのバトルをしてくることはない。

 

「チッ、バレットパンチを封じてきたか」

「たつまきで砂嵐を呑み込め」

「させるかよ! ハッサム、でんこうせっか!」

 

 砂嵐を呑み込むほどの竜巻を起こそうとすると、瞬間移動するかのようにハッサムが体当たりしてきた。

 だが、そこはキングドラの意地で竜巻を起こし、砂嵐を呑み込んでいった。

 よし、これで交代も可能だな。

 

「よく耐えた、キングドラ。最後クイックターンだ」

「落とすぜ、ハッサム! アクロバット!」

 

 キングドラが水を纏って突撃していくと、ハッサムが一度くるくると回転しながら後退し、勢いよく飛び出してきた。

 二体が衝突すると、その瞬間キングドラが俺の持つボールに吸い込まれていき、いきなり押し返す力を失ったハッサムが地面に落ちていく。

 

「ウルガモス、ねっぷう」

 

 代わりに出したウルガモスはそのままハッサムの斜め上に飛び出し、大きく羽ばたいて熱風を吹き付けた。

 ハッサムには超効果抜群なのだが、まだ耐えている。

 

「ハッサム、もう一度こうそくいどうだ! ウルガモスをぶっち切れ!」

 

 そして、熱風から脱出するかのように姿を消したハッサムは、次の瞬間にはウルガモスの背後にたどり着いていた。

 二度も使われたらこうなるか。

 

「サム!?」

 

 だが、よく見るとハッサムは火傷を負っていた。

 

「なっ?! 火傷だと!? ハッサム、時間をかけるな! ダブルウイング!」

「ちょうのまいで躱しながら、いとをはく。ハッサムを捕まえろ」

 

 動きは速いが火傷を気にするあまり、軌道が単調になり、ウルガモスが読めるくらいには精度が荒くなっている。

 それを見逃すはずもなく、ヒラヒラとハッサムの翼を躱すウルガモスにハッサムを白い糸で捕獲するように指示した。

 

「サムッ………!?」

 

 火傷に反応して動きが止まってしまったハッサムを白い糸でぐるぐる巻きにし、地面に落下させる。

 

「だいもんじ」

 

 そして、大の字の炎でハッサムを焼き尽くしていく。

 

「ハッサム!?」

「トドメだ。ウルガモス、ほのおのまい」

 

 まだ意識が残っているようなのでトドメに炎を踊らせると、メラメラとさらに焼き尽くされていくハッサムは、遂に意識を手放した。

 

「ハッサム、戦闘不能だよん!」

 

 ふぅ………。

 やっぱりキングドラではハッサムの相手は辛いところがあるな。

 はがねタイプだからドラゴンタイプの技は効果薄いし、むしタイプもあるからほのおタイプの技しか受け付けない。

 ドラゴンと言っても水系のドラゴンなため、ほのおタイプの技を覚えられないが結構痛いな………。

 キングドラでこれなのだからクズモーはまだまだおっさんのポケモン相手にバトルは難しいだろう。

 だから本当、急にくるのはやめてほしい。

 

「戻れ、ハッサム。…………ったく、まさかいとをはくで捕らえられるとはな。あの速さに正確に捕らえてくるとかエグすぎだろ」

「偶に糸を出しては摘み食いしてたからな。俺ですら、それいとをはくじゃね? って気づくのに半年以上かかってるし、それくらい違和感なく使いこなしてた技だ。何ならウルガモス本人が技だってことを忘れてたくらいだ」

 

 ウルガモスも野生時代にバトルで使うことなかったんだろうしな。だからバトルで使える技として出してこなかったのだろう。

 ポケモンだって生き物だ。そういうこともあるだろうさ。

 

「………お前のポケモン、癖が強いの多すぎないか?」

「俺は特に何もしてねぇよ」

 

 俺が手を施す前から一癖二癖あるんだから、俺のせいにされても困るんだけど。

 サーナイト、ガオガエンは割と純真な奴らだから癖が強いと感じたことはないが、こっちに来てからのポケモンたちはまあまあ癖があるよな。折角新たなパーティーを作ることになったんだから、もっと純真な奴らが来てくれてもよかったんだが、何でだろうな。

 

「ウルガモスをぶっ潰せ! ボスゴドラ!」

 

 残り二体。

 先に出てきたのはボスゴドラの方か。

 

「ウルガモス、にほんばれ」

 

 まずはボスゴドラに動かれる前にウルガモスに有利な状況を作っておく。

 

「ボスゴドラ、いわなだれで落とせ!」

 

 日差しが強くなるのと同時にウルガモスの頭上から岩々が次々と落下してくる。

 

「ちゅうのまい」

 

 連戦ということもあり、ウルガモスの素早さは上がった状態のままためなくても躱せそうだが、躱す動きに合わせて使っておく方が後々都合がいいだろう。

 

「チッ、ボディパージ!」

 

 岩を全て躱すとおっさんは舌打ちした。

 まあ、おっさんも分かってはいたんだろうな。

 それでも予想通りというのが悔しかったのだろう。

 

「ねっぷう」

 

 少しでも追いつけるようにか、ボスゴドラは身体を軽くして素早さを上げてきた。

 

「ハイドロポンプ!」

「っ!?」

 

 驚いた。

 まさかボスゴドラがハイドロポンプを使ってくるとは………。

 つか、覚えられたんだな。なみのりとかみずのはどうを覚えるくらいだし、いけなくもないのか………?

 

「攻撃の隙を与えるな! いわなだれ!」

 

 まさかの出来事にウルガモスも完全には躱しきれず、翼に掠ったようだった。

 そこへ頭上から岩々が落下してくる。これには素早くなっているウルガモスも高度を下げて距離を取るしかなかった。

 

「そこだ! ストーンエッジ!」

 

 ただ、それを見逃すほど甘くはない。

 高度が下がったウルガモスに対し、地面から岩が次々と突き出してくる。

 

「ソーラービーム」

 

 地面から突き出す岩々を太陽光で破壊し、ついでに上を向いて降り注ぐ岩々も破壊していく。

 

「へっ、だいちのちから!」

 

 だがその瞬間。

 地面が割れ、高エネルギー体が放出され、ウルガモスは爆発に呑み込まれていった。

 

「待ってたぜ! ボスゴドラ、もろはのずつき!」

 

 ああ、これは無理だな。

 おっさんの策に一本取られたみたいだ。

 

「おにび」

 

 こんな状態ではウルガモスがボスゴドラの捨て身の頭突きを躱せるはずもないので、最後の運任せで火傷を狙うことにした。

 すまん、ウルガモス。

 今のは誘導されていると分かっていながら、対策を立てられなかった俺のミスだ。

 

「おぉー………ウルガモス、戦闘不能だよん!」

 

 爺もウルガモスが倒れたことに感心している。

 

「よっしゃーっ! まずは一本!」

 

 ふぅ、やはりボスゴドラと他のポケモンたちとでは実力が明らかに違うな。

 

「よくやった、ウルガモス。今は休んでくれ」

 

 だが逆に言えば、ウルガモスを倒したボスゴドラを倒せたら、ガオガエンもちょっとは自信を取り戻せる可能性もあるというわけだ。

 なるほど、それはいい案だ。

 

「ッ!?」

 

 ふと、おっさんと目が遭うとビクッと肩を跳ねらせた。

 えっ? なに? 何でそんな怯えられてんの?

 

「ガオガエン、ニトロチャージ」

 

 ガオガエンをボールから出し、そのままの勢いで炎を纏わせて走らせていく。

 

「ボスゴドラ、じしんでバランスを崩せ!」

「ジャンプして躱せ」

 

 ボスゴドラが地面と叩いて揺らしてくるも高くジャンプすることで、それを躱した。

 

「かえんほうしゃ」

「ハイドロポンプ!」

 

 そしてボスゴドラの真上から炎を放射すると、相殺するように口から水砲撃を打ち上げてくる。

 おかげでガオガエンがずっと滞空したままとなり、一向に降りてくる気配がない。

 

「ゴラッ?!」

 

 だがそれも長くは続かず、ボスゴドラが一瞬苦しみ出したことで、技の均衡が崩れ、ガオガエンが地面に落下してきた。

 

「おにび当たってたのか!?」

 

 どうやらウルガモスの最後のおにびがしっかりと効いていたようだ。

 この隙は大きいぞ。

 

「けたぐり」

「てっぺき!」

 

 着地と同時にボスゴドラの身体を脚で薙ぎ払うも、寸でのところで鉄の壁を挟まれ、あまり大きくはバランスを崩さなかった。

 それなら攻撃させる隙を与えなければいい。

 

「反撃の隙を与えるな。インファイト」

 

 膝立ちから立ち上がるボスゴドラに向けて両手両足を使い、殴る蹴るの攻撃を休む暇もなく与えていく。

 

「ハイドロポンプ!」

 

 ボスゴドラが口を開けた瞬間に顎を蹴り上げーーー。

 

「かみなりパンチ!」

 

 右拳が電気を纏えば右肩を殴りーーー。

 

「だいちのちから!」

 

 脚で地下にエネルギーを送ろうとすれば、上げた脚を薙ぎ払いーーー。

 

「きしかいせい!」

「角を掴め」

 

 そんなこんなしていると、とうとう全身にエネルギーを溜め始めたため、二本の鉄の角を掴み上げ、突っ込んできたのと同時に持ち上げてボスゴドラの力を利用して後ろへ反り、鉄の角を地面に突き刺した。

 あれま、まさかここまでのことをするとは。よくて放り投げれたらいいかなって感じだったのにな…………。

 たった一ヶ月のウーラオスとの修行でここまで成長するなんて思ってもみなかったわ。

 

 こうなってしまってはボスゴドラには為す術もなくーーー。

 

「トドメだ。ガオガエン、ブレイズキック」

 

 ガオガエンは足に炎を纏い、三歩走ってジャンプするとまたしてもライダーキックでボスゴドラの腹に一蹴り入れて蹴飛ばした。

 うん、これはもう確定だな。

 ガオガエンがウーラオスとの特訓で得たのはガラル空手じゃなくてライダーキックだわ。

 空手要素どこいったよ。さっきの角を地面に突き刺したのも空手の技じゃねぇだろ!

 

「ボスゴドラ、戦闘不能だよん!」

 

 あーあ、ついにガオガエンがネタ枠に走り出しちまったよ。

 どうするよ。

 こんなはずじゃなかったのに。

 

「戻れ、ボスゴドラ。………だぁぁぁっ! 角を地面に突き刺すとか性格悪すぎだろ!」

「いや、やったのはガオガエンだからね。俺は掴むところまでしか考えてなかったし、ボスゴドラの力を利用して投げ飛ばせたらなーって感覚でいたのを、俺の想定以上のことをしてくるとは思わんだろ」

 

 それだけウーラオスとの修行で身体の使い方を学んだという証だ。

 ただ技を撃つ、相手の技を躱すだけでは戦略に幅がないが、バランスを崩す、技を受け流す技術が身につけば、今みたい相手の動きを封じることも可能になる。

 いやまあ、今のはヤバかったけどな。まさかボスゴドラの角を掴ませたら、相手の勢いを利用して角を地面に突き刺すとか、俺の発想にもなかったわ。

 

「ガオガエン、いいぞ。もっとやったれ」

 

 ここまでくれば指示は出すが、身体運びや技の捌き方はガオガエンに任せた方がよさそうだ。

 

「ガゥ!」

「ぜってー、トレーナーの頭がイカれてんだよ。いくぜ、ダイオウドウ! がんせきふうじ!」

 

 最後のポケモンとして出てきたダイオウドウは、そのままガオガエンを取り囲むように岩々を落としてくる。

 

「ガオガエン、ニトロチャージ」

「チッ、だったら! デッカク増量、デカバルク! ダイオウドウ、キョダイマックス!」

 

 炎を纏って躱していくと、おっさんがダイオウドウを一度ボールに戻して巨大化したボールを投げ放ってくる。

 ボールから出たダイオウドウは段階的に巨大化していき、キョダイマックスの姿になっていった。

 

「鼻を駆け登れ」

 

 ダイマックスないしキョダイマックス。

 攻撃に重さが加わり威力が桁外れに増大するのだが、いかんせん身体がデカい分、的も大きくなってしまうのが欠点だと思っている。特に四足歩行のポケモンがダイマックスする時は注意が必要だ。背中を取られたら身体の大小関係なく為す術がなくなってしまう。ふんかとかそういう背中から発動させる技ならばあるいはとなるが、ダイマックス技ではダンデのリザードンが使っていたキョダイゴクエンくらいではないだろうか。しかもダイオウドウには長い鼻があり、俺には背中への正規ルートにしか見えない。

 前回はサーナイトにテレポートを使わせたが、そこまでしなくてもいけそうな気がする。

 

「ダイオウドウ、振り落とせ!」

「両脚に炎を纏って踏みつけてけ」

 

 頭を振って鼻に遠心力を乗せてくるが、身体が硬い分、動きも遅く、両脚に炎を纏わせて長い鼻を踏みつけていけば、揺さぶられる回数も自ずと減っていく。

 

「こうなったら、ダイロックで押し潰せ!」

 

 ダイオウドウが巨大な岩の一枚壁を作り出すと、自らに向けて倒してくる。

 

「走れ!」

 

 ギリギリでダイオウドウの鼻を登り切ると、ダイオウドウの顔面に巨大な岩壁が直撃した。粉砕した岩壁が粉末状になっていき、砂嵐と化していく。

 

「砂嵐を気にするな! ガオガエン、連続でインファイト!」

 

 目的地に到着したため、ここから一気に攻め上がることにした。

 何度も何度もダイオウドウの背中を殴りつけ、ダメージを与えていく。

 

「気張れ、ダイオウドウ! キョダイコウジン!」

「オォォォォオオオオオオオオオドォォォォォォッッ!!」

 

 するとダイオウドウの咆哮とともに、巨大な鋼の棘が次々と出来上がっていく。

 ダイロックを見るに防御力の高い身体を活かして捨て身の攻撃をしてくるのは予想できる。

 

「ガオガエン! 降りながらだ!」

 

 だから決めるのはここだろう。

 俺はZパワーリングにカクトウZをつけて、ガオガエンに見せつけるように右手を高く上げて叫んだ。

 使えるかどうかは分からないが、ニャビーの頃から近くでずっと見てきたガオガエンなら覚えているはずだと信じてーーー。

 

「ーーー全力無双撃烈拳」

 

 ポーズを取っていくとガオガエンもダイオウドウの背中から飛び降りながらポーズを取っていく。

 そして着地と同時に超高速で拳を叩き込んでいった。

 

「ダイ、オウドウ………!」

 

 上からは自分の鋼の棘を浴び、下からは超高速の拳を受けたことでダイオウドウは強制的に元の大きさへと戻り始めていく。

 

「………うん、ダイオウドウ、戦闘不能だよん! はっちんの勝ち!」

 

 そして、地面に伏したダイオウドウの様子を確認した爺さんが判定を下した。

 

「ガオガエン、お疲れさん」

「ガゥ」

 

 ………ふぅ、何とかいけたな。

 ウルガモスが倒されたとはいえ、サーナイト抜きでおっさんのポケモンを全員倒し切れた。クズモーには自分も参加したバトルに勝利を与えることができたし、キングドラとヤドランの成長も見られた。ウルガモスの安定した強さもさることながら、ウーラオスとの修行で飛躍的に成長したガオガエンの存在は大きい。ネタ枠に走ろうとしているが、それも強さあってのものである。要はただの見せ方なため問題にはならない。

 

「だぁぁぁっ!! 結局サーナイト出してねぇじゃねぇか!」

 

 ダイオウドウをボールに戻したおっさんの開口一番がこれである。

 頭みで押さえて………。

 そんなにサーナイトともバトルしたかったのかよ。

 

「折角やるんだ。サーナイトなしでどこまでやれるのか確認してたんだよ」

「ハチ兄強すぎ………。結局一枚抜きと変わんないじゃん。親父よわー」

「シャクちゃん!?」

 

 シャクヤ、容赦ねぇな…………。

 勝ったから俺が何か言ってもアレだし、口を挟む気はないが………おっさんが不憫でならない。

 

「どう? はっちん。ガオちんの成果は」

「俺の想定を超えてましたよ。ちゃんと自分なりに決め技も作ったみたいですし、あとは俺がガオガエンの望むバトル展開を作り出せるかっすね」

 

 ウーラオスには感謝しかない。

 よくここまでガオガエンを強くしてくれたものだ。

 

「………この天才め。常人はまずそんなセリフすら出てこねぇよ」

「何言ってんだよ。バトルをするのはポケモンたちだぞ? ならポケモンたちが楽しめるバトル展開を作り出すことこそが、トレーナーの至上命題だろ。その結果ダメージを抑え、相手に攻撃させる隙すら与えないバトルになったりするんじゃねぇの?」

「「ないわー…………」」

 

 親子で声を揃えてドン引きされた。しかも同じように手で「ないない」ってしながら。

 ひでぇな、この親子。

 

「やっぱ親子だな………」

 

 顔は似てねぇけど、間違いなくシャクヤはおっさんの娘だわ。ここまでそっくりの反応するとは…………。

 この後、やっぱりというか門下生たちに憧れの眼差しを向けられたのはいつものことと流しておいた。

 俺みたいなになるのはマジでやめておけ、マジで………。

 

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