ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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8話

『「ソレジャア、ヤルトシマスカ」』

「サナ!」

 

 サーナイトが落ち着きを取り戻した頃を見計らい、ダークライ相手にメガシンカの特訓を始めることになった。相変わらず観戦に回っているおっさんたちが酒が飲みたいだの言い出したが、無視だ無視。そんなもんがこんなところにあるわけもないし、さっさと成仏するなりしなさいよ。そんなに今の生活が楽しいのかよ。…………俺が来るまでよりは遥かに今の方が刺激はあるな。俺が戻ってから何もやらかさないといいが………心配だ。

 

『「サーナイト、イッパツデデキルトハオモウナヨ。スコシズツデイイ。イママデミテキテイタモノノホウガ、オカシイレベルナンダ。キラクニイクゾ」』

「サーナ!」

『「ヨシ。ンジャ………サーナイト、メガシンカ」』

 

 意識はズボンのポケットにあるキーストーンへと向ける。

 

「サーナーナーナーナーナーッ!」

 

 同じようにサーナイトもメガストーンへと意識を落としていっている。

 するとピカッ! と二つの石が光を発した。

 だが、それだけ。共鳴し、二つの石が持つエネルギー同士が結びつくという現象は起こらなかった。それが起こらなければメガシンカが始まらず、姿が変わることがないのだ。

 

「………サナ?」

『「ダイジョウブダ。マズハオタガイニ、キーストーントメガストーンニイシキガイッテイルノハカクニンデキタ。アトハイシニコメラレテイルチカラト、ウマクユウゴウデキルカダ。イッパツデデキテイタアイツラガイジョウナダケデ、コレガフツウダトオモウゾ」』

 

 ここはマイナスな言葉をかけず、何度失敗しても褒めていかないとだよな。誰だって、悪い点ばかり指摘されてたらモチベーションが下がる一方だ。それよりも小さい変化でも褒められる方が嬉しいし、やり切ろうって気持ちにもなっていく。しかもサーナイトは進化こそしているものの、中身はまだ子供。まだまだ褒められる方が楽しんでくれるはずだ。

 それにしてもアイツらは異常だったよな。リザードンはまだ理解出来なくもないが、ジュカインといいヘルガーといいボスゴドラといい。知りもしないメガシンカのエネルギーに、よく一発で合わせられたよな。ユキノのボーマンダでもメガシンカこそ出来たはものの、暴走寸前って感じで危うかったし。これまでの経験の違いって奴で片付けていいものなのかね………。

 

『「サーナイト、モウイッカイダ。ツギハ……メモツムッテヨリフカクイシニシュウチュウシテミロ」』

「サナ? サー………ナー…………」

 

 サーナイトに次のポイントを授けると深呼吸をして先程の声を出すこともなく、只々意識をメガストーンへと落としていった。

 俺ももう一度やるとしますか。

 

『「…………サーナイト、メガシンカ」』

「ッ!!」

 

 先程同様ピカッ! と光り、共鳴を始めた。しかし、お互いの石から発せられるエネルギーが結び付くまでには至らない。サーナイト側からのエネルギーが弱かったというのもあるが、俺の方から発せられたエネルギーも互いの中間地点にまで達さなかった。

 いつものようにやってはいるんだがな。ウツロイドに憑依されているのが、エネルギーの隔たりになってたりするのだろうか。それだとサーナイトにもウツロイドにも申し訳ないないな。ここは俺の方でも意識して調整していく必要がありそうだ。

 

『「サーナイト、イイカンジダゾ。ニカイメデエネルギーヲトバスコトガデキタンダ。ツギハソノエネルギーリョウヲイジデキルヨウニシテミヨウカ」』

「サナサナ!」

 

 とはいいつつもどうしたものか。エネルギーの調整なんてどうやってやるんだ?

 感覚的な事ほど説明に困るものはないな。

 取り敢えずメガシンカは極論、トレーナーへの絶対的信頼とポケモンへの絶対的信頼があれば、例えばキーストーンもメガストーンが無くとも成せる代物だと考えている。その例がゲッコウガだ。あいつは特殊な事例ではあるものの、その一端を俺にアクセスし直接繋がることで、石を媒体とせずメガシンカ擬きに至った。そこからは特性を書き換えたり異常なことが重なったが、石を媒体としないデメリットもしっかりと見せてくれている。ゲッコウガが受けたダメージの感覚が俺にも伝わって来るというものだ。ズキンズキンズキンズキン、次から次へと攻撃を受ける度に痛みが走り、痛いわびっくりするわ大忙しだった。今では独立してくれて、特性として確立させているが、当時はマジで怖かった。夢中だったからどうにかなったんだ。そういうことにしておこう。

 話を戻すと、メガシンカは人間とポケモンの気持ちの問題ってわけだ。ゲッコウガは探究心を軸に何が何でも新たな力を手に入れてやるという思いで突き進んだ。リザードンの時は最初から暴君様相手だったから何が何でもという気持ちがあったのかもしれない。ただ、もっと過去にもメガシンカしてたりするのだが、その時も負けたくないという思いがあったりしたのだろうと思う。

 超ザックリではあるが、そういう足掻く気持ちでメガシンカの力に食らいつかなければ、そもそも入り方が見つけられなのかもしれない。あと考えられるとすれば、メガシンカそのものに絶対的信頼を抱けるかどうか。新たな力に呑まれるという恐怖に苛まれていては、逆に力に呑み込まれてしまう。何なら新たな力に触れることさえ叶わないかもしれない。今のサーナイトはもしかするとこの辺のことが無意識下で働いている可能性がある。

 何度か続けてその辺も検証していくとしよう。

 

『「モウイチドダ。サーナイト、メガシンカ」』

「サッ!」

 

 

 

   ✳︎   ✳︎   ✳︎

 

 

 

 あれから五回目くらいでようやく波長が揃い、九回目で共鳴が激しくなり、十一回目を前に一度休憩を挟んだ。ここまでで分かったのは、やはりポケモンがメガシンカの力に対して絶対的信頼を持っていなければならないということだった。メガシンカは絆の証。つまりは信頼度。その信頼度が何に対してのものなのかが重要なのだと思う。一つ目は自分。二つ目はトレーナー。そして三つ目にメガシンカの力。この三つに対する信頼度が深くなければ、エネルギーが作用しないように見えて来た。詳しいデータもなければサーナイト限定かもしれないから何とも言えないが、持ち帰って変態博士に検証してもらう価値はあるだろう。

 とはいえ、着々とここまでメガシンカに近づいて来ているのは素直に凄いことである。物覚えがいいからなのか、あいつらに影響されているからかなのか。一つ言えるのは身近にたくさんのメガシンカを可能とするポケモンたちがいたことで、具体的なイメージが持てていることが大きな要因である。しかもこっちに来てからはダークライとクレセリアによる英才教育。エリートコース真っしぐらとも来れば、ここまでの結果を出せたのも頷けるというもの。

 

「サナ」

『「ダイジョウブダ。チャクチャクトデキアガッテキテイル。サイショヲオモイダセ。ピカットヒカッタダケダッタンダゾ? ソレガアトイッポッテトコロマデキタンダカラ、アセルヒツヨウハナイ。ナガレルヨウニ、シゼンニミヲユダネルコトガデキレバ、メガシンカデキルヨウニナルサ」』

 

 道筋は見えて来ている。

 だが、焦りは禁物だ。

 他の意見も参考にしてみよう。

 

『「アンタラカラミテドウダ?」』

「んあ? ああ、まあ、いいんじゃねぇか? 筋はあるし、後は思い切りだろ」

「メガシンカはある意味で弾けますからね。サーナイトが自らの殻を破る時、メガシンカすると思いますよ。なんたって、進化を超えたメガシンカなのですから」

 

 進化を超えたメガシンカ、か。

 なるほど、キャッチコピーは伊達ではないようだ。あの変態博士もそこまで考えてあんなキャッチコピーを一緒に発表したのだろうか。そうだとしたら何て曲者なのだろうか。普段はあれだけヘラヘラっとしているのに、やる時はやるってところが妙に腹が立つ。これは最重要の帰宅案件だわ。

 

『「イクゾ、サーナイト。…………シンカヲコエロ、メガシンカ!」』

「サッ!」

 

 サーナイトも話を聞いていたらしく、エネルギーの波長を合わせ二つの石を共鳴させると、放たれるエネルギーを自分の方へと引き寄せ始めた。俺も意識をサーナイトの方へ向けてみると、確かに何かにエネルギーが阻まれているように見えて来た。アオギリの呪いではないだろうし………話は真実なのかもしれない。

 

「サーナ、サーナ、サーナ、サーッ!!」

 

 と、突然サーナイトが雄叫びを上げるとパリン! とガラスが弾けるような音がして、その風穴からどんどんエネルギーが吸い込まれ始めた。

 これは、いける!

 

「サナァァァアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 ッ?!

 これは………?

 サーナイトがとうとう白い光に包まれていっている。あとはエネルギーをコントロール下におくだけだ。ただ、それよりも気になるのが辺りがピンク色のエネルギーに染められた方が気になる。一体これはどういうことだ? 今までのメガシンカにおいてこんなことはなかったぞ?!

 

「「おおーっ!!」」

 

 あ、おっさんズも食いついて来た。

 

「サナーッ!」

 

 どうやら成功したようだ。

 サーナイトの姿がロングスカートを穿いたような姿になっている。より上品になった姿と言ってもいい。

 これで一先ずメガシンカを習得出来たな。あとは姿を維持したままバトルし、暴走しないように力をコントロール出来るようにならないとだ。これはダークライがこれからみっちり鍛えてくれるだろう。だから俺たちも遠慮せず、全力をぶつけるまでだ。

 

「おい、つかこれは何だっ!」

「………メガシンカをしただけではこのようなことは起こり得るはずがないのですがね。技で考えるとすれば、サイコフィールドかあるいはミストフィールドといったところでしょうか」

 

 サイコフィールド、もしくはミストフィールド。

 俺もその可能性は疑っている。しかし、メガシンカ直後だぞ? 殻を破るために放出したエネルギーがフィールドへ変化を与えてしまったと考えるしかねぇじゃねぇか。

 まあいい。これが何なのか、バトルしていれば分かることだろう。

 

『「ダークライ」』

「ライ!」

 

 ダークライの方を見て確認を取ると、いつでも来いと頷き返して来た。

 

『ヨシ。イクゾ、サーナイト。マズハ、デンジハ」』

「サーーーー、ナッ!」

 

 遠慮なく始めさせてもらったが、初手からサーナイトの動きが早くなっている。何度も使い続けて徐々に電気の波を送り込む速度が上がって来ていたのが、ライフルショットのようにパシュン! と放たれた。

 

「ライ」

 

 それをダークライは身動き一つせず、身体で受け止める。

 効果は…………ないか。

 つまりはこの辺り一面に広がるピンク色のオーラはミストフィールドということで決定だな。ミストフィールドには主に二つの効果があり、一つがドラゴンタイプの技の半減、もう一つが状態異常にならないというものである。ちなみにサイコフィールドはエスパータイプの技の威力を上げる効果と、急加速を出来なくしてでんこうせっかやしんそくといった技をただの突進へと変える効果がある。加速しないただの突進なら躱すことも容易い。ただどちらも辺り一面に広がるオーラに触れていなければならない、という条件の下であるが。

 

「………ミストフィールドで決定ですね」

『「サーナイト、ダークライヲジョウタイイジョウニハデキナイミタイダ。タダ、ソレハオマエニモイエルコトデハアル。ダカラムズカシクカンガエナクテイイ。トニカクセメルゾ」』

「サナ!」

 

 ポケモンは進化の際にも新しく技を覚えることがあるが、初メガシンカで技を覚えるなんて話は聞いたことがない。特殊なケースとして認識しておくべきだろう。

 サーナイトは敬礼をしてダークライの方へと向き直った。

 

『「ムーンフォース」』

 

 月のエネルギーを凝縮しダークライへと放つ。威力はこれまで見たものよりも格段に上がっている。撃ち出し速度も然り。

 ダークライが黒いオーラで受け止めたものの、それを突き破ろうとしている程だ。ダークライも一瞬顔を顰めていたくらいヤバいらしい。

 

『「リフレクター」』

 

 防御面の確認のため、リフレクターを張らせると、これもまたデカくなっている。そして分厚い。

 メガシンカ状態をここまでじっくり観察するのってリザードンの時以来じゃないだろうか。ゲッコウガとジュカインはメガシンカする前から既に規格外だったし、ヘルガーとボスゴドラもメガシンカしなくとも充分強かった。

 正味、今は初心者トレーナーの気分である。環境はベテラン以上だけども。

 

『「モットイッパイダセルカ?」』

「サナ!」

 

 コマチがカマクラによく使わせる複数枚同時出しをやらせてみることにした。

 これがまあポンポンポンポン作り出されていくのなんの。合計で………十枚はいったな。もはやカマクラのお株を取ってしまいそうな勢いだ。

 

『「リフレクターヲツカッテ、サイコショック」』

 

 その十枚のリフレクターをサイコパワーで操作して、ダークライを取り囲んでいく。くるくると周囲を回るリフレクターに警戒し出したダークライ。いつ来るのかとタイミングを見計らっているのだろう。

 

「サーナ!」

 

 サーナイトの合図で一斉に突撃していくリフレクターたち。この表現だとまるで生き物のようだな。

 

「ライ!」

 

 だがしかし。くるっと一回転したダークライにより全て粉々に砕かれてしまった。

 お前、かわらわり使えたのかよ。

 

『「サーナイト、ハヘンヲツカッテモウイチドダ」』

「サーナ!」

 

 この戦法はやはり鬼畜だと思う。一度防いだと思ったら、粉砕したがために無数の破片へと変え、新たなる攻撃材料にしてしまうんだからな。相手からしたら嫌なやり口だわ。考えたのがコマチという、我が妹ながら何という恐ろしいさ。

 

「ライ!」

 

 ダークライは一度超念力で全ての破片を受け止め、黒い穴で吸い取ってしまった。

 

「ライ」

『「ッ!?」』

 

 そして、サーナイトの背後に黒い穴を再度作り出していく。

 

『「サーナイト、マモル!」』

 

 ダークライもメガシンカする前とは数段ギアを上げて来たみたいだな。それだけのパワーが今のサーナイトにはあるということだ。

 振り返りながらドーム型の防壁を張るサーナイト。そこへ流星群の如く無数の破片が降り注いでいく。

 

「ーーーサナ………ッ!」

 

 守れてはいるが、自分の攻撃を受けるというのはサーナイトも初めての経験で驚いているようだ。動揺が身体に滲み出ている。

 

「ライ!」

 

 そしてそれを見逃すはずもなく、ダークライはサーナイトの背後へと移動し、右腕に紫色のオーラを纏った。

 どくづきかとも思ったが、あれは拳の先に毒を纏う技。腕ともなれば違う技ということだろう。

 

「サナ!?」

 

 撃ちつけられた衝撃で防壁が崩れ、残りの破片を受けてしまった。ダメージは大したことないだろうが、サーナイトの心に余裕がなくなって行っているのが分かる。このままだと焦りから力に呑まれて暴走する可能性がある。ここは抑える必要があるな。

 

『「サーナイト、テレポートデキョリヲトレ。ソシテ、シンコキュウスルンダ」』

 

 追撃を避けるためにも一度距離を取らせて落ち着かせた。

 流石に暴走されては困る。ドラゴンタイプでもないため、暴走する力を利用してげきりんを使うってことも出来ない。ユキノのボーマンダの時は運が良かったとも言える。

 

『サーナイト、アセリハキンモツダ。ダークライモオマエノチカラニアワセテギアヲアゲテキテイル。ダカライロイロナテヲツカッテシカエシテクル。ソコハオサエテオケ」』

「サナ………」

 

 メガシンカしたことで、サーナイトはようやくダークライに追いつけたと思ってしまったのかもしれない。それだけダークライとはバトルをして来ているし、攻撃を当てて来た。

 それがあっさりと反撃されたことに多少なりともショックを受けているのだろう。

 単純と言えば単純だが、子供というのはそんなもんだ。そこが可愛いまである。

 

『「ダイジョウブダ。ヤラレテモヤリカエセバイイ。ソウヤッテツヨクナッテイクモノダ。ダカラ、モウイチドイクゾ」』

「サナ!」

 

 やり返せばいいというフレーズに、気落ちしかけたサーナイトに闘志が戻って来た。やっぱり単純だな。可愛いわ。

 

『ヨシ、ミストフィールドモキエタコトダ。ウゴキヲトメルゾ。デンジハ」』

「サーーーー、ナッ!」

 

 ーーーそれからどれくらい経っただろうか。只管メガシンカ状態でのバトルをやっては休憩を繰り返し、皆が皆メガシンカ状態のサーナイトに夢中となり、時間の感覚が一層なくなって来た頃。

 

「ギィナァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 ーーーお客様が来た。

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