ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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87話

『アクシデントもあり、しばらく動けないでいたハチ選手ですが、幸い怪我もなく無事立てるようになったということなので! お待たせしました!!』

 

 あー、気持ち悪い。

 吐き気までは何とか治ったものの、やたら身体はふらつくし頭が痛い。まだ身体には回転している感覚が残っているため、余計にそう感じてしまう。

 

『一週間前に突如として現れ、たった三日でジムバッジを三つ獲得し、今まさに四つ目のジムバッジを賭けてジムリーダーに挑むのはこの人!! ミッションクラッシャー、仮面のハチ!!』

 

 とはいえ、間もなくジム戦が始まるわけで、もう少し休ませてくれというのが本音ではあるが、これも含めてミッションと考えるならば致し方なし。やるしかない。

 こんな状態でトレーナーの本来の実力を発揮出来るのかとか考えているのかね…………。

 

『そして対するは我らがジムリーダー! ガラル空手の黒帯、サイトウ!!』

 

 ふらふらとした足取りでフィールドに出て行くと、対面からは褐色肌の女の子が出てきた。

 うん、確かにシャクヤくらいの子だわ。少なくとも俺やルリナよりも下だ。

 

「あの………大丈夫ですか?」

 

 中央で相対するとキリッとした表情だったのが一点、俺の足取りを見てめちゃくちゃ心配気な顔に変わった。

 

「あ、ああ………目の前真っ白になってただただ黒い線がぐるぐると渦巻いていたけど、どうにか視界は元に戻ったぞ」

「申し訳ありませんでした。こちらの整備ミスでハンドルが壊れてしまって」

 

 うん、普通にいい子だわ。

 ちゃんと心配出来るし、ちゃんと頭を下げて謝れる。

 だからこそ言っておかないとな。

 

「そうだな。流石に血の気が引いたわ。ただでさえ三半規管がやられて酸欠状態に近かったのに、あのハプニングじゃ死ぬかと思ったぞ。しかもそれまでにパンチングで身体中打ちまくるわ首の骨とかに危機感を覚えるわで生きた心地がしなかったわ。せめて安全ベルトはねぇとマジで死人が出るレベルだぞ」

「本当に申し訳ありませんでした!」

 

 文句を垂れるとさらに深々と頭を下げてきた。

 あー………この子、超真面目ちゃんだわ。いい子すぎて言ってるこっちが申し訳なくなってくる。

 

「………現場のミスは現場責任者でもあるジムリーダーに課せられるのだろうが、こればっかりはジムリーダー一人の責任だなんて思っちゃいねぇよ。そもそもミッションとしてあれはどうなのかって疑問が残るレベルだ。それをミッションとして承認している時点で管理する側である委員会も同罪だし、承認したからには点検を怠るなって話だ。ましてや就任一年目のジムリーダーよりもノウハウを持っているはずの委員会がジムリーダーに全ての責任を負わせようとするなら、例え俺のスポンサーになっている委員会であろうと軽蔑する。即契約解除の上、ジムチャレンジも棄権。ガラルからも出て行くし二度と来ないだろうな」

 

 この子に一切非がないとまでは言わないが、この子一人に責任を押し付けるような話ではない。逆にこの子一人に責任を押し付けたのでは大人としてどうかと思うレベルのことだ。

 

「何もそこまで………!」

「そこまでのことなんだよ。ジムリーダー一人に責任を負わせるってことは尻尾切りの意味でしかない。まあ、あの委員長がそんなことするとは思わんけど、委員会は委員長だけのものってわけでもないだろ? 多数決を取られれば、委員長が不利になる可能性だってある。それに見ていたのはここにいる観客もだし、テレビで見ている人たちだっている。そこにはネットに悪意ある書き込みを拡散する奴も出てくるだろう。そんな愉快犯の標的にさらされるような事案は上を動かすように仕向けるしかない。自分で言うのは烏滸がましいとは思うが、それこそこれだけの経済効果を産んでいる俺自身をレイズするくらいはしないと、権力にしか目がいっていない奴は動こうともしないんだよ」

 

 汚い大人を逃げられないようにするにはこれくらいはしないとな。

 ローズ委員長はさておき、表に出てきていない大人たちの中には汚いのがたくさんいることだろう。今回のことも自分たちには非がないと責任逃れをする筈だ。だからこそ、今この場で俺が指摘して調査するよう促すのが一番なのだ。しかも俺が今後ガラルに足を踏み入れるかどうかまで賭けてやれば、金と権力にがめつい奴なら余計に何が得策で何が損失なのかを思案するだろう。

 その間にちゃっちゃと動いて下さいよ、委員長。

 

「………ありがとうございます。見ず知らずの私のためにそこまで考えてくれて」

「別に見ず知らずってわけじゃない。お前はシャクヤの友達なんだろ? だったら俺の妹分が悲しむような展開にだけはさせたくない。それだけだ」

 

 ごしごしと涙を拭う姿は普通の少女だった。

 うん、やっぱりガラルのジムリーダーって重圧が半端ないんだな。

 意外と裏で汚いおじさんたちにあーでもないこーでもないと、余計な注文という名のいちゃもんを付けられているのかもしれない。あるいはセクハラ等の嫌がらせとか。

 

「つーわけで、ローズ委員長。今すぐにとは言わないから、ちゃんと再発防止策を発表してくださいよー」

 

 ドローンロトムに向けて念押しすると、会場から無数の同調の言葉が飛んできた。

 これで世論はサイトウを擁護するようになるだろうし、逆に委員会が動かなければ批判の対象となるだろう。

 取り敢えず、この子一人だけの責任という形にならなければそれでいい。

 

「………シャクヤに聞いていた通り、変な人ですね」

「一体何て吹き込まれたのかは気になるが、聞きたくはねぇな」

 

 嫁さんがたくさんいるクズ男とか吹き込まれてたらハチマン泣いちゃう。事実なんだけどね。自分で言うのと人に言われるのとでは大分違うからね。

 

「ところで、バトルはどうなさいますか? 正直、まだ体調はよくありませんよね?」

「ばっかばか。やるに決まってんだろ。ただまあ、お前の言う通り今の俺は立っているのもしんどいくらいには余裕がない。シャクヤの友達だし、今年ジムリーダーに就任したばかりだって聞いていたから、少し様子を見たいとは思っていたが、そうするだけの余力が残っちゃいない。だからまあ、取り敢えず先に謝っておくわ。一方的になったら、すまん。というか多分なる」

 

 ちゃんとバトルを組み立てられるかもちょっと怪しい。

 正直、考えるのが面倒ではある。

 …………もうゴリ押しでいいかな。

 

「いえ、普通は挑戦者にそこまでのことは求めていませんし、する必要もありません。なので、あなたの全力を私の全力で受け止めて見せます」

 

 そう言うサイトウの目の色が、一瞬で心配する目から闘志の漲った目に変わった。

 ………なるほど。面構えはまさにジムリーダーだわ。

 回れ右して歩いていく背中も風格が出ている。

 それを見て俺も回れ右して立ち位置へと向かった。

 

『ルールを確認します! 使用ポケモンは四体。交代はチャレンジャーのみ有効となります! なお、技の使用は四つまでとなり、その技を昇華させたものはカウントされません!』

 

 技に対してここまで言及し出したということはZ技についても理解が得られてきているということか。あとはダイマックス技のこともあるし、技を昇華させたものと上手くまとめたようだ。

 

『それでは、バトル始め!』

「いきますよ、タイレーツ!」

「サーナイト、ちゃっちゃと終わらせるぞ」

 

 …………なんだあのポケモン。

 一、二、三………六体いるくね?

 あれか? タマタマ的な感じの奴か?

 複数体で一体のポケモンってカウントされる系の。

 つまり集団攻撃を得意としているってわけだ。

 

『まずはタイレーツ対サーナイト! ハチ選手、王道の対策をしてきました!』

 

 サーナイトを出したのは対策というよりさっさと終わらせるためである。

 やっぱりまだしんどいからな。これで長期戦になれば、ポケモンたちを含めて誰よりも俺が先に限界に来てしまうだろうから、仮面のハチとしてはちょいとばかし異例なバトルになってしまうが、それはそれでありなんじゃないかとも思う。

 ネットでどんな反応を示されるかにもよるが、そこまで気にするようなことでもないだろう。

 

「タイレーツ、であいがしら!」

「テレポート」

 

 六体全員で突っ込んできたところ悪いが、サーナイトは一瞬にして消え、タイレーツの背後を取った。

 

「後ろです!」

 

 サイトウの声に反応し、六体全員が振り向いてくる。

 

「マジカルシャイン」

 

 その瞬間を狙い、身体から光を迸らせた。

 白い光がタイレーツを覆い、視界を光で埋め尽くしていく。

 

「サイコキネシス」

 

 怯んだところを超念力で宙に浮かせ、身動きを取れなくした。

 

「くっ………タイレーツ、いわなだれ!」

 

 身動きは取れなくとも口から何か吐き出すような技やある一点から何かを降らせるような技は使えたりする。だからタイレーツも漏れなくサーナイトの頭上に岩を降らせきた。

 ジムリーダーになるだけあって、トレーナーとしての判断力は早い方だろう。

 

「引き寄せろ」

 

 だが、今回はそれが命取りにもなるってことを見せてやろう。

 超念力でタイレーツをサーナイトの頭上に引き寄せると、次々と降り注ぐ岩々をタイレーツが代わりに受けてくれた。

 かくとうタイプにいわタイプの技は効果が薄いが、それよりも自分の技を利用されて攻撃を受けたという精神的なダメージは計り知れないだろう。

 

「トドメだ、マジカルシャイン」

 

 超念力を解き、岩と共に落ちてくるタイレーツを再び白い光で覆い尽くしていく。

 効果抜群の技を二度も受けたのだ。それでいて精神的なダメージもある。これで片がつくと楽、なんだけどな。どうだろうか。

 

「タイレーツ!?」

 

 ドサッとサーナイトの周りに円を描くように落ちたタイレーツはピクリとも動かない。

 

「タイレーツ、戦闘不能!」

 

 審判の判定が下された。

 うん、まずは上々。

 このペースでいければ俺もすぐに休めそうだ。

 

『サーナイト、テレポートで移動してからはその場から動くことなくタイレーツを倒したぁぁぁっ!!! タイプ相性がすごくいいとはいえ、その場から動かずにというのは圧倒的な強さの証拠!! ガオガエンがまだ控えているというのに、これはサーナイトだけで次も倒してしまうのか!!』

 

 実況のコメントを聞く限り、スタジアムの空気はサーナイトで無双する未来に期待値が跳ね上がっているようだ。

 

「お疲れさまでした、タイレーツ。戻ってください」

 

 どこか淡々としているように見えるが、ボールを持ってない方の手が強く握り込まれていた。

 

「まさか触れることも許されぬとは…………どうにかしてこじ開けてみせます! ルチャブル、いきますよ!」

 

 次に出してきたのはカロスでもお馴染み、ルチャブル。

 かくとう・ひこうタイプという珍しい組み合わせを持つポケモンだが、戦闘スタイルはガオガエンに近いものがある。というかこっちもプロレスラーみたいな技を得意とする。

 

「まずはこうそくいどうです!」

「チャオ!」

 

 ルチャブルは出てくるなり、高速で移動し始め、サーナイトの周りを回り始めた。

 目で捉えられなければ止められることはないと踏んでのことだろう。

 作戦としてはいい。だが、ルチャブルでやるというのが少々問題だ。

 

「今です、どくづき!」

 

 ルチャブルはサーナイトの背後に回り込み、背中に向けて紫色の拳を突き出してきた。

 

「マジカルシャイン」

 

 結局のところ、ルチャブルはプロレスラーよろしく物理攻撃が得意なわけで、最後にはサーナイトに触れにいかなければならない。

 ならば、そこで全方位に攻撃可能なマジカルシャインを使わない手はない。

 

「チャオ!?」

 

 目眩しを受けたルチャブルの攻撃は外れ、高いルクスの光を間近で浴びたことで一時的に視界不良となり、躓いて地面を転がっていく。

 これがルカリオとかならば、はどうだんとかの選択肢があり、遠距離からの攻撃も加えられていただろう。せめてストーンエッジとかくらいは挟まないと何をどうしたってマジカルシャインの餌食にしかならない。

 

『やはりここでもマジカルシャインが猛威を奮います! 我らがジムリーダー、これをどう切り抜けるつもりでしょうか!!』

「ルチャブル?! …………なにか、何か手を打たなければっ」

 

 どうやらただ距離を詰めただけでは攻撃が届かないことを悟ったようだな。

 さて、どういう策を見出してくるか。

 

「…………やってみないことには分かりませんが、ルチャブル! サーナイトに向けて走り込んで下さい!」

 

 すぐに何か閃いたらしい。

 起き上がったルチャブルがサーナイトに向けて走り出した。

 

「サーナイト、もう一度マジカルシャインだ」

「サーナ!」

 

 どういう策かは分からないが、いざとなったらテレポートで躱せばいい。

 

「今です! まもる!」

 

 ルチャブルとの距離があと二メートルというところで、サーナイトの身体から光を迸らせる。

 だが、光に呑み込まれるのと同時にルチャブルがドーム型の防壁を張り、事なきを得られてしまった。

 なるほど、それが狙いか。

 

「どくづき!」

 

 強く踏み込んだルチャブルの拳がサーナイトに当たる瞬間ーーー。

 

「テレポート」

 

 ーーーサーナイトは一瞬で消えて距離を取った。

 

「こうそくいどうです!」

 

 ルチャブルの拳は空を切るもすぐに切り替えて加速し、後方上空に移動したサーナイトに向けて飛んでくる。

 うん、飛べるんだもんな、ルチャブルって。

 

「かみなりパンチ」

 

 再度紫色の拳を突き出してくるので、こちらも拳で返すことにした。

 電気を纏った拳でルチャブルの拳を受け止めとこうそくいどうの勢いもあってか、サーナイトの身体が少し押し上げられてしまった。

 だが、上から叩きつけているというアドバンテージはそう覆ることはなく、ルチャブルを押し戻し地面に叩きつけていく。

 

「なっ!? 力負けした?!」

 

 よもやファイターのルチャブルが押し負けるとは思いもしなかったのだろう。サイトウの動揺が目に見える形ではっきりと顔に表れた。

 

「サイコキネシスで打ち上げろ」

 

 地面に叩きつけたルチャブルを今度は超念力で浮かせ、上空へと放り投げる。

 

「ひこうタイプのルチャブルを打ち上げてもこちらが有利になるだけです! フライングプレス!」

 

 すぐに態勢を整えたルチャブルが翼を広げて腹から落ちてきた。

 落ちてきたというよりダイブしてきたと表現した方が適切かもしれない。

 まあ、どちらにせよ思うことは一つだ。

 ーーー若い。

 

「テレポート」

 

 まもるを使ったマジカルシャインの対処やその後のどくづきとこうそくいどうでの距離の詰め方はよかったのだが、最後に決め技できてしまったのが大きなミスである。

 かみなりパンチに押し負けた時点で単純な力比べですらサーナイトに軍配が上がるのに、まだサーナイトの動きが封じられていない内から上を取れたからといって決め技を選択してしまうのでは、躱すのなんて考えずとも出来てしまう。

 

「トドメだ、かみなりパンチ」

 

 そして背後を取られてしまえば、ルチャブルの急所にすら入るというもの。

 電気を纏った拳を背中に受けたルチャブルは、激しく身体を地面に叩きつけてサイトウの方へとバウンドしていく。

 

「ルチャブル、戦闘不能!」

 

 ずざざーっと滑ってからはピクリとも動かす、審判の判定が下された。

 

『ルチャブルも倒されたぁぁぁーーっ!! これでジムリーダーの手持ちはあと半分! 対してチャレンジャーの手持ちはサーナイトにすらダメージが通った形跡がありません! 先程の拳と拳のぶつかり合いでどくづきのダメージが入っているかどうかというところでしょうか!!』

「よもやここまでの強さとは…………。もっと捻らなければいけないということですか」

 

 やっと二体か。

 さっさと終わらせないと結構もうキテるんだよな。多分、歓声が脳に響いて揺さぶられてる感覚になってるんだろうな。今の俺、超敏感だから。

 

「オトスパス、お願いします!」

 

 ………おっと、どっかで見たような気がするな、あのポケモン。主に鎧島で。爺に渡されたガラルのポケモンの本とか、実際に巨大化したのを倒したりもしたわ。

 オクタンみたいなくせにあれでかくとうタイプっていうんだから、ポケモンはよく分からないわ、ほんと。

 

「オトスパス、ハイドロポンプです!」

 

 すると出てくるなり、オトスパスとやらは水砲撃でサーナイトを狙ってきた。

 サーナイトは俺の指示なく咄嗟にテレポートで躱し、オトスパスの頭上後方へと回り込む。

 

「サイコキネシス」

 

 動きを封じようと超念力を掛けるもーーー。

 

「ふいうち!」

 

 ーーー残像を残してサーナイトの下に潜り込み、下半身の触手をバネにして飛び上がってきた。

 これにはテレポートも間に合わず、オトスパスの頭突きに弾き飛ばされていく。

 

「みずびたし!」

 

 追撃を掛けるように下からサーナイトに水を吹きかけた。

 こんどは水砲撃のような勢いも水量もない。ただ水を浴びてびしょ濡れになったって感じだ。

 

「これでサーナイトにかくとうタイプの技も通るようになりましたよ。オトスパス、インファイト!」

 

 だが、みずびたしは浴びせたポケモンのタイプをみずタイプに変更する技。つまり、タイプ相性のアドバンテージはこれでなくなってしまったというわけだ。

 

「マジカルシャイン」

 

 だからといって、今まで使っていた技も全てみずタイプになるわけじゃない。

 いくらサーナイトのタイプが変わろうとも、こちらの技のタイプが変わらなければそこまで脅威でもないし、策を変える必要もない。

 触手をフルで使った拳のガトリング撃がサーナイトに襲いかかるも、白い光で包み込んでしまえば、弾き飛ばすのも容易だった。

 

「サイコキネシス」

 

 すぐさま超念力で引き戻す。

 

「トドメだ、マジカルシャイン」

 

 そして再度白い光に包み込んで、今度はサイトウの後ろの壁にまで弾き飛ばした。痛そう。

 

「オトスパス、戦闘不能!」

 

 ドローンロトムを通して審判の判定が下された。

 ふぅ、ようやくあと一体か。激しい運動をしているわけじゃないのに、呼吸が荒くなってしまっている。恐らく頭をフルに使っているせいで、血が頭に上っていって他が足りなくなっているのだろう。

 あと一体。保ってくれよ、俺の身体。

 

『オトスパスも戦闘不能ぉぉぉ!! サーナイト、これで一人で三枚抜きを達成しました!! 残るはあと一体!! このままサーナイトが全員倒してしまうのかぁぁぁっ!!』

「お疲れ様でした。ゆっくり休んでください」

 

 サイトウは静かにオトスパスを戻してすぐに最後のボールに手をかけた。

 

「いきますよ、カイリキー!」

 

 最後のポケモンはカイリキーか。

 つまりはサイトウのエースポケモンであり、恐らくダイマックス………いや、キョダイマックスを引っ提げていることだろう。

 そして三体も倒したサーナイトに出し惜しみする必要はないし、する余裕もないはず。

 

「最初から全力ーー」

「サーナイト、カイリキーと一緒にテレポートしてサイトウから遠ざけろ」

 

 ならば、とサーナイトにカイリキーを連れてサイトウから遠く離れたところへテレポートさせた。

 まあ、このスタジアムでサイトウから出来るだけ遠ざかるには上空しかないんだがな。

 

「カイリキーを………戻せない………?!」

 

 予想通りすぐにキョダイマックスさせようとカイリキーにボールを向けたが、先にサーナイトがカイリキーを連れ去ってしまったことでボールの光が届かず、カイリキーをボールに戻すことも出来なくなっていた。

 

「サーナイト、そのままマジカルシャインだ!」

「サナーッ!!」

 

 上空でカイリキーを放り投げて先に落下してくるサーナイトに向けて指示を出すと、まるで太陽の如く白い光を発し始めた。

 当然、空中では移動手段のないカイリキーはただ重力に身を任せるしかなく、待ち伏せていた白い光の中へと突っ込んでいく。

 

「カイリキー、インファイトです!」

 

 サイトウもキョダイマックスさせることは諦め、この状況を何とか打破しようと指示を出していた。

 それが効果あるかどうかはさておき、何もしないでただやられるつもりはないらしい。

 

「サイコキネシスで放り投げろ!」

「サナ!」

 

 形振り構わない攻撃程、予測不能な攻撃はない。だから確実に避けるために再び超念力で上空へと放り投げさせた。

 

「サーナイト!」

 

 そして、Zパワーリングを見せつけるとサーナイトは俺の意図を汲み取ってくれたようで、再度落ちてくるカイリキーへと身体の向きを変えた。

 二人で同じようにエスパーZの動きを揃えていき、エネルギーを貯めていく。

 

「マキシマムサイブレイカー」

 

 という名のただのサイコキネシスの強化版。

 強化された超念力で落下する速度を一気に加速させていく。というか一瞬で地面にめり込んだ。チュドンって音が適切かな。

 

「カイリキー、戦闘不能! よって勝者、仮面のハチィィィ!!」

『決まったぁぁぁっ!! サーナイト、本当にサイトウのポケモンを一人で倒してしまったぁぁぁあああああああああっ!!! 仮面のハチ、恐るべし! まだここに切り札のガオガエンが控えているのかと思うと、その実力は我々でも計り知れません!! 今年は本当にチャンピオンの交代もあり得るのではないでしょうかっ!! いや、しかし我らがダンデも黙ってやられるとは到底思えません!! この二人が相見えたその瞬間、一体何が起こってしまうのでしょう!!!』

 

 フィールドの半分を凹ませたクレーターの中央に倒れているカイリキーは動く気配がなく、そのまま審判の判定が下された。

 やっと終わった。

 早く横になりたい。

 けど、このまま帰るわけにはいかないんだよな………?

 

「はぁ」

 

 カイリキーをボールに戻すサイトウを見ながら、俺は深い溜息を吐いてフィールドの中央へ向かうことにした。

 なるべく手短に締めよう。

 

「………悪いな、シャクヤが見に来ているってのに。ストレスの捌け口みたいなバトルになっちまって」

 

 サイトウも中央に来てくれたので、早速謝っておいた。

 俺としてもカイリキーがキョダイマックスした姿を見てみたかったのだが、俺の身体がそんな余裕を持ち合わせていないため、やむなくタイプ相性のゴリ押しで済ませてしまったが、見せ場まで奪ってしまったのは本当に申し訳ないと思う。

 

「いえ、私がまだまだだったというだけのことです。それに昨夜、彼女からあなたのことは聞いていたので。ただ、ここまで強いとは思ってもみませんでしたが」

「単にタイプ相性にモノを言わせただけだ。本来なら六体目のお披露目とか考えていたんだが、次回以降に持ち越しだわ」

 

 ごめんな、ウルガモス。

 でも次は分からないが、メロンさんが相手の時は必ず出すからな。それまでは「仮面のハチの六体目」として考察材料を提供してやっててくれ。

 

「その割にダイマックスを封じるためにボールの光が届かない距離にまで連れて行くなんて離れ業を見せてくれましたけどね。まさかそんな対策の仕方があるとは思いもしませんでしたよ」

「それこそ悪かった。ジムリーダーに見せ所すら与えられなかったんだからな。ジムチャレンジを盛り上げろっていう仕事も出来てなかっただろうし。これじゃ契約破棄されるだろうな」

「そんなことはないと思いますよ。盛り上がったか盛り上がらなかったかで言えば、間違いなく盛り上がっていましたから。というよりこれから盛り上がるのでは? 主にネットで」

「あー、確かに」

 

 サーナイトで無双しちゃったからな。

 これからネットでの考察祭りが始まるんだろうな。

 確かにそうなるとネットではお祭り騒ぎだろう。メディア関係も色々と記事を出してくる

 

「いやでも、それこそお前に迷惑かけそうだよ。多分、ネットではお前が批判の対象になっちまう」

「それこそ気にしないでください。多かれ少なかれ負ければ批判はされますから。こんなことで一喜一憂してられません」

 

 強いな、この子は。

 そりゃ、シャクヤもベタ褒めするわけだ。

 

「………と、早く休まれたいんでしたよね。すみません、話が長くて。準備が出来たようなので早速。まずはかくとうバッジです」

 

 スタッフがトレイを持って俺たちの方にやってくると、サイトウの方から話を切り上げてきた。

 どうやら俺の体調を気遣ってくれてるらしい。マジでいい子だわ。

 

「あとこれも持っていってください」

「これは?」

 

 ジムバッジと一緒に黒い帯? もトレイに乗っていた。

 

「たつじんのおびです。ポケモンに持たせると攻撃時に効果抜群だと威力が上がります。ジムチャレンジでのお詫びとしてもらってください」

 

 まさかそんなものまで用意していたとは。

 けど、もらっていいのかね。ただでさえ、批判の対象になるっていうのに、さらに俺だけ贔屓するような行為をしていたら、あることないこと書かれ始めるぞ。

 

「……………分かったよ。ありがたくもらっておく。けど、いいのか? 一チャレンジャーにこんなもの渡して」

「逆に何もしない方が批判されるし、されるべきだと思います。これは私の自己満足です」

 

 あー………それはそれであり得るな。

 つまり、何をどうしようが批判の対象でしかないってわけだ。それなら自分が満足する方を選んだだけに過ぎないってか。

 本当にこの子は強いというか、強かというか。

 

「そうか」

 

 これ以上俺が何か言うのは野暮ってものだろう。

 

「それにあなたとバトルしてジムリーダーとして以前にトレーナーとしてまだまだだと実感しました。今のままではダンデさんを倒すことは愚かカブさんやキバナさんを倒すことも叶わないでしょう。同じジムリーダーと言っても実力の差が歴然だと思います。でも私は今とても嬉しいんです。就任一年目にしてこんな強いトレーナーとバトル出来たことにすごくわくわくしています。あなたとバトル出来たことで、チャンピオンやジムリーダー以外にも手も足も出ない存在が他にもいることが知れた。私のバトルは拳が届かなければ、途端に弱くなる弱点を見つけられた。だからチャンピオンとバトルして負けるより今ここであなたに負けたことは、私にとって一生の宝です。これから先、私たちはもっと強くなれる可能性が見えてきました。次は絶対勝つ、なんて言えませんが、あなたに与えてもらったこの大きな壁、必ず乗り越えて見せます! そしていつか必ずあなたを倒してみせます!」

 

 野暮どころか最早掛ける言葉すら見つからない。

 この子は間違いなく強くなる。

 それこそ、未来のガラルを背負っていくくらいには。

 ソニアといいサイトウといい、本当にガラルは原石ばかりだな。

 

「そっか。月並みなことしか言えないが、頑張れよ」

「はい!」

 

 まあ、取り敢えず今は早く帰って寝よう。

 

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