ナックルシティを出た日の夜。
シャクヤと共にラテラルタウンに着き、すぐにジムチャレンジの受付をしたのだが、何故か明日の夜にとお願いされてしまった。
どうやらチケット販売やらが間に合わず、苦情の嵐になる恐れがあるらしい。
流石にそんなことを言われてしまえば、従わざるを得ない。俺だってジムに迷惑はかけたくないしな。
というわけで翌日の夜。
丸一日暇になったため、ホテルで爆睡していた。
なんか久しぶりにゆっくり寝たような気がする。
シャクヤはお友達のところに顔を出しに昨日の内に行ってしまい、ガチですることがなかった。
「ハチ選手、確認が終わりました。それとこれをどうぞ」
受付を終えるとスタッフからトレーナーカードと一緒に赤黒いグローブを渡された。
「グローブ?」
フサフサとした毛が付いたグローブとか………。
しかも赤と黒の毛ってどこかガオガエンを……………まさか?
「チャンピオンからハチ選手に渡して欲しいとのことで送られてきておりました」
「あー」
やっぱりか。
あいつ、マジで新しいユニフォームを作ってるのか。
その第一作目がグローブってことか?
何故グローブからって思わなくもないが、まあ手早く作れそうだったのがグローブだったってことかね。
それでもまだ三日くらいしか経ってないと思うんだがな。
あいつは暇なのだろうか。
………暇なんだろうな。
仕事がジム戦の観戦だもんな。チャンピオンリーグが始まるまでメインの仕事がないというのも考えものだわ。
まあ、だからと言って暇と金を持て余して無駄な事をし出す必要はないだろうに。
「それでは控え室へどうぞ」
そしてそのままスタッフの女性に控え室まで案内されて、ユニフォームに着替えることにした。
ルリナがオーダーした赤黒いユニフォームにカブさんに貰った赤黒いレギンスを履き、ダンデが第一弾として用意した赤黒いグローブを嵌める。そして最後にガオガエンの覆面を被るとあら不思議。新たなポケモンにも見えてしまう姿になってしまった。
俺は一体何を目指してるんだろうな。当初の予定ではなんか覆面被った選手が強いらしいぞってくらいで身を隠せればそれでよかったのにな。いつの間にか衣装チェンジしてパーツが増えて、遂には毛付き衣装が入ってきたからな。
しかもこのグローブから予想されるのは、今後送られてくるであろうユニフォーム一式は漏れなく毛付きってことである。それの何が怖いって、最終的に全身フサフサとしたユニフォームになった上で覆面を被ることになり、最早ポケモンがポケモンを指示してバトルしてる姿にしかなっていかないことだ。
ああ、なるほど。俺はゲッコウガを目指していたのか。
…………んなわけあるか。
「一体あいつの頭の中ではどういう姿が完成形として描かれてるんだろうな………」
想像したくないな。
今でも充分異質な感じがビンビンに出てるっていうのに。
ここからさらにリアル感を増した姿にされてしまっては、ネットだけじゃなくスタジアムでも荒れるだろう。
「ま、なるようにしかならないか」
「ハチ選手、準備はいいですかー?」
準備を終えて待機していると会場の方も準備が整ったらしくお声がかかった。
さて、まずはミッションをクリアしてくるとしますかね。
* * *
「なーにこれ………」
目の前に置かれた巨大なマグカップ。
その先に広がる滑らかな下り坂。
所々にあるマグカップの半分程しかない壁。
………………………これは一体何のバラエティ番組なのだろうか。
「ではミッションの説明をしますね」
「え、いや、え? ミッション? これが?」
俺は今からバラエティ番組よろしくマグカップに乗って面白おかしく何かをしないといけないのだろうか。
それがジムリーダーに挑む条件って、普通にキツくね?
テレビ映りとか俺全くなんだけど?
取れ高って何を基準にしてるんだったか………。
「はい、ラテラルジムのジムミッションはこの巨大なコーヒーカップに乗ってゴールまで目指す、というとてもシンプルなものになっています」
シンプル…………。
なら、これは一体トレーナーの何を測るものだというのだろうか。
ウールーたちが可愛く思えてくるくらいの怖さがあるぞ。
「途中で巨大な拳があり、ぶつかると中に仕込まれた巨大なバネがコーヒーカップを押し上げ、位置を戻されてしまいますのでご注意ください」
………………。
巨大な拳とは?
「それとコーヒーカップを回す力が足りなければ手持ちのポケモンに協力してもらうことも可能です」
それは暗に人間の力では回しきれない時があるってことだよな………?
こんなことを言うのだから、過去にあった事例ってことだろうし。
どこをとっても危機感しか覚えないミッションなんだけど、よくこんなのが通ったな。他のチャレンジャーたちもよく文句も言わずにクリアしたもんだ。
「嫌な予感しかしねぇけど、やるしかないか」
嫌々ながら巨大なマグカップに乗り込んでいく。
操作としては右に回せば右に、左に回せば左にって感じでいいんだよな?
まず回せるかどうかすら怪しいけど。
「ハチ選手、心の準備はよろしいですか?」
「心の準備って言っちゃってるよ…………。あー、もう、うん。ちゃっちゃと始めちゃってください」
確かに心の準備が必要だけどさ。
それ言っちゃうとマジで危険度爆上がりなんですが………?
俺、生きて帰れるよね?
「それでは、ジムミッション始め!」
ブザーの音とともに扉が開き、徐々にマグカップが滑り出していく。
これ、このまま一直線にゴールだったら楽なんだけど、壁があるからそういうわけにもいかない。
真っ直ぐ滑ると正面と右側にあるL字型の壁に当たるか。その前に両側に逸れることも出来るが、まずはちゃんと回せるかどうか試すのにも安定した場所の方がいいだろう。
クランクに当たったところで少しバウンドした。
その間に左にハンドルを回してみる。
「重っ!? 硬っ?!」
思った以上にハンドルが硬く、再度壁に当たって止まってしまう。
「ふんぬぬぬぬぬっ!」
力を入れてもビクともしない。
これ油ちゃんと刺してないんじゃなかろうか。錆びつきすぎて動かなくなってるやつなのでは………?
「うん、無理だな。カモン、ガオガエン」
早々に諦め、ボールからガオガエンを出した。
「お前、これ回せる?」
「ガゥ?」
腕があり、力のある手持ちのポケモンとなるとガオガエンしかいない。
サーナイトでは無理だろうし…………無理、だよな?
「ガーウ!」
「おおー」
試しに回してみると、案の定というか何というか。
バキバキという異音を出しながらガオガエンは軽々とハンドルを回し始めた。
錆び付いていたのと俺の力が足りなかったのだろう。
……………子供たちはどうやって回したというのだろうか。ポケモンに回してもらうにしたって人型に近いポケモンじゃないとマグカップに乗ることも難しいし、ハンドルを握ることすら出来ないはず。
うん、色々と問題ありずきじゃね?
「おおー………」
マグカップは左に回転しクランクから抜け出すと、再度滑り出し始めた。
「ガオガエン、次は右に回せ」
出てすぐに中央に向けて壁が斜めになっており、それに沿ってハンドルを回してもらう。
「ガウガウ!」
ガオガエンも楽しくなってきたのか、ハンドルを回す手が止まらない。
「いや、待て。回しすぎ………ぐふっ!」
勢い余ってX状に交わったところをそのまま過ぎ去り、右端の壁に激突してしまった。
衝撃がめっちゃ痛い。
でもガオガエンは楽しそう。
こんなところでニャビーのような習性を見せなくていいから。
「ひ、左………」
激突した際にハンドルが腹に刺さってめちゃくちゃ痛い。
これ、安全ベルトも用意しておくべきじゃね? 下手したら死ぬぞ?
「ガウガウ!」
方向を変えたらようやく第一ステージゴールと書かれた旗を持ったスタッフが見えた。
ああ、やっと終われる…………第一ステージ?
まさかまだ次があるというのか………?!
「はい! 第一ステージクリアです!」
「はぁ……はぁ………腹痛………」
ガオガエンの肩を借りながらマグカップから降りる。
まだ目が回っているわけではないため千鳥足というわけではないが、既にどっと疲れた。変な汗もかいて早くシャワーを浴びたい。
「さあ、第二ステージの前にバトルですよ!」
おい、旗持ちスタッフ。
お前まさかの刺客だったのかよ。
鬼畜すぎるだろ、このジム。
「クソ………このジム嫌いだわ」
「いくよ、ヌイコグマ!」
相手は可愛らしい見た目のポケモンを出してきた。
なんかアローラでも見たような気もしなくもない。タイプはなんだったか。
「アームハンマー!」
タイプを思い出す暇もくれないようだ。
仕方ない。
「ガオガエン、ニトロチャージからのブレイズキックだ」
別に弱点を突かなくてもスタッフ相手にガオガエンなら余裕だろうと判断し、一気に近づかせて蹴り上げてもらった。
「ヌイコグマ!?」
ぴょーんと蹴飛ばされたヌイコグマは仰向けのまま動かない。
あれま、一撃だったか。
「くっ、こうなったら! キテルグマ、ばかぢから!」
戦闘不能になったとみるや急いでボールに戻し、次のポケモンを出していた。
「クー!」
ヌイコグマの進化形だったよな。二足歩行になってより身動きが取れるようになってそうだ。
でも一緒でいいか。
「もう一度ニトロチャージからのブレイズキックだ」
駆け出したキテルグマの懐に炎を纏って飛び込むと、その勢いでキテルグマを止め、くの字に折れ曲がったところを右足でキテルグマの顎を蹴飛ばした。
ガオガエン、地味にエグいことするな………。
「キテルグマーッ!?」
頭から地面に倒れたキテルグマは動かない。
こっちも一瞬だったな。
最早スタッフ………というかジムトレーナーではガオガエンの相手にすらならないのではないだろうか。
「ふぅ………ちょっと楽になったわ。んじゃ、先行きますね」
「はい………頑張ってください」
しょぼーんという効果音が似合う背中を置いて奥の部屋へと向かった。
「さあ、どうぞ!」
再びマグカップに乗せられ、第二ステージがスタート。
「まずは右にハンドルを回せ」
出てすぐに右にかけて斜めになった壁があったので、ハンドルを右に切らせた。
「げっ!?」
あれか、拳ってやつは!
ぐるーんと一周二周と回転すると右奥に赤い拳が一瞬だけ見えた。
「ガオガエン、左に回せ! 行きすぎると拳のパンチをもらうことになる!」
「ガゥ!」
急いで方向を変えるように指示すると、遠心力と慣性の力で身体に変な力が加わった。
「ぐぇっ………!」
おかげで首が捥げそうになったわ。
んで、次は………あっ、やべ………通り過ぎたか?!
「ぐふっ………!」
首を気にしていたら拳からのパンチをもらってしまった。
真っ直ぐ打ち上げられたようだが、角度が悪かったようで、パンチをもらう際に背中からいき、グキッ! と身体からしてはいけない音が響いたような気がする。
「ガオガエン、そこの……壁の間に…………」
目は回るわ身体は打ち付けるわ、なんつー暴力的なミッションなんだよ。
その上ゴールしたらスタッフとバトルとか鬼畜にも程がある。
オラこんなジム嫌だ。
「ぐはっ………!?」
まさかの左の壁の隙間を超えて直ぐにパンチングとか身体に良くないぞ。おかげでまた腹をハンドルに打ち付けてしまった。
シートベルトもないからどこ掴んでれば安全なんだよ。
ガオガエンはよくそんな平気そうにハンドルを回せるな。
あれか? DDラリアットのおかげか? あれも高速回転する技だし、人間よりも身体能力的に頑丈なポケモンだから平然としているのかもしれない。
「ま、た……!」
今度は咄嗟にマグカップの淵を掴んで密着させたため、そこまでの衝撃は来なかった。ダンデがくれたグローブに滑り止めが付いていたのも大きい。
連続でパンチングされながら左に流れていくと、次はまさかの急降下。
もう嫌だ、このミッション。
早くホテルに帰りたい。
「ガオ、ガエン………拳のない方へ………」
「ガゥ!」
さっきからどこを向いていいのか分からなくなってきた。ただただどこかに急降下していることしか認識出来ない。
リザードンの背中に乗ってアクロバットな動きをしている時よりも方向感覚を失っている。
トルネードよりも酷いって、結構地獄だぞ?
「はーい、第二ステージクリアでーす!」
…………気づいたらゴールしていた。
最後どう動いたのかすら分かっていないが、ガオガエンの判断だけでゴールまで辿り着けたようだ。
「だ、大丈夫ですかー?」
それにしても気持ち悪い。
そして身体のあちこちが痛い。
何だってジム戦するためだけにここまで身体を張らなきゃならないんだよ。
………クソ、頭も痛くなってきた。
酸欠か?
あー、思考が働かねぇ………。
「あの………バトルは…………」
あー、うるせぇな。
人が呼吸を整えてるってのに急かすんじゃねぇよ。
「このままですと棄権とみなされますが」
「ガオガエン……に、勝てる…………のか?」
さしてする意味もなさそうなバトルを強要してくるとか、このジムは柔軟性もないのだろうか。
「へっ?」
「ガオガエンに、勝てるのかって………聞いてるんだ」
一向に呼吸が整わねぇ。
頭痛いのも引かないし、相当負荷が掛かっていたみたいだ。
ただただイライラが募るばかり。スタッフーージムトレーナーには悪いが、こんなミッションした奴を恨んでくれ。
こっちもこっちで結構気を保つのに必死なんだよ。
ああ、気持ち悪い。
「で、ですが、規定ですので………」
「だったら………ガオガエン…………好きに、やっといてくれ」
ルリナのところジムトレーナーは柔軟性があったよな………。
自分では勝てないと判断してバトルを無しにしてくれたし。
ジムチャレンジが終わったら、ジムトレーナーたち用にルリナに何か渡しておこう。
「………分かりました。カモネギ、ガオガエンにいわくだき!」
………ジムトレーナーのポケモンはカモネギか。
だが、色が黒っぽいというか濃い茶色っぽいのを見るに、ガラルの固有種の方だろう。
ガラルのカモネギは太いネギを持っているんだったか?
ああ、なんかちょっと頭回ってきたな………。
するとガオガエンはカモネギが振り上げたネギをかえんほうしゃで丸焼きにしてしまった。
「ね、ネギが!?」
「ガウガウ!」
そしてブレイズキックで蹴り飛ばして一撃で倒してしまった。
ネギに気をやっている間にちゃっかり片付けちゃったよ。
本当に成長したよな。
「うぅ………私の負けです」
まさかの手持ち一体かよ。
よく勝てると………思ってはいないか。規定だからバトルしたんだったな。
その辺も柔軟に対応出来るようになるとジムリーダーの評価にも繋がるんじゃないですかね、知らんけど。
「お、っ……っ………!」
マグカップから降りようとするとバランス感覚が戻っていなかったようで、段差を踏み外した。咄嗟にマグカップの淵を掴めたため転けはしなかったが、マジで危険だわ、このミッション。
「ガゥ?」
「あ、ああ………大丈夫、だ」
大丈夫? とガオガエンが俺を引き上げてくれたので、そのまま肩を借りることにした。ハンドルも握らせてバトルもさせて、肩まで貸してもらって、なんか情けないトレーナーで悪いな。
それに第二ステージはガオガエンもハンドルの力加減が出来てたみたいだし。ステージ自体が酷くてそれどころじゃなかったけども。
「つ、次………がラストです、ので………頑張ってください」
なんかジムトレーナーの様子が変だったが、今の俺はそこまで気にかけている余裕がない。
「さあ、どう………大丈夫っすか?」
「大丈夫ではないな。かなりしんどい」
「棄権、します?」
「こんな酷い目に遭って結局は棄権って、それこそ無駄骨じゃねぇか。やりますよ」
「そう、ですか………では、お気をつけて」
案内のジムトレーナーの目から見ても今の俺は酷い有様なのだろう。覆面をしているため顔は見えないというのに。
「………ふぅ、いくか」
「ガゥ」
ガオガエンがハンドルを回し、巨大なマグカップが滑り落ち始める。
早速右側の壁が左に向けて斜めになっているので、ガオガエンは何の指示もなく左へ舵を切る。
「ガオガエン、右側の壁が切れてるようだから、そこに入ってくれ」
「ガウガウ!」
さっきの俺のヘロヘロ感を鑑みてか、必要最低限のハンドル回しで右の壁の隙間にはいっていく。
このなるべくマグカップを回転しないようにしてくれる心遣い。流石だわ。今夜は美味いもんを食わせてやろう。
「うっわ………」
なんて考えていられるのも今のうちだったようだ。右側の空間に入ると正面に赤い拳が見えるではないか。
えっ、どこを行くのが正解なんだ………?
右か………? 左か………?
「ガゥ」
弧を描くように放り出されたマグカップは右寄りに滑り落ちていく。
するとその先にもう一つ赤い拳が見えてしまった。
「左だ!」
「ガゥ!」
ガオガエンも気づいたようで急いでハンドルを切り返した。
ぐいんぐいんと回し、何とか左の壁の隙間に入ることが出来たのだが、ここでバキッ!! と物凄い音が響いた。
「バキ?」
「ガゥ………?」
二人して音のした方ーーーハンドル辺りを見ると特に何も折れてはいない。
「「………………………」」
ハンドルの下かと思い、覗き込むとハンドルの脚は立ったままである。
ガオガエンはガオガエンでハンドルの裏側が気になったらしくハンドルを手に持ち、ひっくり返した。
……………ん? ひっくり返した?
「「…………………」」
二人してその行動が出来ていることに疑問を持ったことで気づいてしまった。
ハンドルぶっ壊れてるやーん。
「いや、え、ちょ、ハンドル!?」
「ガゥ!? ガウガウ?!」
一気に現実に戻され、嫌な汗が大量に流れ始める。
いやいやいや、まてまてまて!
「ぐふっ!?」
操作性を失ったマグカップは無惨にも壁に激突し、そのまま急降下していく。
そして赤い拳にぶつかり右側の壁に激突しながら押し戻される。
もうね、頭真っ白ですわ。色んな意味で頭の中が渦巻いている。
どうするったらどうするよ。
これ、ゴールは愚か、降りることすらもままならないんじゃね?
「ぐぇ?!」
すると今度は左の壁に横向きになった赤い拳が飛び出してきて、右側へと押し出されてしまう。
「いやいやいや!! 速すぎだろ!! ちょ、まっ…………」
スナップがかかってしまい、回転がさっきよりも速くなってしまった。速すぎて最早どこに向かっているのさえ分からない。それ以前に振り落とされそうで、必死にしがみつくので精一杯である。
「くろ……いの、ま………かせ………」
任せたすらまともに言えないくらいにはヤバい。
すんません、ダークライさんや。ゴールまで目立たない程度にお願いします!
それを最後にどこにもぶつかることなく一気に急降下を始めていく。
これもう最早絶叫マシンだわ。コーヒーカップなんてアトラクションはこの世にはなかったんだ。あるのはコーヒーカップの形をしたジェットコースターのみ。
尻の穴に寒気しか走らない。
「ミッションクリアです!」
「はぁ………はぁ………はぁ…………」
止まった………ような気もしなくもないが、なんかまだ身体は滑り落ちている感覚が残っていて、悪寒がヤバい。ゾワゾワしていて恐怖が募るばかりである。
「うぷ………気持ちわる………吐きそう…………」
そういやミッションクリアとか言ってたか?
いやもう今はそれどころではない。
絶叫マシンが苦手というわけでもないが、安全性が皆無な上に、ハンドルが壊れるというハプニングに加えて、積み重なった三半規管の揺さぶりに、目の前が真っ白になり、ただただ黒い線が渦巻いている状態になった。漫画とかで強調する時とかに使われる線ーーー集中線がきゅーっとこっちに向かってきているようにも見える。
うん、もう目を開いてるのか閉じてるのかすら分からない。
「ハチ選手、大丈夫ですか?」
意識の片隅で声が聞こえたような気がしたので、取り敢えず返しておく。
「揺れ………治る、まで…………話し……かけんな…………」
「は、はい!」
辛うじて声が出たため、ミッションをクリアした今、しばらく放っておいてもらうことにした。
流石にハンドルがぶっ壊れるとか思わんて………。
早くホテルに帰りたい。