ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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66話

 さて、ジムチャレンジの開会式も終わったことだし、これからどうしようか。

 どうせ今から最初のジムがあるターフタウンってところに向かったところで、着いた頃には同じ考えの挑戦者たちが挙って集まっているだろう。それに初っ端から仮面を付けたトレーナーが出てきたら注目の的になるだろうし、その後に続く挑戦者たちに申し訳ない。下手したら一つ目のジムに挑戦しないままジムチャレンジを辞退する子供たちも出て来かねない。

 となると………。

 やはりここはしばらくのんびりとエンジンシティ周辺を満喫している方がいいだろう。

 そもそも俺エンジンシティにすら来るの初めてなんだし。

 なんて考えながら歩いていると、いつの間にかエンジンシティの南門にまで来ていた。ジム前のゴンドラに乗って大通りを南に歩いてただけなんだけどな。

 それにしても、だ。

 …………………………。

 

「何この階段。何段あるわけ?」

 

 だだっ広い階段は軽く百段はあるんじゃないかと思えてしまう。

 過酷と言われているワイルドエリアを抜けてきてやっとエンジンシティに着いたと思ったら、これってことなのか?

 絶対ワイルドエリアよりも過酷だろ!

 

「おい、救援はまだなのか!?」

「やっとジムチャレンジの開会式が終わったところだ! カブさんたちだってそう簡単には出て来れないって!」

「くそ! 何でよりにもよってこんな日に!」

 

 どこかで見たことのある格好をした人たちが慌てた様子で連絡を取り合ったりしていた。

 何だっけ、ワイルドエリアスタッフとか言ったっけ?

 俺も一着貰ってるしな、忘れ物らしいけど。

 

「ワイルドエリアで何かあったのか?」

 

 思い出されるのは半年以上前の巨大化ポケモン大量発生の件。

 ダンデが慌てた様子で鎧島に来て、俺も駆り出されたからな。

 ただ、あの時の犯人は捕まえた。

 いや、違うな。あの犯人は鎧島でも同じようなことをして捕まえたんであって、同一犯ではなかったんだった。俺は捕まえただけで、後のことは国際警察なりガラルの警察なりに放り投げていたが………ということはあの時の犯人はまだ捕まっていないってことか?

 取り敢えず、状況をこの目で確かめないことには動きようがない。

 ………………降りなきゃいけないのか、この地獄の階段を。

 

「チ・ヨ・コ・レ・イ・ト………六段降りただけじゃ全然変わらねぇな」

 

 さてさて、マジで何段あるのやら。そして降り切るまでに何分かかるのやら………。

 想像しただけで憂鬱である。

 辟易しながらも心の中で段数を数えながら降りていく半分降りたくらいで息が上がった。

 

「…………ふー………、つら…………」

 

 マジで何なの。

 多いってもんじゃねぇぞ。

 何が悲しくてこんな階段を降りないといけないのだろうか。

 

「あ………マジか…………」

 

 そりゃそうか。こんだけ長いのだ。スカートを穿いていればどう考えてもパンチラするわな。

 うん、見なかったことにしよう。白かった。うん。

 そもそもいつ作られた階段なんだろうな。現代でこんな長さはいろいろと問題の種になると思うんだが………。

 

「さて、もう一踏ん張りしますか」

 

 決してパンチラに元気をもらったわけじゃない。

 うん、こんなところで立ち止まっててもしょうがないからな。

 それにしてもガラルの人たちは皆この階段慣れてるんだな。

 俺よりも遥かに速いスピードで駆け降りたり、駆け登ったりしている。年寄りでもないのにこのスピードだと却って目立ちそうだ………。

 

「………ふぅ」

 

 ようやっとの思いで階段を降り切ると、ちょっと解放感を味わえた。これ、マジでただの修行路だわ。こんなのをこれから登ったり降りたりしないといけないのかと思うと憂鬱になってくる。筋肉痛は確定路線だろう。

 

「皆さん、道を開けて下さい!」

 

 すると後ろから雪崩れ込むように人が降りてきた。

 うわー、すげぇ…………マジか………ダダダッ! て感じで降りてるよ……………。広いからぶつかることはなさそうだけど、ついつい身体が避けるように道を開けてしまう。

 って、あれジムリーダーたちじゃん。

 

「「あっ」」

「………さーて、どこ行こうかな」

 

 やっべ、今一瞬ダンデやルリナと目が遭っちまったよ。

 

「ダンデ、ゴー!」

「ハチーッ!」

 

 ルリナの指示を受けたダンデが悪い顔を浮かべて俺に飛び掛かってきた。

 逃げる!

 

「グォン!」

「くっ……」

 

 ダンデから逃げようとしたらリザードンに前に立たれて逃げ場を失った。その一瞬で背後にはダンデがドヤ顔で仁王立ちしている。

 

「…………なんだよ」

 

 くそ、逃げられなかったか………。

 どうする………?

 絶対面倒事に巻き込まれるぞ?

 

「おい、何やってんだよ、ダンデ」

「戦力の調達だぜ!」

「はぁ? そんなその辺にいたような奴を取っ捕まえてどうすんだよ。一般トレーナーだけじゃなくてワイルドエリアのスタッフたちでも手に負えないからって言われて招集されてんだぞ?」

 

 ほれ見ろ。

 やっぱりそういうのじゃねぇか。

 よし、ダンデがキバナに意識を向けている今の内に………。

 それにしてもダンデ、ルリナ、カブさん、メロンさんとマクワ、それにキバナか。一人ジムリーダーじゃないし、ジムリーダー全員がいるわけでもないのか。

 

「キバナ君、今は人手があった方がいい。去年もそうだったでしょ?」

「カブさん、けどよぉ………」

「大丈夫だよ、彼は去年のあの時にもいたから」

「えっ………マジ? あ、まさかダンデが連れて来た助っ人の奴?」

「そう」

「んな偶然………」

 

 そろりそろりと集団の中から抜け出していると、何故かそれ以上前に進めなくなった。

 うん、引っ張られてるね。

 誰にとは言わないが。言わなくても誰かなんて分かる。

 

「あの………離してもらえませんかね」

「嫌よ。折角貴重な戦力見つけたんだから、そう簡単に逃すわけないでしょ?」

「デスヨネー」

 

 ルリナさんマジぱない。

 

「手伝ってくれたらソニアのこと好きにしていいわよ」

 

 耳元に顔を寄せてきたかと思えばなんてことを言い出すんだよ、こいつは………。

 

「そこはルリナが、私のこと好きにしていいわよ、とか言ってくれる流れでは?」

「ああん?」

「あ、はい、すんません。調子に乗りました。是非とも手伝わせていただきます」

「分かればいいのよ」

 

 ………何というか、何というかだわ。

 ルリナさんマジぱない(二回目)。

 

「はぁ……分かったよ。なら、まずは戦力の振り分けをしようぜ。オレとカブさんはワイルドエリアの管理をしてる側だし、分かれた方がいいよな」

「そうだね」

 

 ふむ、カブさんとキバナが分かれるとな。

 なら、もう俺の希望は決まったもの同然だな。

 

「じゃあ、俺カブさんの方行くわ。ダンデはそっちな」

「えー、オレはハチと一緒にバトルしたかったのに」

「絶対嫌だ」

「なら私はカブさんの方にしよっと。アンタのバトルも見てみたいし」

「決まりだね。アタシとマクワはダンデたちの方に回るよ」

 

 ごめんね、メロンさん。貧乏くじ引かせて。

 でも、いると面倒なダンデとも絶対絡まれそうなキバナとも一緒にやりたくないのよ。

 うん、今度どこかで出会った時にはお礼をしよう。忘れなければ。

 

「なあ、後のジムリーダーたちは?」

「去年のこともあるからね。後から他の場所で同じようなことになった時用の第二軍に回ってもらったよ」

 

 ここにはいない面子を考えるとマッチョのくさタイプジムリーダー、腹筋が割れた格闘少女、老魔女とネズとかいうシンガーソングライターが第二軍に回ったみたいだな。

 ああ、それで数合わせにマクワが母親に引っ張り出されてきたのか。

 

「カブさん、そっち三人で大丈夫っすか?」

「大丈夫だよ、ハチ君もいるしね。それにそっちは今二体出てるんだから人手を多く回さないと」

「おい、お前! カブさんに迷惑かけんじゃねぇぞ!」

「ねぇ、その言い方だと私には迷惑かけていいって言ってない?」

「言ってねぇよ」

 

 やっぱり喧嘩腰なのね。

 それなら組まなくてよかったと一安心である。

 

「ほら、いくよ」

 

 ねぇ、ルリナさん?

 さっきから俺の扱い酷すぎません?

 あなた一応俺と出会って二回目だよね?

 それでここまで遠慮がないって、一体ソニアに何を吹き込まれてるんだ?

 回答次第ではソニアにお仕置きしなきゃいけなくなるぞ?

 何が悲しくてルリナに首根っこを掴まれながら連行されなきゃならねぇんだ…………。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「あれか」

 

 ルリナから解放されて自分の脚で走ることしばらく。

 ようやく目的地へと着いたようだ。

 ………疲れた。

 何でこの二人はあれだけ走っても元気なんだよ。

 

「そっちに向いたぞ!」

「躱せ!」

「あー、もー! 何でこんな硬いのよ! しかも一撃が普通じゃないし!」

 

 件の場所へ近づくと聞き覚えのある声がワイルドエリアスタッフに紛れて聞こえてきた。

 いや、何でいるの?

 しかもバトルしてるし………。

 

「ソニア!?」

 

 大親友のルリナは一目散にソニアの元へと行ってしまった。

 

「君たち、このポケモンで合ってるかい?」

「はい、あーよかった………これで休める………」

「カブさん、あとはお願いしてもよろしいでしょうか………?」

「うん、任せて」

 

 カブさんはスタッフたちのところへと行き、交代の引き継ぎをしている。

 ………それにしてもシェルダーか。

 みずタイプのシェルダーにソニアが苦戦するって、やっぱり巨大化しているからか?

 いや、それにしてはクレセリアがいたとはいえ、単独で巨大化したライボルトを撃破しているソニアだぞ?

 なんか腑に落ちねぇんだけど。

 

「ハチ君」

「この辺に特に強いシェルダーがいるとかって噂、ありました………?」

「いや、僕は聞いたことがないね」

「そうっすか………」

「それがどうかしたの?」

「いえ、ただでんきタイプを得意とするソニアがみずタイプのシェルダーにダイマックスしてるとはいえ苦戦するとも思えなかったので」

「確かに………でも、ポケモンたちに実力差があれば………」

 

 強いシェルダーがいるって噂もなく、かと言ってソニアと実力差があるように見えないんだよなー………。

 

「ルリナくらいの自信と経験があれば、ジムリーダーくらいにはなれるポテンシャルはありますよ? 現に倒せてはいないけど、倒されてもいない」

「………言われてみるとそうだね。今のソニア君の実力が如何程なのかは分からないけど、実力差があれば普通は倒されているはず。なのに、頑張って耐えられるくらいには実力に差はない、か」

「と思うんですけどね。まあ、まずはあいつを倒してからにしましょう。他でもまた起きるかもしれないし」

「そうだね」

 

 ソニアのポケモンであろうストリンダー? だったか?

 紫色のポケモンはまだ倒されていない。

 

「いくよ、バシャーモ!」

「サーナイト」

「いくわよ、カジリガメ!」

 

 俺たちはそれぞれポケモンを出してソニアの加勢に入る。

 あ、そういえばルリナのポケモンは初めてみるな。確かあれはカジリガメだったか? 四つん這いになったカメックス的な奴だよな、鎧島にもいたし。

 

「………なんかめっちゃニヤけてね?」

 

 ふと横に立つルリナを見ると気持ち悪いくらいにニヤけていた。

 こいつの表情をそんなに知ってるわけじゃないが、それでも気持ち悪いと思えるくらいにはニヤけていた。多分、開会式前のダンデもこんな感じだったのだろう。

 

「当たり前じゃない! あのソニアとこうして一緒にバトル出来るなんてもうないと思ってたんだから!」

「あっはははー………なんか、ごめんね」

 

 当の本人は苦笑してるぞ。

 まだそんなに吹っ切れてはいないと思うから、変なプレッシャーになるようなことは言わないでね?

 

「くるよ!」

 

 カブさんの声で三人とも意識をシェルダーに戻す。

 見るとシェルダーがドデカい水の塊を作り出していた。

 

「カジリガメ、てっぺき!」

「サーナイト、テレポートでシェルダーの頭に乗れ」

 

 中央にいたルリナはカジリガメで水の塊を受け止める準備をしていく。俺はサーナイトをシェルダーの頭の上に行かせて、そそくさとルリナの背後まで下がった。

 

「バシャーモ、右から回り込んでかみなりパンチ!」

「ストリンダー、左から回り込んでオーバードライブ!」

 

 両脇にいるカブさんとソニアが左右から攻撃を仕掛けさせた。

 うん、何というか特に決めてなかったけど、丁度いい立ち位置になったのではないだろうか。

 

「10まんボルト」

 

 真上と左右から同時に攻撃を加えられたことでシェルダーが仰け反り、水の塊は俺たちの頭上を走り抜けていった。

 ただまあ、被害がないわけではない。水の塊が走った後にはその水滴が雨となり降り注いできた。

 多分、今のはダイストリームなのだろう。追加効果で雨が降ってきてるからな。ダイストリームで思い出すのは去年の巨大化したサメハダーだな。オトスパスと怪獣バトルを海の上で繰り広げたのを覚えている。あのバトルを第三者視点で見たい気持ちもあるのだが、映像に撮られてたら撮られてたで大問題になるんだよなー。

 まあ、近くで新たに出てきたら巨大化ポケモンで怪獣バトルをするのも一つの手として考えておこう。

 

「まあ、そうだよな………」

 

 今の攻撃でシェルダーの攻撃は逸れたものの、戦闘不能には至っていない。

 確かに硬いな。

 一撃が重いかどうかはあの規模になると判断出来ねぇわ。

 

「ハチ君、どうする?」

 

 えぇ……俺に聞く?

 どうするかな………、やっぱりここはメガシンカとダイマックスをどのタイミングで使うかだよな。

 

「次の攻撃時にバシャーモをメガシンカさせて技を相殺、その後特性を活かしてシェルダーのヘイトを買っててください。ソニア、ダイマックスバンドとやらは?」

「一応持ってるけど………」

「よし、ならダイマックスはソニアのストリンダーで。シェルダーの意識がバシャーモに向いたら使ってくれ」

「えっ、ちょ、わたし?! ルリナもいるじゃん!」

 

 そんな驚くことでもないだろ。

 今回はみずタイプのシェルダーが相手なんだし。

 

「タイプ相性から言っても今回はお前の方が適任だろうが。大丈夫だ。それで倒せなくても最終手段はまだある」

「分かったよぅ、やればいいんでしょ」

 

 渋々といった感じではあるが了承してくれたようだ。

 それにあいつらもいるしな。最悪みんなの視界を遮った上で一気に片付ければバレないだろう。ただ、そんなことを最初からやったのでは俺が怪しまれかねないので、マジで最終手段である。

 

「………何でアンタが仕切ってるのよ」

「いや知らねぇよ。カブさんが聞いてきたから答えたまでだ。何なら変わってくれ、ジムリーダーだろ?」

「………ムカつくけど、カブさんが判断を求めるくらいだから無理よ」

「さいですか………」

 

 ルリナはどうやら俺が仕切っちゃってるのが気に食わないらしい。

 まあ、そりゃそうだろうよ。ジムリーダーが二人もいて、しかも親友の前だからな。それに後ろに控えるスタッフたちの目もある。

 プライドが高いとやっぱり気にするんだろうな、そういうの。

 

「ハチ君はどうする?」

「俺は取り敢えずサーナイトに上から攻撃させておきます。ただ、異常事態の時は何が起こるか分からないってので相場は決まってますからね。念には念を入れて準備しておきますよ」

「シェエエエエエエエエエッダァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!?!」

 

 するとシェルダーが地響きのする咆哮を上げた。

 次がくるな。

 

「任せて! 燃えろ、バシャーモ!」

 

 カブさんもそれを感じ取ったのか、早速バシャーモを前に出させる。

 

「ストリンダー、オーバードライブ!」

「カジリガメ、ロックブラスト!」

「サーナイト、10まんボルト!」

 

 左から爆音、真上からは電撃、正面から岩を次々とぶつけられてる中、シェルダーが巨大な氷の塊を落としてきた。

 これはダイアイス、か?

 全てが俺たちに向かってくるわけではないようで、衝撃波を生み出しながらも俺たちの周りへと落ちていく。

 ただ一つ、本命の氷の塊が落ちてきたので、それをバシャーモがメガシンカすることで弾き飛ばしてやり過ごした。

 そして一気に周りの気温が下がり、雨は霰へと変わっていく。

 

「バシャーモ、グロウパンチ!」

 

 バシャーモが加速しながら次々と拳を当てていく。作戦通り、シェルダーのヘイトを買うつもりなのだろう。

 さて、そうなると俺たちはどうしようかな。機を見てソニアにはダイマックスしてもらわないとなのだが、それまでにも出来ることは色々とある。

 

「サーナイト、でんじは」

「ストリンダー、あまごい!」

「カジリガメ、ストーンエッジ!」

 

 俺は麻痺させることを選び、ソニアは再び雨を降らせ、ルリナは攻撃を選んだ。

 

「かみなり!」

「かみなりパンチ!」

 

 ただ一人だけ次の攻撃の布石にもなっている奴がいたけどな。

 何で一番経験が浅い奴がそういうことやってんだよ。あいつ、マジでメンタルさえ鍛えればジムリーダーには軽くなれるぞ。

 

「シェエエエッダァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

「ストリンダー!?」

「バシャーモ?!」

 

 咆哮とともにシェルダーの舌が大きく振り回されて、ストリンダーとバシャーモが弾き飛ばされてしまった。

 

「ルリナ、あの舌を狙え。サーナイト、チャージビーム」

 

 頭から降りたサーナイトが伸びた舌に電撃を送り込んでいく。

 

「カジリガメ、シェルダーの舌にかみくだく!」

 

 さらに追い討ちをかけるようにカジリガメがシェルダーの舌に噛み付いた。

 ついでにチャージビームの追加効果で遠隔攻撃力も上がってくれた。狙って使ったものの、使ったら必ず上がるわけでもないため割と嬉しい。

 

「ソニア!」

「オッケー! ストリンダー、キョダイマックス!」

 

 その間にソニアに合図を送り、ソニアが一度ストリンダーをボールに戻すと右腕のリストバンドから淡いピンク色のエネルギーが溢れ出し、ボールを巨大化させていく。

 そしてそのボールを後方へ投げると四つん這いになった巨大なストリンダーが現れた。

 

「キョダイカンデン!」

 

 ソニアの声とともにサーナイトとカジリガメがシェルダーの舌から飛び退き、俺たちのところへ戻ってくる。

 その直後、シェルダーの頭上から雷撃が落とされ呑み込んでいった。

 

「シェエエエエエエエエエッッ!!」

 

 先程とは打って変わって短い咆哮が走り、雷撃が霧散していく。

 あの咆哮にそこまでの威力があるとは驚いたな。

 すると足元から地響きがして段々と揺れが激しくなってきているではないか。

 

「これは……ダイアタックだ! みんな逃げるんだっ!」

 

 おい、マジか!

 

「サーナイト!」

 

 サーナイトも同じ考えだったのか、俺に抱きつくとそのままテレポートで後方へと下がった。

 狙いはストリンダーじゃないのかよ………。

 

「おいおい、マジか………」

 

 地面から噴き出したエネルギーの衝撃波により、ソニアたちは大きな怪我こそしてはいないものの、吹き飛ばされて地面に倒れていた。

 特にルリナとカジリガメが噴出点に一番近かったためか、ボロボロである。今機能しそうなのはバシャーモとストリンダーくらいか。カブさんもソニアも起き上がるので精一杯そうでトレーナー側は全滅だな。

 

「ルリナ!?」

「チッ!」

 

 状況の確認をしているとシェルダーの巨大な舌がルリナとカジリガメ目掛けて振り下ろされようとしていた。

 これはもう出し惜しみしている状況ではなさそうだ。

 

「サーナイト!」

 

 再度サーナイトにテレポートさせてルリナの元へと移動した。

 そして振り下ろされた舌を黒いオーラで受け止める。

 

「なっ………ん………!?」

「ストリンダー、キョダイカンデン!」

 

 後ろで覚悟していた衝撃が来ないことに驚いているルリナの顔は、モデルがしていい顔ではなかった。

 

「………これだから協力プレイってのは苦手なんだよ。自分たち以外のことまで気にかけなきゃならんとか無駄に疲れる」

 

 これが一人だったらもっと楽に倒せていただろう。

 何なら人前で出せないあいつらも出せるから、あっという間だったかもしれない。

 …………そうだな、もういっそのこと自らそういう展開にしてしまえばいいんじゃね?

 カジリガメの立て直しを待っていられる程の余裕はないんだ。

 

「ルリナ、後は俺がやる。ソニアやカブさんと一緒に下がってろ。キングドラ、ドラミドロ、えんまく! 三人を守っててくれ!」

「ドラ!」

「ミー!」

「えっ!? ちょ、ハチ?!」

「サイコキネシス!」

 

 黒いのに指示を出し、シェルダーの舌を弾き返して前に出ると、俺がいたところから横一線にキングドラたちが黒煙で幕を下した。

 これでシェルダーからはルリナたちを認識出来なくなっただろうし、あいつらからも俺たちを認識することは難しいだろう。

 

「ルリナ君!」

「ルリナ! 大丈夫!?」

「だ、大丈夫だけど………それよりあいつが一人で! ってか、さっきのはなにっ!?」

「ちょ、落ち着いて。大丈夫、ハチくんなら終わらせてくれるよ。ストリンダー、最後にもう一発! キョダイカンデン!」

 

 どうやらソニアとカブさんがルリナの元へと駆けつけたようだ。

 それに三発目の雷撃もシェルダーへと降り注いでいる。

 ソニアは俺の一端を知っているためか、身を引くのも早いな。

 

「ジュカイン」

「カイ」

 

 ジュカインをボールから出すと既に臨戦態勢だった。

 

「一撃で仕留めるぞ。メガシンカ」

 

 今回はもう他のメンツを出す必要はないだろう。俺たちが駆けつけるまでにソニアとワイルドエリアのスタッフのポケモンたちが与えたダメージに加え、俺たちも追撃している。さらにはストリンダーの雷撃を三発とも受けているのだ。見た目ではよく分からないが、ダメージは相当蓄積しているはずである。

 

「ハードプラント」

 

 姿を変えたジュカインが地面を叩くと太い根が唸り、再び振り下ろしてくるシェルダーの舌に螺旋を描くように絡みついていく。

 目指すは殻の中。外の殻は頑丈でも中身を攻撃されたら呆気ないのがシェルダー系統である。しかもシェルダーは舌を引っ込められなければ殻が閉じられないというおまけつきだ。

 

「シェエエエエエエ…………ダァ……………ァァァ…………」

 

 そうしてシェルダーを突き飛ばすと地面に倒れ、元の大きさへと戻り始めた。

 うん、本当に呆気ないな。

 あの時間は何だったのかと思いたくなるレベル。

 

「サンキュー、ジュカイン。サーナイト、サイコキネシスで煙を払ってくれ」

「サナ!」

 

 俺はメガシンカを解いたジュカインをボールに戻し、サーナイトに黒煙を払わせた。

 

「ケホッ、ケホッ………ハチ、シェルダーは………?」

「見ての通り倒したぞ」

 

 煙を吸い込んだのか、ルリナが咽せている。

 ちゃっかりソニアは鼻と口を手で覆っているというね。

 

「はぁ?!」

「あっははは………やっぱり…………」

「流石だね、ハチ君」

 

 三者三様の反応を見せてくるが、ルリナだけは初めてなため終始驚いているだけである。

 さて、シェルダーを倒したことだし、今のところ他に発生する兆候も無さそうだな。

 取り敢えず、シェルダーの様子を確認するとしますかね。

 

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