ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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61話

 ミツバさんとのバトルから一ヶ月が経ったある日。

 何故か俺はガラル本土へと上陸していた。

 二度目の上陸もよく分からないままとか………。

 

「おばあさま、連れてきました」

 

 理由も言わずに俺を連れ出したのは、ここ数ヶ月道場に入り浸るようになったソニアである。

 遂に俺は拉致られたのだろうか。

 だが、理由が分からん。

 俺を拉致ったところで大金があるわけでもないし、拉致ってるのがソニアだから犯罪臭はしないし…………おっと? これまで通い詰めていたのも俺にそう思わせるためだったとか?

 手段としてはあり得るな。

 あるいはソニア本人にはその意思はなくとも利用されている可能性だってある。

 急展開だが国際警察としての仕事が舞い込んできたか………?

 

「初めまして。私はマグノリア。ソニアの祖母です」

「はぁ……ども」

 

 どこかよく分からない村? に連れてこられて、村の南側にある森の前に一人の壮年の女性がいた。

 そうか。

 この人がソニアの婆ちゃんか。

 …………ん?

 ソニアの婆ちゃん?

 それって………。

 

「何故マグノリア博士がここに?」

「申し訳ありません。ソニアに理由を説明させないまま、島から連れ出してしまい………」

「それはまあ、ソニアなんで」

 

 嵐のように来て嵐のように去っていくソニアだからな。今回も拉致られたかとは思ったが、その犯人がソニアな時点でいつも通りなんだろうとは思っていたさ。

 

「実はここ最近、この森の奥に強力なポケモンがいるという噂をよく耳にするようになりまして。半年程前からチラホラと耳にするようにはなっていたのですが、その噂が広まり続けて、そのポケモンを倒す或いは捕まえようとこの森に足を踏み入れるトレーナーが増えているのです」

 

 そう、いつも通りの面倒事。

 

「それが、何か?」

「この森は見ての通り立ち入り禁止の立て札があるくらいには有名な立ち入り禁止区域でして、それを破って侵入して返り討ちに遭い、慌てて森からトレーナーが逃げる被害が連日発生しているのです」

 

 言われて初めて知ったわ。

 そりゃこんな堂々と策をしてたら何かあるんだろうなとは思っていたけどよ。策なんかしたところで飛び越えていけるんだし、あってないようなものだろ。

 

「ですので、一度この森の調査を行うことになったのですが、私たちの実力ではそのトレーナーたちと同じ結果にしかならないと判断し、実力のあるトレーナーを探していました」

 

 ほうほう。

 つまり俺は用心棒的な役割ってことか。

 それ、俺でなくても他にいただろ。ダンデとか。

 

「ダンデくんやジムリーダーたちも候補には上がったんだけど、みんな忙しくてさ。何の役職にも就いていない実力者はいないかってことで、ハチくんに白羽の矢が立ったの」

「立てたのはお前だろ」

「あ、分かる?」

 

 こいつ………。

 そもそも俺のことを知ってる奴なんて数えるくらいしかいないんだぞ。

 絞れないわけがないだろうに。

 

「いや、他に候補に名前を出すような奴いないし」

「ソニアからはあなたの話を聞いていましたので、実力は申し分ないと判断しました。こんな急な話ではありますが、ご協力頂けないでしょうか?」

「まあ、もうここに来ちゃってますから、それはいいんですけど………なに? ソニアって俺のこと品定めしてたの?」

「違うよ! 偶々だよ! 偶々こんなことになって自由に行動出来そうなのがハチくんしか思いつかなかっただけだよ!」

「本当か………?」

 

 あれだけ入り浸ってると逆に品定めされてたのではと思えてならないんだが…………。

 

「あなたはバトルだけでなくポケモンの知識も豊富だと聞いています。今回の調査には打ってつけだと私も判断した次第です」

 

 はぁ………なんかいいように動かされてる気がするなー………。

 ソニアがそんな器用なことできるとは思えないし、意外とこの婆さんが腹黒かったりしてな。理由を説明させないまま連れてくる時点で、ちょっと不審に思うのは当然だと思う。

 

「そもそもここ立ち入り禁止区域なんですよね?」

「ええ、今回は特別に許可を得ていますので、その点に関しては大丈夫です」

「いや、そうじゃなくて。それも大事なことですけど。ここが立ち入り禁止区域にされた理由は? 聞いても?」

 

 俺がそう言うとマグノリア博士とソニアが目を合わせる。

 そしてソニアの方が口を開いた。

 

「………その、昔から霧が立ち込めていて危険な上に、何かがいるって噂されているの」

 

 ………ん?

 

「強力なポケモンがいるって噂されてるんだよな? んで、昔から何かがいると」

「うん……」

「その何かがその強力なポケモンのことじゃねぇの?」

 

 というかそうとしか考えられないだろ。

 昔から何かがいて最近になって強いポケモンとバトルして追い返されるトレーナーが続出してるなんて、どう考えても同じポケモンってことじゃねぇの?

 

「そう、かもしれないし、そうじゃないかもしれないの。だから調べないとって」

 

 何とも歯切れが悪い。

 一体何があるっていうだよ。

 

「因みに二人の個人的な意見は?」

「恐らく別物かと。勘でしかありませんが」

「わたしも別物だと思う。あまり人前で言えた話じゃないんだけど、わたしも小さい時に森に入って怒られたことあるから。もっとおどろおどろしい雰囲気だった。それにこの森での今までの被害はどれも霧の中迷って気づいたら寝ていて、起きたら霧が晴れていて一目散に逃げてきたとかそんな感じなの。でも最近の被害はポケモンに襲われている。こんなこと今までなかったと思うんだ………」

 

 なるほど、これまでの被害と最近の被害とでは被害状況が異なるときたか。

 それもソニアは前者を体験済みなため、余計に違和感を感じるのだろう。

 

「………分かった。調査には行く」

「ほんと!?」

「ただし、俺一人でだ」

「えっ……?」

 

 これは調査する必要がありそうだ。

 だが、どちらの話を検証しようとしても強いポケモンが出てくるのは必須。

 それをソニアとマグノリア博士の護衛しながら、しかも深い霧に覆われているかもしれない森の中でバトルになったら、いくら俺でもどうしようもないだろう。

 なら、一人で行った方が断然動きやすい。

 

「理由は簡単だ。そんな危険な場所に二人を連れて守り切れる自信がない。俺一人ならまだ何とかなるだろうが、戦闘になったら二人の面倒までは見ていられないはずだ」

「でも………」

「ソニアは知ってるだろ。俺がどういうトレーナーか」

 

 多分、いきなり連れてきて一人で調査させるのは気が引けるのだろう。だから調査くらいは自分たちでと思っていたんだろうが、状況が思った以上によくない。

 危険区域とはまさにその通りかもしれないまであるのだ。

 ここは奥の手を全て使ってでも一人で行く方が安心出来るってもの。

 

「………おばあさま。ここはハチくんに任せましょう。着いていっても足手纏いになるのは明白です。それに実力はダンデくん並みだけど、問題への対処能力はハチくんの方が上だから」

 

 ソニアも俺がどういう人間なのか思い出したようで、しぶしぶとはいった感じではあるものの、マグノリア博士を説得するように動いてくれた。

 

「………というかさ、その強力なポケモンと戦った奴が結構いるんだよな?」

「うん」

「ポケモンの名前とか言ってなかったのか?」

「それがガラルでは見たことないポケモンってことしか………。写真を撮った人もいたみたいだけど、全部ぼやけてて何が写ってるのかも判別出来ないんだって」

 

 ……………それはもうアレだな。

 幻のポケモンとかいるようなところだろ、ここ。

 

「そうか……」

 

 取り敢えず、ソニアたちが想像しているポケモンよりももっとヤバいのがいるってのは確定だろう。

 だからこそ、昔からここは立入禁止区域に設定されていたってところか。

 

「んじゃ、行ってくる」

「気をつけてね」

「何かあれば至急ソニアに連絡を入れてください」

 

 さて、行きますか。

 俺は二人に背を向けて鬱蒼とした森の中に足を踏み入れた。

 森の中は入った途端薄暗くなり、冷んやりとした空気に包まれる。

 話にあった深い霧はまだ発生していないが、それもまだ入り口だからだろう。

 それにしても…………。

 

「道が綺麗すぎやしないか?」

 

 立入禁止区域に指定されているみたいだが、それにしては道がはっきりとしている。平坦な道であるため階段とかはなさそうだが、登山道と言っても差し支えはない。少なくとも獣道のように道なのか怪しいということは全くない。

 誰かが手入れしているとしか思えないのだが、立入禁止区域に入れる特例でもあるのだろうか。

 そもそも立入禁止なら道も必要なのか怪しいまである。

 これじゃ不法侵入しても無事に奥にまで辿り着けてしまうわな。

 

「あるいは態と黙認しているとか………?」

 

 怪しい。

 そもそも何がいるのかも分かっていないのに立入禁止区域に指定するとかあり得ないだろ。

 逆に定期的に忍ばせることによって、言い伝えを残せるようにしてきたとか………?

 誰も立ち寄らなければいつしか忘れ去られた森になるだけだろうからな。その可能性もなくはないだろう。

 でも道があるのはまた別の話だ。森に足を踏み入れるくらいなら、道はなくとも何とかなるはずだ。ここまでくると道なりに行けば何かがあると言っているようなものではないか。

 

「橋まであるし………」

 

 しばらく歩いていくと川があり、橋がかかっていた。

 昔の名残、というには些か綺麗である。

 

「人工物なんだよなぁ………」

 

 橋を渡り川を越え、そのまま道なりに進んでいくと、ようやく道が右に曲がっていた。単調な直線だったのがここにきてようやくの変化である。

 そのまま右に折れ、ぼちぼち歩いていると今度は分かれ道があった。

 さて、どっちにいったものか。分かれ道ともなると帰り道で迷う原因でもある。しかもここは初めて来た森。適当に進んでいては帰られなくなるだろう。

 よし、取り敢えず分かれ道は全て左へいくとするか。何もなかったらここまで戻ってきて今度はずっと右にいくようにするとかしていけば、何かは見つけられるだろう。

 というわけで一つ目の分かれ道を左に折れる。

 するとまたしても分かれ道になったので、これも左に。

 そして道なりに進むと右にカーブしていて、その先でまた分かれ道になった。

 何となく、何となくだがこれを右に曲がるとさっきの分かれ道に出そうな予感がする。

 なんて考えながら左へ折れると、すぐにまた分かれ道となった。これも左に折れるわけなのだが、左へ行くとここからでも分かれ道が見えている。どんだけ枝分かれしてんだよ。

 左、左と二度曲がり道なりに進んでいくとまた右にカーブしていた。

 方角を戻されてる気分だな。

 ただ、その先で左に曲がるとこれまでとは打って変わって直線になっていた。心なしか霧が出てきているような気もする。

 あ、左側には川もあったのか。さっき渡った川だろうか。道が蛇行していたからか川が蛇行しているのか、どちらにせよ、迷ったらこの川を頼りに道なき道を進むのも手だな。

 そのまま薄暗い森を突き進んでいくと、急に開けた場所に出てきた。

 川はそのまま大きな池となっており、道の先には祠のような………少なくとも何かの儀式で使われそうなものがある。道はそこで行き止まりのようだ。

 ………なるほど、立入禁止区域なのに道があったのはあの祠の参道だったってわけだ。

 ふと、気配を感じて祠をよく見ると凭れ掛かる何かがいた。

 

「………カイ?」

 

 俺たちに気付いたのか顔を上げるとーーー。

 

「ーーージュカ、イン?」

 

 見知ったポケモンがいた。

 黄緑色の身体にシダ植物のような尻尾、クールな佇まい。

 

「カイ?! カイカイカイカイィィィッ!!」

 

 あれ?

 まさか襲われる?

 いや、違う。この反応、俺知ってるぞ。身に覚えがある。いや、でもそんなわけ…………。

 

「ぐふっ?!」

 

 ハチマンはジュカインに押し倒された。

 

「………お前、俺のジュカインなんだな?」

「カイ!」

「そうか。そうか………!」

 

 ………………生きてた。ジュカイン、生きててくれたんだな。

 あ、でも今は過去にタイムスリップしている状態だから………いや、この時期はまだホウエンのトウカの森にいたはずだ。だからこんなところにいるのはあり得ないし、あり得るとしたらやはり…………!

 

「生きててくれて、ありがとな」

「カイ!」

 

 よかった、本当によかった。

 ジュカインを見つけ出すと誓った矢先に俺も暗殺されかけてそれどころではなくなってしまっていた。どうにか生き延びて帰ってきてからも問題は山積していて、あろうことかこんなタイムスリップまでして………。

 正直、まだ大々的に動けない今、時が経つのを待つしかないと思っていた。

 それなのにこんな巡り合わせがあるとか………マジ泣きそう。

 

「お前、どうやって生き延びたんだ? アクジキングに喰われただろ? 助け出してくれた奴でもいるのか?」

 

 そう聞くとジュカインは首を横に振った。そして火の玉を出して文字を浮かび上がらせてくる。

 いや待て。お前その技術までものまねで習得したのか?!

 

「えっと、『アクジキングニノミコマレタケド、クチノナカニクサデアミヲハッテ、ヤリスゴシテイタ』………マジか。んで、『ジリキデメガシンカシテ、イクドトナクスイコマレソウニナッタノヲタエヌキ、ツイニウルトラホールガヒライタカラ、クチノナカカラトビダシテミレバ、ウルトラホールカライキオイヨクトンデキタクロイナニカニブツカリ、メガサメタラココニイタ』か……」

 

 すげぇな、こいつ自力で脱出してきたのか。

 なのに、こんなところに飛ばされてあまつさえタイムスリップまでくらって………。

 やっぱり俺のポケモンだからかね。身に降り注ぐ危険も似たようなものじゃねぇか。

 そう言えばテッカグヤをウルトラホールに押し込んだ際、アクジキングがいてそこから勢いよく緑色の何かが飛び出してきたような…………。

 しかもあの時の俺はウツロイドの第二形態、すなわち黒色だ。

 

「………すまん、ジュカイン。その黒いのってのは俺かもしれん」

「カイ?」

「あの後、俺も何やかんやあったんだが、ウルトラビーストのテッカグヤってのをウルトラホールに押し返す事があってな。その時にウツロイドを憑依させてたんだ。色は黒。んで、俺もウルトラホールに入ったんだ。そこでアクジキングと出会した。その時口の中から勢いよく緑色の何かが飛び出してきて真っ逆さまに落ちていってイッシュ地方にたどり着いたんだ」

 

 多分、あのまま口から飛び出してウルトラホールから現世に戻れば帰ってきましたーって終われてたんだと思う。それが俺とぶつかってしまったがために今に至るのだろう。まあ、俺も同じことを言えるんだが。

 

「ああ、ちなみになんだが、ここはガラル地方だ。恐らく俺たちはお互いにぶつかりウルトラホール内で正規のルートから外れて別々の場所に降り立ったんだと思う。しかもタイムスリップっていう時間移動付きでな。今はあの時から約二年前だ。お前はどのくらいここにいたんだ?」

「『イチネンクライ』、そうか。俺もタイムスリップして一年くらい経つ」

 

 やはり同じように落ちたため、同じ時間にタイムスリップしたのだろう。ただし方向がバラバラだったために地点もバラバラになったってわけだ。

 推測でしかないが、恐らくこんなところだと思う。

 

「さて、帰ろうか」

「カイ。カ、カイ」

「ん?」

「『ココノマモリガミタチニオレイガシタイ』? やっぱりいるのか」

 

 もしやとは思っていたが、やっぱりいるのか。

 伝承と噂、それぞれ違うポケモンであり、伝承がその守り神たちであり噂がジュカインだったってことで確定だな。

 あ、ということはこの祠がその守り神たちを祀るためものってことか。

 

「………なんか霧が濃くなってきてないか?」

 

 すると急に霧が濃くなり、世界が段々と白くなっていく。

 何が起こるか分からないので二人して立ち上がり辺りを警戒する。

 

「クォォォン」

「グォォォン」

 

 ッ?!

 

「ジュカイン」

「カイ」

「そうか」

 

 隣に立つジュカインに短く聞くと首を縦に振った。

 そうか、この二体が守り神なんだな。

 何つー登場の仕方だよ。

 

「ありがとな、ジュカインとの再会の場に使わせてくれて。おかげで俺たちは再会できた」

 

 ルガルガンよりも大きく、それぞれ青とピンク、青と赤が入り混じった身体の見たことのないポケモンに頭を下げた。

 すると二体は音もなくスッと消え、すぐに霧も晴れてしまった。

 

「今度こそ帰ろうか」

「カイ」

 

 祠にもう一度頭を下げて、その場を後にした。

 ちなみに森を出てからマグノリア博士に報告はしたものの、何故か絶句するソニアから質問攻めにあったのは言うまでもない。

 あ、それとあの守り神たちのことはジュカインに秘密にしてくれと言われたので、詳細は話さなかったぞ。多分守り神たちにそういと言われてたんだと思う。

 何はともあれ、一つ肩の荷が降りてよかった、よかった。

 

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