混ぜるな危険、クロスオーバー   作:コミッサール

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二件も頂いた感想パワーで筆が捗りまして完成した第三話です。
御二人には感謝申し上げます。



第三話 前史 交易無双

幸助は当主である袁逢と話し合い、長期計画のため涼州の豪族経由で遊牧民族と渡りを付けた。

袁家の支配地域にアメリカと日本から品種改良された種子と肥料を大量に持ち込み、農業革命をまず起こした。

現代中国で使われている種子を出したので、風土に合わず枯れる事はほとんど無かった。

収穫量は五倍以上に跳ね上がり、それで出来た膨大な余剰農作物を遊牧民族に渡し、代わりに羊毛を大量に手に入れた。

(ちなみに農作物を日本で売らないのは、出所を疑われるのと、アメリカ産穀物と競合してしまうからだ)

それと潰れそうな縫製会社から仕入れた中古の紡績・縫製機械を袁家の屋敷内を改造して設置して工場を作り、動力は幸助の倉庫から電線を伸ばして取った。

工員は漢帝国内の流民をブラック低賃金(三食+寮+子供のお小遣いレベル)で雇用した。

そんな待遇でも流民達は暖かい布団で寝られ、腹一杯食えるだけで大満足していた。

その結果、人件費の凄まじい低さのお蔭で中国産を大幅に下回る価格で服飾製品を日本国内の小売り店に卸す事が出来た。

その売上の利益の分配で手に入れた日本円で、袁家は日本から様々な物品を購入する。

綿花の苗も大量に購入し、植え付けが始まった。

この三角貿易で遊牧民族は小麦や米や醤油の味を覚えて、食を袁家に依存してしまった。

もはや肉うどんやお米の御飯無しの生活には戻れない。

中国を征服して食料を手に入れる事も考えるかも知れないが、平和な交易で充分手に入るので当面可能性は低いだろう。

遊牧民族と袁家の交易の場となった涼州は急速に繁栄して税収は跳ね上がり、袁家は涼州を袁家の生命線と見なして、現地豪族達に官位を与えるよう宮廷工作して懐柔に走った。

これが中央に近い土地だったら、豪族から取り上げて袁家が直接支配する事を考えただろうが、涼州は辺境過ぎて赴任したがる袁家幹部が一人も居なかったため仕方がない。

日本の役人のほとんどが離島勤務を嫌がるような物である。

金と名誉を与えられた涼州豪族達も袁家に深く感謝し、皇帝より袁家の方に忠誠を捧げるようになった。

 

一方袁家はなまじ色々買えるようになったため、あれもこれも欲しくなってしまい、円を貪欲に求めて、その配分で袁家内部で揉め始めた。

派閥が出来、円の分配を差配出来る当主の座を巡り暗闘が始まった。

大人がする事は子供も真似る。

大人がほとんどの円を使ってしまい、子供達にロクに回らないため、袁紹と袁術の間で僅かにしか手に入らない子供用のお菓子やオモチャの奪い合いが、当初発生した。

しかし幼児という物は、大人が考えるよりズルくて機を見るに敏な生き物である。

二人はすぐに、しょっちゅう出入りしている幸助におねだりする事を覚えた。

ご挨拶で菓子折りなんぞ持ってきてしまった幸助の自業自得である。

幼稚園児ぐらいの年の袁紹は上目遣いを覚え、まだ「あ~、う~」しか喋れなかった袁術が最初に覚えた言葉は「こうちゅけ~」で、袁隗さん達は落ち込んでいたが、自業自得であろう。

日本製のお菓子の威力は絶大である。

ちなみに日本製の代わりに現地のお菓子を差し出してもペチされてしまう。

「コレ、チガウ!!」

おチビさんはお怒りである。

幸助の前で喧嘩すると怒られてお菓子を貰えないので、一生懸命仲良くしてみせておねだりする。

幸助は苦笑しながら、これも取引先への接待の一種と割り切り、必ず子供達の人数分のお菓子を用意するようになった。

ウッカリ忘れようなものなら、エライ勢いで猛抗議されるからである。

特に甘い物大好きな袁術は凄まじく、「ウ~!、ウ~!」と涙目で幸助をモミジのようなお手手でポカポカ叩き、取りにいくまで許さなかった。

まあこうしておけば、誰が次の袁家当主になっても良好な関係を保てるだろう。

 

幸助は次の保険として、死別した妻との間に産まれた一人息子の春都を袁紹と袁術の遊び相手として時々連れてくる事にした。

今小学生高学年の春都は幸助が男手一人で育てたため、家事も出来るし年の割に大人びていた。

袁家としても幸助との関係が次代に続くのは大歓迎なので、反対する者は居なかった。

春都は袁術の側付きで春都と同年代の張勲と衝突しながら、遊ぶだけでなく叱るべき点はキッチリ叱り筋を曲げなかった。

普段から生活面で父ちゃんを叱っているだけに叱り慣れており、うまく飴と鞭を使い分けてバランスを取っていた。

色々と日本のオモチャを持ってきてくれるので、春都お兄ちゃんが日曜日毎に来てくれるのを二人は待ち望むようになった。

春都も慕われて悪い気分では無く、二人を妹のように可愛がった。

張勲は袁術を取られたと思って春都が大嫌いになったが、理性では袁術が次期当主になるには春都と仲良くなるのは有利だと理解していた。

これがもっと年上になっていれば、内心どうであれ態度を取り繕えたろうが、いかに後の謀略の天才と言えど、まだ小学生のお年では態度に出るのはやむを得ない。

曲がった事の嫌いな春都と曲がった事が好きな張勲は仲良くなれよう筈も無く、よく喧嘩していた。

 

だが二人の関係を激変させる出来事が起きた。

袁家当主たる袁逢が暗殺されたのだ。

本来清流派の名門である袁家が、通貨や交易などの商業行為に関わるのを堕落と受け止めた儒学の徒の仕業だった。

儒教では商業を卑しい物として教えているため、今で言うなら政治家が麻薬取引に関わっているような目で見られたのだ。

また遊牧民族との交易も、礼を知らぬ蛮族と付き合い、世界の中心たる中華皇帝の権威を貶める物と非難した。

儒家にとり蛮族なぞ、皇帝に跪いて貢ぎ物を捧げ、愚かな蛮族に生まれて申し訳ありませんと詫びるべき存在なのだ。

 

狙われたのは袁逢のみならず、袁紹と袁術もだった。

春都と張勲は必死になって袁紹と袁術を守って逃げた。

だが子供の足では逃げ切れず、転んだ袁術を体で庇った張勲が切られそうになった時、春都が刺客に体当たりして突き飛ばした。

そして春都はその隙に持ってきていた大量の花火セットの袋を篝火の中に放り込んで暴発させた。

刺客は無数に飛び出してきたロケット花火を顔面に喰らい、目をやられてのたうち回った。

刺客がむちゃくちゃに振り回した短刀が春都の額を切り裂いたが、花火の音で駆け付けて来た警備兵に切り捨てられた。

幸い春都の傷は深くなく、米軍の軍医の治療を受け、頭蓋骨で刀が止まっていたため、額に向う傷が少し残っただけで済んだ。

入院した春都に見舞いに訪れた張勲が捲し立てた。

「あなた馬鹿ですか?馬鹿でしょう!馬鹿に決まっています!

なぜ大嫌いな私など庇ったのですか?

私が斬られている間に、袁術様を助けて逃げるべきでしょう?!

そうすれば私を始末出来て、英雄に成れるじゃないですか?!」

「ウルセ~、いくらやな奴だからって女の子を盾にして逃げるなんて出来る訳ないだろ!!

そんな奴英雄でも何でもないわ!

俺に助けられたくないんだったら、ピンチになるんじゃねえよ!」

「ウウウ、貴方こそ怪我してるじゃないですか!

貴方が斬られた時、私がどんな気持ちになったと思ってるんですか?!

そっちこそピンチになるんじゃありませんよ!」

「「ふん!!」」

二人は同時にソッポを向いて、看護士が青筋立てて睨んでいるのに気付いた。

「「あなた(おまえ)のせいで」」

ハモった二人に看護士の雷が落ちた。

「痴話喧嘩は他所でやらんかい!!」

 

退院後、意地になった春都は袁家から武術の師匠をつけて貰い、数少ない男で気の力に目覚めた人間となった。

今日も同門の顔良や文醜と鍛練に励み、張勲は時々顔を出して、全員に差し入れしていた。

この事件は皇帝の怒りを買い、清流派に対する粛清「党錮の禁」が行われ、袁家に対する悪評が流布される事になる。

袁隗は袁家の立て直しに励み、外に敵がいる事で欲で分裂しかけていた袁家は団結を強めた。

 

一刀君オデュセイア物語

北郷一刀は三人組のチンピラに身ぐるみ剥がれ、お情けで与えられたボロ服を纏い、どこへ行ったらいいかも分からず、田舎道の脇で座り込んでいた。

腹が減ってフラフラになった時、聞き覚えのある音が聞こえてきた。

自動車の音に跳ね上がるように立ち上がり、そちらを向いた一刀の目に米軍のハンビーハマーの車列が見えた。

駆け出そうとした一刀の耳に車列に纏わりついている子供達の声が聞こえてくる。

「ギブミー、チョコレート!

おっちゃんギブミーや!!」

一刀はまた座り込んで地面に頭を打ち付け始めた。

「あり得ない!あり得ない!こんな不条理な世界なんてあり得ない!

かような事があり得ようはずが無い!夢じゃ!夢じゃ!夢でござる!」

その後の一刀君の運命は知らない。




羊毛と小麦を交換して蛮族に備える。
なんか前半テーブルゲーム「カタンの開拓」みたいな話になっていたカタン。
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