ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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57話

 おっさんとバトルして、その午後。

 一足先におっさんは帰り、代わりに面倒な来客もきたが、今はシャクヤの勉強を見ているところである。

 

「ハチ兄、このタマゴ技ってタマゴの時に覚えるんだよね?」

「そうだな、だからタマゴ技っていうんだし」

 

 今日のはどうやらポケモンの技についてらしく、指定の技を覚えるポケモンを四択で選ぶクイズ形式のプリントを何枚も持ち込んできやがった。

 まあ、そこはおバカではないシャクヤであるため、然程問題はなかったのだが、タマゴ技が出てきた瞬間に手が止まったのである。

 

「何でそんなん分かるの?」

「さあ? そこは研究者じゃないから俺も詳しいことは知らん」

 

 こいつ、こう見えて疑問に思う点が鋭いんだよな。

 教えるこっちも結構気が気でないぞ。

 

「というわけでそこの研究者見習い。出番だぞ」

「…………わたし、知らないんだけど」

 

 面倒な来客ーーもといソニアに話を振ると明後日の方を向きやがった。

 

「なんだこいつ、使えねぇ………」

「ソニア、バカにされてるわよ」

「うぅぅ、だって知らないもんは知らないし!」

 

 その隣にはどこかで見たことがあるようなないような色黒の女性がソニアをつついている。

 …………うん、誰だっけ?

 

「つか、何でここにジムリがいるし」

 

 するとシャクヤが単刀直入に聞きやがった。

 おい、もう少しオブラートに包んでくれよ。てか、この人ジムリーダーなのかよ。

 

「ソニアがある時から『ハチくん』とやらの話をよくするようになってね。やれバトルはダンデみたいだ、やれ知識はおばあさま並みだってうるさいのよ。だからそいつがどんな奴かこの目で確かめにきたってわけ」

「「へぇ」」

 

 シャクヤも俺も反応が薄くなってしまった。

 代わりにその隣のギャルに二人して視線が向かっていく。

 

「そ、そんなにいつも話してないじゃん。ちゃんとダンデくんの話もするし、研究の話とかもしてるじゃん」

「そうね、そして最終的に『どっちも持ってるハチくんが羨ましい』で終わるじゃない」

「うぐ………」

 

 こいつ、いつもそんなこと言ってるのか。

 一応吐き出せるようになったことを褒めないといけないのだろうが、吐き出したら吐き出したで俺の話ばかりとかやめてほしい。

 

「ハチ兄、もしかしてモテ期到来?」

「ふっ、悪いがモテ期は既に通り越した」

「えー、ほらここにも美少女がいるよー?」

 

 にこぱーと両人差し指を頬に当てて笑顔を見せてくるシャクヤ。

 うん、可愛い。

 なんかコマチを思い出すやり取りだ。

 

「はいはい、可愛い可愛い。ほら、続きやったやった」

「ぶー、テキトーだー」

 

 頭を撫でながら適当に流すと、ぶーたれながらもプリントに目を向け直した。

 

「あ、で結局タマゴ技は何なん?」

 

 かと思いきや、まさかのタマゴ技の説明を求めてきた。

 

「あー…… ポケモンは各種族で異なる遺伝子を持っていて、技にも相性があるんだ。種族的に覚えられるものとそうでないもの。だから自力で覚えることもあれば、教えてもらって習得するって方法もあるし、タマゴ技のように親からの遺伝で生まれつき使える技だってある」

「遺伝?」

「そう、タマゴ技ってのは親からの遺伝技という見方もできるんだ」

 

 タマゴから孵化した瞬間に、既に強力な技を覚えていたらーー例えばヒトカゲがブラストバーンを覚えていたら、それは自然に覚えたものとは考えにくい。生まれる前からの何かしらの要因がなければ無理な話だ。まあ、ブラストバーンは言い過ぎだが、生まれる前のからの要因となると大いに考えられるのが、親からの遺伝というわけだ。

 

「ほら、親子で手先が器用なやつとかいるだろ?」

「ああ、なるー」

 

 上手く想像できてなさそうなので人間で例えてみたらあっさり理解してくれた。

 

「ただ、俺から言わせてもらえば、タマゴ技なんてのは単なる分類分けでしかない。結局は各ポケモンの遺伝子に付随するものならば、適正がある技は後から教えていけば習得できる。現に俺のポケモンたちは後からタマゴ技に当てはまる技を覚えたりしてるからな」

「「へぇー」」

「なるほど……」

 

 若干二名ほど反応が増えているが、流石にお前だけは知っておいてほしかったな。

 

「ソニア、本当に知らなかったんだな………」

「だって、専攻は考古学だし。どちらかといえば生態系の方の分類だから、各ポケモンの技についてなんて別ジャンルもいいところだよ」

「あー、グラードンやカイオーガのことは勉強してたんだもんな」

 

 どうして研究者ってのは自分の分野だけにしか目がいかないのだろうか。大きな括りで見れば全部ポケモンについてのことなのだから、技一つ一つを覚えておけとは言わないまでも概念くらいは一通り理解しておいてほしいものだ。そうでなければ、ただただ視野が狭くなる一方だぞ。

 

「なら、一つだけ。研究者は専攻に固執するな。お前らが研究しているのは考古学だろうが何だろうが、結局はポケモンについてなんだ。だったら分野問わずポケモンについて詳しくなれ。ポケモンについて多角的に見られる研究者こそが一流の証だぞ」

 

 少なくとも俺の知っている研究者たちは、分野問わずにある程度の知識を持っていた。だからこそ、他の分野の博士たちとも意見交換が可能になっているわけで、今のソニアのポケモンへのアプローチの仕方では次世代のポケモン博士にはなれないだろう。

 

「………ハチくんに言われなくたって、わたしの知識はまだまだだって分かってるし」

「そうか。自覚があるならそれでいい。あと俺が言えることはオーキド博士、ナナカマド博士、ウツギ博士、オダマキ博士、プラターヌ博士、ククイ博士、ナリヤ博士。この辺りの論文を読み漁って理解しておくことだな」

「うぇ?! ちょ、ちょっと待って! め、メモさせて……!」

 

 一応有名どころを挙げたつもりなんだがな。

 やっぱりあの中にも影の薄い博士はいるのか………。

 

「ねぇ、それだけ名前を挙げられるってことは、アンタはその人たちの論文を目にしてきたってわけ?」

「まあ、全部とは言わないがな」

 

 ジムリーダーの女性は頬杖を突きながら訝しんでくる。

 博士本人たちはアレなのもいるが、研究結果は勉強になることばかりだ。何ならプラターヌ博士の論文には一枚噛んでいるのもある………と、今はまだ発表どころかカロスで再会すらしてないんだったな。

 

「なに? 研究者でも目指してるわけ?」

「いや? 全くこれぽっちも考えたことないな。何なら働きたくないまである」

「ソニア、将来ニート希望のトレーナーに全部負けてるよ?」

「ルリナ、言わないで…………」

 

 およよ、と泣きつくソニアをジムリーダーの女性ーーもといルリナはよしよしと頭を撫でている。

 

「ねぇ、ハチ兄って大学とか行ったの?」

「行ってないな。トレーナーズスクールを一年前倒しで特例卒業して以来、学校というものに足を踏み入れてないぞ」

「ん? それって成績よかったってこと?」

「成績だけはな。授業態度とかそもそも出てないこともあったから評価すらされてないんじゃないか?」

「わたし問題児に負けてるぅ……………」

 

 問題児、だっただろうな。

 けど、それを容認してくれていたヒラツカ先生には感謝しかない。

 ……………だからこそってわけでもないが、あの人はもう俺の中では誰にも渡したくない人である。それを物理的にも精神的にも傷つけたカーツたちは絶対にぶっ殺す。

 

「じゃあ、何でそんなポケモンに詳しいんだよぅ」

 

 ソニアのぶーたれる声で無意識に握り拳を作っていたことに気がついた。

 ああ、今はまだその時じゃない。

 いつか来たる日のためにコネクションを築いていく準備期間だ。

 

「スクールの図書室でよく本を読んでいたからじゃないか? 気になるポケモンを見つけては生息域が近くだと探しに行ってたりもしたし。まあ、ヒトカゲと出会ってからはそれに拍車をかけたのは間違いないな。色々あってリザードに進化して、その後サシでバトルすることになって捕まえられたが、多分そこからリザードと進化後のリザードンのことを勉強する過程で色々調べてた」

「端折ってるけど、絶対その『色々』が重要なんだってぇ………」

 

 まあ、確かに後々その色々ってのにはリザードンの正体やらロケット団やら色んなもんが含まれてくるしな。そうでなくともバトル相手のポケモンがどんな奴なのか知っておかなければ対策も対応もできないということで、一通り目を通しているし。

 あー、そうか。結局は強くなるためだったんだったな。あらゆるポケモンを知っていてこそ、あらゆる局面を乗り越えられる。俺の掲げた理想を完遂するべく勉強したんだっけか。

 それは今でも変わらない。未だに知らないポケモンは山ほどいるし、ヒスイ地方なんていう過去の歴史に埋もれたポケモンもいたことだし、俺の知識なんてまだまだである。多分、ポケモンについては死ぬまで勉強することになるのだろう。

 

「あ、シャクヤ。問24間違ってるぞ。フレアドライブじゃない。高威力とも反動で自分もダメージを受けるとも書いてないだろ」

「え? あ、ほんとだ。じゃあ、炎を纏って加速して攻撃する体当たり技って…………」

「あ、それニトロチャージのことじゃない?」

「あーね!」

 

 横目に見えたシャクヤのプリントの間違いを指摘すると、ソニアが問題を聞いて正解を言い当てた。

 

「…………なによ」

「いや、こういうのは解けるんだなと」

「そりゃ、昔はダンデくんに教えてたくらいだしね。ダンデくんが何でも聞いてくるから、わたしも答えられるようにしてたんだよ」

 

 あー………あいつ自分で調べようもはしなさそうだもんな。そもそもどこを見ればそういうのを調べられるのかも分かってなさそう。多分脳の九割はバトルのことで占められてるじゃないかと思えるくらい。

 

「あのバトルバカの幼馴染は大変だな」

「そう、そうなの! 今でこそ無敗のチャンピオンとか言われてるけど、昔はポケモンのことは好きなくせに知識はからっきしで、しかも方向音痴なくせしてすぐ興味が惹かれた方へと行っちゃうから、探すのも説明するのも何もかもが大変だったんだよ!」

 

 お、おう………。

 なんか前も聞いたような気がするけど、ダンデのことを話す時のソニアってやっぱり生き生きしてるよな。それが例え愚痴だろうと。

 

「………どこか吹っ切れた感じがあると思ったら、彼のおかげだったってわけね」

「へっ?」

 

 ん?

 何突然。

 頬杖をついたまま、ルリナがソニアの頬をつつく。

 

「ん? 気付いてないの? ソニア、ここ三ヶ月くらいで随分と明るくなったわよ?」

「え、そんなに暗かった? 割と明るい性格だと自負してたんだけどなー………」

「表向きわね。ま、無理もないわよ。マグノリア博士の孫でダンデの幼馴染なんて肩書き、私ならごめんだもの。周りからの重圧に耐えられないわ。あんなこともあったわけだし」

 

 あんなこと、とは恐らくソニアのジムチャレンジの時のことだろう。掻い摘んででしか話を知らない俺が口を挟めるような話ではないな。

 

「…………何故はがねタイプの技だけ全部正解してんの?」

「え? あー………親父のせいじゃね?」

「あー………なんか納得したわ」

 

 シャクヤの解答欄を見ていると、所々間違えているところが見受けられるのだが、はがねタイプの技だけは全て正解していた。

 親が元はがねタイプのジムリーダーともなると、幼い内からはがねタイプのポケモンと自然と触れ合う機会も多くなるってやつかね。

 

「そりゃ正直、ハチくんと出会った日は一緒に行動することになったんだけど、おばあさま並みの知識があって嫉妬したよ。次の日にはダンデくん並みにバトルが強くて慄いた。辛くて辛くてついハチくんに当たっちゃったんだけどさ、ハチくんはわたしに世界の広さを教えてくれたの」

 

 そういえば最初に知識は偏ってるかもとは言ってたっけか。

 なるほど、こういう風に目に見えて如実に現れるのか。けど、決して他のタイプの技が分からないわけではなさそうだ。時折見てきたシャクヤの過去のプリントでもそれは明らか。

 あとは技のキーワードというものしっかり身につけていけば、どうにかなりそうではある。

 

「彼に乗り換えたの?」

「いや、それはない。ハチくんには既にお嫁さん候補がたくさんいるみたいだし」

 

 うん、聞かないようにしていたけど、流石に無理だわ。聞こえてくるこっちが恥ずかしい。

 

「なあ、最後まで聞いといてなんだけど、本人ここにいるからね?」

「っ?!」

 

 おい、こいつ忘れてやがったぞ。

 ものの数分で存在を抹消されるってどゆこと!?

 

「うわー、ソニア顔真っ赤………」

 

 恥ずかしいことを口にした自覚はあるのか、ソニアは顔を真っ赤にして机に突っ伏してしまった。

 ルリナさん、めっちゃ楽しそう。こいつ、さてはドSだな?

 

「アンタ、ハーレム王か何か目指してるの?」

「『ハーレム王に、俺はなる!』なんて思ったことねぇよ。………まあ、いろいろとあるんだよ。そりゃ嫁候補がたくさんいるのは否定しないし、何なら全員誰にもやる気もない。けど、もうなんつーか全員で家族って感じなんだよ。だから失いたくない。それだけだ」

 

 ずっと捨ててきた反動なのか、どうも俺を受け入れてくれた彼女たちの中から誰か一人を選べなかった。誰か一人にいて欲しいんじゃなくて、みんながいて欲しい。そう思ったが最後、全員を選ぶという選択肢か思いつかなかったのだ。それに彼女たちも互いに大事な存在になっていたことだし、その関係も壊したくなかった。

 

「………なんかカッコいい感じに言ってるけどさー。結局ハチ兄ってクソ野郎ってことじゃね?」

 

 結局のところ、シャクヤの言う通りであり、俺は英雄でも何者でもない、ただの優柔不断なクソ野郎である。

 

「まあ、そうとも言うな」

「そこは否定しなさいよ」

「いやほんと。俺はクソ野郎だよ。今でもあいつらに心配かけてばかりだし」

 

 しかも現在進行形でまたあいつらに心配かけてしまっているのだ。何なら時間軸さえ飛び越えてしまっているため、どう足掻いたところでなるようにしかならないという悲しい現実しかない。

 

「もしかしたら目の前であんな光景を見せられてトラウマになってるかもだしな」

「「「えっ………、なにしたの?!」」」

 

 つい、イロハのことが心配になりあの時のことを思い出していたら、三人が口を揃えて身を乗り出してきた。

 

「それは言えない」

 

 こいつらまで巻き込むわけにはいかないし、そもそも話すと俺の素性やら何やら全部説明していかないとだから無理だし。

 

「命の保証がなくなる、から………?」

「そうだな。関わったが最後、巻き込まれて殺されるかもな」

「っ!?」

 

 ソニアは何度もこの文言で踏みとどまらせているため、今回の話もそうなのだと理解したようだ。

 

「えっ、なに、どゆこと?」

「ハチ兄、マジでなにしたん?」

「さあな。俺が知りたいくらいだ」

「………怪しい」

 

 それを知らない二人は俺とソニアへ交互に訝しんだ視線を送りつけてくる。

 

「ソニア」

「知らないよ。何かあるってことしか知らない。知ったら命の保証がなくなるってストップかけられてるの!」

 

 何も詳しいことは知らないソニアは必死で弁明している。

 

「………悪いこと言わないわ。自首しなさい?」

「おい、こら。俺を犯罪者だと決めつけんな」

「あ、だからそんな目してるのか」

「シャクヤさん!?」

 

 それが逆に二人のさらなる疑心を掻き立てたのか、慈悲の眼差しで自首を促してきやがった。

 

「ーーー大丈夫だ。お前らが巻き込まれないようにする。もし万が一巻き込まれて標的にされたとしてもちゃんと守るから」

 

 だが、言葉とは裏腹に横にいるシャクヤは見えないように俺の服を摘んでくる。その手からはちょっとやそっとじゃ離そうとしないだろうというのだけは伝わってきた。

 だからシャクヤの頭を撫でて落ち着かせると力は緩み、逆に俺にもたれかかってくる。

 

「ハチくんを狙うって、命知らずな人もいるんだね」

「そうだな。次は必ず取っ捕まえてやるさ。んでもって半殺しにする。正直抹殺したいくらいの感情はあるけど。いや、いっそ抹殺してもいいかもな。あのゴミども」

「あ、うん、なんか狙われる理由分かったかも」

「冗談だぞ?」

 

 本心では殺してやりたいのは山々だが、今日のところはシャクヤに免じて冗談ってことにしておいてやろう。これ以上下手に心配事を与えてしまうのは俺の本意ではないからな。黒い空気が漂わないように気をつけなければーーー。

 

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