ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

82 / 154
74話

「では、ジムチャレンジミッションを始めます!」

 

 夜になり。

 ジムに舞い戻り、背番号8の白いユニフォームに着替えてガオガエンの覆面を付けて待機していると、ミッション場に案内されてルール説明された後、合図とともにミッションが始まった。

 ミッション内容はウールーたちを追いかけて全員を柵に追い込む、というもの。途中にはソニアも連れていたワンパチが横槍を入れてきて、ワンパチから逃げるウールーたちの習性を活かして邪魔してくるらしいが、嫌な予感しかしない。

 

「グメェ」

「グメェ」

「グメェ」

 

 ああ、ほらやっぱり。

 柵から解き放たれたウールーたちが一目散にこちらへやってくるではないか。

 このままゴールの柵まで走り抜ければ全員着いてきて柵の中に入れられるんだろうけど………最早逃げてる構図でしかないんだよなー。

 

「んな悠長にしてはいられないか」

 

 あれこれ考えていては昼間のように取り囲まれてしまうだけだ。一応制限時間もあるみたいだし、さっさと終わらせよう。下手したら埋もれて時間オーバーとかになり兼ねない。昼間のことを思うと取り囲まれたら尚更。

 

「グメェ」

「グメェ」

「「「グメェ!」」」

 

 俺が走り出すとウールーたちが丸まってゴロゴロと着いてくる。白い毛玉に追いかけられる覆面男ってどうなんだろうな。普通逆だよな、こういうのって。

 

「ワンパチ、妨害だよ!」

「ワ、ワパワパ! イヌヌワン!」

 

 ………………。

 効果ねぇ!

 

「効果ねぇぇぇぇっ?! うっそーっ!?」

「ワパゥ」

 

 ワンパチに指示を出しているお邪魔要因のお姉さんも心の声がダダ漏れである。

 ワンパチなんか出番がスルーされたみたいでしゅんとしている。

 デスヨネー。

 俺も今そんな気持ちだわ。

 他のスタッフたちもポカンとした顔で俺たちを見ている。

 一目散に俺のところに向かって来すぎだろ。

 

「「「グメェ! グメェェェ!」」」

 

 一直線にゴールの柵の奥に走り込むとあっさりとウールーたちは柵の中に入ってきた。

 よっしゃー、これで終わりーっ! かと思いきや、一体だけ中間付近でその場から動いていないウールーが取り残されていた。

 

「マジか………」

 

 あれ、も連れてこないといけないんだよな?

 

「スタッフさん、一旦柵閉めといて」

「あ、はい!」

 

 多分俺があそこまで戻るとせっかく柵の中に入ったウールーたちが出て来ちゃいそうだからな。

 一旦閉めといてもらわないとやり直しになってしまう。

 そのまま動かないウールーの方へと駆け寄ると、ようやく俺に気付いたのかこちらに顔を上げてきた。

 

「どうした?」

「……グメェ」

 

 何とも力のない鳴き声である。

 というかモコモコの毛が乱れに乱れまくっている。

 恐らく、あの大群の中でリズムが乱れ、後続のウールーたちに踏みつけられたのだろう。

 ってことは怪我してるとか?

 

「怪我してるなら見せてみろ」

 

 そういうとゴロンと仰向けになり後ろ足を見せてきた。

 いや、そんなあっさりと見せて大丈夫か? 俺のこと信用しすぎじゃね?

 あ、右の方が赤くなってるわ。

 

「キズぐすり………は荷物自体ロッカーだったな。となるとサーナイト、ウールーにいのちのしずくを垂らしてやってくれ」

 

 手荷物を持ち込むことは出来ないので、今は手元に回復薬が何もない。なので、回復系の技ということでサーナイトのいのちのしずくに頼ることにした。流石にここでクレセリアは出せないしな。

 

「サナ!」

 

 サーナイトがちょん、と指先から一雫垂らすとみるみる内にウールーの赤みが取れていった。

 いいよな、ポケモンは。怪我もこんなんで治るんだし。そもそも怪我することはあっても骨折とか中々しないしな。羨ましい限りである。

 

「いや何でだよ」

 

 するとなんか急に白い光に包まれ出した。

 いや、ほんと何でだよ。何で今このタイミングで進化が始まるんだよ。謎すぎるにも程があるでしょ。

 

「ヴォル」

 

 えっと、何だっけ? このデッカいウールーは。

 あの可愛い顔をしていたウールーがいかつくなってんな。二本の角とか、めっちゃ反り返ってるし。しかも身体がデカくなったため背中にも乗れそう。

 あ、もしかしてこの角って背中に乗った時の持ち手だったり?

 多分丁度いい大きさだぞ。

 

「なあ、スタッフさんや」

「な、なんでしょう」

 

 ねぇ、何でそんなビクビクしてんの?

 声かけただけじゃん。

 

「この場合どうなんの?」

「えっと………ウールーは全員柵の中にいるので第一ミッションは合格……ですかね」

「お、マジで?」

 

 その判定とともにクリアのブザーが鳴り、残り一分弱ってところでミッションは合格となった。

 なんか申し訳ねぇな………。

 

「ん? 第一ミッション?」

「あ、はい。まだあと二つコースの違う同じミッションがあります」

 

 ………………………………まだ続くの?

 

「ヴォル」

「え、なに? あ、乗れって?」

「ヴォル」

 

 えぇー………何故?

 いや、めっちゃこっち見てくるし。

 これ、乗るまでずっとこっち見てくるやつじゃね?

 

「で、どうすんの?」

「ヴォル」

 

 デッカいウールーはそのまま歩き出し、柵の方へと向かっていく。

 

「あ、じゃあ取り敢えずサーナイトはお戻りで」

「サナ」

 

 忘れない内にサーナイトをボールに戻し、二本の角に手を添えてみる。

 うん、めっちゃ掴みやすいいい位置にあるわ。

 パカッと開かれた柵の入り口からウールーの大群が、ということにはならず、両脇に逸れて整列していた。

 いや、だから!

 そのまま次の部屋に入るとこれまたウールーたちが待ち構えていた。当然後ろからも着いてきているため、およそ二倍。

 コースも一直線ではあるんだけど、二つの縦向きの壁でレーンが三つに別れているようだ。

 うん、でも多分意味ないと思う。

 

「そ、それでは第二ミッションを始めます!」

 

 パカッと開かれた柵を出るとその後ろから二倍になったウールーの大群が隊列を組んで着いてくる。

 おい、お前ら。丸まらなくていいのかよ。

 これじゃ、ただのウールーの大行進でしかないぞ。

 

「うぇ!? バイウールー?! に乗ってる!? ってかこれ、どういう状況!?」

 

 前の部屋で何が起きたかは、この部屋からは知りようがないのかね。

 さっきのお姉さんといい、ワンパチのトレーナーは女性ばかりなのだろうか。

 というかこのデッカいウールー、バイウールーっていうのね。

 

「あ、取り敢えず仕事仕事。ワンパチ!」

「ワパワパ!」

「ヴォル」

「ワパゥ………」

「ワンパチぃ?!」

 

 ………………………。

 なんか本当にごめんな。

 折角気持ち切り替えて仕事しようとしたのに、まさかの一睨みでワンパチを黙らせちゃうとか、俺も全然想像出来てなかったわ。

 おい、本当にこれ大丈夫か?

 

「ここからはっと………」

 

 三つのレーンに別れるところで後ろを見るとあら不思議。全く動じることなく着いて来ていらっしゃるわ。誰も右にも左にも行こうとしていない。

 はい、中央突破させていただきます。

 

「ヴォル」

「「「グメェ」」」

 

 バイウールーがウールーたちに着いてきているかと合図を送ると次々と返事が飛んできた。

 ねぇ、本当に大丈夫?

 これ、一応トレーナーの資質を測るためのものなんだろ?

 今のところウールーに追いかけられて、怪我したウールー治したらバイウールーに進化して、バイウールーに乗ってウールーの大行進してるだけだぞ?

 多分、他のチャレンジャーとは全く別物の光景になってると思うんだけど、これでもいいのか?

 

「えっと、第二ミッション、クリアです」

 

 難なく柵に到着し、ぎゅうぎゅうになりながらもブザーが鳴り、第二ミッションもクリアとなった。

 

「あの、これ大丈夫なんすかね。一応トレーナーの資質を測るためのミッションでしょ?」

「恐らくジムチャレンジ史上最も資質があると思いますよ?」

 

 にっこりと笑いながらいうスタッフのおじさん。なんか目が笑ってないように見えてしまう……………。

 

「それでは最後のミッションになります」

 

 そのままさらに奥の部屋へと案内される。

 ここにもやっぱりウールーたちが待機しているわけで………。

 

「因みに聞きたいんすけど、他の人って前のミッションにいたウールーたちも次のミッションに参加したりします?」

「いえ、こんなことは初めてですよ」

 

 デスヨネー。

 

「はぁ………、追いかける必要がない分、最終的には三倍に増えてるんだよな………」

 

 追いかけ回すのも大変だとは思うが、この量を引き連れてゴールに向かうのも中々だと思うわけよ。

 

「第三ミッションを始めます!」

 

 あ、待ってはくれないのね。

 増えたウールーたちをどうしようか対策が思いつかないままミッションはスタート。

 第三ミッションは縦向きの壁の間に横向きの壁が二枚手前と奥に並んでおり、上から見ると隙間のある四角形になっているのだろうと想像がつく。なので、これまでのように一直線で突き進むということは出来ないらしい。どちらかの隙間に入らなければいけないのだろうが、この時にウールーたちがどうなるかだ。

 大人しく着いてくれば良し。

 壁にぶつかって立ち往生なら、後でどうにか出来そうな余地はある。

 だが、狭くて入りきれず後続のウールーたちが俺たちを見失ってあらぬ方向へと行ってしまうのが一番手に負えない。

 それに加えて三倍に膨れ上がったウールーの大群をどうゴールに押し込むのかにも意識を向けておかないといけない。

 面倒くせぇ。

 

「ヴォル」

「「「グメェ」」」

 

 バイウールーの行くぞ! という合図でウールーの大行進が始まった。量は量だが、普通に着いてきている。

 

「ワンパチ! ゴーッ!」

「ヌワン! イヌヌワン!」

「ヴォル!」

「ワパゥ………」

「うぇ?! ワンパチ!?」

 

 ここでもワンパチに邪魔させようとしてきて、バイウールーの返り討ちに遭っていた。

 どんだけバイウールーの睨みが怖いんだよ。上からだと表情なんて見えないから、威嚇してんな、くらいにしか思えないんだが。

 あれかな。モザイクかけられるくらいの電波に乗せちゃいけない顔してんのかね。

 

「ワンパチ、後ろからいくよ!」

「ワンパワンパ!」

 

 別方向からもワンパチがやってきた。今度はバイウールーが見えない後ろからだ。

 まあ、お邪魔要員が二人もいれば、策は思いつくか。

 

「ヴォル!」

「グメェ!」

「グメェ!」

「グメェ!」

 

 流石に従来通り逃げるのかなと思いきや、あら不思議。

 ワンパチがウールーたちに追いかけ回されているではないか。

 

「ワ、ワ、ワパ?!」

「グメェ!」

「グメェ!」

「グメェ!」

 

 とっしんを躱したと思いきや別方向からまたとっしんされて、ギリギリ躱したところで、三体目のウールーに弾き飛ばされてしまった。これもバイウールーの指示なのだろう。

 エグい。エグいよ、君たち。それは最早蹂躙というんだよ。

 

「ワンパチ、戻れ!」

 

 まさか攻撃されるとは思っていなかったようで、一瞬戸惑ったトレーナーさんはワンパチをボールへと戻した。

 

「グメェ」

「グメェ」

「グメェ」

 

 そして三体のウールーは行列に戻ってきて、他のウールーたちの中に溶け込んでいく。

 どうやらバイウールーも少しペースを落としていたようで、ようやく横向きの壁近くに辿り着いた。

 

「ヴォル」

 

 するとバイウールーは綺麗に九十度右に折れ、右の縦向きの壁のさらに右側の通路に入っていった。

 ああ、なるほど。

 確かにここも通れるか。それに縦壁と横壁の間を通るよりも広い。大量のウールーたちも悩まずに着いてこれるだろう。

 

「後はゴールをどうするかだな」

 

 流石にこの量はゴールの柵に入り切らないだろう。

 つか、今更だけど第二ミッション入る前にバイウールーから降りて第一ミッションのウールーたちを置いてくれば、こんな悩む必要はなかったのではなかろうか。

 あ、でもそうなるとバイウールーの威嚇はなくなるわけで、ウールーたちがワンパチに追いかけ回されていたってことになるのか。

 うーん………。

 

「バイウールー、取り敢えず柵の中に入ったら出来るだけ綺麗に入るようにウールーたちを整列させといてくれ」

「ヴォル!」

 

 柵の前に辿り着くと俺はバイウールーから降りて、バイウールーを先にいかせた。それに続くようにウールーたちは柵の中に入っていき、俺のところに寄ってくる奴もいたが、何とか柵の中一杯にウールーたちを押し込むことが出来た。

 ただ、やはりというか。

 俺のところに寄ってきた奴らが後から入るスペースはなく、十体くらいが取り残されてしまった。

 

「取り敢えず柵は閉めるか」

 

 入ったウールーたちが出てこれないように柵を閉める。まあ、中ではバイウールーが指示を出してくれているので滅多なことはないだろうがな。

 

「さて、お前らをどうするかだな」

「「「グメェ」」」

 

 呑気な鳴き声だな。

 さて、どうしようか。

 本来ならばこんな満杯になるようなことはないだろうし、柵をもっと広く作っておけよという苦情はお門違いだろう。誰もこの状況は想定していないはずだ。だからミッションのルールも『全てのウールーを柵の中に入れる』というものなのだし、だとしたら俺のこの特殊な場合においてもそれは適用されてしまう。

 

「作るか。サーナイト」

「サナ!」

 

 取り敢えず、サーナイトに協力してもらおう。

 これでポケモンの協力を仰ぐのはルール違反とか言われたら、こっちだって反論の材料は持ち合わせているのだ。強気でいかなければこいつはこんな特殊なミッションになってもいいと運営に舐められてしまう。それ相応の対応はしてもらわないと。

 

「よし、お前ら。まずは横一列に整列」

「「「グメェ」」」

「サーナイト、また出番だぞ。リフレクターをこいつらの分だけ用意してくれるか」

「サナ!」

 

 全部で十二体いたウールーたちの前にリフレクターを用意する。

 

「それをウールーたちの前で寝かして地面に付けてくれ」

「サナ!」

 

 それを寝かせてウールーたちの一歩手前へ。

 

「んじゃ、ウールーたちはそのリフレクターに乗ってくれ」

「グメェ」

「グメェ」

「グメェ」

 

 これから何が起きるのか全く気にしていなさそうな呑気な鳴き声が次々と聞こえてくるが、素直に乗ってくれているので良しとしておこう。

 

「よし、全員乗ったな。動くなよ。動くと落ちるかもしれないからな。リラックスしててくれ」

「「「グメェ」」」

 

 動くな、とか落ちる、とかのキーワードを入れても反応は変わらない。多分こいつら、最初からリラックスしてるわ。危機管理とか大丈夫なのかね………。

 

「んじゃ、サーナイト。サイコキネシスでウールーたちを柵の方へ頼む」

「サーナ!」

 

 そして超念力で十二体のウールーを全員柵の中のウールーたちの上へと移動させていく。

 

「スタッフさん、これでウールーたちは全員許容量をオーバーした柵の中に入ったことになるでしょ?」

 

 一応そっちのミスでこっちはゴールが難しいんだアピールをしながら、スタッフにクリア条件を確認した。

 

「そ、そうですね………第三ミッション、クリアです!」

 

 しどろもどろにそう答えたスタッフはそのままクリアを宣言してくれた。

 よし、何とかなったな。

 なったんだけど、この後どうしようか。

 まずはリフレクターに乗せたウールーたちを戻すとして。

 

「サーナイト、リフレクターに乗せたウールーたちを戻してくれ」

「サナー」

 

 ミッションはクリア出来たので、ウールーたちを地面に下ろす。

 うん、やっぱり俺の周りに集まってくるよね。

 

「巻き込まれる前にサーナイトは戻っててくれ」

「サーナ」

 

 そんな不服そうな顔されても困るんだけど。

 だってこれから起こることを思うと巻き込むわけにもいかないじゃん?

 俺が次向かうのは柵の向こう側の通路だし、そのためには柵を開けなきゃだし、開けたら…………ね。嫌でも想像出来てしまうわけよ。

 

「流石にウールーたちに揉みくちゃにされるのは嫌だろ」

 

 昼間のことがあるし、多分確実にああなる。

 

「サーナ」

 

 ボールを向けていると、渋々ながらもサーナイトは自らボールに戻っていった。

 さて、覚悟を決めて柵を開けるか。

 願わくばこの覆面が脱げませんように。

 終わったら絶対洗濯しよう………。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。