翌朝。
やってきました、ルミナスメイズの森!
怖っ、何ここ。めちゃくちゃお化け屋敷みたいなんだけど。
あ、なんか今ゴーストタイプ的なのがスーと通り過ぎていったぞ。
「ひゃー、いつきてもやべぇー」
サイトウのところに泊まっていたシャクヤに森へ行くところを捕まり、当然にようについてくるというね。
「で、何でサイトウまでいるのん?」
「次のジムはラテラルタウンの北になるので、どうせなら普段のあなたを見てみたくなっただけです」
「ジムはいいのかよ」
「一日休みになりました。ミッション会場の点検で、挑戦者を受け入れるわけにはいかなくなったのです」
つまり、早速業者が入ったわけか。
ローズ委員長はちゃんと仕事してくれてるみたいだな。
「ああ、そういうことね」
「点検次第ではさらに一日二日はかかるかもしれませんが、既にカブさんに勝てた挑戦者は私のところも攻略されていますし、これからカブさんを攻略してくる挑戦者は休息が必要でしょうからね。焦ってきたところで私が返り討ちするだけですので、それを考えればここ二、三日は大丈夫かと」
「ちゃんと考えているならそれでいいんだ」
挑戦者のコンディションまで予想してのことなら、最早俺が口出しするようなことはない。ジムリーダーがいいと言っているのだから、大丈夫ということにしておこう。
「それでどういう道順でいけばいいんだ?」
「ラテラルタウン側からですと、分かれ道は大体右に曲がっていれば道なりで着きますよ」
「ただ、厄介なのはベロバーとかギモーとかがいたずらを仕掛けてきたり、ゴーストタイプのポケモンが驚かしてきたりするから、それが大変かな」
「ほーん」
二人の説明からするとマジでお化け屋敷を回る感覚になりそうだ。
トキワの森やトウカの森はここまで怪しい雰囲気はなかったしな。というか森の中一帯が紫色に近いってどういうことだってばよ。毒素でも混じってんの?
「あのキノコとか、毒キノコとかじゃないよな?」
「恐らく毒はないと思いますが、触ると光りますよ」
「マジか………」
光るキノコとは……?
光る苔なら知ってるけど、キノコも光る種類があるのか。
「うっわ、マジだわ………」
試しに触ってみたら、途端に白く光り出した。
薄暗い森の中ではある意味明かりの役割を果たしており、これはこれで便利かもしれない。
と思いきや、割とすぐに光が失われていってしまった。
「発光している時間は短いですが、森の至るところにあるので、明かりの代わりとして重宝されてますよ」
「みたいたな」
トキワの森とかよりは親切かもしれない。
下手したらスピアーとかに襲われかねないところだからな。
「あ、あれポニータじゃね?」
するとシャクヤがポケモンを見つけたようで、そっちの方を向いてみる。
にしてもポニータ?
確かガラルのポニータとギャロップはリージョンフォームなんだっけ?
「………おお、本当だ。尻尾と鬣が炎じゃない」
ほのおタイプのポニータよりも白く、尻尾や鬣がパステルピンク色になっている。あと紫のメッシュが入っているというかそんな感じ。
「いや、ポニータに炎の鬣とかあるわけないじゃん」
そりゃガラルのはな。
シャクヤも外の地方に行ったことがないから、ガラルのポニータたちが普通だと思っているのだろう。ガラルから出たことなければ、それが普通だ。逆に俺たちも今まで登録されてきた姿しか知らないわけなんだし、反応としては間違っちゃいない。
「ガラルのポニータとギャロップはな。けど、カントー地方とかにいるポニータとギャロップは尻尾と鬣が炎なんだよ」
「は? んじゃ、どうやって乗るん? 炎の鬣とか危なすぎね?」
それな。
ポニータやギャロップについて知る上で、まず通り道だよな。
当時の俺もシャクヤと同じこと思ったわ。
「認めた相手には尻尾や鬣の炎を熱く感じないし、火傷もしないんだとさ。だが、逆に言えば認めていない相手には容赦ないって感じだな」
一体どういう原理でそんなことが可能なのかと思わなくもないが、そこはポケモンだから、で片付けるしかない。摩訶不思議な生き物の理解出来ないことなんて頭を悩ませたって仕方がない。それはそういうものだと思うしかないのだ。
「へぇ………同じポケモンなのにタイプが違ったりするのって、やっぱり不思議だなー」
でもそういう不思議な部分がリージョンフォームだと表に現れるって一例でもあるのだろう。火傷しない炎を作り出せる力が、そのままエスパータイプとして表に出てきた。そう考えるのが自然だと思う。
「鎧島のヤドンやヤドランだってカントー地方とかではみず・エスパータイプだからな。ポケモンは不思議な生き物だよ」
「確かに。なんかそんなこと言ってたもんね。って、ギャロップも出てきたし」
「ほぉ、あれがガラルのギャロップか。ピンクだな」
するとポニータの側にギャロップまで現れた。
こっちも色白で鬣や尻尾がパステルピンク色になっている。
この森の感じも併さり、神秘度数が格段に上がっている。
エスパー・フェアリータイプと言われても違和感ないまであるな。
「「「バァーッ!」」」
「うおっ!?」
「うぎゃぁぁ?!」
なんてポニータとギャロップを眺めていたら、何かが上から降ってきやがった。
俺もシャクヤもその場を飛び退き、シャクヤなんか俺にガッチリとしがみついている。
「ベロバーですね」
ただ一人冷静に状況を分析しているサイトウが逆にに恐ろしい。
よく今ので冷静でいられるな。まさか事前に察知していたとか?
「ちょ、サササイトウ、ななに淡々と解説してるのさ!」
うん、シャクヤはシャクヤで落ち着け。
こっちはこっちで驚きすぎだ。噛み噛みじゃねぇか。あとホールドしている力が痛いんだけど。
こうまで驚いている奴を見ると逆に冷静になってくるというもので、目の前に着地した三体のベロバーと呼ばれるポケモンがニタニタと不敵な笑みを浮かべてくるのが非常に腹正しい。
「別に驚くようなことではないでしょうに。ルミナスメイズの森にはベロバーたちが多く棲みつき、そのベロバーは悪戯好きで有名なのですから。
「そういう意味じゃないから! なんで驚かされて驚かないのって話なの!?」
「それはまあ………誰かさんのせいで驚き疲れたと言いますか………」
そう淡々とシャクヤに返すサイトウだが、最後のは一体誰を指しての発言なのだろうか。
会話の流れからシャクヤとも考えられるし、視線は俺の方を向いているため俺とも考えられる。
なんと言葉巧みなこと。
「ボー」
「ボー」
「ボー」
「こ、今度はなに?!」
すると今度は俺たちの背後からゆったりと三体のボクレーが通過していった。
「ボクレーが数匹固まって移動していたみたいですね」
ベロバーにやられたシャクヤのライフは既にゼロになってしまっているようで、然して驚かせるつもりのないボクレーたちにすら、俺にしがみついてしまう始末。
さっきからしがみつく力が半端ないの自覚ないでしょ。そろそろ俺の身体が悲鳴を上げちゃうかもだぞ。
「それにしても…………」
「な、なにさ……」
「シャクヤは意外と怖がりなんだなー、と」
「そ、そんなわけないじゃん! な、なななに言ってるのさ!」
シャクヤとは正反対の反応を示しているサイトウからすれば、シャクヤの驚き方の方が驚きなのかもしれない。
というか仲良いな、君たち。
「落ち着け、シャクヤ」
シャクヤの頭を撫でると少しずつ呼吸が落ち着いてきて、平静さを取り戻していく。その間、ずっとサイトウのことを睨んでいたけれど。
睨むならベロバーたちを睨めよ。
「別に怖いことが悪いわけじゃない。俺だってこの森に入ってから不気味だなーって感想を抱いてる。それこそお化け屋敷みたいだと思ってる」
実際、ゴーストタイプのポケモンもいたことだしな。
最早天然のお化け屋敷と言ってもいいくらいだ。
「そうですよ」
「本当に? 揶揄ったりしない?」
俺にしがみついたまま、上目遣いでサイトウに確認を取るシャクヤなのだが、こうもしおらしいと普段とのギャップがすごい。違和感すら感じてしまうが、まあ今は頭を撫で続けておこう。
「しませんよ。ちょっと頼み事がしやすくなったなーとか、私を振り回すシャクヤにも可愛い一面があったのだなーとか、そんなことは一切思っていませんから」
「ちょ、それ絶対思ってるやつだよね!? 後から絶対それをネタに無理難題を押し付けてくるやつだよね?!」
「さあ? 何のことやら」
あのおっさんの血を引くシャクヤに振り回されてないかなと心配していたが、反撃の材料は虎視眈々と狙っているくらいにはサイトウも獰猛さを兼ね備えているようだ。
うん、この親子にはそれくらいで丁度いいと思う。逆に俺が心配する必要なんか皆無だったみたいだな。
「ふっ」
「なんだよぉ……ハチ兄まで笑わなくたっていいじゃん」
「あー、いや別にシャクヤを笑ったわけじゃねぇよ。ただ、サイトウの太々しい一面が見れてほっとしたというか、安心しただけだ」
どうやらシャクヤには怖がっている姿を俺に笑われたと思われたらしい。
別に怖がることに笑ったりしないから。俺だって怖いものは普通にあるのだし、それが平気だって奴も普通にいるだろうから、笑ったりするかよ。
「私、ですか?」
「ああ、大きすぎる周りの存在のせいで無駄にプレッシャーを感じて、潰れてしまったトレーナーを知ってるからな。ミッションであんな事故もあって、責任を感じすぎてないか心配だったんだよ。ま、それもちゃんと割り切れているようだから、俺の杞憂でよかったなって」
「今も申し訳ない気持ちはありますよ。でもそれでクヨクヨしてたところで何も始まりませんから」
「そりゃそうだ」
ちゃんと切り替えられているようで何よりである。
ソニアのように重圧に押しつぶされてジムリーダー引退ってことなんかになったら、この一大興行事業が飛んじまうからな。
ここまで盛り上がりを見せているのに、それが急になくなるのはガラルとしても大きな損失を産むことになるだろう。
「ギモー!」
「バー!」
「バー!」
「ギモー!」
「バー!」
なんてやり取りをしていたら、三体のベロバーに加えてさらにポケモンが増えていた。
そしてその全員が森中に響く様に雄叫びを唸らさせると、どこからかズシンズシンと足を踏み鳴らす音が聞こえてくる。
うん、この重たい音に妙なプレッシャー。ベロバーたちの親玉でも呼んだのかもしれない。
「な、なに………?!」
段々と大きくなる音にいよいよシャクヤがビビり始める。
うーん、今日のシャクヤはずっと新鮮な姿を見せてくれるな。
「オーロンゲ………」
先に見つけたのはサイトウの方で、木々を倒しながら光るキノコを踏み潰して、そのシルエットが下から照らされるように映し出された。
まるで女優ライトのようだと思ったのはきっと俺だけだろう。流石にサイトウもそんな気の抜けたことを考えているとは思えないしな。というかこんな状況でもそんなことに思考裂けてしまえる俺が、場慣れし過ぎなだけだろう。
「ヤッバ、ピンチじゃん………」
禍々しいオーラが見えてきそうなその黒いシルエットは、ベロバーたちで黙らせる程の圧があった。
シャクヤは俺にしがみつく力をさらに強くし、軽口を叩いていたサイトウも警戒態勢に入っている。
オーロンゲ、確かあく・フェアリータイプだったか。この前のベロバーの最終進化系で………よく見ると増えたポケモンもベロバーが進化したギモーなんじゃないだろうか。
やだね、これ群れに絡まれてるやつじゃん。何ならベロバーにいたずらさせておいて、最終的に親玉が蹴散らそうって考えが見え隠れしている辺り、とんだマッチポンプもいいところである。
流石狡賢い種族だこと。
「ここは私が」
「まあ待て」
サイトウが前に出てオーロンゲを倒そうとするも、流石にジムリーダーと言えど、女の子を前に立たせるのも何となく後味が悪い。
それに昨日はただコーヒーカップを回させておいて、バトルさせてやれなかった奴がいるからな。
ガス抜きには丁度いい相手である。
「昨日はバトルさせてやれなかったんでな。力が有り余ってるやつがいるんだわ。ガオガエン」
「ガゥ」
そう言ってガオガエンを出すと待ってましたと言わんばかりに胸を張っていた。
やる気満々だな。
「ニトロチャージ」
そのやる気が消えない内にさっさと終わらせるとしよう。
まずはガオガエンをオーロンゲ含む、ベロバーたちの中へ突進させる。
「オーバーヒート」
そして身体中から炎を迸らせると一気にオーロンゲたちを焼き尽くしていく。
「うっわ、オーロンゲ以外、もう戦闘不能じゃん」
炎が収まるとオーロンゲ以外のポケモンが焼け焦げた状態で倒れていた。
うん、呆気ないな。
「ロォォォッ!」
そのオーロンゲも雄叫びを上げて何とか耐えたという感じである。
これはあれだな。ガオガエンが強くなり過ぎたってやつだな。
それでもまだまだサーナイトの領域には達していないし、つまりはうちの三巨頭たちにも歯が立たないレベルなのだから、多分あいつらがおかしいんだと思う。そういうことにしておこう。
「ガオガエン、フレアドライブ」
肩で息しているオーロンゲに炎を纏って突っ込ませる。
「けたぐり」
当然、オーロンゲが受け止めてくるが、すかさず脚を払いバランスを崩していく。
「かえんほうしゃ」
そして口から炎を吐いて追い討ちをかけていくと、光を迸らせて炎の中を突っ込んできた。
最後に一撃くらい返してやろうってところだろうか。
マジカルシャインとはまた違う光の色。恐らく違う技なのだろう。
「ブレイズキック」
だが、炎を纏った回し蹴りでオーロンゲを弾き返すと、そのままうつ伏せで倒れ伏してしまった。
うーん、これで終わりか?
その割に何というか独特な倒れ方をしているような気がする。簡単に言えば土下座しているように見えるのだ。
「ガオガエン、慎重にな」
「ガゥ」
様子を見るためにガオガエンに向かわせる。
足音を立てて近づくがオーロンゲが反応する様子は伺えない。
考えすぎだったか?
「ガゥ!?」
するとガオガエンがしゃがんでオーロンゲの顔を見ようとした瞬間、オーロンゲの角が光り、ガオガエンの顔面目掛けて突き上げてきた。
「へぇ、面白い技だな」
咄嗟に飛び退いたガオガエンにダメージはなかったが、オーロンゲというのは最後まで油断ならないポケモンらしい。
悪戯好きなポケモンからここまで狡賢いポケモンに進化するとか、嫌なポケモンだこと。
「トドメだ、ブレイズキック」
一度地面に炎を走らせて、その全てを右脚に凝縮していく。
そして走り出すと地面を蹴り上げて飛び上がり、両脚を折り畳んでから右脚だけを伸ばしてオーロンゲに向けて急下降していった。
ドカンとオーロンゲが爆発し…………爆発する程の威力を出さなくてもよかっただろうに。オーロンゲは丸焦げになって無事意識を手放した。
「うっわ、えげつな………」
「ガオガエンもムカついたんだろうな」
「不意打ちでしたからね。無理もありません」
俺たちから見てもオーロンゲの不意を突く攻撃は擁護する気持ちにもなれないわ。
「で、シャクヤはいつまで俺に引っ付いてんの?」
「え? あ、あー………」
暗に「はよ解放してくれ」と伝えると決まり悪く視線を泳がし始めた。
え? そんなに俺に引っ付いてたい系の子だったっけ?
「何だよ」
「いやー、その………何かに捕まってないと立ってられないと言いますか………はは………」
それはつまりーーー。
「ーーー腰を抜かしたと?」
「うぇあ!? あ、や、うん、まあ………はい」
「「ふっ」」
思わず鼻で笑ってしまった。
うん、ごめん。シャクヤ。
でも俺だけじゃないから許して。
「だから言いたくなかったんだよ! 罰としてアタシをおんぶして連れてけ!」
「えー、ったくしょうがねぇなー」
俺の腕にしがみついたまま暴れられても困るため、シャクヤの首に腕を回して、もう片方を膝裏に回し抱き上げた。
所謂お姫様抱っこである。
「なっ………!」
「さあ、お嬢様。行きますよ」
「お、おろせー! 誰かに見られたらどうするのさ!」
わーきゃー騒ぐが落ちるのが怖いのか、結局は俺の首に腕を回して落ち着いた。
その光景をサイトウがしれっと動画に撮っていたのは、まあご愛嬌ということで。
本当、仲良いよね、君たち。