ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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77話

 夕方になり。

 俺は再度バウジムにやってきた。

 朝来た時には空いていたロビーも人で溢れており、少し人酔いしそうな勢いである。

 

「お疲れさまでーす」

「お疲れさまで……す? あぁ、そういうことですね。お話は聞いていますよ。まずはトレーナーカードを」

 

 嫌な予感がしてワイルドエリアのスタッフの姿になっておいて正解だったわ。ルリナにはもしかしたらスタッフの恰好で現れるかもしれないって伝えておいたのだが、どうやらそれは受付のお姉さんにまで浸透しているようだ。流石はルリナ。

 小声でやり取りをしながら登録を済ませてカードを受け取る。

 

「こちらがユニフォームになります」

「あざっす」

 

 続けて新ユニフォームも出してきてくれて、それを受け取ってロッカールームへと向かった。

 廊下はシーンと静まり返っている。

 俺の足音がハッキリと聞こえるくらいには静かだ。

 ロビーから一歩抜けるとここまで静かになるのか。

 どんだけ人が来てたんだよ。アレ全部観客ってことだろ?

 やだわー。あれの中でバトルするのかと思うとゾッとする。というかミッションの方も見られるんだよな…………。

 

「スタッフ………? あ、ユニフォーム持ってるからハチね」

「お? おぉ、ルリナか」

 

 先のことを思い、今だけでも自分を甘やかしてやりたい気分で歩いていると声をかけられた。

 振り返るとルリナがいたのでサングラスを外す。

 

「意外と溶け込めるものね、その恰好」

「めちゃくちゃ便利だぞ。昨日も今日もこれに助けられてる」

「でしょうね」

 

 俺と肩を並べながら俺と同じ方向に脚を踏み出してくる。

 

「それにしても人多すぎない………?」

「そりゃそうよ。チケット販売開始十分も経たずに完売だもの。ジムチャレンジが始まって一ヶ月経ってからのうちのジムでは快挙よ」

 

 マジかよ。

 即完売しちゃったのか。

 

「ここに来るまでの外もヤバかったぞ」

「それがアンタの集客力ってことでしょ。こっちとしては有り難くガッポリ稼がせてもらうだけだし」

「めちゃくちゃ利用されてんなー………」

 

 売上に貢献しても俺には一円も落ちないんだよな。なんか解せん。

 

「ほら」

「何だよ」

「ポケッターの私のアカウント。今日のチケット販売開始と同時に呟いたら、このコメントの量よ」

 

 スマホを差し出されてポケッター? とやらも呟き? をスクロールしていくとフォロワーさんからのコメントが万を超えていた。

 

「はっ? 万?」

 

 コメントで万超えるって相当なもんじゃね?

 俺は全くやったことないからどの程度が普通なのかも分からないけれども、そんないくもんなのか?

 えっと、『ルリナさん、頑張ってください!』『仮面のハチにはジム戦用のポケモンでいくんですか? それともチャンピオンリーグ用のポケモンでいくんですか?』『ルリナのことは応援してるけど、仮面のハチはヤバくね?』『あのポケモン、調べてみたらガオガエンっていうらしいぞ。ほのお・あくタイプ』『主にアローラ地方ってところに生息してるらしい』『ならワンチャンあるんじゃね? ガオガエン倒せば。切り札っぽいし』『もう一体がサーナイトってのには驚きだけどな!』などなど。上にあるコメントで読めたのがこれくらいだったが、既にガオガエンのことを調べられているというね。

 というかフォロワーだけで会話しちゃってんじゃん。

 

「………盛り上がってんな」

「皆がマクワとかの上位勢に目が行き始めたタイミングでの登場だからよ。正直開始一ヶ月も経てば私たち初めの方のジムリーダーはほとんどお役目御免状態。チャンピオンカップに向けてポケモンたちの調整をしているような時期なんだけど、第二弾が始まったって感じね。今日のアンタのバトル次第では、私に挑む勇気がなかった子たちもやってくるんじゃないかしら」

「意図してたわけじゃないんだけどな。開始早々最速で全ジム攻略とかする気は全くなかったし、あのシェルダーのせいで調べ回ってたらこんな時期になっちまっただけだしな」

「そんなことも言ってたわね。でもこの盛り上がりを予想した委員長が先に手を打ったのは正解だったわ」

「読みが早いというかなんというか」

 

 あのおじさん、マジもんのやり手だわ。

 ピオニーのおっさんとはえらい違いだ。

 

「それと夕方にアンタとの契約書が公開されたわよ」

「えっ、マジで? 早くね?」

 

 こっちのホテルを取ってから二度寝してたからニュースも見てなかったわ。

 仕事早いな、あのおば……お姉さん。

 

「んじゃ、アンタとのバトル楽しみにしてるわよ」

「へーへー」

 

 俺としてはあのコメントを読んだ後だと、観客の熱気に当てられないか心配である。

 コメントだけであんなにいくもんなのか?

 ちょっと恐ろしすぎるわ。

 

「あ、そうそう。ミッションの方だけど、私のポケモンたちがどうしてもアンタを一目見たいっていうから、所々に置いてきたから。ちゃんと全員に会ってあげてね」

 

 ミッションのところにルリナのポケモンたちを置いてきた?

 置いてきたってどういうことだってばよ。

 

「え、なに? どゆこと? 開始前にミッション内容変更されてる………?」

 

 俺の疑問に返さないままルリナは手をふりふりしながら行ってしまった。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 ゴォォォォオオオオオオオオオオッッ!!

 ジムに併設されているミッション部屋に来るとなんか天井からいくつもの滝が落ちていた。

 いや、どゆこと?

 

「ミッション内容はこの迷路の行く先々にあるスイッチを上手く利用して天井から落ちる滝を止め、ゴールを目指してください。尚、滝の箇所には色の付いた網状の床になっているので、それを目印にしてスイッチを押してくださいね。あとスイッチを押してから滝が止まるまでに少々タイムラグが起きることもありますのでご注意を」

 

 お、おう………。

 つまりあの滝を止めないと先に進めないってことでいいんだな。多分やりようによってはスイッチを使わなくてもいけるのだろうが、ルール上スイッチを使ってってのが原則と思っておこう。

 

「それではミッション、始め!」

 

 水道代とか電気代とかヤバそうなジムだな。

 それに比べてターフジムのハイテクとは程遠い緩さよ。

 こうなるとカブさんのところがどうなってるのか楽しみだわ。

 

「さて、どうするか」

 

 正面の階段を登って突っ切りたいところではあるが、滝が落ちてきているため、水色のスイッチを押さないといけないってわけか。逆に右の方は滝が上がっている辺り、まずは右にいくしかないのだろう。

 取り敢えずは東側へと進むことにする。

 

「ようこそいらっしゃいました! まずは私と一戦お願いします!」

 

 うわ、なんかいたよ。

 え、なに? ここでバトルすんの?

 てか、ルリナと同じユニフォーム着てるな。

 

「………こんなところで?」

「はい!」

 

 下手すると俺達にも技が当たりかねないくらい狭いのだが…………。

 まあ、これも妨害の一種なのだろう。

 

「えっと、じゃあサーナイト。よろしく」

「サナ!」

「いくよ、オタマロ!」

 

 相手はオタマロか。

 オタマロねぇ………。

 オタマロってシュールな姿してるよな。

 みずの単タイプだけど、系統的にもよく似ているニョロモに比べるとその異様さが分かるだろう。

 ほぼ顔じゃん!

 あれを図解で見た時は流石に二度見したね。インパクトが強すぎるのよ。

 

「バブルこうせん!」

「サイコキネシス」

 

 バブルを吐くために口を開けようとした瞬間に超念力で口を塞ぐと、口の中にバブルが次々と弾けていっているのか、めちゃくちゃ苦しそうになっていく。

 

「オタマロ!?」

 

 すぐに超念力は解いたが、その一時でぐったりしてしまった。

 

「えっと………ここからエナジーボールでオタマロを壁にぶつけるって展開が待ってるけど、まだやる?」

「うぅ………降参です………ルリナさん、ごめんなさーいぃ…………」

 

 この後にやろうとしていたことを説明すると早々と降参してくれた。

 あの状態でトドメを刺すのも可哀想だしな。俺としても時間を省けて万々歳である。

 

「んで、まずはこの赤色のスイッチか」

 

 周りの状況としては東側の赤色の床は空いているけど、その右奥に見える黄色の床には滝が落ちてきている。逆にすぐそこの北側の赤色の床に滝が落ちていると。

 

「ポチッとな」

 

 おおー。

 北側の滝が上がり、逆に東側の赤床に滝が落ちてくるって仕組みか。恐らく他のスイッチもそういう感じなのだろう。

 にしても音が凄い。

 

「ルパ?」

「え、なに? 今度はスイッチの門番的な?」

 

 北側に進むと黄色のスイッチの前にルンパッパがいた。

 

「ルンパパ、ルンパパ、ルン、パッパ!」

 

 お、おう………。

 だからなんだよ。

 いきなり踊られても反応に困るのだが………あぁ、なるほど。

 

「お前、あれか? ルリナのポケモンか?」

「ルパ!」

 

 やっぱりか。

 

「さいでっか。なら、そこどいてくんね?」

「ルパルパ」

 

 首を横に振るルンパッパ。

 

「嫌ってか」

「ルッパ! ルッパ、ルパルパ!」

「………分からん。通訳」

 

 何言ってるかさっぱり分からん。

 

「ルッパ、ルパルパ!」

 

 俺の呟きに応えるようにポゥッと火の玉が現れ、そこに文字が浮かんでくる。使うのは久しぶりだが、なんか文字が前よりくっきりしてない?

 えっと、『強くなる方法を教えろくださいでし!』と。

 ブンッと頭を下げるルンパッパ。お前、顔と胴体が一緒なんだから全然頭下がってねぇぞ。

 あと口調のクセ強すぎ。

 マジでそんな感じなの?

 教えろくださいはまだいい。敬語を取ってつけた感は否めないが、逆にそれだけの感情的なものは伝わってくる。それよりも語尾の『でし』はなんだよ。何かキャラ付けしないとダメとか考えてたりする?

 多分、ルンパッパは何もしなくても印象に残りやすいポケモンだと思うぞ?

 

「強くなる方法ねぇ…………」

 

 ルンパッパの口調はひとまず置いといて、だ。

 強くなる方法か。

 ルンパッパはタイプの組み合わせが中々類を見ないみず・くさタイプだから、ある意味両方いけるんだよな。

 

「まあ、まずはお前のタイプを活かすことを考えるべきなんじゃないか? みずとくさタイプの組み合わせともなると天気が雨の状態だろうが、晴れの状態だろうが、どっちでもいける。特性の関係上、好ましいのは雨が降っている状況下だが、そこは言わなくても分かるだろ?」

「ルパルパ」

「で、晴れの状況下となると他のみずタイプならば、得意のみずタイプの技の威力を下げられ、逆にソーラービームとかをチャージなしで撃たれる可能性が大いにある。だが、お前にはそれが通用しないんだ。くさタイプを持ち合わせているからな。みずタイプが苦手とするくさタイプからもでんきタイプからも他のみずタイプよりは強気に出られるし、逆にお前がれいとうビームやルンパッパだと………マッドショット辺りか。その辺を覚えておけばくさタイプにもほのおタイプにも反撃に出ることだって可能だ。そして隙を見てあまごいを使えばお前の独壇場だな」

「ルパァ………!」

 

 取り敢えず考えられるものを羅列していったら、めっちゃキラキラした目でこっちを見てきている。

 

「ただ、これはあくまでも理想論だし、まだまだ言い出したらキリがない。それでも一つだけ共通しているのは、タイミングや技の判断はルリナとの呼吸が大切だから、そこは忘れるなよってことだな」

「ルパ!」

「今はミッション中だし、またルリナと会う時にでも連れてきてもらえ。その時はルリナも交えて他の方法も話そうじゃないか」

「ルッパ!」

「で、こんなもんでどうでしょう?」

「ルパルパ!」

「おう、ありがとさん」

 

 どうぞどうぞと掌を上にし、少し後ずさってスイッチを差し出された。

 コイツ、陽気な性格とかそういう系だろ。動作の一つ一つがめっちゃお調子者って感じがするんだが。

 

「ポチッとな」

 

 黄色のスイッチを押すと東側の赤床を越えた先にある黄色の床の滝が上がった。

 ということは再度赤色のスイッチを押して東側の赤床の滝を上げて先に進むって流れだな。

 

「ルッパパー!」

 

 東側へ向けて歩みを進めると左に折れたところでルンパッパが後ろでめちゃくちゃ跳ねているのが見えた。

 というかアレか。さっきのジムトレーナーもスイッチの門番だったってことだな。今更だけど。

 黄色の床も越えると次もまた赤色のスイッチにばったり。

 えっと………周りの床は………と。

 まず滝が全部上がっていれば、一周出来る作りか。

 んで、西側の滝は黄色の床。左回りは現状使えない。

 そして東側の奥には黄色と赤色の床が並んでいると。しかもこっちは両方とも滝が上がっているということは、今押すのがトラップって感じがするな。

 一旦スイッチは保留で右回りで進んでみるか。

 

「こっちは………」

 

 北側にいける階段があるが、そのすぐ先には………赤床と黄色床か。両方とも滝が落ちている。ということはさっきの赤色のスイッチを押さないといけないのだろうが、黄色のスイッチも押さないといけないわけで。

 その黄色のスイッチはこのまま西側に進んだ先の女性が立っているところ。

 となるとさっきの赤色のスイッチを先に押してしまうとここに辿り着くのは不可能となり、先にあの黄色のスイッチを押さないといけなさそうだな。

 取り敢えずは西側に進む。

 

「さあ、バトルですよ!」

 

 ああ、この人もスイッチの門番なのか。

 

「オタマロみたいになってもいいのなら………」

「私はそうはいきませんよ! さあ!」

 

 凄いやる気だ。

 仕方ない、相手するしかないか。

 

「んじゃ、サーナイトちゃん。お仕事よ」

「サナ!」

「いくよ、クラブ!」

 

 おー、なんか久しぶりに見た気がする。

 クチバにいた頃は海が近いのもあって目にする機会も多かったが、他の地方では中々見なかったし、早々出会いもしなかったな。

 

「バブルこうせん!」

「サイコキネシス」

 

 そうはいかないと豪語するだけあって、クラブは口からではなくハサミの方からバブルを吐こうとした。

 しただけであって、吐かれる前に超念力で止めてやったが。

 サイコキネシスって身体の部位目掛けて使わず、一体丸々の動きを止めてしまうのだから、口をハサミに変えたところであまり意味がないんだよなー………。

 

「甘いですよ! がんせきふうじ!」

 

 そうきたか。

 口でもハサミでもなく頭上に発生させる技ならば拘束に関係なく使える。

 

「テレポート」

 

 それでもサーナイトには届かない。

 サーナイトは一瞬にしてクラブの背後に移動し、ハサミの付け根を掴み上げた。

 

「10まんボルト」

 

 そして直接触れた状態からの電撃を喰らわせていく。

 

「クラブゥゥゥッ!?」

 

 門番のお姉さんもこれには絶叫。

 コゲコゲになったクラブだけが床に転がった。

 

「も、戻ってクラブ! ヘイガニ!」

「ヘイヘイ!」

 

 次はヘイガニか。

 また似たようなポケモンを出してきたな。

 

「クラブハンマー!」

 

 今度は何かを仕掛けることなく真っ直ぐに突っ込んできた。

 奇策が通じないと分かり、正攻法で崩しにきたのだろう。

 

「サイコキネシス」

「あ………」

 

 その正攻法が無理そうだったから奇策に走ったのでは? と思ったが、超念力で動きを止めたらようやく気づいたらしい。

 目が点になって固まっている。

 お姉さんには超念力を掛けてないはずなんだがな………。

 

「どうします? 10まんボルトにします? それともエナジーボールがいい?」

「こ、降参しまーす!」

 

 次の手をどっちにしたいか聞くと涙目で降参してくれた。

 

「ほい、サーナイト」

「サナ」

 

 仕方ないので、ヘイガニの拘束を解いてやるとめちゃくちゃ抱きしめにいっている。

 無事でよかったよぉぉぉ………とか聞こえなくもないが、聞かなかったことにしておこう。

 

「うぅ……こんな挑戦者初めてだよぅ………」

 

 そんな泣き言を背に、この黄色のスイッチを押す。

 

「ポチッとな」

 

 さてさて、読みは合ってるかな。

 

「ああ、それでいいんだよな」

 

 さっきの赤色のスイッチの左側にあった黄色床の滝が上がり、今しがた通った黄色の床に滝が落ちてくる。

 ついでに北側の赤色と黄色の床が並んだ黄色の方の滝も上がった。

 よし、ならここを左回りで赤色のスイッチに戻って、再度左回りで北側に進めるみたいだな。

 行ったり来たり面倒くせぇな………。

 

「誰だよ、こんな迷路考えたやつ」

 

 愚痴を溢しながらも左回りで赤色のスイッチに戻りスイッチを押して、再度左回りで進んで北側の階段を登り、赤色の床と黄色の床もそれぞれ越えると恐らくここがゴールであろうポイントに辿り着いた。ただ、生憎青色の床三つが並び、その三つともに滝が落ちている状態である。どこかで青色のスイッチも押さないといけないってわけだ。

 入り口から一直線にここまで辿り着けるのであろう南側にも黄色床に滝が落ちている。

 つまり今はスルーするしかない。

 

「トサキーント!」

「うぉ!?」

 

 何か急に目の前を横切っていくのがいたんだけど。

 誰だよ、トサキントとかいうやつ。

 

「………………………」

 

 え?

 もう終わり?

 登場それだけ?

 そんでいいの?

 ルンパッパとはえらい違いだな………。

 

「どこのポケモンも変なのばっかだな」

 

 うちにも変なのはいるし、どこのトレーナーも苦労しているのかもしれない。

 で、西側の黄色の床と青色の床も越えて入り口に戻るように南に向けて進むと、さてどうしたものか。

 東側には赤床に滝が落ちていて、その先に青色のスイッチがある。滝でよく見えないけども。

 んで、さらに南側に進むと十字路になっており、東側は中央の一本道に、西側には滝の上がった青床と赤色のスイッチがあるところへと繋がっているようだ。

 十字路を越えてもっと南に進むと二手に分かれて赤床が西側に、黄色床が東側にそれぞれ滝が上がった状態でここも一周出来る作りになっている。そしてそれで行き止まりのようで、その区画には黄色のスイッチが一つあるだけ。

 となると…………?

 

「先に赤色のスイッチを押すと青色のスイッチは押せるが来た道からも中央からもゴールには辿り着けなくなるって感じか? んで、黄色のスイッチを押してしまうとそこで詰むと」

 

 なら、答えは一番南側にある黄色のスイッチだろう。

 全てスルーして南側に進むか。

 

「…………あのー、バトルを…………」

 

 ここにもいたよ。

 

「やる?」

「私勝てると思います?」

「いや全く」

「デスヨネー………。さっきのバトル見てましたけど、時間稼ぎにもなってなくて…………。私も無理かなー………なんて」

「見てた? ここから見える?」

「ああ、あれです」

 

 お姉さんが上の方を指刺すので俺も見てみる。

 おう、マジか…………。

 入り口の上に巨大なモニターがあるじゃないか。しかもめちゃくちゃ俺が映ってるし。

 こうして見るとルリナの判断は正しかったのかもしれないな。ユニフォームの色が変わったことでガオガエンの覆面とよく合っている。ふさふさ感がないだけでガオガエンの着ぐるみを着ているような感じだわ。

 で、カメラはアングル的に左上からっぽいし…………ああ、いたわ。

 天井近くにドローンがいたよ。

 背景と化していてモニターもドローンも全く気に留めてなかったぞ。

 

「………あれと一緒なのがスタジアムの方でも?」

「ですです」

「なるほど、そうやって撮影してたのか」

 

 んで、その映像を元に実況も入ってスタジアムの方では盛り上がっていると。

 

「なあ、サーナイト。あの上に飛んでいるのを通して観客が俺たちを観てるんだとよ」

「サナ? サーナー!」

 

 ドローンを指刺すとサーナイトはカメラに向かってブンブンと手を振り始めた。

 大モニターにもその姿がしっかりと映されている。恐らく会場でも悶え死にする人が続出していることだろう。

 ただな。

 

「サーナイトちゃん? いつの間にファンサなんてのを覚えたのん?」

「サナ?」

 

 聞くと小首を傾げるだけのサーナイト。

 ああ、サーナイトにファンサなんて感覚は微塵もなかったよ。

 

「あ、ただの好奇心なのね」

 

 うん、好奇心旺盛で結構。

 写真にでも撮っておくべきだったな。

 

「こんな可愛いのにどうしてバトルでも勝てる未来が見えないの………」

 

 横では遠い目をしているお姉さんが。

 バトルでもってどういうことだよ。

 それだと可愛さでもサーナイトに負けたと言っているようなものだぞ。

 確かにサーナイトは可愛い。娘のように溺愛している自覚もある。だがそもそもの話、サーナイトと比べる時点で間違っているのだよ。サーナイトが可愛いのは全世界共通なんだからな!

 ………なんていう冗談はさておき、次へ行こう次へ。

 

「んじゃまあ、遠慮なく先へ進ませてもらうわ」

 

 恐らくこの西側エリアのスイッチの門番であろうお姉さんとはバトルすらしなくてよくなった。

 仕事を放棄してもいいのかと思わなくもないが、あっちからの提案なので有り難く受けて、先へと進む。

 東側の黄色床を通り、たどり着いた黄色のスイッチを押す…………と思ったけど何かいるし………。

 

「ゥゥゥ………グ………ゥゥ………」

 

 青い飛行ポケモンらしきのが何かを咥えて喉を詰まらせていた。

 こいつもルリナのポケモンか?

 

「ったく………」

「グゥ………?」

 

 このまま放っておくわけにもいかないので、嘴に捕えられている喉を詰まらせている原因を掴み、一気に引っこ抜く。

 出てきたのはカマスジョー。

 恐らくこのカマスジョーもルリナのポケモンだろう。なんか前に見たような気もする。

 なんというかこいつだけ可哀想な登場の仕方だな。

 

「ウッ!?」

 

 するとカマスジョーが尾鰭で青いポケモンをビンタして、そのまま水の中へと逃走していった。

 一応仲間なのでビンタに留めたのだろう。

 それにしてもこの青いの、やべぇ奴だな。仲間を食うとか………。

 

「ウッウー」

 

 そして青いポケモンも水の中へと潜ってしまった。

 本当に何だったんだ、あの青いのは。

 

「気を取り直してポチッとな」

 

 黄色のスイッチを押すと通った黄色の床に滝が落ちてきて、中央の通りの奥にある黄色の床の滝が上がっていくのが見えた。

 んで、ここも左回りで赤床を進み、さっきの十字路まで戻ると西側に進んで青床を越えた先の赤色のスイッチへと向かう。

 

「ここには何も出てこないんだな………」

 

 さっきから変なのに遭遇してばかりなので、スイッチのところに何かいるのではと疑ってしまう。

 多分俺だけだよな。こんな変なミッション追加されてんの。しかも追加らしきことなんてルンパッパ以外に今のところいないというね。

 赤色のスイッチを押すと青色のスイッチのところの赤床の滝が上がった。

 で、あの青色のスイッチを押せば、後はゴールに向かうだけってことだな。

 ふぅ………なんか疲れたわ。

 三度十字路を通って少し北の青色のスイッチへと向かう。

 

「ポチッとな」

 

 スイッチを押すと、ゴール前の三つ並んだ青床の滝が全て上がった。

 はぁ……やっと終われる。

 十字路を東に進み中央通りに出ると、あらいやだ。

 

「ヌオー、お前もか」

 

 ここにもいた。

 一体どんだけ解き放ってんだよ。

 

「…………………」

 

 ただヌオーなので何もしてこない。

 ぼーっと突っ立ってるだけである。

 このぬぼーっとした顔、何を考えてるんだろうな。

 さっきの青いポケモンといい、ヌオーといい、トサキントらしきのといい。

 これだと最初のルンパッパが一番まともな気がしてくるぞ。

 

「…………………」

 

 じっと見てくるだけのヌオーをスルーして、中央の通りを北へ進みゴールへと向かう。

 青色の床が三つ並んだところも越えるとやっとのことでゴール!

 

「ギャオ!」

 

 ………………そう簡単にゴールはさせてやらねぇよってか。

 ゴール前にギャラドスが現れた。しかも赤いギャラドス。

 

「……………なんかどことなく迫力がないな」

「ギャォ…………」

 

 つい漏れた一言にしゅんと影を落とすギャラドス。

 

「あ、気にしてるのね。なんかすまん」

 

 どうやら地雷だったらしい。

 コンプレックスを初対面の奴に指摘されたら、そりゃ気も落ちるわな。

 

「んで? どうやったらゴールさせてもらえるんだ?」

「ギャーオ、ギャス」

 

 翻訳さん、出番ですよ。

 

「『バトルで自信を持てるようになりたい』か」

 

 ギャラドスにしては何という繊細な悩みなんだろうか。

 あれか? 特性がいかくじゃなくてじしんかじょうとかか?

 いや、それはそれで何か腑に落ちないな。

 んー、まあそういう気の弱いギャラドスってことにしておくか。色違いだし、ルリナのポケモンになる前は何かあったのかもしれないし。

 それでも強くなろうとしているのだから、俺が言えることだけでも言っておくか。

 

「ギャラドスは物理攻撃が得意な種族だが、一方で技の種類が豊富なことでも有名だ。自分から攻めるのに自信がないなら遠隔から攻撃するという手もある。物理攻撃に比べると威力は下がるが、相手に近づけさせず、痺れを切らして仕掛けてきたところをガブッと一発入れることも可能だな。ハイドロポンプ、れいとうビーム、10まんボルト、かえんほうしゃ辺りを使い分けて、攻めたきたらアクアテールやキバを使った技で反撃。そこへ追い討ちで高威力の技をぶつければ何とかなると思うぞ」

 

 ギャラドスで思い出すのはミウラやフラダリのギャラドスだな。あとはクチバの海にいたオスとメスのギャラドス。

 ミウラとフラダリのギャラドスはまさにギャラドスって感じでバトルにおいても攻撃的だったと思う。

 クチバのあの二体は何だかんだ俺に懐いてくれたからアレだけど、あいつらもまあギャラドスしてたな。リザードンの相手にもなってくれていたくらいだし。

 となるとルリナのギャラドスも自信さえ持てればポテンシャルを発揮することが出来るだろう。ただその自信を持たせるとなると、やっぱり自信を持って使える技がないと厳しいんじゃないかと思われる。

 なら、ここはアレしかないな。

 

「あと遠隔からの攻撃を当てる自信がないなら、みずのはどうをとことんまで使いこなせるようになるのをお薦めする。水を操る技だからあれを自由自在に変形させて攻撃出来るようになれば、他の技も精度が上がるはずだ。こんな風にな。ヤドラン」

「ヤン?」

 

 見本を見せるためにヤドランをボールから出した。

 当の本人は何で呼ばれたの? という顔をしているが。

 

「みずのはどうで何か作ってみてくれ」

「ヤン」

 

 よく分からないけど分かった、という顔で水を自分の周りに渦状に発生させていく。

 そしてギャラドスの両側に持っていき、水で出来た二体のギャラドスを作り上げた。

 おう、なんか見たことあるぞ。そのギャラドス。どこぞのゲッコウガさんがノリノリで作ってたやつじゃないですか。

 あれか? お前も後々はああいう感じになっちゃう系なのか?

 

「ギャオ!?」

 

 ルリナのギャラドスもこれには目を見開き、左右に何度も見返している。

 まあ、驚くわな。水で出来た自分そっくりのオブジェが作られたら。

 

「ヤーン」

 

 そしてヤドランはその水で出来たギャラドスの口から入り口の方へ向けて水砲撃を放った。放った分だけギャラドスの身体がなくなっているのは誰がやっても同じみたいだな。

 絶対に顔だけ残すのはやめろよ。やるなら使い切ってくれ。

 

「これくらい出来れば今のお前みたいに身動き取れなくなってしまうと思うぞ」

 

 もう一度放ち、水で出来た二体のギャラドスを消滅させる。

 よかった、あのバカみたいに悪ノリしなくて。

 

「ま、そこから先はルリナ次第だな。お前にどういうバトルを望むのか、お前がどういうバトルを得意とするようになっていくかで使う技も変わってくるからな」

「ギャオ!」

「今の俺に言えるのはこんなところかな。ルンパッパにも言ったが、大事なのはルリナとの呼吸だ。バトル展開のイメージの共有が出来ていなければ、いくらお前が強くなろうとも勝てるバトルも勝てなくなる」

「ギャース!」

 

 いつの間にかルリナのギャラドスもルンパッパみたいに目をキラキラさせていた。

 いや、ギャラドスが目をキラキラさせているとか初めて見たぞ。

 そうか………、ギャラドスが目をキラキラさせるとそんな感じになるのか。

 当のギャラドスはのそのそと移動し、道を開けてくれた。

 どうやらお悩み解決ってわけでもないが、ギャラドスの納得のいく回答が出来たみたいだな。

 

「おう、ありがとさん。俺は今からお前のご主人様とバトルしてくるよ」

『ハチ選手、ミッションクリアです!』

 

 クリアのアナウンスを聞き、ギャラドスと別れて奥の通路へと向かった。

 ふぅ、なんかどっと疲れたな。

 昨日のウールーといい、俺だけミッション内容が濃すぎないか………?

 運営大丈夫? 一人だけミッション内容変更とかで炎上したりしてない?

 

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