Fate/清っと Order   作:ブレイブ(オルコッ党所属)

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 疲れました。
 ドシリアスって凄い疲れるし、何よりも推しの悲しい姿を書くと胸が痛い。

 それでも書いたぜ。前々から機会があれば書きたかったので。

 たぶんこのシリーズでは最初で最後のシリアスでしょう。



清姫との馴れ初めを 【後編】

 清姫と恋人らしいことはしなくても恋人という関係になってから結構たって。清姫との繋がり、魔力パスも8までいって。

 

 それなりに順当な毎日を過ごしていた。

 

 だがある日。魔力パスが9になったあたりから清姫の様子がおかしくなった。

 

「ますたぁ!! 何処!? 何処に居るのですか!?」

「え、清姫?」

 

 背後からストーキングしていた清姫が突然悲鳴を上げる回数が多くなった。

 

 清姫が時々怯えるように身体を震わせることが多くなったと他のサーヴァントから聞くことが多くなった。

 

 ダヴィンチちゃんや医療系サーヴァントに見せても、目立った以上はないと言う。

 

 そして

 

「愛しております。旦那(安珍)様」

 

 俺を安珍と呼ぶ回数が格段に増えた。

 

 

 

 

 清姫が何かに怯えるという症状は消えた。

 一時の霊核の不具合では? という形で落ち着いたが。

 

「安珍様」

 

 俺を安珍と呼ぶことが更に増えた。

 

 唐突に俺は不安になった。

 俺から清姫に好きだと言っても、彼女の目には何が写っているのだろう。

 

 彼女の目は間違いなく俺を見ていた。

 それだけは確かなのに。

 

「安珍様」

 

 彼女は俺を見ているのだろうか? 

 その思いがふつふつとたまっていった。

 

「清姫は俺のこと好き?」

「はい、大好きですよ」

「俺と安珍ならどっちが好き?」

「変なことをおっしゃいますね。ますたぁは安珍様の生まれ変わりなのですか。優劣をつけるなど出来る筈がないでしょう?」

「じゃあ………………俺が安珍の生まれ変わりじゃなかったら好きになることはなかった?」

「安珍様の生まれ変わりではない? そんな筈ありません」

「もしもの話………」

「ありえません。わたくしが安珍様を見間違える筈がありませんわ」

 

 本当に彼女の目に俺は写ってるのだろうか? 

 

「そうだよね。ごめんね、変なこと聞いて」

「大丈夫ですよますたぁ」

 

 

 

 

「わたくしは何も気にしておりませんから」

「………………」

 

 本当に? 

 と聞きそうになった。

 

 それからも俺は清姫に愛の言葉を言い続けた。

 俺が好きだと言うと彼女は喜んだ。

 

「わたくしも愛しております」

 

 いつからだろう。彼女からの愛の言葉に心が弾まなくなった。

 むしろ虚しさに似たものすら感じた。

 

「おぇ………」

 

 時折清姫に隠れて吐いたことがあった。

 ご飯も喉を通らず、それでも食べなきゃいけないと思った。

 

 清姫が炊事当番の時があった。

 目の前には愛の込められたご馳走が広がっていた。

 

 けど。

 

「あ、あれ?」

「先輩?」

「ごめん、なんか食欲わかない」

 

 これはだれをおもってつくられたりょうりなのだろう? 

 

 清姫のほうを向くと、彼女は俺に笑いかけた。

 

 そのえがおはだれにむけられたもの? 

 

 その時、俺は気づきかけた。

 だけど必死にそれを押さえつけた。

 

 見たくない! そんなもの見たくない!! 

 

 清姫の笑顔が、張りつめた仮面のように見えたのだ。

 

 気持ちが、悪い。

 

 まるで目の前で他人の相瀬を見せつけられてるような気分だった。

 

 

 

 

 

 俺は清姫が好きだ。

 間違いなく、彼女のたくましくて、そして美しいその姿に心を惹かれ、その一途差に嬉しくなった。

 

 それなのに。彼女といると心が痛い。

 

 彼女が安珍の名前を呟く度に心が痛い。

 

 降り積もって、降り積もって。

 塵は山となり、俺の心に突き刺さり始めた。

 

 

 

 極小特異点で俺は怪我をした。

 なんとか特異点は修復したけど。敵の攻撃をもろに食らった俺に救急処置がなされた。

 

 必死に俺を呼ぶ声が聞こえた。

 

 誰の名前を呼んだかわからない。

 だけどその声は悲痛に満ちていた。

 

 泣かないで欲しい。

 そう思いながら眠りにつき。

 目が覚めると彼女が俺の足元で眠っていた。泣いていたのか、目元に涙の後があった。

 

「清ひ………」

「安珍様………」

 

 ビクリと、伸ばそうとした手が震えた。

 

「お願い………わたくしを、置いていかないで………」

「………………っ!!」

 

 痛い。

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

 

 胸が痛い、呼吸が苦しい。

 

 身体は完治していて痛みがないのに。

 痛い。胸が張り裂けそうだ。

 

 

 

「ますたぁ? 目が覚めたのですね! よかった」

「………」

 

 

 誰を見てる? 

 

 

「目が覚めなくて、あなたが居なくなるのではないかと不安で不安で」

 

 

 誰に話してる? 

 

 

「もう二度と離れたくありません。本当に戻ってくれて良かった」

 

 

 誰を想っている? 

 

 

「■■様──」

 

 

 

 そこに居るのは誰なんだ? 

 

 

 

「──愛して………」

「やめろ!!」

「………ますたぁ?」

 

 

 叫んだ。胸の痛みはより強くなった。

 伸ばされた腕を払った。払った手が凄く痛んだ。

 

 清姫が怯えているのが分かった。

 でももう止まらない。もうおさえがつかない。

 

 もう、自分に嘘はつけない(を誤魔化せない)

 

「なんで君は俺を見てくれない!?」

「え? わたくしはますたぁを見て………」

「なんで俺と話をしない!?」

「ますたぁと話を」

「君は誰を想っているんだ!?」

「わたくしは………」

 

 怯える彼女の目に俺が写っていた。

 

 悲しそうで、そして怒っていた。俺の顔が。

 ガラス玉のように見えた。

 反射してるだけに見えた。

 

「わたくしはあなたを愛しています」

「それは誰だよ!」

「勿論安珍様で 」

「俺は安珍じゃない!!」

 

 ピシッ

 

「だ、旦那様?」

「なんで俺を見てくれない!? 目の前にいるのになんで俺を見ない!? 君と話してるのは俺だ! 君と共に戦ったのは俺だ!! 俺を好きだと言っておきながら! なんで君は別の男を夢見ているんだ!!」

「それは………」

「なんで俺を好きだといいながら! どうして俺を好きだと言ってくれないんだ!!」

 

 ピシッ

 

「何を言っていますの?」

 

 ピシッ

 

「わたくしはあなたが好きなのですよ?」

 

 ピシッ

 

「嘘をつくな」

「?????」

 

 ピシッ、ピシッ

 

「俺は、嫌いだ」

「………………………………………………………………………………………………………………………………………………え?」

 

 ピシピシピシピシピシピシ──────

 

「俺を見ようともしない清姫なんか。大嫌いだ!!!」

 

 ──────バリンっ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと清姫は俺の令呪一画を強制起動し、宝具を暴走。

 

 運がいいことに清姫の様子がおかしいことは周りも分かっていたみたいで、その日は部屋の前で待機していた玉藻が助けてくれました。

 

 俺は清姫の宝具の余波で吹き飛ばされて気を失って、気がつくと俺はカルデアのベッドの上。

 ダヴィンチちゃんにしこたま怒られました。状況が状況とはいえ、俺は欠けることが許されないマスター。

 その場の感情で、なんて言い訳は通るはずがなく。俺は黙ってお叱りを受けました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのあと、清姫は俺の前に姿を見せなくなった。

 他のひとに聞くと。あれから自分の部屋にこもって外には出ていないという。

 

 そのまま数日。俺は清姫の部屋の前に行くことなく。そのまま距離をとった。

 

 俺は謝ることすら出来ないまま。

 いや………単純に清姫と話すのが怖くてそのまま距離をとった。

 

 

 

 

 

 

 

「マスター、少しよろしいですか?」

「まーちゃん、少しいい?」

「どうぞ」

 

 マスターとしての書類を纏めていると玉藻の前と刑部姫が入ってきた。

 

「まーちゃんお願い! きよひーに会ってあげて!!」

「え?」

「私からもおねがいします。いまの清姫さんは見るに耐えられません」

 

 清姫、部屋から出たの? 

 

「いえ、そこは私がみこっと強引に部屋に入りまして。サーヴァントは食事を必要としませんが。清姫さんが一週間もマスターに会わないのはゆゆしき事態です」

「きよひー、結構やつれてた。このまま引きこもって腐っちゃう勢いで心配なの」

「引きこもりのあなたがそれ言います?」

「タマモっち黙ってて! 今シリアスな話でしょ! ていうかく、腐ってないし!」

 

 嘘だろそれは。

 

「来てくれて悪いけど。俺は清姫には会わな

 い」

「清姫さんに会うのが怖いのですか?」

「それはそうだけど。それだけじゃないよ」

「じゃあなんで」

「今さら何を言えばいいんだよ」

 

 清姫自身が怖いというのもあった。

 だけどそれ以上に彼女の存在を殺し(壊し)てしまった自分が怖かった。

 

 なんであんなことを言ってしまったのか。

 今でも夢に出るぐらい後悔の念がある。

 

「で、でもまーちゃんはきよひーの彼氏でしょ?」

「それは違うよ」

 

 思えば清姫は俺の名前を呼んでくれたことはなかった。

 

 いつだって旦那様、ますたぁ、安珍様。

 俺のことを藤丸(・・)と呼んでくれたことは一度だってなかった。

 

「結局俺は最後まで彼女の安珍になれなかった。それでもいいと思って彼女を好きになったのに。最後の最後で安珍に嫉妬してあんな酷いこと言って────俺は清姫に相応しくなかったんだ」

「そんなことない! まーちゃんは」

「俺はあのクソ坊主となんら変わらない!!」

 

 彼女を拒絶した! 

 

 彼と同じく、嘘をついて拒絶した。

 

 俺は彼女に「大好き(大嫌い)」と言ってしまった。

 

 俺は彼女に嘘をついた。

 

「清姫もこんな俺なんか愛想つかしてるよ。だって俺は安珍じゃないし。結局俺は安珍に──」

 

 ──勝てやしない。

 

「………まーちゃんの」

「ん?」

「お馬鹿ぁ!!」

 

 ベチン!! 

 

「いっったっ!?」

「馬鹿! 馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!」

「痛い痛い痛い!!」

 

 涙でグチャグチャの刑部姫にはたかれまくった。

 

「まーちゃんの馬鹿! まーちゃんなんも分かってない! きよひーのことなんも分かってない!!」

「そ、そんなの百の承知だ!!」

「違う!!」

「何が!?」

「きよひーずっと前から苦しんでたんだよ! まーちゃんと喧嘩する前から!」

「え?」

「きよひーがまーちゃんのこと見てないなんて! そんなことない! きよひーはずっとまーちゃんを好きだって! 安珍としてじゃなくまーちゃんを愛しているって想ってる!!」

 

 は? 

 

「それってどういう」

「そこは私から説明しますね。はい、刑部姫さんは少し下がりましょうね」

「グスッ、ズズッ、ズビー!」

 

 刑部姫が備え付けのティッシュで鼻を噛んでる間に玉藻が話してくれた。

 

「1ヶ月前。清姫さんの様子がおかしくなったのはマスターも承知の上のはずです」

「うん。いつも以上に安珍と呼んだり。時々凄く怯えたことがあった」

「はい。実は一部とはいえ、清姫さんの狂化が薄れていたんです」

「え?」

 

 清姫の狂化。

 それは召喚者を安珍の生まれ変わり、安珍と認識して恋愛を感情を抱く一種の認識阻害。

 

「俺を俺だと認識していたことがあったということ?」

「必ずそうだと言うわけではありませんが、その通りです。それ故に彼女は安珍様を見失ったという認識に陥っていたことがありまして」

「本当なのか?」

「ええ、そして清姫さんは段々と気付いていったんです。自分が愛した人が安珍様でも安珍の生まれ変わりではないのではと」

 

 あの時の怯えはそういうことか。

 

「恐らく彼女とのパスが深まった結果でしょう。彼女の認識ではなく、パスを通してあなたの本質。本当の身姿を認識した結果、狂化のフィルターに不具合がかかったのでしょう」

「じゃあ俺を安珍と呼び続けたのは」

「一種の自己暗示。マスターが自分の想い人だった安珍の生まれ変わりということの再確認。自分の愛する人が側にいるという安心感。自分から逃げないでほしいという願い。彼女はマスターを安珍と呼ぶことで心の平穏を保ち続けていたんです」

 

 そういえば。彼女に安珍と呼ばれた時に返事をしてあげたらホッとした顔をしていた。

 

「でも、結局俺を安珍としてしか見てないってことには変わらないんじゃ」

「確かに。それは彼女のサーヴァントとしてのあり方です。ですが、それ故に清姫さんは苦しんでいました」

「さっき言っていたのとは別の?」

「考えてみて下さい。彼女はあなたを安珍と呼んでいた。安珍として愛していた。ですがふとそのフィルターがなくなり。あなたを藤丸という安珍とは違う別人だと気付いてしまった。そうなった場合、あなたを安珍様だと言っていた清姫さんの言葉と認識はどうなりますか?」

 

 玉藻の説明に俺はハッと口許を抑えた。

 俺は安珍じゃない。そうなった場合。

 

「清姫が嘘をついたことになる」

「はい、嘘を誰よりも嫌う自分が誰よりも罪深い大嘘つき。清姫さんは現実と狂化の板挟みになっていたんです」

「………」

 

 衝撃の事実に開いた口が塞がらない。

 だけとそれで終わらなかった。

 

「そして清姫さんが危殆したことがもう一つあります。それはマスター、あなたのことです」

「俺のこと?」

「はい。マスターは清姫さんと付き合い始めたあと。彼女が自分を安珍と言っていることに対して肯定的にとらえました」

「うん………あっ」

「安珍ではないあなたが自分を安珍だと認めた。フィルターが外れた清姫さんにとって、それは嘘となったのです」

 

 つまり、嘘ではないことが嘘に裏返った。

 

「で、でも。俺は一週間前まで令呪を強制消費されていないぞ!? それに彼女から危害を加えられてなんか────その為の自己暗示」

「はい、あなたが安珍ではないと認めてしまえば。嘘を付き続けたあなたを殺めてしまうことになる。清姫さんはいつかマスターを手にかけてしまうのではと感じ、自身の狂化を薄れさせないための行動に出たのです」

「全然気付かなかった」

 

 俺を安珍だと認識し続ければ、その嘘は嘘ではなくなる。

 だからあんなに俺を安珍と呼び続けたのか。俺を殺したくなかったから。

 

 あの笑顔の裏にそんな苦悩があったなんて。

 

「皮肉ですね。嘘を誰よりも嫌悪する彼女がマスターを守るために嘘を嘘で塗り固めるとは」

「なんで………」

「?」

「なんで清姫はそこまでする。なんでそこまで出来る。俺は、安珍じゃないのに………」

「あなたの側に居たかったから、あなたに心配をかけてほしくなかったからです」

「あいつは、どこまで………」

 

 ………………………

 

「玉藻」

「なんでしょう」

「………俺は、清姫に会う資格があるのか」

「それは私が決めることではありませんわ」

「………そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉藻と刑部姫がついてくるなか。

 目線の先には清姫の部屋の前で背中を預けているエミヤの姿が。

 

「マスター?」

「エミヤ。そこをよけてくれるか」

「清姫に会うつもりか」

「うん」

 

 俺が頷くと、エミヤは今までで一番険しい顔をした。

 

「マスターといえど承服しかねる。自分が何を言ってるのか分かっているのか」

「うん。でも会わないと何も始まらない、なにも終わらせられない」

「………」

「出来れば令呪は使いたくないな」

「脅す気かね」

「まさか。俺が本気でエミヤを脅すならギルガメッシュから聞いた自分殺しの話をカルデア中に流すって脅すよ」

「あの慢心王!」

 

 更に険しい顔になった。

 

「だからこれはお願い。清姫の部屋に入れてくれ。清姫と話がしたい」

「話をするだけならここだけでも出来るだろう」

「目を見て話さなきゃ駄目だ。頼む!」

 

 頭を下げた。

 サーヴァントに頭を下げる。魔術師からしたら前代未聞。

 だが俺からすればそんなの日常茶飯事。人に物を頼むなら頭を下げる。当たり前のことだ。

 

「俺はマスターのサーヴァントだ、マスターの意見は尊重する。だがマスターのサーヴァントだからこそ、マスターの安全を最優先とする。清姫がこれ以上マスターに牙を向くならば私は躊躇うことなく清姫を射つ。その場合、清姫の霊基凍結も視野に入れなければならない」

「承知の上だよ」

「………わかった」

「ありがとうエミヤ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「清姫」

「!!」

「入るよ」

 

 暗い室内。

 清姫はベッドの上でシーツにくるまっていた。

 

「清姫」

「来ないで!」

「ごめん、それは出来ない」

「来ないでください!!」

 

 扇子が振るわれる。

 青い炎が室内のあちこちから立ち上った。

 

「マスター!」

「令呪三画を持って命ず! もう少し待ってくれアーチャー!!」

「くっ!?」

 

 エミヤの身体に赤い電気が走り、彼の身体を拘束する。

 

「血迷ったかマスター! 令呪を全て捨てるなど!!」

「そうだな。でも元々令呪は捨てるつもりだった。それに、カルデア式令呪じゃその場しのぎにしかならないし」

 

 というのは建前だけど。

 

 これで俺はマスターではなくただ一人の人間。

 藤丸というただの男になった。

 

「清姫。話がしたい。こっちを、向いてくれるかな」

「駄目! 来ないで! 見ないで!!」

「………ごめん」

 

 彼女の身体を隠すシーツを取り払った。

 

「いや、だめ、見ないで下さいまし。こんな、こんな醜い姿」

 

 清姫は普段の浅葱色ではなく、黒と金の着物に白い髪、黒い角の第三再臨の姿だった。

 だが彼女の手足と頬には蛇の鱗が浮かび上がり、目は白目が黒く、虹彩は赤く、瞳孔は蛇の様に変化し、口は蛇のように裂けていた。

 

 蛇の妖が女の子に化けた。まさにそんな見た目だった。

 

 一瞬身体が強ばったけど、臆することなく清姫の前に座った。

 

「話は玉藻から聞いた。清姫が苦しんでいたことも。そして俺の為に行動してくれたことも」

「安、ちんさま」

「もう無理に呼ばなくていいよ。いや、呼びたいならいくらでも呼んでいい」

「あっ………」

 

 震えるその身体を抱き締めた。

 その身体はとても冷たくて、凍えていて、それでいて確かな熱があった。

 

「俺は最低なクソ野郎だ。清姫に一番ついちゃいけない嘘をついて。俺は、安珍と変わらない大嘘つきだ。

 でも俺は、清姫が大好きだ。心の底から好きだ。初めは少し苦手だったけど。段々と心惹かれていって。いつの間にか好きになった」

「………」

「いまさらなに言ってんだって思う。だけどこれだけは絶対に伝えたかった」

「………」

「ごめんな清姫。こんな馬鹿な俺の為に嘘をついてくれて。本当にごめん。つらかっただろう。不安だっただろう。ごめん清姫、安珍じゃなくてごめんね」

 

 俺が本当に安珍の生まれ変わりなら清姫がここまで傷つくことはなかっただろう。なんて身も蓋もないことを考えた。

 

「俺はこれからも清姫と一緒にいたい。俺を見てくれなくてもいい。俺は嘘つきだから焼き払っていい。俺は安珍じゃないから焼いていい。でも清姫がこれ以上苦しむぐらいなら、俺は清姫の前から永遠に姿を消すよ」

「ますたぁ」

「だけど清姫。願うなら、願うことなら」

 

 身体を離して清姫と正面から向かい合った。

 

「俺を清姫の安珍として。側にいることを許してくれないか。俺を、藤丸と見なくてもいいから。それでも君の側にいたい」

「っ!」

 

 考えて考えて考えて行き着いた答え。

 俺個人として見なくてもいい。

 彼女が俺という存在に恋をし、愛を説くなら。

 俺は全てを受け入れる。もう一度清姫の手を握りたい。今度は絶対に手離さないように。

 

 なんて自分勝手で狂った考えだろう思う。

 10人に聞いても9人がそんなの間違ってると言うだろう。

 

 自己満足だと言われてもいい。ごっこ遊びでも、依存してるとも、イエスマンだと言われてもいい。

 

 何とでも言えばいい。

 

 俺はそれでも清姫と一緒に居たい。

 このバーサーカーと共に生きていきたい。

 

 これは俺の嘘偽りない本心だ。

 

 告白してからしばらく清姫はうつむいた。

 部屋は変わらず燃え盛ったまま、エミヤの拘束もとっくに解けている。

 

 それでも俺は待つ。

 たとえ拒絶されようとも。

 この身を紅蓮の炎に焼かれようとも。

 それが清姫の答えなら俺は受け止める。

 もう絶対に取りこぼしたくないから。

 

 

 

「ますたぁ」

「なに?」

「わたくしは………嘘をつきました」

「うん」

「あなたは安珍様ではないのに。わたくしの恋を押し付けて」

「うん」

「本当に愛しておりました」

 

 わかっている。

 それだけは絶対に嘘じゃない。

 

「段々とますたぁと過ごしてるうちに。自分でも気付かないもやが薄れる感じがしました。安珍様が目の前に居るのにも関わらずわからなくなって。もしかしたらますたぁは安珍様ではないのではないかって。あなたを遠ざけるように安珍様の名前を呼び続けて。とても怖くなりました」

「うん」

「あなたを、傷つけて。わたくしは、嫌いと言われてもしょうがない女です」

 

 清姫の目から涙が滴り落ちる。

 段々と量を増やし、着物を濡らしていった。

 

「それなのにわ、わたくしは。また同じ過ちを犯してしまった。あなたを殺そうとした。わたくしは、何処まで行っても醜い怪物なんだって………」

 

 そんなことないって言いたい。

 

「わたくしは、あなたを手にかけることが恐ろしかった………なのに、あなたはこんなところまで来て、令呪も捨てて………」

 

 大馬鹿野郎だよね。

 

「わたくしは嘘が嫌いです。でも一番の嘘つきはわたくしだった。わたくしはわたくしが大嫌いです。こんな醜いわたくしが大嫌い」

「………」

「でも………」

「でも?」

「………ますたぁが安珍様ではないかと気づいた後も、あなた様への想いは変わりませんでした」

 

 ドクリと心臓が脈打った。

 憶測でしかなかった。

 願いでしかなかった。願望でしかなかった。

 

「わたくしは愚か者です。この世でもっとも醜い嘘を吐き続けた愚かな女です。今もあなたに安珍様を感じてしまう、どうしようもない醜女です────それでも………わたくしは、あなたにゆるしてもらいたい、あなたを愛していきたいっ」

「っ! うん!うん、勿論!」

 

 

 お互い涙でぐしゃぐしゃだ。

 それでもしっかり目を合わせた。

 絶対にそらさないように。

 互いの言の葉を紡ぐために。

 

 

 

 

 

 

 

「愛しております安珍(藤丸)様」

「俺も愛してる。愛してるよ、清姫」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「とまぁ、こんな感じで仲直りした訳ですよ」

「そうか………」

「所長、もしかして泣いてます?」

「ノーコメントだ!」

 

 了解です。

 

「しかし………なんていうか。君は馬鹿だな!!」

「照れますね」

「褒めてないぞ! カルデア最後のマスターの自覚がないぞ! 令呪を全消費など!!」

「まあ、究極的な話。冷凍治療してる他のマスターに任せればいいかなと」

「無責任すぎるぞ!!」

「おっしゃる通りでございます」

 

 あのあと関係各所にしこたま怒られまくった。

 

「そ、それで。その後どうなったのかね」

「俺が耐火術式と耐熱術式をマスターすることを条件に清姫の残留が認められました。清姫の精神状態も通常まで回復しました」

「彼女の通常というと。また君を安珍だと呼んだのかね」

「ええ。でも俺のことを藤丸というただ一人の人間として見てくれる頻度も結構増えました。実はあの告白の時に清姫との魔力パスが10になったんですよ。愛の力ってやつですね」

「それ言ってて恥ずかしくないのかね」

「お望みなら更に言いましょうか」

「やめたまえ」

 

 その後俺は清姫に対する愛を包み隠さず全力でぶつけた。

 彼女に安珍と言われても気にせず。むしろ喜んだ。それが彼女からの愛の証だということを受け入れ、受け止めたから。

 

 カルデアの夢火も惜しげなく彼女に手渡し。惜しむことなく愛を伝えた。

 愛を伝えすぎて度々清姫が気絶することは何度とあった。

 

 清姫と攻守が逆転した。

 清姫と同等かそれ以上のラブバーニングバーサークマスターとなった俺は日々清姫に愛を爆発させていた。

 

「後は所長の知ったとおりです。清姫と一時の別れののちにまた再会して泣き崩れました」

「水溜まりが出来ていたな」

 

 そんな俺も清姫は優しく包んでくれました。マジ天使過ぎるあのバーサーカー。

 

「あ、通信」

『ハロハロー。ますたぁ、今大丈夫かい?』

「丁度話が終わったところだよ」

『それはよかった。今から私のラボに来て欲しい』

「了解、今行きます」

『まってるよー』

「………というわけで、すいません所長」

「いい。はやく行きたまえ」

「はい。クッキーご馳走さまです」

「こっちの台詞だ馬鹿め」

 

 軽く笑いながら所長室を後にすると、所長が呼び止めた。

 

「一ついいかね」

「どうぞ?」

「もし、もしだぞ? 安珍がサーヴァントとしてカルデアに現界したらどうするのかね」

「そうですねぇ。最初は来て欲しくないと思いましたし、来ても即お帰り願ってましたけど」

「いまは違うのかね」

 

 ええ。もしあいつがカルデアに来たら。

 

「令呪こめて殴ります」

「殴る!?」

「そのあと燃やします」

「燃やす!?」

「その後はちゃんと育てて」

「育てて?」

「陳宮の弾にします( ゚∀゚)」

「弾ぁ!?」

 

 素晴らしい笑顔で言ったのに所長が引いた。

 

「陳宮システムは絆上げ枠を圧迫するからあんま使いたくないんですけど。やつもキャスターでくるだろうし。NP配布持ってるといいなぁ、ガッツは………持ってないか、根性ないし」

「ちょ、ちょっとまちたまえ!」

「あ、大丈夫ですよ、最後はフェルグスと相部屋にしますし」

「死刑宣告ではないか!!」

「え? 何を言いますか。あんな可愛くてトランジスターグラマーな清姫の夜這いを拒否するなんてホモ坊主の何者でもないでしょう? むしろ感謝して欲しい」

「間違ってるのか? 私の認識が間違ってるのか!? いやそうではなくてだな!」

 

 怒涛のツッコミ乱舞に息を切らした所長は酸素をリロード。

 

「その、なんだ。もし安珍が来て清姫の気持ちがそっちに向いてしまったらどうするのかね?」

「渡しませんよ」

「いや理屈ではなく」

「渡しませんよ」

 

 

 

「大事な嫁をパッと出のイケメンに渡すぐらいなら、どんな手を使っても守りますし、奪い返しますよ」

「ぬっ!?」

「失礼しまーす」

 

 マスターが出た後、ゴルドルフはポスッと椅子に全体重を預けた。

 

「め、眼が笑ってなかったなぁ………イタタタ、胃が痛くなってきた」

 

 自分って部下に縁がないのでは? 

 ゴルドルフはそう感じながら胃薬を探した。

 

 

 

 ーーー◇ーーー

 

 

 

「あ、ますたぁ♡」

「待ってたのきよひー?」

「はい。これからどちらへ?」

「ダヴィンチちゃんとこ。一緒に来る?」

「勿論です、安珍様。………あっ」

 

 清姫と魔力パスの限界突破をなしえても。彼女は時たまに俺を安珍と呼ぶことがある。

 

 そういうときは決まって彼女はバツの悪い顔をする。

 

「ご、ごめんなさ」

「好きだぞきよひー!」

「ひゃあぁっ!? だ、旦那様!?」

 

 そんなときは思いっきり答えてあげる。

 もう安珍と呼ばれても気にしない。それどころか喜ぶ。そして感極まってハグをする。

 

 何故ならそれは清姫の愛情表現に他ならないんだし。

 

「よーし。マスター嬉しいからお姫様抱っこしちゃうぞー!」

「え、まってマスター。流石にそれは恥ずかしい」

「恥ずかしがるきよひーも可愛いね」

「え、ちょ、ひゃーーーーーー!!」

 

 そのままダヴィンチちゃんの工房までお姫様抱っこで爆走した。

 回りの人もいつものことかと笑いながらその様を眺めた。

 

 俺と清姫の関係は普通じゃないかもしれない。

 

 それがどうした。

 

 それでも俺と清姫は愛し合っている。

 

 その事実は絶対に嘘ではないんだから。

 

 こんな強くて可愛い子に好かれて、俺は世界で一番の幸せ者だ。

 

 




 個人解釈マシマシですが、これがマイカルデア清姫ヒストリーです

 自分的に満足です。

 面白かったら幸いです。感想宜しく

 では、私は第二回村正チャレンジに行ってくる!
 生きていたらまた会おう!!サラダバー!!

 キヨキヨカルデア紹介

 ぐだ男 とりあえずネームドは藤丸にした。名字かもしれない、名前かもしれない。だが謎は明かされることはないだろう。

 清姫 まごうことなきマスターの嫁

 所長 苦労人

 玉藻と刑部姫 清姫のズッ友。おっきーはこの後叩きすぎて手が腫れた。 

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