アーマードコア・オルタネイティブ― 白い鳥 ―   作:カズヨシ0509

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 どーもです。
ファンタジーものと同じ位に、ロボットアクションものも好物です。
愛着があるんでしょうか?
何だかんだで、続いています。
では投稿致します。


第4話―微動、日本帝国―

 

 

 

 

 

 

パックス・エコノミカ

 

“経済による平和”の意。

国家解体戦争後の世界を統治する企業連合体の掲げたスローガンであり

これが転じて企業連合体の採る行政体制の通称“パックス”となった。

企業は、このシステムを以て、限りある資源の節度ある再分配を

最適に実現するものであると喧伝したが、世界を明確に階層化する新システムは

ある意味で社会主義的、さらに言えば奴隷制度的ですらあった。

 

神に祝福されし者のみが、楽園に居座り続ける事が許される。

楽園に蔓延るは、無痛と富める深海の膿――。

そこに色も生も無く、唯々灰色に降り注ぐ楽園の彼方。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

(推奨BGM 初代アーマードコア ガレージBGM)

 

 

 

 欧州に位置する、都市機能を備えた大規模交易所。

 

その居住区一角に、決して広いとは言えない小さな部屋にて、三人の男女が端末を操作していた。

 

「国家の存在は、確定だ」

 

 一人の女性、カスミ=スミカは国家の存在を認める発言をする。

 

「…貴方が()()おっしゃるのなら、間違い無いのでしょう」

 

 一人の若い男性、ギン=ユウキも賛同する。

 

カスミ・スミカと言う女性、昔は腕利きの元リンクスで、嘗て国家解体戦争にも密に関わった人物だ。

 

その国家解体に関わった人物が、国家解体を否定するのだ。

 

認めざるを得ないだろう。

 

「――だとしても、BETAの存在、そしてあのACノーマルに酷似した戦術歩行戦闘機、一体どう言う事でしょう?」

 

 一人の少年でレイヴンでもある火無=飛鳥は、BETAや戦術機について言及する。

 

オーメルサイエンスが主導となって先日行われた、光線級BETA漸減作戦。

 

参加部隊には、国連の一方面軍である『ソビエト連邦』なる部隊も参加し、そこで初めて遭遇した戦術歩行戦闘機。

 

そして一時的に共闘する事となり、コールサイン『イーダル1』を名乗る少女に告げられた一つの事実。

 

 

 

『それはお前達の歴史でだ。国家は解体されていない』

 

 

 

あの言葉が今も心に残っている。

 

三人は暫く無言で考え込んでいたが、やがてスミカが静かに語り出す。

 

「並行宇宙論……実在するのかも知れんな」

 

「「並行宇宙論……」」

 

 スミカの言葉に、飛鳥とユウキは反応し振り向く。

 

並行宇宙論、所謂パラレルワールドである。

 

此処とはまた異なる次元に存在する、別の世界線。

 

様々な可能性が複雑に絡み合った結果、全く別の現実が展開されている世界が幾つも存在しているという理論だ。

 

 

 

例えば、地球には人類という種が最初から存在していない世界。

 

戦争など起きず、平和を享受している理想に近い世界。

 

若しくは、全くの真逆な世界。

 

剣と魔法が発達し、冒険と興奮に満ちた世界。

 

神々が実在し、生命の火が宿った後に陰りを見せ、死の息吹が蔓延した()()()の世界。

 

 

 

そんな多様な世界が、我々の認識できない次元で存在しているというのだ。

 

一応飛鳥本人も、最小限の知識としては記憶している。

 

尤もそんな世界が描かれるのは、精々娯楽小説や物語と云った類のものだ。

 

故に、現実に起こり得たとしても、そう鵜呑みに出来るものではなかった。

 

「まぁ何にせよ、情報が不足し過ぎてやがる。オーメルの連中に問い詰めた(物理)が、奴らダンマリを決めこみやがった」

 

 スミカ自身も、今の世界の在り方には思う処があった。

 

そこで適当なオーメル社員を確保し、有形無形の慈愛に満ちた交渉(襟首掴んでの壁ドン)を行ってはみたのだが、成果の程は今一つであった。

 

「「…ハハハハ…」」

 

 そんなスミカに、二人は苦笑いで返すしかなかった。

 

「とは言え、BETA…特に光線級の情報や、それに対する戦術を入手できたのですから、今後の俺達にとって有用に働きますよ」

 

「今や、世界中各地でBETAとの戦闘が相次いでいるそうです」

 

「ああ…。今後も関わるだろうな」

 

 ここ最近流れて来る区内速報は、専らBETAとの抗争状態が主を占めていた。

 

『人類種の天敵』の件と『クレイドル墜落』の件は一先ずの区切りを迎え、世界は荒れ果て混乱しながらもささやかな平穏を迎えていた。

 

 しかし、それも束の間――。

 

BETAなる『人類に敵対的な地球外起源種』の跳梁跋扈で、世界は再び戦乱の渦に飲み込まれた。

 

何時の日かこの交易所も安全ではなくなるだろう。

 

その時脱出するにせよ、最後まで抵抗するにせよ、財力と力を蓄え備えるのは必須というもの。

 

自分自身を貫く為。

 

何者にも屈せぬ為。

 

好きなように生き、好きなように死ぬ為に。

 

誰の為でもなく。

 

だがそんな時代は、終焉を迎えようとしているのかも知れない。

 

世界は変革を欲しているのだろうか。

 

それは誰にも分からない。

 

「さぁて…私は寝るかぁ……。流石に疲労困憊だ」

 

 ゆっくりと体を引き延ばし、スミカは欠伸をした。

 

そしてユウキも作業を一段落着け、スミカに倣う事にする。

 

「お疲れ様です、二人とも。ごゆっくり!」

 

 飛鳥は二人に労いの言葉を掛け、見送った。

 

二人が自室を出た後も飛鳥は一人、端末に映し出された画像に目を向ける。

 

其処に映る画像は、先日の黒いAC。

 

あの時の邂逅は、今も飛鳥の心に刻み込まれていた。

 

 

 

「……黒い鳥……」

 

 

 

飛鳥は、一人呟く。

 

誰に対するでもなく。

 

 

 

―― 数日後 ――

 

 

 

(推奨BGM アーマードコア2 Cord e)

 

 

 

人々の往来著しい商業通りで、それは起こった。

 

高級な背広と帽子を身に纏った、紳士風の男。

 

スミカとユウキの前に忽然と現れ、訝しむ二人に臆する事無く自身を名乗った。

 

名を―― 鎧衣 左近(よろい さこん) ――という。

 

掴み所の無い独特の口調で話し、貿易商を自称する不思議な人物であった。

 

彼はゆっくりと話ができる場を探している様で、スミカは近隣のカフェに案内した。

 

多少の料金は掛かるが個室を貸し切り、三人は其処へ入室する。

 

「これは有難い。機械尽くしの派手な街並みに少々気が滅入っておりましたが、麗しい美女に、この様な落ち着ける場所を提供して頂けるとは」

 

 左近なる男、一見口調は軽いがその瞳と眼力は、此方を値踏みしているのが分かる。

 

「鎧衣左近さん…だっけ?名前からして日本人だが、『有澤統治区』からやって来たのか?」

 

 スミカの隣席に座る、ユウキが訊ねた。

 

「とんでもない。『国家解体』など起きてはおりませぬよ、リンクス君?」

 

「……貿易商が聞いて呆れる、()()()

 

 短くも本質を突く、眼前の左近という男――。

 

そもそも唯の貿易商が、理由も無く二人に近付く筈が無いのだ。

 

スミカとユウキの素性を知った上で、接触を図って来たのだろう。

 

彼の言では、企業が治める有澤統地区ではなく、国として存在する『日本』だというのだ。

 

正確には、日本でもなく『日本帝国』であるのだが。

 

そして告げられる新たな事実。

 

次元を隔てた世界は幾つも存在し、何らかの切っ掛けで枝分かれした世界同士が融合したのだと語る。

 

俄かには信じられない話だが、数日前のオーメル、ソ連、共同の大規模作戦といい、戦術歩行戦闘機なる兵器といい、BETAと呼ばれる怪物と云った存在を目にしては信じざるを得ないだろう。

 

二人は、そう抵抗なくその事実を受け入れた。

 

「流石ですな。私の高尚な恥部を見抜いてしまうとは」

 

――あくまで此方を手玉に取る積りなのか、それともコイツの『素』なのか。只者でない事だけは確かだ。

 

ユウキも僅かなやり取りで彼の正体を漠然と見抜き、左近は尚も飄々とした態度を崩さなかった。

 

「まぁいい要求を聞こう、鎧衣とやら」

 

 このまま言葉の応酬を繰り返したのでは埒が明かず、長引けば長引く程相手側に主導権を握られる恐れがあった。

 

悔しいが、交渉術は相手側に分があるようだ。

 

スミカはすぐさま、本題に移る。

 

「これは残念。麗しき貴女様の美声を堪能したかったのですが、致し方ありませんな」

 

 そんな表情は微塵にも出さず、左近は応じる。

 

彼がこの交易所に訪れた理由――。

 

それは『リンクス』でもある二人を通して、アーマードコア・ネクストを入手して貰いたかった。

 

日本帝国は既に有澤重工と協力関係にある。

 

しかし、些か隔たった兵器群を製造する有澤重工。

 

帝国側としては、他企業の兵器を入手し未知の技術を手中に収めたいという思惑があった。

 

その為、過去に活躍した元リンクスである二人に、近付いた次第である。

 

二人の素性に関しては有澤からGA、GAから企業連を経由して調べる事で、情報を得る事が出来た。

 

「既に表舞台から消え去ったとは言え、ネクストは強力無比な潜在能力を有しております。購入の際には、このカードをお使い下さい」

 

 左近は懐からキャッシュカードを取り出し、スミカに差し出した。

 

「…周到な事だ。国で管理するこのカードで取引させれば、直ぐに此方の足取りを追う事が出来る」

 

「これは手厳しい。我が祖国の友好の証として受け取って頂きたい」

 

 データー化され企業間でしか取引できない様に、細工済みのカードだ。

 

仮に持ち逃げした処で、不正使用できる場など限られ、直ぐに履歴が残るように施されていた。

 

つまり公の場でしか使用できない代物だ。

 

「いいだろう、幸いアテがあるのでな。……どうせ貴様の事だ、それも想定済みなのだろう?」

 

「ハハハ、話が早くて此方も助かります。……それともう一つ…寧ろこっちが本来の目的と言っても良いですかな」

 

 スミカは過去に、インテリオルユニオン系列の企業と繋がりがあった。

 

その伝手を辿れば、ACネクストの入手はそう難しくはない。

 

しかし左近は、もう一枚の記録媒体を取り出し、二人に差し出す。

 

その媒体は、日本帝国上層側に属する一人の軍人の声明が記録されていた。

 

実はこの左近も、その人物に依頼され此処まで馳せ参じたのである。

 

無論、他にも細々とした目的はあったが、この二人に接触し今の記録媒体を渡すのが主目的であった。

 

こうして謎の人物、鎧衣 左近との会見は終わり、二人は早々に居住区へと戻った。

 

鎧衣 左近(よろい さこん)…彼は日本帝国に所属する諜報員で、『帝都の怪人』とも言われていた。

 

部屋に戻った二人は、彼から託された記録媒体を端末のスロットに差し込み、起動させた。

 

そしてモニターに投影される、一人の若い男とメッセージ――。

 

見え隠れする階級章から察するに、恐らく上級仕官なのだろう。

 

紳士的な態度ではあったが、何処となく腹に一物を抱えた男に見えた。

 

それが切っ掛けとなり、彼等との交流が繰り返し行われる事となった。

 

 

 

 

 

―― 更に数日後 日本帝国・京都・舞鶴基地 ――

 

 

 

(推奨BGM Muv-Luv Alternative 咆吼する魂)

 

 

 

 日本海側に位置する帝国軍港基地。

 

海面に浮かぶ、その威容は『船』と言った処で、誰も信じる者は居ないだろう。

 

アームズフォート、ギガベース

 

全長600メートルを超え、全高250メートルをも誇る、水陸両用の拠点型兵器だ。

 

その巨躯に唯々唖然とする群衆。

 

言葉も無く口をポカンと開け、見る事しか出来ない人々。

 

何処に斯衛の矜持など存在しようか。

 

常に帝国国民の模範となり、規律となり、前へと立ち続ける、帝国軍独立精鋭部隊。

 

「おやおや。『鬼姫』と呼ばれし程の御仁が、涎を垂らしているよ」

「――っ!?」

 

 軍服に身を包み、穏やかな表情で語り掛ける青年に、『鬼姫』と呼ばれた人物は”ハッ”と我に返る。

 

「――も、申し訳ありません、少佐!」

 

「ハッハッハ、呆けるのも無理はない。私でさえ、この巨影には面食らうばかりだよ、恭子」

 

「斑鳩少佐……」

 

 斑鳩と呼ばれた男は、微笑しながらもアームズフォートに視線が向いていた。

 

「さて、この旅路。未知なる邂逅数多だ。世界の情勢を君自身の目で確かめて貰いたい」

「ハッ!身命を賭して!」

「尤も、君の任務はそれだけではないのだけれど。まぁそれは、()の領域だ」

 

 斑鳩の視線は他の集団に向けられ、恭子と呼ばれた斯衛軍衛士『崇宰=恭子』も彼に釣られ視線を傾ける。

 

斯衛軍衛士とは別の集団に、()はいた。

 

「済まんな榮二、俺の娘を唯依を頼む」

 

「ああ任せておけ。だからと言ってお前も無理はするな。何せBETAの群れに飛び込むような旅なのだから」

 

 一人の男は自身の娘を、巌谷=榮二と呼ばれる男へと託す。

 

榮二にとっては、託された彼女は娘の様に思っている。

 

それ自体は何ら負担とはならず快諾するも、彼は眼前の男の身を案じた。

 

「この旅には、お前のみならず数多くの企業も参加している。まさか五摂家の一角、崇宰家も参加するとは予想外だ」

 

 榮二は、斯衛軍衛士の集団に視線を向けた。

 

「それだけ誰もが重要視しているという事だ。見極めねばなるまい、世界の情勢を。そして知る必要がある、例の人型兵器を――」

 

 娘を託した男、篁=裕唯(たかむら まさただ)はギガベースに搬入されつつある戦術機『TSF-Type82瑞鶴』を見つめていた。

 

――俺の開発した『瑞鶴』をベースに、例の人型兵器の技術を組み込む技術検証。それが俺の任務だ。

 

遅かれ早かれ後数年もすれば、衛士の訓練を受けている娘は戦場に立つ事となる。

 

少しでも新技術を導入し、戦力の底上げを図る。

 

この愛すべき祖国の為にも、何より愛しき家族の為にも。

 

「後は頼んだ、榮二!」

 

 榮二は力強く頷き、無言で裕唯の肩を叩く。

 

「「「それでは我々も行ってまいります!」」」

 

 裕唯に同行する、他の技官らも榮二に敬礼した。

 

榮二も数名の技官に、敬礼で返し乗艦する彼等を見送った。

 

「それにしても、途轍もない企業だな。こんなバカでかい兵器を造りだすとは」

 

 アームズフォート『ギガベース』を製造したのは、アメリカに本社を置く『GA』と呼ばれる巨大軍需複合産業である。

 

そして『GA』と提携し、緊密な関係にある日本の軍需産業、名を『有澤重工業』という。

 

有澤重工業自身は、巨大兵器であるAF(アームズフォート)を所有しておらず、急遽GAに連絡を入れ、購入に至ったのである。

 

元々ギガベースは拠点型に分類され、陸、海、問わずに運用が可能。

 

故に長距離を航行するには、打って付けの兵器だった。

 

有澤重工は購入したギガベースに独自の改良を施し、この旅の為に準備を整えてきた。

 

次々と旅に必要な物資、人員が乗り込み、その中には技術仕官や研究員、政治家なども含まれる。

 

『食料コンテナは3番通路だ、急げぇ!』

『おい、ノーマルと戦術機を接触させるんじゃねぇぞ!』

『MTの搬入も忘れんなよ!ある意味最も重要な物資なんだからよ!』

『VIP待遇の方々は、丁寧にご案内しろ!くれぐれも粗相のない様にな!』

 

 喧騒音と怒号が飛び交い、ギガベース内外では尚も作業員達が忙しなく右往左往している。

 

 

 

「斑鳩=崇継 少佐殿、少し振り…ですかな?」

 

「おお…、これはこれは社長殿!」

 

 五摂家の一角である斑鳩=崇継(いかるが たかつぐ)は、後ろから声を掛けられ振り向いた。

 

其処には、体躯の良い壮年の偉丈夫に数名の屈強な大男達が同行していた。

 

「此度の旅路、貴方様は同行されないと聞きましたが?」

 

「その通り。まぁ此方は此方の事情があるのでね。故にこの任は彼女と()()に担って頂く」

 

 斑鳩=崇継の傍に佇む、若い女性衛士『崇宰=恭子』と彼の側近、真壁=介六郎(まかべ かいろくろう)。

 

真壁=介六郎は、赤い強化装備に身を包む斑鳩家に仕える家系でもあり、山吹色の強化装備に身を包む譜代武家の衛士を数名引連れていた。

 

彼等は隆文に敬礼で応える。

 

「私は、有澤=隆文(ありさわ たかふみ)と申します。お見知り置きを!」

 

 崇宰=恭子、真壁=介六郎も敬礼で返し、簡潔に自己紹介を交わす。

 

『社長、お時間が迫っております。例の方々は既に乗艦を完了しております故に――』

「む、理解した」

 

 重役に促され、有澤=隆文は崇宰=恭子ら斯衛軍と共に、ギガベースへと移動する。

 

「有澤殿!あの機体には、もう乗らんのですかな?」

 

 斑鳩に背後から声を掛けられ、隆文は僅かに振り向く。

 

「……これ以上の汚染は、本意ではありませぬ故」

 

 そう告げ、そそくさとギガベースへ姿を消した。

 

「……確かに。コジマ兵器など、『G弾』と何ら変わらんからな。()()()()にも宜しく頼むよ、介六郎」

 

 斑鳩は一人呟き付き添いの衛士達と共に、ギガベース出航を見届けた。

 

ギガベースの出向には、軍関係者だけでなく多くの報道関係者までもが、詰め掛けていた。

 

当然安全面を考慮し、一定の区間からは立ち入れないよう措置を取っている。

 

それでもこの異様な兵器『ギガベース』が珍しいのだろう。

 

五摂家の次期当主と期待されている崇宰=恭子などそっちのけで、カメラのフラッシュはギガベースへと釘付けになっていた。

 

尤も、恭子自身は清々していたのだが。

 

 

 

「艦長、出港に移れ」

「ハッ!」

 

 専用の執務室ではなく、いきなり艦橋へと姿を現した有澤=隆文。

 

若干の驚きを見せるも、艦長は直ぐに己が職務に移り、出港の命を下す。

 

『全主機の出力安定。問題、認められず!』

『天候、晴天なれど波高し。だが、航行に支障なし!』

『抜錨開始!機関始動!』

『機関良好!』

 

「両舷前進微速!」

 

 艦長の号令によって、ギガベースはゆっくりと確実に、その巨体を動作させた。

 

『おお!本当に動いたぞ!』

『あんな巨体が、どうやって浮いてるんだ!』

『戦艦大和が、小舟に見えるぜ!』

 

 一方軍港では、多くの人々が驚愕を交えた歓声が沸き上がり、報道陣は命一杯カメラを回し撮影に全力を注ぐ。

 

『艦長、出港完了致しました!』

「航海長操艦。両舷前進原速、赤黒なし」

 

 出港完了の報を受け、艦長は航海長へと操舵権を渡す。

 

『頂きました、航海長。両舷前進原速、赤黒なし』

 

 操舵権を渡された航海長が、暫くは操艦する事となる。

 

ギガベースは、原速12ノットの速度で舞鶴基地から脱し、日本海をゆっくりと進んだ。

 

目指すは、英国圏の巨大軍港――。

 

接触目標は、巨大軍需産業インテリオルユニオン――。

 

 

 

(推奨BGM Muv-Luv Alternative 決断)

 

 

 

「此方になります」

 

 ギガベースに乗組員に案内され、着いた場所は豪勢な船室だった。

 

「……これはすごい。大和ホテルも顔負けね」

 

 その船室に感嘆の声を漏らす一人の女性――。

 

白衣に身を包み、その下には上級仕官である軍服を纏っている。

 

背の低い少女と数名の女性衛士を伴い、その女性は入室し、手頃なソファーへと腰掛ける。

 

「それでは、ギガベースでの船旅を存分にご堪能くださいませ」

 

 恭しく頭を垂れ、乗組員は早々に姿を消す。

 

「さっ、アンタ達も適当に寛いで良いわよ!」

 

 白衣の女性、香月=夕呼(こうげつ ゆうこ)は同行した数人の女性達にも声を掛ける。

 

「香月博士、些か、はしゃぎ過ぎでは!」

 

 同行した衛士の一人でもあり友人でもある、神宮寺=まりもは呆れ顔で溜息を吐く。

 

「なぁに言ってんのよ!休める内に休んどかないと、この先もたないわよ!さぁ、霞も楽になさい」

 

 夕呼はヒラヒラと手を振り適当に流しながら幼い少女、社=霞にも休息を促した。

 

――これ程の遠出、本当に久し振りね。碌な思い出なんか無かったけど。

 

まりもは、部屋の窓から何気なく外を眺める。

 

祖国日本を離れ、否が応でも思い出す大陸での戦い。

 

彼女の部隊は壊滅し、実質一人生き残った。

 

――新井…。

 

訓練兵時代、共にしのぎを削り対立しながらも、互いを認め合う関係となった。

 

しかし彼は重光線級のの犠牲となり、機体ごとレーザーで蒸発させられた。

 

彼女を庇って――。

 

今回の作戦も、多くの同胞が犠牲となるのだろうか。

 

そんな悲壮感ばかりが脳裏を過る。

 

「――どうされました?」

 

 同行した衛士の一人、藤澤=月子(ふじさわ つきこ)が、まりもを気遣う。

 

「いや、大した事じゃない。少し過去を思い出しただけだ、気にするな」

 

「……失礼しました」

 

 まりもは気遣い無用と直ぐ平静に戻り、月子は敬礼で応える。

 

過去に初陣で大陸へと赴き、BETA群と戦った。

 

結果は大敗を喫し、多くの戦友を失う羽目となり、今も彼女の心に深く刻み込まれている。

 

既にギガベースは動き出し、舞鶴軍港基地は微かに輪郭を残すのみだった。

 

今回の長旅も祖国を離れ、欧州へと赴くのだ。

 

概要は事前に聞いていたが、海路で目的地へと到着した後は、陸路で欧州~朝鮮半島まで横断するという旨を聞いていた。

 

普通に考えれば、先ずあり得ない程に荒唐無稽な作戦であった。

 

よく通ったものだ。

 

少し思案に耽った後、まりも自身も寛ぐ事にする。

 

「皆も楽にしていい。今の内に寛いでおけ」

 

 彼女は部下に告げ、伊隅みちる(いすみ みちる)藤澤月子(ふじさわ つきこ)三浦園子(みうら そのこ)竹宮千夏(たけみや ちなつ)等も敬礼で応え、各々が楽な体勢を取った。

 

「正直に言えば、未だに信じられません。異なる世界同士が融合したなど――」

 

 香月=夕呼の護衛として同行していた女性衛士『伊隅みちる』は、姿勢を崩しながらも世界の現状に疑念を呈す。

 

「認めなさい伊隅。その事象の結果が、今此処に在るのよ。あくまで、結果の一端だけどね」

 

 夕呼達が乗艦する、この巨大な拠点型兵器『AF・ギガベース』も、世界が融合し折り重なった結果の一因子に過ぎない。

 

コジマ粒子、巨大企業、国家解体戦争、パックスエコノミカ、アサルトセル、クレイドル、そして――。

 

 

 

―― アーマード・コア ――

 

―― レイヴン ――

 

 

 

人類の存亡を賭けBETAとの戦争に明け暮れる、今迄の世界。

 

しかし、人類同士の戦争で、地上は汚染され尽くし滅び去る運命を孕んでいた、もう一つの世界。

 

幾つもの可能性が枝分かれし、それぞれの道を歩んだ結果、突如融合を果たした今の世界。

 

滅びの道を歩んでいた二つの世界が重なり、どの様な未来を突き進むのか。

 

それは誰にも分からない。

 

「寧ろアタシはチャンスだと踏んでいるわ!例の計画を完遂させる為にもね!」

 

 人類と世界をBETAから救い出す為の計画。

 

様々な障害と妨害に遭い、計画自体は難航していた。

 

しかし別次元の技術を吸収し、融合し変わり果てた世界を観測する事で、得るものが必ず有る筈だ。

 

このまま研究室に籠もり、書物や資料と格闘していたのでは、永久に悲願が成就される事はない。

 

逆に、()()()()が実行され地球は最悪、見捨てられる事になるだろう。

 

「ですが、『統治企業連盟』という組織集合体。米国が主導としている()()()()を支持しているようです」

 

 夕呼の秘書官を務める軍人、イリーナ=ピアティフは米国と企業連について言及した。

 

「……」

 

 夕呼は無言で、巨大複合産業『企業連』に思案を巡らせた。

 

「そもそも、この有澤重工とて、企業連に名を連ねる組織です。帝国に力を貸す姿勢を見せていますが、余り過度に信用するのはどうかと……!」

 

 衛士の一人、竹宮千夏も有澤重工に対して意見する。

 

「有澤の力は必要よ、敵に回すべきではないわ!」

 

 些か感情的になる竹宮千夏に、夕呼はやや強め口調で諭す。

 

「確かに三大企業、GA、オーメル、インテリオル。有澤はGAの傘下企業にも拘らず、その全戦力は帝国全軍にも匹敵するわね」

 

「唯でさえBETA相手にひっ迫しているのに、企業まで敵に回すのは上策とは思えません」

 

 まりも、ピアティフも言葉を付け加える。

 

ここ近年日本帝国は、国連軍最大の国力と軍事力を持つ米国(アメリカ合衆国)との関係が悪化していた。

 

アメリカは現在、世界唯一の超大国と言っても過言ではない。

 

そのアメリカに企業連の三大組織の一角GAグループが加わり、アメリカは更に国力を増大させた。

 

そしてGAの総意は、米国が主導する()()()()を全面的に支持し、資金、技術、人材面で大いに貢献している。

 

一方アジア地域では、オーメルサイエンステクノロジーがソ連や中華人民共和国と云った国々と協力関係を結び、軍事面や経済面で多大な影響を及ぼしていた。

 

残るインテリオルユニオンも欧州圏に本拠地を置き、英国を全面的に支えている。

 

世界が融合した事で、企業連の台頭が世界に多大な影響を与えているのであった。

 

その所為で懸念材料は、BETAのみならずパワーバランスまで大きな変革を齎していたのである。

 

GA、オーメル、インテリオルの三大企業には、数多くの傘下企業が付き従っている。

 

GA傘下の有澤重工業も、その内の一つだ。

 

尤も、有澤重工は従属というよりも提携と言った方が正確で、GA自身も基礎技術面では有澤に頼る部分も大きく、両者の関係は概ね良好と言えた。

 

実際、有澤重工業の総合力は、GAに及ばないまでも世界に与える影響力は多大だ。

 

車両や榴弾技術に目が行きがちだが、インフラ、福利厚生、食料、娯楽、一通りのノウハウは有していた。

 

また有澤重工自身は地元住民との交流と支援にも力を割き、大いに支持を集めていたのである。

 

下手に関係を悪化すれば、帝国にどれだけ悪影響を及ぼすのか計り知れない。

 

「それに有澤重工は、此方の計画にも理解を示してくれているわ。だからこそ、こうして同行を許されたのだけれどね」

 

 数ある企業の中でも有澤重工は、夕呼の計画にも一定の理解を示し、既に巨額の投資を受けていた。

 

逆に成果を示さねば、完全に切り捨てられるという示威行為でもあるのだが。

 

加えて、有澤重工からGA通じて米国との交渉役にも、一役買ってくれるだろう。

 

味方にこそすれ、敵に回すには余りにデメリットの方が大きい。

 

「さて!作戦会議までまだ時間もあるし、シャワーでも浴びてきますか!霞、アンタはどうする?」

 

 夕呼はベッドに腰掛け無言でいる少女に声を掛けた。

 

「……後でいい」

「そ。じゃあ、先に頂くわね!」

 

 霞は短い言葉で応え、夕呼は特に何を意識するでもなく早々にシャワー室へと移動した。

 

「味方が増え、同時に障害も増えた……。だけど必ず成就してやるわ!全人生を賭してでも!」

 

 脱衣所の洗面台で、夕呼は一人呟いていた。

 

―― オルタネイティブⅣを ――

 

鏡に映る自身の顔――。

 

彼女の眼には、確かな決意と覚悟が宿っていた。

 

 

 

(推奨BGM アーマードコア3 Artifical Sky II)

 

 

 

「隆文、入ります」

 

 一際豪華な扉のノブに手を掛け、丁寧な仕草で入室する有澤隆文。

 

「体調の方は如何か、叔父貴」

 

 彼の眼前に居たのは、車椅子に腰掛け日本古来の正装である『黒紋付袴姿』の老人であった。

 

「よう来たの、隆文や」

「お変わりなくて、何よりだ」

 

 車椅子の老人は、有澤=隆彦(ありさわ たかひこ)

 

有澤重工業の会長であり、隆文の叔父にあたる。

 

既に95を超える高齢で心身共に衰えていたが、その眼光は未だ鋭く精気と決意がみなぎっていた。

 

「例の計画…オルタネイティブⅤの進行状況は……?」

「ハッ!アサルトセルが崩壊した事により、進行速度に拍車が掛かっております」

「そうかそうか」

 

 会長、隆彦は満足そうに微笑んだ。

 

「しかし、私には分かりかねます。企業連と米国が推進するオルタネイティブⅤを支援しておきながら、何故(なにゆえ)叔父貴はオルタネイティブⅣをも支持なさるのです?」

 

 隆文は訪ねる。

 

有澤重工業もGAグループに属し企業連の一員である事には、何ら変わりはなく基本方針はGAに傾いていた。

 

オルタネイティブⅤという計画。

 

それは、BETA由来の産物である兵器『G弾』の集中運用で、地球上のBETAを環境ごと殲滅。

 

加えて選別した10万人の民を宇宙船に乗せ地球を脱出し、バーナード星系へと移住させる計画だ。

 

その計画は表面上、保留という形はとっているが、実際は水面下で着々と進行中なのである。

 

企業連は、米国が提唱しているこの計画に賛同し、全面的に協力援助を惜しまなかった。

 

それは、クレイドル体制が崩壊した事で経済の基盤を失い、汚染され尽くした地上での活動が困難と判断し、企業連自身も宇宙脱出計画を推進していた事にも大きく起因していた。

 

しかし有澤重工だけは、香月夕呼のオルタネイティブⅣにも一定の理解を示し、資金や物的援助を惜しまなかった。

 

有澤隆文には、それがどうしても腑に落ちなかったのである。

 

それを聞いた隆彦は、ニィッと口端を吊り上げた。

 

「ククク……邪魔なのだよ!米帝の亡者も、中華の蛮族共も、ロシアの獣共も……な!」

 

「――っ!?それはっ…どういう……」

 

 隆彦の真意を汲み取れず、豪胆で滅多に動揺しない隆文も、驚愕の表情を浮かべる。

 

隆彦の真意――。

 

オルタネイティブⅤを推進させ、更なる計画拡大へと誘導し10万人などと言わず、世界中の人間を他星系へと移住させたかった。

 

そして自分達日本民族は、この地球に留まり営みを続けるのが、彼の目的であった。

 

「日本という国は、古来より自然と神々を敬う高潔な精神性を重んじた国であった。しかし、今はどうだ!」

 

 皺だらけの隆彦の表情が一層険しくなり、惚けた瞳が人間性を取り戻したかの如く、鋭さを増した。

 

荒廃と衰退を重ね、挙句の果てに世界の国家は解体され、残ったのは利権と物質の世界が蔓延した。

 

そこには何の精神性も無く思想も無い、物欲と管理のみの社会。

 

ACネクストにより国家は解体されてしまったが、隆彦は秘かに計画を練っていたのである。

 

経済力と軍事力を更に増強させ、GA、オーメル、インテリオル、三大企業に肩を並べる組織へと成長させる事。

 

その力を用いて、再び『日本』を復古させるのが、有澤孝彦の悲願であった。

 

即ち彼は、日本という国そのものを愛し、精神の寄る辺でもあった。

 

彼にとって日本とは、『篝火』の如きヨスガでもあったのだ。

 

(あたか)も、羽虫が火に惹かれるが如く。

 

「だが、思わぬ形で祖国が復活したのだ。ならば、今度こそ我が『有澤』の力を注ぎ込み、神国『日本』に御奉公する使命を賜ったのだよ!それが、我々が地球に…神々に…自然に対する贖罪となり赦免(しゃめん)ともなろうぞ!故にっ!無駄な人口など目障りでしかないのだよ、隆文よぉっ!!」

 

 隆彦の本心を受け、隆文は言葉を失っていた。

 

よもや、そんな事を画策していたとは。

 

余りに違い過ぎる次元の精神性。

 

それとも生まれ得た時代の差異によるものなのか。

 

「し、しかし、叔父貴よ。G弾を集中運用されては、それこそ国の再興など水泡に帰すではないですかな?」

 

 彼の言う事も尤もである。

 

半永続的に重力異常を引き起こし、環境を破壊する兵器、G弾。

 

それは此方側が嫌という程引き起こした、コジマ兵器と何ら変わりない悪夢の産物だ。

 

オルタネイティブⅤは、G弾の集中運用を前提に執行される作戦。

 

「なぁに、BETAを地球上から駆逐出来れば、G弾のバラまきなど起こりようもなくなる。環境を残しつつ、邪魔な多民族などは地球から去ってくれれば良いのだ!その為のオルタネイティブⅣよ!」

 

「……。お言葉を返すようですが、全てが思い通りに行くとは限りませぬ。世界と例外(イレギュラー)は決して切り離せぬ、因果の鎖。何人たりとも覆す事は叶いませぬかと」

 

「くっくっく、それこそ例外(イレギュラー)が台頭する時ぞ!可能性は()()に在るっ!」

 

「……。失礼致します」

 

 隆文はそれ以上言葉を返さず、静かに部屋を退出する。

 

――確かに、日本復古は俺とて望んでいた悲願。それは叔父貴と何ら変わらん。寧ろ、それ自体は有澤全体の総意と言っていい。

 

「だがあの御仁の思想……些かに狂気すら滲ませている。……いや、俺らしくもない!今成すべきは、忌々しいBETAに抗する術を確立する事だ!」

 

 隆文は独り、言葉を零しながら自室へと戻った。

 

舞鶴軍港を離れ、ギガベースは海を掻き分け突き進む。

 

 

 

 

 

―― 1週間後 ――

 

 

 

(推奨BGM アーマード・コア2 BGM Roundabout)

 

 

 

『ミッションの概要を説明いたしましょう。依頼主はオーメルサイエンス社。目標は、廃棄軍事施設の制圧となります。この施設は元々、リンクス戦争時に使われていた施設だったのですが、戦火拡大の煽りを受け止む無く廃棄されたという過去があります。しかし驚く事に、一部の設備が未だ稼働状態にあり、目を付けた我々が接収する事になった次第です。廃棄施設には、ガードメカを始めとする無人兵器が徘徊している事でしょう、全て排除して下さい。……あの時と比べれば少々地味で報酬も少額ですが、オーメルサイエンス社と繋がりを強くする好機です。そちらにとっても悪い話では、なぁいと思いますが?』

 

 自室の端末に送信される、オーメルからの依頼。

 

特定地での無人機排除という、ありふれた依頼だ。

 

飛鳥にとって最も得意とし、普段からよく請け負っていた仕事内容でもある。

 

「確かにあの大規模作戦に比べりゃ、パッとしない仕事だな。……でも請けるんだろ?」

 

 横から覗いていたユウキに、飛鳥は短く頷いた。

 

「独立傭兵である僕には、こういう作戦の方が性に合ってます。一々軍部からの指図も受けなくて済むので」

「はは、それもそうか」

「だが気を抜くな。BETAの奇襲も考慮しておけ」

「――でしょうね。WS-16Cも装備しておくとしましょう」

 

 以前にも廃工場内で、BETAからの奇襲を受けた事があった。

 

とにかく生息数が多く、懸念となるのは銃の装弾数だ。

 

下手に接近すれば密集した戦車級に取り付かれ、装甲ごと食い千切られる可能性もある。

 

出来るだけ、射撃戦で仕留めたいものだ。

 

ユウキの横に居たスミカの意見に従い、飛鳥は戦術機用の銃も装備を視野に入れる。

 

「よし、そうと決まれば、請けましょう!」

 

 飛鳥は意を決し、依頼承諾の意を送信した。

 

信号を受け取ったオーメル側は、受諾の返信を返す。

 

その後、何時も通りACの出撃準備を整える為に、席を立ち上がる飛鳥。

 

「ああそうだ、そろそろお前一人で準備を整えてみるか?いつでも独り立ち出来るようにな」

 

「……そう、ですね。そうしましょう」

 

 立ち上がる飛鳥に、珍しくスミカから声が掛かった。

 

彼女の言葉に些かの逡巡を見せるが、飛鳥は承諾しACハンガーへと向かい自室を出た。

 

「……」

「……」

 

 飛鳥が居なくなり彼の自室には、ユウキとスミカの二人きりとなる。

 

若い男女が部屋に二人きり。

 

もしこれが平和な時代であれば、さぞ華やかな物語りが展開されたのだろう、若しくは背筋凍り付く修羅場か。

 

しかし二人の表情は、硬く険しいものだった。

 

――飛鳥の気配は感じない。まぁ盗み聞きするような奴じゃないしな。

 

仮に飛鳥が聞き耳を立てようとも、この部屋は安いながら防音処理が成されており外部から会話を盗み聞きする事は叶わないのだが。

 

「メールが来ましたよ、()()()()からです」

 

「……全くマメな連中だ……!」

 

 ユウキは携帯用の端末をスミカに見せる。

 

画面には、メールが映し出されていた。

 

「……そうか、分かった。今回の作戦が終われば赴くとしようか」

 

「了解です、スミカさん」

 

「馬鹿野郎が、今は誰も居ないのだぞ」

 

「……そうでしたね、セレン・ヘイズ」

 

 嘗てセレンヘイズを名乗っていた、カスミ・スミカ。

 

二人は何処と無く穏やかな表情で見つめ合っていた。

 

それは飛鳥にも見せた事の無い、二人だけの確かな繋がり。

 

 

 

翌日、交易所にオーメル陣営の輸送車が到着し、飛鳥達一行はそれに搭乗し現場へと向かう。

 

それ程遠方ではないのか、予想以上に現場へは早く到着する事が出来た。

 

「AC『白天翼』起動します!」

 

 慣れた手順でACを起動させ、主脚での移動を開始した。

 

「外縁部に、直掩機の存在確認できず!」

 

 背部のレーダーユニットが作動し、施設広域をスキャンするものの敵機の姿は無かった。

 

『了解だ、そのまま施設内部へと向かってくれ。地味な作戦とは言え未知の地域だ、慎重に行けよ』

「――了!」

 

 スミカの命を受け、飛鳥は周囲索敵を厳にしつつ、施設内部を目指した。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

カラード

 

リンクス管理機構。

 

リンクス戦争の教訓からか、企業が直接リンクスを所有し運用する方式を改め

カラードを介した共同管理とした。

が、実際は、個体依存性への危険性を知りながらも、捨てることのできないネクスト戦力の魅力

ネクスト無しとした場合の対ネクストへの企業の恐怖感など矛盾への妥協の結果でしかない。

しかし、年月の経過と共にその機能・存在意義は薄れ、実質企業専属リンクスが多く存在していた。

 

今では、リンクスやネクストすら過去の遺物と化している。

だがそれでも、組織や企業は追い求め欲すのだ。

それ程までに魅惑な圧倒的戦力――。

たとえ世界が崩壊の未来を辿ろうとも。

 

 

 

 

 

 




 主人公たちが住んでいる交易所ですが、『サイバーパンク2077』のナイトシティを
イメージして頂ければと、思っています。
治安も区間によって差が激しい所です。

鎧衣左近、かなり好きです。
あの独特の口調、立ち振る舞い、正直娘よりも魅力を感じているのは私だけか。
機会があれば、また登場させたいモノです。
彼の口調、あれで良かったんだろうか?

マブラヴ側の人物、ちょっと出し過ぎたかな?

如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)ゝ

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