『もう一バトル、ワシの余興に付き合ってくれぬか?』
爺さんのその一声でフルバトルが終わっても何故かもう一バトルだけさせられることになった。
いや、てか、えっ、七体目ってこと?
「………何が目的で?」
「言ったじゃろう? 『本当はルール無用くらいにはしたいが、ハチをジムチャレンジに送り出すための儀式みたいなものだから、公式のルールに則ってやる』と」
「………まあ、言ってましたね」
「今のはそのためのバトルじゃった。だが、ワシは今のバトルでハチの実力を引き出せたとは思っておらぬ。だから、今度はルール無用のバトルをやろうって話じゃよ」
ギラリと光るその瞳には何か企んでいるようなものだった。
「つっても七体目っすよ?」
「いるじゃろう? お主にも。七体目と言わずに」
ああ、なるほど。
狙いはこれか。
どこの誰から聞いたのだろうか。
いや、最初から何かいるのは気づいていたか。
だとしてもそいつらは人前で出せないって理解してたと思うんだがな。
となるとその後に仲間になった奴か?
ジャングルの主、ザルード。元々この島にいるのを爺さんは知っていた。なら、その気配も知っていたとしたら、身近にいるのを感じて俺の手持ちにいると推測していてもおかしくはない。
まあ、何にせよ人前で出すわけにはいかないけどな。
「はぁ………分かりましたよ」
だからと言ってこの申し出を断るわけにもいかない。
それはそれで観戦している門下生たちに、見せられないポケモンを連れていると確信を与えてしまう。
それならやはりここは伝説のポケモンでもない七体目を出すしかないだろう。
丁度俺としてもこいつの今の実力を見てみたかったところである。爺さんなら相手として不足ない。
「ハチ! 今なお研ぎ澄まされてゆく、ワシの強さに見惚れるなよ! いでよ、ウーラオス!」
「今のお前の実力、俺に見せてくれよ。いくぞ、ジュカイン」
一ヶ月前に再会したジュカインはまだちゃんとバトルをしていない。ジュカインが本気を出せば、今のメンツでは誰も手がつけられなくなる。恐らくサーナイトでも、だ。だからジュカインの今の実力を知るためにも相手を探していたわけなのだが、どうせ一ヶ月先にはジムチャレンジが控えているのだし、本土に行ったらカブさんかピオニーのおっさんとでもバトルしようかな、なんて考えていたところにこの提案である。
「ジュカイン………?」
「何すか? 想像してたのと違いました?」
爺さんはジュカインが出てきたことに少なからず驚いていた。
「ふははははっ! やはりお主はワシの予想の斜め上に裏切ってくれる! ハチ、そのジュカインはサーナイトより上じゃな?」
「ええ、上ですよ」
こっちとしては爺さんがウーラオスを二体連れていたことに驚きだけどな。
恐らくさっきのがかくとう・みずタイプの連撃の型だったから、こっちのはかくとう・あくタイプの一撃の型なのだろう。本当に見分けがつかん。
「上等じゃ! いくぞ、ウーラオス! ストーンエッジ!」
ご挨拶と言わんばかりに地面を叩き、地面から岩々を突き上げてくる。
「ジュカイン、躱してリーフブレード」
これくらいならば余裕で躱せるぞ。
ひょいひょいと躱したジュカインは素早い動きでウーラオスとの距離を一気に詰めた。
「迎え撃て、ウーラオス! ほのおのパンチ!」
右腕の草のブレードを叩きつけると同時に、ウーラオスの炎を纏った拳で受け止められてしまう。
ジュカインは左脚を軸にくるっと一回転し、今度は左腕の草のブレードでウーラオスを斬りつけた。
「ローキック!」
少し立ち位置をスライドされたウーラオスは地面を踏み込み左脚でジュカインの足下に滑り込んでいく。
「躱してくさむすび」
それをジャンプで躱し、そのまま後転して距離を取ってから、地面にエネルギーを送りつけた。
するとウーラオスの足下から蔦が伸び、ウーラオスの身体に絡みついていく。
「ッ?! これがくさむすび、じゃと!?」
「連続でグロウパンチ」
両手脚を拘束したところに、ジュカインは開けた距離を一気に詰めて連続で拳を打ち付けた。
「ウーラオス、DDラリアットで抜け出すのじゃ!」
身体全体に力を込めて蔦を千切り、高速回転でジュカインの拳を弾き距離を取っていく。
無防備な状態で威力は低いと言えど効果抜群の技を何度も受ければ、それなりのダメージになっていることだろう。何なら攻撃力が上がる効果もある。威力はそれだけ上乗せされているはずだ。
「ストーンエッジ!」
そのまま地面を叩きつけて、地面から岩々を突き上げてきた。
動きと技の組み合わせは流石と言えよう。
だが、何度も似たような動きをされると面倒ではある。
ここはいっそ思いっきりやった方が爺へのインパクトも強くなるであろう。
「ハードプラント」
ジュカインが地面を叩き、太い根を次々と掘り起こしてストーンエッジを粉砕していく。
「究極技じゃと!?」
それだけではなく、そのままウーラオスを包囲するように太い根が襲いかかっていった。
「あんこくきょうだで地面を叩くのじゃ!」
すると激しい衝撃波が生まれ、襲いかかる太い根を弾き飛ばした。中には千切れた根もある。
「ベアク!?」
だが、ジュカインの本命はそこではなかったようだ。
どんなもんだとウーラオスが身体を起こした瞬間に、ウーラオスの足下から太い根が現れ、真上に突き上げた。
爺さんが究極技を知っていたことには驚きだが、そんな技をフェイントを入れながら使うジュカインは結構ヤバい気がする。
「ウーラオス!」
無防備に真上へ突き上げられたウーラオスは爺さんの掛け声にハッとなり、落下する身体の向きを変えて受身を取って地面を転がっていく。
流石武闘家。
そういうところでの身体の使い方はやはり上手い。
「よもや究極技を覚えているとは………」
「俺としては究極技を知ってることに驚きですがね」
「………チャンピオンを引退してから世界中を旅したのじゃ。それでカントーへ渡った時にどこかの島でそんな話を聞いただけじゃよ」
どこかの島って………。
あの婆さんがいるのはナナシマの内の2の島だったはず。
案外、婆さん本人から究極技について聞いたのかもな。習得出来るポケモンを連れていかなかったため、話だけで門前払いされたってところが濃厚か。
「なら、こういうのはどうっすか? ジュカイン、かげぶんしん」
拘束からの連続攻撃、究極技ときて、次へ手数で仕掛けてみようと分身を作らせた。
うん、量がエグい。
「………、ウーラオス!」
異様な数の分身に何かを決心した爺さんが、徐にウーラオスをボールに戻した。
そして腕のリストバンドからエネルギーが送られ、ボールが巨大化していく。
「巨大な拳となりて目前の敵を挫け! キョダイマックス!」
投げ出されたウーラオスは先程のとは違い身体は黒かった。あくタイプは黒、みずタイプは青ってことなのだろう。
「キョダイイチゲキ!」
そしてすぐに巨大な拳が振り下ろされてくる。
「ジュカイン、メガシンカ」
俺は迷わずメガシンカさせることにした。
「ジュカァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
俺が持つキーストーンとジュカインのスカーフに付いているメガストーンが共鳴し、全ての分身が虹色の光に包まれ、巨大な拳諸共ウーラオスを呑み込んでいく。
なるほど、かげぶんしんと合わせることでメガシンカエネルギーを広範囲に広げることも出来るのか。
これは一つ勉強になったな。
ただ、まあ………これでもダンデのリザードンの炎をどうにか出来るとは思えないんだよな…………。
やっぱりあいつらは異常だ。
「ものまねでハードプラント、ブラストバーン、ハイドロカノン」
追い討ちをかけるようにものまねで究極技の三位一体攻撃を指示した。しかも分身が数え切れないくらいいるため全方位から三位一体の技が飛んでくるという始末。
「な、に………ッ?!」
まあ、もちろん爺さんは驚いているが、本気を出せと言ったのも爺さんだ。
ものまねに無限の可能性を見出したジュカインを出したんだから、これくらいはしてやらないと。
「ウーラオス、ダイウォールじゃ!」
咄嗟に防壁を張られたが…………おかしいな、段々ヒビが入っていってるぞ。
「目を潰せ、ものまねでマジカルシャイン」
それでも一応防壁としての役割はしているため、その間にこちらに攻撃を仕掛けてくることも考えられた。なので、ジュカインにウーラオスの巨大な身体を駆け上らせ、目の前で身体から光を迸らせた。
「ラァオォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッッ!?!」
超近距離で、しかも巨大化したことで目もデカくなっているため、受ける光の量はエゲツないものになっただろう。
「………ものまねだとしてもじゃ! 何故ワシらが使っていない技ばかり使える?!」
あの爺を以ってしても最早何がなんだか分からなくなっている。
爺さんの反応に観戦している門下生たちもザワザワとし始めた。
「ウーラオス、全てを押し潰すのじゃ! キョダイイチゲキ!」
よく分からない。だが、全て消し去ってしまえば脅威はなくなる、と判断したのだろう。
「躱せ」
巨大な拳が地面に叩きつけられ、足下から突き上げられるような強い衝撃が上昇気流のように立ち昇り、次々と分身を消し去っていく。
ただ、今ので時間切れとなり、ウーラオスが元の大きさへと戻り始めた。
それを見ながらジュカインは音もなく俺の前に戻ってくる辺り、こっちに飛ばされてからのこの一年、あの森で随分と鍛え上げられたみたいだ。
三巨頭とは言っても、ゲッコウガもジュカインもリザードンには………というのが正直なところではあったが、ここまでくるとジュカインも負けず劣らずリザードンの域までいっているように感じられる。
まあ、ゲッコウガも次会うまでにはその域に達してそうだが。
「やどりぎのタネマシンガン」
ひとまず、大きさが戻った瞬間にやどりぎのタネのタネマシンガンを打ち付けておいた。
「DDラリアットで弾くのじゃ!」
案の定、DDラリアットで弾き飛ばされたものの、地面に飛び散るとタネから芽が伸び蔦となり、ウーラオスを巻き上げていく。
「ラ、ラァ? アグゥ!?」
「宿木?! ッ、そういうことじゃったか!」
「ハードプラント」
気付いたところに申し訳ないが、この絶好の機会を逃す手はない。
ジュカインは地面を叩きつけて太い根をウーラオスに向けて走らせた。
「まもる!」
しかし、寸でのところでドーム型の防壁によって弾かれてしまった。
「今の内にほのおのパンチで焼き尽くすのじゃ!」
その防壁の中ではウーラオスが拳から炎を蔦に走らせ、身体に絡みついた蔦を焼き切っていく。
「リーフストーム」
防壁を壊すために尻尾を切り離して、鋭利の効いた先を回転させながらウーラオスへと飛ばした。
「尻尾が千切れるじゃと?!」
パリン! という音と共に防壁は壊され、ウーラオスは上半身を後ろに晒して何とかジュカインの尻尾を躱す。
「シザークロス」
「ベアク!?」
丁度後ろに晒したことで上空からジュカインが降ってくるのが見えたのだろう。
「上じゃ! あんこくきょうだ!」
上半身を起こす勢いを利用して、黒い拳がジュカインの身体を受け止めた。
それどころか弾き返してしまったのだから、あれを無防備に食らったが最後一発で気を失うレベルだろう。
流石一撃の型。ハードプラントの太い根も衝撃波でぶった斬られてたからな。
「今の内にビルドアップ!」
「かげぶんしん」
ジュカインとの距離が離れた内にウーラオスは攻撃力と防御力を高めていく。
こちらも着地と同時に分身体を増やしていき、ウーラオスを取り囲んだ。
「ものまねで三位一体攻撃」
そして三種の究極技で四方からウーラオスを狙い撃ちにしていく。
「地面に連続であんこくきょうだじゃ!」
そのウーラオスは両拳を何度も地面に叩きつけ、凄まじい衝撃波は生み出し、三位一体の攻撃を食い止め始めた。
あれ、ひょっともすると衝撃波で相殺されちゃうんじゃないか?
ジュカインと視線を交わすと、大ジャンプしてウーラオスの真上へと移動した。衝撃波を生み出してるのが両拳だから、ウーラオスの真上が一番影響少なそうなんだよな。
「それ全部囮っすよ。ジュカイン、でんこうせっか」
そのまま一気に落下していき、ウーラオスの背中にダイブしていく。
衝撃波が弱まり、究極技にウーラオスは呑まれていった。
もちろんジュカインはギリギリのタイミングで抜け出して、俺の前に戻ってきているがな。
恐ろしい身のこなしだわ。
「………ウーラオス戦闘不能! よってこの勝負の勝者もハチ君!」
ふぅ………。
余興とは言っていたが、普通に強かったと思う。
ジュカインだからこんなに余裕で戦えていたが、これがガオガエンたちだったら負けていただろう。それくらいあの黒い拳の一撃は半端ない。
「…………参った。まさかこれ程とは…………分身体が皆違う動きをしたり、ものまねでこちらが使っていない技を使ってきたり、剰え究極技を三つとも使ってくるなぞ、ワシの想像を遥かに超えるバトルじゃった…………」
「そりゃどうも。俺も師匠のおかげでダイマックスにはかげぶんしんで全方位囲めば何とかなりそうなのが分かりましたよ」
「それが出来るのはお主だけじゃよ………」
あと目を狙うのも手だということもね。
「さて、ものまねの種明かしをしてもらおうかな」
うおっ!?
急にいつもの調子に戻るなよ!
変わり身早くて心臓に悪いっつの。
「………聞きます?」
「ワシちゃんちょー聞きたい。みんなもちょー期待してるよん? ほら」
促されて道場の方を見やると門下生たちがキラキラした目でこっちを見ていた。
「俺のジュカインはくさタイプの技を自分が覚えられるものはコンプリートしちゃったんすよ。んで、ものまねを習得してからはあらゆるくさタイプの技を、とか言ってる間にものまねの可能性を見出しましてね。くさタイプの技をコンプリートするだけの記憶力を活かせば、ものまねであらゆる技を再現出来るのではないかと。ただそれだけです」
「「「「……………………」」」」
あー、やっぱりか。
皆絶句してやがるわ。
そりゃそうだろうよ。
「はっちん、ジムチャレンジ頑張ってねん」
あ、これもう聞かなかったことにしてるな。
爺ですらお手上げかよ………。
こうして俺の卒業試験的なものは終わった。
* * *
それから一週間程の後、とうとうジムチャレンジ開催当日がやってきた。
見送りには爺さんとミツバさん、それに門下生たちが集まっている。
「はいこれ、この前ワシちゃんの余興に付き合ってくれたお礼のプレゼントだよん」
「………なにこれ」
最後に手渡されたのは何かの布………?
広げてみるとガオガエンの顔をそのままマスクしたものだった。
肌触りは悪くない。
「ガオちんになりきれるマスクを作ってみたのよ。ジムチャレンジに推薦するとはいえ、はっちんは人前に立つの苦手でしょ? だからこれを被れば顔を見られなくて済むよん」
「いや、これはこれで超目立つでしょ………」
「はっちんの実力なら遅かれ早かれ目立つのは当然。なら、目立ち方を考えた方がいいってわけよ」
なるほど…………?
いやでも目立つのには変わらないし…………。
というか目立っちゃダメじゃね? 今の俺って………。
まあでも、推薦者が推薦者だからな。バトルする前から目立つ可能性は大いにある。
「………ソニアの時のようにはならないように?」
全く一緒というわけではないが、バックに有名人がいる。それだけで目立ってしまうのはソニアの件で大人たちも学習したのだろう。
これは多分俺への気遣いなのかもしれない。
「………ワシちゃんのせいではっちんに危険な目に遭ってほしくはないからね。マグノリアちんもそれで後悔してたのよ………」
当人は自覚してるのかは分からないが、それもあって孫からコンプレックスを抱かれているんだしな。ついでにあのバトルバカも。
「んじゃ、有り難く使わせてもらいますよ。でも知りませんよ? こんなの付けて出てルール違反とかになったら」
「それは大丈夫だよん。推薦書にちゃんと書いておいたから」
「マジかよ。抜かりねぇな、この爺さん」
でもこれで運営側はどうにかなるだろう。
あとは他のチャレンジャーないし観客か。
どういう反応になるのやら………。
「ハチ君、頑張ってね! 応援してるから! いってらっしゃい!」
「はっちん、頑張ってねん。いってらっしゃい」
「「「ハチさん、頑張ってーっ!」」」
「うす、行ってきます」
鎧島に来て早一年。
特に待っていたわけではないが、ようやく俺のジムチャレンジが始まりを告げた。