勉強以外全て不必要・・・とはいかなかったフータロー   作:ケンキチ

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続きました


五つ子ってマジ?

「五つ子!?」

 

 俺の雇い主である五つ子達の父親から電話越しにそう伝えられた。正真正銘、一卵性の五つ子だそうだ。てことはアレか?相場の5倍ってのは、ただ単に金持ちってだけじゃなく、五人分ってことか?確かに生徒は一人とは言われてないが、まさか五人とは・・・!

 

『それでは、期待しているよ』

 

 お父さんとの通話を終わらせ、これからどうすべきか考えた。

 

「つーか、アイツらどこ行ったんだ?」

 

 周りを見渡しても誰もいない。あれ、今日家庭教師の日ってアイツら知ってるよね?

 

「みんな自分の部屋に戻りましたよ」

「中野・・・いや、全員中野か。えっと・・・」

「四葉です!」

「あぁ、そう。四葉ね」

 

 ピコピコと頭のリボンが動いた気がしたが見間違いだろう・・・・・・見間違いだよな?

 

「つーかなんでお前は逃げてないの?」

 

 四葉以外の全員・・・まさか五月まで部屋に戻るとは思っても見なかったが、その中でもこいつ一人だけリビングに残っていた。

 

「し、心外です!上杉さんの授業を受けるために決まってるじゃないですか!」

 

 一人でもやる気のある生徒がいるとこんなにも心強いものなのか。

 

「四葉、抱きしめていいか?」

「さー、他のみんなを呼びに行きましょー!」

 

 思わず口に出したその言葉をいなした四葉と共に俺は四人の部屋へと赴いた。

 

「手前から五月、私、三玖、二乃、そして一花の順ですね」

 

 流石はセレブだ。五人それぞれ自分の部屋があるとは。

 

「五人集めるとこから始めるとはな・・・」

 

 俺の心配を他所に、四葉は大丈夫ですと、自信たっぷりに答えた。どこから来るんだその自信。

 五月の部屋の前まで行き、扉をノックしノブに手をかけた瞬間、部屋の中かから五月の声が聞こえた。

 

「ま、待ってください!まだ着替えてないんです!」

「す、すまん!」

「危なかったですね上杉さん。危うくお縄になる所でしたよ!」 

 

 ししし、と笑いながら言う四葉のリボンを掴み、上下に揺すりながら俺は笑い事じゃねぇ、と言い返した。実際笑い事じゃすまねぇよ。

 

「えっと・・・五月、ちょっといいか?」

「はい?なんでしょうか」

「お前はこの後参加してくれる、という認識で良いんだろうか」

 

 一瞬の沈黙の後、バンッ!と中から勢いよく扉が開かれ、五月が出てきた。

 

「もちろんです上杉君!」

 

 部屋着に着替えた五月は教科書とノートを持ち、メガネをつけていた。なるほど、どうやらやる気満々のようだ。

 

「さぁ早く始めましょう!」

「今すぐ始めたいの俺も同じだが、まだ全員そろってないんだ。すぐに集めるから下で待っていてくれ」

 

 五月にそう言い、四葉と次の部屋へと向かった。四葉曰く、三女の三玖は姉妹の中でも一番頭がいいらしい。もしかすると、案外素直に参加してくれるのかもしれない。

 

「嫌」

 

 しかし、現実はそう甘くもなく、微かに胸に抱いた期待はあえなく一蹴された。

 

「なんで同級生のあなたなの?この町にはまともな家庭教師は一人もいないの」

「し、辛辣・・・!」

 

 その上、口も悪いと来たもんだ。

 

「次いくか・・・」

 

 三玖の説得は諦め、四葉を連れて部屋を出た。次は次女の二乃だ。四葉曰く、二乃は人付き合いも良く、友人も多くいるらしい。確かに、アイツは会った時によく喋りかけてきた。あれも人付き合いのうまさだろう。説明すれば参加してくれるはずだ。

 

「部屋にもいないってどういうこと!?」

 

 予想外だ・・・!流石に部屋に入るだろうと思ったんだが。

 

「・・・・・・次、行こうか」

 

 最後は長女の一花だ。四葉曰く、覚悟しておけとのこと。そう言った四葉の目は光を失っていた。

 

「流石に部屋にはいるよな・・・?」

 

 扉を開け、部屋に入るとそこは驚きの光景が拡がっていた。

 

「な、なんだここは・・・!?」

 

 泥棒にでも入られたのかと思ってしまう程散らかった部屋。足の踏み場も無いぐらいに散乱している服。まさに汚部屋。正真正銘の汚部屋。揺るぎなき汚部屋。自信を持ってお届けできる汚部屋。

 

「ここに人が住んでいるのか?」

「人の部屋を未開の地扱いしてほしくないなぁ」

 

 肝心の部屋の主が居ないと思ったら、居た。部屋の奥でモゾモゾと動きだした布団の中から一花が、大きな欠伸をしながら起き上がった。

 

「ふぁ〜、おはよ。まだ帰ってなかったんだね」

 

 この前片付けたのに、と呟く四葉。コイツ、妹に部屋の掃除してもらってんのか。

 

「いいからとりあえず居間に戻るぞ。五月も待ってるんだ」

「あー、ダメダメ」

 

 他の姉妹で分かった。説得は無理だ。ならば無理矢理にでも居間に連れ出すしかない。一花の布団を掴み、引き剥がそうとしたところ、途中でコイツが服を着ていないことに気づき、布団を持つ手が止まった。

 

「服、着てないから照れる」

「なんでだよ!」

 

 私って寝る時、基本裸じゃん?と説明する一花。知るかそんなもん!四葉に適当に服を持ってきてもらい服を着る一花を後目に、部屋の机に目をやる。

 

「お前なぁ、少しは片付けろよ。この机なんて、最後に勉強したのはいつのことやら・・・」

「もー、勉強勉強って。せっかく同級生の女の子の部屋に来たのにそれでいいの?」

 

 布団に倒れ込み、悪戯な笑みでわざとらしく挑発してくる一花。コイツわざとやってんのか?

 

「うわっ。一花・・・こんなの持ってるの?お・・・大人・・・」

 

 一花の服を探している四葉がそう呟いた。お前は服を探してるんじゃなかったのか?なぜ下着を持っている?つーか、そんな下着位持ってても、今のこいつの格好を見てみろ。大人には程遠いわ!

 

「同じ顔だし、四葉でもいけるんじゃない?」

 

 なんだその理論。

 

「えええ!!」

「小学校の頃のパンツはそろそろ捨てないとね」

「わーっ!上杉さんいるからシー!シー!」

 

 ・・・なぁにやってんだか。つーか高校生になってもまだ小学校の頃のパンツ履いてんのかよ。物持ち良すぎだろ。

 

「う〜ん・・・上杉さんはどう思いま・・・・・・あれぇ!?」

 

 知るかそんなもん。お前がそれ着てどーする。着させるならそこで寝そべってるやつに着させろ。

 

「服なんてなんでもいいから、早く着替えてくれ」

「フン!上杉さんのオシャレ下級者」

 

 オシャレ下級者ってなんだよ。謎の罵声を浴びせてきた四葉は後で頭のリボンを毟ってやる。一花に着替えてリビングに来るよう伝え、部屋の外に出ようと扉を開けると、目の前に三玖が立っていた。

 

「! 三玖・・・」

 

 な、なんだ・・・?勉強する気になってくれたのか?つーか、部屋の前にいるなら入ってこいよ。まぁこの汚部屋に入りたくにい気持ちも分からなくはないが・・・。

 

「フータロー、聞きたいことがあるの」

「?」

「私の体操服がなくなったの。赤のジャージ」

「そうか、見てないな」

 

 学校にでも忘れてきたんじゃないか?そう聞いても三玖は首を横に振る。じゃあ知らんよ・・・。そもそも俺に聞くこと自体間違いじゃね?

 

「さっきまではあったの。フータローが来る前はね」

 

 ・・・なんだろう。とても嫌な予感がする。冷や汗が頬を伝う。

 

「盗「ってない!」」

 

 何言い出すんだコイツ!なんで俺がコイツのジャージ盗らなきゃなんねぇんだ!俺になんの得がある!?なんの恨みがあって、俺を前科者に仕立てあげようとするんだコイツ!

 

「服なんてなんでもいいって言ったのに・・・」

「濡れ衣だ!お前ずっと一緒だっただろ!」

 

 ゴミを見るような視線で俺を両挟みにする四葉と三玖。流石は五つ子と言ったところか。顔だけでなく俺に向ける視線までそっくりとは恐れ入ったぜ・・・・・・ってそうじゃねぇ!

 

「もっとよく探してみろよ」

「ありそうなとこは一通り調べた。残るは・・・」

 

 そう言い三玖は一花の部屋を覗いた。冗談じゃねぇ、そんなことしてたら日が暮れちまう。

 

「前の学校のジャージでいいんじゃない?」

「ナイスアイディア!」

 

 汚部屋の主!やるじゃないか!バカのくせに!てゆーか、下着見えてるんですけど。羞恥心ってご存知?もしかして、ご存知ない?

 

「ちょっと、フータロー君なんか失礼なこと考えてない?」

「・・・別に?」

 

 と、とりあえずこの問題は解決だな。それでいいだろ?と三玖に言うと、あんな学校の体操服なんて捨てた、と言われた。いやいや、あんな学校って・・・。

 

「もったいねぇ。前の学校になんの恨みがあるんだよ・・・」

「・・・」

「・・・・・・ゑ?」

 

 なに?なにさこの雰囲気。さっきまでバカみたいに騒いでたじゃん。あれ、もしかしてなんか地雷踏み抜いた?

 

「・・・」

 

 四葉さん?どうして黙るの?

 

「あんなことがあったらね・・・」

 

 一花さん!?あんなことってなに!

 

「知らない方がいい。少なくともフータローは」

「なんか、ごめん・・・?」

 

 興味が無い、と言えば嘘になるが、コイツらを見てる限り知りたいとは思えねぇ・・・。

 

「おーい、そこで何やってんの?」

 

 そんなことをしていると、外から二乃の声が聞こえた。外に出てみると、クッキーを乗せたトレーを持った二乃がいた。あれ、あのジャージって三玖のじゃね・・・?

 

「クッキー作りすぎちゃった。食べる?」

 

 何呑気にクッキー焼いてんだオイ。冤罪かけられるわ地雷踏み抜くわでコッチは大変だったんだぞ。・・・まぁ後者は俺のせいだが。

 

 

 

 

 

 

「よし、これで全員だな。まずは実力を測るためにも小テストをしよう!」

 

 やっと始められる・・・。さぁ、楽しい楽しい勉強会の始まり・・・だ・・・?

 

『いただきまーす』

「・・・」

 

 ・・・・・・なんでだよ!お前ら今日なんの日か知ってんのか!お菓子パーティーの日じゃねぇぞ!?

 

「おいし〜〜、これ何味?」

 

 一花!お前が持つのはクッキーじゃなくてペンだ!

 

「なんで私のジャージ来てたの?」

「えー?だって料理で汚れたら嫌じゃん」

「今すぐ脱いで」

「ちょ!やめて!」

 

 二乃!三玖!姉妹喧嘩なら他所でやれ!・・・あ、ここコイツらの家か。やっぱ、後でやれ!

 

「・・・!・・・!」

 

 五月!?なにクッキー頬張ってんの?勉強は!?

 

「上杉さんご心配なく!私はもう始めてます!」

「よーし!名前しかかけてないがいいぞ!」

 

 つか、名前ぐらい感じで書けよ。まぁ、やってくれるだけマシか・・・。

 

「うえふいうん!わはひもあいえめあう!」

 

 ・・・なんだって?口に物入れながら喋んなよ。五月の方に目をやると、クッキーを頬張りすぎてまるでリスみたいに口が膨れ上がっていた。なに、お前の頬ゴムかなんかなの。ゴ〇ゴ〇の実でも食ったの?

 もう勉強できる雰囲気じゃねぇなこりゃ。仕方ない、誠に不本意だが・・・本当に本当に本当〜〜〜に、不本意だが、今日はとりあえず顔合わせという形で終わるとするか・・・。

 

「ねーねー、上杉君・・・だっけ?」

「なんだ?」

「勉強会、しなくていいの?」

 

 やる雰囲気ないしな。自分はもう帰る旨を伝え、俺は帰り支度を始めた。

 

「ならさ、せっかくの土曜日なんだし遊びに行かない?」

「いや、今日はもう帰って勉強すr「だ、ダメです!」・・・い、五月?」

 

 せっかくの誘いだが断らせてもらう。そう言いかけたとき、突然五月が割って入ってきた。

 

「上杉君は家庭教師として来てくれたんです!遊びには行かせません!」

「でも帰る準備してるじゃない。勉強会はもう終わりよ!」

「むむむ・・・!」

 

 あ、五月泣きそう。頬をプクッと膨らませ、プルプルと震える五月。目元にはうっすらと涙が浮かんでいる。やはり五つ子と言っても姉妹は姉妹。妹は姉に勝てないものなんだろうか。

 

「と、とにかくダメなものはダメです!さぁ、勉強しますよ上杉君!」

「ちょっと!上杉君は私と遊びに行くの!そうでしょ?上杉君!」

 

 

 両腕を二乃と五月に引っ張られてるこの状況・・・・・・なんか漫画でもこういうシーンあるよな・・・漫画なんか見ないし、知らんけど。

 そしてこの状況を見て楽しんでる一花と四葉。楽しんでないで助けろよ。そんでもって、三玖はいつの間にかリビングから姿を消していた。てかちょっと待って痛い。服破れるからそんなに強く引っ張らないd・・・って痛い痛いイタタタタタタタ!

 

「フン!!」

 

 腕を振り切り、俺は2人から距離をとる。

 

「痛てぇよお前ら・・・!服破れるだろ・・・!」

「「ご、ごめんなさい・・・」」

 

 二人してシュンとなる二乃と五月。そして、二人して罪のなすりつけあいが始まった。やれ二乃が悪いだの、五月が悪いだの、先に引っ張たのは二乃だ五月だ・・・。うわ、コイツらめんどくせぇ!

 

「五月!」

「は、はい!」

「今日の家庭教師はもう終わりだ!」

「そ、そうですか・・・」

「だがしかし!」

「駄菓子・・・?」

 

 違うバカ。どんだけ食い意地はってんだ。さっきクッキー食ってだろ。

 

「まだ時間はある。夕食の時間までには帰るが、それまでなら個人的にお前の勉強を見てやる」

「本当ですか!」

「あぁ。そんで、二乃」

「なによ。勉強ならしないわよ」

 言うと思ったぜ。そう来るならこちらにも考えがある。

 

「そんなに勉強が嫌なら別にしなくてもいい」

「言われなくてもやらないわよ。必要ないし」

 

 ふっ・・・言ってくれるじゃないか。

 

「ならばそれを証明してみせろ」

「・・・どーゆ意味?」

 

 二乃は意味がわからないといった顔で俺を見つめた。 

 

「一花と四葉もだ。あと、今いない三玖もな」

「私たちもですか!」

 

 もちろんだ。二乃だけ勉強しなくていいわけが無いだろ。

 

「あぁ。明日もう一度この時間に来る。その時に小テストをしよう。そこで合格点を取れたヤツには、金輪際勉強を強要しないと約束しよう」

 

 ふっ・・・我ながらナイスアイディアだ。こうすれば、テストで分からない所を俺に質問→自然と勉強会に発展→五つ子成績up&金儲け。ふふふ・・・・・・自分の頭の良さが恐ろしいぜ!

 

「さぁ、どうする!それともなんだ、二乃。合格点をとれる気がしないのか?ならば今からお前たちにテスト範囲の勉強を見てやるよ」

「・・・なんですって?」

 

 なんてことだ。試しに煽ってみたが、ここまで効果的とは。チョロくね?

 

「アンタの助けがなくても合格点ぐらい余裕でとってみせるわよ!」

「ほぉ、なら楽しみにしておこう。これがテスト範囲だ。しっかり勉強しとけよ?」

「ふん!行くわよ一花、四葉!」

「えぇ〜?私たちやるなんて一言も言ってないよ〜」

 

 二乃は一花と四葉をつれ、二階へと上がって行った。

 

「五月」

「なんですか?」

「二乃ってチョロいな」

「それ、本人に言ってはダメですよ。絶対怒りますから」

 

 しかし、あんなにやる気を出してくれるとは。これは少し明日のテストが楽しみだな。

 こうして、俺の家庭教師初日は終わった。

 

 




最後まで見てくれてありがとうございます。次回作には期待しないでください。

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