混ぜるな危険、クロスオーバー   作:コミッサール

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大変お待たせいたしました。
明けましておめでとう御座います。


第二話 前史 売国無双

幸助は玩具問屋達の訪問を、次から次へと受けていた。

最近の学校教育でお金について教えるせいで、お金のオモチャが売れなくなり不良在庫と化していたのだ。

学校の教材で模造のお金が配られるのに、オモチャを買う人間はいない。

それを原価とほぼ同じ金額とはいえ全部買ってくれたのだ。

御礼を兼ねて、他に何か売れないか営業に来るのも当然である。

古代後漢の人口は今と違い、五千万人位しかいない上に、高額通貨である銀の代替が出来ればいいので、各問屋の在庫を総ざらえする事で必要量を揃えられた。

ただ今後を考えメーカーに一定数の買取りを約束して、このオモチャの製造ラインを残して貰えるように交渉していた。

通貨は消耗品なので、新しく造り続けなければならないからだ。

アフターサービス大事、末永く付き合うコツである。

そのためにも、アラビア数字とその加減乗除の計算法を無償で供与している。

そうしなければ、恋姫世界の誰も通貨の数字が読めないのだから仕方がない。

これにより恋姫世界では、計算が簡単になった事で、以後数学が急速に進化する事になる。

 

さて通貨問題は当座の応急手当てをしただけで、全く問題は解決していない。

銀は有限の希少資源であり、幸助側が漢帝国から購入したい物が見付からない限り、一方的な銀の流出が続き、遠くない将来必ず枯渇してしまう。

新通貨への切り替えは、一時凌ぎの時間稼ぎでしかない。

もちろん幸助はそれを理解していたが、別の問題に忙殺され、後回しにせざるを得なかった。

幸助の会社が大量の銀を売却した事で、密輸を疑った売却先が税関に通報したのだ。

分散して時間を掛けて少しずつ売ればそんな事にはならないのだが、会社の財務状況がそれを許さなかった。

切羽詰まった幸助は非常手段に訴える事にした。

 

取引先のひとつとして付き合いのある在日米軍将校を、掘り出し物があると言って倉庫に誘い込んだのだ。

幸助はその将校、トーマス・アンダーソン少佐を倉庫に迎え入れ、骨董品を見せ解説した。

アンダーソン少佐は、前回来た時まで壁のあった所に広がる煌びやかな部屋と、部屋との境界を警備している甲冑を着た無表情な兵士達が大変気になり、気もそぞろだった。

だが部屋も兵士達も空気のように無視して、幸助は一言も説明しない。

とうとう我慢出来なくなったアンダーソン少佐は口を開いた。

「ヘイ幸助、前来た時は無かったあの部屋はなんだい?

後コスプレしている彼らは君の会社の社員かい?」

「いや、その部屋は取引先の敷地で彼等も取引先の人だから関係無い。

そんな事より君の好きな飛騨の民芸品だがどうだい?」

アンダーソン少佐は、差し出された一刀彫を無視して喚きだした。

「いやそれはおかしいだろ?

だってあんな広い部屋が、こちら側にある筈が無い!

前に見た時、倉庫の壁の向こう側はすぐに道路だった筈だ!

それなのにさっき部屋の奥の扉が開いた時、かなり奥行きのある廊下が見えた!」

「気のせいだよ、アンダーソン君」

「何を言っている?

君だって見ただろう?」

「いいやアンダーソン君、私はそんな物は見ていないが?」

アンダーソン少佐は顔を引きつらせ、荒々しく立ち上がり、外に飛び出していった。

 

息を吐き座り込んだ幸助に、後ろから一人の年若い少女が声を掛けた。

「よろしいのですか?

勧誘まで話がいかずに、お帰りになりましたが?」

「ああ、田豊さんあれでいいんですよ。

もし正直にこの部屋の向こう側は漢帝国だと言っていたら、彼は絶対に信じませんよ。

私の正気を疑うか、彼に私が詐欺を仕掛けようとしていると信じ込むのがオチですな。

だが私が部屋を無視した挙げ句、廊下の存在を否定したので、ボールは彼の方に移ってしまった。

正気を疑われるのは私ではなく、彼になってしまった。

彼は自分が正気だと証明するために、全力で調べて正しい結論に自分でたどり着くでしょう。

人間は人から押し付けられた事は疑うけど、自分で見付けた「真実」には固執して疑いもしないもんです。

今頃倉庫の回りを駆けずり回って、この部屋と廊下の存在が空間的にあり得ないと確認しているところでしょうね」

 

「なるほど・・・人とはそうやって動かすものなのですね。

大変参考になりました

私の悩みを解決する糸口が見付かったようです」

「それは良かったですね。

では今夜から境界の警備を外し、奥に警備ラインを後退させてください。

ナニ部屋の二つか三つも見せてやれば充分です。

空間的にあり得ない部屋が実在しているのをジックリ見て貰ってから、盛大に接待しましょうか♪」

「畏まりました、幸助様。

ところで私は幸助様に教えを乞うために仕えている身で御座います。

どうか真直と真名でお呼び下さいませ」

「うんそれは前にも聞いたけど、そういう事は大人になってからしようね。

もっと自分を大切にしなさいな。

普段書類仕事をしてくれているだけで、充分恩を返して貰ってるから」

田豊は心の中で呟いた。

(ううっ、幸助様はどうやったら動かせるのかしら?

私にこんなにスゴい知識の数々を授けて下さり、返しきれない恩義を頂いているというのに、贈り物はおろか真名さえ受けとって頂けない。

私がまだまだ未熟者だから受けて頂けないという事なんですね?

未熟な私が恨めしい。

幸助様のイケズ)

幸助は田豊に恩義を与えた自覚が無かった。

与えた知識は現代では大した価値の無い常識レベルの物を雑談で洩らしただけでしかない。

だがそうした知識でさえ、古代社会に与える影響は巨大な物だった。

たとえば馬が荷物を引く時の首当て、これが中世に改良された事で奴隷制度を緩やかに崩壊させた。

それまでは、馬の首に直接引き具を着けていたため、馬が引くと首が締まってしまうため、馬は全力を出せず奴隷と同じ程度の引く力しかなかった。

それが肩に力が掛かるように改良されたため、倍の力が出せるようになった。

ほぼコストが同じ奴隷と馬なのに、馬が奴隷の倍の力が出せる。

奴隷の価値は暴落し、馬の価値は急上昇した。

些細に見える知識でも、とんでもない影響を及ぼす事が有るのだ。

幸助は自覚せずに、そうした知識をバラ撒いていた。

そして現代の学校と違い、中世以前の世界では高度な知識の値段はとても高い。

何年も師匠に仕えて、やっと教えて貰えるような物なのだ。

そんな高度な知識を、代価無しにポンポン与えて呉れる幸助への好感度が、爆上げになるのは当然だった。

なのに幸助はなぜ田豊に感謝されるか分からず、見当外れな疑いを抱いていた。

(ウ~ン、真名なんて重たい物押し付けてくるなんて、どう見ても袁家の用意したハニトラ要員だよな?

おまけにいくら美少女でも、これが三國志じゃ袁家で失脚する事が確定している田豊って、なんの罰ゲームだよ!

しっかし、十代前半からこんなハニトラ仕事押し付けられるなんて、田豊さん袁家から余程嫌われているんだな、可哀想に。

袁家からたぶん監視要員も兼ねて押し付けられた以上、追い出す訳にはいかないから敬して遠ざけよう)

お互いの心が読めなかった事は、幸せな事かも知れない。

 

その日の夜、倉庫に忍び寄る二人の人影が有った。

アンダーソン少佐とその妻の特殊部隊隊員だ。

倉庫の鍵をピッキングで開け、中に侵入して煌びやかなエリアに入り込んだ。

細密な彫刻の施された柱や金箔の貼られた扉に目を見張りながら、廊下を通り奥の扉をそっと開けた。

赤外線で人がいないのを確認して、真っ暗な室内に入った瞬間、装飾に偽装されていた投光器が一斉に点灯して侵入者を目つぶしした。

侵入者達は視覚を潰されても、熟練した体術でなおも抵抗したが、飛び込んで来た袁家の武将の、気の力による人間離れした肉体能力と武術の前に意識を刈り取られた。

気の力を振るう武将とは、巨大なヒグマが武術を身に付けて人間並みの知能で暴れるような物なのだから、いかに精鋭の米軍特殊部隊隊員といえど、目が見えない状態でいきなり室内のショートレンジの間合いに飛び込まれては勝てる筈がなかった。

 

アンダーソン少佐は意識を取り戻し呻いた。

「すぐにまた会えて嬉しいよ、アンダーソン君」

アンダーソン少佐の身体は椅子に縛り付けられ、同行してくれた特殊部隊隊員の妻も同じ状態だった。

目の前の幸助は投光器の明かりに目をやられないために掛けたサングラスに、夜間目立たないように選んだ黒の背広姿でソファーに腰掛けていた。

まるでメン・イン・ブラックのような格好だ。

「でも泥棒は感心しないなあ。

そんな事をしなくても、普通に玄関から来てくれれば歓迎したものを、アンダーソン君」

「幸助、ここは何だ?

こんな場所は物理的にあり得ない。

完全に開け放されている倉庫と部屋の境目を1ミリでも越えると衛星からの電波が全く受信出来なくなるなんてどうなっているんだ?」

「うん、それを理解してくれて嬉しいよ♪

でないと説明に一苦労だからねえ。

まあ口で言うより、見て貰った方が早い。

暴れないと約束してくれれば、たっぷり見学させてあげるよ、OKかな?

よし、警備の皆さん、この人達の縄を解いてやってくれ。

それではまだ痛いかもしれないが、我慢して、フォローミー♪」

袁家の屋敷とその外側の市街地まで見せられたアンダーソン少佐達は、ここが古代中国に似た異世界だと納得させられた。

 

後は芋づる式に米軍上官を引き摺り込み、アメリカ政府と話し合いを始めた。

幸助はアメリカ側に有料で異世界への通行権とゲートの観測調査権を与える代わりに、当座の危機を乗りきるため、銀の入荷先を在日米軍の人間からとして貰い、税関の相手を米軍に押し付けた。

無論幸助の身に何か有った場合、国内外の知り合いに預けてあるアンダーソン少佐達の侵入記録と異世界の動画が中国大使館や政府、アメリカのマスコミなどに発送されると釘を刺しておいた。

実際には誰にも預けてないハッタリだが、存在しない物をアメリカ側は見付けて奪う事は出来ない。

通話記録から預け先を探ろうとするだろうが、実際にわざとあちこちの取引先や以前の顧客に百件以上掛けまくっているので、多すぎてどうにもならないだろう。

 

アメリカ側から、なぜ日本政府に話を持ち込まないのか聞かれて、幸助は自嘲気味に嗤った。

「いやあ~、昔から言うじゃないか。

上それを行えば、下それに習うって。

政府が先頭に立って売国しているんだ。

私がやって何が悪い。

政府に渡しても、どうせそのまま中国に直行で渡されるんだ。

だったら少しでもウチの利益になる方を選ぶさ」

アメリカ側は何とも言い難い顔で幸助を見た。

「大体あんた達に言われる筋合いは無いだろう。

日本のバブルの頃のヤラカシで日本を敵と見なして、今も中国と組んで徹底的な日本経済潰しに走っているアメリカさんには言われたく無いよ。

しかしあんた達は、これからどうするんだろうね?

ゲートはここから動かせない。

てことはいずれ、この国毎ゲートも中国様の物になるわけだ。

地球一個分の異世界全てが中国の物になって、手に負えない程デカくなる中国にアメリカさんもひれ伏すのかねえ?

この倉庫を吹っ飛ばしても、ゲートはたぶん消えないし、いやあ~大変、大変。

限られた時間で、ゲートの原理が解明出来るといいねえ。

ま、無理だろうけど。

君達には心から同情申し上げるよ」

毒を吐く幸助に、アメリカ側は誰一人口を開こうとしなかった。

 

(まあこんな事はアメリカ側の上の連中は、私が言わんでも理解しているだろうがな。

これでアメリカ側は日本を捨てられなくなった。

新しく始まるだろう米中新冷戦の最前線に日本はなる訳だ。

かっての西ドイツのように、うまく立ち回りさえすれば、日本は飴をいっぱいしゃぶれるだろうさ。

さあて、これで政府に邪魔されずに大規模貿易が出来る基盤が造れた!

袁家と協議して銀に頼らない貿易開始だ!

手始めは羊毛だな!)

 

 

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