ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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85話

 二日後。

 ようやっとのことでナックルシティに辿り着いた。

 いやマジで疲れた。

 あのまま早朝からワイルドエリアに狩り出たのはいいものの、北へ行く唯一の橋の上でカビゴンが爆睡していたり、ワンパチに飛びつかれたり、池にいたガマゲロゲに泥をかけられそうになったり、その際ワンパチに飛びつかれたり、晴れてたかと思えば急に雪が降り出したり、ソニアがヒトモシの群れを見つけて数時間立ち往生したり、暇になったワンパチに飛びつかれたり、まあ一日目はすごかった。主にワンパチが。あいつ何で急に俺に飛びつくようになったわけ? しかも顔も舐めてくるのよ。

 二日目も東の方は砂漠地帯だからってことで西回りで行き、なんか見たことあるような気がするなーと思ってたら、いつぞやのポケモン巨大化多発事件の時のげきりんの湖だった。しかもその辺はずっと登り坂で超キツかった。

 んでもってなんかニダンギルに襲われるというね。

 そして、それを見ていたカジリガメも襲い掛かってくるという、何ともまあ次から次へと襲われましたとも。

 しかもニダンギルなんて結構強かった。剣の身体してるしヤドランを出したら、ずっと打ち合ってるのよ。その間にソニアがカジリガメの進化前だというカムカメと遊んでいられるくらいには長い打ち合いだった。

 で、結局ヤドランが勝ちニダンギルと握手代わりに剣を重ねて友情を確認していた。

 うん、もう好きにしてくれと思ったね。

 そんなこんな昼過ぎにナックルシティへと到着し今に至るのだが、ソニアは図書館に行ってくるーって既に行ってしまった。

 元々の目的が図書館だったのだろう。なんだかんだで研究者の卵として研究に勤しんでいるようだ。

 

「ナックルシティか………」

 

 初めて来たわけではない。

 この一ヶ月、飛び回っていた間にナックルシティにも寄っている。

 けど、基本路地裏とか怪しそうな場所を中心に回っていたため、ちゃんと満喫したことはない。

 とはいえ、今はジムチャレンジ中。しかも俺は一ヶ月も出遅れているため、ナックルシティを満喫している暇はない。

 来るならジムバッジを全部集めて、トーナメント戦が始まるまでの余暇時間に来ようかな。

 

「あれ? ハチ兄? 何してんの?」

「ん? ああ、シャクヤか。よく俺だって分かったな」

 

 声をかけられ、「ハチ兄」と呼ばれてしまえば、嫌でも俺なのだと理解する。だって、そう呼ぶのシャクヤしかいねぇもん。

 あれだな。ユイの「ヒッキー」呼びと同じだな。暗殺未遂前には「ハッチー」って呼ばれることもあったか。多分名前で呼ぼうとしたけど、急には変えられなかったってところだろう。そうであって欲しい。

 ただまあ、ヒッキーもハッチーもまともな呼び方ではないよな。

 

「そりゃ、そんな誰も声かけるんじゃねぇよオーラ出しまくってたら、大体想像はつくでしょ」

「そんな出てたか?」

「出てた。ハチ兄じゃなかったらまず声かけない」

 

 それもう不審者だな。

 どうも不審者です。

 

「んで、こんなところで何してんの?」

「今さっきワイルドエリアを抜けてきたところだ。これからラテラルタウンに向かう」

 

 こんなところで何してるのかと言われたら、ただの移動途中でしかない。そのためにナックルシティに来たんだし。

 

「あ、じゃあ目的地一緒じゃん」

「シャクヤもラテラルに行くのか?」

「そそ。友達が頑張ってるからねー。偶にはその勇姿をこの目で見ようかなと」

 

 友達の応援か。

 次のジム戦がラテラルジムってことなんだな。

 けど、一ヶ月でまだ三つしか取ってないって大丈夫だろうか。カブさんに苦労したのは分かるが、ここから巻き返すのも結構大変だと思うぞ?

 

「ジムチャレンジに参加してるのか。一ヶ月で四つ目に挑戦ってちょっと厳しくないか?」

「それハチ兄が言う?」

「それな」

 

 痛いとこ突かれたな。

 けど、俺は三日で三つのバッジを集めたからな。エンジンシティからラテラルタウンまで移動に時間がかかるだけで、ジム戦自体はそんなに心配はしていない。

 

「それにチャレンジャーの方じゃないし。ジムリーダーの方だし」

 

 おっと………?

 ジムリーダーだと?

 

「はっ? ジムリーダー? つまり俺はお前の友達とこれからバトルしようってわけなのか?」

「そそ、サイトウは今年がジムリーダーとして初めてのジムチャレンジだからね。最初は見られたくないかなってビッグネーム以外のは見ないようにしてたんだけど、一ヶ月経ったんだしもう見ても大丈夫かなって」

 

 友達がジムリーダーとか、やっぱりおっさんの伝からなのか? 先代の娘さんとか。

 まあ、あり得なくはないわな。

 というかだ。

 割とぶっ込んでくるタイプのシャクヤが気を遣って友達の観戦を控えていたとは。おっさんも妙なところで気を回すし、そこは親子というところか。

 

「意外と気を遣ってたのか………。お前ら親子でそういうところあるよな」

「えー? これくらい気遣うでしょ」

 

 そうなんだけどな。

 普段のお前らを見てるとどうにも繋がらないんだわ。言っても仕方ないだろうから言わないけど。

 

「んじゃ、一緒に行くか」

「いいの?」

 

 目的地が同じなら一緒に行くのも吝かではない。シャクヤならこっちも気を遣わなくていい。

 

「ああ、その様子だと行き慣れてるんだろ? だったら、案内してくれ」

「おっけー」

 

 それに友達というのなら、そのジムリーダーのこととか聞けるかもしれないしな。

 

「あ、そうそう。ハチ兄にまた聞きたい問題があったんだった」

「言ってみ」

 

 聞きたい問題。

 またスクールの宿題で分からないところでもあったのだろうか。

 

「この前フェアリータイプの授業があったんだけどさ、フェアリータイプって後から追加定義されたタイプなんでしょ? その際にポケモンによってはタイプの変更が行われたって言ってたんだけどさ、それって色々とヤバくね?」

 

 授業内容の方だったか。

 フェアリータイプの追加定義の話ねぇ。

 俺も当時の学会がどういう感じだったのかはこの目で見てないし、又聞きレベルでしかないな。

 

「スクールでは何て言ってた?」

「フェアリータイプが見つかりました。追加定義されました。その際にタイプが変更されたポケモンがいます。だから古い資料では変更前のタイプで書かれていることもありますので注意してください。それだけ」

 

 何とも浅い内容だな。

 ただの雑談で聞いた話の方がよっぽど濃いぞ。

 

「具体的に変更されたポケモンとかは?」

「マリルリがチラッとだけ。でもどうやってそんなん見分けたのか分からなくてモヤッとしてるし。あとはタイプの相性とかはやったけど、それよりもタイプってそんなコロッと変わって大丈夫なん? ってなった」

「ふっ」

「…………なにさ」

 

 シャクヤの疑問に思った点が上がると、つい鼻から息が漏れてしまった。

 それを鼻で笑われたと思ったのだろう。不満ですって顔でシャクヤが俺を見上げてくる。

 

「いや、シャクヤはやっぱり地頭がいいんだなって。そういう教科書に書いてあること以上に知りたいって気持ちは大事だし、ポケモンを知る上では欠かせない感覚なんだよ。だからシャクヤはちゃんと成長してるし、今以上に成長するだろうなって」

 

 疑問に思った点だって、かなり重要なことだ。

 ちゃんと教科書の浅い内容からそこまで踏み込んだことに目がいくのは、ちゃんと知識が備わっている証である。

 こいつはなんだかんだで元ジムリーダーの娘なんだと思い知らされるな。父親があんなんだから感覚だけでバトルしてるようにしか映らないが、しっかりとバトル構成は練られているし、ポケモンの特徴だって把握していた。その上での拘りを見せてくるのだから、相当な実力者なのは確かであり、その血はちゃんと娘のシャクヤにも流れているってわけだ。

 

「…………ただ気になっただけだし」

 

 褒められているとは思わなかったようで、シャクヤはそっぽを向いて腕で口を隠した。

 耳赤いぞ。

 

「フェアリータイプは昔からあったにはあったんだ。だが、遺伝子情報や分類する過程でなかなかその違いを分けることが難しかった。そしてようやくフェアリータイプというカテゴリーに分けられた時には、既に色々なポケモンが正式に登録されていった後だったから、タイプ変更っていうことにもなったんだよ」

 

 取り敢えず、有識者会議でナナカマド博士が言っていた話をすることにした。

 あの会議からもう二年くらい経つんだよな………俺のこの身体としては。時間軸としてはまだ一年先の話なのだが、うーん。やっぱりややこしいな。

 

「んで、タイプ変更については大きく二つに分けられる。既存のタイプにフェアリータイプが追加された組と、既存のタイプからフェアリータイプに変更された組って感じにな。それでいくとスクールで例に上がったマリルリは、前者の既存のタイプにフェアリータイプが追加されたポケモンになるわけだ」

 

 フェアリータイプは結構奥が深い。

 既にたくさんのポケモンが正式に登録されていった後での発見だったため、あくタイプやはがねタイプが発見された時よりもタイプの変更を余儀なくされたポケモンが多い。変更というよりは追加の方が正しいか。

 

「フェアリータイプを具体的にどういう風に分類していったかと言えば、遺伝子情報からっていうのが多いらしい。遺伝子情報はタマゴグループにも影響してきてな。フェアリータイプの追加でそれまで登録してきた全てのポケモンを見直したとかって話だ。ただ、タイプ変更はノーマルタイプからしかなくてな。あとは全部フェアリータイプが追加された組になるんだよ」

 

 その中でも本当にタイプ変更を余儀なくされたポケモンがおり、その全てがノーマルタイプを有していた。みずタイプからフェアリータイプに、というようなことはなく、だ。数は少なかったが、その全てがノーマルタイプだったというのが何とも奇妙な話であり、それだけノーマルタイプがあやふやなタイプということにもなる。

 

「そうなの?」

「ああ、ノーマルタイプってのはそもそもの定義があやふやなところがあってな。色んな遺伝子を含んでいるから逆に分類が出来なくて纏められたと思ってもいいくらいだ。だから中でもフェアリータイプの遺伝子が特に強かったノーマルタイプだけがフェアリータイプに変更されたってわけなんだよ」

 

 ナナカマド博士も言っていたが、ノーマルタイプは明確な定義がされていない。

 俺は専門家ではないため、それ以上のことは何とも言えないが、俺の仮説としては全てのポケモンはノーマルタイプを有しており、そのノーマルタイプを掻き消す程のタイプがほのおタイプなりみずタイプなりと表に出てきているのではないかと考えている。

 潜在的タイプ、とでも言えばいいのだろうか。

 うん、俺も専門家じゃないから何とも上手く説明は出来ないな。

 

「ハチ兄詳しすぎね?」

「どこぞの博士に聞いたんだよ」

 

 フェアリータイプの話自体はカントーを旅している時に、例のストーカー博士に道ながら聞かされたからな。

 それもあってカロスで再会するまで覚えていたのだろう。

 

「ちなみにあくタイプとはがねタイプも後から追加で分類されたタイプだぞ」

「うぇ!? マジ?!」

 

 今日はよく驚くな。

 シャクヤのリアクションがちょっと面白くなってきた。

 

「ああ、そもそもポケモンのタイプを定義し、一体一体分類してまとめ始めたのはカントー地方にいるオーキド博士っていう学者でな。それをポケモン図鑑っていうんだが、そのじーさんがその作業に入ってしばらくして、イワークに進化先がありそのポケモンがハガネールだったってことが分かって、ハガネールの特徴からいわタイプじゃなく過去の文献にあったはがねタイプだってことになったらしい。あくタイプもそんな感じで追加されてな」

「………何でハチ兄がそんなことまで知ってんの?」

「これもどこぞの博士に聞かされたんだよ」

 

 割と無駄知識が増えたのはあの変態博士のおかげかもしれない。

 うっわ、なんか無性に気持ち悪くなってきたな。

 アレのおかげとか、ないわー。

 

「ハチ兄とその博士って仲良し?」

「ストーカー被害にはあったな」

「はっ? どゆこと?」

「行く先行く先にいてな。本人は偶然って言うんだけど、最早ストーカーの域での遭遇率だったわ」

 

 死にはしなくともリザードンの炎を浴びてピンピンしてたからな。恐ろしいったらありゃしない。

 よく当時の俺はそんな変態と会話が出来たもんだと思う。

 ……………もしかすると会話らしい会話をしていないのかもしれないが。そこんところ、どうなんだろうな。

 

「よくそんなのと会話したね」

「多分、一方的に話しかけてきたんじゃないか? 当時の俺も話しかけるなオーラ全開だったろうし。会話っつっても多分ツッコミ程度だろ」

「ああー………それめっちゃ想像出来るわ」

「だろ?」

「うん、ハチ兄だもんね」

 

 ハチ兄だもんね、の一言で片付けられちゃう俺、マジパネェわ。

 なんかその内ネットとかにも仮面のハチだもんな、の一言で片付けられそうな気がする。これ、流行語大賞とか取れたりしないかね。

 

「オラァ! そんなとこで下手くそな歌歌ってんじゃねぇよ!」

「耳障りなんだよォ!」

 

 そろそろナックルシティの出口に差し掛かってきたなーというところで。

 路地裏の方から男のがなり立てる声が聞こえてきた。

 ウン、ハチマン、ナニモキコエナイ。キイテナイ。キキタクナイ。

 

「………ハチ兄、助けないの?」

 

 俺がスルーしようとしてると横からくいくいと袖を引っ張られた。

 どうやらシャクヤはスルーしてはくれないらしい。何なら俺が対処しに行くものだと考えているようだ。

 俺、そんなお人好しじゃないからね?

 

「ええー………、どう見ても関わっちゃいけない奴らだろ」

「ハチ兄が負けるとは思えないんだけど?」

「負ける負けないは別の話だ。ああいうのは最初から関わらない方がいいんだよ。というか見てはいけません」

 

 これ以上面倒事は増やしたくないんだよ。

 ただでさえ、この一ヶ月元シャドーの奴らが潜んでいないか探し回ってたっていうのに、折角ジムチャレンジを再開してまでトラブルに巻き込まれるとか御免被りたいんだけど。

 

「でもほら、なんか女の人が困ってるよ」

 

 シャクヤが指差す方にはガタイのいい男二人に囲まれている女が一人。

 

「ハチ兄がいかないならアタシがいくよ?」

 

 俺が渋っているとシャクヤが爆弾を投下してくる。

 うん、やめろ。

 それだけはマジでやめてくれ。余計に仕事が増える上に、おっさんにバレたらもっとややこしいことになる。というか何言われるか分からないし、多分しばらく離してもらえなくなる。

 そうなるとジムチャレンジにも影響が出てくるわけで………。

 

「分かったよ。ちゃんと俺の後ろにいるんだぞ」

「流石ハチ兄。おっけー」

 

 はぁ、何で俺がこんなことまでしなきゃならないんだ。

 お前警察だろ? って?

 俺は国際警察な上に組織犯罪捜査官らしいから一応管轄外になるはずなんだよ。本来ならナックルシティの警察に任せるような案件だ。

 とはいえ、シャクヤが自らをレイズしてきた以上、俺が動かないとシャクヤに何かあってはこっちが困る。

 

「あー、そこのチンピラさんたちや。近所迷惑なんで今日のところは勘弁してやってくれませんかね」

「ああん?」

 

 おお、怖い。

 目付きは悪いわ、肩にタトゥーが入ってるわで典型的なチンピラ風情をしている。

 ガチ目にヤバい時は一も二もなくダークライに頼もう。

 

「げっ」

「うっわ、マジか。お前かよ‥‥…」

 

 と二人の間から見えた女と目が合うと目を大きく開き、途端に嫌な顔をされてしまった。

 俺も俺で一気に助ける気を無くしていく。

 

「お兄さァん。うち今超困ってるんですけどォ。だからた・す・け・て♡」

 

 そして不敵な笑みを浮かべたかと思うと甘ったるい声で助けを求めてきた。

 今更すぎる上に本性を知ってしまっているため、俺に効果ないって分かってるだろうに。

 

「シャクヤ、さっさとラテラルに向かおうか」

 

 俺は回れ右をしてシャクヤの背中を押し、路地裏から出て行くことにした。

 

「助けなくていいの?」

「いいんだ。売れないからって自分のCDを押し売りしてくるような地下アイドルなんか放っておけばいいさ」

「押し売り………?」

 

 あれはチンピラ以上に関わっちゃいけない地下アイドルだ。

 売れないからって押し売りはダメだろ………。

 

「ちょっとォ、何言ってるのかさっぱり分からないんですけどォ」

 

 出て行く時に新たな被害者が出る前にチンピラたちに注意しておくことにした。

 そこにいるとお前たちもカモられるぞと。

 

「アンタらもそれに関わるのはやめておけ。何故か知らない間にCDを買わされる羽目になるぞ」

 

 チンピラたちを助ける義理はないが、チンピラたちの方がかわいそう思えてしまった。気の迷いってやつだ。

 

「オレたちよりもやべぇことしてんな」

「行こうぜ、こんな女放っといてよ」

「ちょ、CDくらい買って行きなさいよ!」

 

 何がクララにクラクラァだよ。

 俺たちの方が押し売りクララにクラクラァだわ。

 

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