アーマードコア・オルタネイティブ― 白い鳥 ― 作:カズヨシ0509
拙い作品かと思いますが、暇潰しになれば幸いです。
MT(マッスルトレーサー)
正式名称は、マッスルトレーサー。
元は各種作業や工作を担う、作業用重機を発展させたもの。
大量生産を意識したものから高性能機を意識したものまで、多種多様な派生機が存在する。
量産機は構造が非常に単純で、生産コストも安価に加え、操縦系統も簡略化されている。
それ故に、操縦者の育成が早期に成り立ち好条件と素質が重なれば、僅か数日で戦場に送り出す事も可能だ。
それ等の量産機は、ACを運用するだけの資力の無い傭兵がMTを用いる場合もある。
一部の例外を除けばACよりも安価で数を揃えやすく、企業やテロリストにとっての主力兵器となっている。
性能を特化させた期待は、一部でAC(ハイエンドノーマル)を凌駕する性能を発揮する事もある。
マッスルトレーサー。
この存在は人類にとって、地球外起源種の切り札となり得るだろうか?
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
(推奨BGM アーマードコア3 ―― Bravado)
廃棄施設外縁部に敵の姿は無く、施設内部へとACを移動させた。
内部へはスロープ状の坂道で繋がっており、地下へと通じている様だ。
『高確率で閉所での戦闘となる筈だ、特にBETAとの密集格闘戦には警戒しておけ!』
スミカから通信が入る。
これまでの作戦でも、施設内部は狭く入り組んだ構造で、ACを扱った戦闘は行動に制限が掛かっていた。
もしも、BETAの大群に遭遇すれば、脚を止めての射撃戦か格闘戦に発展するだろう。
彼等は、ほぼ確実に群れで行動し、起動が制限される閉所での戦闘は此方にとって不利に働く。
万が一反応が見られた場合は、すぐさま外部へと退避し、野外戦闘に持ち込むのが得策だろう。
飛鳥は、後方にも意識を向け警戒する事にした。
閉所での挟撃は、危険極まりない状況に陥るからだ。
歩行移動で内部を慎重に探索し、レーダーユニットをフル稼働させる。
「――!レーダー反応を認む、ガードメカ……にしては若干違う様な……?」
レーダー波が敵機を察知するが、普段見慣れた反応とは若干の違いが確認された。
『ここからでは、断定できん。更に進軍し、敵を直接スキャンしてくれ』
「了!」
スミカの要求通り、飛鳥は更に内部へと突き進む。
どの道ガードメカは排除しなければならないのだ。
『システム・スキャンモード』
飛鳥はスキャンモードに切り替え、索敵に特化した形態で探索を続行する。
この形態では戦闘力は著しい制限を受けるが、索敵範囲と精度に拍車が掛かり情報収集には最適だ。
「もう直ぐだ」
レーダー反応が増大し、敵機を示すマーカーが増加しつつアラーム音も激しく鳴り響く。
ACの目の前にはゲートが存在し、近付くと自動的に開閉する仕組みの様だ。
飛鳥が手前まで近付くと、ゲートが開かれる。
やや広めの空間が眼前に広がり、其処には多数のガードメカやMT、ACノーマルが此方を待ち構えていた。
「――敵機発見!これより排除する!」
無人機が一斉に此方に反応し、密集形態で突撃してきた。
「――何だ、こいつ等の動き?それに無人機の筈なのに、僅かな生体反応が……?」
まるで群がる様な陣形で、ACに迫り来る無人機の群れ。
そして、無人機である筈の機体から、微弱だが確かな生体反応が検出された。
「どういう事だ!?ガードメカやMTは、まだ分かる。だけど、ノーマルからも生体反応が……まさか!?」
殺到して来るガードメカやMTは、明らかに人が乗るには適していない形状をしている。
故に有人機でない事は、飛鳥にも理解出来た。
だが、ACノーマルに関しては断定しかねた。
人が乗っている有人機の可能性も、否定出来なかった。
『此方でも確認したが、そのノーマルはコックピットブロック非搭載型だ。確実に人は乗っていない!』
AC『白天翼』から送信された画像を、ユウキが解析しノーマルにも人が搭乗していない事実を伝えた。
そのノーマルはGA社製のノーマルだが、コックピットブロックの代わりに制御ユニットが搭載されているタイプであった。
「無人機にも拘らず生体反応あり!オマケに戦術行動を無視した密集陣形……。この動き…まるで……」
『呆けている場合か!奴等はBETAと違って撃って来るぞっ!』
「――っ!」
(推奨BGM アーマードコア4 ―― Blind Alley)
無人機の異様な動きに戸惑う飛鳥。
スミカの叫びが耳を打つと同時に、無人機群が攻撃を仕掛けて来た。
最前衛に陣取っていた浮遊型のガードメカと逆関節型のMTが、機銃を乱射する。
ガードメカからは12.7ミリ、逆脚MTからは20ミリ機銃弾が放たれた。
無数の弾丸がACに殺到するが、狭い通路では満足な回避行動も執れず、各部装甲を穿つ。
「――くっ!一旦退避する!」
ACの装甲は堅牢で、軽量級ACでも30ミリクラスの弾丸なら辛うじて耐える事が出来る。
飛鳥のAC『白天翼』は中量2脚型で装甲もそれなりの厚さを備え、ガードメカやMT程度の機銃で傷付く事はない。
だが、撃たれ続けるというストレスが彼に耐えず襲い掛かり、飛鳥は堪らず通路からの退避を試みた。
――何てこった!僕とした事が、後手に回ってしまうとは!
出鼻を挫かれる形となり、飛鳥はL字型の曲がり角で待ち構えた。
――敵機接近…、3…2…1……。
モニターに映る敵機マーカーと、無人機接近の動作音がコックピット内に響く。
「――今っ!」
敵機が姿を現したと同時に、飛鳥は射撃を開始。
右手のWS-16Cを連射で迎え撃ち、次々と殺到するガードメカとMTを順次破壊した。
「――敵機破壊を確認!残りはノーマル12機編成のみ!」
無人機群の最後尾に位置するのは、ACノーマル12機だ。
『野外にて対応しろ!ノーマルの機種はGA社製のGA03-SOLARWIND!奴等、ロングライフルで武装してやがる!』
「――了!野外へ脱出します!」
スミカの通達で、ACノーマルには強力な武装が施されている事を知り、飛鳥は出口へと脱出する。
ノーマルの武装は対ハイエンドノーマル用の特殊仕様で、直撃すれば無視できないダメージとなる。
それが複数で一斉射撃されれば、一溜りも無いだろう。
況してや閉所では、動きが制限され回避もままならない。
この場合、開けた野外での戦闘が望ましい。
BETAの介入を懸念しつつ、飛鳥は施設野外へと脱出に成功しノーマル群に備える。
「…そう言えば、さっき撃破した敵機に赤い蠢く物体が密着していたような気がするんですが?」
『――その事か。私も気になっていてな、もし可能なら、その奇妙な物体だけでも回収できないか?』
「…やってみましょう」
L字型通路で敵前衛群を迎撃した際、敵機に奇妙な物体が取り付いていたのを思い出す。
無人機である筈の自律兵器に、生体反応が検知されたのは、その物体が恐らく原因であろう事は容易に想像できた。
原因究明の為にも、回収し分析する必要がある。
尤も専門的な設備と知識が必須となるだろうが、それは依頼主に託せば良い。
サンプル譲渡を引き換えに、優先的に情報を回して貰うと云った交渉材料にも出来る。
「――来るっ!」
ノーマル群が直ぐ近くに迫っている事を察知し、飛鳥は左手用ライフル『CRYWHー05R3』と背部武装『CR-WB69RO』の小型ロケット弾も展開した。
そして敵ノーマルが姿を見せたと同時に、AC『白天翼』の全火器を駆使したフルバースト射撃を見舞った。
左右の銃と肩のロケット弾が、無数の火線を描き敵機集団に吸い込まれて行く。
着弾と同時に大小様々な爆発が巻き起こり、敵ノーマルは次々と粉砕された。
幾ら装甲の厚いGA社製ノーマルと言えども、ハイエンドノーマルのフルバースト射撃を真面に食らえば無事では済まず、残り一機を残し壊滅する。
「敵、残り一機!」
『よし、あの奇妙な物体を確保しろ!』
一機だけ残った敵ノーマル。
やはり人が乗っていないのだろう。
残り一機になろうとも、敵ノーマルは此方に突進しロングライフルの乱射を浴びせてきた。
「――遅いっ!」
敵単体で真正面からの射撃など、飛鳥にとって回避は造作もなく、ブースト移動すら使わずショ-トステップのみで避け切る。
それと同時に、カウンターで応射を開始。
先ずロングライフルを撃ち落とし、両腕部分を撃ち砕き、肩部ミサイルランチャーと両脚部も破壊し切った。
四肢を完全に捥がれ、残すは頭部と胴体部分のみとなる。
その無残な姿に若干の同情も湧き起こるが、相手は敵で無人機だ、情けは無用。
戦闘力の喪失した敵ノーマルの背部には、赤く蠢く物体が脈動しながら取り付いていた。
――本当は近付くのも嫌なんだが。
生理的嫌悪感を催す薄気味悪い外観をした、生物らしき物体。
飛鳥はACのマニピュレーターで、その物体をノーマルから無理矢理引き剥がし、握り潰さない適度な握力でそのまま掴む。
(推奨BGM アーマードコア2―― Roundabout)
「……え~…、確保…成功…でしょう…か?このまま掴んでおけば宜しいので?」
『ああ、直ぐオーメルに通達する。気味悪いだろうが、少し辛抱しろ!』
そもそも捕獲自体が即席で思い付いたプランである為、専用の道具など持ち合わせてはいなかった。
スミカは即座にオーメルへと連絡を入れ、直ぐに返信が来た。
『オーメルから専門の捕獲部隊を寄越すそうだ。誤って殺すなよ、追加報酬が減るぞ』
「……早急に来て貰いたいものです」
直接肌で感じ取れる訳ではないが、機体越しとは言え、今も
正直叶うなら、このまま手放し止めを刺したいのが本音であった。
――どうでもいいから、早く来てくれ!
そんな飛鳥の願いを知ってか知らずか、予想以上にオーメルからの部隊が現場に到着する。
『お待たせ致しました。では例の生物を此方に……』
捕獲部隊は飛行型ノーマルで構成され、超低空飛行で此処まで移動して来たのだと言う。
確かにBETA光線級が制空権を掴んでいる以上、航空機での移動は自殺行為に等しい。
同じ陸路でも地面スレスレの低空飛行なら、車両を用いるよりも遥かに素早い移動が可能だ。
捕獲部隊は専用のコンテナを展開させ、飛鳥のACは蠢く物体を投げ入れる。
「あぁ~気味悪いッ!」
コンテナハッチを閉める迄、蠢く物体はウネウネと動き回り時々飛び跳ねてもいた。
その棘状の先端部で機械に取り付き、自立プログラムを支配していたのだろうか?
専門家ではない飛鳥達には、それは分からなかった。
『調査結果が確認され次第、最優先であなた方にデーターを送信致します。今後もオーメルを御贔屓に、ではこれにて!』
捕獲部隊は用が済むや否や、すぐさま引き返して行った。
「ま、信用しないで待っておくさ」
スミカは無表情で、去り行く捕獲部隊を目で追っている。
『成功報酬の振り込みを確認、これにて依頼完遂を終了とする…ってな!』
ユウキからの通信で今回の成功報酬が振り込まれた事を確認し、飛鳥達は交易所へと帰路に着く。
「それにしても奇妙な依頼でした」
『全くだ。BETA以外にも、あんなのが居たとはな』
『何にしてもお疲れさん!後処理は俺達に任せてお前はゆっくりと休みな!』
「ええ」
そんな他愛もない会話を繰り広げながらも交易所に到着し、飛鳥達は一日を終える。
―― その翌日 ――
オーメルから約束通り結果報告が届いた。
あの奇妙な蠢く物体は、BETAである事が確認された。
それ単体では戦闘力は皆無に等しく、歩兵の拳銃でも充分死滅させる事が出来る程に、脆弱な構造をしている。
しかし自律兵器に取り付き、その制御回路を支配するという特殊な能力を有していた。
当然、支配された自律兵器は、人類側に牙を剥く恐るべき存在へと成り果てる。
つまり、人類側の無人兵器がBETA側の戦力へと寝返ってしまう訳だ。
そして支配された自律無人兵器を『汚染AI』、蠢く物体を『BETA洗脳級』と呼称されるようになった。
そしてそれ等の情報は、オーメルから『企業連』所属の全企業へと通達され、国家へと広がる事となった。
無人兵器を頼りにしていた組織は、更に頭を悩ませる結果となる。
―― 更に翌日 ――
「二人共、お気をつけて」
「では行って来る」
「余り無茶はするなよ」
カスミ・スミカ、ギン・ユウキの二人は飛鳥に見送られ、交易所を後にした。
二人は、英国圏を本拠地とする軍需産業『インテリオルユニオン』に用があるらしい。
元々スミカは、インテリオルの前身『旧レオーネメカニカ』所属のリンクスであった。
その縁で、知人から呼び出されユウキと共に赴く事となった。
二人は其処で数日間滞在するらしく、直ぐには戻っては来れない。
「独りで依頼を受けるのは構わんが、分不相応な難易度に呑まれるなよ?」
「可能な限り用事は早く済ませる積りだが、無茶して死ぬんじゃないぞ!」
「勿論です。二人の教えを生かせるか否か丁度良い機会です」
こうしてスミカとユウキは、輸送車へと移動し目的地へと向かった。
――あの二人の雰囲気、旅行に行くって感じでもなかったな。矢張り仕事関連だろうか?
二人が居なくなった後、飛鳥はそんな憶測を立てていた。
「さて、他のレイヴンのアセンブルでも調べておくか」
特にこれといった依頼も無く休暇を兼ね、飛鳥は暇潰しにと他勢力のレイヴン達を研究する事にした。
一般人立ち入り禁止区域に在る、サーバー施設へと移動する。
飛鳥は基本的にどの勢力にも所属していない、所謂根無し草ではあったが、歴としたレイヴンでもある。
こう云った機密施設への利用は認められていた。
自室の端末からでもアクセスは出来るのだが何分安物の中古品であった為、処理速度が劣悪であった。
そういう意味でも施設の端末を利用した方が、遥かに効率が良いのである。
「お金もかなり貯まって来たし、そろそろ買い替え時かな」
そんな独り言を言いながらカードキーでセキュリティチェックをパスし、最上階のサーバールームへと向かった。
―― インド洋・マダガスカル島近海 ――
(推奨BGM マブラヴオルタ ―― 軍靴の足音)
AFギガベースは現在40ノットの巡航速度で、目的地へと航行していた。
ギガベース内の作戦会議室で、複数人の上級将校が何やら話し込んでいる。
「洗脳級BETA……か」
ギガベースの所有元である有澤重工業の社長『有澤隆文』は、唸るような低い声でモニターに目をやる。
画面には、赤く不気味に蠢く奇妙な物体が映し出されていた。
数日前、独立傭兵でもあるレイヴンによって捕獲された、まだ見ぬ種でもある。
無人自律兵器に取り付き、人類へと
取り付かれた自律兵器は『汚染AI』と呼ばれるようになった。
それを皮切りに、世界各地で遭遇例が相次ぐようになっていた。
「これで人類の敵は、BETAだけでなく汚染AIとやらも追加されたという訳ですかな」
「この戦闘記録、アテになるのですか?」
「コンピューターの、モデル映像ではないのかね?」
「いえ、歴としたリアル画像です!」
帝国海軍将校や陸軍将校の間で議論が交わされていた。
モニターには、飛鳥が戦った廃棄施設での映像が映し出されている。
この戦闘記録…提供されたオーメルが独占しても良かったが、イメージアップと信頼拡大の為に、敢えて未編集のまま各地へと拡散させたのである。
故に、当時の戦闘内容がそのまま記録されており、当然会話内容までもが赤裸々に彼等に届いていた。
「この『飛鳥』と言う少年の素性はさて置き、未編集で送信されたこの記録、信用に値するのではないでしょうか」
「あたしも同意見だわ。もし本当だとすると、これまでの対BETA戦術も見直しが必要となるかもね」
五摂家の一角、
自律無人機は大半のBETAとは違い、多種多様なバリエーションが豊富に存在する。
浮遊するメカ、高機動特化型、そして殆どの自律兵器は
それ即ち、
しかも射撃は、実弾兵器が圧倒的割合を占めた。
「つまり今後は、対実弾射撃戦も考慮した運用を構築しなければなりません」
兵器の研究開発を担う
「何はともあれ、先ずは他企業の兵器も入手し、研究開発を推し進めねばなりませんな」
「左様。有澤重工の兵器も悪くありませんが、如何せん偏りが見受けられますからな」
有澤重工は、車両と榴弾技術に優れた企業で、産出される兵器もそれに準じたものが多い。
しかし、MTやACノーマルも車両型に特化し武装にも榴弾特化型と云った、明らかな隔たりがあった。
帝国本土がBETAの脅威に晒されている現在、あらゆる可能性を模索しなけらばならない程に状況はひっ迫していた。
故に他企業の兵器を入手し、研究開発を推し進める必要に迫られていたのである。
特に、光学兵器開発に重きを置く『インテリオルユニオン』は、新たな可能性を模索するのに打って付けの相手と言えた。
一応GAグループとは敵対関係にはあったが、BETAという共通の敵が存在し且つ純粋な取引ともなれば、インテリオル自身もそれ程頑なな態度は示さなかった。
尤も思わぬ処で――
光学兵器開発に優れるインテリオルの技術を入手できれば、光線級に対しても対応の幅が拡大できる。
光学兵器の技術を有しているという事は、対光学技術にも優れているという事だ。
インテリオルの開発する製品は対光学防御に優れる品が数多く、傘下企業にはコジマ技術に優れた『トーラス社』も控えている。
光学技術に後れを取っているGAグループには、是が非にでも入手した技術だ。
当然それに見合う代価を要求されるであろう。
此方も出し惜しみせず、ありとあらゆる技術と製品を提供しなければ、交渉は成り立たない。
下手をすれば、此方が下手に出る事も
ある意味、有澤陣営も捨て身の覚悟で挑まねばならなかった。
「全く、我が社の兵器の何処が不満だと言うのか。不愉快千万だ!」
「まぁ社長、今度ばかりは我慢して下さい。企業だけの問題ではないんですから」
「フンっ!」
「「「「ははははは……」」」」
少々不満気な隆文を、重役や帝国軍人たちが宥めに掛かり、会議室は少しばかり和んだ空気に変わっていた。
「……こうしている間にも、大陸では多くの同胞達が――」
崇宰恭子の隣に居た独りの女性衛士が、静かに口を開く。
彼女は赤い軍服に身を包み、五摂家を守護する有力武家『如月家』の者であった。
「今は堪えて、
「――ハッ!」
大陸…アジア東方面では、人類とBETA群との激しい戦いが繰り広げられていた。
その中には当然帝国軍人も含まれ、斯衛軍人も多くが参戦している。
戦技向上と技術研鑽のという名目ではあったが、日々寄せられるのは戦死者の名義だけだった。
実際戦況は芳しくないのだろう。
如月=佳織という女性衛士は、使命感と厳格さを併せ持った人物で、本音を言えば大陸側の同胞達を支えたい想いを募らせていた。
つい本音を漏らし、恭子に窘められてしまった。
普段軍務中において、その様な素振りは一切見せない彼女ではあったが、このギガベース内は有澤重工が運営している。
此処では普段の軍規も多少緩和されているのか、彼女自身も知らず知らずの内に気が緩んでしまったのだろう。
だが正直な処、大陸戦線に参加したいのは彼女だけはなく、他の軍人達も同じ想いを抱いている者は多かった。
しかし、此方には此方の役割が有る。
技術を入手し、それを持ち帰り、BETA襲来へと備える。
後に続く後進の為にも。
ミミル軍港に到着した後は、陸路で欧州~朝鮮半島を横断する計画だ。
その際、大陸戦線にも介入する予定ではある。
その時期が来る迄、今は堪える必要があるだろう。
如月佳織は、今の役目に最善を尽くす事にした。
それから数日後、ギガベースは長い航海の時を経て、イギリス圏に在る巨大軍港『ミミル軍港』へと辿り着く事が出来た。
しかし構造が複雑な入り江をしたミミル軍港。
既存の艦船を遥かに凌ぐ巨大なギガベースは軍港近海で駐留し、施設までは小型船で向かう事になった。
―― 数日後 ――
(推奨BGM マブラヴオルタ ―― 戒厳令)
ミミル軍港の一角に在る部屋にて。
机を挟み、数名の人物が向かい合っていた。
片方は、赤や山吹色の軍服を纏った、日本帝国所属の軍人達。
もう一方は、一組の男女。
双方から発せられる、張り詰めた空気。
皆が皆、鋭い目付きで互いを見つめ合っていた。
いや、睨みを利かせていたと言った方が正しいか。
赤い軍服の青年が口を開く。
「やはり我等に付く気は無いと言うのだな」
涼やかながらも鋭き刃の如き眼光で、眼前の男女を見据える。
「そういう事だ六郎、諦めな!」
「――貴様ぁ!仮にも有力武家である真壁様に向かって――!」
男の方はぶっきらぼうに流し、山吹色の軍服を纏った軍人が激昂する。
「真壁介六郎よ。お前達の要望通り、パーツは揃えてやった筈だ。それに加え、まだ要求すると言うのか?」
女の方も言葉を付け加えた。
彼女の言葉を要約すれば、パーツ単位で分解したACネクストを用意しておいたという事だ。
五摂家の一角、斑鳩家当主『斑鳩崇継』は密使を送り、彼等と幾度か接触を図っていた。
ACの最高潮に位置する超兵器『アーマードコア・ネクスト』を手に入れ、戦力化させる為に。
「ギン・ユウキ、お前も誇り有る日本人なのだぞ。帝国と…、我等と轡を並べるべきだ!」
「…確かに、幾らネクストを入手した処で、AMS適性が無ければ何の意味もない。ネクストとリンクス、両者が揃って初めて機能する。…ま、専用の設備とコジマ対策が必須となるけどな」
「その通りだ。お前達が送ってくれた専用の検査機で、あの御方にもAMS適正がある事が判明した」
「そいつぁ、すごい!俺なんか必要ないだろ?」
何度目かのやり取りで、ユウキ達から帝国へAMS適性を簡易的に検査する機器が、斑鳩家へと送られた。
試しに崇継が検査した処、高くはないが中程度のAMS適性が備わっている事が判明したのである。
しかし、適性があるからと言って、リンクスとしてネクストを駆るという事は、心身共に莫大な負荷を強いる事になり、一様にリンクスは短命であると言われていた。
「斑鳩公が聡明である事は、私でも理解出来る。それ程の男が、悪戯にコジマ汚染を引き起こすとは考え難いのだが?真壁介六郎よ」
ユウキの隣に居た女、カスミ・スミカは斑鳩崇継の真意を問い質そうとしていた。
汚染を引き起こすと知りながら、何故ネクストを欲するのかを――。
「カスミ殿、あの御方は安易にACネクストを運用する気などは、ありませぬ。全ては帝国と愛しき国民の為、茨の道を歩もうとしておられるのです」
介六郎は思い返していた。
斑鳩崇継は、自らの身体を実験台としAMSの致命的負荷を軽減または中和させる方法を模索していた。
物理的に機械と肉体を接続していた訳ではないが、疑似接触だけでも相当な負荷を強いられ、普段掴み所のない崇継が苦痛に喘いでいた。
――あの方の痛ましいお姿、これ以上見るに堪えぬ!
「だからと言って、俺達がそっち側につく理由にはならんぜ。俺はもう…リンクスとして戦場に立つのは御免だ」
「……どうしても…か……!」
「……どうしてもだ……」
二人の思惑は交差する事なく、並行を辿り続ける。
――致し方なし、か。
介六郎は、譜代武家の側近達に目配せをし、彼等も視線だけで応える。
出来得る事なら、使いたくはなかった最終手段。
武力行使――。
いつの時代、何処の世界でも、望みを叶える為に行使する最も安易な装置。
如何にこの二人が歴戦のリンクスであったとしても、生身での白兵戦はどうだろう。
山吹色の彼等は、数ある武家の中でも上級に位置する武人の集まりだ。
武芸、学問共に高水準を納め、単独でも統率を執れる程に優秀さを持つ。
況してやそれが6人――。
部下達は一瞬の内に、その場から消えた――。
――かに見えた。
「……馬鹿な……」
介六郎は信じられないといった、驚愕の表情を浮かべている。
「……ぅううぅ…、あぁぁ……」
「か…らだ…が…」
「き…貴様…何を…し…た……」
「う…うご…かな…い」
「お…己…れぇ…」
「こん…な…事…が……」
机を乗り越え、ユウキとスミカに対し確保を試みた、斯衛の衛士たち。
しかし彼等は全員、床に倒れ伏し動かぬ体を必死に起こそうと藻掻いていた。
「安心しな、痺れているだけだ」
ユウキは椅子に座ったままで、忍ばせていた拳銃をチラつかせていた。
彼が使用したのは、個人携行用の電磁パルスガン――。
暴徒鎮圧用に、或いは護身用に開発された非殺傷武器だ。
――あり得ん!厳選した手練れが、いとも容易く!
僅か一秒未満でユウキはパルスガンを抜き、斯衛衛士全員を撃ち抜いていた。
瞬きする間に部下が全滅した事に、介六郎は狼狽えていた。
「こ…これが、リンクスの力だとでもいうのか……!?」
「あ~…まぁリンクス全員が、
「では我々は帰るとする。あの男にも宜しく言っておいてくれ」
ユウキとスミカはゆっくりと席を立ち、部屋を後にしようとする。
「――ま、待て!待ってくれ!」
介六郎も透かさず席を立ち、二人の前に回り込んだ。
「頼む!力を貸してくれ!これ以上……これ以上あの御方に、重荷を背負わせたくはないんだ!」
深く頭を垂れ、彼は二人に懇願した。
「わ…我々からも、お頼み申す……」
「ど…どうか、御助力を……」
「帝国の…曳いては…力無き人々の…為に……」
ユウキのパルスガンで、未だ回復し切っていない斯衛達。
しかし痺れる身体を必死に押し、ユウキ達に懇願する。
「……」
ユウキは無言で介六郎に視線を向ける。
「頼む!ユウキ!」
尚も面を上げる事なく、頼み込む介六郎。
「……卑怯者め、ホラよっ!」
「――?」
暫しの後ユウキは、或る物を投げて寄越した。
介六郎に手には、一枚の記録媒体が有った。
「あの男の事だ。精神負荷やコジマ汚染を排除した高性能機の技術開発に着手しているのだろう?」
スミカは、斑鳩崇継の成そうとしている事を推察する。
「――!知っていたのか?」
「まさか。ただあの男なら、その位は画策するだろう。そう思っただけだ」
「その媒体に、必要としている情報が詰まっている筈だ。後は自分達でやりな!」
ユウキか寄越した記憶媒体――。
それには、今迄リンクスとして活動してきた記録や生体情報、ネクストのデーター等が記録されていた。
「俺は
「ユウキ……」
介六郎はユウキの目を見る。
彼の過去に何があったのかは、よくは知らない。
しかし、何処か哀しみと何かを模索しようとする決意だけは、彼にも伝わって来た。
「それじゃあ今度こそ俺達は行くぜ。また生きて会えたら、何処かで飲もうや、六郎!」
「斑鳩公に伝えておいてくれ。我々を信頼してくれた事、誇りに思う……とな」
「ユウキ…、カスミ殿……」
こうして二人は部屋から立ち去り、真壁介六郎を含めた斯衛衛士達だけが残された。
「……真壁様、追跡致しましょうか?」
痺れから回復した衛士達。
「もう良い。ただでさえ、ネクストのパーツ一式を揃えてくれた上に、生体情報まで頂いたのだ。これ以上の高望みは外道に値しようというもの。……任は果たした。ギガベースへ戻るぞ!」
「「「「「「ハッ!」」」」」」
――また会おう、ユウキ……!
介六郎の顔に僅かな笑みが零れ、一行はギガベースへと帰還した。
(推奨BGM アーマードコア3 Silent Line ―― Mode)
「貴社の技術を以てしても、戦術機への光学兵器搭載は容易ではないと?」
「ええ。搭載自体は概ね成功しているのですが、実戦での運用にはまだまだ課題が山積みです」
戦術機開発を生業とする技術仕官、篁裕唯の問いにインテリオルユニオンの女性社員が答えた。
彼女の名は、ウィン=D=ファンション。
嘗てカラード上位ランカーのリンクスとして、数々の戦場を渡り歩いていた企業専属の傭兵であった。
現在はリンクスとしてでなく、一社員としての新たな人生を送っていた。
ミミル軍港の一区域に、崇宰恭子を始めとした斯衛軍の士官たちが集結し、数名のインテリオルの社員が応対していた。
「搭載には成功と仰っていましたが、どの様な問題が発生したのです?」
五大摂家の崇宰恭子が、現在の問題点を訪ねる。
「此方の映像をご覧下さい」
ウィンDが指し示すモニターには、見た事もない銃を装備した戦術機が映し出されている。
『F-5E ADV トーネード』と呼ばれる戦術機に、『YWH07-DRAGON』と言うレーザーライフルが装備されていた。
この武器は機動戦を想定した光学兵器で、エネルギー消費が非常に軽いという特徴があった。
間も無くして、戦術機がスラスター移動を開始しながら射撃を始める。
するとどうだろう。
10発と撃たない内に、跳躍ユニットの噴射が停止し戦術機の動きは停止する。
「ん?推進剤の枯渇か?」
篁裕唯の言に、軽く首を振るウィンD。
「いえ、パワーダウンとシステム障害を同時に引き起こしたのです」
モニターに移る戦術機は、停止したままで再び動き出す気配はない。
射撃とそれに伴う動作の為にエネルギーが武器に持って行かれ、機体の稼働エネルギーが不足してしまった為に起きた現象である。
原因は至極単純。
元々、先程の光学兵器もACの運用を想定し開発された代物だ。
ACのジェネレーターと戦術機のエンジンユニットとは、設計思想も構造も根本からして違う。
かと言って、ACジェネレーターを戦術機に無理やり積もうものなら、その莫大なパワーに耐え切れず、配線が焼き切れ、部品単位で熱暴走や損耗を引き起こし、最早使い物にはならないのであった。
「正直私も、この様な装備でBETAに挑みたくはありません。間違い無く、餌にされてしまう事でしょう」
ウィンDは、苦笑いを浮かべる。
「う~む。――となれば、構造そのものを見直すしかない訳か。下手に現地改修し搭載が実現した処で、実戦で使い物にならないのでは……」
篁裕唯は顎に手を当て、深く思案に耽る。
「映像の銃よりも、負荷の軽い武器は幾つか存在します。それ等なら或いは……」
ウィンDが言うには、今の銃よりも小型且つ負荷の軽い武器が幾つか存在するそうだ。
「待って、篁少佐。何も光学兵器に固執する必要はないわ」
「――と、言いますと?」
崇宰恭子の言に、裕唯は視線を向けた。
「幸い現行の火器でもBETAには充分抗し得ているわね。何かを削り戦術機の機能を犠牲にするよりは、
インテリオルの技術は、何も光学兵器だけではない。
それに連なる、稼働エネルギー効率や電装系、そしてアビオニクスと云った各種技術も高い水準を確立している。
「…………、言われてみれば確かに」
――ほぅ、流石は五大摂家の一角。唯のお嬢ちゃんではないという事か。
恭子の言葉に裕唯は頷き、ウィンDは彼女を値踏みしていた。
「早速購入手続きに入りたいのですが、宜しいでしょうか?」
「畏まりました。直ぐに専門の職員に対応させましょう」
ウィンDは恭しく頭を下げ、担当の職員に対応させる。
恭子ら一同は、モニタールームを出て別の場所に移動した。
しかし一人の衛士だけは残り、部屋にはウィンDとその女性衛士だけとなる。
「…………」
「…………」
両者は互いに無言で鋭い視線を交わす。
「…恭子様を値踏みしていたようだが、余り調子に乗らない事だ。本来なら貴様如きが、口を交わす事もままならぬ身分なのだからな!ウィン・D・ファンションとやら!」
「…くくくくく、井の中の蛙というやつか?小娘!」
「貴様……」
両者の空気は急激に張り詰め、殺気すら放ち始めていた。
「惜しいなぁ、カオリ=キサラギよ!」
「なに!?」
烈火の如き殺気を溢れさせていた両者ではあったが、意外にもウィンDが先に殺気を解いた。
「この際ハッキリと言ってやろう。あの崇宰という女よりも、貴様の方が遥かに指導者として向いている。要は強者であるという事だ」
「……何を言い出すかと思えば戯言を」
如月佳織は、ウィンDの言葉を一蹴しようとしたが、彼女は構わず言葉を続ける。
「あの女、平穏な時代なら才覚を遺憾なく発揮できただろう。だが型を外れ、我道を往くという事には、不得手の様に思えた。確かにあれは優れた人間だ、それは私も認めている。しかしだ……、真に追い詰められた時、あの女は決断を下せるのだろうか?」
「…………斯衛としてでなく、一人の人間としてなら完全に否定はせん」
「ほぅ」
「だがな、人は絶えず変わり行く!恭子様も、私も、貴様もな。貴様とて、生まれつき強者だった訳ではあるまい?たとえ何人がどの様な言を紡ごうとも、我が道は変わらん!それが我が覚悟、斯衛の矜持だ!」
あくまで有力武家として、そして帝国軍人としての道を突き進む如月佳織。
「……そうか。……ま、今のは私の独り言だ。では私はこれにて失礼するよ、カオリ=キサラギ殿?」
少しばかり無言でいたが、ウィンDはそのまま如月佳織の横を通り過ぎ、出口へと移動する。
如月佳織も無言のまま部屋を出ようとした。
「好きに生き、好きに死ぬ。そんな道も在るのだぞ?」
「――既にそうしている!」
去り際、ウィンDから投げ掛けられる言葉。
しかし、佳織は振り返る事なく部屋を出た。
――武家の女として好きに生き、武家の女として好きに死んでやるさ!それが私の歩む道なのだから……!
有力武家として、五摂家を補佐し守護する使命を与えられたのが彼女だ。
他人からどう見られようと、彼女の意思は揺らぐ事は無いだろう。
新たな決意を胸に、彼女は恭子達の後を追う。
如月佳織、ウィンDファンション。
もしも平穏な時代にこの二人が出会えば、彼女等は良き友人同士になれただろうか?
それの応えられる者は誰も居なかった。
その後、企業や官僚たちの会合は続き、互いの技術交換や物資の取引、今後の協力関係などを確認し、時が過ぎ去っていった。
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アーマード・コア・ノーマル
国家の統治能力低下に伴い、多数の顕著化したテロや暴動は、主力兵器に遊撃戦適正を求めるようになり、そこで開発されたのが、"圧倒的な火力、制圧力を実現する人型汎用兵器"すなわちノーマルである。
開発当初は単にAC(アーマードコア)と呼称されていたが、ネクストの登場により区別するために、ノーマルと呼ばれるようになった。
アルドラ社のアクチュエータ複雑系と、レイレナード社の実用燃料電池の新技術により開発された。
戦闘力は一部の新型や特化型を除いてネクストやハイエンドノーマルには遠く及ばないが、企業の主力部隊の量的中核である。
パーツ換装に於いては、同一企業間にのみ融通が利くというものであり、ネクストやハイエンドノーマルに比べ、比較的自由度は低下している。
一方で、ネクストと異なり量産に向き、企業軍の量的な中核という地位は健在であり、コロニーあるいは武装勢力のレベルでは、ノーマルが未だ最強の部類に属する。
巨大軍事施設ミミル軍港。
インテリオルユニオンが所有する軍港ですが、正確な所在位置が分かりません。
北米大陸かな?と思いますがシナリオの都合上、英国圏内に存在する事にしています。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
メカ物は、やっぱり難しい……。
書いてて楽しいんですけどね……。
デハマタ。( ゚∀゚)ゝ