ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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70話

 翌朝、ガラル鉱山を抜けるため洞窟………というか最早トンネルと言った方が合っているであろう鉱山の中に脚を踏み入れてすぐ。

 トロッコに乗ろうとしていた作業員の男性と目が遭い、何故かトロッコに乗せてもらうことになってしまった。

 

「こんなところに足を運ぶ奴なんて毎年ジムチャレンジャーくらいなんだけどな。兄ちゃんももしかしてジムチャレンジャーなのか?」

「ええ、まあ」

「ほー、大丈夫か? ここにいるってことは今からターフタウンでジム戦ってことだろ?」

「まだ期間はあるんで大丈夫じゃないですかね」

「ほー、余裕なこった」

「まあ、初心者トレーナーってわけじゃないんで」

 

 ガタンゴトンとレールの上を走りながら作業員のおじさんが質問してくる。

 俺は質問に答えながらも洞窟とは思えない明るさの風景を目に焼き付けていた。

 

「それにこの一ヶ月は調べ物をしてたんすよ。ガラル中を結構飛び回ってました」

「そいつはまた広範囲な話じゃないの。それで調べ物は見つかったのかい?」

「いいや、一ヶ月棒に振った思いですよ」

 

 時折石炭を乗せたトロッコのようなものがレールのないところを通っていく。恐らくトロッゴンだろう。マクワが連れているセキタンザンの進化前の姿はまさに石炭を運ぶトロッコのような姿だったからな。

 

「というかトロッコに俺を乗せてよかったんすか?」

「いいのいいの。どうせ俺もあっちの出口に向かうつもりだったんだ。ついでに一人や二人乗せようが何も言われないさ」

 

 それならそれでいいのだが。

 ただ何というか。

 ちょっと俺も考えなしだったなとは思う。

 このトロッコ、鉱山で使われているだけあり、中は結構土がこびり付いている。当然、作業服でもないのに汚れるのは必至。

 

「それにしてもこの鉱山明るすぎません?」

 

 その汚れを確認出来たのもひとえにここまで等間隔に設置されている灯りのおかげである。

 

「そりゃ、毎年ジムチャレンジの子たちが通るんだ。暗闇で迷子になられても困るからな。それに俺たちも灯りがあった方が便利だしよ」

 

 何というか過保護だな。

 まあ、一大興行事業と化していればそういう配慮も求められるというものか。それか過去に事故があったとか。

 何にしても苦情が殺到すればジムチャレンジ自体が中止になりかねない。多少の予算を出してでも普通に通ることになる道だけでも灯りを用意しておく方が安く上がるのだろう。

 ただし、野生のポケモンたちがどう思うかは別問題。ちらほらと見受けられるトロッゴンたちはあまり気にしていないようだし、この鉱山に限っていえば、上手く共存出来ているのだろう。しかし、別の場所ではどうなのか。ジムチャレンジを回る上でそういうところにも目を向けて見ておいた方が良さそうだ。

 出来ることならカントーやカロスでも便利さは求めたい。それで危険に脚を踏み入れるトレーナーが少しでも減れば万々歳である。

 

「その電気とかってどうやって供給してるんすか」

「一応太いコードで電灯を繋げてはいるが、鉱山の中にも発電装置を用意していてな。そこにでんきタイプのポケモンに電撃を入れてもらって充電しながら供給してたりもするぜ」

「まあ、そりゃそうか。そもそも電気が通ってなかったらトロッコを動かすのもままならないですしね」

「そういうこった。外にもソーラーパネルを用意しているからな。鉱山の中で電気に困ることはねぇよ」

 

 運搬・移動にトロッコは必需品だろうし、それが稼働しなければ仕事にもならないだろうからな。

 

「ちなみに電波は?」

「微妙だな。動画を再生しようと思ったら外にいくしかねぇくらいには弱いぜ」

「通ってはいるんだ」

「そう、通ってはいるんだよ。ただ、場所によっては届かなかったり、磁場の影響を受けてたりするな」

「ポケモンの巣窟ともなればそうなりますよね」

「だから俺も休憩がてら外に出ようとしていたわけさ」

「なるほど。それで外に」

 

 スマホを出してみるとアンテナは一本だけ立っていた。

 ああ、こういうことか。

 ほぼ圏外に近いじゃないか。

 どこの地方でもそうだが、洞窟内で迷ったが最後、人生終わりに等しいよな。

 なんて考えていると急にトロッコが止まった。

 

「おっと、ちょっと止まるぜ」

 

 どうしたのかと思えば、答えはすぐにやってきた。

 

「おー、ご苦労さん。そっちは送迎かい?」

「休憩ついでにな」

「そうかい。んじゃ、俺たちは潜ってるぜー」

 

 俺たちが向かっている方向からトロッコがやってきたのだ。

 レールをよく見れば分岐点になっており、三人の作業員を乗せたトロッコが曲がっていった。

 一本しかないから対向車がきたらどこかで待つしかないわな。今回は丁度分岐点のところだったからよかったものの、これが何もないところだったらどちらかが分岐点があるところまで戻るしかない。

 

「あの先は?」

「採掘場まで潜る道の一つだ。地下深くに潜ることになるからな。だからああしてトロッコも三つ繋がってるってわけだ」

「一人一つって計算か」

 

 ガコンと動き出したトロッコに揺られながら三両編成になっていたトロッコの行き先を見やる。何も乗っていない最後尾のトロッコだけが見える辺り、暗くはないし恐らく下り坂になっているのだろう。

 

「あ、そうそう。ここの鉱山なんだけどな。ちっとばかし珍しいものが出る時があってな」

「珍しいもの? ポケモンの化石とか?」

「いや、化石も珍しいが俺は異様に綺麗な石を見つけてな。ほれ」

 

 そう言って作業員のおっちゃんが見せてくれたのは白っぽい丸い石だった。

 

「っ!? これは………!」

 

 いや、これバリバリ見たことある奴じゃねぇか。何なら俺も持ってるやーつ!

 

「綺麗だろ? って、どした? そんな驚いた顔をして」

「あ、いや、これが何なのかは………?」

「それがよく分からなくてな。パールでもないし、けど綺麗な石だから取っておいたんだよ」

 

 いや、まあそうだろうな。

 こっちじゃ主流じゃなさそうだし。俺以外に持っているのはカブさんくらいだろう。それも公式では使われない、オフのカブさんのバトルでしか見られないのだから知る由もないか。

 

「他にこれと似た石は見つけませんでしたか?」

「あー………そんな白い感じじゃねぇけど、丸さと大きさで言えばこいつが近いかもな」

「マジか………」

 

 まさかのもう一種類の方も発掘していたようだ。

 キーストーンとメガストーン。

 まさかガラルでも出土してくるとは。

 伝承はカロスやホウエン地方で残されてはいるが、キーストーンやメガストーンは世界各地に埋もれてるのかもしれないな。

 

「水色、ね」

 

 さて、この水色の中にオレンジ色の葉っぱのような模様。黒いラインもあるし、三色と考えるべきか。この三色でイメージ出来るポケモンは何か、だな。石の波長を測定する機械があれば一発なんだが、ないものは仕方ない。今すぐには思い出せないが、ともあれ三色なため結構搾られるだろう。

 

「何だ、兄ちゃん。欲しいのか?」

「え? あ、いや………」

 

 急に欲しいのかと言われても………欲しいというかどのポケモンのメガストーンなのか気になるってだけだし………。

 まともに返事をする間もなく作業員はにっと笑って続ける。

 

「いいぜ、二つともやるよ。その代わり、ジムチャレンジは俺たち視聴者を楽しませてくれよ?」

 

 マジか………。

 そりゃもらえるなら嬉しいけど、相当レアなものだぞ?

 

「えと……先に言っておきますけど、これはメガシンカっていうポケモンの強化現象に必要な道具で、結構なレア物ですよ?」

「なら、尚更持っていってくれ。俺はポケモントレーナーじゃないんでな。使う機会がない」

「そう、ですか………なら、ありがたく頂きます」

「おう」

 

 何と気前のいい人なのだろうか。

 メガシンカを知らないっていうのもあるだろうが、それ以前にトレーナーじゃないからくれるってのもなかなか出来ないと思うぞ。

 普通は売ったらいくらになるだとか、そういう考えになるだろ。

 こりゃ、下手なジムチャレンジはやってられんな。観客、視聴者を楽しませるバトルをしないといけないというハンデを背負うのはなかなかに厄介だ。

 

「………と、着いたぜ」

「この先が出口っすか?」

 

 ガコンと停止したトロッコから降りるとその先にはレールが敷かれていなかった。

 どうやらこの先に出口があるらしい。

 とは言っても結構な広さがある空間で、辺りにはスコップやツルハシがたくさん並べられている。何ならヘルメットも置いてあるため、ここで道具を調達して採掘に向かうのだろう。

 …………あれ?

 あっちの入り口にはそんなのあったっけか?

 

「こっちだ」

 

 作業員の後を着いていくと段々と通路が狭まり、点いていない灯りもちらほらと出てきた。

 そして人工的な明るさとは違う自然の光が徐々に差し込んできたところで、ようやく出口が見えてきた。

 大抵洞窟が出来るのはポケモンの移動によるものなのだが、ここは外に大型のポケモンが出ることがなかったのだろう。だから出口になるに連れて通路が狭まったのだと思われる。

 

「うっ……眩し………」

 

 小一時間ぶりに太陽の光を諸に受け、目がチカチカした。

 作業員の男は慣れているのか外に出てすぐ、スマホを取り出して操作している。

 

「さてと………お、始まったみたいだな」

 

 何か目的があって外に出て来たのだろうが、何を見ているんだ?

 

「何がっすか?」

「今年のジムチャレンジの目玉と評されている親子対決だよ。キルクスタウンの」

「親子対決…………それってマクワとメロンさんの?」

「そうそう。何年か前にも息子の方がジムチャレンジに出てたが、そこから成長した今回はチャレンジカップの優勝候補って言われてるんだよ」

 

 あの二人のバトルって今年の目玉だったのかよ。

 

「チャレンジカップっていうとジムチャレンジ参加者の中からチャンピオンカップに出場するチャレンジャーを決めるトーナメントでしたっけ?」

「そうそう。で、マクワはその優勝候補ってわけさ」

 

 チャレンジカップとはいえ、マクワが優勝候補になっているとは………。

 それだけ名前と実力が売れているという証でもある。

 

「やっぱり親がジムリーダーともなると人一倍に目立ってしまうんすね」

「そりゃな。ただ、マクワはちゃんと実力もある。親の七光りってわけじゃねぇ」

 

 世間的にもちゃんと実力が評価されているみたいだな。

 有名人の子供や孫ともなると親の七光りだ何だと言ってくる奴が一定数はいる。だが、ポケモンバトルは親の七光りどうこうなんて話は持ち出すだけ無駄だ。結局はポケモンの強さ、トレーナーのバトル構築力、読み合いと駆け引きが命だ。その他閃きやらメンタルやら何やらと必要なことは多岐に渡るが、少なくとも親の七光り程度の奴が勝ち残れるような甘い世界ではない。

 

「専門タイプをどうするかで母親と揉めてるみたいですからね。実力がないと自分の意見を通すことも出来ない。あれから強くなったであろうマクワとバトルするのが楽しみですよ」

 

 そしてマクワの場合は、メロンさんとは別のタイプを専門としているようで、その時点で親の七光りは捨てているようなものだ。

 そんな奴といずれバトル出来るのかもしれないと思うと、無性に嬉しくなってくる。

 この辺は俺もポケモントレーナーの一人というところか。

 

「まあ、その前に兄ちゃんもジム戦で勝ってかないとな」

 

 ニッ、と笑う作業員の顔が現実を叩きつけてくる。

 

「ああ、そうそう。その事で一つ伝え忘れてました」

 

 そういえば名前を言ってなかったような気がする。

 それにこのままの姿で出るというわけでもないのだ。俺のジムチャレンジを見ようとしても、まず見つけられないだろう。

 

「ん? なんだ?」

「ジム戦の中継で被り物を被ったハチって選手が出てきたら、それ俺なんで」

「はっ? 被り物?」

「ちょっと大勢の前で顔を出すのが恥ずかしくてですね。推薦書に被り物の許可の申請も込みで出したら通っちゃいましてね」

 

 恥ずかしいのも理由の一つではあるが、一番の目的は俺がヒキガヤハチマンだと知られないようにするため。まあ、このことは誰にも言えない秘密であるが。

 

「お、おお。取り敢えず被り物をしたハチだな。よし、覚えた。んじゃ、行ってこい、ハチ!」

「うす」

 

 痛い。

 景気付けになのか激励のつもりなのか、背中を叩かれたらめっちゃ痛かった。

 思わぬところでまさかのものを手に入れてしまったが、ようやくジムチャレンジが始められそうである。

 

「………………」

 

 そんな考えをしていた時期もありました。

 数分後には目の前の光景に言葉を失ってしまった。

 

「嘘だろ………」

 

 うげぇ………。

 鉱山を抜けたというのに今度はこのクソ長い下り道を進まないといけないのか。

 ターフタウンはここからでも見えているというのに、目的地までが長い。

 これ今日中にターフタウンに着けるのだろうか。

 

「………と、誰だよ」

 

 先が思いやられる道のりに嘆いているとスマホが鳴った。

 表示されていたのはミツバという文字。

 ミツバさんか。何かあったのだろうか。

 

「もしもし?」

『お願い、ハチ君! ダーリンを助けて!』

 

 第一声からして穏やかではない。

 急を要する慌てた様子にこっちも緊張が走っていく。

 

「何があったんですか」

『急に強い風が吹いたかと思えば、島周辺の天気が荒れ出して………何か嫌な予感がするってダーリンが様子を見に行ったっきり、帰って来ないの!』

 

 どうやら島周辺の天気が荒れているらしい。

 ただ、爺さんが嫌な予感をしたということは、多分何かあるのだろう。普通じゃない、何かが。

 

「そんなに荒れてるんですか?」

『こんなの初めてだよ! ハッキリ言って普通じゃない、異常気象だわ!』

「そんな時に外出るんじゃねぇよ、ったく………分かりました。念のため門下生たちも含めて誰も外に出さないように。道場にいてください。どうにか探ってみます」

 

 いくら嫌な予感がしたからと言って老人が一人で外の様子を見にいくのは無謀もいいところである。

 去年のワイルドエリアでのダイマックス多発事件の時でも、元々頭数に入れられてなかった俺を連れていくくらいだ。勘は働いても対処するだけの体力があの爺さんにあるかどうか………。

 確かに本気モードの爺さんは強い。身体能力も俺よりクソ高いと思う。けど、年齢が年齢だ。無茶は禁物なはず。

 

『分かったわ………』

 

 恐らくその辺も心配してミツバさんは俺を頼ってきたということだろう。

 それならば応えないわけにはいかない。

 あの人たちには世話になってるからな。恩を仇で返すようなことは出来ないし、したくない。

 ミツバさんには門下生たちを外に出さないように言い渡し、通話を切った。

 

「ウルガモス、急いで鎧島に向かうぞ」

 

 こうして俺はターフタウンに着く前に鎧島に出戻りする羽目になった。

 爺さん、頼むから死ぬようなことにだけはなってくれるなよ。

 

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