勉強以外全て不必要・・・とはいかなかったフータロー   作:ケンキチ

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衝動書きです。


出会いました

 5年前、京都で出会った一人の女の子と交わした約束の為、俺は変わることを決意した。

 

『必要とされる人間になる』

 

 その為に、クラスメートに頼み込んで今までやってこなかった勉強に専念した。同時に、『必要とされる人間』とは何かを考えた。勉強が出来る?いや、それだけじゃダメだ。必要とされるには他人からの信用、言わば信頼関係だ。それがいる。そして、ある程度の体力もいるだろう。最低限・・・そうだな、何も部活に入らなくていい。すぐにはバテないぐらいの体力、そして筋力もいるだろう。

 ただ、金色に染めた髪とピアスは不必要と切り捨てることが出来なかった。もし、また会った時に自分だと分かってもらうため。そんな淡い期待を込めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焼肉定食焼肉抜きで」

「はいよ」

 

 食堂のオバチャンにそう言い、トレーを受け取りいつもの席へ向かった。

 

「上杉、こっちで一緒に食おうぜ!席空いてるからさ!」

「悪いな、今日は武田達と食べる予定なんだ。また誘ってくれ」

 

 席に向かう途中、クラスメートからの誘いを、先約があると断り、目的の席にトレーを置いた・・・のだが、横を見るともう1人、机にトレーを置く女子がいた。

 

「えっと・・・」

 

 突然の事に少し戸惑い、隣の女子を見ていると、俺の視線に気づいたのか俺の方を睨んできた。

 

「あの!」

 

 声を荒らげるソイツは、眉間に皺を寄せ目元を釣り上げ、見るからにご立腹という様子だった。

 

「私の方が先でした。隣の席が空いているので移ってください」

 

 ソイツはそう言うと、隣の席を指さし、邪魔だと言わんばかりに先程よりも強く俺を睨みつけた。というか、なぜコイツはこんなにも腹を立てているんだ?

 

「なんですか?ジロジロと見ないでください」

「・・・悪い」

 

 そして、コイツが腹を立てている理由が分かった。どうやら転校生らしい。ウチの制服とは違う制服を着ている。転校初日ということもあって、慣れない環境で気が立ってるんだろ。

 まぁ別にあの席でないといけないって訳じゃない。俺は大人しく隣の席に座り、いつもの様に食事と勉強を始めた。

 

「・・・行儀が悪いですよ」

「あ?・・・あぁ、テストの復習をしてるんだ。気にしないでくれ」

「食事中にまで勉強なんて・・・。よほど追い込まれてるんですね」

「いや、そんなことは無いが」

 

 別に追い込まれるほど、俺の学力は問題じゃない。というか、失礼じゃね?俺たち初対面だぜ?

 

「何点だったんですか?見せてくださいよ」

 

 言うが早いが、隣に座っていたソイツは俺のテスト用紙をひったくった。

 

「ええ〜、上杉風太郎君。得点は・・・」

 

 別に見られて困るようなものでもないが、人のテストを許可なく見るってどうなんだ。

 

「・・・100点」

「だから言っただろう。そんなことは無いって」

 

 目の前の少女は、信じられないという目で俺を見てくるが、さっきから些か失礼ではないだろうか。人を見た目で判断するのは良くない。

 

「100点・・・なのに何故勉強を?」

「慢心しないためだ。今回取れたからと言って、次も取れるとは限らない。慢心は油断を産む。勉強において慢心など不必要だからな」

 

 まぁそんなこと言っても行儀悪いことには変わりないんだが。しかし、二宮金次郎は『ながら勉強』が許されたんだ。俺だっていいだろう。全く状況は違うが。

 

「と、言うわけだ。だからそのテスト返してくれないか?」

「あ・・・す、すいません。しかし、勉強が得意というのは羨ましいです。私はあまり得意ではないので・・・」

 

 先程までの勢いはどこへ行ったのか。途端にしおらしくなった彼女だが、すぐに何かを思いついたように手をパンっと鳴らした。

 

「そうです!せっかく隣同士になったんです。勉強、教えてくださいよ」

 

 俺が?何故?

 

「そ、そんなに嫌な顔をしないで下さいよ!」

「おっと・・・顔に出てたか」

 

 面倒くさい・・・そんなことしたら俺の勉強する時間が減るじゃねぇか。・・・・・・いや待てよ?確か今朝、妹のらいはから家庭教師のバイトがあると言われたな。しかも相場の5倍。もちろん、快くOKしたが。

 それに、クラスメートに勉強を教えるというのは今までに何回かあった。それに一人加わるぐらいのどうって事ない。今回の家庭教師も、生徒が一人とは限らない。多人数の教え方の勉強になるだろう。

 

「ま、とりあえず了解だ。できる限り俺が力になろう」

「本当ですか!?」

「あぁ。早速だか、今日の放課後は空いてるか?」

「えぇ、もちろんです!よろしくお願いします!」

 

 

 

 この時、俺は楽観視しすぎていた。今までの生徒同様、躓くとは言っても、すぐに理解のできる内容だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故この公式が出てくるんだ・・・?」

 

 放課後、俺と彼女・・・もとい中野五月と言う少女は図書室で勉強会を開いていた。

 

「分からない・・・何故円を求める公式でどこにもπが見当たらない・・・?なんだこのxは?どこから出てきた・・・!?」

「うぅぅ・・・お恥ずかしい限りです・・・」

 

 侮っていた・・・!まさかこれほどまでに頭が悪いとは・・・ッ!!しかし、一度引き受けたんだ。投げ出すなんて事はありえない。

 

「だ、大丈夫だ。少し目眩がしたが、大丈夫だ」

 

 中野五月・・・真面目なんだろうが、何故こうも頭が悪いんだ?見たところノートもちゃんととってある。先生からの説明もキチンとメモしてある。普段家で勉強をしていない・・・のか?

 

「失礼なことを聞くようで悪いが中野。お前は家で勉強とかはしてるのか?」

「えぇ。予習復習は毎日欠かさずやっていますが・・・。それが何か?」

「いや・・・そうか、それならいいんだ」

 

 ちゃんとやってるのか。だとすると、恐らく勉強の要領が悪いんだろうな。

 

「まぁ気にする事はない。ほら、手が止まってるぞ」

「は、はい!」

 

 中野は、何が分からないのか分からない。そういう感じだった。何が分からないのかを分かるようにする。そしてそれが理解出来るように噛み砕いてより分かりやすく説明する。なるほど、これは自分の理解も深めることが出来る。家庭教師とはなかなかいいんじゃなかろうか。

 

 

 

 

 

 

「・・・っし、とりあえず今日はこんなもんだろう。じゃ、おつかれ」

「あ、えっ・・・もう終わり、ですか?」

「あぁ、もう学校が閉まる時間だ」

 

 随分と集中してやっていたのか、時間が経つのも気にしてなかったようだ。

 

「う、上杉君!」

「なんだ?」

 

 図書室を出ようとした所を呼び止められ、振り向くと中野が何か言いたそうにしていた。

 

「今日はありがとうございます」

「あぁ」

「もし・・・もし、ご迷惑でなかったら・・・また、勉強を見て貰えないでしょうか」

「・・・中野が俺で良いと言うのなら。人に教えるというのは、案外自分のためにもなるんだと知ったからな」

 

 こちらとしては、自分の勉強もでき、家庭教師の予行練習にもなる。まさに一石二鳥だ。

 

「本当ですか!」

 

 嬉しそうにガッツポーズする中野を横目に俺は今後どう教えていくべきか考えた。残念だが、今のコイツじゃ次のテストで平均点どころか、赤点回避も難しいだろう。

 

「どうしたんですか?上杉君。早く帰りましょう」

「なんて呑気なやつだ・・・!」

「何か言いましたか?」

「いや、なんでもない」

 

 幸い、次のテストまで時間は沢山ある。それまでには赤点を回避出来るぐらいの学力は身につくだろう。・・・身につくよな?一抹の不安を胸に俺は中野と共に帰路に着いた。

 それから一週間、家庭教師のバイトが始まるまで、毎日のように俺と中野とのマンツーマンの勉強会が図書室で開かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここか。それにしてもデケェな・・・」

 

 目の前には高層タワーマンション。なるほど、相場の5倍という意味がやっと分かった。どうやら依頼主は、相当の金持ちらしい。

 

「っと、そろそろ時間か」

 

 時計を見るとバイトの時間まで30分をきっていた。初日から遅刻はまずい。俺は早足でマンションの中へ入り、目的の部屋まで行こうとしたが──

 

「な、なんだこれは!?」

 

 ドアが開かないだと!?クソっ、時間が無いと言うのに・・・おっと、待てよ?もしかしてこの横にある機械で中の管理人を呼び出すのか?ふっ、なるほどな。

 

「すいませーん、扉が壊れてひらかないんですが」

 

 無反応!?一体どうしたら・・・!もはや万策尽きた。このまま俺は中に入ることすら出来ず、バイトもクビになるのだろうか。

 

「上杉君?こんな所で何をしているんですか?」

 

 呆然と立ち尽くし、時間だけが悪戯にすぎてゆく中、俺は一縷の望みを得た。聞き覚えのある声・・・!なるほど、情けは人の為ならずとはこういう事か。この一週間、中野と仲良くしていて良かった。まさかこんな所で助けて貰えるとは・・・!

 

「いい所に来た、なか・・・の!?」

「ん〜?」

「だれ!?めっちゃタイプなんですけど!五月、アンタの友達!?」

「・・・」

「はい!中野です!」

 

 振り返るとそこに居たのは、俺のよく知る「中野」と俺の知らない「中野」たち。

 

「お、お前こそ何故ここに・・・」

「何故って、ここが私達の家ですから」

 

 家?いえ?ホーム?このとき、急激な負荷を掛けられた俺の脳はある一つの答えを導き出した。それも、有り得ないと一蹴される程の。

 

「な、なるほど・・・。友人五人とシェアハウスとは仲が良いんだな?」

「いいえ、違います。私たち、五つ子の姉妹です」

 

 五つ子・・・へぇあ〜、五つ子!双子の確率でさえ百人に一人だってのに。五つ子ってなると、どれだけ低い確率なんだろうか・・・。

 

「そ、そうだ!そんなことよりも、この扉を開けてくれ!今日から家庭教師のバイトなんだが、初日から遅刻はしたくない!頼む!」

 

 中野姉妹に頭を下げ、俺は扉を開けてくれるよう頼み込んだ。しかし、誰一人として反応はなく、五人が五人、それぞれ異なった表情を浮かべていた。驚愕、絶望、無関心、笑顔。そして一人嬉しそうなのは、俺のよく知る中野。

 

 

「ま、まさか・・・上杉君が私たちの家庭教師?」

 

 ・・・ん?()()

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでくれてありがとうございます。次回作には期待しないでください。
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