魔法少女まどか☆マギカ [新編]救済の物語(完結)   作:曇天紫苑

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『The most merciful thing in the world, I think, is the inability of the human mind to correlate all its contents』

HPL『Call of Cthulhu』序文より。




エピローグ 救済の概念

「おい!」

 

 身体を揺さぶられる感じがする。無理矢理、叩き起こされている気分だ。もう少し眠らせていて欲しいのに。そう思い、朦朧とした思考の中で、若干の不快感を覚える。

 でも、それが杏子の声であると分かった時、私は少し目を開いた。予想通り、見慣れた紅の髪が目に飛び込んでくる。起きた私を見て、彼女はあからさまに安堵を浮かべていた。

 

「おい、大丈夫か!?」

「え、ええ」

 

 体を抱き起こされて、頭を押さえる。記憶は、ちゃんと残っていた。環之小鳥ケンナの事だって、ちゃんと心に残っている。彼女が世界を吸い上げ、己の楽園として作り替えた瞬間まで、全てを覚えている。

 ならば、と隣を見てみると、私の隣に、まどかが眠っていた。

 可愛らしい寝息を立てている姿は、確かに確かにまどかだった。彼女に似合う赤いリボンも付いていて、最早疑い様も無い。

 

「急に倒れやがって、ビックリしたぞ。ワルプルギスの夜を倒せたからって、まだ魔獣が全部倒せた訳じゃないんだ、しっかりしろよ」

 

 杏子に心配そうな言葉を向けられるが、返事をする気力は無い。魔獣は彼女の幻覚魔法がさっさと片付けている様なので、別に心配する必要も感じられない。

 敵が魔女ではなかった事に安堵を覚えつつも、酷く空虚な気分でまどかに触れる。この手触りも、暖かみも、彼女が本当のまどかだと知らせてくれた。

 

「鹿目さんは大丈夫? 貴女達、二人で急に気絶したのよ、覚えてない?」

「ええ……全く……」

「そう……でも、魔獣の攻撃でも無い様だし……」

 

 私が未知の攻撃を受けて失神したのだと考えたらしく、マミは真剣に考え込んでいる。

 どうやら、そういう事になったらしい。救済の魔女によって飲み込まれた世界は、特に再編される訳でもなく、そのままの時間軸を保った様子だ。ただし、それはあくまで、私の認識に過ぎないのだろう。救済の魔女が具体的にどんな物なのか、私は一つも知らないのだから。

 その救済の魔女が世界に干渉した結果が、隣で眠っているまどかだ。でも、彼女を見ていると少し不安になった。この世界は、果たして鹿目まどかを受け入れているのだろうか。

 

「ねえ、二人とも……まどかの事、覚えてる?」

「……は? 何、言ってんだよ。ワルプルギスの夜だって、まどかと一緒に戦ったじゃねーか」

「覚えてる、って……勿論よ。此処までずっと一緒に戦ってきたじゃない。暁美さん、どうしちゃったの?」

 

 私の質問が余りにも奇妙だったからか、マミと杏子が私を見る目には、怪しむ意図が見える。

 二人の言動を見て、私は内心で納得を覚えていた。まどかは、違和感無く世界に戻ってきている。

 『環之小鳥ケンナ』という存在が、『鹿目まどか』に上書きされたのだ。ケンナがやってきた事は、全てまどかの物となった。

 まさか……最初からそうするつもりで、彼女は分かりやすく『まどか』としての自分を晒していたのか。自分が消えて、まどかがこの世界に戻った時、何の違和感も無く受け入れられる様に。

 悲壮な覚悟と、決意。それを理解してしまった私は、今すぐにでも死にたくなった。でも、それは許されない。彼女の目一杯の気持ちが、私を死なせない。

 

「……あの、バカっ」

 

 美樹さやかが、酷く乱された様子で呟いていた。余裕ぶっていた態度は無くなって、素の彼女が姿を覗かせている。彼女もまた、円環の理から完全に切り離されたのだろう。親友が自分の存在を捨ててまで行った事を、心底苦しそうに捉えている。

 私も、気持ちは殆ど同じだ。そんなバカな事が有ってたまるか。感謝する気持ちと、また私を置いていった彼女への怒りにも似た物が絡み合い、どういう顔をして良いのかも分からない。

 事情を知らない杏子やマミにとって、それは理解出来ない光景だっただろう。ワルプルギスの夜を倒した祝うべき日に、私やさやかが暗い顔で沈み込んでいるのだ。

 奇妙に思いつつも、このままでは不味いと思ったのだろう。杏子が懐からペットボトルを取り出し、私の方へと持ってくる。

 

「おい、どうしたんだよ。ほら、これでも飲めって。『まどか』のお手製だぞ」

「……ありがとう」

 

 受け取ったペットボトルを見て、私は泣きそうになった。

 杏子が差し出してきたスポーツドリンク、それは、あの子が私達を想って作ってくれた素敵な飲み物なのに。でも、杏子はあの子の事を忘れてしまっていた。あの子は、私とまどかを救済する為に全存在を賭けてくれたのに。

 これは、彼女が存在した証だ。まどかには無く、ケンナには有った特徴である。大事に持っておかなければならない。

 ふと見ると、そのラベルに、まどか……ケンナの直筆と思わしき言葉が書かれていた。

 

 

『忘れないで、貴女は、一人じゃない』

 

 

 きっとそれは、私達全員へ向けられた言葉なんだろう。でも、私の目には、彼女から私へ送られたメッセージにしか見えなかった。

 ダメだ。そんな文章を見せられたら、既に限界の近い私の心が悲鳴をあげてしまう。言葉を堪えようとして、唇を噛む。だけれど、感情は決壊した様に溢れて、膝は崩れ落ち、声は勝手に出てしまう。

 

「どうして……!?」

 

 最初の一言を口にすると、もう止まらなかった。ペットボトルを壊さない様に握りつつ、私は人目も忘れて叫んでいた。

 

「ひとりぼっちで戦い続けるのは嫌だって、きっと泣いちゃうって、言ってたじゃない……! なのに、どうして……どうしてよっ!」

 

 拳を、地面に叩き付ける。肉体強化の一つも無い一撃は、私の手を痛ませるだけで終わる。でも、そんな痛みも忘れて、何度も、何度も道路を殴りつけた。

 豹変した私の態度に、誰もが戸惑っている。誰も止めに入らないのを良い事に、私は一心不乱に拳を振り続ける。

 

「貴女の居ない世界で、どうやって幸せになれって言うの……貴女を犠牲にして、何が幸せよ……何が、悪魔よ……!」

 

 何も出来なかった自分が呪わしかった。まどかに助けられて、まどかに寂しい思いをさせて、まどかを苦しめて。優しいまどかの気持ちに飲まれて、私のやって来た事は、無駄どころか、まどかに対して害悪になっていた。

 許されるなら、此処で壊れてしまいたい。この手に銃が有ったなら、まどかに甘えた自分の心を撃ちたい。自傷行為に意味は無いと分かっていても、止められなかった。

 私は、もう一度道路を殴ろうと拳を振り挙げる。単なる八つ当たりだけど、それがどうした。

 

「結局、私は何も出来なかった……助けられるばっかりで、何も……してあげられなかった!」

「やめてっ!」

 

 腕を掴まれて、動きが止められる。もの凄い力で押さえつけられた為に、拳は振り降ろす事も出来ない。

 私の隙をついて、背後から羽交い締めにしている。その細く可愛らしく格好いい腕や、私の身体を気遣う手つきから、顔を見なくたって、誰なのかはすぐに分かる。

 

「まどかっ!」

「うん……私だよ、ほむらちゃん」

 

 私を押さえる力が緩んだのをきっかけにして、振り返る。そこにはまどかが居て、悲しそうな、今にも泣きそうな表情で笑っている。その雰囲気は、まどかが全ての事情を察している事を現していた。

 傷ついた私の拳を何度か撫でると、まどかは酷く真剣に私の顔を覗き込んだ。鼻先が触れそうな距離まで近づくと、彼女は心から寂しそうにする。

 

「あの子から、ほむらちゃんの想いを受け取って、胸に届いたよ……今まで、ほむらちゃんがどういう気持ちで戦ってきたのか、どうして、円環の理から私を連れ出したのかも。うん、わたし……分かったんだよ、ぜんぶ。だから、分かるの。あの子が、私を此処へ戻した理由も、あの子が、どうなっちゃったのかも」

 

 話している間に感情が高まってきたのか、まどかの目元に涙が浮かぶ。それを拭ってあげるより早く、彼女は私へ抱きついてきた。

 表情を見られたくないのか、私の胸元へ顔を押さえつけている。悲しさと同時に、くすぐったさと、気恥ずかしさを覚えた。

 

「ごめんね……ちょっと、泣いて、いい、かな」

「私の胸で良かったら、幾らでも……良いわよ」

 

 胸元に有るまどかの頭を抱いて、極力優しく撫でる。私だって泣きたかったけど、彼女を受け止める方が優先順位は遙かに高い。

 絶対に傷つけない様に、丁寧に頭を撫でた。その為か、まどかは嗚咽を堪えた声を出し始める。

 

「う……うあっ……ひう、ううっ」

 

 涙が、私の服を濡らす。私にしがみついて、決して離れないと言わんばかりに抱きついてくれる。嬉しいと思うより、胸が痛くて仕方が無かった。

 まどかが泣いているのに、私は何も言ってあげられない。ただ、出来る限り優しくするしか無い。

 

「あの、あのこはっ。すごくっ優しくて、わたしだと思えないくらい、ひぐっ……良い子で……優しい子なのに……ほむらちゃんの事、助けたいって、それだけだったのに……」

「まどか……」

「こんなの、うぅ……あんまりだよ……どうして、そうなっちゃうの……えうっ、私を戻して、あなたが居なくなったら、意味が無いのに……」

 

 涙が止まらないのか、まどかの声は本当に悲痛だった。でも、彼女が泣いている理由を知らない皆は、ただ戸惑うばかりだ。事情を知っているさやかは涙の理由を察している風だけど、今はそっとしておきたい様である。

 ともかく、この手の感情を一番理解出来るのは私だ。大切な人の犠牲で生きていく事も、置いて行かれる事も経験した私には、今のまどかの気持ちが痛いくらい分かるのだから。

 

「……そうね、私も、あんまりだと……思うわ。まどかを、泣かせるなんて」

「うう……」

「まどか、大丈夫。大丈夫よ」

 

 まどかを撫でている内に、私の心は少しずつ落ち着いていった。この子が泣いているのに、私が泣き崩れていられる訳がない。

 緩んだ涙腺を引き締め、感情をコントロールする。

 次第に冷徹に、冷静になっていく。幸い、私はまどかに置いて行かれるのは慣れている。魔法少女になる前も、なった後も、私はあの子の背中を追いかける身だ。

 彼女は、環之小鳥ケンナは何を考えていたのだろう。ただ、まどかを戻せば私が幸せになれる訳ではない。私の気持ちを理解したと言いつつ、そんな事も分かっていなかったのか。

 

(いえ……そんな訳が、無い)

 

 そうだ。彼女が、こうなる事を分かっていない筈が無い。自分の消滅が他者を悲しませるなんて、それくらい想像出来ない子ではない。幾ら自分自身が死人だと思っていても、人間としての感情を持っていない子では無かった。それは、一ヶ月間一緒に居た私がよく知っている。

 なら、どうしてあんな真似をしたのか。いや、多よりも個の幸福を願った者同士、その意図は想像する事が出来た。

 自分に照らし合わせてみる。自分なら、どう考えるか。仮に、自分が消える事でまどかが人間に戻るなら、私は躊躇しないだろう。でも、環之小鳥ケンナと名乗ったまどかは、それで誰かが傷つく事を分かっている。

 その傷つく誰かとは、私であり、まどかだ。どちらもケンナの理解が及ぶ相手だと言える。暁美ほむらを助けつつ、鹿目まどかを人間に戻し、泣かせずに済む方法を考えている筈だ。

 

 頭に付けられた、リボンを撫でた。これは、まどかが私にくれた物ではなく、ケンナが私に付けてくれた物だ。

 『返しに来てね』、という言葉が頭に思い浮かぶ。

 

 それは、つまり。

 

 

 

――ほむらちゃん以外の、誰に分かる筈も無い。

 

 

 

「あ」

 

 理解できた。

 理解できた途端、高笑いをしたくなった。そうか、環之小鳥ケンナとは、鹿目まどかとは。

 遠回しながら、効果の有る真似をしてくれる。憎らしくも喜ばしい気持ちに任せ、私はまどかを抱き締めた。

 

「う、うふ」

 

 駄目だ、我慢出来ずに笑ってしまった。お腹が変になりそうな、粘着質で不気味な声が漏れてしまい、それがおかしくて、笑い声が更に強くなる。

 クスクスケラケラという笑い方は慣れないけど、今の私が出すべき声だと確信が持てる。高らかに、明るく声を出し続けるだけで、もう最高に楽しい。

 

「ふふ、ふふ。あはっ……」

「ほ、ほむらちゃん?」

 

 急に笑い出した私の姿を見た為に、まどかの涙はすっかり止まっている。

 やった。まどかの涙を止められたわ。そんな事を考えつつ、まどかの両頬を掴んだ。ほっぺたの柔らかな感触に喜悦を覚えつつも、顔を思い切り近づける。

 まどかの顔が赤くなり、私から目を逸らそうとした。でも、そうはさせるか。逃がさない様に捕まえて、まどかの奥に有るであろう物へ話しかける。

 

「そう、そういう事ねぇ? ふふ、そういう事なら……聞こえてるんでしょ? ケンナぁ?」

 

 絶対に、聞いている筈だ。

 視線も存在も感じられないけど、私には分かる。きっと、ケンナは私の姿を見ている。声を聞いている。私が幸せに暮らせるかを、監視している。

 聞いてくれるなら、私から話しかけてやる。

 

「悪いけれどね、私は貴女の犠牲でまどかを取り戻したって、幸せにはなれないのよ……まったく、散々好きにやってくれた挙げ句に、私とまどかの心を乱すだけ乱して現世に放り出しておしまい、なんて。私ね、凄く、とっても、怒っているのよぉ?」

 

 煮えて、燃える様に心が熱くなる。自分のどす黒い精神が言葉に現れている様で、気持ちが良かった。

 まどかの涙を拭いて、赤くなった目を愛おしい気持ちで眺める。感情の高ぶりで真っ赤になった頬は暖かく、思わず夢中になってしまいそうだ。

 でも、私が話しかける相手はまどかではない。ケンナだ。

 

「だから、いずれ貴女の所へ行って貴女を連れ帰ってきてやるわぁ。まどかと一緒にね、怒るの。それでっ、お説教をして……それで、その。たくさん、沢山お礼を言わせて欲しいの……」

 

 言葉を投げかけている間に心が落ち着いていき、口調が自然と柔らかくなる。指先が震えて、最後には素直な気持ちが表面に現れていた。

 

「……それが終わったらね、また、みんなで貴女の作ったスポーツドリンクを飲みたいよ」

 

 聞いてくれたかな、ケンナは。

 きっと、大丈夫の筈だ。

 

「さあ、まどか。彼女に会いに行きましょう」

「え?」

「環之小鳥ケンナは、きっと、そうして欲しいと思ってるわ」

 

 私の言葉によって、まどかも意図を理解してくれたのか、目を見開いたかと思うと、納得した様子を見せてくれる。でも、実際に世界の外側に居た為だろうか、それがどれほど難しい事なのか、まどかはよく分かっている様だ。

 

「ほむらちゃん、でも……」

「まどか。大丈夫、私は居なくならないし、貴女を置いて一人で行くつもりも無い。だから、その時は一緒に行きましょう。方法を見つけて、二人で。私達なら、きっとやれる。悪魔と女神が揃えば、きっと出来ない事なんて何も無い」

 

 そうだ。私は、まどかが側に居てくれさえすれば、世界だろうが何だろうが変えられる。ただ横に居るだけで、何でも出来るのだ。

 

「……そうだね」

 

 私が自信満々に告げた為か、少しは安心して貰えた。

 周りの困惑や混乱なんか、目にも入らない。まどかが泣き止んで、立ち上がってくれるだけで十分だ。それ以外の理解なんか要らない。

 まどかが立ち上がったのに合わせて、私もまた膝を持ち上げる。私達はお互いに肩を掴み、決意を分かち合う。

 

「……頑張ろうね、ほむらちゃん」

「ええ、一緒に頑張りましょう?」

「うんっ」

 

 まどかが、笑い顔を見せてくれる。充血した瞳でも、その表情は輝かしい物に見えた。

 ずっと、こんな笑顔を見ていたい。やっと、この懐かしい笑顔と、再び巡り会えたのだから。

 

「暁美さん、どうしたのかしら……」

「頭でも打ったんじゃねえだろうな」

「……ほむら、まどか」

 

 まどか以外の者達は私の考えている事さえ理解していない様だけど、気にはならなかった。まどかにさえ理解して貰えるなら、それ以外の事は別に構わない。

 いや、まどかに理解されなくても、私はやるんだ。この世界を飲み込んだ存在へ、救済の魔女への叛逆を。

 

「私は、まどかの幸福が欲しいの。その為にも、ケンナは連れ帰る。自分自身の幸福だって、全部、望んでやるわ……欲深いと言われようが、知った事じゃない」

 

 愛情が、前の時よりも深くなった事を自覚する。

 もう、私は自分を抑えない。前にこういう気持ちになった時は、ただ一心不乱にまどかを想い続けていた。だけど今は、自分自身すら幸せにしたいと思う。

 だって、それがケンナの幸せなのだから。

 ワガママだとか、分を弁えないとか。そう言われたって止まらない。何故ならば、私は。

 

「だって、私は悪魔なんだもの。欲望の行くまま、神の理に逆らうのは当然の事でしょう?」

 

 堂々と、何の恥じらいもなく、一つの痛みも無く、私は再び悪魔として戦い続ける事を宣言した。

 そして、思い切り大空を見つめる。ワルプルギスの夜が消えた天空は、とっても綺麗だった。

 

 

「私がそこへ行く日まで、精々、待ってなさい」

 

 

――うん、その時を、楽しみに待ってるよ……

 

 

+----

 

 

 ほむらちゃんの魂から響く声は、私の……つまり、環之小鳥ケンナの胸によくよく届いた。その声音はとっても気持ち良くて、本当に、あの子の存在は幸せな物だと感じられる。

 強く、深く余韻に浸った。ほむらちゃんの勇気と、私の事を理解してくれた事への感謝、それに、強い好意が海の様な雄大さを以て、私の中へ沈み込んだ。

 そんな時、側に居たキュゥべえが私に向かって話しかけてくる。世界を飲み込んだ時に、彼もまた私の中に入っている。人間とは関わらない事を決めたとはいえ、私にとっては知り合いだったし、向こうも私を知っていた。

 

「止めなくて良いのかい。暁美ほむらは、君に干渉する気らしいよ」

 

 無謀にも、と付けている気がする。失礼な子だなぁと思うけど、言葉には出さなかった。この子に言ってもしょうがない。それに、ほむらちゃんに干渉されるのは大歓迎だ。

 是非、鹿目まどかと二人で私に会いに来て欲しい。いや、来るべきだ。

 

「……私を追いかける、という目的で二人が仲良くやっていけるなら、それが何よりだと思うよ」

「なるほど、全て君の掌か」

「ううん、ほむらちゃんには気づかれちゃった。やっぱり、中身が似てるんだろうね、私達」

 

 さも残念そうに言ってみたけど、本当はとても喜ばしい。

 私の気持ちが伝わってくれて、嬉しかった。ほむらちゃんと私の考えは全然噛み合って無かったから、頑張った甲斐が有る。

 残念ながら、此処にはキュゥべえしか居ない。私と笑ったり泣いたりしてくれる人は存在しないから、私は一人で笑うしかなかった。寂しいと思う気持ちなんて、とっくに錆びてしまったけれど、幾ら何でも、この気の抜けない生き物が私のパートナーというのは、困る。

 

「君は……いや、『貴方』は、人の言う神なんかでは決して無いね。そんな言葉で表現するべきじゃない」

 

 いや、キュゥべえはまるで平伏するかの様に頭を下げた。その仕草は結構可愛かったので、ちょっと背中を撫でてみる。

 慣れてみると、猫ちゃんより可愛いかな。

 

「それは言い過ぎじゃないかな、キュゥべえ」

「いいや、それはもう、魔法少女を処理する概念などではなく。貴方は真に『救済』という意味を持った、世界を内包するものとなったんだ。システム上で動く現象などではなくて、僕達ですら形式的にすら知り得ない、窮極的な概念。君が宇宙に入ってるんじゃない。宇宙が、君の中に入っているんだ。違うかい、環之小鳥ケンナ」

「えっと、あ、うん。それは間違ってないけど……」

 

 遠回しな言葉で理解が遅れたけど、要するに状況の確認が目的だったみたい。もっとストレートに言ってくれれば、話しやすくて楽なんだけど。

 でも、キュゥべえは私の頭の出来なんか一つも配慮してくれないので、仕方無く、話を聞く方に専念した。

 

「高次元なんて、そんな人知に値する呼び方は出来ない。貴方は最早絶対的な存在だ。熱力学的な法則性を救済の元に都合良く変える事すら可能であるなら、それが明確に自我という物を持ち、世界を操る、という事がそもそも僕の理解する所ではない。ましてや、それが大本はサピエンス種サピエンス亜種の一個体だなんて、それはもう有り得ないとしか言えないんだ」

「……う、うーん」

 

 よく、分からない。いや、何の話をしていたかは知ってるし、分かってるけど、この私という人格は、彼の話を上手く聞いている訳ではなかった。

 呆れる様にキュゥべえが首を振る。何だか馬鹿にされている気分だけど、彼らに私を『どうにか』する気が無い事は分かっているから、腹立たしいとは思わない。

 向こうも私に滅ぼされる可能性は無いと分かっているのか、気にせず、私には理解の難しい話を続けていた。

 

「まあ、貴方という存在をあえて表現するなら、そう……既に感情という領域すら凌駕した純粋なる意思。それによって作り上げられた一種の世界……いや、『宇宙』、とでも呼ばせて貰おうかな」

 

 最後の部分は、それなりに理解できた。

 かつて『救済の魔女』と呼ばれた私は、既に宇宙という概念そのものを吸い上げていた。強制的に世界自体を取り込むなんて、我ながらとんでもない真似をしたと思う。

 だからきっと、これは多分、キュゥべえなりの最大級の賛辞だ。彼らにとって、『宇宙』程に尊敬し、畏怖する相手は居ないだろうから。

 

「本当に、僕達は人類から手を引いて正解だった。誰がこんな恐るべき結末を引き起こす存在に手を出すのかな」

「一つ有るよ」

「僕達の事かな?」

「うん。キュゥべえって、結構抜けてる所が有るよね。特に人の心とかになると、全然って言うか」

「仕方が無いじゃないか。僕達には感情が理解出来ないんだ。感情が関わっている場合、僕達の目はすぐに悪くなる物なんだよ。正直に白状してしまえば、このジャンルに限っては、僕達よりも精神分析学を学んだ人物の方が遙かに優れている」

 

 何だか拗ねた様な物の言い方だ。楽しい気持ちにさせてくれる。

 私とキュゥべえは、普通に話す事が出来ていた。特に嫌う相手ではないので、話すだけなら何の問題も無い。でも、この子達に不用意に情報を与えようとも思わない。その辺りは、油断して良い相手じゃないから。

 

「ところで、一つ聞いても良いかい」

「どうぞ?」

 

 だから、その質問が来た時、私は適当に流そうと決めた。少なくとも、何かしら新しい情報を渡すつもりは無い。

 ただ、日常会話的な物であれば答えようかなと思う。キュゥべえがそんな物を聞いてくるかどうかは、知らないけど……

 

 

 

 

 

 

「何処からが、嘘なんだい?」

 

 

 

 

 

 

 ……ああ。それ。

 

 

「成り行きは此処から見せて貰ったよ。確かに、鹿目まどかは暁美ほむらを理解しようと動いたらしい」

「……」

「でも、不思議な事にね、僕達は暁美ほむらによる世界改変を目撃し、人類から手を引こうとした記憶が有るんだ。悪魔となった暁美ほむらに支配された事や、彼女が作り上げた世界の事だって覚えているよ」

「……」

「君が言う所を信じるなら、暁美ほむらは円環の理に干渉した時、逆に鹿目まどかによって干渉を受け、人間と概念に分けられたそうだね。なら、僕達が見た、あの自らを悪魔と名乗った暁美ほむらの姿は存在しない筈なんだ。いや、そもそも。暁美ほむらは自身を悪魔と表現しない筈だよね? 人間のとしての暁美ほむらには、そんな記憶なんか無かったんだから」

「……」

「この場合、僕が自身の記憶を疑うべきかな。それとも、君の発言を疑うべきかな。君が僕の記憶まで操作していたにしては、少し不自然な点が多すぎる様に思えるよ。『円環の理が暁美ほむらに干渉した』なんて、嘘だったんじゃないかな?」

「……キュゥべえ」

「仮に、君が嘘を暁美ほむらに教えたんだとすれば、記憶操作によって暁美ほむらに『円環の理に裂かれた』という記憶を植え付けていたんだろう。鹿目まどかの象徴となるリボンは自らの物を付けて誤魔化し、悪魔として世界に存在していた暁美ほむらの存在を改変したと考えれば自然だね」

「キュゥべえ」

「つまり、君が語った様な事は実際には発生していない、という事になる。なのに、美樹さやかは君に協力した。だとすると、美樹さやかの記憶もまた、改竄された物だったんだろう。いや、それどころじゃない。君が自らを正当化する為の手段としてそんな真似をしたんだとすれば、あの世界は、君が救済の魔女として現世に戻った時には、既に……」

 

 

「それ以上は、言わない方が良いと思うよ」

 

 

 失礼な事を言ってきた子に、ただ、それだけを告げる。

 すると、キュゥべえは全身の毛を逆立てて、普段から見開かれている瞳を更に大きくした。

 

「……成る程。僕達が触るべきではない情報、という事か。分かったよ、これ以上は聞かない」

「そうして」

 

 物分かりが良い。というか、キュゥべえにとっての私は最早人やそれに類する物ではなく、魔女や概念と呼ばれる存在ですらない。敵対する事は疎か、関係を持つ事すら避けようと思っているんだろう。

 私がそれ以上の会話を打ち切ったのを察してくれたのか、はたまた逃げたいと思ったのか。キュゥべえはそのまま私から背を向けて、宇宙へと戻っていく。止める気は無い。今の私には、過去も未来も全てが同じ物で、私の手の中に在る物。キュゥべえが何を企み、何をやった所で、私には届けない。いや、そもそも、あの子達には私に手を出す気なんか一つも無いし、この場での記憶を残させておく必要も無い。

 

 ……私に手を届かせて良いのは、ほむらちゃんだけなんだ。

 全ては、みんなの救済の為に。その中で、救えなかった、たった一人の存在……ほむらちゃんの望む形で、救済を行う為に。

 ほむらちゃんが喜んでくれるなら、幸せになれるなら、私は嘘くらい幾らでも吐けた。彼女の気持ちを知り、そして答えを出す為ならば、神にも悪魔にも、それ以上にも成る事が出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キュゥべえが居なくなると、そこには私だけが残った。

 静かになったと思う。胸の中に世界を抱きつつ、私は楽しい気分に身を任せた。ほむらちゃんを見る事が出来るだけで、此処は十分に楽園だ。

 私が観測しているほむらちゃんは、ワルプルギスの夜を踏破した一日後の世界を愛おしそうに生きている様で、顔を見ているだけで私まで幸せになれる。彼女に寄り添う鹿目まどかの姿も、胸を暖かくさせてくれた。

 この荒涼とした世界の、外であり内でも有る場所で座る私には、眩しいくらいだ。ああ、見てるだけで幸せ……ほむらちゃんが救われる姿は、何時だって綺麗。

 気分が良くなってきた。立ち上がり、二つの紋章と世界を撫でつつ、その場で足を軽やかに動かす。ああ、楽しい。これは楽しいな、うん。もっと、踊ってみよう。

 前に見たほむらちゃんが踊る姿は凄く綺麗で、鼻歌も可愛いと思った。私は、どうだろう。

 

「まだだめよー♪ ふふふんふー、んふふふふーん……♪」

 

――ほむらちゃん、どうして泣いてるの?

 

――あ、これ? えへへ。私ね、叶えたい願い事を決めたんだ。

 

――え? ……ね、ねえ。ほむらちゃん、どうしたの? 私、何かほむらちゃんに酷い事、しちゃったのかな……

 

――そ、その。ごめん、よく、分からないんだけど……ごめんね。

 

 鼻歌混じりに踊ると、かつての鹿目まどかの記憶が蘇ってくる。救済の魔女として円環の理に回収される前の、私の記憶だ。自分の事だけれど、酷く間違った選択をしたと思う。でも、今は胸が痛まない。私はもう、ほむらちゃんを取り込んでいるんだから。

 ほむらちゃんは私に会いに来るだろう。その時こそ、色々な話をしたり、遊んだり、ありふれた友達付き合いをしたいと思う。

 でも、もしも。もしも、私の存在でほむらちゃんが悩んだり傷ついたりするなら、私の方から会いに行っても良いかな。円環の理と違って、今の自分はとても自由に、自分勝手に振る舞えるから。

 

――ほむらちゃん、どこ? 何処に行っちゃったの?

 

――私ね、楽園を作ったよ。みんな、みんな一緒だよ。だから、ほむらちゃんも来て欲しいな。

 

――あのね、ほむらちゃん。私、貴女を幸せにしたいの。私の楽園に招待したいの、ずっと側に行て欲しいんだ。えへへ、何だか照れちゃうね。ね、ほむらちゃん。

 

――ほむらちゃん?

 

――何処に、行っちゃったの?

 

 あれは泣いたなぁ、と懐かしい記憶を掘り起こし、その嘆きも悲しみも、ちょっとしたステップの一つ一つへ注ぎ込む。最終的には、ほむらちゃんと一緒に踊ったりするのも楽しいかな。

 でもでも、ダンスなんて久しぶりだったからか、疲れてきちゃった。いや、疲れなんて感じる筈は無いんだけど、それはもう、気分の問題かな。

 

「ふぅ……踊るのって疲れるんだねぇ……えへ、ふふっ……♪」

 

 大きく息を吐きつつ、私はほむらちゃんを想う。

 楽しみだなぁ。楽しみだなぁ。

 わざわざ人格を残しておいたお陰で、ほむらちゃんが来てくれる日を待つという素敵な贅沢が行える。ああ、救済の概念になって良かった。数多の世界を吸い上げて本当に良かった。

 ほむらちゃんが会いに来てくれた時の為にも、私は人間っぽい感覚を忘れない様に頑張らないと。

 

 

 でも、もしかしたら。ほむらちゃんは私の敵になって、私を止めに来るかもしれない。

 それでも構わない。私は、みんなが……ほむらちゃんも幸せになれる世界を望みたいから。

 

 

 ほむらちゃんの綺麗な長い黒髪に収まった赤いリボンを見て、私は胸をときめかせた。環之小鳥ケンナでは到底出せなかった、自然な魅力の塊だ。

 

 

 

 

 ……やっぱり、ほむらちゃんの方が似合うよね。

 

 私が幾らやったって、似合わなかったんだもん。

 

 今度会ったら、綺麗な結び方を教えて貰わないといけないかな。良いよね?

 

 

 

 

 ねぇ ほむらちゃん

 

 

 

 また、会おうね

 わたしの、最高の友達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、また会いましょう。まどか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-いつか、永遠にして最高の友達が-

 

-私を迎えに来てくれるのです-

 

 

 

 

 

END




-解説-


『環之小鳥ケンナ』
 今更説明するまでもなく、鹿目まどか(救済の魔女)の仮の姿。名前は円環の理(ENKAN NO KOTOWARI)のアナグラム。
 苗字には「円環という籠の中の小鳥」という意味合いがあります。ケンナは漢字で書くと、便宜上「絹菜」ですが、本当は「献名(私の名前をあなたにあげる)」です。まどかマギカにおける「姓名がどちらも女性名になる」という法則を守ろうと必死になったので、『環之』を抜けば小鳥、うん、女性名だ! とか何とか。
 黒髪ストレートロング、背が高い、綺麗系の顔、など、まどかのコンプレックスと思わしき部分(特に背丈)が悉く無くなった、「わたしのかんがえたさいこうにかっこいいわたし」。それでも人格面がまどかそのものなのは、単に彼女自身に上手い演技が出来なかったのと、『鹿目まどか』と自然に入れ替わる為。
 ただし、性根は救済の魔女なので、人格面がそちらに引っ張られている点は大きく、中学生の女の子か、と言われると「表面的にはそうだけど、中身は化け物まっしぐら」としか応えられない。(特に、書き手は「人と違う思考形態を取る人外の存在が、人と同じ価値観を共有するなんてありえない」と考えていますので)
 かつて救えなかった(時間遡行されてしまったので、結界に閉じ込められなかった)暁美ほむらを救いに現れたので、基本的に「ほむらちゃん>みんな>私」の優先順位。自己犠牲も何も、彼女は既にこの世の存在ではない為、犠牲ではない、と少なくとも本人は考えている。どこまでが嘘で何処までが本当だったのかは、本人と作者しか知らない。
 救済の魔女としての能力が基本性能なので、馬鹿みたいに強くて、エグくて怖い。特殊な形のソウルジェムなどは、まどポのBD特典ディスクから来ています。ええ、特典ディスクだけ買いましたとも。
 あんまりまどか過ぎたので、作者自身台詞で「ケンナ」と呼ぶべき所を「まどか」と書いてしまった事が何回か有ります。

「そう、私はほむらちゃんの為に生き! ほむらちゃんの為に死す! 今更何の躊躇いも無い!」

『暁美ほむら』
 本作の主人公にして、鹿目まどかに引っ張られ続けた人。1stテイク寄りの、人間として壊れた部分の大きな暁美ほむら。ただし、記憶が無いので方向性はリボンほむらが一番近い。自分自身の感情を自覚し、その上で鹿目まどかへの想いに殉じて人生を尽くせる人物。まどかの居ない世界を寂しいとか悲しいとか思う前に、ケンナがあんまりにもまどかだったので、そちらに意識が行っていた。普通の女子中学生が多い中で、彼女はループによる感覚のズレと狂気的な感情によって、普通という位置から完全に脱している。もう人間に戻る事も無いし、考えていない。本作終了後の人生においても、彼女は人間らしい営みなんか放り捨てて、ケンナとの再会、まどかの幸せの為に使うだろう。それがケンナの狙い通りなのも、分かった上で。
 彼女は、インキュベーターを除けば唯一ケンナの嘘に勘付いている。気づいた理由は、『自分ならそうするかもしれない』と考えた為。

「救済の魔女? 円環の理? 笑わせないで」
「私は、貴女を幸せにする怪物よ。貴女を現世に取り戻す怪物よ」
「今から私は、貴女にとっての、鹿目まどかにとっての……悪魔よ」

『鹿目まどか』
 本作の黒幕にして、それとは全く関係の無い、出番が二千文字も無かった子。円環の理という役割からケンナによって引きずり下ろされたが、その能力は依然持ち合わせているので、案外早くケンナとの再会も叶うかもしれない。ただ、彼女自身はあくまで普通の感性を持っているので、ケンナの内心を理解出来ている訳ではなかったりする。

『美樹さやか』
 都合で出番が減ってしまった人。基本的な性格は前作そのまま、人間らしい所のある良い子、というイメージ。ケンナに騙されていた事は知らないままですが、彼女の自己犠牲を嘆くくらいには仲が良かった。もっと杏子との関係を強調したかったんですが、展開上の都合、及び前作で散々やったのでカット。

『佐倉杏子&巴マミ』
 出番がかなり少なかった師弟コンビ。本作の主題が「暁美ほむら」だったので、関係性の低い彼女達の出番は自然と少なくなりました。私自身も戦闘シーンが苦手なので、彼女達を活躍させられませんでしたね。

『百江なぎさ』
 出番が無かった子。基本の五人だけで話を進めたかったのと、尺の都合上で彼女の出番はオールカットしました。初期では「女神と悪魔が創った世界の観測係で、ワルプルギスの夜の発生に気づいてケンナに連絡を入れ、マミに警告をする」という役目が有ったんですが、設定の問題で……

『救済の概念』
 救済そのもの。その性質は救済。救済を救済における救済にして救済から救済へ救済の救済より救済まで救済らしく救済に救済らしく救済で救済する。
 誰もが救済されれば救済が世界を埋め尽くすだろう。

『まだだめよー♪』
 1stテイクのラストシーンの鼻歌をオマージュしたもの。BD限定版持ってない人には意味不明の演出でしかないのですが、それはそれ。

『だって、私は悪魔なんだもの』
 本作が1stテイク版をちょっとだけ採用した一番の理由。この状態から立ち直れる暁美ほむらとなると、こちらの方が似合うかと。ただし、あの口調は割りと本人もまどかを安心させたくて、強がって言っているんですが。



-あとがき- ※相変わらず長いです。
 ドーモ、ドクシャ=サン。何時もニコニコ貴方の隣に這い寄っていない叛逆の物語信者の考察厨にして暁美ほむら大好きな作者です。魔女文字は中途半端にしか読めない重点な。
 本作、根底には「悪魔の行いをどうするべきか」という考えから生まれました。そもそも私は、人としてズレた所の有るひたむきな暁美ほむらが好きで、人間的な魅力と可愛らしさ、その奥に秘められた聖人に等しい魂を持つ鹿目まどかが好きです。だから二人の想いや願いは出来る限り尊重したいし、作品にも反映させたいと思っています。
 思っていますが、まどかマギカという作品の都合上、その二つを両立させた上で両者が生きていける世界、というのは相当難しい物だと思ったので、そこにオリキャラを入れました。最初は本当にオリキャラだったんですが、考えている内に、「救済の魔女だった方が面白い」と思ったのと、まどかの居ない世界だからって、素直にまどかをラストシーンまで登場させない理由は無いと考えました。最終的には、鹿目まどかや暁美ほむらの抱いた想いを文字通り「吸い上げる」形になってしましましたが……
 暁美ほむらは「誰とだってお別れなんかしたくない」という発言を、そのままの意味で受け取った訳ではないと思います。「誰とだってお別れなんかしたくない=まどかがそう思ってるなら、円環の理になんてなるべきじゃなかった」ではないと思うんですよ。だって、それだと悪魔になった後で、例えばまどかに「円環の理になってもさやかちゃん達が居るし、私は全然平気だよ、だからほむらちゃんも一緒に居てくれないかな」と言われたら、その時点で彼女の考えは殆ど全てひっくり返って、確実に負けるじゃないですか。ただまどかに抱擁されて、「私は概念になって幸せだよ」と言われたら、その時点で負けになりますし。
 だから「誰とだってお別れなんかしたくない=まどかは友達や家族を大切にする人=そんな人達からまどかが引き離される事は、例え本人が良くたって、間違ってる=彼女にそんな残酷な選択をさせたのは誰だ?=私だ=だったら私はどんな罪を背負っても」と、なったんじゃないかと考えています。私が矢鱈と「まどかは普通の女の子」と書くのは、新房監督が何度もそう言っているからなんですが、それを手繰って暁美ほむらの心情を察してみると、こうなりました。
 その新房監督の「まどかの願いは中学生の物としては重すぎた」という発言を、掘り下げて考えたいと思っていました。そこで出た結論は「じゃあ中学生じゃなかったらOK」という単純な事で、新房監督自身も「マッチョなオッサンだったらこうは思わなかった(意訳)」と発言しています。そもそもオリキャラを出すきっかけはこの発想から。元々は「中学生のフリをした人外」という設定が根幹に有るオリキャラだった訳です。
 救済とは何なのか、暁美ほむらとは何なのか、という事をずっと考えて、その結果がこれになりました。前作とは違ってそれほど多くの縛りは無いので、まどかを泣かせたりもしましたし、暁美ほむらも相応に辛い思いをしましたが、少なくとも不幸にする気は無かったし、救いになる物を作り出そうと考えました。これから彼女達は時には普通の中学生として一緒に遊んだりご飯食べたりお泊りしたりテストで頭を抱えたりしながら、時には一緒に救済の概念へ干渉する方法を探していく訳で。それは、幸福な事なんじゃないかと。
 そもそも、暁美ほむらという少女にとって「まどかが居て、一緒に過ごす」という状態は、確かに幸せと言えるのですが、それが=彼女の願いという意味にはならなくて、彼女にとっては……特に悪魔ほむらにとっては、まどかを想い戦い続ける事こそ、自分自身で望み求めた幸せの形で、彼女が一番恐れているのは、戦えなくなる事じゃないかなぁ、という気がします。私も含め、普通の人間にとって『幸せ』と『叶えたい願い』は必ずしも一致しないと思うのです。無論、前作とは違う方向性で行きたかった、というのも有るんですが。

 さて、本作一番の特徴、『黒まどか』の話。彼女は、中盤付近を書いている途中までは割りと善良で優しい「まどか」でした。でも、「それじゃ毒気が無さ過ぎる」と思ったのと、「本当にそれで良いのか? あんな良い子を犠牲にさせて良いのか?」と考えた点、何より「叛逆ifアフターより、純粋な叛逆アフターを書きたい」と思ったので、部分的に改訂を加え、最終的にこの形へ落ち着きました。
 前作ラストでも似たような事を書きましたが、「人間の作った世界でしか通用しないルールや感性なんか荒涼たる宇宙の前には何の意味も無いけど、その人間の意思が世界を変えられるなら、その意思には意味が有る」という方向性です。どれだけ邪悪な行いに映ったとしても、それは人間から見ての話。要するに、クトゥルー神話的な感じです。

 環之小鳥ケンナ=まどか、というのは、最初からバレる前提で書いていました。ぶっちゃけ、誰だって気づくでしょう。正体が救済の魔女という点や名前がアナグラムなのも含めて、見る人ならすぐに分かると思います。だから、そこを隠れ蓑にして、彼女の人間から外れた部分や、嘘を隠そうと考えました。QBの「どこからが嘘なのか」という台詞で驚いてくださったなら、幸いなんですが……
 正直、黒まどかを書くのは抵抗がありました。彼女はそういう子じゃないですから、あくまでこれは「救済の魔女」だという前提で、自分自身を誤魔化して書き勧めました。悪魔ほむらを1st仕様で採用したからか、気づけば彼女も方向性の似た、「完成された魔女」という雰囲気を帯びてしまったのですが、鼻歌を歌って踊るまどかはかわいいと思います。ええ。
 救済の魔女というのは、一方的な救済を押し付ける存在だと認識しています。それが独善から来る物ではなく、慈悲という部分がポイントですがそれはともかく、暁美ほむらや鹿目まどかが「そんな幸福は求めてない」と言おうと、彼女は救済の魔女ならぬ救済の概念、止まりません。だからこそ、全てを終わらせられると思いました。最後に人類から手を引いたQBに「貴方」と敬称を付けられるのも、その一環です。
 親友や最高の友達に嘘を吐いて思考を誘導した満天に黒いまどかですが、彼女もちゃんと鹿目まどかとして「みんな」を愛しています。ただ、さやかが杏子に対して心残りを持っていた様に、彼女もまた心残りを晴らしたいと考えているので、行動は自然と暁美ほむらに寄った物となります。ガイドブックを読んだ限りでは、導かれた彼女達は基本的に全知になるそうですね。だったら、暁美ほむらの必死の想いを受け取って、こういう結論に至るまどかが居ても良いじゃないかと思いました。
 ただ、私自身も熱烈な、というか半ば狂信的なファンとして、相当に抵抗が有ったのですが……前作のAKEMI HOMURAは良くも悪くも「突き抜けた暁美ほむら」で、その原動力は原作の彼女と同じだったんですね。だからこそ抵抗は殆ど無かったんですが、本作で「みんなの為ではなく、たった一人のほむらの為に全てを賭けられる」まどか、という不自然な物を書くのは、酷く悩みました。前作でも一応書いた事には書いたんですが、あれって要するに「百合描写」ですからね。本気で、「まどほむ」とか関係無く、そういう方向に至るというのは物凄く違和感が有って。でも、原作らしい「みんなのための」まどかでは、悪魔となった彼女の手は取れないと思います。一方通行の突き抜けた愛情に応えるには、それと同じくらい突き抜けた愛情で受け止めるしかない。それこそ、暁美ほむら以外の全てを捨てて、彼女の愛情と対峙するくらいの覚悟が無いと、どちらにとっても嬉しくない終わり方になるだろうと。それと、暁美ほむらが1stの「モンスター」な仕様なら、彼女もまた「モンスター」で居るべきじゃないかな、なんて思ったのもあります。アレですよ、某蝙蝠男と道化の関係。「お前は私と同じだ」的な。
 そういう色々が有って、最終的に、ケンナは黒くなり、暁美ほむらは1st仕様に近く、完成度の高い悪魔となりました。元々そのつもりだったとはいえ、「ケンナ」というオリキャラもどきとして、「まどか」と切り離して考えたのは、正解だったかなと。

 展開の方は、概ね叛逆の物語に近い物となりました。最初はTV版くらいの尺と展開を想定していたんですが、最終的には映画版、特に叛逆の物語のイメージを通しましたね。やっぱり、私は「まどかマギカ」以上に「叛逆の物語」が好きなんだと思います。
 台詞も色々と意識して近づけているのですが、これに関しては一つ裏設定がございまして、『原作と全く同じ台詞を喋っているのは、その人物が該当する台詞を知っているから』です。ケンナが暁美ほむらの台詞を使うのも、彼女がそれを知っているから、という事です。
 叛逆の物語に不満が有るとすればワルプルギスの夜が影も形も無かった事なので、何とかして彼女を登場させたいと思ったり、五人全員でワルプルギスの夜に挑むというシチュエーションでまどペンを想像したりと、ベースを叛逆の物語にして、色々と付け加えていきました。面白くなっていると嬉しいんですが。私の筆力の限界かもしれません。

 本作は、割と前作の影響が大きいです。AKEMI HOMURA絡みの設定は使っていない、というか彼女達の手は届いていませんが、大部分の話運びや構成は前作で得た経験から出来ています。同一人物が並んで喋ってると口調が違っても書き分けするのは難しかったので、今回は全員一人ずつになりましたし、AKEMI HOMURAの精神性はそのまま環之小鳥ケンナにも受け継がれています。
 実は、AKEMI HOMURAも最終的に登場させる予定でした。本作中で暁美ほむらが何度か感じた視線の主や、視界に捉えた黒い人影の正体は、最初、ケンナや偽街の子供達ではなく、彼女だったんです。でも、それじゃ前作を読んでいないと意味不明だと思って止めました。
 彼女を登場させた場合、彼女のデウス・エクス・マキナによってケンナも救済されて現世に戻り、みんなで笑い合える終わり方になり、QBが広大なる世界の外側に対する畏怖を覚えて人類とは関わらない事を選ぶ、というストーリーでした。前作との繋がりを絶った後も似たような、みんなが幸せになれる「本当の奇跡、有ったよ」的な終わり方をする予定でしたが、それが本当に彼女達を想う事なのか、彼女達とまどかマギカへの敬意と愛情はただ幸せにするだけで満足する物なのか、と考え、この部分は最終的に没にしました。
 それ以外の細かな要素は概ね同じなのですが、致命的に前作と違うとすれば、それは自分の中に科した縛りの内容だと思います。前作は登場人物にとって幸せな世界を作ろうと考えていたのですが、本作は私自身の中のまどかマギカ観を描こうと思っていた為、展開がそちらへ付いていきました。冗談的なシーンや余計な部分は削り、エロ的なシーンは絶対に書かない、など、あくまで魔法『少女』の物語にしようと意識したつもりです。が、本作、かなり迷いました。特に最後辺りは本当にどうしようか色々と考えました。黒まどかで良いのか、結局これはまどかの犠牲じゃないのか、それは悲劇じゃないのか、ケンナの性格がまどかと離れ過ぎているんじゃないか、暁美ほむらがまどかに助けられるだけの物語で良いのか、などなど。でも、最後には登場人物への思慕よりも作品自体への愛情に傾き、この形で落ち着きました。


 ともかく、ここまで読んでくださってありがとうございます。前作とのギャップで驚かれた方も居ると思います。前みたいなひたすら皆が幸せになれる物語を想像された方には、もうごめんなさいとしか。
 正直、私自身まだまだ不満足です。本作にだって、もっと面白く出来る部分が有ったと考えています。私の目指すまどかマギカはまだ遠い……そろそろオリジナルに復帰しようという気持ちも有りますけどね。叛逆の物語のお陰で、今までの自分がどれだけ身の程知らずな方向性だったかを理解出来ましたし、今なら少しは良い物が書けるかもしれません。この、狂った様なまどかマギカだいっ好き! な気持ちが落ち着いてくれたら、オリジナルも書きたいですね。

 追記5/14
『暁美ほむらは「誰とだってお別れなんかしたくない」という発言を、そのままの意味で受け取った訳ではないと思います』というくだりの発言ですが、撤回したいと思います。
 そもそも、暁美ほむら自身が作中で「神を貶めた」「貴女は私の敵になるかも」「それでも私は貴女が幸せになれる世界を望む」と言っていた通り、例え女神となったまどかが幸せであっても、それは「大好きな人達と離れ離れになって、こんな所に取り残されて」という前提の上での幸せに過ぎないと思うんです。例えまどかが世界中に遍在するとしても、『人間としてのありふれた幸せ』は得られない。それは、まどか自身の気持ちは関係無く、絶対的な事実でしょう。暁美ほむらが円環の理による導きを拒絶し、悪魔となったのは、つまりその点に気づいたからではないでしょうか。だとすると、まどかの言葉で容易に負けになる、という事は無いでしょうね……
 しかし、私一人ですら解釈が多数に分かれる叛逆アフター、続編をやるとしたら、どうするのでしょうか。TV版終了後から、『改変後の世界』については多数の考察・解釈が有った訳で。叛逆の物語は、夢の中という設定を使って、『ファンが考察した改変後の世界の内情』という部分を上手くすり抜けましたけど……解釈が分かれる作品の続編で、その解釈を固定してしまうのは不味いと思います。今度が有るなら、上手く避けて通って欲しい所ですね。
 ただ、その場合、解釈が無数に有る悪魔ほむらを登場させる事は困難になるんじゃないかな、という疑問が有りますが。
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