ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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83話

『さあさあ! 皆さん、いよいよジムバトルの準備が整いました!』

 

 スタジアム内は既に喝采に包まれていた。

 俺のミッションを受けてのものだろうけど、今回は特に俺何もしてないんだよなぁ………。

 バトルはヤドランに任せきりだったし、ヤトウモリがいじめてきていた群れを丸々一つ焼き払ったことでエンニュートに進化し、同時にミッションクリアになったんだから、そりゃもうなんか申し訳ない。

 それでこれなんだから、一体観客にはどう映っていたのやら………。

 

『先程のジムミッションでは我々観客一同を驚かせると同時に泣かせに来たチャレンジャーでしたが、チャンピオンも見に来ている中で、一体どんなバトルを見せてくれるのでしょうか!』

 

 …………え?

 泣いたの?

 何に?

 エンニュートの進化に?

 それともいじめられていたから?

 まあ、気持ちのいい光景ではないもんな。酷いと思うし、人によっては悲しくて泣いてしまうこともあるだろう。

 

『まずは改めてこの人の紹介から! 三日前に突如現れた仮面の男! たった三日でエンジンジムまで辿り着き、毎度ジムミッションを圧倒的な強さと知識、そしてポケモンたちからの信頼を経てクリアし、着いた渾名がミッションクラッシャー! チャレンジャー、仮面のハチ!!』

 

 おい、だから。

 そうやって紹介のところでミッションクラッシャーとか言うから、そんな不名誉な通り名をもらっちまうことになるんだぞ。

 しかも普通に呼んでるけど仮面のハチってのも登録名じゃないからな。俺は『仮面の』なんて付けてない。まあ、そっちはいいんだけどさ。

 やっぱりミッションクラッシャーだけは不名誉過ぎるわ。

 

『そして!! ホウエン地方よりやってきて数十年! 今もなお熱い魂を震わせ、生半可な強さでは逆に灼熱の地獄を見せてきた熱く燃える男! 我らが炎のジムリーダー、カブ!!』

 

 なんだろう。

 カブさんの紹介は普通にかっこよく聞こえてくる。

 何の違いなんだろうな。いやほんとに。

 

『あ、あれ………?』

『対面から………?』

 

 俺たちの登場にどよめきが立ったかと思えば一瞬だけ時が止まったように止んだ。

 そしてまた徐々に声が上がり、盛り上がりを見せていく。

 

「………なんか反応に戸惑いの声があるような気がするんですけど」

 

 センターサークルで向き合うと開口一番にカブさんに聞いてみた。

 

「ああ、それはいつもだとチャレンジャーと一緒に僕も登場するようにしてるからね。対面から出てくるなんてことはメジャーに戻ってきてからはないんだよ」

「何でまた………」

 

 要するにいつもと登場の仕方が違ったから驚いていたってことか。

 何で俺の時だけ変えたんだよ。

 

「いつもはチャレンジャーたちと同じ心持ちでって意味合いで一緒に出てくるようにしてるんだけど、今回は君が相手だからね。同格以上の相手に同じ目線とか逆に失礼だと思ったまでさ」

 

 カブさんは俺と実際にバトルしてるからな。そう思われて嫌な気持ちにはならないが、他のチャレンジャーと扱いに差があると、それはそれで問題なんじゃなかろうか。

 

「それに君が隣にいては僕の方が緊張しそうだったからね」

「ベテランジムリーダーが何言ってんだか。そういう割には俺のミッション内容だけ変なのが混じってたみたいですけどね」

「ふふっ、ハチ君だけではないよ。今年はずっといたんだ。あの子にフェロモンがないって分かってからエンジンジムでもどうするべきかを話し合ってはいたんだけど、いい解決法が見つからなくてね。自然の淘汰を前には人間はまだまだ無力だなって感じたんだけど、ダメ元で隠れミッションとして一緒にしておいたんだ。もしかしたらチャレンジャーの誰かがあの子を捕まえるかもしれないってのもあってね。ただ、やっぱり他の子たちは怖くてあの群れには近づかなくてさ。説明を受けた通りのルールでクリアしちゃったんだけど、僕は内心君なら解決出来るんじゃないかって思ってた。そして期待通りに解決してくれた。ありがとう、あの子を救ってくれて」

 

 ああ、だから急にミッションクリアってことになったのか。

 つか、隠れミッションってなんだよ。

 そういう裏技とかあったりするのかよ。

 いや、今回が特殊なだけか。

 他のジムでは流石にない………よな?

 

「全く………俺を買い被りすぎじゃないですかね。もし俺がスルーしてたらどうしてたんですか?」

「その時は僕があの子を育てようかなって。これは最終手段として用意してはいたんだけど、あの子がそれを受け入れてくれるかどうかってところもあったからね。正直、どうなっていたかは分からないかな」

 

 そりゃそうだろうな。

 ポケモンたちにも意思ってものがあるんだ。しかも相手は虐められて心が荒んだ状態だ。ただ、捕獲してあの群れから切り離したとしてもその後どうなるかは、また別の話になってくる。

 ああいうのは、本人の意思で群れを断ち切らせるに限る。自分から群れを身限り、自分一人で生きることを覚悟させるのが重要だ。そうしなければ、結局は自然淘汰されてしまうだけだろう。

 

「で、進化までしちゃいましたけど、今後あいつどうするんすか?」

「うーん、本人次第じゃないかな」

「確かに」

 

 取り敢えず何かを強制させるようなことはなさそうだな。

 そこはカブさんも分かっているのだろう。

 

「ああ、そうそう。ルリナ君たちから伝言を預かってるよ」

 

 ルリナたちから伝言?

 

「………『カブさんを舐めるんじゃないよ!』的な?」

「それも最後に言ってたけど」

 

 言ってたのか。

 

「『昨日はありがとう。ハチのおかげでソニアの気持ちがちょっとは分かったわ』だって」

 

 ああ、昨日そんなこと言ってたな。

 ソニアも『やっと分かってくれたかー』って言ってたし。

 

「それ昨日も本人から聞いたんだよなぁ………」

「それからソニア君が『涎垂らしてごめんなさい』だって」

「伝言にするような内容じゃねぇ………」

 

 そういうのは面と向かって謝れよ。

 いいけどさ。

 

「君は不思議だよねぇ。こんなあっさりと彼女たちとも打ち解けちゃうんだからさ。ここにダンデ君やキバナ君が加わったとしても違和感ないんじゃないかな?」

 

 年齢的には近いからね。

 見た目的には………いや、無理だな。チャンピオンにトップジムリーダーにモデル兼ジムリーダーに美人ニートだぞ。

 どっかそこら辺にいそうなモブキャラ的な俺がいたら、違和感しかないって。というか俺が加わりたくない。無駄に目立つし。あとキバナのことを俺はよく知らないから何とも言いようがない。

 

「ダンデはさておきキバナとはそんな間柄じゃないんすけど」

「確かに最初の会合ではキバナ君、ツンツンしてたものね。いやぁ、でも懐かしいね。君と出会ってまだ一年も経ってないのかと思うと不思議な感じだよ。覚えてるかい? 僕と君で初めてバトルした時のこと」

「覚えてますよ。アレがあるから俺もカブさんの実力が高いって認識してるくらいですよ。けど、ジムチャレンジでは使えないんでしょう?」

 

 一人のトレーナーとしてのカブさんの実力は相当だと思う。

 だけど、その象徴と言えるバシャーモがジムリーダーとしては使えないというだから不憫でならない。

 

「そうなんだよね。こればっかりは仕方のないことなんだけれど。でもだからこそ」

 

 そこで一旦言葉を切ったカブさんが、一瞬にして目付きを変えてくる。

 

「君をガラル地方のジムリーダーとして倒してみせるよ」

 

 そしてボールを俺の方に向けて決め顔をしてきた。

 うーん、渋いおじさんの決め顔は妙な迫力があるな。闘志が漲ってるのがひしひしと伝わってくるわ。

 

「………いいっすね、そういうの。カブさん相手なら嫌いじゃないっすよ」

 

 前は一人のトレーナーとしてバトルしたけど、今度はジムリーダーとして、か。

 それはそれで面白そうだ。

 どんなバトルを見せてくれるのか楽しみだな。

 

『まずはルールをおさらいしておきましょう! 使用ポケモンは三体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になればそこでバトル終了となります。また、技の使用は四つまで。交代はチャレンジャーのみ有効となります』

 

 ルール説明している間に俺たちはフィールドの端へと移動し、定位置に着いていく。

 

『それでは、バトル始め!』

 

 俺たちが準備を終えた合図代わりにてをあげると早速バトルコールが降ろされた。

 

「まずはお前のジム戦デビューといこうか、キングドラ」

「いくよ、ヒヒダルマ!」

 

 まずは王道らしくみず・ドラゴンタイプのキングドラを選出することにした。

 ヤドランはさっきもバトルしてたし、ドラミドロは昨日バトルしてるからね。

 

『な、なんと!? 我らがジムリーダー! あのヒヒダルマをこのジム戦で出してきました!! こ、これは最初から本気だぁぁぁあああああああああっ!!』

 

 お………?

 ヒヒダルマ?

 しかも雪だるまの方だし。

 えっ、てかヒヒダルマ出してきたら本気ってことなのか………?

 

『そして! 仮面のハチはこれまた新顔! ガオガエン、サーナイト、ヤドラン、ドラミドロときて、五体目はキングドラを連れていたようです!』

 

 ガラルのヒヒダルマはこおりタイプにリージョンフォームしている。

 だからほのおタイプを専門とするカブさんの手持ちとしては異例だ。

 普通なら、だが。

 ヒヒダルマにはダルマモードという特性がある。それはリージョンフォームしたとて失われなかった特性であり、リージョンフォームしたことでダルマモードによるフォルムチェンジの姿も変化している。

 その姿はまるで炎の雪ダルマ。つまり、こおり・ほのおタイプとなるのだ。

 恐らくこの個体もダルマモードってことなのだろう。

 

「ヒヒダルマ、ふるいたてる!」

「キングドラ、あまごい」

 

 まずは雨を降らせてキングドラが最も有利となる状況を作り上げていく。

 対して白いヒヒダルマは己の身体を叩き奮い立たせ、攻撃力を上げてくる。

 

「至近距離でラスターカノン」

 

 雨のおかげで特性すいすいが発動し、一瞬にしてヒヒダルマの背後に移動することに成功。

 背後から至近距離で鋼の光線を放ち、ヒヒダルマを吹っ飛ばした。

 

「すいすい………!?」

 

 カブさんも理解出来たみたいだな。

 そこは流石である。

 

「ヒヒダルマ、連続でつららおとし!」

 

 効果抜群の技を受けたものの、ヒヒダルマはまだまだやる気のようで、すぐに切り替えてキングドラの頭上から次々と氷柱を落としてきた。

 

「躱せ」

 

 それを一つ一つ躱していき、さらにヒヒダルマとの距離を詰めていく。

 

「ラスターカノン」

「ヒヒダルマ、氷柱を掴んでぶった斬れ!」

 

 ヒヒダルマは自分の手元に落とした氷柱を掴み、クナイのようにして鋼の光線を真っ二つにした。

 

「フレアドライブ!」

 

 そして距離を詰めていたのが仇となり、炎の包まれた身体に弾き飛ばされてしまう。

 

「消火しろ、ハイドロポンプ」

 

 弾き飛ばされながらもしっかりと水砲撃を撃ち出し、燃え盛るヒヒダルマの身体を鎮火されていった。

 

「ふるいたてる!」

 

 おいおい。

 そんな捨て身にならんでも………。

 いや、これは態とか。敢えてダメージを受けることでダルマモードを発動しやすくし、その間に少しでも攻撃力を少しでも上げておきたいようだ。

 そして、カブさんの読みではこの水砲撃でダルマモードが発動する程までに、体力が削られるという見込みなのだろう。

 全く………静かなようでいて、攻撃的なバトルを仕掛けてくるな。

 ダンデとはまた違った攻撃的なトレーナーなのかもしれない。

 するとヒヒダルマが炎の渦に包まれ、ともすれば弾けた炎の中から目元と身体中にある水色の結晶が緋色に染まったヒヒダルマが現れた。

 

『おおっと! ここで遂に発動しました、ヒヒダルマの特性ダルマモード! 燃える雪ダルマ、ここに健在!!』

「さて、ここからが本番だよ! ヒヒダルマ、連続でつららおとし!」

 

 ヒヒダルマがさっきよりも短い間隔で氷柱を連続で落としてくる。

 

「躱せ」

 

 未だ雨が降っているため、躱すことは出来る。

 出来るのだが、躱したタイミングで次の氷柱が落ちてきて、技の精度が急上昇しているのが見て取れた。

 

「こっちの姿は置いていかれないんだよ。ヒヒダルマ、氷柱を掴んでぶった斬るんだ!」

 

 しかも炎の雪ダルマがキングドラの進行方向に現れ、落ちてきた氷柱を掴んで斬り掛かってくる。

 加速している状態で急に目の前に現れると躱せないのを分かっての動きだろう。

 

「ハイドロポンプを使って距離を取れ」

 

 だからぶつかる瞬間に口から水砲撃を発射し、ヒヒダルマを押し返し、水圧でキングドラもヒヒダルマから距離を取って後退していく。

 

「それを待ってたよ! ヒヒダルマ、フリーズドライ!」

 

 だが、カブさんの狙いはこっちだったようだ。

 撃ちつけられる水砲撃を伝い、キングドラの体温を急激に下げられ、水砲撃ごと凍りついてしまった。

 

「やっぱり持ってましたか。キングドラ、ねっとう」

 

 ただ、俺だって何も策を用意していないわけじゃない。

 こおりタイプのヒヒダルマが出てきた時点で、フリーズドライの可能性は高かった。ある意味、いつ使ってくるのかを待っていたくらいである。

 水砲撃を熱湯に変え、徐々に氷を溶かしていく。

 

「なっ?!」

 

 カブさんもフリーズドライの対策をしているとは、ましてやここまで読まれていることに驚いているようだった。

 

「そのままねっとうを浴びせ続けろ」

「ヒヒダルマ、もう一度フリーズドライ!」

 

 そのまま熱湯を浴びせ続けると、今度はその熱湯すらも凍らせる程の温度まで下げてきた。

 伊達に奮い立たせていたわけじゃないらしい。

 だが、それで力を使い果たしたのだろう。

 ヒヒダルマは顔から地面に突っ伏し、動かなくなった。

 凍りついたキングドラも二度も超効果抜群の技を受けて、かつ凍らされては、いくら熱せられた蒸気で氷が溶けていったとて、続行は不可能となっていた。

 

『ヒヒダルマ、キングドラ、共に戦闘不能!』

 

 何とまあ………初戦から相討ちですか。

 でもまあ、ガラルのヒヒダルマが出てきたこと自体が俺の中では計算外だったのだ。それを相討ちに持っていけただけでも見事という他ない。

 

「キングドラ、お疲れさん。恐らくカブさんの隠し玉であろうヒヒダルマに相討ちは上出来だ。ゆっくり休め」

「ヒヒダルマ、よくやったね。ハチ君のポケモン相手に相討ちは上出来だよ」

『な、なんとなんと初戦から相討ちだぁぁぁああああああああああああっっ!! チャンピオンカップでしか見られないカブさんのヒヒダルマ相手に、キングドラが相討ちとなりましたっ!!』

 

 お互いに労いの言葉をかけてポケモンたちをボールに戻していると、実況がすごい叫んでいた。

 ちらほらと立ち上がって拍手している観客も見受けられるため、相当すごいことをしたのだろう。まさにスタンディングオベーションってやつか。

 

「やっぱりハチ君はすごいね。ダルマモードのことも知ってたんだ」

「偶々っすよ。以前、リージョンフォームの専門家からそういうポケモンがいるってのと、俺の知り合いがガラルのヒヒダルマを使って実際にバトルしてる映像を見たことがあるんでね。炎の雪ダルマって言われてるんでしょ?」

 

 ナリヤ博士に見せられた時には驚いたし、その半年後に当たる第二回カロスポケモンリーグ大会では四天王になったイロハがユキノとのエキシビションマッチで使ってたからな。

 それが今から一年半以上先の出来事っていうだから不思議な感覚である。

 

「恐れいったよ。そう、ガラル地方のヒヒダルマはこおりタイプ。そしてダルマモードが発動してフォルムチェンジするとこおり・ほのおタイプになるんだ」

「みずタイプ対策っすか。それも一見ほのおタイプのパーティーにこおりタイプが? という疑問を抱かせた上でのフォルムチェンジによって隙を誘う。用意周到だこと」

「君相手だと本気でいかないとこっちが瞬殺されかねないからね」

 

 最早チャレンジャーに言う台詞でもチャレンジャーに向ける策略でもないな。

 ガチで倒しにきてると思う。

 まあでも、これくらいならまだ可愛い方か。

 同じほのおタイプのパーティーでもイロハのパーティーなんかマフォクシー、ガブリアス、ボルケニオン、ヒヒダルマ、バクーダ、ヒードランだったからな。

 三体と六体の違いはあれど、ガブリアスを初手で使ったりほのおタイプのパーティーにこおりタイプがいたり、何より伝説のポケモンが二体もいるんだから、カブさんのフルメンバーを想像したとてあそこまでのことにはならないだろう。それだけでもイロハのパーティーがいかに頭のおかしいレベルだったかが分かる。

 それと引き分けているユキノのパーティーも結構ヤバいよな………。

 

「さて、次のバトルといこうか」

「うす」

 

 俺もそろそろ頭を切り替えていくか。

 最後はやっぱりガオガエンなのは決定してるし、けど前回予定していたのを変更させちまったからな。約束もしたことだし、ここで正式にデビューしてもらうか。

 

「次はエンニュート、君の番だよ!」

「サーナイト、約束通りガラルのジム戦デビューだ」

「サナー!」

 

 ジム戦自体はイッシュ地方のヒウンジムでやってるからな。

 ただ、ここまでジムチャレンジの方に毎回いたのにジム戦には参加していなかったから、そういう意味ではデビュー戦ではある。

 さてさて、バトル後の掲示板でどういう評価になっているのやら………。

 

「まずはご挨拶だよ。どくどく!」

 

 カブさんのエンニュートーー恐らくさっきのヤトウモリから進化したエンニュートではないのだろう。

 というか既にエンニュートを連れていたから、あのヤトウモリは捕獲されなかったのかもしれない。

 そのエンニュートはサーナイトの足下に毒々しい液体を発生させて、サーナイトを吹きかけた。

 

「サナ?!」

 

 動きが早いな。

 躱す間すら与えてもらえなかったぞ。

 

「ベノムショック!」

「サナー!?」

 

 サーナイトが驚いている間に詰め寄り、サーナイトが崩折れた瞬間に頭に触れて、毒の衝撃波を送り込んできた。

 毒状態になっているから威力は二倍。さらに効果抜群の技であるため、さらに………か。

 しかもサーナイトの特性はシンクロなため、せめてもの抵抗をと思いきや、相手はどくタイプなため効果はない。

 

「初手から陰湿過ぎるだろ………」

 

 どくタイプの初手としては割と王道の手ではあるが、何というかカブさんらしくないというか、どっちかつーと俺がやるようなバトルだよな。カブさんには似合ってない。

 ただ、そんな手を使ってでも勝ちに拘っているのは窺える。それだけ警戒されているのだろう。バシャーモに勝っちゃったサーナイトだしね。

 

「サーナイト、落ち着け。まずはサイコキネシスで吹っ飛ばせ」

 

 起き上がるのが辛そうなサーナイトに、まずはエンニュートを超念力で壁まで吹っ飛ばして距離を取らせる。

 うん、そこは意地でもやるのね。

 勝ち誇ったようなエンニュートの顔にムカついたのかもしれない。多分壁に激突させたのは私怨からだろう。

 まあ、そんなどうでもいいことを考えているだけの猶予はないか。まずはこの毒をどうにかしないとな。

 

「さて、まずはその毒の対処からだ。サーナイト、頭の中にでっかい鈴を思い浮かべろ」

 

 確かサーナイトが覚える技の中に状態異常を治す技があったはず。エスパータイプとフェアリータイプを持ち合わせていることだし、サイコシフトとかアロマセラピーとかかなと思いきや、俺が見た本ではいやしのすずだった。

 まあ、いやしのはどうやいやしのねがいを覚えるんだし、『いやし』が付いた技の方がしっくりくるかと納得したのを覚えている。だから記憶に残っていたと言ってもいいくらいだ。

 

「ゆっくり、ゆっくりとその鈴を振れ」

 

 で。

 いやしのすずはその名の通り鈴の音を響かせて癒しを齎す技である。

 ただ、サーナイトはこれまで使ったこともないため、一から手順を踏んでやっていくしかない。何なら俺も教えるのは初めてである。

 

「な、何をする気だい……?」

「奮え、ゆらゆらと、奮え」

 

 カブさんが驚きと警戒の色を強める中、段々と鈴の音が聞こえ始めてくる。

 

「もっとだ。もっと奮え。癒しの音色を響かせるんだ」

 

 俺のイメージでは教会のデッカい鐘だったのだが、そこは今後サーナイトと擦り合わせることにしよう。

 

「そうだ、その調子だ。もっと強くスタジアム中に響かせろ」

 

 シャン、シャンと鳴り響く鈴の音が一層強く木霊する。

 いつの間にか歓声も止み、ただただ鈴の音色がスタジアムを包み込んでいった。

 

「いやしのすず」

 

 最後に一番強く鈴の音がスタジアム全体に響き渡った瞬間。

 サーナイトの身体から光が迸り、毒の毛色を消し去っていた。

 

「まさか、バトル中に技を覚えさせたっていうのかい………」

『………な、なんとハチ選手、バトル中にサーナイトに新技を覚えさせた模様です! その技はいやしのすず! エンニュートのどくどくによって毒状態になってしまったのを誰も真似できないようなやり方で回復させました!!』

 

 カブさんも実況の方も驚きの色を見せていた。

 おかげで隙だらけである。

 

「サイコキネシスで氷柱の雨を降らせ」

 

 ヒヒダルマが作り出した氷柱がまだそのまま残って散らばっているため、超念力で操らせてエンニュートに向かわせた。

 

「ッ?! エンニュート、ほのおのムチで撃ち落とすんだ!」

 

 あれま。

 撃ち落とすには物凄く相性の良さそうな技だこと。

 エンニュートは炎をムチのように振るい、次々と氷柱を砕いていく。リーチもあってなんか便利そうだ。

 

「サイコキネシス」

 

 けど、直接超念力で弾き飛ばすと、これには対処出来なかったようだ。

 再びカブさんの横を通り過ぎ壁に激突している。

 

「くっ、だったら! エンニュート、氷柱は気にせず、ほのおのムチでサーナイトを拘束するんだ!」

 

 するとその場から超長い炎のムチが伸びてきて、サーナイトを拘束してしまった。

 サーナイトちゃん、あなたそれくらい普通に躱せたでしょ?

 

「引き寄せて、きゅうけつ!」

 

 そしてムチを引いてサーナイトがエンニュートの方へと連れ去られていく。

 うちの姫さまが悪者に奪われていく感じがするのは気のせいだろうか。というかサーナイトちゃん、そういうシチュエーションを想像して楽しんでない? 大丈夫?

 

「マジカルシャイン」

 

 まあ、引き寄せられたなら、それはそれでやり様はあるからね。

 引き寄せたサーナイトに噛みつこうとした瞬間に、サーナイトから激しい光が迸り、エンニュートの視界を一時的に奪い取った。

 うーん、姫さまを奪ったと思ったらその姫さまに攻撃されるというね。

 恐ろしい姫さまだこと。

 

「サイコキネシス」

 

 そして超念力で地面に叩きつけると、エンニュートは悶えていた動きすら見せなくなった。

 うん、なんだかんだでサイコキネシスは効果抜群の技だからね。

 何度も受けてたらこうなるって。

 

『エンニュート、戦闘不能!』

『サーナイト、やはり強かったぁぁぁああああああああああああっ!! ほのおのムチで拘束出来たと思わせてのマジカルシャインでエンニュートの視界を一時的に奪ってしまい、そのままトドメまでいってしまいました!!』

「サナー!」

「おうおう、よしよし。頑張った頑張った」

 

 判定が下されるとサーナイトがこっちへ振り返り、そのまま俺のところへと飛び込んできた。

 勝ったから喜んでるというよりは勝ったから褒めてーと催促されてる気がするのは俺だけだろうか。

 だってねぇ。サーナイトちゃん、どくどくには苦しめられたけど、回復してからは終始余裕そうだったもん。

 

「お疲れ様、エンニュート」

 

 取り敢えずサーナイトの頭を撫でているとカブさんがエンニュートを戻していた。

 

「キングドラ君と相討ちになった時はいけると思ったんだけどね。サーナイト君には弱点でもあるどくタイプを当てられたと内心喜んでたんだけど、まさかバトル中に新しく技を覚えさせるなんてさ。人生初めてだよ、そんなトレーナーを見るのは」

「そりゃどうも。つってもサーナイトがどの技を覚えて、その技がどういうものかを理解していれば、そう難しいことじゃないと思いますけどね」

 

 俺は難しいと感じたことはない。

 そりゃ、技によっては急に覚えさせるには不向きな技もあるため、何でもかんでも出来るわけじゃないが、バトル中かただの特訓の時かの違いでしかないからな。

 技を覚えさせる際の最初の手順をただバトル中にやったにすぎない。

 

「いや、その量が半端ないからね。ポケモン一体に対してどれだけ技があると思ってるのさ。それを全て把握して、かつその技がどういうものかを深く理解するなんて、普通のトレーナーには無理な話だよ。ましてやそれをバトル中に行うなんてね」

「スクールに通ってた時に初めてやりましたけど、普通にいけましたよ?」

「はい?」

 

 リザードンにかみなりパンチを覚えさせてから何年経つんだ?

 七年くらいは経つよな。

 それから度々バトル中に必要だと思った技は覚えさせていたし、それ程驚くようなことではないと思うのだが。

 

「スクールにいた頃からなの?」

「ええ、まあ」

「………はあ、君には驚かされることばっかりだね。ジムチャレンジでヤトウモリがエンニュートに進化するまでの過程を見て今日一番の驚きだと思ったけれど、バトル始めたら君の知識量には驚かされるわ、バトル中に新技を覚えさせるわで、正直驚き疲れたよ。それで、次はどうやって僕を驚かす気だい?」

 

 カブさんは驚き疲れたというけれど、結構楽しそうに話してるのは気のせいですかね。言葉と表情があってないですよ?

 

「別に驚かせているつもりはないんですけどね………。俺はいつも通りのことをやってるだけなんで」

「そうだろうねぇ………捕まえる前の野生の状態のままだったヤドラン君に思いがけず進化しちゃったからって理由で、技の使い方とかをレクチャーしてるくらいだもんね。ハチ君にしてみれば日常なんだろうけど………いやはや恐ろしい」

「アレは俺のせいでもあったんでね。おかげでみずのはどうで無駄に技術のいる遊びが出来るようになったし、シェルブレードを二刀流で使えるようになりましたよ」

 

 俺も最初はそんなつもりなかったんだけどな。

 ヤドランが思いの外、優秀過ぎたのが悪い。

 

「今朝も話したと思うけど、昨日のジムチャレンジとジム戦見て、ヤドラン君のみずのはどうでギャラドスを作り出す技術とか、かいがらのすずを媒体にして二刀流にするとか、発想がすごいと思ったよ。あ、てか道場で作ってたかいがらのすずってアレかい?」

「そういえば完成した時にカブさん来ましたね。そうそうアレです」

「シェルブレードだから左腕のように右腕にもって? それで回復しながら使えるかいがらのすずをチョイスする辺り、流石の一言に尽きるよ………。今度僕も何か試してみようかな」

 

 カブさんは今でも充分強いと思うんだけどな。

 ここにさらにポケモンたちの持ち物を厳選してきたら、結構手がつけられなくなるんじゃなかろうか。ネタに走るとも思えないし。

 

「長話もこの辺にしておこうか。そろそろ観客たちも次のバトルはまだかまだかと痺れを切らしてきたみたいだし」

「そうっすね」

 

 会話を切り上げバトルの続きを、ということなのでサーナイトの背中をポンポンと叩くとフィールドへと戻っていった。

 

「さあ、ここから巻き返すよ! マルヤクデ!」

「クデェェェェ!!」

 

 やはり最後のポケモンはマルヤクデか。

 

「サーナイト、スキルスワップ」

 

 ならばと速攻でサーナイトと特性を入れ替えるように指示した。

 

「ッ!?」

『えっ?!』

 

 まさかマルヤクデが出てきた瞬間に俺が動くとは思っていなかったようで、カブさんも実況席も何なら観客たちも固まっている。

 あれだけうるさかった歓声がピタッと止まると、それはそれで不気味である。

 

「はい、ご苦労さん。交代な」

「サナ!」

 

 サーナイトは相手が最後の一体であること、そしてその相手はガオガエンがすることを理解しているため、俺に敬礼してからボールに戻っていった。

 可愛いなコンチクショウ!

 

『あ、あ? えっ?』

「くくく、あっはっはっはっ! 天晴れだよ、ハチ君! その用意周到さ! 実に君らしい!」

 

 おい、実況!

 せめて追いついてこい!

 カブさんなんかもう理解しちゃってるぞ。

 

『えっと、実況席でも状況の整理が追いついていませんが、サーナイトの技の最後一枠にスキルスワップを用意していて、マルヤクデを出してきたタイミングでスキルスワップを使い、交代してしまった………ということでしょう! マルヤクデの特性はもらいび。そのもらいびを奪い取り交代したとなれば、恐らく彼の最後のポケモンは………!』

「マルヤクデの特性がもらいびだってことに気づいてたのかい?」

「一応ジムチャレンジに参加するからにはガラルのポケモンについても勉強しないとでしょ。それにカブさんのマルヤクデの特性がもらいびかどうかは知らないですけど、もらいびなんかあっちゃ、こいつが暴れられないんでね。スキルスワップを使っておけば、まず間違いはない。ってことで。いくぞ、ガオガエン」

 

 カブさんの切り札がマルヤクデなのは知っていた。だからマルヤクデについては調べてあるし、ガオガエンを出すとなるとネックになるのが特性のもらいびだったのだ。

 ………うん、誰でもいけるとは言っていたもののガオガエンとサーナイトは初めから俺の中で決まってたのかもな。ヤドランはまだ覚えさせてないし。

 

「ニトロチャージ」

 

 まずは炎を纏いながらガオガエンを加速させていく。

 

「マルヤクデ、フレアドライブ!」

 

 するとマルヤクデは躱すのではなく、あっちも炎を纏って突撃してきた。技の威力としてはあっちの方が上。しかも身体が長いため、やや上の方からの攻撃となり、ガオガエンが弾かれてしまった。

 

「きゅうけつ!」

 

 そのままの勢いでガオガエンに噛み付くと体力を吸い取ってくる。

 ほのおタイプがあるおかげで効果抜群というわけではないのだが、あっちには回復技があると思うとちょっとばかし面倒ではある。噛み付かれるのには要注意だな。

 

「そのまま離すなよ。じごくづき」

 

 だが、噛み付かれたのを逆手に直接技を叩き込めるメリットはある。

 これも多用してはこちらが不利になるため、過信は厳禁。

 ガオガエンがマルヤクデの喉辺りを掬い上げるようにド突くと仰反るように離れていく。

 

「蹴飛ばしてアクロバット」

 

 その胴体を蹴飛ばして、ガオガエンがくるくると回転しながら後方へと下がらせた。

 そして空気を蹴り上げ一気に加速し、マルヤクデに向かって飛び込んでいった。

 

「マルヤクデ、フレアドライブ!」

 

 マルヤクデも炎を纏い突っ込んでくる。

 だが先程とは違い、今はガオガエンが上から落ちてくる構図である。しかもニトロチャージにより素早さも上がっているため、上乗せされる力は先程とは増しており、結果ガオガエンが競り勝った。

 

「マルヤクデ!?」

 

 弾き飛ばされたマルヤクデは地面に叩きつけられる。

 効果抜群というのも相まって何も持たせてはいないし、威力は出ていたことだろう。それでも見た感じ戦闘不能には至っていない。平たい身体なのに意外と耐久力があるようだな。

 

「ねっさのだいち!」

 

 するとガオガエンが着地した同時に地面が噴き上げ、高温に熱された土に呑み込まれていく。

 確かねっさのだいちってじめんタイプの技だったよな。ただ、熱を帯びているだけあって火傷の追加効果があったはず。

 いわタイプ対策にもなるから覚えておいて損はない技だな。

 

「………全く、抜け目ないな」

 

 躱しようがなくガオガエンも効果抜群の技を浴びてしまった。

 着地を狙ってくるとか、倒れた状態でよくピンポイントで狙えたものだと賞賛してしまう。

 

「熱い、熱いね、ハチ君! こんな熱いバトルは久しぶりだよ! もっともっと己の魂を燃やし尽くそうじゃないか!」

 

 いつの間にかカブさんもハイテンションになってるし。

 確かに熱いよ。さっきから炎技の応酬に熱を持った土が舞っているんだ。文字通り熱いっつの。

 

「マルヤクデ!」

 

 カブさんはマルヤクデに呼びかけるとボールに戻し、俺の方に向けてきた。

 

『こ、これはどうやら我らがジムリーダーの切り札が見られそうです!』

 

 右腕に付けていたダイマックスバンドからエネルギーが送られ、右手に持ったボールがどんどん肥大化していく。

 

「キョダイマックス!」

 

 そしてそれを上に投げつけ、出てきたマルヤクデがどんどん巨大化していった。

 とうとう出てきたか、キョダイマックス。

 三発という制限はあるものの、一撃一撃が尋常じゃなく、Z技を三発連続で撃たれるようなものである。しかも技も巨大化するため点の攻撃ではなく面の攻撃になってしまう。

 

『きたぁぁぁあああああああああああああああッッ!! キョダイマックス! キョダイマルヤクデ!』

 

 加えてダイマックスではなくキョダイマックスである。お初にお目にかかるマルヤクデのキョダイマックスの姿は最早ドラゴン。赤いレックウザと言われても違和感はない。それくらい長い身体でうねうねしている。

 さて、どう凌いだものか。

 取り敢えず、アクZは装着しておくか。

 

「ダイアース!」

 

 するとマルヤクデが尻尾で地面を叩き、その衝撃が地面を抉りながらこちらに向かってくる。

 

「アクロバットで躱せ」

 

 地面を蹴って後方にくるくると回転して躱していくものの、あっちはフィールド全体を抉ってきており、加えて衝撃で五メートル近くの高さまで土が舞い、空に逃げたガオガエンは躱しきれていない。

 というかだ。

 バトルよりも俺の命が危険に晒されている気がする。

 しれっと黒いのが守ってくれているというね。すまないね、いつもいつも。

 

「キョダイヒャッカ!」

 

 空気を蹴り上げることなくガオガエンは着地してしまい、アクロバットが不発に終わると、今度は灼熱の炎がフィールドに戻ったガオガエンを呑み込んでしまった。

 これ、ダンデのリザードンと遜色なくね?

 火力バカはあいつの称号とするとカブさんは火力お化けだろうか。うん、違いが分からんな。

 

「ニトロチャージで抜け出せ!」

 

 中にいたって仕方がないので、さっさと出てくるように指示を出す。多分聞こえないだろうから、頑張って声を張った。超恥ずかしい。仮面被ってるおかげで顔を見られないのがせめてもの救いである。

 

「ガゥ!」

「ガオガエン!」

 

 マグマのような炎の巨大な柱の中から出てきたガオガエンと目が合う。

 すかさずZリングを見せるとガオガエンは頷いて身体を反転させた。

 

「捉えたよ! ダイストリーム!」

 

 うっわ、マジか。

 やっぱり覚えていたか、ねっとう。

 マルヤクデが覚える技の一覧に異色の技があり、それがみずタイプの技であるねっとうだったのだ。

 まあ、覚えさせるよな。ほのおタイプの弱点対策としては申し分ない技だ。加えてほのおタイプがみずタイプの技!? という驚きもある。

 蓋を開ければねっとうなため、まあ納得って感じではあるのだが、ダイストリームを使ってくるということは、それ即ちねっとうを覚えている証左だ。

 よかった、準備しておいて。

 

「ガオガエン、ブラックホールイクリプス!」

 

 Z技のポーズを取り最後で両手を上げると、そのままガオガエンが上に両手を伸ばし、黒い球体が生まれ始めた。その球体はマグマのような巨大な炎の柱も抉れたフィールドの破片も全てを吸い込んでいき、段々と大きくなっていく。さらに吸い込む力が風を生み、ダイストリームすらも球体に向けて進路を捻じ曲げ吸収されていく。

 まさにブラックホール。ついでにいえば俺はそれを見上げる形となり、丁度太陽が隠れてしまっている。なるほど、それでイクリプスーー日食ってわけか。太陽をも呑み込んでしまいそうなブラックホールってか。おっそろしい。

 

「ダイストリームが、全て吸収された………!?」

『な、何が起きているのでしょう! ダイストリームが発射されるのと同時にガオガエンの遥か頭上に黒い球体が現れ、ダイアースでの破片もキョダイヒャッカの炎も、発射されたダイストリームすらも進行方向を変え呑み込まれていっています! まるでブラックホールのようです!!』

 

 無論水が飛び散ることもなくなってしまったため、追加効果の雨が降ってくることもない。

 ターフジムでも使ったけど、こんな膨大なエネルギーじゃなかったよな………?

 やっぱりアレか? 吸い込んだ量によってエネルギーの量も変わり、引いては威力まで変わってくるとか?

 俺もそこまでZ技の仕組みについては詳しいわけじゃないからな。

 ただまあ、恐らくダイマックス技に対して最強の技だと思う。何せブラックホールよろしく全てを吸収してしまうのだから。

 そして溜め込んだエネルギーはそのまま球体の大きさへと変貌し、マルヤクデへと投げつけた。

 先の二発のお返しじゃい!

 面での攻撃はこっちにもあるんだってばよ。

 

「マルヤクデ!?」

 

 近づくにつれ、マルヤクデもブラックホールの吸引力には抗えず、黒い球体が直撃してしまった。

 いやまさか。

 ここまでの威力に膨れ上がるとは………。クレーター出来ちゃってるよ。

 ホノオZを持っていないため、Z技はガオガエンのイメージ作りに役に立たなさそうだなと思っていたのだが、なんだこれは。

 むしろこっちが正解だったんじゃないだろうか。

 今の一撃で対ダイマックス技用の切り札って印象が植えつけられてしまったぞ。謎の技にターフジムの時は驚きに包まれていたとはいえ、もう少し反応がマイルドだったはずだ。少なくともこんな静まりかえったりしていない。

 

「ははっ、完璧なタイミングだな」

 

 しかもこんな時にタイミング良くもうかが発動するかね。

 ガオガエンの毛が逆立ち、メラメラと赤いエネルギーがガオガエンを覆っている。

 完璧すぎて逆に恐ろしいわ。

 

『ああっと、ここでタイムオーバー! マルヤクデが元の姿に戻り始めました!』

 

 お互いにあと一撃食らえば戦闘不能になりそうな状況だ。どちらとも疲弊の色が色濃く出ており、それだけここまでの攻防が激しかった証だろう。そこまで派手なことはしていないが、それ故に一撃が地味に効いたってところか。

 

「ガオガエン、お互い次が最後だろう。だからトドメだ。まずはもうかの炎を爆発させろ」

「ガォォォオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!」

 

 もうかの炎が弾け、フィールドに広がっていく。

 やがて炎はガオガエンの顔のような形を作り、その全てが右脚に凝縮していく。

 ガオガエンもトドメという言葉でどの技を使うのかは分かってきているみたいだな。

 

「ブレイズキック」

 

 駆け出したガオガエンがジャンプすると両脚を折り畳み、空中で一瞬止まったところで、マルヤクデもガオガエンに照準を合わせてきた。

 

「マルヤクデ、全力でねっとう!」

 

 右脚を伸ばして下降し出すと熱湯が発射され、下からガオガエンが呑み込まれていく。

 だが、ガオガエンに触れると部分的に蒸発していくようで、白い煙が立ち上っていった。

 ズドーン! という鈍い響きがスタジアム中に響くと爆発が起きていく。

 うん、白い煙で何も見えない。

 

『白い煙で何も見えませんが、交錯の結果はどうなっているのでしょうか!』

 

 しばらくすると煙も晴れて、見えてきたのは地面に伏す二体の姿。

 

『ガオガエン、マルヤクデ、共に戦闘不能! よって、勝者! チャレンジャー、ハチ!』

 

 判定が下され、俺にはまだサーナイトが残っているということで、俺の勝利となった。

 流石はカブさんの切り札と言ったところか。

 今のガオガエンでも相討ちがいいところで、もし仮にスキルスワップで特性を交換していなければ、ガオガエンが負けていただろう。

 いくら強くなったとはいえ、まだまだ足りないということだ。

 

『勝ったのはチャレンジャー、仮面のハチィィィ!! ジム戦では異例続きの中、第三戦目でもジムリーダーのメインパーティーから抜粋されたポケモンたちに互角以上の実力を見せてくれました!!』

 

 なんか観客以上に実況が興奮してないか?

 

「お疲れさん、ガオガエン。カブさんの切り札に相討ちは上出来だよ。よくやった、ゆっくり休め」

「マルヤクデ、お疲れさま。強かったね、ほんと………」

 

 ほのおタイプ専門のトレーナーの切り札とやり合える機会なんてそうないからな。しかもエース。ガオガエンにはいい経験になっただろう。

 俺としても同じタイプ同士のやりにくさが滲み出ていたバトルだと思っている。複合タイプの方でどうにか弱点を突いたりしていたが、やはり決定打にはなりにくい。特性のこともあるし、ポケモンバトルは奥が深い………。

 

「いやはや、参ったよ。ほのおタイプがみずタイプの技!? って度肝を抜くはずだったんだけどね。ハチ君は動じなさすぎるよ」

 

 フィールドのセンターサークルの方に移動するとカブさんが苦笑いを浮かべていた。

 

「だから言ったでしょうに。ガラルのポケモンのことは勉強したって」

「勉強したからって、そんな小さな可能性を考慮されてるとは思わないよ」

「そうっすかね。マルヤクデがねっとうを覚えるって知った時、俺だったら真っ先に覚えさせておくなと思いましたよ?」

 

 ねっとうとねっさのだいちはどっちかは使ってくると思ってたからな。まさか両方使われるとは思いもしなかったが、ほのおタイプ相手だとそうならざるを得ないのも理解出来る。

 

「はぁ………、ソニア君が君を羨むのが理解出来たよ。そのバトル技量にその知識量。ダンデ君とマグノリア博士が一人になって現れたって言われてもおかしくないよ。彼女、よく君にコンプレックス抱かないね」

「あー………出会った初っ端に言われましたね。ダンデとマグノリア博士並みでコンプレックスを刺激されるって。ボロカスに言われましたよ。まあ、そこからちょっとスッキリした顔にはなりましたけど」

 

 最近、ソニアの口からダンデやマグノリア博士に対しての黒い感情を聞かなくなった気がする。

 昨日なんてルリナが理解してくれて嬉しそうだったし。

 

「青春だねぇ」

「青春してるのはあいつだけでしょ。俺はただの吐口でしかないですよ」

「君も相変わらずだね」

 

 これが青春というのなら、それはソニアとルリナだけだ。俺のは青春でも何でもない。これを青春と呼んでしまうのなら、そんな俺の青春は間違っている。

 ここに来るまでの出来事がおかしすぎるんだわ…………。死線を彷徨う青春とかマジでいらねぇ。せめてあいつらとのラブコメをくれ。

 …………いや、それはそれでいいや。もうメンバーは足りてるし、これ以上増えたらカロスにいる女性陣に何を言われるやら…………。

 そうでなくてもイロハ辺りに現地妻を作ってきたのかと揶揄われそうである。

 

「………と、準備が出来たようだね。まずはほのおバッジ。僕に勝った証だよ」

 

 スタッフの人がトレーを持ってきて、そこに乗っていたバッジをカブさんから受け取る。

 バッジねぇ………。

 

「それと……」

「ニュゥゥゥウウウウウウウウウッ!!」

「ぶべらっ!?」

 

 バッジを見てたら急に横からタックルされて吹っ飛ばされてしまった。

 え? なに? どゆこと?! というか結構横腹痛いんだけど。

 

「ニュー!」

 

 …………ジム戦に勝ったらエンニュートに押し倒されてる件。

 

「………どういうことだってばよ」

 

 全く状況が読めないんだが。

 どうしてエンニュートが俺にタックルしてきてるわけ? というか何で押し倒されてんの? そして何でエンニュートは俺の胸に顔を擦り付けてんの?

 

「まあ、この状況で考えられることは一つだよね?」

 

 ………………多分、ミッション中に進化したエンニュートなのだろう。群れのボスの方が来るとは考えにくい。というかあっちのが来たのなら闇討ちとしてさっさと攻撃してきているはず。すなわち俺は燃えているはずだ。そうならなかったということは進化した方のエンニュートなわけで…………どゆこと?

 これで考えられることが一つ?

 

「エニュー!」

「ぐふっ」

「サナー!」

「ぐえっ」

 

 ま、待って………サーナイトも勝手に出てきてエンニュートを引き剥がそうと俺に乗ってこないで。俺潰れちゃう。

 

「サナ、サナサナ!」

「ニュニュ、エニュー!」

「サナー………」

 

 俺の腹の上で女の子たちだけによる会話が執り行われたようだが、二、三言で終了。サーナイトが溜息を吐く結果に。

 

「えっ、何だよ………」

 

 そして二人して俺をじっと見てくる。

 エンニュートは何かを期待した目でサーナイトは諦めの目で………。

 

「モテモテだね」

 

 カブさんがこの状況を楽しんでいるようだが、無視だ無視。

 期待ねぇ………こんな甘えてくるってことは、やっぱりそういうことになるわけ?

 

「ああ、もう分かったよ。けど、アレだぞ? 一緒に来るのはいいけど、お前を今回のジムチャレンジで使うことはないからな? 一応俺もダンデとバトルするのが目的だし、群れ一つを焼き払って進化したとはいえ、今のお前では今後のジム戦もまだ厳しいだろうし。あといくら俺でも一ヶ月でダンデとやり合えるまでに鍛え上げるのは無理だからな?」

 

 一応俺の手持ちは六体揃っているからな。

 人に見せられない奴らもいるからそれ以上にはなるが、今の面子にさらにエンニュートを加えるとなると、ちょっと実力差が目に見えてしまうだろう。ポテンシャルはあるのだが、それだけである。それにここからはさらにジムリーダーたちも強くなってくるだろう。ルリナの話では全員本気のメンバーの中から選出してくるみたいだからな。エンニュートにはまだキツいはずだ。

 

「エニュー!」

「いいのかよ………結構酷いこと言ってるんだけどな」

 

 だが、異論反論無く抱きつかれてしまった。

 意思は固そうね。

 

「エンニュートはバトルだけが目的じゃないみたいだからね。強くなりたいのもあるだろうけど、それ以上にハチ君と一緒にいたいってことだと思うよ」

「………物好きなやつめ」

 

 エンニュートがいいというのだから、最早俺に断る理由はない。というかエンニュートは理解しているのかすら怪しく見えてくる。君、話聞いてた? 聞き流してない?

 

「はいこれ」

「なんつー準備の良さよ」

 

 するとカブさんからモンスターボールを手渡された。

 あ、今俺持ってなかったからね。控え室に行けばあるけど、ボールに入れるのはそこまでお預けかと思っていたから有難い。

 

「これはエンジンジムからのささやかな感謝の印ってことで。エンニュートが君のバトルを見て、君の元へ行きたそうにしてたから用意してくれたみたいだよ」

 

 ここのスタッフもエンニュートに進化しちゃったけど、ヤトウモリのことはガチで気にしていたんだな。アフターケアまで手厚いとか。あるいは俺に押し付けているとか?

 ………いや、それはないか。

 

「だってよ。ほれ、エンニュート」

「エニュ!」

 

 モンスターボールを受け取ってエンニュートに見せると、エンニュートは自ら開閉スイッチを押してボールの中へと吸い込まれていった。

 

「………なーんでこうなるかね」

 

 実況の興奮がバトル以上のものになっているが、最早聞き取れないレベル。早口になりすぎなんだよ。あと歓声がずっと鳴り止まない。

 ああ、またネットで色々書かれるんだろうな…………。

 

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