「「「ッ!?」」」
ジャキラたちの前に立ちはだかると三者とも目を見開いて動きを止めた。
『「ナニガネライダ」』
「なっ!?」
「話せるの?!」
一声掛けただけでこの反応。
流石にダークポケモンの研究をしているボルグですら尻込みするようだ。
「フッ、人間を取り込んだ化け物風情にとやかく言われる筋合いはない。強いて言えば貴様らのような化け物を排除するため、とでも言っておこうか」
だが、この男だけは変わらない。
恐怖のいうものを感じないのか、はたまたこの程度では恐怖にもなり得ないのか。
まあ、ある意味こいつらも化け物を作り出している側なのだし、このくらいで驚いているようでは話にならないと考えていてもおかしくはない。
「ラブリナ、後は任せた」
「えっ、うそでしょ!? アタシこんな化け物の相手なんか………ッ!?」
「命令だ。捕獲して帰って来い」
「………はい」
ラブリナと呼ばれたピンク髪の女は反論しようとするもジャキラに一睨みされて萎縮してしまう。
『「ニガストデモ」』
「逃げる? 心外だな。我々は帰るだけだ。部下に貴様の捕獲を命じただけで勘違いされては些か憤りを感じるというものだな」
「バシャァァァ!!」
『「コノテイド、ナンテコトハナイ」』
背後からバシャーモが攻撃してきたが、ウツロイドに憑依されている間は飛躍的に感知能力が上がっているため、接近しているのも知覚出来ていた。
人の域を超えたとはまさにこういうことだろう。
黒い触手でバシャーモを薙ぎ払うと、続けてラブリナとかいう女のミロカロスが鳥栖を巻きながら突っ込んでくる。その後ろからは女の元にいるメガニウムの蔓が伸びてきていた。
狙いはミロカロスの攻撃を躱したタイミングで蔓で拘束することだろう。不意を突いたつもりかもしれないが、これでは単調過ぎて面白さの欠片もない。
「舐めんじゃねぇ! ミロカロス、ハイドロポンプ!」
俺がペシッとメガニウムの蔦を弾くと、開いた距離を埋めるようにミロカロスから水砲撃が飛んできた。
『「ミラーコート」』
それを反射してミロカロスに返す。
「メガニウム、やつあたり!」
態勢を立て直して突っ込んでくるメガニウムをよく見ると禍々しいオーラが漂っていた。
なるほど、こいつも堕ちたポケモンか。
『「マジカルシャイン」』
まずは光を迸らせてメガニウムの動きを止める。
『「ドクヅキ」』
そして怯んだ隙に毒を纏った触手を打ち込んで女の方へと飛ばした。
毒状態にはならなかったようで、わなわなと身体を震わせながら徐々に立ち上がっていく。その隣にはミロカロスも戻ってきた。
「メガニウム、はなびらのまい! ミロカロス、ふぶき!」
今度は同時に撃たせてきたか。
だが、何度やろうと同じことである。
『「ミラーコート」』
全て弾き返してメガニウムとミロカロスを襲わせた。
だが、二体が被弾する瞬間、何かが間に割って入り再度こちらに撃ち返されてしまった。
『「サイコキネシス」』
超念力で軌道を逸らすのが精一杯というところで、恐らくただ返されたというわけではなさそうだ。
「カマカマネ!」
ッ!?
この声………まさかっ?!
『「カラマネロ………!?」』
嫌な予感がする。
カラマネロと言えば、カロスの育て屋を襲撃されたり、クチバではウルトラホールを開いてアクジキングを呼び出されてしまった。そのせいでジュカインはアクジキングに食われて命を落としかけるところだったし、その半年後のリーグ大会の最終日にはカーツと共にミアレシティを襲撃してきた。二体ともいたため育て屋の件もクチバの件も繋がっているのは確かで、何ならカーツを捨て駒として使っていたくらいだ。しかも二体とも無駄に強く、そして目の前のカラマネロときた。
ミラーコートで返した技をさらに返してくる感触はあの二体のカラマネロに近いものを感じる。そんな奴がジャキラたちのポケモンとは考えにくい。いや、あるいはカーツのように捨て駒として利用しているか、あるいは三体ともシャドーのポケモンとも考えられるか。少なくとも今この場にいるという時点で無関係ではないだろう。
参ったね。
カラマネロが絡んでいるのは想定外だ。というかウルトラホールを発生させる装置を作り出すようなカラマネロたちが、ダークポケモンの技術まで持ち合わせているとなると、最早俺の手にも負えない規模になってくるぞ。
「カマーネ!」
予想だにしていなかったカラマネロの登場で動きを止めてしまった隙に煙幕を吐かれて、その間にジャキラたちは飛んで行ってしまった。
「けほっ、けほっ………絶対にGOロケット団の戦力になってもらうんだからァ!」
これ以上の深追いはしない方がいいだろう。
ハッキリ言ってジャキラたちよりもあのカラマネロの方が危険だ。深追いすれば何をしてくるか分からない。しかもまだ証拠も揃っていなければ、敵の規模も把握出来ていない。そんな状態で追えば返り討ちに遭うだけである。
シャドーの奴らだけじゃなく、あのカラマネロたちが絡んでいる。それが分かっただけでも大きな収穫としておこう。
というかこいつ今ロケット団とか言わなかった?
もう、訳が分からないよ…………。
『「ダークライ、ザルード、フカオイハイイ。マズハコイツヲツカマエル」』
ダークライと隠れていたザルードに深追いさせないよう次の指示を出すとあら不思議。
一瞬で女の足下から蔦が伸び拘束してしまった。
ポケモンたちの方はダークホールで眠らされたのだろう。
何と呆気ない。
「ふ、ふざけんじゃねぇ! 起きろ、ミロカロス、メガニウム!」
蔦でぐるんぐるんにされてもよく吠える女だな。
面倒くせぇ………。
『「クチゴタエハスルナ。キカレタコトニダケコタエロ」』
「ば、化け物に答えることなんかないわよ!」
声が震えているのに言葉だけは強気なままだな。
ここは一旦心を折るか。
『「ダークライ、ヤレ」』
「ミロカロス!?」
ダークライに片方をダークホールで呑み込ませて、あたかもどこかへ送り込んだように見せる。
『「ミロカロスハメイカイニオクリコンダ。イマゴロメイカイノオウニ、クワレテイルダロウ」』
「な、に……言って………」
『「マズハソシキノナマエカラキコウカ」』
こうして怖い怖い尋問が始まった。
* * *
真っ黒なウツロイドとダークライの圧をちょいちょい見せながら女から聞き出した内容によると、組織の名前はGOロケット団というらしい。だが、その実サカキは無関係であり、ロケット団の名を使うことで表社会にも裏社会にも圧をかけやすく、何かあれば罪をロケット団に擦りつけられるという悪どいやり方をしているようだ。哀れ、サカキ。
そして活動内容はほぼシャドーと同じ。一つ違うのはダークオーラをさらに進化させ、シャドウオーラというものを作り出したらしい。ダークポケモンよりも凶暴になったシャドウポケモンは誰の目にも禍々しいオーラが見えるようになったんだとか。
そして今回のダークルギアは伝説のポケモンにシャドウオーラを付与する実験だったらしい。だが、まだまだシャドウオーラも完璧ではないようで、ダークルギア止まりになり、逆に暴れられて脱走されてしまい、結果こうなったんだとか。
はぁ…………。
思ったよりも規模がデカい事件になりそうである。
ただこの女、アジトの場所は知らないらしい。点在しているというが、そもそも街の名前を覚えていないため、どこにいたのかも定かではないんだとか。全く使えねぇ…………。
ちなみに開会式の日や去年の巨大化現象は「は? なにそれ」と返されてしまい、本当に知らないようだった。
あれはあれで別件ということだろうか。
なに? ガラルって思ったよりも治安悪い?
尋問を終え、下手に吠えられても面倒なので眠らせると、尋問中から感じていた気配がようやく姿を現した。
「ハチ」
「やっぱり見てましたか」
声の主は老人。
「途中からであるがな」
しかも普段の緩い感じではなく、戦闘モードというか本気モードの時のもの。
「ダークライにクレセリア。それにジャングルの主、ザルード。そして何より先程の姿。ハチ、お主は一体何者じゃ?」
爺さんーーマスタード師匠は静かに俺に問いかけてきた。
まあ、ここまで見られてしまったのだし、答えないわけにもいかないだろう。
「墓場まで持っていくと誓えますか?」
「よかろう。誰にも言わぬと誓う。そうでなければワシの命も、なのじゃろう?」
「そうですね。いやまあ、そこまでするつもりはないですけど」
誰かに言ったからといって爺さんを殺すつもりはない。他の奴らに俺の正体がバレてしまった事実は変わらないのだから、殺したところで意味がない。
だから一番いいのは爺さんにも話さないことなのだが、それが出来なくなったため、爺さんには墓場まで持っていってもらうしかない。
「国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係。コードネーム、黒の撥号。それが今の俺です」
長ったらしい役職を噛まずに言えた自分を褒めたい。
「今の、ということは今ではないどこかでは違う名前ってことであるな」
と心の中で自分を褒め称えていると揚げ足を取るかのように爺さんがニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「やはりそうか。カントーポケモン協会本部理事の懐刀、忠犬ハチ公………ヒキガヤハチマン」
「ッ!?」
………………………………。
え、いや、え…………?
どこからその名前が出てきやがった?
寝言で名前を言っていたとか? それとも門下生の中に俺を知っている人物がいたとか?
いや、落ち着け。まずは落ち着け。相手は爺さんだ。ガラルのレジェンドだ。その人脈は門下生の比じゃない。門下生が知っているならば、爺さんが知っていて当然、くらいのところはある人だ。
すー………はー………………。
「………ふー………、いつから気づいてました?」
ヤバいな。
めちゃくちゃ心臓がうるせぇ。血流がめっちゃ活発化しているのが分かる。冷や汗もすごい。カラマネロの登場よりもアドレナリンが出ている気がする。
っべー、マジべーわ。
「今月入ってからじゃ。カロス地方に忠犬ハチ公がいる。そんな噂を耳にして調べたに過ぎぬ。ただ、その顔に見覚えがあったからな」
「なるほど。やっぱりフレア団に絡むと碌なことにならねぇな」
要はこの時期にフレア団とやり合っていたため、そのせいで露出する機会が増えて爺さんのところにまで噂が流れてきたということか。それが気になった爺さんが独自に調べて俺に辿り着いたと。
絶対にバレないとは思っちゃいなかったが、やっぱり顔かー………。ただ、爺さんも俺の言葉尻から「やはり」と言ったくらいだから、顔が同じってだけで同一人物だと断定されるわけでもなさそうではあるか。
けどまあ、顔は要注意だな。
「じゃが理解できぬこともある」
「何故カロスにいるはずの俺がガラルにもいるのか、でしょう?」
正体が分かると次はやっぱり同時期に二ヶ所に俺がいるという矛盾が気になるよな。
「うむ、じゃがこの一ヶ月ジムチャレンジの方では音沙汰なかったのは周知の事実。であればこの間にカロスに行っていたと解釈したのじゃが、相違ないか?」
ジムチャレンジのために島を離れて一ヶ月。
その間にカロスに渡り、フレア団とやり合っていた、と強引に辻褄を合わせようとしたのだろう。
「その筋書き通りであればどんなによかったことか」
少なくとも時間軸的な矛盾がないだけでも俺の存在は説明しやすくなる。
だが、残念ながらそうはならなかったのだ。本当に残念ながら。
「殺されかけて冥界行って、戻ってきたら半年以上経ってるわ、テロが起きるわで、気づいたらそこから三年前にタイムスリップ、なんて話信じます?」
「真に信じがたい話ではあるな」
だろうね。
まず殺されかけて冥界に行ってる時点で、それ死んでね? ってなるし、冥界から戻ってくるっていうのも不可思議だろうし、テロ起きて気がついたらタイムスリップしてるとか、最早小説よりも展開おかしいだろって話になると思う。つまり、ありえねー………というのが普通の人の感想だろう。
「じゃが、それがお主に起きたことともなれば信憑性は高くもなる」
そこなんだよなー。
何で皆俺に起きたこととなると簡単に信じてしまうのだろうか。
「随分と俺を買ってくれているようで」
「お主はグレーで黒ではない。そしてワシが現役の頃に八百長を吹っかけられるくらいには世界は白でもない。それに、お主がグレーになるのは黒に対してのみじゃろう?」
言葉を濁してはいるが、要するにさっきの光景は黒にだけするのだろうと言いたいようだ。
本当によく見ている。
「………全く、爺のくせによく見てますね」
「お主の性格がそう物語っているだけじゃよ」
一体俺の性格のどこからそんな要素が分かるというのだ。
俺は極力働きたくないただのボッチだぞ。折角ボッチ脱却出来たはずなのにボッチに舞い戻ってしまったボッチなんて、性格が一層拗れる以外にないと思うんだけどな。
「………ハチ、お主が強い理由もまだまだ本気を出していないこともよく分かった。じゃが無茶はするなよ。お主も人の子じゃ。殺されかけたと言っていたが、それが二度とないとは限らぬ。このワシにも届くくらいには忠犬ハチ公の名は知れ渡っている。油断は禁物じゃよ」
「うす」
それはカラマネロの登場で改めて感じたわ。育て屋襲撃、クチバジム襲撃、リーグ大会最終日のテロと併せて、殺されかけた時のあの恐ろしさも蘇ったからな。一気に危機感が跳ね上がったさ。
「んじゃ、俺はこれで。こいつを本部に突き出さないといけないですし、報告もしないといけないんで」
未だ眠っているGOロケット団の女を担ぎクレセリアに跨る。
「うむ。皆にはハチに助けられた、とだけ伝えておく」
「あー、それなんですけど、特にミツバさんが心配してましたよ。師匠は様子見に行ったまま帰ってこないし、何が起きているのか分からないしで、俺に助けを求めるくらいには切羽詰まった感じでしたから」
ここに来たのも元はと言えばミツバさんにSOSを出されたからだし、出したのに来てないってなると信用を失いかねないからな。一応来たことだけは爺さんからも伝えておいて欲しいところではある。が、それ以上に爺さん本人にミツバさんを安心させてやって欲しいというのが正直なところである。
「なるほど、それで島に戻ってきたというわけか」
「ええ、しかも原因がルギアともなればこの島では師匠くらいしか無理だろうし、その師匠も歳を考えると余裕はないだろうと踏んで実際に手を出したってわけです。それに昨日偶々ダンデと会って、今日はマクワの親子対決がある日だって言ってたんで、ダンデ以下ジムリーダーたちは即刻動けるような状態ではないと思いましてね。まあ尤も、俺も島近くに来るまで原因がルギアだと知りませんでしたけどね」
「来れていたとしても彼らには荷が重かったじゃろう。それくらいアレは化け物染みていた」
それは俺も思う。
いいとこダンデが技の応酬を出来るかくらいだろうからな。
ましてやダーク化していたのでは、よく知らないであろうダンデたちではその余裕すらなかったかもしれない。
何はともあれミツバさんの判断は結果的に正しかったと言えよう。
「つーわけなんで、色々と報告はそっちでしといて下さい。どうせ俺が来ていたのなんてダンデたちは知らないのだし」
「うむ、相分かった。ハチもしっかりな」
「ええ、今度こそジムチャレンジを始めますよ」
はぁ、まだまだ調べることは出てくる一方ではあるが、これでやっとジムチャレンジが始められそうだ。