ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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7話

 俺も参加してからどれくらい経っただろうか。

 サーナイトも随分とバトルの感覚を掴んで来ている。

 今はクレセリアによる忍耐力のトレーニングとなっているのだが、これがまた酷いというか何というか。文字通りただただ技を浴びて耐えるだけ。攻撃を受けても怯まないようにするためらしいが、見てるこっちが辛くなって来る。しかもこれに関しては俺は要無しなため観戦側に。

 

『「ハア………、ダークライ。ツギハドウスルツモリダ?」』

「ライ」

 

 お?

 んん?

 あ、ちょ………、身体が…………。

 ダークライさん? 何故俺にサイコキネシスを使った?!

 ウツロイド、すまん。何かよく分からんことになったわ。

 

「しゅるるるー」

 

 どうやら痛みはないらしい。攻撃するつもりではないみたいだな。

 ああ、よかった。マジで焦ったわ。

 んじゃ何が目的なんだ?

 

「ライ!」

 

 あ、勝手にリュックが開きやがった。まさかダークライの仕業か?

 

「ライ………ライ………、ライ!」

 

 何か発見したみたいだな。

 言ってくれればリュックを出したのに。おにびが使えるでしょ、あなた。

 

『「………ンデ、ナニヲミツケタンダヨ」』

 

 ウツロイドも目的が分かったらしく、素直に従っている。

 ちゅぽんと取り出して来たのは黒い菱形のクリスタル。

 

『「アー、ブラックホールノヤツネ。オマエニモラッタヤツジャン」』

 

 最終兵器を止めるためにダークライに渡されたもの。ダークホールをブラックホールに変えて撃ち出されたビームを吸収したという過去がある。というか超今更だけど、なんかZクリスタルに似てね? 当時の俺はZ技なんてものを知らなかったから気づかなかったが………いや、まさかな。

 

『「ンデ、ソレヲドウスルツモリダ?」』

「ライ」

 

 ん?

 サーナイトがどうかしたか?

 …………まさかサーナイトに使わせる気なのか?!

 

「ライ」

『「ナンダヨ、コノテハ………。コタエガワカルマデマッテロッテカ?」』

「ライ」

『「ヘイヘイ、キナガニマチマスヨ」』

 

 どうやら黒い菱形のクリスタルをサーナイトに使って何かを企んでいるみたいではあるが、今は俺にもそれ以上教える気はないらしい。

 まあ、別にダークライだし悪いようにはしないだろう。ダークライ自身、機を伺っているのだろうし、俺がとやかく言えることではない。ただ、俺にもいずれ役割が振られる、というかトレーナーとして最後の仕上げをやらされるのは既定事項だろうな。あくまでコイツらのスタンスはサーナイトを育て上げた上で俺がコントロール出来るようにするって感じだし。

 

「………いいのですか、あれ。あなた、トレーナーでしょう?」

 

 ふと、目が合ったアオギリに声をかけられた。

 

『「サーナイトガヤルトイッタンダ。ソコニオレガイエルコトハナイ。ミトドケルマデダ」』

「痛々しいったらありゃしねぇ」

『「ホウエンチホウヲダイサイガイニミマワセタ、チョウホンニンタチノコトバトハオモエナイッスネ」』

「オレたちも別にあれを望んでいたわけじゃねぇ。ポケモンたちの環境を考えればこそでやった結果がああなっちまっただけだ」

『「ポケモンヲ、アマクミルナッテコトッスヨ」』

「そうですね。我々も肌で体感しましたよ、それは。ポケモンのことはポケモンがどうとでも出来る。人間は介入するなと。そう言われた気分です」

『「カイニュウスルナトハ、イッテナイデショ。アサハカナチシキダケヲタヨリニスルナト、オレハソウイッテルトオモウゾ」』

「だといいがな」

 

 当時の状況など俺が知る由もないが、大災害とまで言われるくらいの世界ニュースだ。下手をすれば世界が傾く、そう言った学者もいたくらいだし、当事者の二人は死をも覚悟しただろうな。

 

「ライ!」

「リア?」

「サナ?」

 

 おっさん二人と暇を持て余していると、ダークライがサーナイトたちの方へと行っていた。

 どうやらこれからのことを話すつもりらしい。

 果てさて、何が起きるのやら………。

 

「ライライ」

「リア、レヒ」

「サナ?」

「ライライ」

「レヒレヒ」

「サーナ!」

 

 うん、何を話しているのかはさっぱり分からん。分からんが、サーナイトが二体の説明を納得したようだ。

 するとダークライは先程の黒い菱形のクリスタルをサイコパワーで三体の中央に移動させていく。

 

「ライ」

「リア」

 

 師匠二体は頷くと黒いオーラと虹色のオーラを中央のクリスタルへと向けて放ち始めた。

 

「おいおい、あいつら何を始める気だ?」

『「サア? オレニモサッパリ」』

「大丈夫なんでしょうか………」

『「ダークライタチノヤルコトダ。メッタナコトニハナランダロ」』

 

 ダークライたちのやることにいちいち心配していては話が進まない。これもサーナイトを強く育て、俺を現実世界へ還すために必要なことなのだと受け取っている。それに事前にサーナイトには説明をして納得をした上での行為だ。何かあってもサーナイトが死ぬようなこととかにはならないはずだ。

 それよりも心配なのは、サーナイトがどこまで強くなってしまうのかだ。俺にもサーナイトの力をコントロール出来なくなるとかという懸念ではなく、サーナイトもあの三巨頭に匹敵するような力を手にしてしまうのではないかということだ。もしそうなってしまえば、いよいよ以って俺のポケモンたちは皆が皆伝説級の仲間入りをしてしまうことになる。あの可愛い笑顔で相手を甚振る姿でも想像してみろ。末恐ろしくて称わない。逆に俺はどうすればいいのか困り果てるレベルだ。

 

「サナー!」

 

 まあ、そんなことは微塵も思ったことがないであろうサーナイトは、クリスタルの周りに半球だけ結晶が出来ていっているのに目を輝かせている。

 え、ほんとに何をするつもりなのん?

 

「ライ」

「サナ! サーナーナーナーナーナー!」

 

 すると、今度はサーナイトが自身の力を注ぎ始めた。ピンク色というか淡い紫色というか、そんな色のオーラ。時折、淡い黄緑色も見えている。恐らく数色に渡るアレがサーナイトのオーラなのだろう。覚えておこ。

 

「サナー、サナー、サナー!」

 

 これはでんじは、引いてはでんげきはを放つ時の応用だろうか。一定間隔で力を注ぎ込む技法がここで役に立っているとは………。

 超どうでもいいことなのだろうが感慨深い。それだけサーナイトは中身も成長している証である。

 

「サナナー! サナナー! サナナー!」

 

 段々と送り込む力が強くなっていくに連れて、クリスタルを覆う結晶の残りの半球が生成されていく。

 完成形は球体ってことか?

 しかもダークライたちの力だけでなくサーナイトの力まで必要とするものとは…………分からん。そもそもポケモンにこんなことが出来るなんて初耳だ。目から鱗ものである。これだけで論文一つ出来ると言っても過言ではない。

 

「サーナー、ナァァァーッ!!」

 

 最後の力を振り絞るかのように強烈なオーラが結晶となっていく。

 

「ーーーサナ」

『「ア、オイ!? サーナイト!」』

 

 と、ここでプツンと糸が切れたようにサーナイトが膝から崩折れた。俺は反射的に駆けつけてみるものの、如何せん何が起きているのかを理解していない。サーナイトが力を出し過ぎて倒れた。それだけである。

 

『「………フウ、イシキヲウシナッタダケカ」』

 

 呼吸を確認してみるとスースーと寝息のように落ち着いている。身体の熱も奪われていない。逆に熱いくらいだ。だが、顔色が悪いというわけでもない。総じて、力の入れ過ぎでスリープモードに入ったと言ったところか。

 あー、焦った。

 

「リア」

『「タブン、チカラヲソウトウツカッタンダロウ。カイフクヲタノメルカ?」』

「リア!」

 

 駆け寄って来たクレセリアも心配している様子。

 どうやらこれは想定外だったらしい。

 クレセリアの首下を触れながら回復を頼んでいると、後ろでおっさんたちの驚愕した声が木霊していく。

 

「おいおいおい! マジかよ!?」

「これは、驚き……ですね………!」

 

 声に釣られて俺も振り返り、二人の視線の先を追うと、ダークライが最後の仕上げと言わんばかりに出来上がった球状の結晶を回転させていた。

 陶芸よろしく轆轤回しによる艶出しってか?

 つい最近………とも言い難いが、クチバジムで対峙したタマナワを思い出す………はっ?

 これは………俺の目が、おかしくなっている……の、か?

 螺旋状に絡み合う淡い紫色に淡い黄緑色。そしてそれを覆う黒っぽいバックカラーに迸る光。

 アレはどこからどう見てもーーー。

 

『「ーーーメガ、ストーン?」』

 

 だよな?

 え? ちょっと待って?

 まさかダークライはあの黒い菱形のクリスタルをコアにメガストーンを生成したっていうのか?

 しかもサーナイトが力を注ぎ込んでいたということは、それ即ちサーナイトのためのもの………。

 

『「サーナイトナイト、テカ………?」』

 

 いやいやいや、待て待て待て。

 一旦落ち着こう。深呼吸だ。

 えーっと、まずあの黒い菱形のクリスタルはダークライが最終兵器を吸収するために、ダークホールを強化するのに使ったものだった。要するに、それだけの力があのクリスタルには含まれていたと断定出来る。そこはいい。

 次に、あのクリスタルはどこぞのZ技とかに使われてそうな形をしていた。これは断定出来ないが、技の強化という点では合致する。

 その次だ、次。問題なのはここからである。ダークライとクレセリアがあのクリスタルをコアに力を送り込み、半球だけ結晶を生成した。そして残り半球をサーナイトが力を注ぎ込むことで完全なる球状へと生成されていった。つまりはサーナイトが二体分の力を使って、結果倒れた。

 なるほど………、まあ倒れた理由は何とか説明がつく。だが、あの球状の結晶は何だ? どこからどう見てもメガストーンにしか見えないぞ? そんなことってあり得るのか?

 

「ライ」

 

 気付けばダークライが作業を終えていた。

 完成、したみたいだな。

 

「ライ」

『「ダークライ」』

 

 俺の方へ来たかと思えば、ダークライが徐にメガストーンらしきものを差し出して来た。艶々じゃねぇか。

 

『「………ソウイウコトデマチガイナイ、ノカ?」』

「ライ」

 

 答えを探るように尋ねると、ダークライは俺のある一点を指差した。見下ろすとズボンのポケットが光っているではないか。

 もはや疑う余地もない。キーストーンに呼応しているということは、これは正真正銘メガストーンである。しかもサーナイト自ら造り出した一級品のサーナイトナイトだ。

 

『「ナンテモンヲツクリダシテルンダヨ………」』

 

 全く、ダークライたちにはしてやられたわ。

 よもやメガストーンを造り出すなんて誰が想像出来ただろうか。

 そりゃ、今後俺も必要になって来るわな。それを否定しなかったのはこういうことだったのか…………。

 はあ…………、こりゃこれから大忙しだな。サーナイトが目を覚ましたら、まずは褒め称えてやろう。

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

「………サナ?」

『「オ? オキタカ」』

「サナ!」

『「オツカレサン。ブジニカンセイシタゾ」』

 

 事前説明でメガストーンを生成することは知っていただろう。だからこそ乗り気だったとも言える。

 逆にダークライもクレセリアもどこであんな技術を会得して来たのだろうか。確かに、ホウエン地方に残るメガシンカの伝承だけでは説明不十分なことは多々あった。ただ、それは流星の民だけに伝える秘匿内容なのだとばかり解釈していたが、そうとも限らないのかもしれない。

 

「サナー!」

『「ヨクガンバッタナ、サーナイト。タオレタトキニハオドロイタガ、モノガモノナダケニナットクハイッタヨ」』

 

 起き上がって抱きついて来たサーナイトを受け止めて、頭を撫でながら褒めちぎる。

 いや、ほんとよくやったよ。あんなもん、一生に一度見られるかどうかの代物だぞ。

 

『「ダガ、メガストーンヲツクッタトイウコトハ、タイヘンナノハコレカラダゾ? リザードンヤジュカインミタイニコントロールデキルヨウニナラナイトダカラナ」』

「サーナナー」

『「アア、オレモモチロンイッショダ」』

 

 まあ、ダークライからしたらようやく始まったというところだろう。今までの特訓はサーナイト自身を強くし、メガストーン生成に必要な力の蓄積とそれに耐え得るための身体作りであり、これからが本番。メガシンカをモノにしなければここから出るということも叶わないだろう。

 そして、サーナイトは他の奴らよりも習得に時間がかかると思っている。リザードンやジュカイン、何ならコマチのカメックスたちなんかは生まれてからそれなりの時間を経過していた。対してサーナイトはまだ生まれてそう経っていない。一年………二年は経ってないだろう。そこを踏まえると暴走のリスクも他のポケモンたちよりも数段高くなっているはずだ。俺はそこをしっかりと見極めて慎重にメガシンカの力に慣らさせていく必要がある。

 一応、ダークライもクレセリアもいることだし、もし暴走したとしてもどうにかなるだろうが、その場合サーナイトの心の方が心配である。失敗したということと力に呑まれたという恐怖に苛まれて潰れないか、俺の最優先事項だ。

 

「ライ」

『「サーナイトナラメヲサマシタゾ」』

「サナ!」

 

 ダークライが近寄って来たので、サーナイトが起きたことを伝えた。すると俺の方をじっと何かを訴えてくる。

 

『「………モウワタセッテカ」』

「ライ」

『「ハイハイ」』

 

 どうやらさっさとメガストーンーーサーナイトナイトを渡しておけと言っているらしい。そんな急ぐようなことでもないだろうに。

 

『「サーナイト、コレガオマエガツクッタメガストーン、サーナイトナイトダ」』

「サナー!」

『「ダイジニスルンダゾ。コレガオマエノアラタナチカラヲヒキダスコトニモナル。ソレト、モドッタラキレイナアクセサリーニモシヨウナ」』

 

 リザードンもジュカインもアクセサリーというか装飾品にメガストーンが付いている。ヘルガーには流石に溶かされてしまうと大変なために尻尾に巻きつけてあるし、ボスゴドラは装飾品が逆に邪魔になるようなので角の隙間に入れてあったりする。まあ、どいつもこいつも何かしらの付け方をしているため、リザードンやジュカイン寄りのサーナイトも装飾品に付けて身に付けておくのがベストだと考えている。

 それとサーナイトも女の子だ。綺麗なアクセサリーとかにも興味を持つだろうしな。その一つとして現実世界に戻ったら用意することにしよう。

 

「サーナナー!」

 

 それにしてもこの喜びよう。やはり自分で造り出した物には愛着が沸くのだろう。

 

「ライ」

『「………ワカッテルヨ。タダ、アノヨロコビヨウダ。モウスコシスキニサセテヤッテクレ」』

 

 ダークライはすぐにでも次の特訓を始めたいのだろう。だが、サーナイトがあの様子だ。目を覚ましたばかりでもあるし、もう少し休憩ってことでもいいと思う。これまでもサーナイトは頑張って来たんだ。これくらいのご褒美はあってもいいだろ。

 

「しゅるるるー」

『「ナンダヨ、ウツロイド。オマエモメガストーンガホシイノカ?」』

「しゅるるるー」

 

 急に身体をぎゅっと絞めて来るウツロイド。

 ウルトラビーストもあのメガストーンが気になるらしい。

 

『「ワルイケド、アレハサーナイトセンヨウノシロモノダカラナ。ウツロイドニハワタセナインダ。マア、カエッタラオマエニモアクセサリーヲプレゼントスルヨ。ソレデテヲウッテクレ」』

「しゅるるーるるー」

 

 ………また一つ、表現増えてません?

 いいことだけどよ。ウルトラビーストも生き物である。言葉が通じない分、感情表現を豊かにしてもらえた方がこちらとしても有り難い。そういう点で見れば、ポケモンは感情表現が豊かだからこそ人間と共存出来ているのかもしれない。言葉は通じないが表情や身振り手振りなど多種多様の表現法を会得しているため、俺たちも何とか理解出来るのだ。

 本当にポケモンは人間の上位種だわ。なのに、人間製のモンスターボールに入れられて持ち運ばれるというのは立場が逆転しているように思えて来る。それだけ科学の力は下克上してしまう威力があるってことか。恐ろしいわ………。

 

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