混ぜるな危険、クロスオーバー   作:コミッサール

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やっとまどマギキャラの登場です。


第五話 神農無双

邪魔者を排除したアメリカは恋姫世界への進出を開始した。

オリバー・ペリー海軍准将の指揮の元、海軍、空軍、海兵隊合同の調査部隊が編成された。

陸軍がいないのは、元々ほとんど日本本土に駐留しておらず、偵察段階ではあまり必要性が薄いからだ。

袁家と交渉し、多額の円と引き換えに調査部隊の袁家支配地域に限っての調査を認めさせた。

強引な調査のやり方であちこちで摩擦を起こしながら、調査が始まった。

 

幸助はとうとう田豊と再婚して、新婚旅行からお土産持って帰った来た。

だが貴族出身である田豊は当然家事など出来ず、自信満々調理を手伝おうとして台所中を割れた皿と洗剤まみれにして、春都から台所出入り禁止を言い渡された。

だから春都が家事をやる点は変わらない。

面倒を見る人数が増えた分負担も増えたが、春都は飄々としていた。

田豊さんが手伝ってくれる場合の胃の痛みよりマシである。

 

春都は日本で買い物に出掛けたある雨の日の土曜日、泥棒を見た。

果物屋の店頭からリンゴを盗んで逃げようとした年下の女の子だった。

そのガリガリに痩せた身体と餓えた眼を、以前恋姫世界でも見た事があった。

幸助と袁家が導入した農業革命でほとんどいなくなったが、それ以前はいっぱいいた。

その時泥まみれの食べ物を奪い合う子供達を見た後、父親に聞かされた言葉を春都は忘れる事はなかった。

「なあ春都、餓えるという事は大変な事なんだ。

父ちゃんはあちこちで何度も見て経験もしたが、本当に餓えると人間はな、残飯でも何でも勝手に食べ物に手が伸びちまうものなんだ。

止めようと思っても、どうしても手が止まらないんだよ。

今父ちゃんと袁家がやっている農業革命が成功すれば、あんな子供達はずいぶん減らせる筈なんだがな」

もしもそうした子供達を見ていなければ、春都はその女の子を捕まえて、これが正義だと得意になっていたかも知れない。

気を使える事と鍛練の成果で春都は目にも止まらぬ速さで動き、女の子の手のリンゴをヒョイッと奪い取った。

「おじさん、これ五つ下さい」

ガタガタ震えている女の子を連れ出し、リンゴを渡して、頭をポンポン叩いて安心させた。

「なあ、俺の家親父もお袋も仕事が忙しくて、俺が家事をほとんどやってるんで大変なんだ。

だから飯出すから手伝ってくれないかな」

だから春都はその女の子を責めるより、家に連れて行き、ハンバーグを作るのを手伝わせて、一緒に食べた。

「おいしい、おいしい」とボロボロ涙を溢すその女の子、佐倉杏子を落ち着かせ、また手伝いに来て欲しいと誘った。

これが大人の誘いだったら杏子も警戒しただろうが、春都は年上とはいえ小学生だった。

食事を恵まれるのでは無く、労働の対価として食事を貰うという形が心理的負担を軽くしたのも大きかった。

杏子は心から感謝し、妹の桃と一緒に毎日訪れ、掃除や洗濯などを手伝い、春都の料理をパクついていた。

袁家で年下の女の子の扱いに慣れていた春都は、良く面倒を見ながらゆっくり事情を聞き出し、幸助に相談した。

 

「沢渡さん、うちの教会に寄付して頂き有り難う御座います。

そのうえ娘達に息子さんが食事まで度々振る舞って頂き、感謝の言葉もありません。

私の説教はどう思われましたか?」

「佐倉さん、貴方のキリスト教の新教義は私には良く理解できます。

私も商社員なんぞやって世界中回ってきたから、発展途上国での紛争や災害などで犠牲になる弱者には心を痛めてきました。

そうした不幸な人々を救いたいという貴方の心の在り方は尊い物です」

「おおっ、沢渡さんわかって頂けますか?!」

「ええ、だが今のこの国では紛争も無く、災害も政府で対処が可能だ。

これでは貴方の言葉は人々の心に届きにくい」

「それは・・・その通りかも知れません」

「そこで貴方の力を必要としている人々の所へ行く気持ちはお有りですか?

実は当社の取引先のある発展途上国が、経済混乱のため心霊治療を売りにする過激な新興宗教が流行りだしているのですよ。

このままでは、遠からずその国は凄惨な内戦に突入して、数え切れない犠牲者が出るでしょう。

だが今なら正しい教えで、新興宗教に対抗する事が出来るかも知れません。

わが社が全面的にバックアップしますので、どうか宗教家としての貴方の御力を貸して頂けませんか?」

「私を必要とする神の子羊がいるのなら、何処へでも行きましょう!

しかし私は外国語は英語とラテン語ぐらいしか出来ませんが、言葉は通じるのでしょうか?

そこは何という国なのですか?」

 

「細かい事は事務所に資料が有りますので、来ていただければご覧に入れる事が出来ます。

日本ではあまり知られていない国なので」

倉庫に連れてこられた佐倉神父は呆然としていたが、正気に返ると漢帝国の資料を見ながら幸助の説明を聞き、太平道と対決する決意を固めた。

何せ黄巾の乱から始まる動乱で中国の総人口は一説には半減したとまで言われているのだ。

つまり二千五百万人が犠牲になった計算になる。

実際には中国の統計はいい加減なので、そこまでは出ていないだろうが、凄まじい犠牲が出た事は確かだろう。

その人々を救えるならば、この身がどうなろうと構わない!

佐倉神父は燃え上がった。

袁家の支援の元、字の読めない人々向けに絵やマンガを多用した布教用パンフレットが大量に用意され、集会での炊き出し用食料や支援スタッフ達が準備された。

問題は佐倉神父が武器を持とうとしない事である。

布教のやり方としては大正解だが、太平道や反発する者に命を狙われたら殺されてしまう。

だが幸助としては仕事を終えないうちに死なれては困るので、護衛を付ける事にした。

ちょうどやって来た「行儀見習い」で涼州から送られてきた集団の中から使えそうな豪族の子弟に頼み、武将として見込みのありそうな少女を廻して貰う事を頼み込んだ。

現役武将は付けると完全に御上の紐付きと思われてしまい、肝心の布教に差し障りが出るので使えないからだ。

豪族側は家の跡継ぎとしての教育に差し障りが出ると当初難色を示したが、ちょうど差し出しても問題の無い子供がいる事を思い出した。

 

遊牧民族の血を引くその少女なら、どの家の跡取りでも無いので問題無い。

呂布という名の少女は佐倉一家に影のように付き従い守ろうとしたが、佐倉姉妹はそれを許さなかった。

遊び相手が来たとばかりに、杏子は自分も父親を守りたいと武術の教えをねだり、桃はおままごとの相手をねだった。

佐倉神父が苦笑して、姉妹を宥めなければならないほど構い倒した。

いつしか呂布は完全に佐倉家の一員になっていた。

佐倉神父は正式に呂布を養子にして、佐倉恋子という日本名を与えた。

三人は桃の木の下で、春都から餞別に貰ったとっときのチョコを食べて、姉妹になるという誓いを立てた。

「ウソついたら針千本飲~ます」

という何とも締まらない誓いの言葉だったが。

三姉妹はいつでも一緒。

恋子の教えを受けて気に目覚めると、杏子は爆発的に強くなり、何でもお姉ちゃんの真似したがるお年頃の桃がそれに続いた。

佐倉神父の炊き出し用食料や銭を狙った賊や太平道の信者の襲撃も三姉妹が力を合わせて弾き返した。

忍び寄って来た敵は恋子の飼っている動物達に匂いや音で気付かれて、ぶちのめされた。

 

佐倉神父の教団は妨害を跳ね除け、順調に大きくなっていった。

音楽を流して注意を惹き付け、炊き出しで人を集め、説教する時佐倉神父を投光器で照らし出し、スピーカーを使い大勢に言葉を届けた。

いかにお互い助け合って生きるべきかの説教のみならず、日本から持ち込んだ新しい種子や農具を配り、農業指導と医療をセットで行った。

もちろん佐倉神父は農業には詳しく無いので、袁家の農業革命に携わったスタッフ達を同行させている。

佐倉神父が通った跡は翌年生産高が跳ね上がり、噂が噂を呼び説教には凄まじい数の農民が集まって来るようになった。

ただ化学肥料は配っていないので、袁家の収穫高には及ばないが、それでも三倍にはなった。

いまでは佐倉神父は神農の再来と呼ばれるようになり、農民達から崇拝されていた。

地方の貴族の中には佐倉神父の身柄を押さえて独占しようと考える者もいたが、袁家の保護のお墨付きを見せられては、手が出せなかった。

 

食料が満ち溢れ、民からの反乱は起きないだろうが、食料価格が更に下落したため、地方貴族達の財政は改善せず豊作貧乏に苦しんでいた。

一部の目鼻の鋭いうまく立ち回った地方貴族(司馬家、曹家等)以外の不満は、マグマのように水面下で高まりつつあった。

三年と経たず、太平道は信者を奪われ小さなカルト集団に成り果てた。

太平道が黒幕として張三姉妹を支援しなければ、いかに太平要術の書があっても黄巾の乱は、宗教戦争ではない単なるファンの暴動で終わるだろう。

後半は神農教団が大拡張したため佐倉神父が前面に出る必要が無くなった。

護衛がいらなくなったので、三姉妹は沢渡家に間借りして日本の学校に復学した。

再会した春都に、完全に胃袋を掴まれていた佐倉三姉妹は歓声を上げた。

「「「ただいま!春兄♡」」」

「お帰り!御飯用意出来てるよ♪」

恋子については米軍の手を借り、アメリカからの養子として誤魔化して戸籍を手に入れた。

勉強のブランクは布教の間も教科書を持って行って自習し、わからない所は長期休みに布教の場所まで泊まり掛けで来てくれた春都に教えて貰っていたので、何とか着いていけそうだった。

恋子には残り二人が教えていた。

 

ある晩トイレに起きた桃は寝室に戻ろうとして、ふと窓のカーテンの隙間からナニか動物のような物が、家の中を覗いているのに気付いた。

恋子のペット達との触れ合いで動物が大好きになっていた桃は笑顔で窓に近付き、凍り付いた。

ソコにいたモノは桃の知らないナニかだった。

猫ともフェレットとも違う異様な耳と赤いウサギのような目、ソレは喋った。

「やっと見付けたよ。

お腹いっぱい食べさせてあげるから、ボクと契約して・・・ア~ア、逃げちゃったよ。

腹ペコになるようにしてやった筈なのに、おかしいな?

せっかく因果律に干渉して、世界中の人間が父親の言葉に反発するようにしたというのに、一家全員の反応が突然消えてしまったなんて、訳がわからないよ?

因果律操作の分、危うく大赤字になる所だった。

まあ見付けたからには、また願いを叶えなければ生きていけないようにすればいいだけだし、気長にいこう。

それに有望な候補者が一人増えてたし、黒字に出来るね♪

終わり良ければ全て良し♪」

桃はその口を動かさず喋る不気味なナニかが怖くてたまらず、春都の布団に潜り込んで一晩中しがみついていた。

翌朝春都や杏子に話したが、悪い夢を見たと思われただけだった。 

 

一刀君オディセイア物語

米軍の車列に保護された一刀君は、基地に連れて行かれた。

だが日本人だと言っても証拠が無いため信じて貰えず、念のため日本への問い合わせの返事が来るまで拘束されていた。

それでも飯を食わせて貰えて、やっと現実に帰って来れたと生き返った心地だった。

だが現実は非情である。

尋問のため部屋から連れ出された時、ウーウーとサイレンが鳴り響き警報が発令された。

「ジョーイトウの襲撃だ!」

「近くに飛び込まれると殺られるぞ!

距離を取って火力で潰せえ!」

訳がわからず狼狽える一刀の目に、窓の向こう側にいたM1エイブラムス戦車の車体が宙に高々と跳ね上げられたのが見えた。

「はいい??」

「ヴィランがいるぞ、退避しろ!」

落下してきた戦車が壁に大穴を開け、穴から敵が侵入して来た。

通路を射撃しながら米軍は後退したが、浴びせかけた弾は侵入者の大剣で悉くキンキンと弾き返され、ジリジリと押し込まれて行く。

重火器を持ち込もうにも、通路は退避する米兵でいっぱいで不可能だった。

 

その時米兵の後ろ側から通路の天井を逆さに走って来る人影があった。

全身黒づくめの格好でサングラスを掛けた黒髪の女性だ。

走りながら両手に一丁ずつ持った、やたら巨大な専用拳銃から重機関銃用50口径弾をぶっ放しながら突入する。

大剣とガンカタで殺り合い一歩も引かない。

ピンチを救われた米兵達が熱狂して叫ぶ。

「USA!USA!USA!!」

「おのれ、夷狄め!尊皇攘夷!」

気と武術を身に付けたアンダーソン少佐の奥さんの特殊部隊隊員と、武将崩れのテロリストの死闘を他所に一刀は逃げ出した。

「こんなの俺の知ってる米軍と違う!

こんな人外魔境にいたら命が幾つ有っても足らんわ!

マトモに見えても、やっぱりここも不条理な世界だったよ!

畜生、ここはどこじゃ?!

どうやったらマトモな世界に帰れるんだよ?

誰でもいいから助けてくれえ!!」

??「困っている人は助けてあげるのだ!

ついてくるのだ!」

「あ?!こ、子供?!」

その後の一刀君の運命は知らない。

なお、そのまま逃げずに残っていれば、日本に帰れた模様。




佐倉三姉妹は全員赤毛に成りましたので、お似合いだと思います。
杏子の戦術センスに呂布の武術、その両方を見て育つ桃、三姉妹全員化物みたいに強くなるでしょう。
杏子さん恋姫世界に入れても全然違和感がない。
追伸 尊皇攘夷は元々中国の言葉です。

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