ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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60話

「ハチ君、準備はいい?」

「ええ、いつでも」

 

 ザルードを連れ帰ってから半月。

 ガオガエンのリベンジマッチが有耶無耶になってしまったものの、当のガオガエンは肉弾戦の相手役を手に入れたことで上機嫌な毎日を謳歌している今日この頃。

 ミツバさんの提案により、彼女とダブルバトルすることになった。何でもジムチャレンジの最後のジムリーダーはダブルバトルなんだとか。「ハチ君自身は問題ないだろうけど、ポケモンたちはそうでもないでしょ?」という有難いお言葉を添えられてしまえば、受けるしかないじゃないか。

 一応、複数体とのバトルはポケモンたちも経験しているが、あれはあくまでも野良でのバトル。公式バトルともなれば、技の使用制限がかけられる上に相手もトレーナーがいる。それもポケモン巨大化事件の犯人のような雑魚ではなくジムリーダーが。指示の質も違えば策略も段違いである。

 そういう意味では俺は大丈夫でもポケモンたちには不安が残るところだ。

 

「いくよ。ヒヒダルマ、エルレイド!」

「まずはお前たちだ。キングドラ、クズモー」

 

 というわけでのミツバさんとの公式に則ったダブルバトルを敢行するに至ったのだが、今日も今日とて入り浸っている奴が一人………。

 

「ミツバさーん、ハチくんをコテンパンにしちゃってくださーい!」

 

 あいつ何で今日もいるの?

 二日前か三日前くらいに帰らなかったっけ?

 日を置かずしてすぐにまた来るとか、どんだけ暇なんだよ。暇を謳歌しろとか言ったけど、態々道場に脚繁く通わなくなっていいだろうに。

 まあ、一応これでも今回の審判だからな。ミツバさんがそう決めたのだから仕方あるまい。

 

「キングドラ、まずはあまごい」

 

 意識をポケモンたちに戻して、まずはキングドラの特性すいすいを発動させるべく雨を降らせていく。

 

「ヒヒダルマ、キングドラにつららおとし! エルレイド、作戦通りによ!」

 

 攻撃技ではないと分かれば一気に仕掛けてきたか。

 だが、俺もこの島に来て十ヶ月が経つ。ガラルのポケモンについては割と知識を深めてきたつもりだ。何ならガラルのヒヒダルマはイロハが暗殺未遂事件から第二回カロスポケモンリーグ大会の間に新しく仲間にしていたポケモン。真っ先に調べたポケモンの内の一体でもある。

 

「躱せ、キングドラ」

 

 ガラルのヒヒダルマはこおりタイプ。ごりむちゅうという最初に出した技しか出せなくなる代わりに威力が上がる特性を持っており、リージョンフォーム前と同じくダルマモードもあるらしい。イロハのヒヒダルマは特性がダルマモードだったために、炎の雪だるまになっていたというわけだ。

 

「クズモー、えんまくで視界を奪え」

 

 クズモーに黒煙を吐かせてヒヒダルマたちの視界を奪っていく。

 これで今の素早いキングドラであれば、ヒヒダルマたちの背後に回るのも容易である。

 

「キングドラ、ぼうふう」

 

 キングドラは黒煙ごとエルレイドを暴風の渦に呑み込んでしまった。

 

「ヒヒダルマ、キングドラにフリーズドライ!」

 

 被害を免れたヒヒダルマが暴風の渦の前に躍り出てくる。

 

「クズモー、キングドラのカバーだ。みずのはどう」

 

 攻撃される前にクズモーに牽制させたものの、キングドラの体温が急激に冷やされ、くるっと丸まった尻尾が凍りついていく。

 

「キングドラ、ラスターカノン」

 

 このままでは全身凍ってしまう可能性もありそうだったので、技の使用者であるヒヒダルマに向けて反撃を指示した。

 

「ドラ……?」

 

 のだが…………。

 あれ?

 

「ドラ……ドラァァァ………?!」

 

 何故か技が上手く出せなかった。

 突然のことに焦るキングドラ。

 何度試してもうんともすんともしない。

 折角覚えた技なのに何故だ………?

 

「ふふっ、スキルスワップでヒヒダルマの特性をキングドラにあげちゃった♡」

 

 ッ!?

 スキル、スワップ………!

 いつの間に………。

 なら、今のキングドラの特性はごりむちゅうってことか?!

 

「エルレイド、キングドラにサイコカッター!」

 

 事の真相をようやく理解したところで、暴風の渦が真っ二つにされ、そのままサイコエネルギーで出来た刃が一直線に向かってくる。

 

「ズモー!」

 

 クズモー!?

 必死に再思考する俺と指示が飛ばされず身動きが取れないキングドラの前にクズモーが割って入り、水を噴射して刃を受け止めた。

 だが、エルレイドとのパワー差が仇となり、ジリジリと押し込まれていく。

 

「ズモォォォオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 あのままクズモーが受けてしまえば効果は抜群。最悪一発で戦闘不能にされてしまうだろう。

 

「モォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」

 

 それでもここを退くわけにはいかない、とクズモーは身を挺して抗っている。

 すると水は次第に赤と青の竜へと変化し始めた。

 りゅうのはどう………!?

 それにあの光は………!

 

「進化………」

 

 ここにきて、とうとうクズモーの進化が始まった。

 キングドラの三分の一もなかった身体が、キングドラと並び立つまで大きくなっていく。

 

「あらまあ、追い詰めたつもりがクズモーの成長を促しちゃったわね。逆にこっちがピンチかも」

 

 口ではそう言っているものの、ミツバさんはそこまで焦りを見せてはいない。

 

「ヒヒダルマ、つららおとし! エルレイドはサイコカッターだよ!」

 

 すぐに切り替えて攻撃を指示してくる。

 

「キングドラ、ぼうふうで呑み込……っ?!」

 

 はっ?

 何でもうエルレイドがドラミドロの前にいるんだ………?

 

「ドラミドロ、クイックターン!」

 

 急いで指示を出すもエルレイドはまたしても消え、次の瞬間にはキングドラが打ち上げられていた。空を切ったドラミドロはターンすることも出来ず、キョロキョロとエルレイドを探している。

 自身に何が起きたのか理解が追いついていないキングドラに大きな氷柱が降り注ぎ、訳も分からず地面に叩きつけられた。

 俺も反応出来なかった。

 何故エルレイドが急に見えなくなったんだ?

 見えなくなるのなら特性が入れ替わったヒヒダルマの方…………っ!?

 そうか、そういうことか!

 

「ヒヒダルマ、フリーズドライ!」

 

 だが気づいた頃には時既に遅し。

 キングドラの体温が急激に冷やされ、今度こそ動かなくなってしまった。

 

「………うわー、マジか。キングドラ、戦闘不能」

 

 ちょっとドン引きしているソニアの判定が下された。

 ガラル地方をまだちゃんとは理解していない外から来た俺。

 ガラルのヒヒダルマ。

 ダブルバトル。

 そして最初の方で存在感を薄めていたエスパータイプを持つエルレイド。

 それらの材料が合わさって俺はミツバさんの掌で踊らされたというわけだ。

 種を明かせば、ヒヒダルマの特性ごりむちゅうをエルレイドがスキルスワップで自身と交換。ごりむちゅうの効果でスキルスワップしか出せなくなっていたかもしれないが、再度スキルスワップでキングドラの特性すいすいと交換したため、そのリスクも見当たらなかった。逆に密かに行われていた策略に気づかなかった俺とキングドラは、見事術中にハマっていたわけだ。途中でスキルスワップを使ったということを口にしていたが、あれも口調からしてヒヒダルマ自身が使っていたと思わされた。俺の調べが甘かっただけで、もしかしたらガラルのヒヒダルマはスキルスワップが使えるのではないかと。バトル中の迷いは時間の浪費でしかない。

 そしてクズモーの進化という恐らくミツバさんも予期していなかった事態はあったものの、キングドラのお株を奪って自分のものにしていたエルレイドを前に対処する暇さえ与えられなかった。

 強い、というか上手い。その一言に尽きる。

 

「はぁ……今のはしてやられましたね。俺もキングドラも判断が間に合わなかった」

「ふふん、ハチ君とバトルすると決めた時から一泡吹かせる方法を考えてたからね。でも今のは不意を突けたからであってハチ君の実力はこんなもんじゃないでしょ?」

「言ってくれますね………」

 

 狙っていたのは分かるが、ここまで俺の手の内を利用されたのも久々だな。

 ダブルバトルってのもあるし、これはちょっとスイッチを切り替えていかないと本気でまずいことになりそうだぞ。

 

「キングドラ、お疲れさん。悪いな、俺が未熟なばっかりに」

「ハチくんが未熟ならわたしら初心者レベルなんだけど………」

 

 審判が何か言っているが知ったこっちゃない。

 俺は別に完璧超人なわけでもないし、ミスだってする。挑む側から挑まれる側になった時点で常に対策はされるんだし、逆に久しい気分を味わってるようだ。カロスにいた頃はイロハやコマチがいたからな。ユイに挑まれることは少なかったが、それでも挑む側になることは稀だったと思う。ジム戦くらいか? それでも挑んでいるって感覚は薄かっただろう。

 

「………俺でこれなんだからジムリーダーたちはもっとなんだろうな」

 

 そう思うとガラルのジムリーダーたちは常に挑まれる側でありながら、チャンピオンに挑む側にもなっているのか。案外こっちの方が向上心を常に抱えられて、トレーナーとしていいのかもな。

 

「ガオガエン、遠慮はいらん。最初から飛ばしていくぞ」

 

 キングドラをボールに戻して交代にガオガエンを出した。

 今回は実力的にサーナイトとウルガモスは申し分ないので、残りの四体だけでのダブルバトルとなっている。

 

「エルレイド、ガオガエンにドレインパンチ!」

 

 未だ雨が降り続けている中、エルレイドの姿がまた消えた。

 

「ガオガエン、ニトロチャージ」

 

 だが、もう手の内は分かっているため、こちらも素早さを上げてギリギリのところで躱していく。

 

「ヒヒダルマ、ストーンエッジで阻んで!」

 

 躱した先ではヒヒダルマが待ち構えており、地面を叩いて岩々を次々と突き出してきた。

 

「そのままニトロチャージで左に切り替えせ」

 

 軽いステップで左に切り返したガオガエンの脇を岩々が通り過ぎていき、残るのはガオガエンを視線で追うヒヒダルマ。

 

「ドラミドロ、ガオガエンの援護だ。みずのはどう」

 

 一人取り残され気味なドラミドロにも指示を出して、ヒヒダルマの側面から攻撃を加えていく。

 

「ヒヒ?! ヒア……ア〜……ア?」

「えっ、うそ?! 混乱!?」

 

 上手くヒットすると打ちどころが悪かったのか、挙動がおかしくなり混乱し始めた。

 恐らく波導で脳が強く揺さぶられたのだろう。雨で威力が上がっていたのもある。

 ただ、そこで雨が丁度上がってしまった。

 雨雲が切れ、日差しが濡れた地面に乱反射していく。

 

「ドラミドロ、えんまく」

 

 そこへドラミドロに黒煙を投下させた。

 俺の目が辛かったというのもあるが、まずは一体確実に倒すには絶好の機会である。

 

「ガオガエン、ヒヒダルマにブレイズキック」

 

 雨が上がり、エルレイドに奪われた特性すいすいも効果を失い、混乱して状況を理解していないヒヒダルマを狙わないわけがないだろ。

 右脚に炎を纏い高々とジャンプするガオガエン。

 一度身体を小さく折りたたみ、右脚だけを伸ばして黒煙の中に急降下していく。

 ズドン! と炎が破裂し、その衝撃波が黒煙を消しとばしてしまう。晴れたフィールドには黒焦げになったヒヒダルマの姿が。

 

「ヒ、ヒヒダルマ戦闘不能!」

 

 よし、これでイーブンだな。

 

「あらあら、さすがだね。ここに来た頃とは大違い。進化もしてとても成長してるわ」

「そりゃどうも。サーナイトやウルガモスとまではいきませんけど、ガオガエンも強くなりましたからね。特に大きな敗北を味わってからは」

 

 ガオガエンはジャングルの主、ザルードに負けてから一気に成長したように思う。決め技も作り上げ、肉弾戦においても駆け引きを学んだ。ポケモンの技ではない業を倣って戦略に幅も出てきたし、ウルガモス超えをするのも時間の問題だろう。

 

「ヒヒダルマ、戻ってゆっくり休みなさい。いくわよ、エンニュート!」

 

 ヒヒダルマを戻しエンニュートを出してくるミツバさん。

 エンニュートにはヤドランたちが世話になってるけど、まだ一度もちゃんとバトルしたことないんだよな………。

 

「ドラミドロ、エンニュートにみずのはどう」

 

 進化はしたもののみずタイプ系譜であることには変わりないドラミドロをエンニュートに向かわせた。同じどくタイプだしガオガエンを向かわせるよりはいいだろう。というかドラミドロにエルレイドの相手をさせる方が難しいし。

 

「エンニュート、ほのおのムチで落として!」

 

 ええー………。

 ムチって………。

 エンニュートってメスしかいないんだろ?

 女王様感半端ねぇな。

 水を弾丸にして飛ばしたら、まさかの炎で作られたムチにより叩き落とされてしまった。

 

「ガオガエン、DDラリアット」

「エルレイド、インファイト! エンニュート、ドラミドロにどくどく!」

 

 それで思考を止めてしまうわけにもいかないので、ガオガエンにはエルレイドとの肉弾戦に当たらせた。

 

「はっ? いや、どくタイプ………あれ? マジ……?」

 

 そこはよかったのだが、エンニュートの反撃に一瞬「ん?」となってしまい、次の瞬間ドラミドロが猛毒を浴びてしまったのを見てようやく理解した。

 確かエンニュートの特性にはふしょくというものがあり、言葉通りはがねタイプにもどくタイプの技が効くようになる。そこはいい。言葉からも想像出来ることだ。

 ただ、もう一つ。対象ははがねタイプのみではなく、どくタイプにまで及ぶのだ。要するに毒状態にならないタイプにもダメージが入るようになるってことであり、またしても俺のミスだ。

 やっぱりアレだな。あいつらと離れてから鈍ってるな。バトルする回数も減り、誰かに説明する機会も減っている。そうなることで俺もポケモンを見て、情報をまとめ、警戒をするということが緩くなってのかもしれない。

 このままジムチャレンジに参加していたらと思うとミツバさんに感謝だな。

 

「エンニュート、りゅうのはどう! エルレイド、サイコカッター!」

 

 猛毒状態になったドラミドロは集中砲火を浴び、エルレイドと肉弾戦をしていたガオガエンも間に合わず、吹き飛ばされてしまった。

 効果抜群の技を同時に受けて耐えられるわけはないだろう。

 

「………ドラミドロ、戦闘不能。ふしょくって怖っ………」

 

 ふしょくの恐ろしさにソニアまでもが慄いている。

 

「お疲れさん。ゆっくり休め、ドラミドロ」

「ハチくん、なんか手落ちた?」

 

 ドラミドロをボールに戻していると流石にソニアもおかしいと思ったのか、直球で投げつけてきた。

 

「俺のミスが続いているのは認めるが、ミツバさんが上手いってのもある」

「ハチくんがやられてるのなんて解釈違いなんだけど」

「そんな暴言吐かれる方が解釈違いだわ………」

 

 なんだよ、解釈違いって………。

 こういう場合で使う言葉じゃないだろうに。

 まあ、それだけソニアの中での俺は強いイメージなのだろう。

 やだわ、下手に負けられないじゃん。負ける気もないけど。

 

「ヤドラン、トリックルーム」

 

 ボールから出して早々、素早さが反転した空間を作らせ、そこへ四体とも閉じ込めた。

 

「エンニュートにシェルブレード」

 

 鈍足なヤドランの姿が消えて次の瞬間にはエンニュートにバーチカル・スクエアを浴びせていた。

 まだ二刀流の大技は使えないが、四連撃程度なら使えるようになってきたからな。

 

「ガオガエン、エルレイドにアクロバットだ」

 

 間を置かずガオガエンにも指示を出した。

 地面を蹴り上げ、くるくるとバク宙していき、空気を蹴り上げて一気にエルレイドへと突撃していく。

 

「受け止めて!」

 

 そのエルレイドは左腕の刃を伸ばして防御姿勢に入っている。

 何か、狙っているのか………?

 

「エルレイド、ドレインパンチ! エンニュート、ほのおのムチ!」

「ヤドラン、シェルブレードで捌きながらエルレイドにシェルアームズ」

 

 保険としてヤドランに一発毒を飛ばしてもらおうと思ったら、案の定ガオガエンの激突と同時にエルレイドが右の拳を掬い上げていた。

 その左腕に毒を浴び、緩んだ防御姿勢によりバランスが崩れ、ガオガエンの勢いに呑まれて弾き飛ばされていく。

 

「ガオガエン、トドメだ。ブレイズキック」

 

 地面に炎を走らせて、その炎を右脚に凝縮していくと、地面を蹴り上げて両脚を一度折りたたみ、右脚だけを前に突き出して急降下していった。

 さっきとちょっと演出が違う。気分の問題だろうか。

 

「エルレイド、戦闘不能。なんかガオガエンのブレイズキックって独断だね」

「ジムチャレンジでは受けよさそうじゃないか?」

「あー、確かに。こういうパフォーマンスは有りかもね」

「ゆっくり休みなさい、エルレイド。………ここに来た頃は可愛いニャビーだったのに、こんなに逞しくなっちゃって」

「そうっすね。ガオガエンとヤドランは結構成長したと思いますよ。逆にキングドラとドラミドロはまだまだこれから成長の余地がありますし、どんな方向性にも向けられる」

 

 ニャビーはもちろんヤドランも俺がここに来て日が浅いうちに仲間になったからな。キングドラやドラミドロよりは成長幅が激しいのも当然といえよう。

 

「そうだね。ハチ君なら、彼らをちゃんと導けると思うわ。それじゃ、最後のポケモン。いくわよ、トゲキッス」

 

 げっ!

 ミツバさんも白い悪魔を連れていたのか。

 どうか特性がてんのめぐみじゃありませんように。そうでなくとも耐久性もそれなりにあるから、やりにくいことこの上ないというのに。

 

「ヤドラン、シェルアームズ」

 

 フェアリー・ひこうタイプのトゲキッスにはどくタイプの技は効果抜群。ただし不用意に近づくと何されるのか分からないので、初手は毒を砲撃するに留めた。

 

「トゲキッス、ひかりのかべよ! エンニュートはかえんほうしゃ!」

 

 だが、それもあっさりとひかりのかべにより防がれてしまう。

 その横をエンニュートが抜け出し、ヤドランに炎が飛んできた。

 

「躱せ」

 

 まだトリックルーム下であったため容易に躱すことは出来たが、これが切れた時が怖いな。

 

「ガオガエン、かえんほうしゃ」

「トゲキッス!」

 

 次が来ないように炎で牽制させるとミツバさんがトゲキッスをボールに戻した。

 するとボールが巨大化していく。

 ああ、そりゃ当然か。爺さんの一番弟子でもミツバさんが使えないわけないわな。つか、初日というか二日目にそんな会話したような気もする。

 

「大きくなーあれ、ダイマックス!」

 

 片手で投げられた巨大なボールから巨大な白い悪魔が現れた。

 うん、怖い。

 巨大な真顔が差し迫ってる感じがあって超怖い。

 

「トゲキッス、ダイジェット!」

 

 大きく空気を吸い込んでいくトゲキッス。

 嫌な予感しかしない。

 

「ガオガエン、ヤドランの後ろに回れ。ヤドランはひかりのかべだ」

 

 トリックルームの壁があるとはいえ、どうなることやら………。

 

「ギィィィイイイイイイイイイッッッスゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 吸い込んだ空気を一気に放出する白い悪魔。

 キングドラのぼうふうが可愛く感じるレベルのそれは、トリックルームを破壊し、あまつさえひかりのかべさえパリンパリン割っていく。

 エグいエグいエグい!

 ダイマックス技にそんな効果なかっただろ!

 何でトリックルームもひかりのかべも壊されるんだよ!

 ただ、その二枚の壁のおかげでガオガエンもヤドランも吹き飛ばされてはいない。ギリギリ耐えられたようだ。

 相棒を組むエンニュートはしっかりとトゲキッスの真下に避難している。あいつずるすぎだろ。一番遠い俺の身も危険に晒されてるんだからな!

 

「もう一丁!」

「ギィィィイイイイイイイイイッッッスゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 待て待て待て!

 ガオガエンたちに指示出してる余裕がないんですけど!

 俺自身が吹き飛ばされそうなんですけど!

 

「ふぉ!?」

 

 今一瞬身体浮いたぞ!

 股間が一瞬ヒヤッとした。

 つか、俺でこれならガオガエンたちは…………?

 

「あ…………」

 

 しっかり吹き飛ばされてますね。

 しかも地面に跳ね返った上昇気流に呑まれて打ち上げられている。

 

「ガオガエン、ヤドラン! DDラリアットとシェルブレードでそのまま回転してろ!」

 

 取り敢えず回転しておけば多少は軽減されるだろう。そう願うしかない。

 

「最後にもう一発!」

「ギィィィイイイイイイイイイッッッスゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 やっぱり白い悪魔は巨大化しても白い悪魔だわ。

 いや、最早魔王と言っても差し支えないだろう。

 白い暴風の魔王。

 うん、なんかしっくりくるわ。

 

「ようやくか」

 

 三度ダイマックス技を使ったことにより効果が切れて、元の大きさに戻り始める白い悪魔。

 

「エンニュート、トゲキッスが立て直すまでかえんほうしゃで牽制よ!」

「ヤドラン、エンニュートをサイコキネシスで抑えろ。ガオガエンはその間にDDラリアットだ」

 

 その間にエンニュートを先に倒すべく、空中でヤドランに超念力でエンニュートを押さえつけさせて、ガオガエンにそのままDDラリアットで突撃させることにした。

 あっちはあっちでトゲキッスの態勢が整うまでエンニュートで耐えるつもりだろう。

 戦いはトゲキッスの態勢が整うまでのほんの数秒間。

 

「ガゥガゥガァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 なんかこれでもかってくらい回転してんな。

 さっきのダイジェット三連発にガオガエンも怖かったんだろうな。今片方だけでも倒してしまわねば、あの白い悪魔は危険だと、そう感じているのだろう。

 変な態勢で撃たされたエンニュートの炎を回転することにより弾き飛ばしながら、エンニュートに突撃した。

 

「トゲキッス、エアスラッシュ!」

 

 エンニュートが弾き飛ぶと同時にエンニュートの脇から無数の空気の刃が降り注いでくる。

 DDラリアットの回転により空気の刃は地面に叩きつけられていくが数が数である。

 全てを弾き落とせるわけもなく所々にダメージを受けていった。

 

「………エンニュート、戦闘不能。…………審判って大変なんだね」

 

 位置的に逸れてはいるものの、ソニアも吹き飛ばされそうになっていたのだろう。

 いや、ほんと。ガラルの審判たちには感心するわ。ダイマックス技が飛び交う中でよく仕事をしていられるな。

 

「エンニュート、戻って。トゲキッス、しんそく!」

 

 くそっ、あの人このまま続行する気かよ!

 ダイジェット三連発の後に休みなしとか、対処するこっちが保たないわ。

 

「ガゥ!?」

 

 エンニュートをボールに戻すと、白い悪魔が間髪入れずに懐に入られ、ガオガエンは「く」の字に身体を折り曲げながら白い悪魔に押し込まれていく。

 

「ヤドラン、トリックルーム」

「そのままはどうだんよ!」

 

 だからエグいって!

 身動きが取れない状態のガオガエンに超至近距離で波導の弾丸が撃ち込まれた。というかチャージすらガオガエンの腹に隠れて見えなかったからね。

 

「ヤン!」

 

 ただ、何とかヤドランの横を通り過ぎる直前に再度トリックルームが完成し、部屋の中に侵入した瞬間に急加速していたトゲキッスの動きがまるで止まっているかのようになった。

 

「シェルアームズ」

 

 まずはガオガエンを助けるべくヤドランに右側から左腕のシェルで殴りつけさせる。

 トゲキッスから解放されたガオガエンは、そのままトリックルームの壁に激突した。

 

「立てるか、ガオガエン?」

「ガ、ゥ………」

 

 無理そうだな。

 意識がまだあるだけでも奇跡的だ。

 

「ヤドラン、連続でシェルブレードだ」

 

 意識をヤドランに戻し、トゲキッスが起き上がる前に連続で斬りつけていく。

 バーチカル・スクエア、ホリゾンタル・スクエア、バーチカル・スクエアと計十二撃。

 

「トドメのシェルアームズ」

 

 最後に左腕のシェルで殴りつけてトドメを刺した。

 

「あー………トゲキッス、戦闘不能! よって勝者ハチくん!」

 

 …………ふぅ、危なかった。

 マジで白い悪魔が怖すぎる。

 しかもミツバさんのバトルは、何というか上手い。別に弱いってわけではないのだが、ダンデ程の強さを感じないのにここまで追い込まれるなんて思いもしなかったわ。

 よく見ているというか、強かというか。バトル中に心理戦も仕掛けられている感覚だった。

 

「お疲れさま、トゲキッス。ゆっくり休みなさい」

「ガオガエン、ヤドラン。よくやった。今はゆっくり休め」

「………結局ハチくんが勝っちゃったか」

「何だよ、俺に負けて欲しかったのか?」

「べつにー」

 

 ソニアは何故か俺が勝ったことにぶーたれているが、あなたがミツバさんとしたら確実に負けるからね?

 ポケモンたちの実力はマチマチとはいえ、やり方次第では互角に渡り合えるだろう。ただ、その指示を出すトレーナーの力量差が圧倒的に開いている。

 というかこんなに翻弄された気分のバトルはいつ以来だろうか。

 

「お疲れー、はっちん。ミツバちんにも勝っちゃったのねん」

「師匠………やっぱり見てたんすね」

 

 ここの門下生たちは人のバトルを観戦するの好きだからな。師匠が率先して俺のバトルは見せようとしてるし、今日も見られてるんだろうなと思っていた。

 

「これでワシちゃんもようやくはっちんとのバトルに臨めるよん」

 

 おっ?

 ということは実はこのバトル、爺さんからの試験だったり?

 

「もうしばらく先にはなるだろうけど、はっちんも心しといてね」

「うす」

 

 そうか………ようやく爺さんとバトル出来るんだな。

 ミツバさんでこれなんだ。爺さん相手は相当骨が折れることだろう。

 戦略、立てておかないとな。今日の反省も含めて、これから忙しくなりそうだ。

 

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