第二炭鉱を抜けると既に朝陽が上り始めていた。
炭鉱内は結構暗かった反動で太陽がクソ眩しく感じる。下手したら溶けちゃいそう。
「おや? ハチ君? それにルリナ君に………ソニア君? 寝てるのかい?」
「んあ? ああ、カブさん……おざます」
もうすぐ長い長い橋だなー、などと周りを見渡していると向かい側から首にタオルを巻いたカブさんが走ってきた。
こんな早朝からランニングですか…………。すげぇな、この人。
「どしたの、三人で。こんな朝早くから」
「あー……なんか昨日一緒に飯食うことになって、流れで徹夜で炭鉱を抜けてきたんすよ」
「若いって凄いね………」
「ははは、言い出しっぺのルリナは途中で寝るし、ソニアなんか炭鉱入って早々に寝やがったし」
炭鉱に入って早々に眠いと言って俺の背中で寝ているソニアと、途中まで起きていたのに急にうつらうつらしてきたので仕方なくガオガエンに背負わせているルリナがいる。
おかげで俺は一睡も出来なかった。
「へぇ、珍しいこともあるもんだ。昨日何かあったのかい? ジム戦してたのは知ってるけど、それだけでこうはならないと思うし」
「あー……やっぱりアレですかね。飯食いに行って食べ終わった後にトイレに行ったんすけど、その間に二人がナンパされてまして。それでまあ、俺がその男たちを殺気を放って追い払ってからというもの、ルリナがしおらしくなったんすよ」
「なるほど。多分、怖かったんだろうね」
「全くそんな素振りは見せてなかったですよ?」
ナンパの相手してる時にルリナたちに話を振ったけど、俺をディスってくるくらいには平気そうだったぞ。
「それは彼女のプライドが許さないんだと思うよ。ジムリーダーとしてなのか女性としてなのかはともかく。弱みを見せたくなかったんだろうね。でも内心怖くてハチ君の側にいたかった。そんなところじゃないかな」
「その割にはグースカ寝てますよ?」
「安心出来たんじゃない? ほら、ソニア君なんか涎垂らしてるよ」
「え、あ、おい! おまっ………はぁ………」
こんにゃろ………。
めちゃくちゃ肩が濡れてるじゃねぇか。
通りで何か肩が湿っぽいわけだ。
起きたら覚えてろよ。
「ルリナ君はソニア君のこと心配してたけど、僕からしてみたら二人とも似た者同士だからね。心が成長してからジムリーダーになったからルリナ君はまだ耐えられているけれど、やっぱりジムリーダーは重圧が凄いからさ。無駄に期待されてその期待に応えるのも仕事で。それでいてモデルとしても活躍してるから、息苦しい時もあると思うんだ。それこそ、ソニア君みたいにね」
まあ、確かにそれはあるだろうな。
興行化しているガラルのジムリーダーは他の地方のジムリーダーに比べて露出頻度が高い。そうなると必然的に見てくる目が増えて、プレッシャーが重くのしかかってくるだろう。
それこそ、ソニアがジムチャレンジの時に味わったような品のない目も度々向けられることだろう。
「立場は違えど同じ穴の狢って奴ですか」
「うん、だから君は二人にとって気を張らなくていい存在なんだよ、きっと。遠慮がないのがその証」
気を張らなくていいと思われること自体は悪い気分ではないのだが、何ともまあ生きにくい世の中だこと。ポケモン協会の理事やら一応仮の四天王、何ならすぐに返上したがチャンピオンの経験もあるから、いろんな目を向けられる感覚は知っている。落ち着かないし内心気が気でなく、心休まる時なんてそれこそ職を失った時だろう。
「さて、帰ろうか」
「うす」
立ち話をずっとしているわけにもいかないので、カブさんとともにエンジンシティへ向けて歩き出した。
「ハチ君。ジム戦はいつにする?」
「………今日の夕方とか夜で」
流石に日中は無理。
まず寝たい。
あと寝たい。
超寝たい。
「了解。あ、じゃあこのままジムに行こうか。手続きもしてしまった方がこっちとしてもチケットの手配とかが早くて済むし、ジムには仮眠室もあるからそこで寝るといいよ」
「大丈夫なんすか?」
「ホテルは隣にあるとはいえ、面倒でしょ? それにルリナ君たちをどうするかってのもあるし」
手続きは早いに越したことはないだろう。
カブさんの言う通り、チケットの販売もあるから準備に時間を費やせるのはジム側としても動きやすいのは分かる。
けど、仮眠室って…………。
そもそもジムにそんなもんまであるのかよ。
まさかカブさんもジムで寝泊まりしてるとか?
……………毎日とは言わないだろうが、ジムチャレンジ期間中とかだったらあり得なくもないな。連日挑戦者が押し寄せてくるのだから、帰ってる暇もないだろう。
「確かに。このままホテルに行ったんでは逆に怪しまれますもんね。何ならマスコミの餌食になる」
「そういうこと」
それにソニアはともかくルリナは顔が売れている。
そんなのを連れてホテルに入ったのでは、何を記事にされるか分かったもんじゃない。あることないこと書かれて、終いにはルリナの熱愛報道とかになりかねん。
「いやー、それにしても昨日のジムミッションは凄かったね」
「え、バトルの方じゃなく?」
というか見てたのかよ。
「もちろんバトルもだよ。けど………ふふ、三人目のジムトレーナーの子の反応がよかったね。まさか自分から勝てるかどうか聞くなんて」
「あー、あれね。ちょっと可哀想な気もしましたけど、バトルしなくていいならこっちも楽でしたからね。それにネットの掲示板で俺のこと考察されてるみたいですよ」
「だろうね。昨日のジム戦が終わってから僕の方にもハチ君対策はどうしてますか、とかコメントがあったからねー」
やっぱりカブさんもポケッターをやってるのか。
というかジムリーダーは全員やってるのかもな。情報発信という面では役に立つだろうし。
「対策してます?」
「そりゃもちろん。バシャーモが使えないからね。結構念入りに考えてはいるよ」
取り敢えずバシャーモが出てこないのは分かっていたが、こうも自信有り気に言われるとこっちも選出が余計に悩んでしまうな。
「俺は未だに誰でいこうか迷ってますよ」
「そうなの? テッキリ決まってるもんだと思ってたよ」
「なんだかんだでガオガエンのもうかが発動したのって数えるくらいしかないんで、あんな水を蒸発させる程のパワーがあるとは思ってませんでしたからね。ほのおタイプが相手だと俺のポケモンたちは誰でもアリな気がして、逆に選出が難しいんですよ」
一応ガオガエンは仮面のハチとしての顔みたいなものだから、毎回選出するとして。
約束してしまったサーナイトを出さないわけにもいかないし、かといってみずタイプとかがいないのもってなるとキングドラとか、元みずタイプでもあるヤドランやドラミドロなんかも有りなんだよな。
「何ともまあ贅沢な悩みだね」
「そうっすね。他の挑戦者たちに聞かれたら、何を言われるやら………」
「でも君は今回のチャレンジャーの中では異質だからね。初心者というわけでもなければ、実力的には既に僕たち以上なんだから、比べるのも可哀想だよ」
そりゃ、ジムリーダー間で本気でいかないと負ける、なんて御触れが出されるくらいだからな。
それにミッションの方も俺だけアレンジされてるみたいだし。
「そもそも俺みたいなのが参加出来るってのが不思議なくらいですよ。参加条件どうなってるんですか?」
「推薦権を持つ個人、または企業からの推薦状があれば誰でもってことにはなってるんだよね」
「それ、下手したら他の地方のチャンピオンでも参加出来るってことですよね」
「そうだね。だけど、それはあくまで参加条件なだけ。それでも今までそんなことは一度たりともなかったのは、推薦権を持つ者に対して制約があるからなんだ」
「あ、やっぱりそっちにあるんすね」
そりゃどこかで規制しておかないとヤバいのが出てくるわな。
「そう。僕たちが推薦状を渡せるのはチャンピオンや四天王、ジムリーダー等の挑戦を受ける立場にある役職の者、犯罪者、トレーナーとしての資質に疑問が持たれる者等のいずれでもない一般のトレーナーに限られてるんだよ」
おっと?
正体がバレてないからいいものの、ヒキガヤハチマンとしては推薦状もらえなさそうだぞ? 一応四天王のままではあるし。
あ、でも時系列的にまだではあるか。
「まあ、それでも結構まともなトレーナーなら誰でもいけるって感じですよね」
「そうだね。ただ、やっぱりそこは慣習というか暗黙の了解で初心者トレーナーが大半ってことにはなってるんだ」
「あー………、そりゃ異質だわ。あ、でもそうなるとマクワも異質な方なのか」
開会式の時にも俺やマクワ以外にちらほらと大人がいたからな。
その辺が数回目の参加とかの異質な方なのだろう。
「そうそう。彼の場合はジムチャレンジに参加するのは二回目ってこともあるし、他の目的もあるからね」
「他の目的?」
「メロン君はマクワ君にこおりタイプのジムリーダーとして継がせたいみたいなんだけど、マクワ君はいわタイプに拘っていてね。それならいわタイプのトレーナーとして実力を証明してみなさいというところから、ポケモン協会が話に乗っかり、ポケモンリーグ委員会と結託してマクワ君のジムリーダー試験の参考資料にしようってことになったみたいなんだ」
「なんすか、その大人の事情………」
まさかの親子喧嘩からジムリーダー試験に発展しちゃってるよ。
協会や委員会側からすれば、実技試験をすっ飛ばせるから楽ではあるんだろうけど…………それにしても、ねぇ。
「マクワ君たちにも悪い話ではないからね。そのまま好成績を残せればマクワ君はジムリーダー試験を半分くらいパス出来るらしいよ」
「成績が悪ければジムリーダー試験の話もなし。メロンさんとの賭けにも負けて、こおりタイプのトレーナーとして一からやり直すって感じですかね」
「多分、そんな感じだろうね。だからこそ、この前の親子対決はメディアも挙ってニュースに取り上げていたよ。結果はマクワ君の勝利だったけどね」
あー、なんかダンデが言ってたな。
あいつも観戦に行ったらしいけど、それまでの迷子感の方が印象強すぎるだよ。最早迷子=ダンデって方程式が成り立つまであるからな。
「まあ、喧嘩相手に勝てないようでは賭けも何もないですからね。しかしまあ………あいつも大変なんすね」
「そうだね。でもそんな話題も全部誰かさんの登場ですぐに持っていかれちゃったけどね」
「ははは………」
そういや親子対決の後になったんだっけな。
そりゃなんか悪いことしたな。
「今やガラル中で仮面のハチの話題で持ち切りだよ。それこそ、テレビでも君の手持ちの予想や君の素顔、出身、個人情報のありとあらゆることを予想してるね。多分これから始まる朝の番組では次のジム戦である僕とのバトルで誰を出してくるかの予想が立てられるんじゃないかな」
「うっわ、絶対見たくねぇ………」
つか怖い。
個人情報を予想って何を予想されてるんだよ。
手持ちの予想とか次のジム戦の予想とかなら分かるし、素顔を予想されるのも想像出来てたけど、個人情報の予想って…………。
そりゃ、ソニアがめっためたにやられるわけだわ。
こんな気持ち悪い感覚を子供のうちから味わってたんじゃ、トラウマにもなるって。
今はアホ面醸して寝てるけど。
「それにこの一ヶ月音沙汰無しだった君が急に現れて、今日も合わせれば三日連続でバトルすることになる。追う側としても大変そうだよ」
「それは知ったこっちゃないですね。俺は別に注目されたいわけではないですし。勝手に目を付けて勝手に取り上げて勝手に予想してるんですから。嫌ならやめればいい」
「そうもいかないことくらい、君は分かってるでしょうに」
「世間が求めているからでしょう? …………ちなみにゲストで俺を知ってる人が出てたりします?」
「今のところはないね。ピオニー君も断ってるみたいだよ。ハチ君と知り合いだってこと自体伏せてはいるけど、いつどこでボロが出るか分からないって。それに…………この話はいいか」
「ちょ、気になるような言い方やめてくださいよ」
「ごめんごめん。でもこればかりは僕から話すようなことじゃないからね」
「あのおっさんにも色々あるんすね………」
「そうなんだよね。こればかりは僕にもどうにも出来ないことだからね。本人たち次第って感じかな」
思ってた以上にメディアが危険だな。
もっと警戒しておかないと何が起こるか分かったもんじゃない。それこそ、元の時間軸に戻れたらカロスでも注意しておく必要があるだろう。
「ところで、気になってたんだけど、ハチ君って好きな子とかいるの?」
「………何すか、藪から棒に」
ちょっとー?
話題の振り幅凄くない?
急に変わりすぎですよ?
「いやー、一年近く君を見てきたわけだけどさ、なんやかんやで女の子とよく一緒にいるじゃない? シャクヤ君だったり、ソニア君だったり。今はルリナ君も。だから誰か好きな子でもいるのかなーって」
「一応聞いておきますけど、それは人としてですか?」
「またまた〜、もちろん恋愛的な意味に決まってるじゃない」
このおじさん。
実はそういう話好きだったのだろうか。
ちょっと意外だ。
なら、こっちも少しやり返してみるか。
「………いるにはいますよ。こいつらではないですけど、嫁候補が何人も。まあ、嫁候補というかその全員が俺の大事な家族みたいなもんなんで、失いたくない存在っていう方が正しいかもしれませんがね。ただ、今は諸事情により離れ離れになってまして、その話をシャクヤたちにしたらクズ男呼ばわりされましたよ。強ち間違っちゃいないんで否定のしようもないんですけど」
「………………」
「………何すか、そのびっくりした顔は」
ニヤついていた顔が一瞬にして目を見開いて固まっている。
反撃は成功したみたいだな。
「いや、うん、素直に驚いてるよ。普通に答えてくれたのにもだけど、お嫁さん候補何人もいるんだ」
「ええ、いますよ。候補というか全員俺の嫁確定って感じのが。最初の親友だったり、俺と同じような存在にされてしまった奴だったり、その姉だったり、後輩だったり。ああ、予約入れたきた恩師もいますね」
「予約?! しかも恩師!? …………君、見かけによらず遊び人だったりする?」
女遊びとかしたことねぇな。
というか言い方悪いが困ってもいねぇし。いや、逆に全員を娶ることになると思うとそっちはそっちで困りものではあるか。
うん、でもまあ贅沢な悩みだな。
「まさか………。何なら真逆のボッチですよ。周りに馴染めず、自ら周りを遠ざけ、性格を拗らせたまま大人になって、そこでようやくそれまでに関わった女の子たちから好意を寄せられていることを、本人たちから直接言われるまで気づかなかったくらいの。いや、薄々気付いてはいても受け入れられなかったって方が合ってるんでしょうね。けど、その頃には俺も絆されていたようで、全員失いたくない存在になっちゃってたので、全員未来の嫁って感じです」
「まあ、うん、そうだね………シャクヤ君の言いたいことは分かった気がするよ」
クズと言いたいのだろう。
自覚はあるから何とでも言ってくれ。
「けど、ボッチねぇ。僕の知る限りではそうは感じないんだけどなぁ」
「それはあいつらに絆されたからでしょうね。おかげで弱くなりましたよ」
俺一人の頃は精々コマチを守るためってくらいしかなかったのが、今では守るものが増えた分、弱点も増えてしまった。
その結果が今に至るって言っても過言ではない。
「んー、ということはそのお嫁さんたちに囲まれていたから女の子の扱いも慣れているってことなんだね」
「それはないっすね。今でもさっぱりっすよ」
女の子の扱い方なんて未だにさっぱりだっつの。何なら誰か教えて欲しいまである。それくらい謎の多い生き物と称してもいい。
ずっと翻弄させられっぱなしだよ。
「ああ、でもカブさんの言いたいことは分かりましたよ。シャクヤとこの二人のことですよね」
「うん、そう」
カブさんがこんな切り出し方をしたのは、偏にシャクヤやソニア、ルリナのことが気になってるからだろう。
さっきも三人を例に好きな子いないのかと聞いてきたくらいだ。
「シャクヤはなんか妹に近いものがあってそれででしょうし、ソニアは初めての親友に、ルリナは俺と同じような存在にされてしまった奴と後輩を足して二で割ったような感じでそっくりなんですよ。だからこう放っておけないというか、変に気を張らなくていいというか、そんな感じです」
シャクヤは妹感強めだし、言動も結構コマチにそっくりなところがある。
ソニアはバトルにコンプレックスを抱いているところも含めて、身体的にも内面的にもユイに近いものがある。
ルリナはなんだかんだでソニアを気にしているところとか、プライドが高いところが、ユイを気にしているユキノにそっくりである。あとグイグイいくところはイロハに似ているな。
うん、こうして整理してみて改めて気づいたが、なかなかどうしてこうも似たようなキャラが集まったのかと感心してしまう。そりゃ、こんなのに囲まれていれば、俺もこの三人に絆されてしまうわけだ。
「ふむふむ、なるほど。シャクヤ君みたいな妹さんがいて、ソニア君みたいな子とルリナ君みたいな子がお嫁さんというわけだね」
ああ、またカブさんがニヤついてるよ。
一体何を想像しているのやら………。
聞かないでおこう。
「君のその考え、というか全員家族って気持ちはお嫁さんたちは知ってるのかい?」
「知ってるも何も全員嫁にするくらいの気概はないのかって感じのことを言われましたよ。それぐらいの我儘は言っていいって」
「君、どんだけ愛されてるのさ」
「ね。俺には勿体ない奴らばっかりで」
「もうこうなったら責任持って全員を幸せにしないとだね」
それな。
そうなんだけど…………悲しいかな。俺の人生、そう上手くはいかないんだよ。
「そう思った矢先に離れ離れになってちゃ世話ないですよ。本当、人生上手くいった試しがないですね」
「………大変だね」
「流石に今回のは発狂しそうでしたけどね。でも生きてさえいればどうにかなるだろうって思うことにしましたよ」
そうでも思わないと心がぶっ壊れる。
まだサーナイトたちがいてくれたからどうにかなっているが、これが身一つで投げ出されていたら、すぐに壊れていただろう。
「その歳でその考えに至るなんて…………。僕もマイナーリーグに落ちた時は本当にもうこの世の終わりみたいな感覚だったけど、それでもやらなきゃいけないことはあったから、絶望感の中でも毎日必死だったなー。そのおかげかダンデ君とバトルする機会が巡ってきてね。そこからまたメジャーリーグの方に這い上がってこれた過去があるんだ。戻ってこれた時にようやく生きてさえいればどうにかなるもんだと思えたよ」
一度マイナーリーグに落ちたとかって聞いてはいたが、カブさんも苦労してるんだな。
そりゃそうか。そうでもなければこんな貫禄持ち合わせていないわな。
「あー、なんか軽くですけど、誰かにその話聞いたような気はしますね。絶望を知ってるから、カブさんはソニアのことを人一倍気にかけてるんだろうなって思った記憶があります」
「僕は今のハチ君の話を聞いて、だからソニア君の気持ちを受け止められたんだろうなーって思ったよ」
「こんな涎垂らしてアホ面晒してるくせに………贅沢な奴め」
「ははは………それもソニア君の魅力の一つってことなんだろうね」
「まあ、そうっすね。なんだかんだでしょうがねぇなーって思ってしまいますからね。そういうところもあいつに似てますわ」
「お嫁さんたちにかい?」
「そう」
そういうところもユイに似ているからこそ、俺も助けてしまうのかもしれない。
要はソニアも人垂らしってわけだ。
解せぬ。
「会ってみたいねぇ、その子たちに」
「んー………俺の抱えてるゴタゴタが片付けば会えるかもしれませんよ。何年後になるか分かりませんけど」
「あれま、そんなにかかるのかい? でも楽しみにしておくよ」
その後、エンジンジムに着いた俺は、ようやくベッドにありつけ、一瞬で意識を失った。