ポケモントレーナー ハチマン 完   作:八橋夏目

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90話

『さあ、次はいよいよジムリーダーとのバトルです! 準備が整ったようなので、早速入場していただきましょう!』

 

 結局、四十秒で準備が終わるわけがなく、五分くらい後に開始のアナウンスが流れた。

 

『まずはこの人! たった数時間前に受付をしたにも関わらず、チケットは即完売。スタジアムを満員にしてしまう程の今注目の選手、ミッションクラッシャー、仮面のハチ!!』

 

 ……………確かに今日は受付から開始までの時間が短かったけど、まさかそんなことになっているとは。

 ガラルの住民も暇なのかね。

 

『そして対するはこの人! 歴代ジムリーダーの中でも最高齢にして最長歴の記録を保持するフィールドの魔術師、我らがジムリーダー、ポプラ!!』

 

 八十六だっけ?

 そりゃ、その歳で現役なんだから最高齢にして最長歴にもなるわな。

 というか、珍しく実況がおばさんみたいだけど、熱狂的なのはどこも一緒なのね…………。

 歓声を受けながらフィールドに出ると反対側からも杖をついた婆さんがゆったりと向かってきていた。

 うん、杖をついているんだし、歩くスピードはそんなもんだよな。

 

「改めて。アタシはポプラ。アンタのことはマスタードやマグノリアからいろいろ聞いてるよ」

 

 やっとのことで対面した婆さんは、近くで見るとマジで迫力があるな。

 夢に出てきそうで怖い。

 

「バトルが強くてポケモンの知識も豊富。近い将来、どこかで名を馳せるだろうなんて言われてたから、ちっとばかしクイズの問題をいつもとは難易度を変えさせてもらったんだけどね。アンタには意味なかったようだ」

 

 いや、最後の方の問題は難易度以前の問題だったと思うぞ。

 知らねぇ婆さんの年齢なんか聞くなよ。しかも二択で答えづらいっつーの。

 

「これから行うバトルもいつもとはちっとばかし変えさせてもらうけど、文句は受け付けないよ。アンタは既にジムリーダーが実力を試す必要がなさそうだからね。こっちもそんな余裕を与えてもらえなさそうだし、アンタも本気で来な」

 

 ただただ聞きに徹していたためか、婆さんは言いたいことだけ言って、さっさとバトルフィールドの端へと向かってしまった。

 

『まずはルールを確認します。使用ポケモンは四体。どちらかのポケモンが全て戦闘不能になった時点でバトル終了となります。なお、技の使用はこれまで通り四つまで。交代はチャレンジャーのみ有効とします」

 

 トレーナーの立ち位置に着くとルール説明が始まった。

 まあ、公式戦なため他とルールに変わりはない。

 

『それでは、バトル始め!』

「まずはアンタだよ、マタドガス」

「ヤドラン、暴れてこい」

 

 最初のポケモンはガラルのマタドガスか。

 頭に煙突のようなものが着いて、色も紫から灰色に近いものになっている。

 ただ、これでどく・フェアリータイプというのだから、ポケモンというのはよく分からない。

 ルミナスメイズの森で襲ってきたオーロンゲたちの方がまだフェアリータイプ感はあったと思う。

 

「どくびし」

「シェルアームズ」

 

 マタドガスの煙突からどくびしがフィールド中に撒かれるのと同時に、ヤドランの毒の弾丸がマタドガスに着弾した。

 

「サイコキネシスで捕えろ」

 

 すかさず超念力でマタドガスを押さえつける。

 

「そう簡単に捕えられると思わないことだね。マタドガス、あくのはどう」

 

 だが、やはり相手は歴戦のジムリーダー。

 この手の攻撃は嫌って言うほど味わっているのだろう。指示に全く迷いがない。

 

「もう一度だよ」

 

 黒いオーラでサイコエネルギーを内側から弾き飛ばし、拘束を解くと、黒いオーラを今度はヤドランに向けて放ってきた。

 

「ヤドラン、シェルブレードでバーチカル・スクエア」

 

 とはいえ、こちらもあくのはどうは熟知しているつもりだ。

 縦斬り四連撃で黒いオーラを斬り裂き、ヤドランが立つだけの空間を確保する。

 

「そのまま右でホリゾンタル・スクエア」

 

 続けて右腕のかいがらのすずから水の刃を伸ばし、水平斬り四連撃で一気に霧散させていく。

 

「距離を詰めろ」

 

 さらに距離を詰めさせて追い討ちをかけにいく。

 

「マタドガス、引きつけるんだよ」

 

 ミッション中のジムトレーナーとのバトルで近接戦での対処方は目にしている。ジムトレーナーが使っていたくらいなんだから、ジムリーダーである婆さんが使わない手はない。

 だからこそ、これはこちら側からの挑発行為でもあるのだ。

 

「マジカルシャイン」

「ヘッドスライディングでマタドガスの真下にいけ」

 

 マジカルシャインが恐ろしいのはあの光だ。あれを至近距離で浴びせられれば、目がやられて視界が奪われてしまう。ダメージもあるが、それ以上に目をやられるのが痛い。

 だが、それでもマタドガスをさっさと倒すには飛び込むしかないのだ。マタドガスの真下という、マタドガス自身からは見えない位置に。

 

「シェルアームズ」

 

 頭からダイブしたヤドランは光が治ると反転して毒の弾丸を撃ち放った。

 

「だいばくはつ!」

 

 だが、その直後にマタドガスが自ら大爆発を起こした。

 その衝撃波は凄まじく、真下にいたヤドラン諸共呑み込み、フィールドにクレーターを作っていった。

 

『ヤドラン、マタドガス、ともに戦闘不能!』

 

 流石にあの至近距離からの大爆発にはヤドランも耐えられなかったようだ。いや、耐えられる方がおかしいまであるな。

 恐らく今のもジムリーダーの経験による対策なのだろう。

 浮いているかつ真下を見られないマタドガスの死角となる真下に潜り込まれるとどうしようもないため、確実に仕留めるための最終手段といったところか。

 何ともフェアリータイプらしからぬ戦い方ではあるが、マタドガスとしては有りだと思う。

 

『ヤドランのかいがらのすずを使った二刀流のシェルブレードに押されていたマタドガス! しかし咄嗟の機転で自ら大爆発を起こし、真下に潜り込んだヤドランを道連れにしたぁぁぁあああああああああっ!!』

「ヤドラン、お疲れさん」

 

 カブさん同様、そう簡単には勝たせてくれないらしい。

 さて、次の俺の手札はマタドガスによって決められたも同然だからな。相手の思惑に乗るのは癪だが、乗るしかないのもまた事実。

 

「戻りな、マタドガス。次はアンタだよ、クチート」

「ドラミドロ、まずは毒の解除だ」

 

 やはり俺の手札を知った上での布石だったようだ。

 どくタイプ持ちはヤドラン以外にはドラミドロしかいない。そこへどくびしを撒けば自ずと解除するためにドラミドロを出さざるを得なくなると読んだのだろう。

 そしてドラミドロはドラゴンタイプも持ち合わせているため、タイプ相性だけで言えば、はがね・フェアリータイプのクチートには滅法弱い。加えてドラミドロは水系のドラゴンタイプであり、炎系の技は今の所確認されていない。

 恐ろしいくらいの用意周到さである。

 

「クチィィィ!」

 

 しかも特性はいかくらしい。

 どこまでもいやらしさが際立つな。

 

『流石は我らがジムリーダー! ハチ選手の二体目のポケモンにドラミドロを引っ張り出してきたぁぁぁ!! 対するポプラさんのポケモンはクチート! タイプ相性は完璧の選出です!!』

「クチート、まずはつるぎのまいだよ」

「ドラミドロ、ねっとう」

 

 そして、クチートが無数の剣を自分の周りに出現させ、回転させて攻撃力を高めている間に、こちらは熱湯を吹き付けた。どくタイプの技もドラゴンタイプの技も効果を成さない今、使える技は限られており、その中でも比較的有効なのがねっとうだ。炎技ではなくともはがねタイプなら高温は嫌がるだろうし、何より追加効果で火傷が期待出来る。

 

「もう一度、ねっとう」

 

 まずはねっとうでクチートを火傷状態にさせるところまではやらないとな。

 

「サイコファングで食らいな」

 

 だが、そんな思いとは裏腹に、クチートは二度目の熱湯を頭の牙を大きく開けて飲み込んでしまった。

 はっ?

 マジかよ、コマチのクチートでもそんな荒技見たことねぇぞ。

 

「じゃれつく」

 

 まさかの回避の仕方に驚いていると、その間にクチートが距離を縮めてきた。

 

「ドラミドロ、とけるで躱せ」

 

 ドラミドロは身体を液体状にしてクチートを通過させ、回避していく。

 

「そのままねっとう」

 

 再び姿を元に戻すと振り向いて背後から再三に渡り熱湯を浴びせた。

 背中からだったためか、急所に入ったらしく、クチートが地面を転がりながら、こちらに顔を向き直してくる。

 だが、その顔は鈍い痛みを伴っているような表情で、恐らく背中を火傷したのだろう。

 

「チッ、運も実力の内ってわけかい。天はアンタに二物も三物も与えてるみたいだね」

 

 いやいやいや。

 やっと火傷してくれたって感じだからね。

 運がある人は一発目で当たりを引いているから。何なら運がよかったら、俺はこんなタイムスリップすらしていないし。どっちかつーと俺は貧乏くじを引かされまくってる運のない方だからな。

 

「そりゃ、どーも。ドラミドロ、今の内にどくびし」

 

 とはいえ、そんなことを言えるわけでもないので否定はしないでおいた。

 それよりもどくびしのお返しだ。

 残り二体は出てきたと同時に毒状態になるがいい。

 

「クチート、今のを全部返してやりな。メタルバースト」

 

 頭の牙で飲み込んだ熱湯を鋼色の光線にして撃ち返してきた。

 

「ドラミドロ、とける」

 

 ドラミドロは再び身体を液体状にして躱すとそのままクチートへと突っ込んでいく。

 クチートが火傷してくれた今、ドラミドロも次の一手を理解しているのだろう。というかドラミドロ自身、タイプ相性がすこぶる悪いクチートの相手はしたくないのだろう。

 

「クイックターン」

 

 水を纏って勢いよくクチートに突撃すると、その反動を活かして俺の持つモンスターボールへと戻っていく。

 

「ガオガエン、ブレイズキック」

 

 代わりにガオガエンのボールを頭上に投げて、空中にガオガエンを出した。

 こっちもこっちで既に技のモーションに入っており、右足には炎を纏っていた。

 

『クチート、戦闘不能!』

 

 俺が指示する前から展開を理解していたドラミドロとガオガエンのおかげでクチートに抵抗する暇を与えることなく、戦闘不能に追い込むことに成功。

 あのままドラミドロで戦っていたら、タイプ相性的にも決定打に欠けていたからな。

 

『クチート、戦闘不能ぉぉぉ!! マタドガスが打った布石により誘い出されたドラミドロでしたが、ねっとうでクチートを火傷状態にしたかと思うと、クイックターンでガオガエンと交代し、そのままブレイズキックの一撃!! その流れるような交代劇に我らがジムリーダーを以ってしても、対処のしようがありませんでした!! 何と流麗で精錬された動きなのでしょうかっ!!』

 

 なんだろう、解説がおばさんだからか、他の実況たちとは違って言葉の端々に女性ならではを感じてしまう。おっさんたちの口から流麗なんて言葉聞いたことがないぞ。

 

「戻りな、クチート。全く、アンタの手持ちを確認した上での選出だったんだがね。ドラミドロを倒して数的有利な状況にしておきたかったってのに、やるじゃないか」

 

 はぁ………それにしても爺といいカブさんといい、全く揃いも揃ってガラルの歴戦の猛者たちは…………。

 一筋縄でいかないのは分かっていることだが、ちょっとどころではなく癖が強すぎるだろ。どく・フェアリータイプなんて珍しい組み合わせのマタドガスを出してきたかと思えば、どくびしは撒くわ、それが俺の二番手を狭める布石になるわ、あまつさえヤドランをだいばくはつで相討ち持っていかれるとか、誰が想像出来たよ。

 その後にドラミドロの天敵のタイプ相性を出してくるとか、鬼畜にも程がある。

 だからこれくらい確実やらないとこの婆さんの思う壺でしかなさそうだ。

 本当に恐ろしい魔女である。

 

「ガオガエン、一旦交代だ。サーナイト、今回はタイプ相性もあって出すかどうか迷ったが、自重する必要はなさそうだ。誰が来ようが徹底的に潰すぞ」

「サナ!」

 

 メガシンカは使わないまでもサーナイトには相手を圧倒してもらおう。

 折角ドラミドロがねっとう+クイックターンで引き寄せた流れだ。婆さんの掌で踊らされないよう、確実に仕留める!

 

「出てきたね、サーナイト。トゲキッス、エアスラッシュで刃の雨を降らしてやりな」

 

 三番手は白い悪魔、もといトゲキッスか。

 ポケモン一つをとっても選出がいやらしいのなんのって。

 

「サーナイト、テレポート」

 

 降り注ぐ無数の空気の刃をテレポートで躱し、そのままトゲキッスの背中に乗り移った。

 

「なっ?!」

「10まんボルト」

 

 そして無防備な背中から電撃を浴びせるとバランスを崩して落下し始めた。

 

「トゲキッス、マジカルシャイン!」

「テレポート」

 

 反撃しないでこのまま落ちるというのならこのまま電撃を浴びせるつもりだったが、反撃してくるとなれば離れるしかない。

 再びテレポートでトゲキッスが落下してきそうなポイントに移動。

 

「サイコキネシス」

 

 そして、落下して来ないように超念力で動きを封じた。

 

「しんそくで脱出しな!」

 

 だが、どうにもこのトゲキッスは好戦的なようで、しんそくで無理矢理超念力を破り、サーナイトに向けて突撃してくる。

 

「テレポート」

 

 それをテレポートで躱し、再びトゲキッスの背中へ。

 

「10まんボルト」

「トゲキッス、じゃれつくだよ!」

 

 再度電撃を浴びせると、今度は振り落とさんとばかりに暴れ始め、その度にサーナイトが出力を上げていく。

 これじゃどっちが悪魔なんだか分からない構図だな。

 だが、サーナイトは着実に俺の指示をこなしているだけなので、可愛いサーナイトを悪魔呼ばわりするのはやめてもらおうか、後ろの観客たちよ。

 

『トゲキッス、戦闘不能!』

 

 ふぅ、危ない危ない。

 白い悪魔は調子に乗せるとガチでえげつないことになるからな。特性を確認するまでもなく、圧倒して倒してしまえば、こちらがやられることはない。

 それにこれで完全に流れはこちらに傾いたことだろう。

 

『トゲキッスも戦闘不能! 恐るべし、テレポート! 恐るべし、サーナイト! 鎧島にいるケーシィのようにテレポートで適当などこかへ行ってしまうということもなく、行き先を常に設定し続けて攻撃に展開していくその技量は、まさに強者のそれではないでしょうか!! それでも尚、余裕を見せ続けて終始トゲキッスを圧倒していたサーナイトは、次に出てくるであろうハチ選手のエース、ガオガエンに匹敵する強さです!!』

「たった数発、効果抜群の技を受けただけだっていうのに………やっぱりそのサーナイトが一番恐ろしいね。戻りな、トゲキッス」

 

 おっと、流石は婆さんと言ったところか?

 ガオガエンよりも強いということに勘づかれていたようだ。

 まさかサーナイトが出てこないようにバトル展開を操作しようとしていた、とか……………?

 それが事実だとしたら、この婆さん。とんでもないことやろうとしていたことになるぞ。

 流石に俺もそこまでバトル展開を操作することなんて無理だし、あいつらならやろうとしたところで絶対に流れを変えようとしてくるからな。

 確かにあいつらとバトルする時は何となく最初はこいつかな、次はこいつかなって予想は立てられるが、手持ちのポケモンたちを知っているが故の予想であり、それでも確実性はないのだ。

 それを確実なものへと操作しようものなら、徹頭徹尾相手のポケモンの技と動きまで頭の中でシミュレーションをしていないと出来ないことであり……………うん、想像すらしたくないな。

 そんな超高度な技術を垣間見せるこの婆さんは、確実にヤバい。全盛期がどんな感じだったのかは知らないが、ジムリーダー最長歴の保持は伊達ではないわ。

 

「さあ、最後のポケモンだよ。アンタたちの実力の全て、アタシらに見せてみな」

 

 最後………これで最後ではあるのだが、もう既にどっと疲れた。

 バトルが長引いているわけでもないのに、何ならそんなに手こずっているわけでもないのに、疲労感は半端じゃない。それだけ頭を使わされているのだろう。あるいは婆さんのヤバさを垣間見てしまった反動からなのか。

 どちらにせよ、まだ気を抜く段階ではない。

 

「マホイップ」

「ガオガエン、遠慮はするな。相手は歴戦の猛者のエースだ。思う存分暴れてくれ」

 

 マホイップ……見た目はケーキである。マホイップの「ホイップ」の部分もその見た目から来ているのだろう。じゃあ、マホイップの「マ」の部分は何なのかってなると、そりゃやっぱりポケモンたちが魔獣と呼ばれていた名残だろう。

 ホイップのような見た目の魔獣。安直ではあるが、分かりやすくもある。その分かりやすさは見た目に惑わされるなという警告も含まれていることだろう。

 それにしても婆さんのエースってのには違和感を覚えてしまうな。クチートやトゲキッスの方がよっぽと似合ってるような気がするのは俺だけだろうか。

 ちょっとファンシー過ぎるというか、恐ろしさに欠けるというか。

 まあ何にせよ、どくびしが発動し、毒状態になってくれたため、何でもいいんだけど。

 

「まずはニトロチャージだ」

 

 まずは炎を纏い、マホイップとの距離を詰めていく。

 

「マホイップ、マジカルシャイン」

 

 だが、近づきすぎてはこれが飛んでくるため、一直線で近づいては格好の餌食である。

 

「DDラリアットで弾け」

 

 だから腕を広げて高速回転し、マホイップの身体から光が迸る中、その光を直視しなくてもいい技にすることで視界不良を回避。ついでマホイップを吹っ飛ばすことで物理的にも回避していく。

 

「目を離していいのかい? マホイップ、とけるだよ」

 

 っ!?

 まさかこいつもとけるを使えるというのか?!

 美味そうな見た目だったのに、次の瞬間にはドロッとした液体となり、しかも無色透明になってしまった。

 

「とけるの可能性に気づいているのは何もアンタだけじゃないんだよ」

 

 いやはやまさか。

 こんなところにとけるの可能性を見出していたトレーナーがいたとは。

 しかも婆さんってことはそれなりの昔に気づいたってことだよな………?

 で、その出来は無色透明………。

 一体何の冗談だと自分の目を疑いたくなるレベルだな。

 

「ガオガエン、マホイップは今無色透明な液体だ。どこから仕掛けてくるか分からないから、気をつけろよ」

 

 とはいえ、悠長に驚いている時間はない。

 無色透明だということは今まさに何か仕掛けているに違いないのだ。

 俺だったら透明な液体なのをいいことに相手の足下に移動させるとか、背後から現れるってことをするだろうが…………ああ、いい技が一つだけあったな。

 

「マホイップ、マジカルシャイン」

「ガオガエン、オーバーヒート」

 

 婆さんがマジカルシャインを言い終わる前に俺も指示を出し、目の前に現れて光を迸らせるマホイップを、炎で呑み込んでいった。

 

「くっくっくっ。いいねぇ、実に楽しい読み合いだよ。だけど、振り出しに戻させてもらうよ。マホイップ、じこさいせい」

 

 うわっ、きったね!

 こっちには回復手段がないってのに!

 絶対毒のダメージも込みで回復のタイミングを測っていただろ。

 

「さて、アンタたちがピンクなのは充分分かったよ。だからアタシらのピンクもプレゼントしてやろうじゃないの。マホイップ、キョダイマックス!」

 

 ピン……ク?

 俺は絶賛赤黒く変身していっている途中なのだが………?

 ピンクの要素とかなくね?

 ヤドランを指しての言葉なら分からなくもないが、「たち」が付いている以上、俺も含まれるのだろう。

 うん、さっぱり分からん。

 それよりも巨大化したマホイップは、最早デコレーションされたタワーケーキでしかないな。

 こんなの食ったら腹壊しそうだ。

 

「キョダイダンエン!」

 

 そのタワーケーキから光が迸り、夜なのに新たな太陽が出てきたのかと思わせるような光量がスタジアムを覆い尽くしていく。

 

「ニトロチャージで走り回れ」

 

 走り回ったところでこの光量では意味をなさないのだろうが、ポツンと立っているよりは幾分かは軽減出来るだろう。

 それよりも俺の目の方がヤバいかもしれない。

 目を瞑っても尚、眩しさを感じ、チカチカしている。

 

「これは………」

 

 それでも状況を確認しようと目に腕を充てながら影を作って半目で確認してみると、巨大なタワーケーキが回復しているように見えた。

 もしかするとさっきの技には追加効果で回復機能があるのかもしれない。

 ダイマックス技はどれも追加効果を持つ技だって話だ。全ての技を網羅出来ているわけでもないし、実際に目にしているわけでもないため、確かなことは言えないが、目の前の光景は実に厄介である。

 

「ダイナックル!」

 

 そんな俺の気持ちとは裏腹に婆さんは攻撃の手を緩めることなく、今度は巨大な拳を降らせてきた。

 

「ガオガエン、上から来るぞ。ニトロチャージで躱して衝撃波を使って距離を取れ」

 

 あれを受け止めようものなら、確実にガオガエンが戦闘不能になってしまうだろう。技の威力だけでなく、巨大化したことで技自体にも重さが乗り、まともに対峙する方が危険でしかない。

 本当に厄介だな。

 

「もう一度だよ、ダイナックル!」

「ガオガエン!」

 

 三発目の合図が出たところで俺はガオガエンにZリングを見せ付けた。

 そして手早くアクZのポーズを取り、降り注ぐ巨大な拳に負けないくらいのブラックホールを作り出していく。

 

「ブラックホール・イクリプス」

 

 ブラックホールが吸い込み始まると落下してきていた巨大な拳もあっという間に呑み込まれていった。

 うん、実に呆気ない。

 そして、ダイマックスエネルギーが全て放出されたのか、マホイップが元の大きさへと戻っていく。

 

「全く………、ダイナックルを吸い込んじまうとはね………。でもこれで仕掛けは終わりだ。第二ラウンドといこうか」

 

 ………本当に恐ろしいな。

 今のガラルでは切り札とも称されるダイマックスを仕掛けをするためだけに切ってきたってことか?

 確かにマホイップは回復機能を得ているし、ダイナックルの二連発で物理攻撃力が上昇している。

 

「悪いけど、第二ラウンドの前に倒させてもらいますよ」

 

 だが、こっちも知らぬ間にガオガエンのもうかが発動していた。

 ガオガエンのもうかは他のもうか持ちのポケモンに比べて、遥かにパワーがある。

 それが発動した今、マホイップを倒すことはわけないことだろう。

 

「トドメだ、ガオガエン。ブレイズキック」

 

 ダンッとガオガエンが地面を踏み、足元から炎がフィールドへと広がっていく。

 そして、その全ての炎が右足に収束していくと、ガオガエンが走り出した。

 

「マホイップ、ドレインパンチで受け止めな!」

 

 ダダンッと地面を蹴り上げ、両脚を空中で折り畳むと、右脚だけを伸ばしてマホイップへと落下していく。

 対するマホイップは短い腕を伸ばして拳でガオガエンを受け止め、さらにそこから体力を吸収し、自分の糧にしていた。

 

「………ふっ、悪くないね。いいピンクをしているよ」

 

 まあ、それも数秒のことで、最後にはガオガエンが炎を爆発させて加速し、マホイップを婆さんの元へと蹴り飛ばしてしまったが。

 

『マホイップ、戦闘不能! よって勝者、仮面のハチ!!』

 

 審判の判定も下され、ようやくジム戦が終わった。

 強かった、というよりはいやらしかったというのが正しいか。

 お互いにガオガエンとマホイップをボールに戻して、センターサークルまでいくと婆さんが不敵な笑みを浮かべていた。

 怖ぇよ。

 

「合格だよ。知識も技量も読み合いもアタシ好みだった。いや、それ以上だったね。ピンクはまあ………ちょいと種類が違うというのかね。アンタには是非アタシの後継者になって欲しいところだけど、アンタの居場所はここじゃない。バトルしてみてそう感じたよ。アンタたちは既に居場所があるんだろう?」

「………話が分かるようで分かりませんけど、まあ居場所についてはあるってことでいいんでしょうね」

 

 結局のところ、ピンクって何を指した言葉なんだろうか。

 しかも種類が違うってどゆこと?

 ピンクに種類とかあんの?

 そりゃ色でいえばあるだろうけど、多分そういうことじゃないのだろうし。さっぱり分からん。

 

「んじゃまあ、アタシに勝った褒美にこれを持っていきな」

 

 スタッフがトレーを持ってきたので、ありがたくその中身を受け取る。

 これでバッジ五つ目か。

 次はいよいよメロンママンとだな。

 あー………やだなー。

 カブさんやピオニーのおっさんと互角なんだろ?

 絶対疲れること間違いないじゃないか。

 

「それと」

 

 なんて先のことを考えていると急に婆さんの空気が変わった。

 鋭い目付きになり、何かを見通されているようなそんな感覚を覚えてしまう。

 

「最後まで足掻きな。どんな結果になろうともそれまでもそれからも足掻き続けるんだよ。アンタは一人じゃない。居場所があるってんなら、アンタを待ってる存在だっているはずだ。その存在を失わないように足掻き続けるんだよ」

 

 …………この人は一体どこまで俺の今の状況を分かっているというのだろうか。

 核心的なことは言ってないし、ぼやかされているか、あるいは本当に知らずに感覚だけで感じとったのかもしれないが、それにしたって今の俺にはちょっと胸に刺さる言葉だった。

 老婆って本当に恐ろしい。

 

「うす」

 

 無論、諦めるつもりはない。

 そのためだけに今は我慢しているようなものだ。準備期間と言っても差し支えはない。

 俺はいずれ必ずあいつらの元へ帰る。

 それは絶対事項である。

 それを邪魔するというのなら、誰であろうと排除するのみだ。

 

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