ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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75話

 案の定、柵から解放されたウールーたちに一頻り揉みくちゃにされた後。

 今はスタッフの案内でスタジアムの入場口で待機しているところである。しかもコロコロローラーを渡されてユニフォームに付いたウールーの毛を自分で取らされるというね。

 で。

 そんな待機時間を過ごしているのだが、ちょっと出ればそこはバトルフィールドなため、観客の声も直に聞こえてくる。それはいいんだけど、どうも何か様子がおかしいような気がするのだ。

 いやだってさ。既にハチハチコールが始まってるのよ。しかも結構な声量で。

 ジムチャレンジが始まって一ヶ月も経ち、最前線組だと思われるマクワたちは既に六つ目のバッジを手にしているくらいで、そうでなくても多分俺以外のチャレンジャーがこのジムを一度は挑戦しに来ている状況だ。今更そんなところに観客が満員になるとは考えられないのだが、それにしてもの声量である。

 一体何がどうしてこんな盛り上がりになっているのやら。

 ………………鎧島の奴らが駆けつけたとか?

 いや、それはないな。ない、よな? 昨日の今日だし。ないと信じたい。

 

『それでは準備が整いましたので入場していただきましょう!』

 

 嫌な予感がチラつく中、とうとう入場のアナウンスが入ってしまった。

 これからのバトルよりも何が原因でこんなことになっているのか、そっちの方が気になって緊張してくるなんてどうかしてるわ。

 

『開会式ではその様相から少なくないインパクトを残しながらも今日の今日までジム戦に現れなかった仮面の人物! しかし、いざジムミッションを行えばウールーたちを追いかけるはずが逆に追いかけられ、バイウールーに進化させ、三倍にまで増えたウールーを見事ゴールにまで導いたミッションクラッシャー! 仮面のハァァァチッ!!』

 

 おい待て。

 なんだその紹介文は。

 そもそもそんな紹介のされ方するなんて聞いてないぞ。

 しかもミッションクラッシャーとか、俺の意図するところじゃねぇし、そっちの落ち度でもあるでしょうが。

 不名誉過ぎるだろ。名誉毀損で訴えたら勝てるんじゃね?

 

『そして対するは我らがジムリーダー! ファイティングファーマー、ヤロー!』

 

 っし、色々と文句を言いたいところはあるが、まずはバトルしにいくか。

 コロコロローラーを壁に立てかけてから俺がフィールドへ出ていくと対面の出口からも人が出てきた。

 麦わら帽子に白と緑を基調としたユニフォーム。ピンクがかった少しもさっとした髪の青年。

 昼間に出会った農家さんである。

 ………ちゃんとジムリーダー、ヤローと認識しておくべきだな。すんません。

 

「見てましたよ。いやはやまさか昼間に会った観光客が実は挑戦者だったとは驚きましたわ」

 

 中央のサークル上で対面するとにこにこと笑いながら、実に興味深そうな顔で一言目を発した。

 うん、バレてらっしゃる。

 

「顔見てないのに?」

「ウールーに追いかけられる挑戦者なんて初めてじゃ」

「デスヨネー」

 

 分かってたよ。

 流石にあんな風にウールーたちに追いかけられるようなトレーナーなんて早々いないだろう。それが昼間に会ってるんだから尚更印象深く残っているだろうさ。

 

「しかも怪我したウールーを助けに行ったり、そのウールーがバイウールーに進化したり、そのバイウールーに乗って残りのミッションもただの行進と化するようなそんな挑戦者なんて…………」

「なんかすんません」

 

 一応ルールは同じであったが、本来のミッションからは逸脱してただろうしな。あれでクリア判定してくれただけでも儲けもんではある。まあ、最後は俺もスタッフにちょっとアピールはしたが、それくらいは許される範囲だと思う。入らないもんは仕方ないし。

 

「いえいえ、こっちではあの大モニターで実況込みで見てましたけど、今までにないパターンで皆さん驚いたり笑ったりしてて楽しまれてましたよ。それに最後のステージは急遽ワンパチのトレーナーを二人に増やしちゃいましたからね。効果はなかったみたいですが」

 

 あ、そうなの?

 だから俺が出てくる前からハチハチコールが始まっていたのか。

 というか実況付きって何をどう解説していたのだろうか。想像もしたくないわ。

 

「あー………普段は三つともワンパチのトレーナーは一人なんすか?」

「ええ、ただこのままだと妨害にもなり得ないと思いましてね。いやはや、バイウールーの方が一枚上手でしたわ」

「それには俺も同感ですよ。俺二つ目以降、ずっと乗ってるだけでしたもん」

 

 ほんと仕事したのなんて最後に溢れたウールーたちをどう処理するかだけだもんな。

 なんか本当に申し訳なくなってきたわ。

 

「それより、ミッションってトレーナーの資質を測るものなんすよね? あんなんでクリアっていいんですかね」

「いいんじゃいいんじゃ。逆にあれ以上のことを普通のトレーナーがやれるとでも?」

「まあ、世界中探せばいるんじゃないですかね」

「もうその規模でしか探せない時点で君は稀有な存在ってことですよ。それよりもこれから大変ですよ? 初っ端からこんなミッションを見せられたら、次のミッションではどんなことが起こるのか、起こしてくれるのかって変な期待のされ方するでしょうからね」

「うっわ、想像したくねぇ………」

 

 とは言ってもこればかりはどうしようもない。

 今回のが特殊過ぎただけであり、俺だって早々こんなことにはならない。…………はず。

 

「期待されてもこんな異常事態、早々起こらんでしょうに」

「どうですかねぇ」

 

 やめい、そのニヤニヤ顔。

 そんな何回も言ってたらフラグにしかならないだろうが。回収なんてしたくないからな!

 

「まあ、尤も。ここで君が勝てたら、の話ですわ」

 

 なんて軽い挨拶をしていたかと思うと急に目付きが鋭くなり、そのままフィールドの端へと行ってしまった。

 やっぱりジムリーダーはジムリーダーだな。普段どんなに優しい顔つきであってもバトルとなると人が変わる。農家の優男であろうとそれは変わらないらしい。でなければ他の地方よりも競争率が激しそうなガラル地方でジムリーダーなんてやってないわな。

 

『ここでおさらいしておきましょう! ターフジムでのジムバトルは二対二による公式ルール基準。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトル終了となります。それではミッションクラッシャーがバトルクラッシャーにもなるのか! バトル始め!』

 

 俺もトレーナーが立つスペースに移動するとルール説明が始まった。

 二対二か。

 最初のジムってことでこの数なのだろうな。本当の初心者だとここに来るまでにまだ手持ちが一体しかいないとか普通にあるだろうし、妥当と言えば妥当だ。カントーやカロスはジムを巡る順番が決まってないから、ジムリーダーが挑戦者の手持ちの数に合わせていたが、順番が決まっているガラルでは後々ジムリーダーの手持ちも増えてくるのだろう。

 

「君の実力試させてもらいますよ! ワタシラガ!」

「いくぞ、ガオガエン」

『最初はワタシラガと………見たことのないポケモンです! 恐らく外の地方に生息するポケモンなのでしょう! そして仮面のポケモンの正体とも思われます!』

 

 ワタシラガ、か。

 エンジンシティから鉱山に向かう途中にもいたような気がするな。

 島にはいなかったからどういうポケモンなのかは知らないが、くさタイプってのだけは分かる。

 

「油断は禁物じゃ! ワタシラガ、コットンガード!」

「ニトロチャージで加速しろ」

 

 頭の綿毛がさらにもさっと膨らみ防御力を高めていく。

 まあ、見たことのないポケモンにまずは防御を固めていくというのは一つの手だとは思う。

 ただ、軽そうなんだよな。いくらコットンガードで攻撃を吸収しようとしても重たい一撃が入れば身体が吹っ飛んでしまうだろう。

 

『ニトロチャージ、ということはほのおタイプということでしょうか! いやしかし、ニトロチャージはほのおタイプ以外のポケモンも使うことがあるので、まだ断言は出来ません!』

 

 となればやることは一つだな。

 

『それにしても速い! 速すぎる! ワタシラガ、ハチ選手のポケモンに完全に翻弄されています!』

 

 ワタシラガの周りを段々と加速しながら走るガオガエンに、遂にワタシラガが目で追えなくなっていった。

 

「ブレイズキック」

 

 そして。

 走りながら右脚に炎を纏い地面を蹴り上げると、一度身体を畳んで、右脚だけを伸ばした状態でワタシラガを地面に叩きつけた。

 二度三度とバウンドしていき、そのまま動く気配がない。

 

「ワタシラガ、戦闘不能!」

 

 うん、思った通りだな。

 一撃でってのはちょっと驚きだが、知らないポケモン+目で追えない+効果抜群の技ともくれば、あり得なくもない話だ。あと身体が軽いってのもあっただろう。

 

『ま、まさかまさかのブレイズキック一撃でワタシラガを倒したぁぁぁあああああああああっ!!』

「わっはっはっはっ! そうですかそうですか。ただちょっと他の子より上のレベル、なんて読みは甘かったみたいですね。試す、なんて言うのも失礼じゃ。ウオオ! ぼくたちは粘る! 農業は粘り腰なんじゃ」

 

 なんかよく分からんが、ヤローさんも燃え上がっている。

 あなた一応くさタイプのジムリーダーでしょうに。今の姿はほのおタイプと間違われてもおかしくないぞ。

 

「強いなんてもんじゃない! 本気でいくぞ、アップリュー!」

『ジムリーダー、ヤロー! ここでまさかのチャンピオンカップで使用している切り札の一体、アップリューを投入してきたぁ!!』

 

 ん?

 そりゃ、最後のポケモンなんだから切り札を投入してくるのは当たり前なのでは?

 確かタイプはくさ・ドラゴンだったか。ワタシラガと違って島にいたから見たことはある。りんごに住み着くカジッチュってのが進化して化けりんごになったポケモンだ(すごい偏見)。しかも分岐進化であり、タルップルっていうのがいたりする。進化方法も独特で与えるりんごの味によって進化先が分かれるらしい。なので、他の地方で採れるりんごだったらまた違う姿になるかもしれないとのこと。

 島のポケモンたちを一体一体説明してくれたミツバさんには感謝だな。

 

「アップリュー、りゅうのまい!」

 

 りゅうのまいによりアップリューの竜の気が活性化していく。

 さて、何を仕掛けてくるのか。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 活性化した竜の気を大きく纏い、そのまま突っ込んできた。

 

「ニトロチャージで捕まえろ」

 

 ならばとこちらも突っ込んでいき、一気に加速して相手以上のスピードでぶつかっていく。

 アップリューを厚い胸で受け止めて、割れたりんごで出来た翼を両腕で掴み勢いを殺した。

 

「きゅうけつ」

「なっ!?」

 

 そのまま噛みつき、体力を吸い取っていく。

 受け止めるのに多少ダメージを受けたとしてもこれをするつもりだったため、特に問題はなかった。

 

「アップリュー、Gのちからで押しつぶすんじゃ!」

 

 翼を押さえられ、噛みつかれていては出来ることは限られてくるため、恐らく身体を使った技なのだろう。

 するとガクンとガオガエンの腰の位置が下がり、重たいものを持ち続けているような状態になっていた。

 

「身体を捻って上下を入れ替えろ」

 

 すかさず身体を捻らせて、アップリューが下になるように指示すると、待ってましたと言わんばかりにガオガエンはアップリューを地面に叩きつけた。

 ほんと成長したよな。

 ムーンのポッチャマとわちゃわちゃしていたニャビーの頃が懐かしいわ。あれからここまで強くなるとは………。それもこれもザルードに負けて、ウーラオスに体捌きを習い、自分だけの必殺技を得たことで心身ともに強くなったのだろう。

 

「ブレイズキック」

 

 起き上がった瞬間を狙い、ガオガエンが炎を纏った右脚でアップリューを蹴り上げた。

 

「アクロバット!」

 

 おおー。

 流石はジムリーダーって感じだな。

 やられてもタダではやられない。

 蹴り上げられた勢いを使ってくるくると後転していき、翼で空気を打ち付けると一気に加速してきた。

 

「今度はブレイズキックで回し蹴りだ」

 

 今度は左脚に炎を纏い、その脚で地面を蹴り上げると、右脚と場所を入れ替えるように左から左脚を回し、アップリューを右側の観客席の方へと蹴り飛ばした。

 普通に正面から蹴ろうものなら、右脚が持っていかれる可能性もあるからな。それよりは回し蹴りにして力が流れる向きをガオガエンに向かないようした方がいい。

 まあ、指示しておいてなんだけど、よくタイミングを合わせられたなと思う。普通に凄いわ。

 

「一撃入れるのがこんなにも遠いとは…………なら!」

 

 するとヤローさんがボールを取り出して、アップリューを回収していった。

 

「さあダイマックスだ! 根こそぎ刈りとってやる!」

 

 なるほど。

 ここでダイマックスってわけか。

 

「アップリュー、キョダイマックス!」

『ここでアップリューのキョダイマックスだぁぁぁっ!!』

 

 と思いきやキョダイマックスの方だった。

 島にはいたのに何気にアップリューのキョダイマックスを見るは初めてかもしれない。

 何というか巨大なカジッチュって言われても違和感ないな。

 ああ、でもこっちのりんごは腐ってる? か。デロンとしていて腐っているようにしか見えない。俺の気のせい………?

 

「ガオガエン、かげぶんしん」

 

 取り敢えず、かげぶんしんを使わせておこう。

 ダイマックスだろうがキョダイマックスだろうが、こちらのやることに変わりはないんだし。

 

「ダイジェット!」

 

 巨大なエアスラッシュ的なものがガオガエンに襲いかかってくる。

 

「ニトロチャージで一気に飛べ」

 

 それを分身たちが炎を纏って次々と飛び込んでいった。

 その後ろから本体のガオガエンが飛び込んでいき、相殺された中を一体だけがアップリューの頭の上に辿り着くことに成功。

 

「ブレイズキックで踵落としだ!」

 

 折角なのでアップリューの脳天を揺さぶるために、炎を纏った右脚で踵落としを入れさせた。

 

「ダイドラグーン!」

 

 だが、そこはキョダイマックス。

 巨大化しているだけあって期待した効果は得られず、代わりに青と赤の衝撃波がアップリューの周りに作り出されていく。

 

「きゅうけつで噛みついてやり過ごせ!」

 

 今更飛び降りたりしたところで、空中で狙われるのが関の山。

 だったら回復しながら耐え忍ぶしかない。

 ここからでは見えないが恐らく背中にダメージを負いながらも吸い取ったエネルギーで回復してトントンくらいになっていることだろう。

 

「アップリュー、キョダイサンゲキ!」

 

 巨大な種がいくつもアップリューの周りに撒き散らされている間に、俺たちは素早くアクZのポーズを取っていく。

 

「ブラックホールイクリプス」

 

 そして巨大な種から発射された緑色の光線がアップリューの頭上にいるガオガエンに向けて飛んでくるも、そのさらに上に出来上がったブラックホールにより全て吸収されていった。

 

『な、何が起きたのでしょう! アップリューのキョダイサンゲキが全て軌道を変えて黒い何かに吸収されていきました!』

 

 するとアップリューが光り、段々と元の大きさに戻っていく。

 

『あぁーっと! ここでアップリューのキョダイマックスの終了だぁぁぁっ!!』

 

 飛び降りたガオガエンが俺の前まで戻ってくると、アップリューの態勢が整う前に次の指示を出すことにした。

 

「かげぶんしん」

 

 分身を増やしてトドメの態勢に入る。

 

「トドメだ。ブレイズキック」

 

 足下に炎が走り、その全てがガオガエンの右脚へと集中していく。

 そして一気に加速すると地面を蹴り上げ、一度両脚を折り畳むと右脚を伸ばして次々とアップリューに突っ込んでいった。

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 ようやく動き始めたアップリューも竜の気を纏い突っ込んでくる。

 だが、そこは数の力が物を言い、途中からガオガエンの分身に蹴り飛ばされ、そこへ次々と分身が降り注ぎ、最後に本体のガオガエンが一撃を入れて爆発させた。

 

「草の力みんなしおれた……。なんというジムチャレンジャーじゃ!」

 

 地面にゴロンと横たわるアップリューは焦げて黒煙を上げながらピクリとも動かない。

 

「アップリュー、戦闘不能! よって勝者、チャレンジャーのハチ!」

 

 よしよし。

 初戦としては上々の出来だろう。

 

『決まったぁぁぁ!! ジムリーダー、切り札を以ってしてもチャレンジャーを止められず! 今年のセミファイナルの優勝候補、さらにはあのダンデを倒す可能性まで見えてきたのではないでしょうか! 何というバトル! 何という強さ! 仮面のハチ! ここにその名を強く轟かせましたっ!!』

 

 実況もこの調子だし、仮面のハチ=ガオガエンという印象が強まったと思われる。

 これで少しはハチ=ヒキガヤハチマンという方程式も否定出来るはずだ。

 

「完敗ですわ。君のポケモンに一撃入れるのが精一杯じゃ。こりゃ、他のジムリーダーにも君の時には試す余裕はないと伝えておかないと!」

 

 アップリューをボールに戻したヤローさんがこっちに向かってきてたので、俺もガオガエンをボールに戻してセンターサークルの方へ向かうと、開口一番にそう意気込まれた。

 

「それ、ジム戦としてどうなんですかね」

「そりゃこちらが試されている気分になる時点でおあいこですよ」

 

 やっぱ俺参加するべきじゃなかったんじゃね?

 

「ジムチャレンジにおいてジムリーダーに勝った証としてくさバッジをお渡しするんだわ!」

 

 気づいたらスタッフさんが一人、お盆を持って脇に控えていた。

 どうした、その隠密性。影が薄いなんてもんじゃないぞ。幻のシックスマンにでもなりたいの?

 

「時にハチさん。君の年齢を聞いても?」

 

 気配の薄いスタッフからジムバッジを受け取ると何故か年齢を聞かれた。

 答えていいもんかね…………まあ、いいか。今の俺は本来のこの時間軸の俺とは年齢も違うわけだし。

 

「あー………十八……かな、多分」

「覚えてないんですか?」

「ほら、スクールだと学年があるから覚えやすいけど、それがなくなると今いくつだっけ? ってなるじゃないですか」

「それはもう少し歳老いてからの話じゃないですかねぇ」

「そこまで歳を気にしていないってことっすよ」

 

 実際のところマジで今いくつだっけってなることはあるし、嘘は言っていないぞ。

 

「でもそうかあ。ハチさんは黄金世代と同じ歳なんですねぇ」

「黄金世代?」

「四人の実力のあるチャレンジャーが同じ年に出場していましてね。その内の三人が今も現役で活躍されてるんですわ」

 

 …………うん、なんか分かってしまったわ。

 えぇー、マジか………。今の俺は同じ歳になるってことはあいつらの方が年上ってことかよ。なんか嫌だわー。

 

「ああ、なるほど。ダンデ、キバナ、ルリナ、ソニアってことですか」

「ッ?! いやはや参りました。四人とも名前を言い当てられてしまうなんて。あの年にハチさんがジムチャレンジに参加していたら、ダンデさんがチャンピオンになっていなかったかもしれんなぁと。それくらい君は強い。きっと他のジムリーダーたちにもいい刺激になるでしょうね」

 

 俺としてはヤローさんがソニアを評価していることに驚きだわ。

 あいつ、色々あったとはいえ途中で敗退したんだろ? それでも実力者って評価されているのだから、相当印象に残ったのだろう。

 あいつは自分には何もないとか言ってるけど、ちゃんと残せているものもあるじゃないか。

 

「やっぱりヤローさんはちゃんとしたジムリーダーですわ」

「おや? 気づかれちゃいました?」

「昼間会った時からそう感じてましたよ」

「いやぁ、そう言われるとぼくも嬉しいんだなぁ」

 

 ぽわんぽわんした空気を振り撒きながら手を差し出してきたので、俺もその手を握り返して握手した。

 全く、あいつも贅沢な奴だ。

 そりゃ、不特定多数からの誹謗中傷はたくさんあったのだろうし、それで傷付いたのも事実なのは変わらないが、ルリナ以外にもこんな力強い味方がいるってこともあいつは知らないとな。

 

「ああ、それと。帰りは気をつけてくださいね。君はもう注目の的になってるでしょうから」

 

 ああ、そうだった。

 忘れてたけど…………先を思うとここから帰りたくねぇな………。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「うっわ………」

 

 案の定というかなんというか。

 ロビーには大勢の出待ち客が集まっていた。中にはカメラマンとマイクを持った女性のセットとかもいて…………あれ、絶対生中継してるよな。

 いや、マジで変装しておいてよかったわ。

 ありがとう、ミツバさん。ありがとう、道場に制服を忘れていってくれたワイルドエリアのスタッフさん。現在進行形で有効活用させていただいています。

 

「すみませーん」

「あ、はい。どうしました?」

「これ」

 

 受付のお姉さんに声をかけて一枚の紙とトレーナーカードを渡す。

 書いてあるのは『挑戦者のハチです。この事態を想定してワイルドエリアのスタッフに変装しています。お客さんには裏口から帰ったと伝えてください』というもの。

 

「分かりました。伝えておきますね。えーっと………はい、こちらは返しておきますね」

 

 トレーナーカードの確認だけしてくれると何も言わずに送り出してくれた。

 流石はプロ。

 こんな急な変装なのに何も言わずに送り出してくれるとは………。

 

「では、行ってきます」

「はい、気をつけてくださいね」

 

 ワイルドエリアのスタッフとして今から仕事に行ってきます、というのを装う会話をしてロビーに脚を踏み入れる。

 

「皆さーん! 今入った情報なんですが、どうやらハチさんは裏口から帰宅されたようです! なので、もう出待ちをされていても意味がないみたいですよー!」

 

 わーお、何というタイミング。

 皆が皆、受付のお姉さんに意識が集中してくれたおかけで、無事にターフジムから脱出することに成功した。

 今度何かターフジムにお礼の品物でも送っておこう。

 

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