手 乗 り ラ ミ エ ル 作:わーるど
個性ってのは、この世界では人権の様なものだ。何せ有ると無いとでは赤子と大人程の力の差が生まれる。正直、この世界で無個性で生きていくのは至難だ。格上の顔色を窺い、機嫌を取って生きていかなければならない。無個性は、人生をそういうレールで固定される。
故になのだろう、ラミエルが来てくれたことで子供や大人からのいじめやいびりがピタリと止んだのは正直言って怒りよりも呆れが先にやってきた。特に子供の態度の変化は露骨で、今や獲物から完全に腫れもの扱いだ。
アレで学校では『将来俺はヒーローになる!』なんてほざいているのは、もはや滑稽だ。ウケる。
『――――…』
「…ん?目が死んでるって?」
ラミエルにほっぺをつんつんされてやっと我に返る。ラミエルからなんとなく伝わってくる感情を読み取って、俺はラミエルの表面に顔を映して自分の目を見てみた。
…うわ。
「…ま、まあいいや。それよりも勉強だ勉強!」
俺は今、図書館で宿題をしている。もちろん独り言も超小声だ。施設の部屋は4,5人の子どもの相部屋なので、居心地が悪い。なので休日や放課後はいつもここで勉強をしている。
今は教科によりまちまちではあるものの、まあほとんどは高校生レベルの内容をやっている。というのも、一応俺も前世持ち。記憶をほとんど失いはしたが、それでも『あ、この問題やったことある…』ってのが多い。俺にとっての学習ってのは、復習という意味合いが強いのだ。
そういう訳でスルスルと頭の中に入ってくるので、勉強は苦ではない。
それでなくても俺は孤児だ。この先一人で生きていくには学歴や資格など、必要なものが多い。まだ将来のアレコレは考えられていないが、将来を見据えて可能性を広げる努力くらいはする。
「将来か…」
『―――…』
ふと呟いて、ちらりとラミエルの方を見る。
こいつにも意志がある。それは個性発現に伴い始まった個性カウンセラーや説明会の場で、ほぼ結晶体の生き物を生み出す個性ということで、そういうことを研究している科学者に興味を持たれて話をした時に言われた言葉だ。
もしそうなら、俺の事情だけで決める訳にはいかない。こいつが何をしたいのかしれればいいんだけどな。生憎、今分かるのはなんとなくの感情だけなのである。
練習次第でもっと分かるようになるかもしれないってのも言われたので、こればかりは時間が必要なのかもしれない。
さて、そういう訳で太陽が沈んでいき、斜光が窓から入り込んできた。ちょうどいいので勉強を終えて片付けをする。
と。
「…」
「うわっ…」
「…?」
「あ、いや、なんでも」
同じ机の隣に、知らない少年がいて少しだけびっくりしてしまった。その音に相手も首をかしげてきたので、慌てて首を振って返事をして…そんで、固まった。
ソイツは同じ学校に通う同級生だったからだ。
正直面識は全然無い。ただ、俺と同じように一人でいることが多いという共通点があるだけの存在だ。
…こういう時、下手に面識がある分、初対面よりも気不味く感じてしまうのは俺だけだろうか。
「…なんだ?」
「…あ、いや、いたのに気づかなくて。なんでもないよ。行こうぜラミエル」
このままだとお互い気不味い雰囲気を味わってしまう、と親切心を働かせて、颯爽とその場を抜けようとラミエルに声をかける。
「…ソレ、お前の個性か?」
「ん?ああ、まあ」
ぼおっとした目をぱちくりとさせ、そしてソイツはかすかに口を開いた。
「…お前、同じクラスの」
「気づいてなかったんかい」
思わずずっこけた。肩をずるッとさせて、俺はため息を吐き出した。
しかも今、ラミエルを見て思い出したな。俺の事は完全に意識の外か。まあ別に良いけど。俺も気づくのに遅れたし。
くそ、ここで帰るのはなんか気が引ける。何か話題でも…ん?こいつ、数学やってんのか。小学生の癖に生意気だな。
「…お前も勉強してんの?」
「…お前には関係ねえ」
「あっそ。そこの式間違えてっから」
「…」
一瞬動きを止めて、そしてこちらを睨んでくる同級生。何だこいつ。
「…分かるのか?ここ、中学生レベルだぞ」
「俺高校レベルまで行ってるし」
「…」
胡乱げな目で見てきたので、教本を見せつけるとまた黙りこくった。へっ、ざま―ミロ。
…小学生に対してマウントを取っている転生者の姿がここにはあった。というか俺だった。
「お前も…」
「あ?」
「お前も、ヒーロー目指してんのか?」
「え?いや、違うけど。なんで?」
「…教室にいる奴らは、全員そうだからだ」
「あー、なるほどな。…お前は違うの?」
「…俺は…」
その瞬間、ソイツの目に剣呑な光が宿った。虚空を見て、何か別の存在を睨みつけているような、そんな目だ。
「俺は…アイツを超える」
「いや、誰だよ」
あいつって言われても知らん。
「…?…知らねえのか?」
「だから、何を?」
「…俺はエンデヴァーの息子だ」
「誰だソイツは」
「…」
『え?マジで知らないの』みたいな顔で見られる。もしかして今俺馬鹿にされてる?
「…プロヒーローだ。ヒーローランキング万年二位の」
「へえ…それって凄いのか?」
『――――…』
ラミエルに顔を向けるが、何故かくるくる回っているだけで何も分からなかった。
「…まあどうでもいい。とにかく勉強の邪魔だ。早く行けよ」
「はいはい…」
俺は何故かドッと疲れを感じながら、やっとその場を後にしたのだった。
次の日。
「…」
「…」
―――なんで?なんでこいつまた隣に座ってんの?
夕方、同じ時間帯。勉強をしていたら、また気が付いたらソイツが隣に座っていた。昨日あんなこと言っていおいて普通に隣に座ってくるとかどんな神経してるんだ。
『―――――…』
いや、ラミエル。友達ができてよかったねみを出すんじゃない。絶対違うから。昨日の会話聞いてた?
ちらりとソイツの横顔を盗み見る。個性の影響か、顔半分の肌の色が違う。
今日はどうやら歴史をやっているらしい。見てみると歴史人の漢字がわずかに違う。
「そこ、漢字間違ってんぞ」
「そうなのか…、…?」
ゆっくりとこちらに顔を向けて首をかしげるソイツ。すると、ラミエルに視線をやって目をかすかに見開いた。
「…またお前か」
こいつ、もしかしてまたラミエル見て思い出したのか?
まあいいけどさ。なんかなぁ…。色々と言いたい衝動を抑えつつ、答える。
「それはこっちのセリフなんですが」
「どうして俺の隣に座る」
「そのセリフのし付けて返してやる」
「…?」
あれ?こいつもしかしてただの天然?むしろただの馬鹿なのではないだろうか…?
「まあ良いか。えっと、名前なんだっけ?エンデヴァーの息子だから…円出 伴さんとか?」
「ちげえ。…轟焦凍だ」
「轟か。俺は錨練二だ。ま、よろしく」
「なんでよろしくしなきゃならねえ」
「偶然が続きゃそりゃもう立派な縁だからな。縁は大事にしとけって婆ちゃんに教わってるもんで」
「…」
「まあ俺孤児だけど」
「!?…お前…」
「そんな目で見るな。只の孤児ジョークだ」
ラミエルが頭にこつんと当たってくる。な、なんだよ。面白いだろ孤児ジョーク。
それから、しばらく静寂な時間が過ぎていく。ただ、ずっと続いていたペンを動かす音が轟から聞こえない。
そして、轟は恐る恐る聞いて来た。
「…お前の、親は…」
「知らん。父さんはヴィランで投獄中。母さんは俺を捨てて行方不明だ」
「…悪い。変な事聞いた」
「いや、別に気にしてないけど…」
なんでそんなこと聞いてくるんだ?…って聞くのはちょっとアレか。こういう事を気にする奴は、大抵家庭に何か問題を抱えてる奴ばかりだしな。只の経験則から来る偏見かもしれんが。
「ま、お前も色々と大変なんだろ。ヒーローの息子ってのも楽じゃねえよな。気にすんなよ兄弟」
そう言うと、轟は顔を固くして目を見開いた。そして、少しして、ふと顔から硬さが消えた。
「…お前、変な奴だな」
「ん?そうか?」
「ああ…変な奴だ。…錨」
そういう轟と、首をかしげる俺の間を、ラミエルがくるくる上機嫌気味に回っていた。
ラミエル可愛いの同士が沢山いらっしゃる様子で嬉しい限りの今日この頃。皆様はいかがお過ごしでしょうか。
これからもゆっくりよろしくお願いします。