魔法少女まどか☆マギカ [新編]救済の物語(完結)   作:曇天紫苑

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ENKAN NO KOTOWARI

 特訓が始まってから、既に一週間と少しの時間が経った。

 

 特訓の内容は相当に厳しい物だった。戦闘方法から計画まで、全てを一気に詰め込みで行ったのだから、当然だ。

 学業の方が全く手に付かなくなる程の頻度と密度だった為に、ケンナや杏子は授業中に四苦八苦していた。

 だが、マミと私、それに、不思議な事に美樹さやかは平気だった。

 別段、私達の特訓が他に比べて温かった訳ではない。むしろ更に大変な物だったと言えるだろう。

 私とマミなどは、時にワルプルギスの夜に対する対策を考えながら模擬戦を行い、それと同時に杏子やさやかの戦い方で矯正すべき部分を探す様な真似までした。マミとの模擬戦は毎度の事ながら酷く神経を使ったので、気絶寸前まで体力を消耗する事も多く有った程だ。それでも学業に気を回せたのは、経験の賜物である。

 私とは違い、この手の経験が無いケンナと杏子は相当に疲れただろう。目が回る様なスケジュールを組んだのは私なので、我ながら、二人には申し訳ないと思う。

 

 でも、それも今日までだ。

 

 

 

 そんな特訓帰りの私とケンナは、夕日の中、見慣れた川沿いの通学路を二人で歩いている。疲れた後の、この安らいだ時間こそ、私の毎日の楽しみだった。

 

「んー! 今日も疲れたぁ……」

 

 私の隣で、ケンナが伸びをして歩いている。彼女は規格外にして論外の強さを持つ魔法少女だが、感覚は一般的なソレだからか、疲れは隠せていない。

 その気になれば、彼女はその特異な力によって幾らでも何とでも出来る筈だ。それをしないのは、きっと私達に合わせているんだろう。

 彼女にその選択をさせているのは、きっと優しさに違いない。だからこそ、私は猜疑の視線一つ向けず、ただ労いの言葉を口にする事が出来た。

 

「お疲れさま、ケンナ」

「……えへへ。ほむらちゃんも結構お疲れだよね」

「そうね。かなり厳しい特訓だったわ」

 

 でも、辛い物では決して無かった。むしろ、楽しく感じている自分が居る事に気づかされる。

 どうも、自分はまどかを想って戦う事が好きだったらしい。ワルプルギスの夜を倒すという目標の下で努力を重ねるのは、本当に素敵な幸せだと思えた。

 業の深い事だ。まどかを守るだの、まどかを救うだのと言いながら、結局、私は自分がまだ戦える事を一番の幸せとしているのだから。

 

「……いよいよ、明日だね」

「ええ……」

 

 深く感慨の込められたケンナの言葉に同意し、一緒に空を見上げる。そこには雲一つ無い夕焼けが広がっていて、とてもじゃないけど、ワルプルギスの夜が来るとは思えない。

 けど、きっと来るのだろう。長年培ってきた感覚が、あの忌々しい気配を捉えている気がする。

 それでも、今の空には不穏さが無くて、ケンナがその美しさに目を輝かせていた。

 

「綺麗な夕日だね」

「ええ。貴女と一緒にこんな風景を見られる事が、凄く幸せ……」

 

 それは、間違い無く安らぎだった。思わず本心を口にして少し恥ずかしくなったけど、それを差し引いても、この感動は私の物で。出来たら、まどかにも共有して欲しい物だ。

 空の端に薄く光っている満月が目に入る。その色合いは不思議な物で、まるで半分に切り分けられたかの様だった。こんな珍しい物、滅多に見れないだろう。生きていて良かった、という感動すら沸いてくる。

 と、私が空に見とれて足を止めていた、そんな時。頬に冷たい物が当てられた。

 

「ひあっ……!?」

 

 思わず声を出してしまい、反射的に頬に当たった物を見る。

 ペットボトルだった。見慣れた、ケンナお手製のスポーツドリンクだ。飲みやすい味が魅力的で、特訓の際も幾度と無くお世話になっていた。

 

「はい、どーぞ」

「あ、ありがとう」

 

 手渡されたペットボトルの蓋を開ける。それだけで、爽やかな香りが広がった。マミの紅茶と比べれば些か芳醇さに欠けるが、体力の消耗した状態で飲む物だから、これで良いのだ。

 

「ケンナは?」

「ん、私も飲もうかな」

 

 ケンナの手の中にガラスのコップが二つ出現し、片方は私へと預けてくれる。

 特訓の成果なのか、彼女が影の様な物の中から収納した物を取り出す速度は、もう見る事すら困難な次元に到達していた。

 改めて便利な魔法だと思いつつ、私はスポーツドリンクをケンナと私のコップに注いで、残った分は返す。

 

「立ってると飲み難いし、座ろっか」

「ええ」

 

 ケンナの言葉に同意して、私は草の上に腰を落とした。ふわふわとした感触は、かなり座り心地の良い物だ。マミの家に有るクッションに匹敵する程だと言える。

 遅れてケンナも座り込み、コップを私に向ける。何がやりたいのかを理解して、私も彼女にコップを向けた。

 

「乾杯」

「うん、乾杯っ」

 

 お互いのコップを当てて、ガラス同士がぶつかる音を小さく立てる。そして、最初の一口を飲んだ。

 気合いを入れて作られているのか、普段の数倍以上に美味しく、身体がスッキリした様に感じる。殆ど毎日飲んでいるが、全く飽きない。

 彼女が授業で大変な思いをするのは、このスポーツドリンクを毎日の様に作っている為かもしれない。日々、効果も味も改良しているのだから、相当な労力を使っているだろう。

 でも、此処で申し訳無く思うのは、頑張っている彼女に失礼だ。こんな時、私が言えるのは賞賛しか無いだろう。

 

「ケンナ。貴女って本当にこれを作るのが得意なのね」

「えへへ……何の取り柄も無い私だけど、それでもみんなの役に立ちたかったから。美味しくなる様にって、頑張ったんだ」

 

 照れながらも、嬉しそうに頬を掻いている。その姿は、まさしく私の知っている通りの、あの子と同じ態度だった。

 

「貴女って、ああ、本当にもう」

「どうしたの?」

「いえ、何でもないわ。何でも」

 

 また、まどかに似ている所を見つけてしまった。嬉しい様な、嫌な予感が強まる様な、そんな複雑な気分にさせられる。

 でも、スポーツドリンクの爽やかさと夕日の美しさ、そしてケンナの暖かさが、私を包み込んでくれている。思い悩む気持ちは有るけど、それほど重く辛い物ではない。

 決定的な事は今も尋ねていないが、彼女は本当に何者なんだろうか。ワルプルギスの夜を倒せたら、今度こそ勇気を出して聞いてみたいと思う。

 

「ケンナ」

「何?」

「……ありがとう」

 

 現状、送れるだけの精一杯の感謝の気持ちを告げる。

 彼女が居なかったら、きっと自分は駄目になっていただろう。まどかの居ない世界で戦い続けるのは、想像を絶する負担となった筈だ。

 でも、彼女が居てくれたお陰で、私はまどかの存在を身近に感じられた。私の心は確かに疲弊したけど、少なくとも絶望を覚える事は無かったし、寂しいとは、余り思わなかった。

 私の中の沢山の感情が籠められた言葉を、ケンナはどう受け取ってくれたんだろう。彼女は両目に私を写して、満開の花の様な笑い方をした。

 

「こちらこそ、ありがとう。私、ほむらちゃんと友達になれて良かったって、ずっと思ってるんだよ」

「ふふ、ならお揃いね。私も、ケンナと友達になれて嬉しいわ」

「そっか、お揃いなんだね……えへへ。何だか不思議、私達、まるで運命で結ばれた仲みたいだね」

「あら、可愛い女の子っぽい事を言うわね。外見はこんなに格好良いのに」

「えー、ほむらちゃんまでそんな事言うのー?」

「ほら、そう言って、むくれる所が子供っぽいわ」

「むむ、ほむらちゃんの意地悪……」

「そういうまど……ケンナが素直過ぎて、つい、からかいたくなるのよ」

 

 私達は笑い合いながら、明るい話をしていた。ケンナが私の言葉に一つ一つ答えてくれるので、話しやすい。

 会話の内容は、何だか私の方が優位に進められている気がした。眼鏡を掛けていた頃の自分とは違う。『鹿目さん』の言葉で顔を赤くしていた頃とは違うんだ、と、得意げに胸を張りたい気分だ。

 

「元気を出してくれて良かった。ワルプルギスの夜が来るって聞いてから、ほむらちゃんって凄く良い調子になったよね」

 

 私の内心を読み取ったかの様に、ケンナの顔には喜ばしげな物が浮かんでいる。

 

「そうね。アレを倒すのは一つの目標だったのよ」

「へー……それもやっぱり、『まどか』っていう人が関わってるの?」

「ええ。まあ、その通りよ」

 

 ケンナには、私に『まどか』という最高の友達が居る事を教えている。だからこそ、こうやって質問されるのは想定の範囲内だったが、どうも胸にズキリとした痛みが走るのは止められない。

 

「そうなんだ。ちょっと妬いちゃうかも」

「あら、どうして?」

「私も、ほむらちゃんの一番の人になりたいと思うから」

 

 愛の告白にも似た言葉を聞いて、私は僅かに動揺した。彼女の好意を聞くのは、何時だって慣れる物じゃない。否応なしに喜びが沸き上がり、心が躍り出す。

 誤魔化す意味を含めて、コップに口を付けた。爽やかな甘みは茹だった頭を冷ましてくれるけど、焼け石に水で、大した効果は見込めない。

 たまらない気分になっている私を、ケンナは微笑ましそうに見つめていた。

 

「ふふ、ほむらちゃん。照れちゃって……うん?」

「何?」

「いや……その……」

 

 その時、ケンナは何かに気づいた様子で、私の先に有る何かを見つめていた。

 酷く歯切れの悪い言葉が気になって、私もまた同じ方向へ目を向ける。すると、すぐに彼女が何を見たのかを理解する事が出来た。川の向こう、橋の支柱が有る所だ。そこに、一人の男の子と、男の人が居た。

 

「あの子は……」

「……」

 

 ケンナは、黙り込んでいる。見てはいけない物でも見たかの様に、何かを堪える様に唇を噛んで。

 そう。鹿目タツヤ、あの子がそこに居た。地面に何かを描いているのか、棒を持って動かしている。遠目にしか見えないから、何を書いているのかは分からない。でも、もしかするとケンナには見えたのかもしれない。一瞬だけ驚いた様に目を見開くと、切なそうに俯いた。

 

「ケンナ……大丈夫?」

「う、うん」

 

 返事にも力が無い。どう考えても、見知らぬ子供を見た人間の反応では無かった。何かを諦める様に目を伏せる所は痛々しく、胸を締め付けられる。

 私一人なら、タツヤ君に会いに行っても良い。今は存在しないとはいえ、あの人達はまどかの御家族だ。私にとっても、決して嫌うべき相手ではない。

 だけど、こんな調子のケンナを放っておける程、私は冷たくなかった。今の私がやるべきは、彼らにケンナの視界から消えて欲しいと願う事だ。

 そう考えていると、まるで私の想いが届いたかの様に、タツヤ君は誰かに呼ばれた様子で立ち上がり、走り出す。お父様の所に戻ったみたいだ。あの子は、橋の影に隠れて見えなくなった。

 

「あ……」

 

 余りにも悲しい声を出したかと思うと、ケンナが安堵と思わしき溜息を吐いた。それは、全くの無意識に出た物に思える。

 僅かな間の遭遇だったけど、私は少しだけ苦しみを感じていた。少なくとも、今の彼らは幸せそうだ。まどかの居ない世界でも、あの人達は幸せそうにしている。まどかが、居ないのに。

 

「あの、ケンナ……」

 

 ケンナに声をかけたけど、何を言って良いのか分からない。いや、自分が何を言おうとしたのかが、分からなくなっていた。

 私が考えている通りだとしたら、もしも彼女が『彼女』なのだとしたら。今のは、恐ろしい程に残酷な出来事だったんじゃないか。

 元気付けるにしても、何を言えば喜んでくれるのかが分からない。いや、何を言えというのか。『貴女が居なくても、貴女の御家族は幸せそうだから安心して?』などと言うつもりか。

 

「……ねえ、ほむらちゃん」

 

 内心を隠し、言葉が告げられなくなった私へ、ケンナが話しかけてくる。私にとって、それは良いタイミングだった。

 何も返事をせずとも、顔の動きで話を聞こうとしている姿勢は伝わったらしく、平時より真剣味の強いケンナの声が私へと向けられた。

 

「良かったら、まどか、って人の話、聞かせてくれないかな」

 

 全く予想していなかった事を言われて、私の目は自然と見開いた。

 どうやら、彼女は話題を変えようとしている様だ。それにしても、何故、まどかの話なのだろうか。

 

「……どうして?」

「ほむらちゃんの大切な人なんだよね。私、その人の事を、聞いてみたいの。ほむらちゃんにとって大事な人なら、私も知りたいし」

 

 言葉を返せなくなる私に対して、ケンナは照れた様に頬を掻いた。先程までの悲しげな所が、まるで嘘みたいだ。

 

「実はね、前々からほむらちゃんの昔の事を聞きたかったの。でも、ちょっと言い出すタイミングが見つからなくて。今日まで延ばしちゃった」

「ケンナ……」

「駄目、かな?」

 

 覗き込み、首を傾げながら尋ねてくる。それを見た私は、大きな喜びに心を包まれていた。

 まどかの話を聞きたいと言ってくれたのは、彼女が初めてだ。信じて貰えないと思っていたから、他の誰に対しても話す事は出来なかった。美樹さやかと、私だけがまどかの事を覚えている。それは酷く辛い物だった。

 だから、話を聞こうとしてくれる彼女の言葉は、本当に嬉しいと感じる。例え彼女が何者であっても、まどかの話を聞いて欲しいと、素直に思った。

 それに、タツヤ君を見た為か、普段よりまどかの事を語りたい気分だったのだ。

 

「ええ……良いわよ、信じて貰えないかもしれないけど」

「ううん、信じる。ほむらちゃんはきっと、本当の事を言ってくれるって」

 

 私の事を信じ切った目に、嘘は一つも見られない。こんな風に信頼を寄せてくれる事が、今はもうひたすらに愛おしい。

 まどかの、自分の過去を聞いてくれる存在が、彼女で良かった。彼女が信じると言ったのだ、絶対に信じてくれると確信が持てる。

 きっと、長い話になるだろう。喉を潤したい気分だったので、空になったコップに、またスポーツドリンクを注ぐ。さっきの事なんか、無かった物としよう。

 

「その、長くなるけど……良い?」

「うん、どうぞ」

 

 抱き止める様な慈愛に満ちた微笑みを見せながら、耳を傾けてくれる。ただ、それを見ただけで涙が出そうになる。

 でも、涙を抑え込みながら、私はまどかに関して知る限りの全てを話し始めた。最初に出会った時から、最後に別れた時までの、全てを。

 

+----

 

 話は、相当に長くなった。

 何せ私が繰り返して来た全てを話したに等しいのだ。夕日はすっかり落ち込み、夜になっている。夜空に光る星が綺麗に輝き、静かで美しい夜を演出している。

 私は、全てを語り尽くした。最初は自分の出自とまどかの事だけを話していたのに、気づけば魔女の事まで口にしていたのだ。

 そして、ケンナはその全てを大人しく、かつ真剣に聞いてくれた。私の拙い話は退屈な点だって多く有っただろうに、彼女は何一つ文句も言わず、飽きる事も無く、暖かな雰囲気を纏って耳を傾け続けた。

 ようやく話が終わっても、彼女は余韻に浸る様に虚空を見つめ、仄かに甘い香りを漂わせていた。

 

「ほむらちゃんは、そのまどか、って人が大好きなんだね」

「……そうよ、たった一人の、私の友達」

 

 この世界に居なくても関係無く、私にとってのまどかは今も最高の、最愛の友達だ。誰かに話す事が出来た為に、私は自分の内心を再認識していた。

 ケンナは、私の話に対して何一つ疑いを見せていない。無条件に信じてくれている。だが、私の言葉を聞いた彼女は少しだけ悲しそうにして、肩に手を乗せてくる。

 

「貴女は、一人なんかじゃないよ。マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんだって友達だよ。私だって、ほむらちゃんの友達だと思ってるんだけど……駄目かな?」

「それは……ええ、ごめんなさい」

 

 失言だったと思い、謝罪する。ケンナの目の前で、まどかを『唯一の友達』と扱うのは、ケンナに対して失礼極まり無い物だった。思わず、自分の迂闊さを罵ってしまう。

 でも、ケンナはそれほど怒るつもりは無いのか、小さく頷くだけで、何か言及して来る事は無い。しかし、妙に機嫌が良さそうに見えるのは気のせいだろうか。

 

「素敵な人、だったんだね」

「ええ、筆舌に尽くし難い程に」

 

 何処か感慨深げなケンナの呟きに、私は心を籠めて答えた。言葉に出来ないくらい、彼女は魅力に満ち溢れていたのだ。少なくとも、私にとっては。

 

「あんなに勇気が有って、優しい子で。自己犠牲の精神も持っていて。私は、あんな素晴らしい子と知り合えた事が、一番の自慢なの」

「あ、あはは……」

 

 私の言葉を聞いたケンナが、何故か顔を赤くして頭を掻いた。ちょっと俯き気味な顔は、何やら喜んでいる様な、悲しんでいる様な複雑さを含んでいる。

 心の中で一つの確信にも似た物を覚えつつも、私はその顔に近づいた。

 

「ケンナ、どうしたの?」

「いや、あのね。ほむらちゃんがこんなに優しい顔をして、誰かを想っている所って、見ていて何だか照れちゃうと思ったの」

「そう……」

 

 過度に優しい声音を聞いて、私は耐え切れずに目を逸らした。心に浮かべるのは、まどかの姿だ。空の向こうに彼女が微笑んでいる世界が有るんじゃないか、なんて妄想を抱く程に、今日の夜空は綺麗だった。

 

「……ともかく、私にとってのまどかは、世界で一番。ううん、世界なんか比べられないくらい、大切な人なの……貴女にとっては、私の妄想と取られても仕方が無いと思うけど」

「大丈夫、信じるよ。ずっと、ほむらちゃんの顔を見てきたんだもん。貴女が嘘を吐いてない事も、妄想なんかじゃないって事も、伝わってるから」

「そうかしら……私自身、自分が信じられない時も有るから……」

「じゃあ、私を信じて? ほむらちゃんの記憶は嘘なんかじゃない。まどかは、確かにこの世界に居るんだよ」

 

 何の根拠も無い発言だったけど、それは私の胸に強く届いた。私の本能とも呼ぶべき箇所が歓喜に震え、思わずケンナを抱き締めたくなってしまった。

 

「ありがとう……信じてくれて」

 

 私自身すら時折信じられなくなっていた事を、彼女は思い切り肯定してくれた。それがどれだけ私の助けになっていたか、なんて、語るまでも無い。

 心の底から感謝の念を抱いていると、ケンナの手が私の頭を撫でた。愛情の深い手つきは、それだけで気持ちを暖かくする。

 

「……ほむらちゃんは、そのまどかっていう女の子が望んだ世界を、守りたいんだね」

 

 少しばかり切なげに囁かれた言葉。それを聞いた私は、大きく頷いた。

 

「ええ。あの子は、私達魔法少女を身を挺して救ってくれた。だから、私はその気持ちを守っていきたい。まどかが居ないなら、せめて、その気持ちだけでも……」

「でも、私は悲しい、って思うなぁ」

 

 その時、ケンナが珍しく私の言葉を遮った。

 今の今まで、ただ大人しく話を聞くだけだった彼女が、明確な意志、悲哀にも似た感情を現していた。その言葉に含まれた意味が伝わらず、私はただ困惑する。

 

「え?」

 

 私に気持ちが伝わらなかった事を理解したのか、ケンナは淡く切なげに笑い、言葉を続けた。

 

「その、まどか、って子は、大好きな家族や友達が居る、ただの中学生の女の子なのに。みんなの希望を守る為に、永遠に戦う決意をしたんだよね?」

「ええ……」

 

 言われるまでもない。

 彼女の勇気も、強さも。存分に語ったつもりだ。なのに、今更、何を……

 

 

 

「それはきっと、凄く悲しい事だと思うな。私だったら、我慢出来ない。きっと泣いちゃう」

 

 

 

 彼女が言ったのは、当然の指摘だった。

 

「っあ……!」

 

 

 核心を突かれて、私は一瞬だけ思考を真っ白にした。ショックで精神が止まり、記憶の中に居るまどかの姿が幾つも溢れ出してくる。

 あの廊下で話しかけてくれた姿や、家族と一緒にご飯を食べている姿。弟と遊ぶ所、友達と一緒に学校へ通う背中。そして、ケンナの切なげな顔。

 その全てが、私に一つの答えを与えてくれた。

 

「それ、は……っ……!!」

 

 ケンナは、まどかの願いを酷く辛い物だと捉えていた。

 他の誰が同じ事を言おうと、私は耳を貸さなかっただろう。まどかの願いを汚すな、と怒りすら覚えたかもしれない。

 でも、目の前のケンナは確かにまどかに似ていて、同じ様な考え方をしていて。

 ……もしかしたら、という気持ちも有って。

 

 だから、まどかは、まどかは。

 

 

 

――鹿目まどか。あなたは、自分の人生が尊いと思う? 家族や友達を大事にしている?

 

――わ、私は、大切……だよ。家族も、友達のみんなも大好きで、とっても大事な人達だよ。

 

 

「あ……ああっ……!!」

 

 

――本当に?

――本当だよっ、嘘な訳ないよ。

 

 

 

 

――そう……

 

――もしそれが本当なら、今とは違う自分になろうだなんて、絶対に思わない事ね。

 

 

――さもなければ、全てを失う事になる。

 

 

 

 

 

――全てを、失う事に……

 

 

 

「わ、わたしは、私はっ……!!」

 

 

 まどかは……人より優しいだけの、平凡な女の子だったじゃないか。

 

 神様なんかじゃない、中学生の……輝かしい未来が有る筈だった、ただの、普通の、女の子だった。

 そんな簡単な事に、たった今まで全く気づかなかった。気づけなかった。いや、知っていた癖に、思い至る事すら出来なかった。

 弱い私にとって、まどかは……特別な人、だったから。その優しさも、強さも。私には眩し過ぎて。だから、一番重要な事に、気づくべき一点に至れなかった。

 

「……泣いちゃっても、苦しくても、そうしたいって覚悟が有ったのかもね」

 

 やけに静かなケンナの声が聞こえるも、その言葉に意味は感じられなかった。

 彼女自身、自分が言っている事に無理が有ると分かっているのだろう。平凡な中学生が、そんな選択をしなければならない事。それ自体が残酷なのだと、彼女は解っているのだ。

 もし、ケンナの言葉が無ければ、私は一生気づかなかっただろう。背中にミサイルでも背負った様な酷く重い気分の中、私は何とか感謝を告げた。

 

「……私は、あの子を止めなきゃならなかったんだって、分かった。ありがとう、気づかせてくれて」

 

 まどかを大切に想う余り、まどかを神聖視する余り、本当に肝心な事に気づけなかった私は、酷い間抜けだ。

 

「まどかは可愛らしくて、優しくて、私なんかを友達だって言ってくれる。そんな、人一倍優しいだけの普通の子なのに、自分がやるべき事を見つけた時のあの子は強過ぎて……私は、それに付いていく事すら出来なかった」

 

 俯く私に向けて、ケンナは肩を叩いてくれた。

 

「それは、別に悪い事じゃないと思うよ。貴女だって、ただの中学二年生の女の子だよ、ほむらちゃん。まどかって人も、きっとこう言うと思うの。『もっと自分を大事にして』って」

「……」

 

 それは、こちらの台詞だ。まどかはもっと自分を大切にして欲しい。常々、そう思っていた。

 

「……でも」

「?」

「いえ……何でも無いわ」

 

 でも、それもまた私の勘違いなのかもしれない。普通の少女に過ぎないまどかは、人並みに自分を大切にしていた筈で、その上で、他人も大事にしていた。

 果たして、円環の理になる事はまどかの本意だったんだろうか。それすらも怪しい。きっと、まどかは自分が概念になるとは思っていなかった。

 まどかの慈悲深さと勇気が、まどかの人としての在り方を捨てさせてしまった。そうさせてしまったのは、死ぬより酷い選択をさせたのは……言うまでもなく、私だ。

 

「ほむらちゃんはまどかに寂しい思いをして欲しくないんだね」

「そう、ね。許されるなら、あの瞬間に戻れるなら、私はどんな手を使ってでも、まどかを止めたいと思う」

 

 もし、もしも私に何かが出来るとしたら、私は例えまどかを裏切る事になったとしても、全てを捨てる事になったとしても、躊躇わない。

 しかし、全ては過ぎ去った話だ。まどかはもう世界から消えたし、再会する時は私が死ぬ時である。

 それでも、何か出来ないだろうか。例えば、まどかを人間に戻す方法などは……

 

「それが、ほむらちゃんの……ううん。何でもない」

 

 考え込んだ私に向けて、ケンナは何かを言いそうになり、その途中で口を閉ざした。

 ただ、そこには悲しげな色が見て取れた。だが、それでも彼女は私に向かって頭を下げ、お礼を言ってくる。

 

「聞かせてくれてありがとう、ほむらちゃん」

「……どういたしまして」

 

 返答し、私は空になったコップを手の中で弄んだ。

 恐ろしい事実に気づいてしまった私は、何だか気が重くなっていた。でも、まどかの事を話すと決めた瞬間から、ケンナに対して言いたかった事が有る。そちらを優先すべきだと感じた。

 一度、まどかの事を脇に置いて、私はケンナの顔を見つめる。彼女が逃げられない様に視線を合わせた上で、私は出来るだけ友好的に、不快感を与えない様に注意しながら彼女へ声をかける。

 

「私はまどかの話をした事だし、貴女の話も聞かせてくれないかしら」

「え?」

「狡いって思うかもしれないけど……聞きたいの。やっぱり、駄目?」

 

 戸惑い気味のケンナは少し遅れて私の言葉の意味を理解したらしく、静かに考え込む。

 不味かっただろうか。そう思っていた私に向けて、彼女はこの夜空と同じくらい静かで綺麗な顔をした。

 

「駄目、じゃないけど……うん、良いよ。聞きたいなら、話す」

 

 そう言うと、ケンナは私に肩を寄せてきた。明るく可愛らしい態度からは想像も出来ないくらい、触れ合う肩は弱々しく感じられる。

 余り、明るい顔で話したい事じゃないんだろう。地雷を踏んだ気がして、後悔にも似た気分を覚える。

 

「私から聞いておいて、こう言うのはどうかと思うけど……辛いなら、話さなくても良いのよ」

「ううん、話したい。ほむらちゃんが、聞いてくれるなら」

 

 肩を僅かに震わせながら、彼女は作り笑いを見せてくる。思わず助けてあげたくなる、そんな顔色だった。

 やがて話す覚悟を決めたのか、ケンナは何度か深く呼吸をして、耳元で囁く様な話し方で言葉を告げてくる。

 

「……私ね。昔、周りのみんなに幸せになって欲しいって、そう思って……それを願ったの」

「それが……貴女の願い?」

「うん、そうだよ。私の願いは叶って、みんな幸せになった」

 

 そう言った彼女は薄笑いを見せていたが、そこには自嘲気味の暗さが感じられた。

 私の感覚は間違っていなかったらしく、彼女はすぐに表情を酷く暗い物にして、俯いた。

 

「でもね、一人だけ、一番幸せになって欲しかった大切な人だけは、その願いで不幸にしちゃって……あの子に目の前で泣かれた時にね、気づいたんだ。私は、この子に対して凄く残酷な事をして、この子の気持ちを裏切ったんだ、って」

「ケンナ……」

 

 今にも泣きそうな声を聞いて、私は衝動的に彼女の頭を撫でていた。私の行動で、彼女が抱く辛い気持ちが少しでも和らげば、幸いだ。

 少しでも効果は有ったのか、ケンナは顔を上げた。その目には涙が浮かび上がっていて、微かに悲壮感すら漂っていた。

 

「私、凄く辛かったんだ。その子とお話がしたくて、その子を助けたくて。その子を、幸せにしたくて……ずっと――ずっと会いたかったのっ!」

 

 そう言うと、彼女は私を横から抱き締めた。

 唐突な動きに驚かされたけど、不思議と離して欲しいとは一つも思わない。ただ、困惑は隠せない。

 

「け、けんなっ?」

「ごめんね、少しだけ。こうしていてくれないかな……」

「え、ええ。構わない、けど……」

 

 涙声になって、ケンナは私にしがみつく様に腕の力を強める。痛くない程度に加減されているとはいえ、彼女の腕の感触はかなり強い物だ。

 余程、その過去は彼女にとって辛い物だったのだろう。聞いている私まで悲しくなると同時に、何故か、少々のデジャヴを覚えた。多分、何処かの時間軸で私がまどかに抱きついた時の事だ。

 私が記憶の中を探っている内にケンナも少し落ち着いて来たのか、震えが止まる。まだ話は終わっていない様子だ。

 

「……転校してからね、凄く、楽しかったよ。みんな、私を好きだって言ってくれて、私もみんなを好きでいられる。それって、凄く素敵だって思うの」

 

 暗さを引きずりつつも心から幸せそうな声を漏らすと、彼女は私を抱き締める力を更に強めた。私にしがみつく所はまるで、甘える子供の様だ。

 かなり体格差が有るので、甘えられているという状況に対する違和感が強い。背丈が同じだったら、きっと相応になっただろう。

 ぼんやりとしたまま彼女の腕を感じていると、彼女は、私に顔を近づけた。抱きついたまま前に倒れた為か、押される様な形になったので、私は少し身体に力を入れて、斜めになったまま彼女の全身を受け止める。

 ケンナの長い髪が垂れていた。良い香りだけど、これは、もしかするとまどかの家で使われているシャンプーと同じ香りなのか。

 

「私ね、ほむらちゃんと会えて本当に良かった、って思ってるの」

 

 私の上に乗った状態で、彼女は一目見るだけで本心だと分かる笑顔を見せた。私は、その表情にひたすら見とれた。心に、刻み付けるつもりだ。

 

「此処へ来て、私に一番優しくしてくれたのはほむらちゃんだった。一番の友達になってくれたのも、一番、気にかけてくれたのも、全部、ほむらちゃんだった」

「それは、その……」

「きっと、私がまどかと似ていたから、ほむらちゃんは私の事を大切にしてくれたんだよね」

 

 口振りに非難する様子は無いのに、私の心は苦痛を覚えた。ケンナがまどかに似ているから、私は縋る様に彼女を助け、気にかけた。それは、一つの嘘も無い真実だったのだから。

 ケンナに私の心を知られてしまったのが、辛い。誠実さの欠片も無い自分を知られてしまったのが、苦しい。拒絶されるかもしれない事が、たまらなく怖い。

 

「でもね、ほむらちゃん。私は、そんな貴女が好きだよ」

 

 でも、ケンナは何一つ嫌悪も怒りも見せず、私の内心を見ているかの様に、私の両頬を撫でた。私が彼女を慰めていたつもりだったのに、気づけば私が慰められている。

 この抱き締める時の暖かさや、腕の回し方。優しい声の使い方も含めて、やっぱり……

 

 そんな事を考えた私に対して、ケンナは怒るでも泣く訳でもなく、恐ろしい程に真剣な顔をして、私の事を捉えていた。

 

「だから……自分を傷つける貴女を、その貴女自身からも、他の何者かからも守ってあげたいの。辛い事が有ったら何時だって私に甘えて欲しいし、全部、受け止めたいって、思ってる」

 

 何もかも、私を苦しめる全てから守ってくれそうな言葉に、私は抵抗を覚えた。守られるだけの自分で居るのは、絶対に嫌なのだ。

 

「私は、そんな……」

「ほむらちゃん」

 

 私が話そうとしたその瞬間に、ケンナは私の名前を呼んだ。

 私が口を噤んだのを見ると、ケンナはそっと私の背中に手を回し、髪を撫でてくれた。

 

「貴女はね、大切な人に自分が何かしてあげられると知った時、躊躇わなくて、自分を傷つける事だって、簡単に出来てしまう……私ね、知ってるんだよ?」

「ケンナ……?」

 

 私に名前を呼ばれると、彼女は小さく俯いて、今まで堪えていた物を吐き出す様に話し出した。

 

「ごめん、本当にごめんね。急にこんな事言っちゃって、わけわかんないよね、気持ち悪いだけだよね……貴女にとっては、私は、まどかに似てるだけの、この間会ったばっかりの転校生だもん……でも、私にとっての貴女は……」

 

 それ以上は言葉に出来なかったのか、彼女は声を止めて口を閉ざした。呼吸すら止めている様で、吐息すら聞こえ無くなってしまった。

 だが、だが。これは。彼女が口にした言葉は聞いた事が有る。いや、それを忘れる筈も無い。だって、それは私が、まどかへ告げた事の有る言葉なのだ。私が最後にまどかへ縋った時に、思わず言ってしまった事だったのだ。

 他の誰かが聞いていた訳でもない。だから、私に対してこの台詞を口にする事が出来るのは……つまり、そういう事なのだ。

 

 それが、何よりも雄弁に彼女の正体を明かしていた。

 

 

 

「貴女は……」

 

 致命的な質問を前にして、全身が痙攣する程の恐怖に襲われる。だが、その程度が何なのか。意志の力でねじ伏せて、私は遂にそれを口にした。

 

「貴女は、まどかなの……?」

 

 ずっと聞きたくて、でも、怖くて聞けなかった事。それを、私は口にしていた。ただその質問をしただけで、背筋が凍りそうになる。不安と希望の間で揺れる感情が、酷く震えている。

 でも、私の内心の変化など、ケンナが見せた物に比べれば大した物ではなかった。

 

 ケンナは、激烈な反応を示していた。私が尋ねた瞬間、電撃に撃たれた様な顔をしたかと思うと、表情を消していた。唇を血が出そうな程に噛んでいる姿は、激情を抑え込んでいる姿にしか見えない。

 それはまるで、何かに対して心の底から呪い殺さんばかりの怒りを覚えている様な……彼女の様な可愛らしい人が、決して見せないであろう気配だった。

 彼女は私を抱き締める事を止めて立ち上がり、一歩離れる。それが私達の精神の距離に思えて、何故か悲しく感じる。

 私をじっと見つめて、彼女は両手を強く握り締めた。それから、冷徹にも見える表情を作り、今までを遙かに越える重い声音を発した。

 

「……暁美ほむら。貴女は、この世界が尊いと思う? 不幸な事も、悲しい事も、憎らしい事だって沢山有るこの世界は、守っていくべき物だと思う?」

 

 唐突な問いかけに、私は戸惑いを隠せなかった。彼女の言葉にしては、それは余りにも抽象的で理解の及ばない物でしか無かった。

 でも、決して無視して良い物ではなかった。慎重に言葉を選び、嘘を吐かない様に自分の意志を定めて、目一杯の想いを返答にする。

 

「……私は……尊いと、思うわ……」

 

 何故なら、あの子が望んだ世界だから。

 ただ、私個人として、もう一つ付け加えなければならない。私の返事を何処か苦しそうに聞いている、まどかに対して。

 

「でも、でもね。まどか、この世界なんかより、私は、貴女が……」

「私も、ほむらちゃんの言う通りだと思うよ」

 

 一度、私の言葉を止めさせると、彼女は困った様に目元を緩めた。

 

「それとね、私は、環之小鳥ケンナだよ。まどかじゃないもん」

 

 その時の彼女には、もう冷たい雰囲気は消えていて、明るく、まどからしい気配を漂わせていた。

 私は、何も言えなくなった。彼女の態度が私の返事を聞く物ではなく、独り言でも口にする様な要素が含まれていたから、というのは、理由の一つでしかない。

 私の口を閉じさせたのは、そんな事ではなかった。

 

「もう、帰らなきゃね。明日は、ワルプルギスの夜だから」

 

 口を閉ざしたままの私へ微笑んでくる。

 

「また、こんな風に一緒にお話が出来て。私に笑いかけてくれて、本当に嬉しいな」

 

 感慨深げに呟くと、ケンナはもう一歩私から離れた。呼び止めたいと思ったけど、声が出せない。

 

「ありがとう、それだけで、私はもう最高に幸せだよ。何も、後悔なんか、一つも無い」

 

 紛れもない感謝の言葉を口にすると、彼女は私から背を向けた。その背中が、仄かな寂しさを漂わせている様に見えるのは、私の自分勝手な思い込みだろうか。

 どちらにせよ、私が固まっている内に、ケンナは歩き出していた。背の高さも、髪の色と長さも、今の私には気にならない。

 私は、呆然とした様に座り込み、その背中を見送った。

 

 頭の中で、彼女の名前が何度も響いている。彼女が自分の名前を口にした瞬間から、ずっと。

 

 

 わのことり けんな

 

 WANOKOTORI KENNA

 

 ENKAN NO……

 

 

 

 

 

+----

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし、さやかちゃんだけど?」

「夜遅くに電話しちゃってごめんね、さやかちゃん。どうしても、話がしたくて」

「ん? あたしに話って……ああ、そっか。ほむらと色々話したんだね。正体は、バレた?」

「ちょっとだけ、ね」

「そう……」

 

 

 

 

「――それで、ほむらの事は分かったの?」

「うん、分かったよ。もう、大丈夫」

 

「迷惑かけちゃってごめんね、さやかちゃん」

「謝らなくて良いって。あたしはほむらと距離取ってれば良いだけだけどさ、あんたは傍に居る分、あたしよりずっと辛いでしょ」

「そんな事、無いよ。ほむらちゃんと一緒に居られるのって、凄く幸せだから」

 

 

「その幸せを明日で終わらせて、本当に……良いの?」

「良い、の。ほむらちゃんの為にも、ね」

「そっか。でも、泣きたいなら泣いても良いんだよ。あたしで良かったら、愚痴だって相談だって何でも聞くからさ。何だったら夜通し話そっか?」

「……えへへっ、ありがとう。さやかちゃん。そう言って貰えるだけで、十分だよ。今まで、ずっと助けて貰ったんだもん。これ以上頼っちゃったら、私、駄目になっちゃう」

 

 

「さやかちゃんこそ、良いの?」

「良いんだよ、あたしは。気にしないで」

 

 

 

「……まあ! 何にしてもワルプルギスの夜を突破しないとね。あ、なぎさは不参加だっけ?」

「……ほむらちゃんを知ってる子だけで、決着を付けたかったからね」

「ふーん。あんたって、本当にほむらの事が好きなんだね」

「それは、その。その通り、だけど」

「照れない、照れない。はは、外見は本当に良い感じなのに、中身はあたしの親友のままだなぁ、もう」

 

「それにしても、ワルプルギスの夜がどうしてこの世界で現れたんだろうねー。魔女の方は知ってるけど、魔獣にも同じ様なのが居るんだっけ?」

「それに関しては、一つ仮説が有るよ」

「あ、いや。良いよ、難しそうだし聞かないでおくわ……まあ、この世界の観測に徹してくれてるなぎさに感謝かな。あいつだって、マミさんと会いたい筈なのに、頑張ってくれてるよね」

「……」

「んー? どうしたの? 急に黙っちゃって」

「あ、ううん。ちょっと眠くなっちゃったの。ごめんね」

「いやいや、謝られる様な事じゃないって。じゃ、早く寝なよ」

「うん」

 

 

「さ、あたしも明日に備えて寝るよ。こんな電話、杏子に聞かれたら困るしさ。じゃ、おやすみー」

「おやすみ、さやかちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんね」

 

 

 

「本当に、ごめんね……さやかちゃん」

 




最後の部分は、あえて台詞オンリーです。
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