ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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80話

「なあ、いいだろ。オレたちと遊ぼうぜ」

「結構よ。私、今日はジム戦で疲れてるから」

「こっちの姉ちゃんもめっちゃ可愛いぜ」

「ほら、行こうぜ。オレたちが慰めてやるからさ」

「嫌よ」

 

 トイレから出ると俺たちの個室の前に人集りが出来ていた。

 パッと見でチャラい奴ら…………多分だけど、これルリナたちがナンパされてるよな。

 どうしようか。

 なんか五人くらい屯ってるからな。店員は何してるんだ? こういう時に止めに入って…………無理そうだな。一人周りに睨みを効かせてる奴がいたわ。

 かと言ってこのまま俺が出て行ったら、まあ写真には撮られそうだよな。で、相手はルリナということもあって週刊誌とかに載るだろう。

 顔を晒すのは却下。

 となると…………ああ、これがあったか。

 一応常備しておく規則があるため所持しているが、今まで白昼堂々と使う機会がなかった黒い手帳。

 ただなー、身分証明にもなるからなー。

 なるべく顔写真のところを持ってぶら下げる感じに見せると肩書きと紋章を見せられるか………?

 顔を晒すのは嫌だが、こっちを使うとなれば話は別だ。

 てか、俺巡査なんだ。一番下っ端じゃん。初めて知ったわ。

 よし、一旦トイレに退却だな。

 

「さて、出来るだけ髪を濡らして………オールバックでいいか。んで、殺気でも放っておけば、別人に思われるだろ」

 

 ヒキガヤハチマンとは別人と思ってくれることを期待してみるが、まあ一種の賭けではある。

 あとはうちの演出家次第だな。頼むぞ、ダークライ。

 

「そんじゃ、お仕事ですよっと」

 

 トイレから出てそのまま個室の方へと向かった。

 

「なあ、お前ら。これ見てくれないか?」

「ああん? んだよ、邪魔すんじゃねぇ……よ………?」

 

 振り返った男の動きが止まっていく。

 

「警……察………?」

「なんで………?」

 

 全員が振り返って紋章を認識すると急に顔が青ざめていく。

 

「ハッ! 騙されんじゃねぇ! どうせ警察オタクのレプリカグッズだろ?! ヒーロー気取りなら他所でやれってんだ! お前ら、この雑魚を取り押さえて表に連れてけ!」

「「「「おう!」」」」

 

 が、ルリナに絡んでいたリーダー格の男だけはすぐに切り替えてきた。それに呼応するように他の四人も動き出し、俺に飛びかかってくる。

 使えねぇな、この手帳。

 

「まあ、そう思うならそう思ってくれてもいいんだけどな。サイコキネシス」

「う、動かねぇ……!」

「どう、なって……やがる………!」

 

 黒いのの超念力で動けなくすると一気に血の気が引いていくのが見て取れる。恐らく本物だと理解してきたのだろう。

 やっぱり紋章よりも力で教えないと伝わらないんだな。

 

「さあ? どうなってるんだろうな?」

「テ、メェ……!」

 

 リーダー格の男はずっと反抗的だが。

 

「一応、俺にはまだ触れてはいないし公務執行妨害ってことにはしないでおくが………公開事情聴取といこうか」

「おい、ヤバいって。これマジだって」

「なんで警察がここにいるんだよ………」

 

 リーダー格の後ろでは何やらやり取りがされているみたいだが、バカ丸出しなやつよりは余程マシと言えよう。

 

「で、何をしてたんだ? 女性二人に男五人で」

「そ、それは………」

 

 ひそひそと話してた二人に問いかけてみると視線を逸らされる。

 なんか滅茶苦茶怯えられてるんだけど。

 

「ハッ、女二人で寂しく飲んでるから一緒に飲もうぜって誘ってただけじゃねぇか!」

 

 流石リーダー格。反発心が強いからか、普通に答えてくれた。バカはやっぱり違うわ。

 

「誘ってたねぇ………俺には嫌がってるように聞こえてたんだがな」

「口ではそう言うだけだ。女は全員、男を求めてるんだよ!」

 

 うわー………。

 こんな公衆の面前で何言っちゃってんの………?

 周り見なくても野次馬たちの冷たい視線を感じるぞ。バカってすごい。

 

「そうなのか?」

 

 男たち越しにルリナとソニアに問いかけてみる。

 

「そうね、確かに恋愛対象は男だけど、そこの五人だけはないわ。どうせ抱かれなきゃいけないのなら、アンタの方がまだマシよ」

「あ、わたしもー」

 

 こんな時でもしれっと俺をディスってくるルリナさん、マジパネェ。

 二人とも怯えてる様子はなさそうだな、一応のところは。

 

「だってよ」

 

 悲しい現実を突きつけてやると、リーダー格の男だけが二人を威嚇していた。

 何なんだろうな、この下半身だけで物事を考えてそうな男は。人間社会を辞めて野生の人として生きた方が生きやすいんじゃないか?

 ただ、その性獣とも呼ぶべき男の視線が二人を貫いたのかと思うと、こいつの目玉をほじくってやりたくなってくる。

 

「ああ、それと一つ言い忘れてたんだけどな」

 

 ソニアとはここ半年くらいの付き合いでしかないし、ルリナに至ってはまだ両手で数えられるくらいしか会ってもいない。そんな浅い関係でしかないが、そこだけはなんか許せない。

 

「俺の連れにお前らみたいな下衆がナンパしてんじゃねぇよ」

「ッ!?」

 

 殺気を込めてリーダー格の男の顔の前で低い声を出すと、びくんと肩が跳ね上がった。ついでにソニアとルリナも。

 

「今日の俺は非番で外食でもしようと思ってここに来たら店前でばったり会って、ルリナがジム戦で負けたから俺の奢りで飯食うことになったんだわ」

 

 殺気をさらに強めて続ける。

 

「女二人が寂しく飲んでるからってのはどうせ嘘だろ? ジム戦で負けたジムリーダーが偶然入店したのを目にし、邪魔な俺がトイレに行ったタイミングでナンパを強行。そして現在に至るってところか。俺を見て一緒にいた連れだと分からない時点で、バカじゃねぇの?」

 

 既に俺の殺気に震え出した他の四人は冷や汗がすごいことになっているが知ったこっちゃない。

 

「ったく、舐められたものだな。有名人なら乱暴なことは出来ないから下手に出るとでも? スキャンダルを避けるだろうから強引にいけば従うとでも?」

 

 睨んでやるとようやくリーダー格の男も震え出してきた。

 

「悪いが、こいつらはお前らが手を出していい女じゃねぇんだよ。何ならお前ら程度の男に靡く女でもない。ジムリーダーとして負けたからってそれでどうこうなるような奴なら、即効ジムリーダーの地位を失ってるだろ。愚痴や弱音はそりゃあるだろうが、それで優しい言葉に靡くと思われてんなら勘違いも甚だしいわ。そもそもやっていいことと悪いことの区別すら付かないバカを相手にする奴がどこにいるってんだよ」

 

 最後に胸ぐらを掴んで耳元に顔を寄せる。

 

「分かったら、さっさと失せろ」

 

 そのまま通路の方へと押し飛ばすと、一目散に逃げ出した。

 会話の内容からちゃんと状況を判断して、俺の動きに合わせてタイミングよく超念力を解除するのは流石だわ。うちの演出家はプロよりもぷろかもしれない。それくらいの才能に溢れてるぞ。

 

「店主さーん、ブラックリストに記載する五人組がお帰りですよー」

 

 追い討ちをかけるようにどこかで見ているであろうこの店の店主に聞こえるように声を張ると、既に入り口で待機していた。

 

「テメェら、顔は覚えたからな! 二度と来るんじゃねぇ!」

 

 うわ、あの人容赦なく蹴り飛ばしてるよ………。

 哀れ、ナンパども。

 というかそれくらい出来るならもう少し早く出てきてくれててもよかったんだぞ?

 あれかな? 出ようとしたタイミングで俺が先に出ちゃった系かな?

 うん、そういうことにしておこう。

 

「ああ、それと。メディア関係者含めて野次馬たちに一つ忠告しておく。いくら有名人だからってプライベートに踏み込んだ内容やら読者受けがいい色恋沙汰の話のでっち上げ記事を書くのはやめろ。ジムリーダーだから、チャンピオンだからなんて理由は理由にすらならん。人のプライベートなことまで明かそうとするのは、最早ストーカーと同じだ。でっち上げ記事は侮辱罪になるし名誉毀損とも取れる。写真や動画なんかをアップするのも盗撮行為だ。警察はしつこいぞ。被害者を守るためなら、どんな些細なことでも調べ上げるからな。そこは弁えてくれよ」

 

 こっちも少し殺気を込めて忠告しておくと、野次馬たちが静かに戻っていくのを感じた。

 ま、これくらいは言っておかないとな。それでもバカなマスコミは記事にしたがるだろうし、その時は容赦なく職権を行使してやるだけだ。

 

「さて、帰るぞ」

「う、うん……いこ、ルリナ」

「え、ええ………」

 

 このまま長居するのも居た堪れないため帰ろうと思ったのだが、なんか二人にドン引きされていた。

 いや、君たち守るためにやってることだからね?

 そんなドン引きされると俺も結構傷付くぞ?

 

「これ会計。釣りはいらないから。迷惑料とでも思っといて下さい」

 

 会計札を持ってレジに向かうと店員がオドオドしながらも何とか会計処理をしてくれた。

 まあ、そうなるよな。

 なので、そのまま多めに決済しておいた。

 

「え、あ、ありがとうごさいます………? え、マジ………? 額ヤバ………」

 

 おーい、素が出てるぞー。

 だが、もうオドオドしている感じはなくなった。

 

「ありがとうございましたーッ!!」

 

 店主の横を過ぎるとめっちゃ大声で頭を下げられたのは見なかったことにしておこう。

 気恥ずかしいやら何やらで顔を見られない。

 店から出ると男たちが待ち伏せしていることもなく、どうやら本当に消え失せたらしい。

 まあ、どこかで報復に来るかもしれないが、その時は返り討ちにしてやるだけのこと。

 

「………その、ありがと。助かったわ」

「気にすんな。俺がムカついたからやっただけだし、正直殴りたい衝動を頑張って抑えてたくらいだからな」

「バカ………」

 

 なんかルリナがしおらしいと調子狂うな。

 

「いやー、そっかー。ハチくんに取ってわたしたちって簡単に手を出していい女じゃないんだねぇ。殴りたい衝動を必死に抑えないといけないくらいにはムカついてくれるんだ………!」

「そりゃそうだろ。あんな奴らに渡すくらいなら俺がもらってるっつの。まあ、お前らからしたら俺にもらわれても困るだけだろうけどな」

「「…………………」」

 

 ソニアもルリナもあんなチンピラに渡せるかっての。

 ソニアにはダンデという思い人がいるし、ルリナだって好きになった相手といて欲しいと思う。

 それくらいには二人のことをどうでもいい奴らとは思えなくなっている。

 全く………、いつの間に俺はこんな弱くなっちまったんだか。

 

「さらっとすごいこと言ってる自覚ないのかしら」

「時々あるんだよ、こういうの。本人は思ったことを言ってるだけっぽいんだけど」

「天然って恐ろしいわね…………」

 

 思ったことを口にして何が悪い。しかも悪口ではなく褒めてるんだぞ?

 文句を言われる筋合いはないと思うんだがな………。

 

「聞こえてるからな」

 

 これはアレだな。

 もっと明確に俺の素直な感想を示しておかないといけないみたいだな。

 

「ルリナ、これ渡しとくわ」

「なに………名刺?」

「ま、お守りみたいなものだ。………ソニア?」

「わたしもらってないんだけど」

「そうだっけ? んじゃ、ほれ」

 

 二人に俺の名刺を渡す。

 国際警察としての名刺を初めて使ったわ。

 

「おおー、これがハチくんの名刺…………肩書き長っ………!」

 

 ソニアが名刺を掲げて俺の役職を読んだのだろう。

 そんな文句を言われても俺のせいではない。

 

「国際警察本部警視長室組織犯罪捜査課特命係。コードネーム、黒の撥号………アンタが、そうだったんだ………」

「そう、とは?」

「時々噂になってたのよ。黒の撥号がまた事件を解決したとか、犯人を半殺しにしたとかって。はっきり言ってガラルでは畏怖の対象になってるわ」

「へぇ」

 

 何とまあ………。

 いつの間にか黒の撥号はガラルで有名人になっていたらしい。

 一体誰がどう広めたのやら。

 活動してたのってほとんど鎧島だけだぞ?

 しかも肩書き名乗ったのって鎧島のジャングル内での、あの時だけじゃなかったっけ?

 何なら解決した事件とかなくね?

 ………ほんと、誰だよ。有りもしない噂を広めた奴は。

 

「でもいいの? わたしは………その……成り行きだったからアレだけど」

「公衆の面前であんなことになっちまったからな。あのチンピラどもも結局はルリナと同伴してる俺が気に食わなかっただけだろうし、これは俺の責任でもある。それでお前らに何かあったんじゃ、カブさんたちにも合わせる顔がなくなる。だからまあ、お守りの一枚くらいは持たせておいた方がいいかなって」

 

 あんだけ大っぴらに国際警察の名を出したんだ。

 ルリナの側には国際警察の友人がいるというアピールになってしまったのだし、マスコミに聞かれた時用に名刺でもあれば、本当だと知らしめることが出来るはず。

 

「………ほんと、名刺だけじゃお守り代わりにしかならないわね」

 

 そりゃただの紙切れだしな。

 だからこそ、それくらいの効果はあると期待したいところではある。じゃないとこんな紙切れ役立たずもいいところだぞ。

 

「でも、そっか。だからソニアはあの時国際警察を提案してきたのね」

「うん………ハチくんがどうにかして動けるようにすれば何とかなると思ったからさ」

 

 あの時というのは開会式の日のことだろう。

 シェルダーを捕獲した後、ルギアが元シャドーの連中に狙われていたのをどうするかで、ソニアが国際警察を使おうと提案した。あの時のソニアは俺に目配せをした上で提案したくらいだ。俺がどうにか動けるようにしたかったというのがひしひしと伝わってきてたな。

 

「さて、俺はポケモンセンターに寄ってガオガエンたちを受け取ってくるかな。お前らはどうする?」

「着いていくわ」

「あ、じゃあわたしも」

「何故に?」

「なんとなく」

 

 飯も食って後は帰るだけだというのに、この二人は帰らなくていいのだろうか。

 さっきのナンパのこともあるし、二人だけにしておくのも忍びない。

 はぁ…………、俺の一日は一体いつ終わるのだろうか。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

 で。

 なんやかんやで現在、バウタウンの東にある第二炭鉱の中を三人で歩いている。

 それもこれもガオガエンたちを受け取ってポケモンセンターを出た後に、ルリナに「ねぇ、このままエンジンシティに向かいましょ。………だめ?」と上目遣いでおねだりされては断ることが出来なかった。

 しかもちょこんと服を引っ張ってくるおまけ付き。

 お前いつの間にキャラ変したんだと言いたくなったがグッと堪えるのに精一杯だったな。

 まあ、そうなったら仕方ないのでホテルに戻って荷物をまとめてチェックアウトを済ませて再度合流すると、待っている間にルリナは俺に負けたことを理由に明日ジムを休むと伝えたいらしい。理由が酷い。

 

「ハチくん」

「ん?」

「疲れた。眠い。おんぶして」

「えぇー………ったく。ほら」

「わーい」

 

 こんな夜中のしかも炭鉱内で喚かれても困るので、仕方なく………本当に仕方なくソニアを負ぶることにした。

 

「………くー」

「………マジか。こいつもう寝やがったぞ」

 

 俺の背中に乗った途端、ソニアが寝息を立て始めた。

 こいつ自由過ぎないか?

 俺だって今日はバトルして疲れてるんだけどな。

 つか、それを言ったらルリナは眠くないのだろうか。

 眠いとか言われてももうどうしようもないけども。

 

「ねぇ、ハチ」

「なんだ? 眠いとか言われてももうどうしようもないぞ」

「そうじゃないわよ。アンタさ、ソニアとバトルしたって言ってたじゃん」

「言ったな」

「どうだった?」

 

 どうだったって、そりゃねぇ………。

 

「どうって、ジムチャレンジを途中リタイアしてトレーナーを引退したとか言ってるような奴のバトルじゃなかったな。少なくとも現役の一般トレーナーがかわいそうなレベル。ジムリーダー一歩手前ってところかね」

「………なんだ、やっぱり実力は落ちてないんじゃん」

 

 多分ポケモンに関しての知識が増えた分、実力は上がっているのではないだろうか。

 当時の実力を見たことないから比較なんて出来ないが、それでもそれくらいのインパクトはあった。

 

「私とソニアとダンデとキバナは同期でさ。その中でソニアだけがあんなことになっちゃって、今でも結構悔しいわけよ」

 

 一人だけ無駄にプレッシャーをかけられていたみたいだからな。

 勝手に期待されて変に真面目な性格故に期待に応えなくてはと焦ってしまい、上手くいかずに勝手に幻滅される。

 馬鹿馬鹿しいったらありゃしない。

 

「他三人が現役のチャンピオンなりジムリーダーだからな。一人だけニートみたいなもんだし」

「でもその三人ともソニアがいなければ今の自分はないと思ってると思うわ。少なくとも私はそう」

 

 それでも同期のトレーナー目線ではソニアはかなり優秀だったのだろう。

 恐らくダンデがいなければソニアが優勝していたかもしれない、というレベルで。

 

「バトルしたから分かるでしょうけど、ソニアはでんきタイプが得意で私はみずタイプ。弱点を突かれることが多かったから、対策を余儀なくされた。それにあの頃からポケモンに関する知識は私たちよりも飛び抜けていたから、勉強にもなったわ。その結果ジムリーダーにもなれたってわけ」

 

 確かに言われてみるとソニアはサンダーソニアとか言われるくらい、でんきタイプがメインだったのだろう。その傾向はバトルした時にも現れていた。

 そしてみずタイプを得意とするルリナからするとまさに天敵。対策を余儀なくされ、今に至るというわけか。

 

「ダンデなんかポケモンの知識をほぼ全てソニアに叩き込まれたようなものだからね。チャンピオンの基礎を作ったと言ってもいいでしょうね」

 

 それはソニア本人からも聞いた話である。

 ジムチャレンジが始まるまではソニアの方がバトルも強く、ポケモンの知識もダンデに教え込んでいたくらいだ。ダンデのトレーナーとしての基礎の基礎を作り上げたのが誰かとなれば、間違いなくソニアだろう。

 

「んで、キバナなんだけど、あいつ天気を操るバトルを得意としててね。そのきっかけになったのもソニアなの。ソニアの天候操作を目の当たりにして負けて。そのままトレーナーを引退しちゃったから勝ち越されたままっていうね。ざまぁ、としか言いようがないけど」

 

 あの色黒男もソニアに負けてるのか。

 しかも天候操作のお手本にする程にはインパクトがあったのだろう。

 いや、マジで当時のソニア強すぎない?

 公式戦以外では無双していたからこそ、期待値も跳ね上がってしまったのかもしれないな。

 

「自分には何もないって言うけど、この子は凄い子なのよ」

 

 うん、なんかポテンシャルの塊でしかないわ。

 これを埋もれさせておくのは勿体なさすぎるだろ。

 

「今はまだダンデに頼ることは出来ないからさ。何かあったらアンタがソニアの力になってあげてよ」

「………力に、ねぇ。一応将来的なビジョンとしては俺のコネでポケモン研究者の爺らの中に放り込むことは考えてはいるが」

「はっ? コネ? ポケモン研究者?」

「だって、こいつ将来的にはポケモン博士になるつもりなんだろ? だったら必要になるかなって」

「いや、そもそも何でアンタにそんなコネがあるのよ」

「成り行き?」

「ダンデも大概だったけど、アンタはアンタで常識外れってのがよぉく分かったわ」

「あと、ダンデの度肝を抜かせるためにソニアにバトルを叩き込んで、いつの日かダンデとフルバトルさせるってのも考えてるぞ」

「まーためちゃくちゃな案出してきた」

「これぞ『ソニア魔改造計画』だ」

 

 このポテンシャルの塊はやはりあのじーさんズの中に放り込んで知識を蓄えさせて、ダンデとの和解? のためにもリベンジマッチが出来るように魔改造しないとな。

 

「これも前に言ったと思うが、ソニアのポテンシャルはトレーナーとしても研究者としても高い。どちらか一方だけなんて勿体無さすぎるんだよ」

 

 魔改造した結果、ダンデよりも手のつけられないトレーナーになったらどうしようという懸念はあるが、あの火力バカとは違うから大丈夫だとは思う。

 それに俺としてもソニアを魔改造することで一つの道筋が見えてきそうだからな。ウィンウィンの関係ってやつだ。

 

「別に公式バトルをさせようってわけじゃない。そんな晒し者みたいなことは既に遭ってるんだ。マスコミの餌になるのが目に見えているから、絶対にさせねぇよ。それよりも不必要な誹謗中傷で寸断された二人のバトルを俺が見てみたいってだけだ」

「アンタ、ソニアに肩入れし過ぎじゃない? 結構ソニアのこと気に入ってるでしょ」

「まあ、気に入ってないかと言われれば嘘にはなるし、面白い奴だとは思ってるが、別にそれだけじゃないぞ。こっちにも色々と思惑はある」

「へぇ、ソニアを利用するからには聞かせてもらおうじゃない」

 

 ただの興味からか親友を魔改造させられるからかは分からないが、そういうルリナの顔はどこか嬉しそうにしている。

 

「…………はぁ、まあいいか。ジムリーダーはある意味初心者トレーナーないし一般のトレーナーを育てるのが役割みたいなところがあるだろ?」

「まあそうね。ポケモンの育て方を含めてトレーナーの腕を試すことはするわよ」

「じゃあ、そのジムリーダーたちを育てるのは誰がやるんだと思ってな」

 

 前々から思っていたが、ジムリーダーよりも強いジムトレーナーがいるってどういうことだよって話である。ジムリーダーを代わった方がいいんじゃないかってことにもなりかねんし、かといってユイがコルニを育てるっていうのも筋違いな話だ。そうなるとやはり『そういう』施設があった方がいいのでは、と思うようになったわけである。

 

「ジムリーダーたちを育てる?」

「ああ、ガラル地方はまだジムリーダー同士でバトルする機会もあるし、チャンピオンの座を狙うチャンスもあるから自ずとジムリーダーとしてだけでなく、一人のトレーナーとして腕を磨いてもいるだろ? けど、他の地方だと挑戦者を受け入れているだけに過ぎないから、そうなるとトレーナーとしての向上は中々難しいんじゃないかなと」

「なるほど、それでアンタがジムリーダーたちの挑戦を受ける側になろうってわけね」

「ああ、まあ俺だけってわけじゃないがな。んでソニアはジムリーダー並みの実力を持つトレーナーだから、それをチャンピオンとやり合えるだけの実力にまで引き伸ばすことが出来たら、俺のこの構想も実現出来るんじゃないかと考えたまでだ」

 

 施設の建設についてはアテがあるし、何なら暗殺未遂に遭う前に連絡も入れている。作業の請負いはユキノシタ建設があるからどうにかなるだろうし、あとは具体的な感触を掴みたいところではあったのだが、こんなことになってしまい、無駄に時間だけは出来てしまったのだ。元の時間軸に、あるいはこのままあの暗殺未遂の日に至るまでに俺がどこまでやれるのかをソニアの魔改造を通して試してみるのも悪くないと思ったわけである。

 

「中々面白い発想ね。でもそういうのはダンデに勝ってからの話じゃない?」

「そりゃそうだ」

 

 まあ、それはこのジムチャレンジが終わってからでないと始められないがな。ただ、ジムチャレンジ後に元の時間軸に戻ったら、その時はその時だ。未来の俺がソニアを魔改造していることだろう。

 まずは今の俺があの火力バカとフルバトルでどこまでやれるのかを試そうじゃないか。

 

「でも…………ソニアとまたバトル出来るかもしれないって分かっただけでも嬉しいわ。ありがとう、ハチ」

「礼を言われるようなことでもないだろ。まだ始めたわけでもあるまいし」

「結構なことなのよ、私たちからしたら。それくらい、あの頃は分かっていても何も出来なかった。今もどうしたらソニアが立ち直れるのかってずっと悩み続けてる。だから、ありがとう。アンタに出会えて希望が見えてきたわ」

 

 ………全く、ソニアの周りはお人好しばかりだな。

 ルリナだけじゃなくダンデやカブさんも滅茶苦茶気にしてるみたいだし。それに師匠も気にしてたか。

 なら、お礼参りではないが、ソニアが立ち直ったアピールのためにもその時はバトル行脚でもしてもらうとしますかね。

 

「…………そう思うなら、お前もソニアとバトル出来るようにしておいてくれ」

 

 もちろん最後はダンデだが。

 

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