ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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84話

 ジムミッションでもジム戦でも色々と異様な光景を作り出してしまったことで、バトル後はメディア関係がお祭り騒ぎとなった。ポケモンリーグ委員会から俺への取材は大会が終わるまで禁止との発表があったにも関わらず、エンジンジムの受付にメディア関係者が挙って押し掛けるという事態に発展するくらいには騒がしいことになってしまった。

 こんな状態で俺を外に出したら絶対何かしらが起きるというカブさんの判断の下、俺はエンジンジムで一泊。今朝方使った仮眠室で一夜を過ごすことになったわけだが、俺としてはそれどころではないわけですよ。

 ええ、そりゃもう。

 右にサーナイト、左にエンニュート、腹の上に頭を乗せて脚の間に挟まっているキングドラ。

 これで寝ろと?

 窮屈すぎて寝れるかよ………。

 当の御三方は既に眠りこけており、俺だけが取り残された状態である。寝返りも打てなければ起き上がることも叶わない。掛け布団も掛けられない、というか必要ないくらいにはぬくぬくである。

 さあて、どうしたものか。

 こう、真っ暗な部屋に身動き取れないとなると無駄に想像力だけは働いてしまい、ここにウツロイドまで加わったらマジでどうしようとかフラグを立てにいってしまっても、何らおかしいことではないだろう。

 うん、頼むから出てこないでね。

 

「ダークライさんや、お願いがあるのですが」

「………ライ」

「さいみんじゅつを俺に掛けて眠らせてくれませんかね。次いでに太陽が昇るのと同時に起こして頂けると助かります」

「………ライ」

「さーせん、オナシャス」

 

 短い返事の度に可哀想な目で見られていたような気がするが、黙っておこう。

 

「………………………」

 

 ウールーが一匹、ウールーが二匹、ウールーが三匹………ーーー。

 

「………………………」

 

 ダメだ。

 ウールーを数えてたら一昨日のことを思い出してしまうわ。

 あの大勢の毛玉に追いかけ回されるという謎の恐怖。

 怪我を治したら何故か進化したバイウールーの謎。

 その背中に乗せられ、二倍、三倍に増えるウールーたちと共に行進する羽目になった恥ずかしさ。

 色々あるがウールーたちって…………ーーー。

 

「………………………」

「…………はい、さーせん。無駄なこと考えてないで意識落とすのに集中します」

 

 ダークライからの無言の圧力を感じてしまった。

 そうだよな。

 無駄に思考しているとさいみんじゅつを掛けていいのか判断に迷うよな。

 ごめんな、俺から頼んでおいて邪魔するようなことして。

 大人しく意識を落とすのに集中するから。

 腹式呼吸でゆっくりと深呼吸をしていくと段々と深く落ちていく感覚になり、そこからの記憶は途絶えた。

 

 

 

   *   *   *

 

 

 

「ライ」

「ん………」

 

 何かに強制的に覚醒させられると外は少し明るくなっていた。黒から青に変わったくらいと言えば分かるだろうか。ここから水色になり、黄色………というのも変だが光に照らされていくって感じだ。

 うん、確かに日の出と同時って言ったけど、ガチ目の同時じゃないですかね。

 俺を取り囲んでいた御三方は未だに寝ている。

 だけど、俺に巻きついていた身体は離れており、腕が自由になっていた。

 ただね、キングドラだけは腹の上から退いてないんだわ。

 そりゃ重たいわけだ。

 

「ダークライさんや、この三人娘をボールに戻してもらえたりしません?」

「……………ライ」

 

 仕方ない、とばかりの間を入れられたような気がしたが、やってもらっている手前、文句は言わないでおこう。

 

「流石っすわ。………ふぅ、なんかやっと身動き取れるようになった感じだな」

 

 流石に両腕を拘束された状態で腹の上にまで乗られると寝たのに疲れが溜まっている気がする。

 これもトレーナーの務めと言われればそれまでなのだが、俺のパーティーにメスのポケモンが加わったのすら、サーナイトが初めてだからな。まさかこんなにメスポケモンに囲まれる日がやって来るなんて誰が想像出来ただろうか。

 

「さて、こんな時間なら誰も起きてはいないだろうし、さっさとお暇しますかね」

 

 とはいえ、今はそんなことを考えている場合ではない。

 日が高く登ればマスコミも活発に動き出すだろう。それでエンジンジムに迷惑を掛けるのも俺の本意ではない。

 素早く身支度を整えて仮眠室から出た。

 

「もう行くのかい?」

「うぉ!? ………びっくりした。カブさんか」

 

 正面エントランスはジム自体が営業前なので閉まっている。

 だから裏口を探そうとした矢先に後ろから声をかけられた。

 振り返るとカブさんと、ルリナとヤローさんまでいるではないか。何故に?

 

「ごめんね、驚かせて」

「いや、まあ………つか、ルリナはともかく何でヤローさんまでいるんすか?」

 

 ルリナは昨日俺と徹夜でエンジンジムまで来て、ジム戦も観戦していったのだからいてもおかしくはない。ただ、ヤローはいなかったよね? 

 それが何故ここに?

 しかも日も登り始めようとしているこんな早朝に。

 

「カブさんに呼ばれて君の見送りに来たんだなぁ」

「どうせアンタのことだから、迷惑かける前にここを離脱しようって考えなんでしょうけど、挨拶くらいさせなさいよ」

「いやー、だって、ねぇ?」

 

 どうやら三人には俺の行動が読まれていたらしい。

 そういうところだぞ。ユキノ要素増し増しなの。

 

「昨日はジム戦に加えてあの場でエンニュートが仲間になるところを中継されてたからね。選手の体調を考慮しても翌日にはマスコミが仕掛けてくるだろうって思ったんでしょ?」

「一応全ての取材はジムチャレンジが終わってからって約束は公表してても、バカなマスコミが独自スクープを狙ってくる可能性はあるものね。それで迷惑をかける前にここからいなくなれば万事解決ってところかしら?」

 

 わーお、綺麗に読まれてるー。

 マジでユキノに問い詰められてる気分だわ。

 

「気持ち悪いくらいに読まれてるな」

 

 俺の頭の中をトレースしたって言われても納得しちゃえるレベル。

 

「アンタがそういう奴だって分かったからよ。普通そういうのって私たちに相談してくるものでしょうに。一人で抱え込んで、それカッコいいとでも思ってんの?」

「別にカッコいいとか思ってねぇよ。ただの効率重視だ。これは俺が原因で起こり得る問題なんだから、さっさと消えた方が問題は起こらないだろ。特にマスコミなんかは相手にするだけ無駄だ」

 

 これはカロスでの経験上のこと。

 マスコミは記事になりそうな内容にすぐに飛びついてくる。だから今回のジムチャレンジにおいては俺の存在がその対象となり、他社よりも先に記事にしたい思いで張り込みとかさえしてくることも考えられる。いくらリーグ委員会から声明が発表がされたとしてもそれは変わらない。

 こうなったらカロスでのパンジーさんのように専用のチャンネルを用意しておくのも手かもしれないな。ただ、現時点ではガラルでその信用に足る人材を知らない。今のところその代わりとなっているのがリーグ委員会ではあるが、その効果も絶対的とは思えないし、何かしらの対策は考えておく必要はあるだろう。

 取り敢えず、応急処置はしておくかな。

 

「はぁ………、ポケモンの知識は無駄にあるのに、そういうところは鈍いんだから」

「ああ、そうだ。あの発表があったにも関わらず大会期間中に俺を嗅ぎ回ろうとするようなら、そのせいで俺はジムチャレンジを辞退するって発表しておいてくれ。今後一切ガラルにも足を踏み入れない。当然推薦してくれた師匠からはマスコミ各社に抗議、今後一切契約にも応じない。あと俺とのバトルを楽しみにしているダンデからも声明を出させれば、ネット民を中心にマスコミへの圧力になるだろ」

「うっわ………」

「何だよ」

「引くわー………」

 

 案を出したら何故かルリナにドン引きされてしまった。

 いやいや、これくらいしないとマスコミなんてすぐに図に乗るからね。

 

「ハチ君、過去にマスコミと何かあったの?」

「特に大きなことはないですよ。ただ、あれは調子に乗らせたら何を書かれるか分からない生き物ですからね。こっちも強気に出ないと舐めてかかられる。加えてそれに便乗したバカが俺の周りの奴らに危害を加えようとする可能性だってある。なら、危険な芽は早い内に摘んでおくに越したことはないんですよ」

「………君が僕たちを心配してくれてるっていうのはよく分かったよ。それなら僕たちも何か手を打つとするよ」

「そうね、オリーブさんにも連絡をしておくわ」

「ああ、そうだね。あの人に頼めばいいんだよな」

 

 忘れてたわ。

 今の案も全部あの人に言えば何とかしてくれると思う。仕事の出来るおばさ………お姉さんは半端ないからな。

 

「なら、今の全部あの人に伝えておいてくれ。やるやらないは別として効果がありそうなものはあの人が逐次やってくれそうだし」

「分かったわ」

 

 よし、これで心置きなくジムチャレンジを続けられそうだ。

 さて、俺はそろそろ出るとしようかな。日も登ってきてるだろうし、明るくなってはマスコミが動き出してしまう。一晩中張り込まれてたら終わりだが、まあ何とかなるだろ。

 

「ああ、そうそう。行く前に一つだけ聞かせてくれるかい?」

「………俺に答えられることなら」

 

 するとカブさんが思い出したかのように聞いてきた。

 

「ガオガエン君が作り出したあのブラックホールのようなもの。ダイストリームをも呑み込んだあの技は何だい?」

 

 どうやらZ技についてらしい。

 うーん、あれはまだ何なのか秘密にしておいた方がいいんじゃないかと思う。ネット民もジム戦ごとに増えていく俺の情報を元に考察していくのが楽しそうだし、俺がアローラ出身のトレーナーって誤認され始めているのなら、そう遠くない未来にZ技についても行き当たるだろう。

 一応俺にはジムチャレンジを盛り上げる義務も契約に盛り込まれているため、情報の出しどころも考えた方がいいだろうな。

 

「あー、今はまだ企業秘密ってことで。一応ちゃんとポケモンの技なんで、悪い組織の力を借りてるとかではないですよ」

「そこは心配してないよ。君はグレーではあっても黒には染まらないだろうからね」

 

 白ではないんですね。

 当たってますけども。

 見事過ぎてびっくりしたわ。

 

「まあ、ダイマックスを使えない俺の秘策その一ってことで。その内ネットで技の正体とか考察されていくんじゃないですかね」

「あら、鋭いわね。もう考察されてたわよ。アローラ地方に伝わる技を強化するZ技の一つ、あくタイプのZ技であるブラックホールイクリプス。太陽をも呑み込んでしまいそうなブラックホールでエネルギーを溜めてうんたらかんたらって書いてあったわ」

「わーお、バレてらっしゃるー」

 

 恐るべし、ネット民。

 既に考察されていたか。

 

「え? そうなのかい? おじさん、そこまで確認してなかったな」

 

 カブさんもネットを逐一確認しているわけではなさそうだもんな。

 

「おかげで反則抗議も起きてないみたいよ。よかったわね」

「あー………そうか。反則扱いにされる可能性もあったんだったな」

 

 知らない技だと反則扱いになったりすることもないこともないから。多分、知らんけど。

 取り敢えず、ポケモンが出しているのだから技という認識になるだろうし、そう簡単には反則扱いされないとは思うけど、可能性が無きにしも非ずともなると、もう少し考えておくべきだったかもしれない。

 まあ、結果論でしかなく過ぎたことを考えたってしょうがないし、問題なさそうだし、この件について考えるのはやめておこう。

 

「で、そのZ技っての。私の時にも使ったでしょ。インファイト的なやつ」

「………使ったな。砂嵐で見えてなかったんじゃないのか?」

「今にして思えばってやつよ」

「それを言ったら僕の時は同じようなブラックホール作り出してましたよねぇ。みんな何だアレは!? ってなってましたよ」

 

 それはブラックホールイクリプスの使い勝手がいいのが悪い。ブラックホールよろしく技を呑み込んでしまうのだから、ここぞって時には重宝する技になりそうだ。

 

「ネット民も考察材料が増えて楽しそうよ。はいこれ」

「今度はなんだよ」

 

 ずっと紙束持ってるなーとは思ってたが、まさかの印刷してきたのかよ。

 こいつ、どんだけ俺にネット民のコメントを俺に読ませたいんだよ。

 

「プレゼントよ。昨日のジム戦を受けてのネットでの反響とか考察とか、いろんなところから取ってきて印刷しておいたわ」

「お前、本当俺に読ませるの好きね。羞恥プレイか何かなの?」

「自分の評価を正しく受け止めなさいってことよ。興味ないとか言ってても、知っておいた方が後々役に立つと思うわよ」

 

 役に立つ………かね。

 まあ、盛り上がり具合を見てネタを仕込んでいくという点で見れば、役に立つか。

 

「………なあ、この『エンニュートが恋する乙女の顔していた件』ってなに?」

「そのまんまよ。アンタに飛びついていった時のエンニュートが正しく恋する乙女の顔をしていたってスレが立ってたの。それ読んで何故エンニュートがアンタを選んだのか想像するといいわ」

 

 恋する乙女って………。

 そりゃ、タックル紛いに飛びついてきたけどもだな。バトル関係なく俺を選んだみたいだし、好感度で言えばクソ高いんだろうけど、恋する乙女ってことはないだろ。

 

「頑張ってね、ハチ君。君の活躍楽しみにしてるよ」

「それは次にどんな驚きを見せてくれるのかって意味っすか?」

「うん、そう」

「そんな期待されても早々起きませんって」

 

 逆にこれ以上何が起きるっていうんだろうか。

 そろそろ普通のミッションをやりたいんだがな………。

 

「そう言いながら三連続で色々見せてくれたのはどこの誰よ」

「知らねぇよ。ウールーたちが変な反応してくるわ進化するわ、ルリナのポケモンには強くなりたいとか相談されるわ、ここに至っては群れの問題を見せられるわ進化するわ、挙句ジム戦後には押し倒されるわ、俺はそれに応えたまでだろ」

 

 並べてみただけでも分かるこの異常感。

 本当に次のジムでは普通のをお願いします。

 

「そうね、けどそこに至るまでが特殊過ぎるのよ」

「なら、どうしろと」

「さあね」

「酷ぇ………」

「どうせまた何か起こるんだから、下手に構えてないで気楽にしてればいいのよ」

「他人事だと思って………」

 

 この三人の中で全く仕掛けてなかってのはヤローさんだけだからな。二人は有罪だぞ。ギルティ。

 

「ハチ、エンジンシティを出たところにもう一つプレゼントを用意しておいたから、ちゃんと受け取ってね」

「はっ? プレゼント? まだあんの? まさかまたこれ系?」

「行けば分かるわ」

 

 もらった紙束を見せるとニヤニヤとするだけで詳細は教えてもらえなかった。

 つーか、エンジンシティを出たところにって、それワイルドエリアにってことだよな?

 …………デッカい宝箱とかでも用意してたりするのか? それくらいしねぇと見つからないぞ。

 

「えぇ………、俺に探せと?」

「大丈夫大丈夫。すぐに分かるって」

「………変なの入れてないだろうな」

「入れてないわよ」

 

 怪しい。

 怪しいけど、これちゃんと受け取らないと後で何か言われるんだろうな。

 それかまた何か変なことされるか。

 仕方ない、未来の俺の平穏のためにも宝箱を探すとするか。

 

「んじゃ、そろそろ行きますわ」

「うん、気をつけてね」

「ちゃんと勝ち上がりなさいよ」

「ハチさんとの再戦、楽しみにしてますわ」

 

 三人から激励? の言葉をもらいエンジンジムを後にした。

 日が登り始めたエンジンシティはまだ閑散としていた。

 まだ活動時間ではないようで、ヒューと吹く風が余計に冷たく感じてしまう。

 人が集まる街だけに余計に寂しく感じてしまうのは俺だけだろうか。

 まずはジムの向かい側にある回転台で下まで降りる。

 これは時間帯によって動かないとかはないようだ。

 そして下まで降りると南方に向けて只管歩き続ける。エンジンシティのメインストリートともなるため、ワイルドエリアまでは一本道。

 信号は未だ点滅しており、車も通る気配がない。

 これなら余所見をして歩いていても人にぶつかる心配はないだろう。

 ……………この紙束を読みながら歩くか。

 

『今日の仮面のハチ、ヤバかったな』

『ヤバかった』

『ヤバいなんてもんじゃないだろ』

『ミッション中のヤドランが無双してたとか、新たにキングドラが手持ちにいることが判明したとか、ガオガエンがブラックホールみたいなの作り出したとか色々あるけど、それ以上にあのエンニュートよ』

『それな』

『ハチの言葉で群れ一つ焼き払うヤトウモリとか恐ろしすぎるわ。しかもその直後に進化って………』

『ウールーの時もそうだったが、ポケモンからの懐かれ方異常じゃね?』

『そりゃあんだけバトル強くて知識もあって、それでいて強制的に捕まえることはしないんだから、ポケモンたちからしたら超安全だもんな』

『俺もハチのポケモンになりてぇ』

『それはキモい』

『しかもバトル終わったら進化したエンニュートがハチにタックルしていくとか誰が想像していたよ』

『あれ、ドローンもよく正確に撮影出来たよな。おかげでエンニュートの顔が大画面に映っててよかった』

『目がハートって感じだったもんな』

『あれはガチ恋だよ』

『ポケモンすらも恋に落とす男、ハチ』

『あれは落ちるだろ。どん底から引き上げられたんだぞ』

『けど、ハチも酷いよなぁ。ジムチャレンジでは使わないって』

『そりゃ無理だろ。ガオガエン→ブラックホールみたいなの作り出すくらいヤバい奴に昇格。サーナイト→カブさんのガチ面子に対して一人だけ戦闘不能にならないくらいヤバい奴に昇格。ヤドラン→ジムトレーナー三人を同時に相手にしてコテンパンにするくらいヤバい奴に昇格。ドラミドロ→今回出てないけど、とけるがチートということを身を以って伝えてくれたヤバい奴。キングドラ→雨降ってると特性すいすいで消えるヤバい奴。だからな』

『既に六体揃ってるみたいだしな。その六体目が何なのかは超気になるが』

『その内出てくるだろ。多分、そいつもヤバい奴なのは確定』

『ジムチャレンジが終わったらエンニュートもヤバい奴になってるんじゃないか?』

『どこかでエキシビジョンマッチとかやらないかな』

 

 とまあこんな感じで書かれていた。

 まだまだ続いてたが、もう読む気が失せた。

 ただただ恥ずかしい。

 自分のことをこうも考察されているのを読むとか、どんな羞恥プレイだよ。

 後はどこかのホテルに入ったタイミングで、かな。少なくとも外で読むもんじゃないわ、これ。

 そんなこんなで三十分くらい歩くとエンジンシティの出口が見えてきた。これから長い長い階段を降りないといけないのかと思うと気が滅入るのは俺だけだろうか。

 ああ、宝箱を探さないとだっけ?

 階段降りた後に?

 ……………面倒くさいな。

 

「あ、ハチくん!」

 

 ……………………………………。

 

「お前、何でいるの?」

 

 階段だー……とげんなりしていたら見覚えのある奴がぽつんと立っていた。

 うーん、なんかもう色々理解したわ。

 

「ルリナに『ハチと行きたければここで待ってなさい』って』

 

 ほらやっぱり。

 

「はぁ…………」

「え? なに………?」

 

 思わず溜め息が出てしまうのは致し方ないと言えよう。

 

「いや、別に。ただ、プレゼントと聞いて怪しいとは思っていたが………はぁ………」

 

 怪しさの方向性が違ってたがな。

 まさかの物じゃなくて者だったとは。

 そりゃ行けば分かるし、あっちから見つけてくれるんだから探す必要もない。

 何がプレゼントだよ、全く………。

 

「ちょ、わたしの顔見て溜息吐くのやめてよ! なんかわたしが悪いみたいじゃん」

 

 ぷりぷりしているが、動きがユイそっくりである。

 怒ってますよ感を出す手の動きとか頬を膨らませたりとか、よくユイもしてたなーと懐かしく思えてくるわ。しかもあざとさがない。ここ大事。あざとかったらいろはすになっちゃうもんね。

 

「それより、これからナックルシティに向かうんでしょ? だったら一緒に行こうよ」

「えぇ………」

「なんだよぉ」

「フィールドワークの手伝いとかしないからな?」

「大丈夫、大丈夫。今回はあっちこっち行くわけじゃないから」

 

 本当かな。

 どうせまたポケモン見つけては近くで見たいとか言い出すんじゃないだろうか。

 

「俺、ワイルドエリアを本格的に歩くのって何気に初なんだわ」

「………マジ?」

 

 マジだからそんな驚くなよ。

 この一ヶ月、ほとんどウルガモスに飛び回ってもらってただけだからな。空からのワイルドエリア探索やらエンジンシティとかの路地裏を調べてただけで、観光的なことも出来ていない。故に街の様子とかもほぼ知らない。

 ワイルドエリアなんか雨は降るわ雪は降るわそれどころではない時もあったしな。酷いと砂嵐とかもあったから、あまりいい思い出すらない。

 

「おう、マジだ。つーわけで道案内としてなら同行を許可しようじゃないか」

「うへへへ」

 

 それを理由に同行を許可してしまう俺は甘いのかもしれないが、それでこんな気持ち悪い笑い方をするソニアもどうかと思うわ。女子がしていい顔じゃないぞ。

 

「気持ち悪い笑い方すんなよ」

「あ、あとルリナからこれ渡してって」

「手紙?」

 

 えっと……『護衛よろしくね』ってそれだけかよ。

 ルリナもルリナでソニアに対して過保護過ぎやしないだろうか。

 というか護衛って…………。

 道中何かあったりするのだろうか。あるんだろうな。ワイルドエリアには血気盛んなポケモンたちもいるみたいだし。何なら実力だけがクソ高いならず者的なのもいることだろう。

 確かにそんなのに出会してしまえば、ソニアといえど抵抗は難しい。あるいは過去のトラウマを刺激されて余計に何も出来なくなる可能性の方が高いか。

 どちらにせよ、それだけワイルドエリアは危険という暗示でもあると思っておいた方がいい。

 

「先が思いやられる…………」

 

 面倒ではあるが、一人で行かすのも忍びない。

 俺はまんまとルリナに利用されているようだ。

 ルリナパイセン、マジぱねぇわ。

 

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