ブレイズキックとほのおのパンチによるライダーキック&パンチの特訓を始めて早一ヶ月。
ようやく完成といっても差し支えないレベルにまで達した(というかガオガエンが満足のいくものに仕上がった)ので、実践で試すべく再びジャングルに赴いていた。ここを選んだのも単にガオガエンがジャングルの主にリベンジしたいからって理由だし、場所も相手も誰でもよかったふしはある。ただ、この一ヶ月の入り込み様は多分リベンジに燃えていたからだろう。
まあ、来るに当たって俺も何も調べていないわけではない。爺さんの本棚を読み漁り、やっとのこさで見つけた資料でようやくジャングルの主の正体を暴いてやった。
名はザルード、あく・くさタイプ。ジャングルの奥深くて数十体の群れを作って生活しているポケモンらしい。他の種族に対しては攻撃的なようで、それ故に他のポケモンから恐れられてジャングルの主と呼ばれるようになったんだとか。
あの日も十数頭に取り囲まれたし、実際に襲われたわけだし、攻撃的な性格なのは事実だろう。
それでも知能は高いようなので、ガオガエンをコテンパンにしたあいつみたいに意思の疎通が図れないこともないと見ている。それにはまず拳と拳をぶつけ合うなりしないとダメだろうが………。
「ガゥガ! ガォォォォオオオオオオオオオオオオオオオンンン!!」
約三ヶ月前にザルードと戦ったところに着いた途端、ガオガエンが雄叫びを上げた。
恐らくザルードを呼んでいるのだろう。
あっちはあっちで縄張りに侵入してきたのを察知しているだろうから反応はしてくれるとは思うが…………また集団できたりするのかね。
「………ザッ」
きたか。
待つこと数分。
俺たちの前に黒いポケモンが現れた。
ああ、なるほど。姿形の全容はこんな感じだったのか。
そりゃ確かに暗闇の中を得意とするわけだ。
「ザルゥ……」
なんか威嚇されてるな。
やっぱりあの時の個体じゃ、ない?
「悪いな、ザルード。ガオガエンがあの時のリベンジをしたいそうなんだ。付き合ってもらえないか?」
「ザ………ザルゥゥゥウウウウウウウウウウウウッ!」
試しに用件を伝えるとザルードは雄叫びを上げ始めた。
「ザ!」
「ザ!」
「ザザッ!」
「ザザ!」
「ザッ!」
すると次々と四方八方取り囲まれていく気配を感じる。
これはまずいな………。
恐らく目の前の個体はあの時のではない。あいつは最後ここまでの敵意を見せることはなかった。だが、この集団の中にいないとも限らない。元々俺たち人間とは隔絶した生活をしてきたのだ。それがただの一度ボールに入ったことで人間に好意的になるとも考えにくい。
そう、ガオガエンとバトルしたあいつだけは少なくとも敵意を持たないでいてくれているという俺の願望だ。だからこそ、あいつと他の個体との違いを判断できないのが悔やまれる。
「ガオガエン、一旦あいつとのバトルは諦めろ。どうやら俺たちは未だにこの群れの敵らしい」
あいつに会えるかどうかは分からない。
だが、呼び出してしまった以上、こいつらの相手をするしかないだろう。まず逃してはくれないだろうからな。
幸い、今は真っ昼間。こいつらの得意とする闇夜に溶ける戦い方はできないのがせめてもの救いだろう。
「ガオガエン、後ろは何とかする。視界に入るやつら全員にかえんほうしゃだ」
まずは牽制として前方にいるザルードたちへ向けて炎を吐きつけていく。
まあ、これでダメージを受けるやつなんていないとは思うが。
「ザッ!」
「ザザッ!」
「「ザルゥァァァッ!!」」
今のが開戦の合図になったのか、一気にザルードたちが襲いかかってきた。
「サーナイト、ウルガモス。ガオガエンのサポートを頼む」
「サナ!」
「モス!」
ガオガエンだけでは手数が足りないと思い、サーナイトとウルガモスをサポートにつかせる。
「ダークライ、あくのはどう」
そして俺はダークライに背後のザルードたちの前に黒いオーラで壁を作らせた。
「ザルゥゥゥ!」
すると、一体のザルードが真上から降ってきた。
前方後方だけでなく上からも仕掛けてくるとは………。
「………ザル」
なんだ………?
何故仕掛けてこない?
俺たちの前に着地したザルードはそこから一向に動こうとせず、じっとこっちを見てくるだけ。
「ルァァァッ!」
そんな中、黒い壁をすり抜けて一体のザルードが飛び出してくる。
「ザッ!」
それを目の前にいるザルードが腕から蔦を伸ばして、弾き飛ばしてしまった。
はい………?
どゆこと? 仲間割れ?
「ザルード………、お前は俺たちに味方してくれるのか………?」
「ザルゥ」
どうやらこいつはマジでこっち側らしい。
「ガゥガ!」
「ザルゥ!」
ザルードに気づいたガオガエンも好意的な反応を示している。
「………お前、あの時のか?」
「ザ!」
そうか。
そういうことか。
こいつがガオガエンとバトルしたザルードだったか。
「数は多いが頼むぜ」
「ザルゥ」
「来い、ウツロイド」
協力してくれるということなので素直に甘えておくことにする。
そして、俺はウツロイドを呼び出して憑依させた。最初から白い身体は黒くなり、一回り以上大きくなった第二形態。戦闘モードである。
「ザルァァァ!」
そうこうしている間にザルードたちが突っ込んできた。
パワーウィップ、アームハンマー、タネばくだん、タネマシンガン、アクロバット、つばめがえし。
技という技を携えて四方八方を埋め尽くされる。
『「ウツロイド、ドクヅキ」』
最初の一体の胴に紫色の触手を打ち付ける。
『「デンジハ」』
そしてその後ろからくる二体をでんじはで落として、そいつら三体を触手で掴み上げた。
『「ブンマワス」』
ふと見るとザルードも同士討ちをしていた。
本当にこっち側なんだな。しかも手口を知ってるからか、誘い込み方が上手い。
俺は三体のザルードを振り回して後続のザルードたちにぶつけていった。
『「ヘドロばくだん」』
反撃されないように追撃でヘドロを撒き散らしていくと、じわじわと後退している。
『「………ン? アレハナンダ?」』
すると後方にいる待機組の周りに緑色のエネルギーが充満し、心なし回復しているように見えた。
『回復の隙を与えるな!』
どこからかそんな声が聞こえてきたため、奥にいる回復組に向けてヘドロを投げつけた。
だが、流石にあそこは死守する場所なのか手前のザルードたちが蔦を使ってヘドロを弾き返してくる。
こうなると面倒だな。
集団の利点を上手く利用して、回復しながら永遠に攻撃してくるパターンだ。そうなると回復の術が薄いこちら側が圧倒的に不利になる。それだけは避けなければならない。
さて、どうしたものか。一応タイプ相性では今この場に出しているポケモンたちは全員ザルードに対して有利ではある。だが、回復し続けられて数の力で押し返してこようものなら力負けする。
一発逆転。形勢を一気に逆転させられる方法はないだろうか。
『「ツルノムチカ。アマイナ」』
バトル展開を考えあぐねていると真正面からの攻撃は危険と判断されたのか、俺たちを拘束しようと無数の蔦が伸びてきた。
ザルードとサーナイトはそれぞれ躱し、ガオガエンは巻き付けられながらも逆に蔦を燃やして炎を送り込んでいる。ウルガモスに至っては巻き付けられた瞬間に蔦が燃えていく始末。
あらやだ怖い。一人だけ特に何もしてないぞ。
そして、俺の方はというとーーー。
「ザルゥ!?」
「ザザッ?!」
「ザ、ル……ゥ……」
「ザァァァァァァッ!?」
驚く者、咄嗟に蔓を切る者、意識を失う者、絶叫する者。
巻き付けられた蔓を触媒にしてザルードたちへ毒を注入していくと、各々の反応を見せてきた。
後者二つの反応を示した者はぐったりとしていて、木から落ちる者も見えた。あれではもう戦力にはならないだろう。呆気ないな。
これで半分とまではいかなくともまあまあ減ったか。
『「サーナイト、リフレクターヲツクレルダケツクッテクレ」』
ここからは一気に片付けるとしよう。
サーナイトに無数にリフレクターを作るように指示し、その間に俺はウツロイドにベノムトラップを仕掛けさせた。多分、ウツロイド本来の戦い方はこんな陰湿な感じじゃないだろうけど、相手がくさタイプってのもあって毒を撒き散らしておくに越したことはない。あと最近ヤドランやクズモーも仲間になったことで毒ってめちゃくちゃ便利じゃね? と思ったのもデカい。実際使ってみるとはがねタイプ以外は基本嫌がるし、自分の周りに撒き散らしておけば近づかれることも躊躇われるため、バトル面でも役に立つ。それに加えて本来の毒の効果というシンプルに恐ろしいものもあり、何でどくタイプって毛嫌いされてるんだろうなと思っちゃうレベル。
ムーンの感性は正しかったのかもな。
『「ガオガエン、ザルード。カワラワリデリフレクターヲ、スベテコナゴナニブッコワセ」』
作り出したリフレクターをガオガエンとザルードに粉々に砕かせていく。
パリンパリン割れていき、破片がキラキラと宙を漂う。
これで準備は整った。
『「サーナイトイガイハメヲツブットケヨ」』
サーナイト以外にそう指示を出して、サーナイトと背中合わせで立つ。
『「ウツロイド、サーナイト。マジカルシャイン」』
そして一気に体内から光を放出させていった。
光は宙を漂うリフレクターの破片を伝って乱反射し、二倍三倍の光量と熱量に膨れ上がっていく。
辺りは真っ白に包まれていき何も見えない。
やり過ぎたかな。けど、これくらいしないと反撃されても怖いし。いくら昼間とはいえ、地の利はあちらに有利。ジャングルの主とまで呼ばれているのだ。集団相手に勝てる手を抜いていては勝てる道理がない。
『「………マダイッタイダケタオレナイ、カ」』
白い光が収まると、ドッサリと倒れるザルードたちの中に一体だけヨロヨロと立ち上がろうとしているザルードがいた。
『「シユウハケッシタ。コノサンジョウヲミテモマダヤルトイウノナラ、イクラデモアイテニナッテヤル」』
『………その裏切り者を連れてさっさと消えろ』
『「ウラギリモノ?」』
ん?
え?
会話できてる?
つか、裏切り者って?
『そいつは群れの掟を破り、人間に下った。一度でも人間に下った者は我らの仲間ではない。掟破りの裏切り者は排除されて当然なのだ』
あーね。
こっちにいるザルードのことね。
人間から隔絶した生き方をしてきたこいつらにとって、人間側に付くことは掟破りもいいところなのだろう。
どんだけ人間を敵視してんだって話だが、これだけ身近にポケモンたちが溢れかえっている現代の方が珍しいのだ。こいつらは昔から生き方が変わっていないだけのこと。
と、頭では分かっているものの、この状況でそれを言うのもどうかと思う。捉えようによっては挑発しているようにも見えてしまう。
『「ナラ、イマココデオマエタチゼンインヲ、ボールニイレタラゼンインガウラギリモノニナルッテワケダ」』
『だからこそ、我らは人間を、排除する!』
『「ソレデコノザマデハ、ハナシニナラナイガナ」』
クワッと目を開いたボロボロのザルードがこちらに向かって走り込んできた。
めちゃくちゃ目が血走ってんな。
『「ガオガエン、トドメダ。キレイニキメテコイ」』
俺がそういうとガオガエンは待ってましたと言わんばかりに右足に炎を纏わせていく。そして分身体を作り出し、無数のガオガエンが一気に飛び上がった。上昇から下降に変わるタイミングで一度脚を折りたたみ、右脚を突き出してボロボロのザルードへと降り注いでいく。
うん、やっぱいいよな。ライダーキック。ロマンがあるわ。
逃げ場を失ったザルードは何度もガオガエンの蹴りをくらいそのまま意識を手放した。
これで全滅か。姿が見えたらそれ程驚異でもない? それともガオガエンたちの実力が上がってるからか?
どちらにせよ、マジカルシャインがエグかったのは確かだ。
『「アリガトナ、タスケテクレテ。ナノニカッテニツレダシチマッテ、ナンカワルイナ………」』
『気にするな。聞いただろう? オレは群れから弾かれた身。お前に負けて一度でも捕縛されたのだ。どうせ戻ることは出来ず、ジャングルを彷徨うだけだったところにお前たちが現れた。いい機会だ。オレを連れていけ』
『「イイノカ?」』
『オレは既にお前に捕縛された身だ。まだそのボールとやらは生きているのだろう?』
『「ア、アア。オマエヲサガステガカリニナラナイカトオモッテ、ノコシテアルガ」』
一応何となくで残してはいたが、まさか帰ってくることになるとは………。
というかやっぱり会話できてるな。まさかとは思うけど、憑依した時のウツロイドの機能が増えたとか? 俺たちと一緒にいて言葉を覚えて翻訳できるようになったとか、なんかそんな感じで。
あり得なくはない話だ。ダークライもウルガモスも、リザードンだって人間の使う文字を炎とかで写し出すことは可能だし、それで会話を成り立たせることが可能なのだから、こうやって憑依という新たな形では直接俺とウツロイドが繋がっているようなものなので、そういうことができても不思議ではない。そもそもウツロイドは自分が使える技を俺の脳に直接伝えてきた過去がある。
その特殊性を鑑みればポケモンとの会話を成立させることだってわけないのかもしれない。
『「ウツロイド、カイジョ」』
流石にこの状態ではボールを取り出すこともできないので、ウツロイドに解除させる。
「ふぅ………、んじゃザルード。よろしくな」
「ザル」
解放されてザルードを入れた時のボールを取り出すと、会話かできなくなっていた。
やっぱりウツロイドがいないと無理っぽいな。
再び俺の持つボールへと吸い込まれていくザルード。
結局、俺のところに戻ってきてしまったな。
この島から連れ出していいのか知らないが、本人が着いてくると言ったんだ。大丈夫だろう。
はぁ………これでまた人に見せられない枠が増えちまったな。どうしようか。