魔法少女まどか☆マギカ [新編]救済の物語(完結) 作:曇天紫苑
何かが砕けて弾け飛ぶ様な音が聞こえ、遅れて鈍い衝撃音が響く。
ケンナの声で、目が覚めた。濃い霧の様だった頭の中に巨大な光が差し込み、意識がはっきりする。どうやら、私は生きている様だ。
ワルプルギスの夜は、私を殺す事に失敗したらしい。いや、きっとケンナが助けてくれたんだ。お礼を言わなきゃいけない。
振り向いて、彼女の居る場所を見る。
「ありがとう、ケ……あ……」
ケンナは、倒れ伏していた。彼女の側に有る壁は大きな陥没が出来ていて、酷い惨状になっている。血が一滴も出ていないのが、返って残酷な光景に見えた。
何が起こったのか。考えるまでもない。すぐ近くで聞こえたケンナの声、私への攻撃に失敗したワルプルギスの夜。耳を閉じたくなる様な酷い音。その三つを考えれば、自ずと答えは出る。
また、私は彼女に守られた。
「ケンナ! ……まどかぁっ!」
理性が吹き飛び、私は慌ててケンナの元へ駆け寄った。倒れて動かなくなる姿は痛々しく、それだけで恐怖の余り私の心臓が止まりそうになる。
無事だろうか。私なんかの為に、彼女を失うなんて、彼女を死なせるなんて、絶対に耐えられない。
「しっかりして、まどか!!」
力無く倒れるまどかを起こす。彼女の顔は煤まみれになっていて、沢山の擦り傷が有った。綺麗な顔は薄汚れていて、でも、血は一つも出ていない。
回復魔法なんて殆ど使えないけど、そんな事は言っていられない。杏子達が必死でワルプルギスの夜を止めようと戦っている以上、彼女達の手は借りられないのだ。
何としてでも、直さなきゃいけない。もう一度彼女の顔を見て、私は、有る事に気づいた。
ケンナの顔に、亀裂が入っている。彼女の顔を形作っている物は、まるで仮面で、作り物の気配が酷く強かった。
衝動的に、私はその顔へ手を触れた。すると、そこから皮が落ちていき、顔の半分が崩れる。
それを見た私は、まさしく絶句した。
予想は出来ていたのに、圧倒的な現実は私の呼吸さえも止めさせる。その奥から出てきた顔立ちも、リボンは付けられていないけど、桃色の髪も。ただ、瞳で捉えるだけで精神が沸騰する。
だって、私がそれを間違える筈が無い。
そこには、まどかの顔が有ったんだ。
「まど……か」
「んっ……あ、ほむらちゃん。大丈夫だった?」
小さく目を開いて、まどかが私を心配してくれる。気づけば、声まで聞き覚えの有る可愛らしい物へと変わっていた。環之小鳥ケンナは居なくなり、鹿目まどかが現れたのだ。
気遣いと優しさに胸を暖かくしながらも、私は彼女の怪我を思い出して、顔が青ざめるのを自覚する。
「だ……大丈夫なの!? ごめんなさいっ、ごめんなさいっ! 私が弱かったばっかりに、まどかに怪我をさせるなんて!」
「良いって。もう、心配し過ぎだよ、ほむらちゃーん。えへ」
「大丈夫、なのね。良かった……」
彼女の無事を知るだけで喜びを覚え、抱き締めてしまう。まどかはくすぐったそうに笑って、私に頬ずりをしてくれた。
「えへへ……やっぱり、誤魔化せなかったね。バレバレだった?」
「ええ……思えば、名前を聞いた時点で理解しておくべきだったわ」
ワルプルギスの夜なんかどうでも良くなり、私は自分の間抜けさに呆れ返った。
『WANOKOTORI KENNA』
アナグラムと見て考えれば、
『ENKAN NO KOTOWARI』
「こんな簡単な事、一ヶ月も気づかなかったなんて……」
他の誰がその名前を名乗ったとしても、私はきっと驚く事は有っても、ここまで動揺はしなかった。円環の理は、魔法少女の間で広がるおとぎ話の様な物だ。それを意識した偽名を使う者だって居る筈だから。
でも、彼女は、『環之小鳥ケンナ』と名乗った少女は、明らかに、隠す気が無いんじゃないかと思ってしまうくらいに、まどか以外の何者でも無かった。
環の小鳥という、円環をイメージした名字、その名字を『演歌のタイトルだから』と言って好む所も含めて、明らかにまどかだ。まどか過ぎて怪しいくらいに。
「早く名乗ってくれれば……」
「その話は、後でね?」
まどかが私の唇へ指を置いて、悪戯っぽく口元を崩す。怪我なんて感じさせない、まるで問題の無い姿である。それを見るだけで、歓喜に身体が震え狂う。
でも、先ずはワルプルギスの夜を倒してからだ。私達が後方でじっとしていた為か、微妙に不満げなさやかが声を上げた。
「ケンナっ……いや、まどか! いける!?」
「うん! 今、応援を出すね! ほむらちゃんが気づくまでは出来なかったんだけど、今なら、やれるよ!」
輝かんばかりの笑みの中で、まどかは私の手を握った。
それだけで、何もかも勝った気がする。彼女が側に居てくれさえすれば、私は世界とだって戦えるという確信を抱けた。
私の精神が変化した為か、ワルプルギスの夜の笑い声が小さくなった気がする。
「じゃあお願い!」
「さやかちゃん……うんっ! 出てきて、みんな!」
私の手を引きながら、まどかは自分の周囲を回る黒色へ声をかけた。
すると、その黒色は異様に蠢いて、一本の手と思わしき物が飛び出してくる。白い手の持ち主は黒の中から湧き出る様に身体を浮かべさせ、少女らしき形で姿を見せた。
次々に、少女らしき物体が現れる。全部で十四体の、結婚式で着る様な礼服を纏った少女達だった。
彼女達は手に針を大きくした様な武器を持ち、一列に横並びした状態で、思い思いのポーズを取っている。不気味な目つきと不快な口元が目立つが、私にとっては何故か親しみが持てる。
十四人の全員が柘榴や林檎を食べつつ、自らの主に対する崇拝の様に、まどかの元へ集合した。
「こうまんちきども。ゆるすものか。この感情は、わたしらだけのもの。まどかのためだけのもの」
「このまどか様は。ほむらをたすけてくれる」
「まどか様。その魂は、我等が喜び」
「我らを高みへ引き上げるまどか様を、ほむらとくっつけるのはどうカシラ?」
「葬列は終わったのになんでわたし此処に呼ばれたの? わたしいっとうはやく泣いたのよ? もうまどかの所に帰りたいんだけど?」
「まどか様は、たいへんな役者であらせらわますワ。喜劇役者と競演させましょう」
「……まどか」
「箱の中の輝き、もっともっと眺めていたいワ……だけど、まどか様が望むなら」
「お遊戯のお手伝いが終わったと思ったら、戦いまでしなきゃけないの? 面倒だけど……まどかの為ならしょうがないワネ」
「まどか様にケープを染められて、たまらないワ」
「お空に連れて行かれてなるものか、まどかの役に立てなくなる」
「悪魔様のお話を聞いたの。妖しく輝く悪魔様よ。悪魔様はきっと私たちをまどかの役に立たせてくださるワ」
「いつかお話で聞いたみたく、素敵な戦いにしましょう。かわいいまどかやガンコなほむらと一緒に戦いましょう」
「救済様の悲願の成就こそ、我らが使命」
口々に好きな事を発すると、彼女達は一気に揃って大声で宣言した。
「色から生まれ、空にも在りし。まどかの為の世界こそが、我らの舞台」
言い終えると同時に、彼女達はまどかに向かって彼岸花の花束を投げた。何て物を投げているんだと腹立たしく思ったけど、まどかは嬉しそうだ。
人形めいた十四人の少女達は、まどかの周りを囲んで歩いている。歌の様な物を口にしながら、何処か楽しげな雰囲気を漂わせている。
「ドイツ語……かしら?」
少し離れていた所で、マミの呟きが聞こえた。それを聴いた私は、思わず心の中だけで首を傾げる。
「マミ、貴女には、彼女達の声が聞こえないの……?」
「え?」
マミは私の顔を見て、戸惑っている様だった。
やはり、彼女には少女達の言葉の意味が理解できていない。少し発音がおかしくも、私の耳には歴とした日本語で捉えられているというのに。
一体、この少女達は何者なのか。はっきりとは、分からない。でも、真っ白い服は似合わないな、とだけ思う。
「まどかぁー!」
「おい、何か手が有るならさっさと来い!」
「あはは、ごめんねさやかちゃん!」
さやかと杏子に催促を受けて、まどかは少女達へ目を向ける。すると、少女達は小さな動きで頷いて、全員が針を握り込み、飛び上がった。
魔法少女並みの身体能力で跳躍すると、彼女達は怨敵でも扱う様にワルプルギスの夜へ立ち向かっていく。最初の一人が勢い良く針を突き刺すと、他の者達もそれに続いている。
それを好機と見たのか、杏子が幻覚魔法で自分を増やし、大量の鎖を作って相手の動きを阻害した。ワルプルギスの夜が放っていた絶望感に溢れる力は、既に見られない。
少女達の動きを暫くボウッと眺めていたマミも、加速的に表情を戦士の物へと変えて、杏子達の居る所へ走る。
その場には、私とまどかの二人が残された。
「まどか……」
まどかが隣に居る。ただ、それだけで今までの全てが素敵な奇跡に思えた。どうして彼女が此処に居るか、それすらも殆ど気にならない。
何かの記憶が戻っていく感じだって、興味は無かった。
「えいっ」
「あうっ」
まどかが、ほっぺたを当ててくれる。ちょっと驚いたけど、私はその喜びに任せて、頬を当て返す。お互いに頬ずりをして、全身の強い喜びを発散していく。
まどかは、私に笑いかけてくれた。こんなにも暖かみの有る、しかも私だけを見てくれる笑顔に、私の内心で醜い独占欲が満足を覚えた事を理解した。
「ほむらちゃん、一緒にやろう。ずっとね、ほむらちゃんと一緒に戦いたかったの」
両手を握り、まどかは私に向かって真心を籠めて優しくしてくれる。しかも、私と一緒に戦って欲しいと、言ってくれる。
「二人一緒なら、何だって出来るよ。ほむらちゃんが勝てるって信じてくれたら、きっと勝てる」
まどかの口振りには、疑いなんか無かった。私と一緒なら絶対に勝てると、確信している様ですら有った。
即答したい気分になりつつも、私はワルプルギスの夜の現状を確認する。
少女達は、その針で以て怨念を晴らす様にワルプルギスの夜を殴打している。それに続いて杏子が鎖で縛り上げ、次々に突き、叩いていた。
数々の攻撃に腹を立てたのか、ワルプルギスの夜が再び巨大な風を纏おうとする。そこで、川の中から人魚の魔女が飛び出して、不意打ちで下部から剣を突き刺した。
歯車に亀裂が走り、酷い音がする。かなりの損害を受けている事は明らかだった。
「ほむらちゃん。一緒にっ」
まどかが、自分の持つ弓を私へ伸ばす。背丈はケンナのままなので、彼女は私の知る物よりかなり高い。でも、やっぱりまどかだ。
「ええ……!!」
私もまた、自分の弓をまどかへ伸ばす。二つの弓と腕が交差し、私達の手は重なり合う様に触れ合った。
何処から溢れてくるのかも不明瞭な、膨大過ぎる魔力が自分の身から爆発する。彼岸花の花束が大きな桜の木に変わり、満開の花の中で、私達は弓を構えた。
輝きの中で、私はまどかと肩を並べた。今だけは、対等な気がした。
「ほむらちゃん、怖くない?」
「うん……貴女と一緒なら、どんな事だって平気だよ」
二人で、気持ちを交わし合う。
桃色と黒色と紫色が混ざった巨大な光が空を照らし、生まれた魔法陣から雨の様に矢が降り注いだ。あれだけ頑丈だったワルプルギスの夜が、全くの無抵抗に消し飛んでいく。二人なら勝てると確信した時から、アレはもう敵では無くなっていた。
私とまどか、二人での魔法は、最高の威力で悪夢を振り払ったのだ。
+----
私達の魔法が終わると、もうワルプルギスの夜は欠片も残っていなかった。かなりしぶとい存在だが、流石に、もう再生する事も無いだろう。
「やった! やったよ! ほむらちゃん!」
感極まったまどかが、私に抱きついてくる。それは、私が人生で最初に魔女を倒した時の事を想像させる、とても幸せな暖かみだった。
私は暫くの間、現実が飲み込めなかった。ワルプルギスの夜を、倒せた。まどかを幾度も殺した呪わしい敵を、まどかを契約へ追い込む存在を、遂に、倒せたんだ。
自分でも信じられなかった。一度は倒せないと諦めた相手を、撃破する事が出来たなんて。
「や、った……?」
「うん、やったんだよ! おめでとう、ほむらちゃん!」
抱きついたまま、まどかは現実を教え込む様に腕の力を強め、頭を撫でてくれる。祝いの言葉は胸の鼓動を高め、少しずつ喜びを伝えてくれる。
マミ達は空気を読んだのか、少し離れた所から私達を見守ってくれた。十四体の人形達は拍手喝采を送ってきて、人魚の魔女は、自らの音楽隊に祝福のテーマを奏でさせる。
「本当に、おめでとう」
まどかは、私の胸の中にすっぽり収まった。体格が全然違うのに、と思った所で、彼女が本来のまどかの姿に戻っている事に気づく。
誰も疑問に思っている素振りを見せない所を考えると、彼女は私以外の存在に真の姿を晒した訳ではない様だ。自分が特別扱いされるのは、凄く嬉しい。
「本当に、貴女はまどかなのね?」
「環之小鳥ケンナだよ、今はね」
まだ、言い張る気の様だ。そんな事を言った所で姿がまどかなのだから、何を言ったって無駄なのに。
言い繕おうとする姿を微笑ましい物として捉えつつも、私はかねてからの疑問を問い正そうと思った。ワルプルギスの夜が終わってから尋ねようとしていたんだ、アレを倒した実感を得る意味でも、聞きたい。
「ねえ、どうして家の場所を教えてくれなかったの?」
ちょっと返事に困ったのか、まどかは苦笑を漏らす。
「あはは……まどかじゃない私には、家が無かったから。普段は、私の魔法で作った場所に居たの」
「そうと知ってれば、私の家に住んで貰う所だったのに」
「ん、そうだねー……確かに、そうかも」
そんな事には気づかなかった、そう言わんばかりにまどかは自分の髪を掻き、照れる様に顔を赤く染めている。
分かっていた。けど、ケンナの姿ではなく、まどかの姿で私の側に居てくれると、それはもう喜び以上の物を与えてくれる。
腕の中に居る状態のまま、まどかは私と目を合わせた。腰を落とし気味の姿勢からの上目遣いが、私を串刺しにしている。
まどかになら標本にだってされても良い。そんな風に思えた。そして、まだ私には、まどかにしてあげられる事が有るんだ。
こんなに、嬉しい事は無い。
「えへへ。明日からも私をよろしくねっ! ワルプルギスの夜も終わったんだし、これからは、ずっと一緒だよ!」
「ええ……そうね……」
そして、私は。
「本当に、良かったぁっ」
全てを、決断した。
ぎゅぅ、っと。まどかを抱き締める。痛くない程度に、でも、逃げられない様に。
「まぁーどぉかっ」
自分が出せる声の中で、一番に妖しく一番に艶やかな物を引っ張り出し、まどかの名前を呼ぶ。一気にソウルジェムが濁り、世界を侵し尽くさんばかりに拡散した。
私がやるべき事は、迷うまでも無い。
観測出来るなら干渉出来る、干渉出来るなら制御だって。誰が言ったのかも思い出せないが、この言葉は、確かに私の背を押した。
そして今、私の腕の中にはまどかが居るんだ。何も分かっていない様子で目に疑問を浮かべているまどかが。こんな絶好の機会に動けないなら、私は暁美ほむらじゃない。
「ふぇ?」
「ふふ、貴女って……凄く分かりやすくて、ああ、だから大好きよ?」
目の前の存在が、その名が示す通りに円環の理だとするならば。本人の言う様に、あくまで『ケンナ』であって『まどか』ではないなら。
家族と一緒に住む事も出来ずに、一人ぼっちで魔法の中に住んでいたならば。私は、あの場所で思い知った自分の責任を、罪を、まどか自身が気づかせてくれた全てを、果たさなければならない。
「まどか、本当にありがとう……こんなに無防備に、私へ近づいてくれて」
抱き締める力を、また痛くない程度に強める。
まどかは、まだ何の反応も見せていない。ただ、私を見ているだけだ。慌てる素振りすら見せない所が不安だったけど、だから止めるなど有り得ない。
私のソウルジェムは、恐ろしい色に濁っていた。いや、もうそれはソウルジェムですら無い様に思えた。世界すら飲み込み、宇宙すら利用し、まどかを閉じ込める箱に見えた。
まどかを、まどかを。まどかを、捕まえる。
もう二度と離さない。まどかの手足を拘束し、目隠しをして、縛り付けてでも……私は、まどかに罵られてでも、まどかに悲鳴をあげられても、構わない。
私の心が潰れるくらいで、まどかをこの世界に戻してあげられるなら、本望だ。
だから、私はまどかを探した。環之小鳥ケンナという存在の中に居るであろう、まどかの人としての記録を。他でもない私ならば出来る、そういう確信が有った。
「……ほむらちゃん」
まどかが、私の名前を呼んでいる。悲しげに、あるいは哀れむ様に。
そんな顔をさせた事は、もう気にしなかった。私はただ必死で、まどかの存在を探り。
「――無駄だよ」
まどかの、やけに感情が抑えられた声が聞こえた瞬間。
私は、腕の中に居たまどかを突き飛ばしていた。
「わっ……おっとと」
たたらを踏んだまどかは、何とか倒れずに姿勢を正している。でも、私にはその姿を見て辛く思う余裕すら、謝ろうという気力さえ残っていなかった。
干渉した力を、弾き返された。いや、これは違う。
「あ、あなたはっ……誰……!?」
私は、まどかに干渉を仕掛けたのに。そうだ、その中には。まどかが、無かった。
彼女の中には、『円環の理になる前のまどか』が居なかった。どれだけ探しても、見つけようと必死になっても、見つからなかった。
彼女の中は確かに『まどか』だった。まどかをまどかとするべき、記録の全てが有った。なのに、円環の理となった鹿目まどかの記録は、一つも無い。
無かったんだ。
「……秘密が、バレちゃったね」
少し離れた所で、まどかはほんわかと笑っている。その笑顔が、何だか夢の中で見た慄然たる邪悪に感じ取れて、私は混乱の中で震えた。
「クラスのみんなには、内緒だよっ?」
聞き覚えの有る言葉を受けて、私の混乱は頂点に達した。
どういう事だ、と思いつつも、私の頭は今も蠢き続ける何かを、赤色のリボンで縛られた物を解こうと奮闘する。そこに、彼女の正体が有る気がして。
その中であっても、まどかは優しく暖かく慈悲深い表情を見せて、この空間を覆っていた黒色を自分の元へ寄せる。
圧倒的な黒を見た私は、遂に、強烈なデジャヴの正体に思い至った。何故、今まで気づけなかったのか。恐らく、私の心が理解を拒絶してしまったんだろう。その姿は、まどかのあの姿は本当に辛くて、二度と、見たくなかったから。
黒色は山の様な数の糸になり、それらが連なる事で手に見える物を作り出す。その手は天へと伸ばされていて、その手の間から生まれた巨大な黒い球体は視界に入れただけで呪わしく、見ているだけで心が痛い。
それを、私は見た事が有る。見た記憶が有る。幾度の繰り返しの中で、絶対に見たくなかった、苦しい姿。四度目の時ですら、地球を十日で滅ぼすと言われた、その恐るべき力。
それを、私は知っているのだ。
「救済の……魔女……!!」
私に名前を呼ばれて、まどかは、ケンナは、救済の魔女が、笑う。
まどかと何の違いも無い、最良の表情。それを見た私は、頭の痛みなど気にもならず。
「ほむらちゃん、覚えてないの?」
「何を……」
「貴女はね。円環の理に、裂き返されたんだよ?」
決定的な一言。救済の魔女という、限りなくまどかに近い存在からの言葉によって。
私は、やっと思い出した。
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『こうまんちきども~』
BD限定版収録の設定に記載されていたクララドールズの台詞の改変です。