ラズリ・クックベリー/AR複合型Vtuber! 作:おおたつ
「今日はカスタードプリンを作っていこうと思う。材料はこちら。牛乳、適量。卵、適量。砂糖、適量」
”材料少ないな”
”(適量)”
”いつもの”
”プリンすき”
”ポーション瓶みたいなのあって草”
”レシピみせろー”
それはとある配信サイトで行われた放送のアーカイブ*1だ。
配信チャンネルの名前は『おおたつチャンネル』と言い、配信者の『おおたつ』が一人で活動している。
視聴者数は多いのだが、その視聴者の数に対してコメントの勢いは大人しい。その理由としては、この放送が料理番組に近くエンターテイメント性があまりないからだろう。純粋な料理番組として見れば、このチャンネルはよくできていると言える。
「まずはカラメルを作っていく。砂糖と水を耐熱性のプリン容器に入れ、電子レンジで加熱する。フライパンでもできるけど焦げ付いて面倒なのでレンジでいいと思う。水分が多いとうまく固まらないので、最初どろどろでも丁度いいくらいだ。因みにキャラメルとカラメルの違いは英語読みかフランス語読みかの違いでしかないが、キャラメルと言えば牛乳や生クリームを煮詰めて作ったものを指す。英語圏だと読みは区別していないと思うのだが気になったら調べてくれ。あとはカルメ焼きも似たような感じだったと思う。中学校の頃に作ったよな? 理科の時間だ。懐かしい」
そう言うと手順の通りに容器を2つ取り出して砂糖を投入する。
”カッコいいココットですね”
”喋り始めた”
”よういい加減なことが言えるな”
”正直聞き流してる”
”中学生かぁ……思い出せない”
”そんな未来もあったかもしれない”
”小学生がおるぞ”
”まずプリン容器がない”
「プリン容器は何でもいいよ。耐熱ならガラスのコップでも。思ったより上下に潰れるから縦長でもいい。湯のみでやると茶碗蒸しになるけど。……いや、何に入れても大体茶わん蒸しだわ。透明な容器だと見た目はいいんだが」
コメント欄が盛り上がっていても配信者はそのごく一部にしか反応できない。盛り上がるほどコメントの流れは速くなるし、何より料理の最中は目が離せないのだ。
「そうしているうちにいい色になってきた。焦げ色だ。身体に悪そう。目を離すとすぐに焦げるので、しっかりと見ておくこと。沸騰して褐色化してきたら、熱湯を加えて混ぜる。少しでいい。熱湯は電気ポットの中に……そういえば熱湯って最初に書いてなかった。追加しておこう」
”結構目を離して喋ってましたが”
”最初も何もレシピ表示されてないですよね?”
”仕様だよ”
”だがレシピは実在する”
”配信のどこかにサブリミナルレシピが……?”
”サブリミナルレシピって何だよ”
生放送であるので、ミスがあってもそのまま続行する。そして、一人で話し続けているといつの間にか
「熱湯を入れるとしゅわしゅわと湧き上がるモノがある。混ぜろ。焦げっぽい感じが嫌い人もいるだろうけど、その場合は色を見て途中でやめてもいい。でも焦げてないカラメルって存在価値無いよな? でもって次はプリンの本体、プリン液。牛乳と卵と砂糖を入れて混ぜる。混ざったら濾しながら容器に入れる。どうやっても少しは混ざるから妥協も必要」
”めっちゃ泡噴くやん”
”音が怖い”
”暴論だよぉ!”
”雑ぅ!”
「そしてこれを電子レンジに入れ、加熱」
電子レンジで調理する場合は、すぐに決着がつくので中を確認しながら進めていこう、と動画の中で続けている。
「卵については卵白を減らして卵黄の割合を増やすと濃厚な味になる。卵白残ってもメレンゲ作るくらいしかできないから僕は全部入れちゃうけど」
大抵の配信者は料理一つに完璧を求めるほど料理人ではない。
「ここで失敗したプリンの写真があるので見ていこうと思う。その1、カラメル部分が混ざった色になったモノ。カラメルソースは静かに上から入れるとかどこかで見たんだけど普通に混ざった」
”茶色で草”
”でもまあ美味そうよ”
”染みみたいですね……”
”比重が違うんじゃない?”
「その2、気泡ができたモノ。加熱しすぎて沸騰した」
”盛り上がり過ぎだろ”
”集合体恐怖症の画像みたい”
”ヒェッ”
”ぶつぶつ……”
”月面クレーター”
酷い言われようだ。だからこその失敗作なのだけれども。
「その3、半生」
”崩れてるが”
”重力に負けた者の末路”
”死んだスライム”
”もっと固められなかったんか?”
”焼き直せ”
”細胞分裂”
コメント欄はこんな大喜利大会みたいになってたのか。最近の若者ってすぐにNG出すよな。僕もこれにはNG。でも表面は固まっているように見えたんだもの。
「あっ、できた」
動画の中ではレンジの中身を取りだしたところだ。
「うん。まあまあいい感じ。レンジだと中まで火が通るのできれいに固まる」
問題はこの後。
「ご主人様~。お風呂湧きましたよ~」
その時、世界が止まった。
そして加速。
”えっ? 何? ご主人様?”
”女の声だ”
”ふぁっ!?”
”うわぁい!”
”ご主人様で草”
”彼女か?”
”誰!?”
”どんなプレイだ”
”いやメイドとかでしょ”
”やべー奴だ!”
”はい炎上”
”祭りだー!”
こんな盛り上がり方は求めていなかったのだが。
「何をする、やめろ!」
「えっ? きゃあっ!」
画面を映していたカメラ(とそのカメラ台)が倒れ、画面が横向きになる。
”ハ プ ニ ン グ”
”突然の死で草”
”いや実際死んでるよ”
”画面外で何が起こっているんだ……”
「なんですか? 今、えっと」
「ちょっと来い」
バタン
扉が閉まる音とともに、少しの静寂が訪れる。
”死んだな(確信)”
”結局何だったんだ?”
”いやーまさかな”
”ショックだわ”
”ご主人様はやべーよ”
コメント欄が高速で流れていく。こうして見ると空白の時間が大きい。
しばらくの後、そろりと部屋へと入ってくる音が聞こえた。倒れていたカメラが起こされる。
『おおたつ』の姿が画面の中に表示される。
「大変お騒がせをした。僕から一つここで発表がある」
どうしてこんなことをしたのかよく覚えていない。
薄々気がついている人もいるかもしれないが、この話の語り手はこの僕、おおたつである。
”説明はあるんですよね?”
”声震えてますよ”
”まて、早まるな”
”弁明をしろ!”
「分かった分かった。それでは、おいで……紹介しよう。おおたつチャンネルの新メンバー『ラズリ・クックベリー』だ」
そうして画面は切り替わり、真っ白な画面の中に登場したのは一人の女の子。碧眼に金色のロングヘアー、付けているカチューシャから鳥のくちばしのようにオレンジ色のリボンの耳が頭の右側へと伸びている。服装は落ち着いた色のクラシカルドレスで、全体的におっとりした印象を与える。
そして、非常に重要な点として、彼女はアニメーションでできたアバターであった。
「皆さんこんにちは! ラズリ・クックベリーです! この度えっと、ご主じ……おおたつと一緒に活動していくことになりましたので、よろしくお願いします!」
バーチャルである。
◇ ◇ ◇
炎上した。