魔法少女まどか☆マギカ [新編]救済の物語(完結)   作:曇天紫苑

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転校生、二人

 最初の授業も終わり、小休憩に入った。

 何とか硬直から脱した私だったけれど、相変わらず意識は環之小鳥ケンナから外れていない。このイレギュラーな人物が何者なのか、それを知るまでは、到底目を離せない。

 

「環之小鳥さんって、すっごい綺麗だよね……もしかして、テレビとか出てたりするの?」

「あ、えへへ……テレビとかは出た事無いかな」

「背、高いよねー……大人っぽいのに、何だか可愛いし」

「そ、そうかな。そう言ってくれると、嬉しいな……」

 

 彼女は今、クラスメイトからの質問攻めに慌てつつも、何とか答えている。圧倒的な外見という物は目立つのか、私に話しかけてくる人の数は普段より確実に少ない。

 私としても有り難い状況だ。横から話を聞いているだけで、彼女の経歴を聞く事が出来るのだから。

 

「や、初授業お疲れ、ケンナ。こいつが杏子だよ」

 

 美樹さやかが、杏子を連れて、環之小鳥ケンナの前に立った。

 さやかは授業中にこっそり彼女と喋っていたので、既に有る程度の仲を築けているんだろう。次元違いの美しさを持つ人物が相手でも、かなり慣れ慣れしい態度を取っていた。

 ただ、杏子は少し気後れしたらしく、目を逸らしていた。気持ちは分かる。

 

「……佐倉杏子だ、よろしく」

「佐倉さんだね。うん、よろしくっ!」

 

 彼女は天真爛漫な印象を受ける程に明るく笑うと、杏子の手をそっと握った。

 初対面の相手に対する物としては少し強めのスキンシップに見えたが、悪い印象を与える態度では決して無く、むしろ、杏子も肩の緊張を抜いて、曖昧な笑みを見せていた。 

 

「ほらほら、杏子。何、緊張してるの?」

「い、いや。そうじゃないんだけどな……」

 

 若干慌てて首を振り、杏子はほんのり顔を赤くする。

 そんな顔を見て何かを理解したのか、さやかは悪戯っぽく頷いた。

 

「ああ、ケンナに見とれてたんだ。スゴい美人だし、しょうがないよね」

「はう……そ、そこまで言われると、何だか恥ずかしいよ……」

 

 杏子より、環之小鳥ケンナの方が照れている。あの外見なら誉められる経験は大量に積んでいても不思議ではないのだが、どこから見ても初な反応にしか受け取れない。

 色々な面で、外見からは想像出来ない性格をしている。さやかも気づいているのか、からかい混じりにおどけて見せた。

 

「ほんと、見かけと違って何だかほんわか系だよねー。キリっとしててカッコいい感じなのに、中身は可愛いって言うかさ」

「そ、そう? あはは、照れちゃうなぁ」

 

 喜びながらも恥ずかしそうに目を伏せる。やはり、可愛らしい仕草に見えた。

 正面からそれを見た幾人かが、また感嘆する。現実離れした空気に呑まれているのか、声も出せなくなっている様だ。

 

「なあ、何で遅刻しちまったんだ?」周りが何も言わない中で、杏子は平気そうに話している。

「……転校初日だから、気合い入れ過ぎちゃって……気づいたら、遅刻ギリギリの時間だったの」

「髪の手入れとか、か?」

「うん、髪のお手入れとか」

 

 そう言って、彼女は自分の髪を撫でた。私の物より、遙かに手触りが良さそうだ。

 触ってみたい誘惑に駆られたらしく、さやかが唾を飲み込む風な仕草を見せた。

 

「ね、触っても良い?」

「どうぞっ、美樹さんなら良いよー」

 

 許可を得て、さやかはその髪へゆっくりと手を伸ばした。何処か緊張すら漂っているが、無理もない。あの髪の美しさは、どんな糸であっても及ぶ物ではないだろうから。

 それでも、さやかは彼女の髪に触れて、感心と興奮の混ざった様な声を上げていた。

 

「うわぁ……髪、綺麗だね、サラサラでふわふわだし……秘訣とか有るの?」

「んー、お風呂でちゃんとお手入れはしてるけど……」

「おお……特別な事はしてないのに、ここまで良い髪になったんだね……良いなぁ」

 

 頭を撫でられる様な状態だからか、彼女は少しくすぐったそうにしている。小動物みたいな愛らしさの有る反応は、見ているだけで幸せな気分を呼び寄せる。

 そんな気持ちの中に居たからだろうか。今まで気づかなかったが、私は予想以上に強い視線を送っていたのだろう。

 不意に顔を動かせた彼女と、また目が合った。

 

「あ……」

 

 反射的に目を逸らすと、彼女が小さな声を漏らしたのが聞こえた。 

 何だか、残念そうな、あるいは悲しそうな声だ。そう思っていると、彼女は立ち上がり、クラスメイト達に向かって微笑んだ。

 

「あ、ちょっとごめんね。もう一人の転校生さんとお話がしてみたいの」

 

 それを聞いて、さやかと杏子を除くクラスメイト達は自分の席へと戻っていく。それはまるで、魔女の口づけを受けた人間の様な動きだった。

 残ったさやかと杏子は、楽しそうに彼女の肩を叩いている。たった一時間前に知り合った関係だというのに、既に親友の様な間柄となっている。

 これもまた、美樹さやかの人柄なのだろう。魔法少女に関わりさえしなければ、魅力的な人物なのだ。

 

「よしよし、黒髪ロング美人同士、仲良くしなさいよ」

「もう、さやかちゃんっ」

 

 照れと困った様子を同時に浮かべながら、彼女はさやかと杏子に向かって手を振り、私の方へと近づいてきた。

 究極的な美貌も、何とか見慣れてきた。それでも一歩近づかれる毎に息が止まりそうになるが、それも何とか抑え込める様になっていく。

 私の動揺を理解しているかの様に、刺激を避ける様な足取りでゆっくりと進んでいる。それでも、とうとう私の前に立ち、朗らかに話しかけてきた。

 

「暁美さんっ」

「何、環之小鳥さん」

 

 名字で呼んでみると、彼女は少し不満そうにした。

 

「ケンナ、で良いよ? 結構変わった名字だし……」

「……そう。なら、ケンナさんと呼ぶわ」

 

 名前で呼ばれた為か、ケンナは一度頷いた後で、愛らしく微笑んだ。

 こうやって彼女……ケンナを目の前で眺めていると、美貌や異次元的な存在感より、その表情の方が気になった。

 笑顔が優しく、温かな物を感じさせていて、私の想いを受け止めてくれそうな印象が、記憶の何処かに引っかかる物を覚えさせる。

 

「あ、えっと……」

「……」

 

 何を話すかを決めていなかったのか、ケンナが黙り込んでしまう。

 私から話すべきかもしれないけど、一体、何を話せば良いんだろう。向こうから話しかけてくれたので、黙っていれば話を続けてくれるとばかり思っていた。

 それでも沈黙したまま時間が過ぎるのは不味いと判断したらしく、ケンナは思いついた様に口を開いた。

 

「あはは、この名字、結構気に入ってるの。似た様なタイトルの、好きな歌が有るから……あ、演歌なんだけどね。暁美さん、歌は好き?」

「ええ……嫌いではないだけれど」

「そ、そっか。うん、私も時々聞いてたりするんだけど……」

 

 戸惑い気味に話す姿を見て、私は肩の力が抜けていく事を感じた。

 きっと、彼女も何を話せば良いのかが分からないんだ。異なる世界の存在にすら見えていた彼女の事が、何だか酷く身近な人物だと思えた。

 

「そうね。今度、一緒に買いに行きましょうか」

「うんっ、ショッピングモールに有るお店が良いらしいから、今度一緒に行こっか。あ、それでね。話は変わるんだけど……」

「何?」

 

 どうやら、これからする話の方が本題だったらしい。

 

「あのね、暁美さん。ちょっと二人で学校を探検してみない?」

「それは……何時、かしら」

「えっと、今から……」

 

 かなり唐突な申し出だった。

 今からとなると、五分くらいしか時間が無い。次の授業の準備もしなければならないし、ただ校内を歩くだけならお昼の休憩の時にすれば良い。普通なら、断る所だと思う。

 けれど、私は迷っていた。ケンナの表情や口振りが、断ろうという気持ちを削いでいる。

 

「転校生同士だし、一緒に行きたいんだ……駄目かな?」

「……」

 

 行くべきか、断るべきか。

 少し廊下を歩くだけなら十分だし、このイレギュラーな人物を探る意味でも、会話を行いたい。しかし、今でなくても構わない。でも、非常に断り難い。

 どうするのが最善の選択なのか、迷ってしまう。他のクラスメイトからの誘いなら楽に断れるのに、ケンナの言葉に首を振ろうとする事は、心を削るくらいの痛みを覚えさせるから。

 

「あのね、みんなの視線が気になっちゃうの……」

 

 迷っていた私へ向かって、ケンナは囁き掛けてきた。

 言われてみれば、クラスメイト達は変わらずケンナへと視線を向けて、私との会話に聞き耳を立てている。

 私だって同じ事をしていたのだから、人の事を非難出来る立場ではない。でも、彼女にとっては困り物だったのだろう。注目され過ぎて、話をするのも一苦労している様子だ。

 助けてあげたい。柄にも無くそう思った私は、内心の迷いを存外にあっさりと吹っ切った。

 

「……分かったわ。行きましょう」

「ほんとっ!?」

「ええ、本当よ」

 

 頷いてみせると、本当に嬉しそうに顔を明るくする。何故だろう、それは注目から逃れられるという安堵ではなく、私と一緒に歩ける事への喜びに見える。

 そんな筈は無いと思い、内心で否定した。まだ二言くらい話しただけの相手に、そこまで友好的な気持ちを向けられるとは思えないから。

 

「良かったぁ……」

 

 それでも、否定し切れないくらい楽しげに、友達の様な感覚で彼女は私の手を取った。

 

「行こっ」

「え、ええ……」

 

 私の同意を得て、彼女は持ち上げる様に私を立たせて、小走りに教室から出ていく。

 ちょっと強引に連れ出されたけど、酷く優しい手つきの為か、嫌な気はしなかった。むしろ、嬉しさを覚えたくらいだった。

 

+----

 

 私の前を、ケンナが歩いている。

 

 他の教室に居る人も、私達の、厳密にはケンナの姿を見ている。性別は関係無く、ただ視界に入れただけで硬直する人まで居た。大げさな反応だけど、気持ちは分かる。

 しかし、そんな人々の目には気づいていないらしく、ケンナは学校の様子を確かめる様にして、楽しげに歩いていた。

 

「暁美さんって、何だかカッコいい名前だよねー。こう、炎って感じ?」

 

 廊下を並んで歩いている中で、彼女は聞き覚えの有る事を言ってきた。

 

「名前負けしてないよね、見かけも雰囲気もカッコいいし。私も黒髪ストレートだから、暁美さんみたいな感じになってみたいなぁ、なんて……」

 

 何度か、言われた記憶の有る事だった。けれど、その言葉はまどかの物で、他の誰の物でもない。まどかが居なくなった今、聞く筈の無い内容だ。

 胸が痛い。まどか以外の人物が、まどかの穴を埋める様に、それを私へと告げてくると思うと、切なさと寂しさで苦しくなってしまう。

 でも、ケンナは何も悪くない。八つ当たりしそうになる気持ちを堪える。

 

「……名前負けしているわよ、私なんか」

「全然負けてないよ。むしろ凄く似合ってる」

「貴女がどう思ったとしても、私自身が納得していないもの」

 

 我ながら、嫌な物言いだ。要するに、「お前の言葉なんか知らない」と言っている様な物だから。

 でも、ケンナは何も気を悪くした様子は無くて、むしろ、嬉しそうに手を叩いていた。そんな態度も、何処かで見た記憶が有って、また苦しみが増す。

 

「じゃあ、もっとカッコ良くなっちゃえば良いんだよ!」

 

 ズキリとした痛みがのし掛かり、思わず拳を握り締めてしまう。まどかとは全く違う声で、全く違う姿で、まどかと同じ事を言わないで欲しい。

 あの子が居ない事を実感してしまって、辛い。少しずつ苛立ちが募っていき、歩みは遅くなっていく。

 前を歩いている為に、ケンナは私の変化に気づいていない。まどかを彷彿とさせる雰囲気のまま、明るく、若干一方的に話しかけてくる。

 

「まずはさ、髪型を変えてみる、とかどうかな? あ、ストレートが似合ってない訳じゃないよ? でも、それだけで印象って全然変わるし……」

「……や」

 

 調子が良いのか、機嫌が良いのか、そんなに私と話すのが楽しいのか、彼女は私の変化に一向に気づかない。

 魔法少女になる前の私に、優しくしてくれたまどかに似ている。私を助けてくれたまどかに似ている。あの時の、押しが強くて私を引っ張ってくれたまどかを、嫌でも思い出してしまう。

 苦しい。辛い。嫌だ。それ以上、何も言わないで。

 

「でも、綺麗な髪だから結ぶより……」

 

 

 

「……もうやめてっ!!」

 

 

 

 我慢出来ずに、叫んでしまった。

 しまった、そう思った時には、彼女はこちらへと振り返り、落ち込んだ様子で頭を下げていた。

 

「あっ……ご、ごめんね。一方的に連れて来ちゃった癖に、馴れ馴れしすぎたかな。迷惑、だったよね……」

 

 酷く傷ついた表情だった。それは、私を傷つけてしまった事を悔やんでいる表情だった。

 やってしまった。抑え込んでいたのに、堪えきれずに声を出してしまった。彼女は何も悪くないのに、友好的に接してくれた相手を傷つけてしまった。

 まどかを彷彿とさせる人物に嫌な思いをさせてしまった自分に、強い怒りを覚える。少し前の自分を殴りたくなりつつも、私は謝罪を口にする。

 

「いえ、いいの。こちらこそ、怒鳴ってしまってごめんなさい」

「うん。ごめんね、本当に……」

 

 二人で揃って頭を下げる姿は、酷く滑稽だったかもしれない。そう思った私は頭を上げて、一つ疑問に思った事を聞いてみる事にした。

 

「ねえ、どうして私を誘ったの? あの青い髪の子とか、仲良さそうにしていたじゃない」

 

 少なくとも、初対面の私よりは美樹さやかを誘った方が良いだろう。彼女なら、転校生に学校を案内するくらいの親切心は持っている。

 何故、さやかではなく、私を連れて来たのか。ケンナは照れた様に目線を逸らして、お腹の辺りで手を合わせていた。

 

「うん、その。偶然同じ日に転校してきたから、まるで運命みたいだと思って、はしゃいじゃって……」

 

 ほんのり頬を朱に染めながらも、オドオドとしている。やはり、長身痩躯で冷徹そうな顔立ちには似合わなかった。身体と中身が、不思議な程に一致していないのだ。

 けれど。

 

「好意を持って貰えるのは、嬉しいわ」

「そう……かな? うん、ありがとう」

 

 嬉しそうに緩んだ表情は、本当に穏やかそうな物だ。私みたいな鉄面皮になる寸前の人間とは大違いで、表情の豊かな子だという印象を受ける。

 それに釣られてか、私の口元にも笑みが浮かんでいた。だから、だろうか。ケンナは一度目を見開いた後で、すぐにニッコリと笑う。

 その顔はまどかとは全く違う物だったけれど、穏やかさや暖かさは、かなり近い物を感じさせた。

 

「あのさ、ほむらちゃん、って、呼んでもいいかな」

 

 ……そんな所まで同じになるのか。

 

「ええ、どうぞ」

「やった! ありがとっ、ほむらちゃん!」

 

 ほむらちゃん、と呼ばれて、複雑な気分になる。自分が許可したとはいえ、まどか以外が私の事をそんな風に呼ぶのは、抵抗が有った。

 でも、こんなに幸せそうな顔色を見ていると、今更駄目だとは言えない。

 気がつけば、私はケンナに対して心を許しかけていた。彼女は私の心へ簡単に入り込んで、その口調と態度で、こちらの気持ちを揺るがせてくる。

 出会ってから僅かな時間しか経っていない筈なのに、まるで昔からの友達みたいに親しみを感じてしまう。ケンナが困っていたら助けたい、とすら思っている自分が居る。

 私が、そんな風に他人を想うとしたら。その対象となる人物は、一人しか居ない。だとすれば、まさか。

 

 

「……まどか?」

 

 

 その名前を聞いたケンナは、一瞬だけ驚いて、次の瞬間には小首を傾げた。

 妙に素早い反応で、何処か慌てた様な態度なのは気のせいだろうか。

 

「ま、まどか、って?」

 

 何の事だか分からない、そんな顔をしたケンナを見て、内心で溜息を吐いて落ち着く。やはり、その顔立ちは何一つまどかとは似ていない。

 

「いいえ……何でもないわ。気にしないで」

「そ、そう?」

「ええ、そうなのよ」

 

 思わずまどかの名前を口にしてしまった事に気恥ずかしさを覚えつつも、私は心の中に宿った嫌な予想を振り切ろうと努力していた。

 まさか、環之小鳥ケンナが『まどかの消滅した部分を補う為に用意された代理の人間』、などという事は無いだろう。無いと信じたい。そもそも、まどかの外見はもっと可愛い方向性だ。あんな、美しさの化け物みたいな姿はしていない。

 だから、違う。まどかの代わりなんて、そんな残酷な事が有って良い筈がない。もし、そうだったとしたら……私は、激情を抑えられるのだろうか。

 

「何でもないわ。何でも」

 

 表面的には平気な風を装いつつ、内心では不安を強めている。

 

「ほむらちゃん」

「……何かしら」

 

 声を出す気力が沸かないくらいの不安を覚えていても、私の口はケンナの呼び声に対して、自然と返事をしていた。

 少し顔を上げて見ると、そこには心配そうに私を見つめるケンナの姿が有った。

 

「悩みが有るなら、何時でも言ってね? 何も力になれないかもしれないけど、話を聞くくらいなら、出来るから」

「……別に、悩んでなんか無いわ」

「それなら、良いんだけど……何だか、思い詰めた感じだったから。出来る事なら、ほむらちゃんの助けになりたいな、って」

 

 想像していたよりも、彼女は私に対して優しい態度を見せていた。心から私を助けたいと思ってくれていて、そんな所もまた、不安感を煽る。

 でも、その優しさは確かに私を助けた。落ち込んでいた気分は声によって少し晴れ、胸がポカポカと暖まっていった。

 

「ありがとう……貴女は、優しいのね」

「そんな事無いよ? 私なんか全然だもん」

「優しい人は、みんなそう言うのよ」

 

 気づけば、私達は並んで歩いていた。不安も嫌な予感も有ったけれど、それでも彼女は好ましい性格をしていて、私の中で瞬く間に大切な人の一人として認識されていたのだ。

 こうやって歩くだけでも、気持ちは明るくなる。まどかの居ない世界で取り残された寂寥感が、少し薄らいでくれる。

 そんな私の気持ちを朧気に察したのか、ケンナは何も言わずに手を差し出してくれた。私がその手を取ると、彼女は「えへへ」と笑い、そのまま、私達は学校の探索へと足を進めようとした。

 

 

 その時、狙い澄ませた様なタイミングで授業開始のチャイムが鳴って、私達は慌てて身体を反転させ、教室へと走って戻った。

 

+----

 

 

 私達が少し遅れつつも教室へ飛び込んだその後、授業は問題無く終わり、下校時間となった。

 

 授業内容は全て見覚えの有る物であり、体育の授業も何時も通り、魔法で楽に突破する事が出来た。こんな事に魔法を使うのはどうかと思うけど、元が貧弱なのだから、使わなければ倒れてしまう。

 ともあれ、授業自体は全て問題無かったのだが、一つだけ。体育で良い成績を出す度に、ケンナが賞賛と拍手を送ってくるのが妙に気恥ずかしかった。

 そのケンナは、外見に反して普通だった。学力は平均的、運動神経は、多分、平均よりちょっと下くらいだろう。外見で敬遠していたクラスメイトも、そんな親しみの持てる姿を見て肩の力を抜いていた。

 ただし、私としては、また一つまどかに近い部分を見つけて『嫌な予想』を強めてしまったので、ひたすら苦しかったのだが。

 

「ほむらちゃん、一緒に帰ろっ!」

「え?」

 

 鞄に荷物を纏めていた私の元へ、ケンナが駆け寄ってくる。今の今までさやかと話していた筈なのに、二人は空気を読む様に廊下へ出ていた。

 期待に満ちた視線が私に突き刺さってくる。これはきっと、断ったら泣きそうな顔をする流れだ。

 相手がケンナでなければ素っ気無く断れるのだが、どうも私は彼女に対して強く出られない。魂のレベルで、強気に出ようと思うだけで微かな痛みを覚えてしまう。

 

「……あ、そういえば。ほむらちゃんって帰る方向はどっち?」

「私は……」

 

 答えても問題は無いと判断して、彼女に自分の家が有る方向を教える。

 一緒に帰ると言っていたから、てっきり知っていたんだとばかり思っていた。もし方向が違ったら、着いてくるつもりだったのだろうか。

 

「そっか! じゃあ、一緒に帰れるね! あ、えっと……やっぱり、今日会ったばっかりの私とじゃ嫌、かな?」

 

 その言い方は、狡いと思う。素でそんな事を言われると、断り難くて堪らない。

 いや、まどかも時折こんな言い回しを使って私を家に誘ったりしていたから、それほど悪い気はしない。むしろ、今日が初対面の私にこの上も無く好意を向けてくれるのは、嬉しい。

 嬉しいついでに一緒に帰るだけなら、良いだろう。そう思って、頷こうとしたのだが。

 

(暁美さん。魔獣よ、悪いんだけれど……すぐに向かって)

 

 少し離れた場所から届けられたテレパシーに遮られてしまった。

 どうやら、この世界での初陣が始まったらしい。内心で若干の覚悟を決めながら、ソウルジェムを意識する。新しい戦法も考えはしたけれど、上手く行くだろうか。

 少しの不安と期待を抱きつつも、ケンナに申し訳無い気持ちとなる。私も一緒に帰ろうと思っていただけに、残念だ。

 

「ごめんなさい、ケンナ。また明日」

「そっか。うん、また明日」

 

 予想とは違い、彼女は残念そうにしながらも、それ以上の反応は見せなかった。私に配慮しようと我慢している訳では無さそうだし、落ち込んでもいない。

 まるで、この状況になる事が分かっていたかの様だ。怪しむ気持ちが浮かんできたけれど、今はそれよりも魔獣を優先するべきだろう。

 場所は、テレパシーによって分かっている。ソウルジェムも大きく反応している様だ。

 

 この世界での、最初の戦い。まどかは見ていてくれるだろうか。天の彼方で私を見守っていてくれたら、良いのにな。

 

 




-解説-

一体何者なんだ……(棒)
誰がどう見たって分かりますよね、このオリキャラ?の正体。

後、すいませんが今回は余り更新速度が速く有りません。というのも、まだ半分くらいしか完成していないんですよ……BDが届いた悦びに任せて投稿しちゃいましたから
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