ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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やっとジム戦が始められそうです。
長かった………。


73話

 ダークルギアがカロスに向かった翌日。

 壱号さんに連絡してGOロケット団の女を引き渡した俺は晴れて自由の身となり、早速ターフジムの予約を入れることした。

 

「いらっしゃいませー。今日はどういったご用件でしょうか?」

「あの、今日の最終でジム戦の予約空いてますか?」

「チャレンジャーの方ですね。本日の最終は十八時からとなっていますが、そちらでご予約取られますか?」

 

 十八時か。

 まあ、その時間なら観客も少ないだろ。

 

「じゃあそれでお願いします」

「かしこまりました。それではトレーナーカードの提出をお願いします」

 

 トレーナーカード?

 ああ、なんか開会式の日に受付でユニフォームと一緒にもらったな。

 

「これでいいですかね」

「あ、大丈夫ですよー。確認しますね」

 

 受付のお姉さんはカタカタとキーボードを鳴らして認証確認をしていく。

 

「お名前はハチさん………ふぁ?! マジか、推薦者ヤバ………」

 

 おーい、心の声漏れてますよー? しかも地声になってますよー?

 やっぱり爺さんの名前は相当ヤバいみたいだな。爺さんがチャンピオンだったのって随分前の話だろう? ダンデの何代前かってレベル。それでもこの反応されるってのはなかなかないと思うぞ。それだけガラルの人間にとっては忘れられない偉人ってことなのだろう。

 …………普段があんなノリの軽い爺さんなため、同一人物だとは思えないがな。

 

「はい、登録完了です。準備もありますので、一時間前にはお越しください」

「うす」

 

 これで無事受付も終えたようなので、ターフジムから出てのんびりと町を散策することにした。

 特に当てもなく歩くこと十分。

 段々と建物も少なくなり、広大な田畑が見受けられるようになってきた。

 最早農場だな。いつの間にか農場に足を踏み入れていたんだと思えるレベル。

 爽やかな澄んだ風が花を揺らし、その風に乗ってココガラたちが飛んでいく。

 これぞ、ザ・田舎って感じでいいな。エンジンシティにはない光景だ。海と陸の違いはあれど鎧島にいた気分になれる。

 

「おや? こんな田舎町に観光ですかぁ?」

「あ、いや、まあ、はい」

 

 すると突然声をかけられてしまい、つい返答してしまった。

 未だに慣れない。こういう時咄嗟に反応出来ればいいのだろうが、やはりそこはボッチ気質の俺だ。無理難題と言えよう。

 

「この町は特にこれといったものがないんですわ。見渡す限り、農地ばかりじゃ。かくいうぼくも農家の生まれでこうして畑を耕しとるんですよ」

 

 俺よりいくつか歳上っぽいガタイのいい青年が、汗を拭いながら辺りを見渡す。

 そして近くにあったネギを掴むと一気に引っこ抜いた。

 

「ほら、これとかどうです? いい感じのながねぎに育ったと思いません?」

 

 俺は農業なんておろかプランターですら育てたことないんだから、ネギの良し悪しなんて分かんねぇよ。

 

「生でいけますんで齧ってみてくださいな」

 

 手渡されて仕方なしに齧ってみる。

 

「………意外と甘い」

 

 甘い。

 採れたて新鮮だからか瑞々しさもあり、辛味を感じない。歯ごたえもあり、シャキシャキと口の中で咀嚼音が響いていく。それでいて野菜本来の柔らかさはあるため終始ネギを楽しめる。

 

「でしょう? これをもう少し育てて食うのに適さなくなるとカモネギが好む硬さのながねぎになるんですわ。しかもガラルのながねぎは太くて長いという特徴がありまして、ガラルのカモネギもこの太くて長いながねぎを振り回すんですよ」

 

 ガラルのカモネギ………か。

 確かあの会議で登場してたっけか。ガラルのネギは太くて長い品種で、そのながねぎを振り回す内に独自の変化を遂げたとか。

 これを振り回すねぇ…………。

 

「飛ぶことを諦めてでもながねぎを振り回すことに専念したら、進化するにまで至ったんでしたっけ。確かネギガナイト」

 

 齧ったネギを振り回してみてもよく分からない。

 これを武器として扱うカモネギは頭おかしいんじゃないかとさえ思えてくる。普通にいわタイプとかはがねタイプに突き刺したら強度の問題でネギの方が負けそうなんだけどな。

 原種の方にしたって…………そういやあっちのカモネギって持ってるだけじゃね?

 

「おお、よくご存知で。そうじゃ、ガラルのカモネギはかくとうタイプ。飛ぶことを諦めてながねぎ一本で戦い抜き、相手の急所を見抜けるようになると進化するんです。不思議な生き物ですよね、ポケモンって」

「そうっすね。人間の言葉を理解し、人間が科学を以て何とか生み出せる力を難なく発揮して超常現象を生み出せるとか、どう考えても人間よりも上位種の生き物って感じがしますよ。それなのに俺たちの手持ちのように人間を主とすることもあるんだから、よく分からん生き物っすね」

「はははっ、人間の上位種ですか。そんな表現をしたのは君が初めてじゃ。なるほど、確かに納得ですわ。ぼくらはポケモンたちの足元にも及ばない。昔はポケモンを崇めて信仰する地域もあったって話ですからね。それがいつしか人間が科学を手にすようになり、ポケモンたちを下に見るようになってしまった………」

 

 この人、結構ポケモンに詳しいんだな。

 ただの農家の青年って感じなのに、いやそれにしてはガタイが良すぎるか。もしかすると兼業農家ってやつなのかもしれない。

 

「君にとってポケモンとは何です?」

 

 すると農家の青年はそんなことを尋ねてきた。

 

「何でしょうね。ポケモンによってそれぞれ違う感覚はありますし。俺の半身だったり相棒だったり右腕だったり娘だったり。いつの間にかボールに入っていて、俺も特に追い出すとかはするつもりがないからそのまま一緒にいますけど、未だによく分からん奴もいるんで。まあ、でもやっぱ家族ってのが一番しっくりくるんじゃないっすかね。友達っていう人もいますけど、俺にはちょっと違うなって」

「家族ですか。そりゃいい。ぼくらもそう感じる時は多々ありますよ。一緒に育って一緒暮らして一緒にバトルして。自分のポケモンたちの方が家族よりも長い時間を一緒に過ごしてるってこともありますからね」

 

 確かにな。

 流石にまだ親よりは短いが、付き合いの長さではリザードンが一番だ。だからこそ、こんな一年以上も離れ離れになったのなんて初めてだし、半身がなくなったような感覚がある。多分俺の身一つでこんな状態になっていたら、精神状態も不安定になっていただろう。

 そうなっていないのはサーナイトが飛び込んできてくれたおかげだろうな。俺の最高の癒し枠だ。ありがとう、サーナイト。

 

「うーん………」

 

 ……………。

 それにしても何だろうか、この感覚。妙に馴染みがあるというか、聞き覚えのある質問をされたというか、こういうことを聞いてくるような人って大体、ねぇ。

 いくら兼業農家だと言っても普通のトレーナーがそんなことを聞いてくるかね…………。

 

「どうかされましたかぁ?」

 

 じっと麦わら帽子の下を見つめる。

 穏やかな顔でこっちを見てくるが…………あぁ、なんか見覚えあるわ。

 確かエンジンジムで…………。

 

「………ジムリーダー?」

 

 なんかいたような気がする。

 そもそもジムリーダーの顔で覚えているのってカブさんとルリナとメロンさんとキバナくらいだし。残り半分は魔女と腹筋がすごい女の子とガタイのいい青年だったはず。

 多分あのガタイのいい青年だわ、この人、

 

「ふはははっ、バレてしまいましたかぁ。そう、ぼくがこのターフタウンのジムリーダー、ヤローといいます。さっきは何もないと言いましたけど、今日の夜は久しぶりにジム戦を申し込まれたようでしてね。よかったら見てってくださいな」

 

 どうやらビンゴだったらしい。

 なるほど、ジムリーダーだったのか。

 そりゃ、ポケモンにも詳しいし、妙な質問をしてくるわけだ。

 

「グメェ……」

「おや? ウールー、どうしたんじゃ?」

 

 ようやくモヤが晴れた気がしていると、足下に一体の白い毛玉が擦り寄ってきた。

 

「グメェ、グメェ」

「グメェ、グメェ、グメェ」

「「「グメェ!」」」

 

 と思いきや次々と白い毛玉がこっちに押し寄せてくる。

 

「え、ちょ、え、なっ?!」

 

 一歩二歩と後ろにずり下がり距離を取ろうとするも、あっという間に囲まれてしまった。

 

「怖い怖い怖いっ。急に押し寄せてくんなっ」

 

 取り囲まれたかと思うと今度は一斉に俺に突っ込んできた。

 いや、ちょ、おわっ!?

 

「「「「グメェ!」」」」

 

 最早ホラーだわ。

 こんな白い毛玉たちに取り囲まれて押し倒されて舐め回されて………。

 

「あれまあ、まさかウールーたちが一目で気にいるとは。君、ウールーと相性いいんですねぇ」

「いや、知らねぇし。つか、ちょ、マジ助け………うぷっ!?」

 

 やっべ、視界が白い毛玉に覆われちまった。

 何も見えねぇ。てか、目に毛が入りそうで開けてられねぇ。

 

「おい、ちょ、バカ、ぐふぅ………重い…………」

 

 ちょ、バカ、乗るじゃない!

 腹、腹が………ふぉぉぉぉっ?!

 

「「「「グメェ」」」」

「ギブ、ギブ! 流石に死ぬっ!」

 

 何でこんな目に遭わなきゃならんのだ。

 あっ、ちょ、爪が………!

 引っかかってる! 引っかかってるから!

 

「………獣臭ぇ」

 

 痛いわ重いわ獣臭いわで何もいいことねぇな。

 さっさとここから出してくれ…………。

 

「はっはっは、そりゃポケモンですからねぇ。ほら、ウールー。一旦その人から離れるんじゃ」

 

 ウールーか。

 島にもいたような気がすることもない。

 頭働いてねぇな。

 獣臭さがトドメになった気がする。

 

「ハァ………ハァ…………クソ柔らかいくせにあんだけ迫られたら重たすぎるわ…………」

 

 毛玉の感触自体は気持ちよかった。ふわふわしていて布団に包まれているような温かさだった。

 だが、それ以上に痛いわ重いわ臭いわそれどころじゃないのが解せん。

 

「柔らかいでしょう? ウールーの毛は定期的に毛刈りをしてエンジンシティにある製糸場で糸になるんですよ。ガラル地方の南にあるハロンタウンってところでもウールーを飼育してましてね。そことうちがウールー糸の生産地で有名なんですわ」

 

 まさに田舎の特産品って言ったところだな。

 

「製糸場作られた糸は服飾系の会社に卸されて、こうしてぼくらが着ている服に様変わりってわけです」

 

 だが、原産地がなければ物は造られない。

 ある意味ここはガラルの産業を支えている町の一つというわけだ。

 

「あとは色々なきのみや花畑を作ってますわ。そこに群がるポケモンたちもいますんで、結構この町では花畑が必要だったりするんですよね」

 

 それは見れば分かる。至るところに花畑はあるわきのみ農園はあるわで農業としては色んなものに手を出している印象を受ける。

 

「くさタイプのポケモンたちがよくそのお気に入りの花畑にやってきて蜜を吸ったりしててですね。これがまた可愛いですわぁ」

 

 ガタイがいい体育会系の身体しているのに、中身は超ピュアだな。

 ダンデやキバナとは大違いである。

 

「そういうのを見て育ったんで、ぼくもくさタイプのジムリーダーになったってわけです」

 

 まあ、この環境下ではくさタイプやむしタイプとの触れ合いが多くなるだろうし、自然とくさタイプのジムリーダーを目指すようになるのも頷ける。逆にほのおタイプ専門にします! とかになったら、花畑とかが燃やされそうなイメージだわ。そんなことする奴は絶対いないだろうけど。

 

「長閑な町といえば聞こえはいいですけど、これくらいしかありませんからね。若者にとってはちょっと寂しい町なのは確かですわ」

「………いいんじゃないですかね。田舎は何もないって言いますけど、何もないってのが売りなんですから。都会に疲れた奴が移住するのにはもってこいの場所じゃないですか。下手に都会被れするよりはずっといいと思いますよ」

「やっぱり君は考え方が違いますね。何もないのが売りって初めて言われましたよ」

 

 ヤローさんは「ははぁ」と口を開けて驚いている。

 そんな驚くようなことは言ってないと思うんだけど。それもこれもカロスでのミアレシティとヒャッコクシティの復興を垣間見ての感想でしかない。

 尤も、ヒャッコクシティはここよりももっと都会ではあったがな。

 

「それにしても君は本当にウールーに好かれてますねぇ」

 

 いや、ほんと。

 一旦離れてくれたってのに、さっきからまた取り囲まれてるんだわ。

 

「人懐っこいポケモンなんじゃないですか?」

「確かにウールーは人懐っこいポケモンではありますけど、これはどう見ても異常の域ですわ」

「あ、やっぱり………?」

 

 ウールーを知る人からでもこの状況は異常ともなれば、やはり俺がおかしいのだろうな。

 とは言われても俺にはどうすることも出来ない。

 

「ポケモンは心の優しさに敏感な生き物でもありますからね。君がそれだけ心の優しい方なのだという証ですよ」

「心優しいねぇ………」

 

 心優しいからこんなことになるとか言われてもただただ困るだけなんだよなぁ。

 

「おや? 嬉しくありませんか?」

「こう言っちゃなんですけど、俺の仲間に手を出したら、例えそれがポケモンでも容赦無く切り捨ててきたし、これからもそうするつもりなんですよね。だからそんな聖人君子みたいな人間じゃないし、取捨選択をする弱い生き物ですよ」

 

 本当に心優しい人間ならば、仲間に手を出した奴ですら手を伸ばして仲間にしてしまうのだろうが、俺はそうじゃない。そこまで出来た人間でもないし、そこまでやる意味を持たない。

 

「君のお仲間さんたちも大変そうですねぇ」

「何でだよ」

「いやぁ、別にぃ」

 

 なんか含みのある言い方だな。

 そういう目、コマチとかによく向けられていた気がする。

 ………コマチか。もう一年以上も会ってないんだよな。コマチ含めてあいつらに。下手したら二年くらい経つのか。カントーを回ってた頃は最初のしばらくは自宅から行ける範囲でジム戦に行ってたけど、そこから本格的にジムを回るようになってからは何やかんやで帰れなかったし、結局三年くらいは帰ってないのに寂しいとかは思わなかったんだよな。生き延びるのに必死だったってのもあるだろうけど、多分コマチだけならこんな感傷に浸ることもなかっただろう。それが今やあいつらに会えないだけでこうも弱音が漏れてくるとか、俺も弱くなったなとは思う。

 リザードンだけじゃなくてあいつらも家族そのものだからな。やっぱり会えないというのは堪える。

 

「君とは一度バトルしてみたいものじゃ」

「今日はジム戦があるんでしょ? だったらこんなところで野良バトルなんかしてたらポケモンたちが疲弊しますよ。それにジムチャレンジ中にジムリーダーが野良バトルしてたら問題でしょうに」

「はははっ、確かに。では、ジムチャレンジが終了したらどうです?」

「まあ、その時は前向き検討する方向で調整するようにしますよ」

「こりゃ手強い」

 

 だって、どうせ今夜バトルすることになるのだし。

 それにこの人とジムチャレンジ後のバトルの約束を確約したなんて話がダンデの耳に入ってみろ。絶対に次はオレとバトルだ! とか言い出し兼ねないし、それを見てたルリナとかカブさんも便乗してきそうだからマジで保留でオナシャス。

 

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