ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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71話

「もしもーし」

『どうしたのだ? 君からかけてくるなんて珍しいではないか』

「ちょっと緊急事態が起きてるみたいでしてね」

『ほう』

「ガラルの鎧島で異常気象に見舞われてるらしいですよ」

 

 鎧島に向かう途中。

 念のため壱号さんに鎧島の状況を伝えておくことにした。

 

『ふむ…………、確かに鎧島周辺だけ気象が乱れているようだ。本土には影響もなければ、その他の海域でも特に問題はない。局所的に何かが鎧島で異常気象が起こるようなことがあるのだろう。原因として考えられるのは、やはりポケモンか』

「まあ、そこが一番考えられるでしょうね。自然現象であればそれはそれで問題ですけど、雨風というよりは島が噴火するとかの方が考えられますし」

 

 パッと状況を見ただけでも壱号さんの見解はポケモンによるものだと考えられるようだ。

 その辺が聞けただけでも原因を絞り込めるため、原因の排除もしやすくなるだろう。

 

「つーわけで鎧島周辺を国際警察として封鎖しといてください。島民の避難も外部からは無理でしょうから、下手にそこも動かさないように。多分、マスター道場が避難所になってるとは思うんで、そっちはどうにかなるかと。原因の方は俺が対処します」

『何か心当たりがあるのか?』

「まあ、嫌な予感が当たらなければいいんですけどね。予感通りなら面倒なことになりそうだなと」

 

 心当たり、というものに当たるかどうかは分からないが。

 ただ、一応この時間軸においては未来人に当たる俺からすると、時期的に見て奴が関係してそうな気がするのだ。そう考える出来事も開会式の日に起きたばかり。

 今日か明日か明後日か。この時間軸の本来の俺はカロスで黒いルギアと対峙することになる。その前日譚がコレならば辻褄も合う。

 

『そうか』

「ただその場合、もしかすると人間側が何かしらやっている可能性もあります。そうなるとその犯人を見つけられたとしても生かして捕縛、あるいは姿形さえも残せる保証がない」

『そんなに危険な相手なのか?』

「危険と言えば危険ですが、こっちも手加減なんて出来そうにないので。可能な限りやってはみますが、その際は」

『いいだろう。ではそちらは君に一任する。封鎖はこちらでやっておこう。事態の収束に向けて健闘を祈る』

「了解」

 

 これで外から鎧島に入ってくる者はいなくなっただろう。ミツバさんが他にダンデとかに連絡を入れていればジムリーダーたちが駆けつけてくるだろうが、ジムチャレンジの最中である。特にマクワとジムバトルしているメロンさんは無理だ。そしてそれまでのジムリーダーたちも挑戦を受けているはず。

 仮にマクワがトップを走っているとするならば、キバナと七番目のジムリーダー辺りは駆けつけられるか。後は暇そうなダンデくらいか。

 いや、そういえばあいつは今マクワとメロンさんとのバトルを観戦しているんじゃなかったか? 恐らく公式観戦だろうから、抜けるのは無理だな。となるとやはり駆けつけられるのはせいぜいキバナと七番目のジムリーダーくらいだな。

 

「ルギァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 なんて考えていたらあっという間に本土を出て鎧島が見えて来ていた。

 そして急に風も強くなり、湿気が高くなってきた気がする。しかも見えてきた鎧島にだけ雨雲が掛かり、激しい雨を降らせているように見える。

 うん、これは異常気象だわ。

 

「やっぱりルギアだったか」

 

 そして、それを引き起こしているのはやはり黒いルギアだった。

 恐らくここから見えているのはチャレンジビーチ辺りだろう。そこに聳え立つ塔をエンジュの塔と勘違いしてたりしないよな………?

 

「さて、相手がルギアならやることは一つだな。ウルガモス、交代だ。クレセリア」

 

 まずはここまで飛んでくれたウルガモスを休ませる意味も込めてクレセリアを出し、その背中に飛び移る。そしてウルガモスはボールの中へ。

 

「ザルード」

 

 次にザルードをボールから出し、俺の後ろに乗せた。

 

「島に着いたらお前は怪しい人物がいないか探してくれ。恐らくいても対処しようとしない、観察やデータ取りをしているだろうからな。ルギアの側にはいるはずだ。そういう奴らを見つけたら見張っておいてくれ。決して深追いはするなよ。奴らはトレーナーのポケモンを強制的に捕獲することが出来る。お前も例外なくな。だから危険を感じたら逃げていい」

 

 今の俺のポケモンたちの中で一番鎧島に詳しいのはザルードだ。土地勘を持っているであろうジャングルの主に怪しい者がいないか探らせることにする。

 黒いルギアーーつまりダークルギアないしその擬き。そんなポケモンを生み出す組織は一つしかないし、そのメンツも開会式の日には既にガラルにいた。

 この一ヶ月尻尾を掴めなかったが、ここにきてようやく動きがあったと見ていいだろう。

 ルギアで何をするつもりなのかは分からないが、碌でもない事であるのは確か。それに矛盾を生じさせないためにもここでルギアをカロスの方へと追いやらないといけない。

 だから何が何でも奴らに邪魔されることだけはあってはならないのだ。

 上手くいけばあいつらも捕まえることが出来るだろうが、欲は出さない。まずはルギアの対処が最優先事項である。

 

「ダークライ、クレセリア。お前らは俺とルギアを止めるぞ」

 

 今回は黒いルギアということもあり、こちらも惜しみなく戦力を投入することにした。

 ダークライ、クレセリア、そしてウツロイド。

 ザルードには怪しい者の監視。

 逆にこれだけのメンツを出すともなると、トレーナーが俺だとバレてはいけないことにもなる。だからサーナイトたちや爺さんとバトルしているジュカインでさえも出すわけにはいかないのはちょっと痛手だ。

 それでもまあ、何とかなるだろ。

 

「相手はルギアだし一応イワZでも着けておくか」

 

 これからウツロイドに憑依されて戦うのだ。当然メイン火力となるのは俺たちだ。となるとここはウツロイドに合わせたZクリスタルにしておくべきだろう。

 

「来い、ウツロイド」

 

 そしてウツロイドをボールから出して俺に憑依させる。

 ウツロイドによりハチロイドと命名されたこの姿。白い半透明な姿から一転、黒く禍々しくなったこの姿は結構ヤバい。

 未だこの姿の最大火力を測り切れていないが、測り切れていない時点で相当のものだということだけは分かる。

 それを俺の意思で動かせるというのだからチートもいいところである。

 

『「ケッキョク、ドウジョウチカクカ」』

 

 そんなこんなで指示を出しながらルギアを追いかけていると島を半周程してしまったようで東側へとたどり着いていた。

 人気がないところであればあまり気にせず戦えたのだが、道場近くともなると、逸れた攻撃が道場に直撃しないか心配である。

 受ける時の角度とかも考えていかないとだな。

 

『「ダークライ、エンリョハイラナイ。オマエノチカラヲゾンブンニフルエ」』

「ライ」

『「イクゾ」』

 

 ザルードがクレセリアから飛び降りて、静かに木々の中へと身を潜めに行ったのを確認して、ダークライ、クレセリアと共にルギアの方へと向かう。

 近づくに連れて気流が激しく乱れ、バランスを崩しそうになる。雨や雷はさっきからあちこちで鳴り響いている。

 それだけ翼の一振りだけで激しい風が生み出されているのだろう。そして毎度角度が変われば風向きもバラバラになってくる。それが俺たちを揺るがす原因でもあり、異常気象の要因といったところか。

 

『「イツマデモアバレマワッテルンジャネェ、ヨ!」』

 

 まずは挨拶代わりにルギアの頭上まで行き、拳を叩きつけて撃ち落とした。

 これはウツロイドの強い要望によりこうなった。物好きすぎるんだよなぁ、こいつ。ハチマンパンチって名前までつけるくらいだし。

 ただ、ポケモンの技ではないのに誰に対しても強力なんだよな。

 現に拳一つで海に向けて叩き落としてるんだから、その威力は計り知れない。

 

「ライ!」

 

 そして、海に落ちる直前でダークライのシャドーボールがルギアの腹を抉り、また打ち上げる結果となった。

 

「ルギァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 頭と腹に強い衝撃を受けたルギアが激しい咆哮を走らせる。

 そして黒いエネルギーが開いた口に集まり始めた。

 恐らくルギアの代名詞でもエアロブラスト、のダーク化したものだろう。カロスでもこんな感じだったし。

 

「レーヒ!」

 

 ダークライの後ろからダークライを守るように光の壁が何枚も形成されていく。

 俺は既にルギアの背後に回っているため攻撃が飛んでくることはない。

 

「ライ!」

 

 最後に黒いオーラで包み込むと、黒いエアロブラストが発射され次々と光の壁を砕いていった。

 被害はそれだけ。

 クレセリアもまた本気を出してサポートしているということだろう。

 

「ライ!」

 

 ダークライが砕け散った壁を再度黒いオーラで呑み込み、そのままルギアへと打ち込んでいく。

 

「ルギァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 だが、直前でハイパーボイスにより弾かれ、破片全てが力を失い海へと落ちていく。

 本当に隙がないな。

 だったらこっちからも気を引いてみるか。

 

『「パワージェム」』

 

 背後から岩々を次々と撃ち込んでいくと、ギロリとこちらに睨みを効かせてきた。

 

『「ニランデモムダダ」』

 

 顔面に目掛けて再度岩々を次々と放つ。

 その間にダークライは動きを止めるためにさいみんじゅつを掛けてみたようだが効果がなく、パワージェムを翼で防いだところをダークホールで呑み込んでみるも眠らせるまでには至っていない。

 それだけダークオーラが強いということだろう。

 

「ダークライにクレセリア!?」

「それに、伝説の二体を従えるあの黒い生き物は………ポケモン、なのか………?」

 

 ふと砂浜の方を見ると見覚えのある男二人と少女が一人がこちらを見ていた。

 

「ボルグ、奴らのデータも取れ。ラブリナ、力を使い切ったところを狙え」

「はいはーい!」

「了解」

 

 手前にいる白衣の男はボルグ。

 その横にいる少女は初めてだが、一緒にいるということはお仲間なのだろう。

 そして、その後ろに控える一人だけ目付きの鋭い殺し屋みたいな男が、シャドーの元ナンバー2にして実質トップに君臨していたジャキラだ。

 揃いも揃ってこんなところにいるとは。

 確か俺が脱出した後に捕まってたはずなのだが………。

 

『「サスガハアクトウトイッタトコロカ」』

「ルギァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 

 ルギアに視線を戻すと、雄叫びを上げながらこちらに飛び込んできていた。

 

『「10まんボルト」』

「レーヒ!」

 

 電撃を浴びせてその場に押し留めると、上からクレセリアが降ってきた。

 まさかののしかかりかよ。

 めちゃくちゃいいタイミングだったけどさ。

 ルギアが出鼻を挫かれてぶるぶると首を振っている間にクレセリアは離脱していった。

 

「ライ」

 

 それを確認してかダークライが黒いオーラで巨大な檻を作り、ルギアを閉じ込めた。

 ルギアは檻を壊そうと口を大きく開き、エネルギーを溜め込んでいく。さっきよりも禍々しく、よりダークオーラが身体に馴染んできているように見える。

 

「ルギァァァアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 激しい咆哮と同時に黒いエアロブラストが飛んでくる。

 それを今度は巨大なダークホールで呑み込んでしまい、次の瞬間にはルギアの背後から撃ち出されていた。

 うん、エゲツない。

 あのダーク化したルギアをこうも簡単に封じ込めていくとか、以前のダークライでは出来なかっただろう。

 それこそ、俺の記憶を食ってエネルギーを蓄えるくらいには有事の時のエネルギー不足が顕著だった。

 ……………あれ?

 そういえば最近、ダークライに記憶を食われた形跡がないような気がする。スクールでのことも思い出せるし、その後の旅も結構覚えている、な。

 それなのにこれって、ダークライさんマジで伝説ポケモンの風格出してるじゃねぇか。

 やっぱり破れた世界に行ったのが要因なのか?

 そうなるとクレセリアの方も同じようなことになっているのかもしれないな。のしかかり一発で仕切り直させているくらいだし。

 

「ライ!」

 

 そして、ダークライはでんじは、あやしいひかり、かなしばりと次々に技を繰り出し、眠らせること以外でルギアの動きに制限を掛けていった。

 最後に俺と目が合うと再び黒いオーラを激しく活性化させて再度巨大な檻を作り出してルギアを封じ込めていく。

 それと同時に俺はイワZのポーズを嫌々ながらも取っていき、ルギアの頭上に巨大な岩石を作り上げていった。

 

「ライ!」

 

 全てが整ったのを確認するとダークライは檻ごとルギアを勢いよく垂直に打ち上げた。

 

『「ダークライ、ヨクヤッタ」』

 

 打ち上げられた先に待っているのは巨大な岩。

 今からこれでお前は海に叩きつけられるんだよ。

 

『「ワールズエンドフォール」』

「ルギァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!?!」

 

 檻よりもデカい岩石が檻をぶち壊し、そのままルギアを海へと叩きつけていく。

 ザッパァーン! と高波が立ち、周りに波紋が広がっていく中、南の方へと移動する影が見えた。

 

『「………ニゲタカ」』

 

 ダークオーラに呑まれた中でも、何をしてもやり返されることを感じたのだろう。ここにいては危険と見て、移動を始めたのかもしれない。

 ひとまずこれでミッションは成功かな。

 あとはあいつらを捕縛出来れば儲け物ってところか。

 

「ルギア!」

 

 ッ!?

 まさかこんなところにまでいるとは。

 いや、まあ確かにあり得る話ではあるか。元々彼女たちはルギアを追ってカロスにまで来ていたんだし。

 

『「オウナラオエ。イキサキハオソラクカロスダ」』

「「しゃ、喋った?!」」

 

 ルギアを追って来ていたのであろうオリモトたちにカロスへ行くよう促し、俺はジャキラたち三人の方へと向かった。

 

「……………ッ! チカ、行こう! カロスに!」

「う、うん!」

 

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