アーマードコア・オルタネイティブ― 白い鳥 ― 作:カズヨシ0509
コッチも投稿致します。
あまり面白くはないかも知れませんが、皆様方の目に留まれば幸いです。
では続きをドゾ。
ブースト・ドライブ
所謂壁蹴りの事。
脚部で壁や障害物を蹴り込み同時にブースターを点火する事で、推力の相乗効果が見込める。
その応用度は高く、ブースター性能以上の高機動や変則的な機動戦を展開する事も可能だ。
また蹴り込みの反動を利用する事で、推進剤やブーストエネルギーの節約にも繋がる。
しかし、この軌道を行うには一定水準以上の操縦技術が必要となる。
未熟な者が無理に行えば、却って的と化すだけだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
夜…だろうか?
黒味がかった紺碧色の空。
その夜空に不釣り合いな程に、赤く紅く染まりゆく天。
何処か遠方で炎上しているのだろうか。
きっとそうだろう。
炎の影に反響する雲は、妖しき明かりで地上を照らした。
赤黒く輝く地上を埋め尽くし、突進する異形の怪物群。
その怪物に対峙する、鋼の巨人達。
尽きる事なく天から降り注ぐ、火を纏いし砲弾。
鋼の巨人から放たれる、雨嵐の如き弾丸の奔流。
人類の反抗をものともせず只管に突き進む怪物の大群。
此処は何処だろうか?
そして何時だろうか?
場所も、時間も判らず、僕は唯々それ等を
まるで僕は其処に居ないかのようだ。
それでいて、ヒシヒシと感じる奇妙な現実感。
だが分かる――。
この光景は正に――。
―― 戦争だ ――
少なくとも怪物には見覚えがある。
――と言うよりも、忘れ様がない。
さっきまで戦っていたじゃあないか。
嫌という程に――。
BETAだ――。
この状況、判らないようで解る。
BETAと戦っているんだ。
BETAに立ち向かっているの機体は何だろう?
形状や装備からして、ACでない事は確かだ。
思い出した。
確か、人型戦術歩行戦闘機と云ったか。
見た事もない機種だ。
何処の所属だろう。
あの『ソ連』とは違う形状をしている。
それによく見れば、肩部に白と赤のエンブレムが目に付く。
『四角い白の中心に赤の丸』という極めて単純明快なシンボル――。
僕はこのエンブレムに覚えがあった。
日の丸だ。
国家解体以前、厳然と存在していた確かな象徴。
―― 国 ――
そうだ。
レイヴンを目指す過程で、教導官より教わった魂の容。
―― 国旗 ――
そしてあの国旗は、教導官がやたらと拘っていたのをよく覚えていた。
『いつ如何なる時も、忘れてはならんぞ!我等の誇り。我等の魂。我等の故郷』
―― 日本 ――
そうか。
今戦っている戦術機は、日本所属の部隊なのか。
しかし、どうして日本所属の部隊がこんな所に?
いや、そもそも此処は本当に何処なんだろう?
僕の住んでいる交易所には、こんな山岳地帯は存在していないし、植物だってこれほど生い茂ってはいない。
場所も、状況も、何故此処に僕が居るのかも、全く解らない。
僕は眼前で繰り広げられる戦場を、ただ
中隊規模だろうか?
十数機の三部隊で編成されていた。
ひたすら前進を繰り返す突撃級の群れに、各小隊がローテーションで突撃砲で迎撃している。
中には、赤塗装の機体と山吹色塗装の機体が混ざっている。
隊長機なのかそれとも識別の為の処置なのかどうかは、分かりかねた。
一見善戦している様に見えるが、正直隊長機以外の挙動に”ぎこちなさ”が見える。
経験の浅い新兵かもしれない。
僕も最初は
いや、もっと酷かった記憶がある。
時々復習を兼ね、当時の起動訓練時の映像記録を見返せば、我ながらが羞恥が込み上げる位だ。
未だに思う、とても人様に見せられるレベルではないと。
当時の僕に比べれば、あの部隊はまだまだ動けている方だろう。
そんな戦場を観測している僕に声が聞こえて来る。
誰の声かは分からないが、若い女性の声だというのは確かなようだ。
『――無駄弾を使うなバカ者ッ!早く跳べぇッ!』
理屈は分からないが、何故かは理解出来る。
赤い機体を駆る女性の声だ。
その女性が、ある白い機体に怒鳴っているのだ。
怒鳴られた機体は、突撃砲に付属していた120ミリ砲を乱射している。
大口径徹甲弾なだけあって、真正面からでも突撃級の甲殻に有効打を与えていた。
しかし、あの銃身と弾倉の大きさでは、装弾数には限りがある筈だ。
『――うっうっうううううっ……!!!』
怒鳴る女性とは別の声が響き渡った。
やはり理解出来る。
滑空砲の乱射する機体から、怯えと緊迫に満ちた悲鳴に似た声が、僕の耳を打つ。
かなり若い声だ。
赤い機体の女性よりも、更に幼い感じがする。
彼女の言う通り、早く跳ばないと突撃級に轢かれてしまう。
現状を理解しているのだろうか。
未だに滑空砲を乱射し数匹の突撃級を仕留めたものの案の定、弾切れを起こした。
言わん事じゃない。
幾ら高威力を誇る武器と言えども、あの大群だ。
とても凌ぎ切れる弾数ではない。
僅かに舌打ちした赤い機体が、遠隔操作で何やら外部的作用をあの弾切れの機体に施した様だ。
どうやら平常心を失い恐怖心に駆られ、滑空砲を乱射していたらしい。
まぁ無理もない。
僕もBETAと会敵した当時は、恐怖に煽られ真面な思考も働かず、結局スミカさんの叱咤で何とか対処出来た程だ。
僕は今でこそ多少の慣れはあるが、とても彼女達を嘲笑する気にはなれない。
『――訓練を思い出して志摩子ッ!!』
山吹色の機体に乗る少女が、錯乱し弾切れの機体に言葉を掛けた。
どうやら錯乱していた少女の名は『
『――
別の機体からも声が投げ掛けられた。
そうだ。
突撃級は基本、真正面からの対応は推奨すべきではない。
あの防御の硬さは、そこいらの銃器では歯が立たないのだから。
ヤるとすれば戦法は限られる。
突如、弾かれたように跳び上がった志摩子の機体。
彼女は上空から突撃砲を2丁持ちで、突撃級に照準を合わせていた。
『――うわあああああああッ!!』
そうだ、それでいいんだ!
突撃級の後方防御は、無防備と言っていい。
志摩子と呼ばれた娘は、突撃砲で次々と仕留めていく。
それに連動するかの如く、小隊単位で突撃級に36ミリ弾を浴びせていった。
だが不意に、志摩子という少女は何やら喚き散らし始める。
一体どうしたんだろう?
『――私ッ――私は――足手まといなんかじゃないッ!!』
『――志摩子!?』
志摩子の機体は何かに取り付かれたかのように、上空で銃を連射しながら突撃級に浴びせていた。
未だ平静さを取り戻せていないのだろうか?
その動きは半ば、盲目的とも言える。
大丈夫だろうか?
錯乱状態で、この戦場を生き延びるのは少々厳しいかも知れない。
願わくば彼女の無事を願いたい。
『――私はっ、お荷物なんかじゃないよねっ!?』
『えっ……?』
『――唯依のお荷物なんかじゃないよねえっ!?』
志摩子という娘は、涙混じりの声で必至に語り掛けていた。
そうか、あの山吹塗装の機体には、『
口振りからして親密な間柄なのだろう、きっと。
二人の間にどういった経緯があったのかは分からないが、強い繋がりを感じ取れる。
だがそんな思考に耽る間もなく、志摩子の機体はグングンと高度を上げながら攻撃を続行していた。
駄目だ!高度を下げないとっ!
相手がBETAなら、高度を上げるという行為が如何に危険か分かる筈だ!
付近には光線級が居るっ!
間違いないっ!
これだけ降り注ぐ砲弾は十中八九、面制圧と誘導照射を兼ねた支援砲撃だ。
あのオーメル・ソ連との共同作戦でも実施されていたから、良く分かる。
砲撃の着弾位置から鑑みるに、かなりの近隣に存在しているのだろう。
そんな位置関係で、それ以上高度を上げればどうなるか!
――早く高度を下げろっ!
僕は声を張り上げ叫んだっ!
――つもりだった。
反応が無い。
多分誰にも届いていないのだろう。
どう言う訳か、自分の肉体の有無を確かめようとする発想すら湧かなかった。
上昇し続ける彼女に、怒号が飛ぶ。
『――高度を下げろバカ者ォォッ!!!』
『――え……』
赤い機体の怒鳴り声に漸く反応したみたいだ。
しかし同時に志摩子の機体にレーザーが照射され、その着弾点が赤熱化を始めた。
だがまだ間に合う。
光線級、重光線級のレーザーは常に最大出力で照射している訳じゃない。
BETAのレーザーには初期照射という補足段階が存在し、その間に高度を下げるなり回避起動に移るなり生き残る術が在る。
回避行動を執るんだ!
まだ初期照射の段階だ。
僕が叫んだ処で、彼女には届かない事はもう分かった。
『『――志摩子ッ!』』
あの唯依っていう娘を始めとした同僚の叫ぶ声が、僕にも直接響いて来る。
恐らく僕が直接干渉できる事は、何も無いのだろう。
それでも志摩子の無事を願わずにはいられない。
『……これ……なんっ……だっけ……?』
だがその望みはもう薄いだろう。
もう最大出力寸前だ。
機体の装甲はいよいよ融解を始め危険域に到達している筈だ。
彼女は相変わらず自身に何が起こっているのか、把握し切れていない様だ。
どうにも緊張感に欠けたポカンとした表情で困惑するばかり。
『――志摩子ォ、はや――ッ!?』
唯依が叫ぶも手遅れだ、残念だが。
既にコックピット内は光が逆流し、彼女の顔は融解を始めていた。
不謹慎ではあるが、長い艶やかな黒髪を後ろで赤いリボンで束ねた志摩子という娘は、正直すごく可愛い娘だと思う。
僕だって女の子に興味が無い訳じゃあない。
仲良くなれる機会があるなら、是非ともそうしたいものだ。
そう思わずにはいられない程の美少女だった彼女の運命も、尽きようとしていた。
一瞬の出来事の筈なのに、彼女の顔が徐々に溶け内部が膨れ上がり破裂と蒸発が同時に起こる。
過去に何度も見た、眼を背けたくなるほどの光景。
だが僕は一部始終を見届けていた。
目を離す事が出来なかった。
機体のコックピットが爆散するまで。
……
彼女は死んだ。
彼女の機体はレーザーに貫かれ、爆発しながら墜落した。
過去の作戦で幾度と繰り返された惨状だ。
光線級に撃ち落とされた、典型的な撃墜例――。
志摩子の同僚達が泣き叫んでいる。
何度も何度も彼女の名を叫びながら。
あの赤い機体から怒鳴る声が木霊する。
『――自分の目で見て納得したかッ!?寝惚けてなきゃ、初期照射を受けてからでも充分回避できるッ!――戦友が遺した戦訓、無駄にするなよッ!?』
『『『――了解ッ!!』』』
『『『『『『――了解っ!!』』』』』』
……了っ…!
中隊と共に僕も無意識の内に、了解の意を示していた。
それにしても驚きだ。
赤い機体を除き、此処の部隊は皆少女ばかりだ。
そう言えば、あのソ連の部隊も何故か女の比率が圧倒的割合を占めていた。
何か理由が有るのだろうか?
志摩子という戦友を失いながらも、中隊の戦闘は続いた。
…………
『――ファング3、フォックス1!』
ファング3なるコールサインを持つ機体が長距離狙撃で、遥か遠方の光線級を仕留めた。
僕の突撃砲と同じだ、ロングバレルを装着した長距離仕様だ。
それにしても凄いな。
『すごい……13キロ先の小型種を……!?』
どうやら唯依も同じ感想でいるみたいだ。
仮に僕が”同じ事をやれ”と言われればどうだろう?
……自信がない。
戦術機のFCSが、どれ程の精度を誇っているのかは、僕には測りかねる。
しかし同じ条件下で僕が実行しようとしても、外す確率の方が高いだろう。
僕の得意とするレンジは、近・中距離の機動射撃戦と格闘戦にある。
正直なところ、遠距離、超長遠距離戦は苦手な部類。
あのファング3なる人物、相当の実力者だ。
先程犠牲となった志摩子とは、似ても似つかない凛とした気配を纏っている。
王族か貴族に身を置く特殊な存在なのかも知れない。
『――お生憎さま…――
その間にもファング3は、新たな光線級を2体射程内に納め狙撃準備を整えていた。
『――させませんわ』
瞬間、狙撃で2体とも滞りなく始末する。
この小隊…いや、彼女の実力は突出しているみたいだ。
自らの役割を
それでいて、彼女だけではない。
彼女に率いられている小隊は己が役割を理解し、障害となるBETAを寄せ付けぬよう奮戦している。
チームレベルで高い実力が維持されている証拠だろう。
だがBETA側も一筋縄とはいかず、絶命したつもりでも再び起き上がり彼女等に牙を剥く。
『――ちッ!』
ファング3がロングバレルの突撃支援砲で、手負いの要撃級に止めを刺した。
『――止めは必ず刺しなさい!――ファング6の二の轍は――もう誰にも踏ませませんわ……!!』
『『『――了解ッ』』』
彼女の叱咤を受け、小隊は一層奮励し任務を続行した。
何だ?これ?
戦術機が手負いの要撃級にやられている。
僕の脳裏に、そんな映像…いや誰かのイメージ…記憶だろうか?
――流れ込んで来る。
『――くッ!』
ファング3の銃撃が要撃級に止めを刺し、仇を討ったみたいだ。
そうか。
ファング6と言うのは、彼女の同僚なのだろう。
『潰したはずの敵に殺される、無意味で憐れな死――それが、戦場にありふれた死の現実……』
ファング3の独白が僕にも聞こえて来た。
『兄様たちの死に様は、勇猛果敢で見事な散り際……そう伝えられた』
そうか、彼女には兄が居たのか……それも複数形だ。
『兄様たちの自己犠牲で、多くの同胞が救われた――そう伝えられた』
それ程の気高い
『――くっ!』
既に絶命している要撃級に無意味な弾丸を叩き込むファング3。
『この戦場に……本当にそんな綺麗な死が!?』
……僕もそう思う。
少なくとも、そんな尊い死を迎えたレイヴンを目にした事などは無い。
BETA相手に勇猛果敢に立ち向かう傭兵達は、確かに何人も居た。
寧ろそっちの方が多い位だろう。
だが、尊い高潔な自己犠牲を貫ける者など居ただろうか?
裏切り、謀り、騙り、持ち上げ、利用し、堕とす。
そんな悪意と無法に満ちた現実だけは、戦場を常とし裏切る事がない。
そしてその現実が、戦場の死神が司る唯一のルールなのだ。
雇い先の企業連でさえ、僕もろとも砲撃で焼こうとした位だ。
即席の共闘でも、
よくよく考えれば、スミカさんやユウキさんは極めて希少な分類なのだろう。
困窮した当時の彼等に手を施した僕も僕だが、そんな見ず知らずの僕を裏切り財産を奪おうと思えばできた筈だ。
しかし彼等はその様なモラルに反する行動は執らず、僕に知識と技術を伝授してくれた上に戦場でのサポートまでしてくれている。
もし高潔な精神を有すとすれば、そんな彼等の事を言うのだろう。
『――ファング1より中隊各機ッ!敵第3波の掃討完了っ!――後方3000、野戦補給場まで後退するぞッ!!』
『『『『『――了解っ!!』』』』』
一つの節目を付けたのだろう。
赤い機体、つまり中隊率いる中隊長機の指示で、一旦後退し態勢を整える様だ。
彼女等は中隊長機に追従し、一時後退を図った。
……
あれからどの位経ったのだろう?
上手く認識する事が出来ない。
ファングのコールサインを持つ中隊はい幾許かの被害を出しながらも、戦闘を続けている。
そんな中、一機の戦術機がBETA要撃級相手に戦いを繰り広げていた。
『……はぁ、はぁ、はぁ……――
要撃級に近接戦を仕掛け、手にした実体式の剣で切り裂いた。
『――BETA群に於ける大型種の約6割を占めるっ!』
茶系の短髪をした快活そうな少女だった。
彼女は勇猛果敢に次の要撃級に飛び掛かり、小隊の仲間達と連携しながらBETAを切り伏せる。
若干不慣れに見えるが、僚機と連携すれば危険を伴う接近戦でも要撃級の撃破は可能だ。
あの実体式の剣、当たりさえすれば下手な火器よりも遥かに高い攻撃力を有すだろう。
『――2対の前腕衝角による打撃っ!近接範囲、最大直径約39メートルっ!!』
要撃級の特徴を復唱しているのだろうか?
彼女は何度もうわ言の様に繰り返し、要撃級に挑んでいた。
しかしこの流れは良くない。
徐々にだが、感情の昂りに身を任せつつあるように見える。
連携行動に乱れが生じていた。
『――3機連携よファング8っ!2機じゃないことをもっと意識して!!』
その証拠に山吹塗装の機体から通信が入る。
『――機動特性は2次元的っ!だがその驚異的な定常円旋回能力は警戒しなければならないッ!!』
彼女の言う通りだ。
僕も何度か戦ったが、要撃級の旋回対応能力は予想外に高く、生半可な回り込みでは直ぐに対応され、結局真正面で応対されてしまう。
だがそれは、食い縛った歯に見える尾節部分に起因している。
あれは感覚を司る器官らしく、言わばレーダーの様な役割を果たしているらしい。
どの様な生体なのかは判らないが、先ずあの尾節部分を破壊出来れば、定常円旋回能力も著しく低減する事が分かっていた。
だが、ファング8のコールサインを持つ彼女は、尚も接近戦を挑んでいた。
恐らく補給を受ける前に、BETA群と接敵したのだろう。
弾薬を節約しながらの戦いを強いられているに違いない。
『――くそうっ!まだかよッ!!』
『――敵に引っ張られているぞ、第2小隊っ!――陣形の規定距離を忘れるなッ!!』
『くそっ!基本から外れるッ!あとちょっとなのにッ!!』
彼女は何かに拘っている?
まるで強迫観念にも似たナニカが今の彼女を振るい立たせ、同時に敵に意識が向き過ぎている様に思える。
殆どスタンドプレイに近い状態だ。
ファング8が、エース級の実力を有しているなら話は別だが、今の戦い振りを見る限りそれだけの実力者には見えない。
尤も、僕も人の事を偉そうに言えた口ではないが――。
『――前腕衝角は硬度ッ、靱性共に既存物質を凌駕しているッ!!――よって衝角を避けて砲撃するか、より強力な火力を以て対応すべし!』
彼女は要撃級の特徴を口に出しながら攻撃するも、遂に弾切れを起こす。
『――なにっ!?』
その隙を逃さず、別の要撃級が前腕をファング8に振るった。
――が、バックステップで何とか回避に成功。
射程距離外へと後退する。
『――その脅威的な定常円旋回能力はっ――……』
彼女は言葉を続けるも、要撃級は更なる突進で前腕部を振るい、遂にファング8の機体を捉えた。
『――うあああぁぁっ!!??』
直撃。
他に言う事はない。
素人でも分かる程の直撃だ。
その一撃で彼女の機体は横倒しになり、地面へと横たわる。
あの志摩子という娘に続いて……彼女もか……くそっ!
僕の視界は暗転し、気が付けば操縦席の中だった。
これはまさか、戦術機のコックピット内か。
警報音が鳴り響き、赤いアラームランプが点滅している。
『『――
そうか、彼女は
彼女の身を案じ、同僚たちが脱出を促している。
そうさせてやりたいのは、僕とて同じ。
だが――。
『くそ…、口の中を切ったか…鉄の味がする……』
それだけで済めば、どれほど救いようがあっただろうか。
『――いいかっ!殺すのは
あの隊長機からの怒号が響いて来る。
このキツくも的を得た言い回し。
何処と無く
それにしても、この部隊は光線級の漸減ないし殲滅を担っていたのか。
確かに光線級が重要ターゲットなら、他の個体種は必要最小限の対応だけで事足りる。
攻撃力を奪うか、機動力を削ぐか。
それさえ出来ていれば、後で幾らでも対処できる。
『隊長は戦闘起動中に気が散っているな…、まるで基本がなってないよ……基本通りにやってるんだ、
――ん?……
『うるさいわかったよ、立ち上がればいいんだろ……、そんなの自律制御ががやる仕事じゃん。そんな基本も知らないのか……!?』
……無理だ。
もう彼女は戦えない。
もう彼女の下半身は――。
コックピットから緊急脱出のメッセージが表示される。
だがもう手遅れなんだ。
自力での脱出は望めない。
誰かがコックピットハッチを強制解放し外部から救出するか、機体ごと拠点へと連れ帰り其処で救助するか。
少なくとも彼女は、もう満足には動けない。
要撃級の攻撃と吹き飛んだ衝撃で、コックピット部分の一部が拉げ、彼女の下半身は押し潰されていたのだから。
『安芸っ、安芸っ!!』
『ファング8、脱出してッ!!』
『ファング1より中隊各機へ、これより陣形を再編するっ!!』
『『『『『――了解っ!!』』』』』
現場はかなり混乱している様だ。
正直戦況は余り好転しているとは言い難いだろう。
そんな中でも、あの赤い隊長機は自らの役割を果たし部隊を活かす為に最善の選択肢を取っている。
流石と言うべきだろう。
『うっさいな……。邪魔しないでほしいんだけど……。…………、――!?……やっ……た……』
うわ言の様に何かを呟き、安芸は弱々しくも喜びの声を上げた。
『はは……、やっ…たん……だ、……う…れし……』
彼女に死が近いのだろう。
緊急時にも拘らず、何かを成し遂げ達成感に満ち溢れた表情をしている。
既に瞳孔は開いたままで、もはや焦点も定まってはいない。
『……そっか…こういう気持ち…、…制限されない……は…はは……』
『早くしろ、敵は待ってちゃくれないんだぞっ!!』
『――安芸、敵が来ちゃうよっ!!』
『――ファング8、石見少尉っ!』
中隊各機が尚も安芸に脱出勧告を促す。
『あ、はは……なんだ、まだきづいていないのか……、やれやれ……これだから、譜代のお嬢様は……手間が掛かる……やった…よ……、唯依……』
『――えっ……?』
『なに…?その顔……、多分…”えっ?!”っていったんだな……』
聴覚も失われつつあるようだ。
彼女の死が濃くなりつつある。
せめて見届けよう、最後の瞬間まで。
今の僕に出来る事は
『あ……はは、……変な顔……、これ…教えてやったら……驚くだろうな……』
安芸の声音に勢いも無くし始めていた。
『やったんだよ……私達……『死の8分』を……乗り越え……たんだ……』
死の8分……。
言葉の意味は良く分からない。
だが言葉の本質は何故か分かる。
勘でも冴え渡っているのだろうか。
恐らく、出撃し接敵してからの
あれだけ経って、まだ8分しか経っていなかったのか。
随分長時間戦っていたような気もする。
『――早くして安芸っ!何やってるの、早くッ!!』
『――何やってる、ファング2!負傷者の回収は後回しだ、バカ者ッ!!』
『――安芸、早くっ!早く立ってっ!!』
捲し立てる彼女達の声は、もう届いていない。
安芸の意識すらも、途切れようとしていた。
『私たち……死の……8分を……』
何故この娘は、死の8分とやらに拘るのだろう?
『早くっ安芸!――緊急脱出をッ!!』
『私は…やったんだ……、これ…で……やっと…
……
そういう事だったのか。
彼女の”弟”さんと”死の8分”……その因果関係が全てに起因していた訳だ。
もしも、彼女にもう少し割り切れる冷徹さが備わっていれば、結果は変わっていたかも知れない。
クソったれっ!
せめて僕もACで戦場に立っていれば、何かが変えられたかも知れないっていうのに!
だが戦いはまだまだ続く。
……
―― BGM 故郷 ――
何だろう、この歌?
どこか懐かしく、優しく、何となくだが寂しい。
歌っているんだ。
彼女達が――。
故郷を想いし歌――。
その歌が唄われた途端、彼女達は人が変わったかのように獅子奮迅の戦い振りをみせた。
だが突如として赤い中隊長機、『
内容が僕にも明確に聞こえて来る。
今の敵群の殲滅を以て前衛防衛を放棄し、基地直援に当たれとの命が下ったようだ。
砲撃陣地や防衛戦線は何とか機能している様だが、戦況は芳しくない。
頻発するBETA群の進行。
圧倒的数の暴力。
そして入り組んだ、起伏に富んだ複雑な地形。
こうまで敵に接近されては、アームズフォートも真面に生かす事は難しい。
そう言えば、如月中尉と司令部との間で何やら揉めていたな。
僕にとって、この『京都』とやらの地形は全く以て無知だ。
だが一つだけ分かった事があった。
もしもこの戦で大敗を喫し、八幡なる地域がが完全制圧された場合――。
国連所属の米軍第七艦隊による『戦術核』攻撃が敢行されるらしい。
軍全体で鑑みれば、それも有用な手段と言える。
だが、この国に住む人々にとってはどうだろう。
レイヴンを目指す過程で、日本という国に拘る教導官から聞いた事があった。
何よりも日本には、連綿と受け継がれし伝統と文化が尊ばれる。
企業との戦争に負け国家解体が宣言された時、文化を愛する日本人たちから数多くの自殺者が出たそうな。
国家解体後世代の僕にとって、国や文化という概念はあまり深く刻み込まれてはいない。
しかし、この国を…故郷を守り抜こうと今も戦い抜く、この人達にとって核攻撃など到底容認出来るものではない筈だ。
唯依を始めとする各小隊の面々には知らされてはいない様だが、彼女達には命懸けでこの地域を守り抜く使命がある。
正直僕も今直ぐ参戦したい位だ。
中隊各機は如月機に追従し、
だがここで、問題が発生した。
それも些細な個人の感情でだ。
『何をやっているの?ファング11ッ!?――
後続の僚機が隊列を乱し、突如BETAに対し攻撃を仕掛けた。
もう死んでいるというのに。
唯依機から戸惑いの声が聞こえる。
ファング11、
彼女は一心不乱に、もう死んでいる要撃級に剣を何度も叩き付けた。
何度も何度も――。
一体どうしたというんだ?
『――和泉っ、そいつはもう死んでッ――』
『――いやっ!!――逃げるなんてできないっ、仇を……、此処で仇を討つんだッ!!』
唯依の制止も聞かず、彼女……
『――能登少尉ッ!!』
『――うるさい邪魔をするなっ!何も知らないお姫様の癖にッ!!』
両者とも逆上しているのか、激しい口論が始まった。
そんな事をしている場合ではないだろうに。
強引にでも和泉機を連れ出すか、最悪……見捨てるか――。
『――忠道は…私の全てだったんだっ!!――忠道と結婚する事が――田上家との縁組がッ!――私が能登家の役に立てるッ……能登家に必要とされる…たった一つの事だったんだッ!!』
唐突に発露される彼女の心。
……そんな事情が。
今の言葉から察するに、恐らく彼女の婚約者はもう……。
半ば発狂しながら、和泉機はBETAの死骸を切り刻んでいた。
そして尚も続く、彼女の罵り、激情、怒り、悲しみ。
もう居ない、愛しき人への想い。
『摂家遠縁の縁組で救われた家に生まれ、なに不自由なく生きてきたアンタには――絶対にッ!だからあんな青臭い事が言えるのよっ!何が同じ訓練生よっ!何が皆で頑張ろうだよッ!!家格替えがあって摂家に繋がるアンタはさ、上に行けるって知っているのかもしれないけどね、私達は何をやろうが生涯外様なんだよッ!?――上に行けないって分かっているのに、何でアンタと同じ頑張り方しなきゃいけないのッ?!私たちはね、そういう――アンタから見たら哀れな範囲で幸せを満喫できるように生きるしかないんだよッ!!――余計な夢見させないでよっ!そんな事してアンタ…責任取ってくれんのッ!?』
かなり親しい間柄に見えたのだが、今の和泉という娘の憎悪は寧ろ唯依に向けられていないか?
身体はBETAに、心は唯依に向いている。
詳しい事は良く分からないが、彼女たちの家柄や環境に大きな隔たりや
だがそれを差し引いても、唯依一人を責めるのは論点が違う気もするし、何より身勝手な独断専行が許されるとは、どうしても思えないのだが。
半泣きの唯依に同情の念を禁じ得ない。
しかし、唯依も唯依だ。
そんな事で一々委縮してないで、力づくで強行しても良いだろうに。
若しかして彼女……
それにしても和泉の行動がこの先、部隊全体の士気に関わるようなら……。
『――何もわからない癖に……出しゃばらないでよ、お姫さ…!?』
『――わかりませんわね!ええ、全く!』
――!?
意外な事に、二人の仲裁に入ったのはファング3だった。
彼女は装備していた剣で、死んでいる要撃級をバラバラにする。
これ以上、無意味な攻撃が行われない様に。
それでも気に入らないのだろう、能登和泉の矛先はファング11に向けられた。
しかし、そんな彼女はまるで動じていないかの如く、難なく受け流し遂には完全に論破してしまう。
途中、唯依が彼女の名を口にした。
それがファング11の名だった。
完全には収まっていなようではあったが、和泉は渋々と行為を中断し移動を再開し、唯依、山城機も移動を始めた。
『私が不甲斐無いばかりに、ごめんなさい……』
『虫酸が走りますわね、あなた方の関係……。散々ぶら下がって甘やかし放題。見るに堪えませんわ!』
山城機から帰って来た言葉。
これはこれで随分と手厳しい。
彼女は、孤高の道を歩んで来たのだろうか?
同じ女性でも、スミカさんや如月中尉なる人は、激しい炎を彷彿とさせる。
しかし、この山城という少女は、薄く鋭い白刃の様なイメージを僕に抱かせた。
本当に何者だろう、この山城という少女。
改めて只者ではない様に思える。
もし僕が目の前に居たら、彼女はどういう反応を示すだろう。
ついどうでも良い事を考えてしまう。
多分、唯依以上に蔑んだ眼で見られ、罵られる処か居ない者として無視されてしまうだろうな。
仮に同じ部隊所属になったとしても、必要最小限の接触以外会話するも事なく、再び別れるに違いない。
正直、真面に相手をしてくれる姿など想像も付かない。
さて、そんなどうでもいい想像に耽っている内に、またもや場面が切り替わる。
……
絶望的と言わざるを得ないだろう。
どこからどう見ても彼女……如月佳織が生き延びる可能性は、ほぼゼロだ。
匍匐飛行の最中、部下のファング9とファング4がレーザーの餌食となった。
あの悲痛な叫び声は、今も深く脳裏に焼き付いている。
『――いやああああっ!た、たす…――助けて中尉ぃぃぃっ!!中尉ぃぃぃがごばぼぶふうばば……!!』
『――やだ…やだぁ……地面が…地面があ……赤いよ……全部赤いよぉぉぶばまぼぶっぶげっ……!!』
ファング4と9は、もう居ない。
そして中尉は地面スレスレの超低空飛行で戦車級と接触――。
ただでさえ不安定な匍匐飛行は機体バランスを崩し、呆気無く墜落――。
地面を埋め尽くさんばかりに溢れた、戦車級の真っ只中に放り出された。
そして”待ってました”と言わんばかりに、機体に取り付く戦車級の群れ。
赤い機体に赤い戦車級。
ここまでくると、どれが戦術機でどれがBETAなのか見分けも付かない。
そして群れに取り付かれた者が、どの様な末路を遂げるのか僕は何度も見てきた。
絶叫を上げながら、全身を生きたまま食い千切られ、想像を絶する苦痛を味わいながら死んでゆくのだ。
空中を跳び上がり、レーザーで爆散できればまだ幸運な方だ。
しかし、そのまま死ねず、墜落し戦車級に取り付かれ機体の装甲を食い剥がし、脱出もままならず食い殺される恐怖は如何ばかりか。
こうやって第三者の視点からでも、充分恐怖は伝わって来る。
これから食われる当の本人からしてみれば、恐怖に耐え切れず発狂してもおかしくはない。
いや、発狂し正気を失った方が幸せかもしれない。
だが彼女の強い精神性は、未だに自我を保っていた。
負傷した身体で力を振り絞り、機体に装着された自爆装置を作動させようとしていた。
彼女は最後まで、己が役目を全うしようとしている。
強い人だ。
願わくば、こういう人には生き残ってほしい。
本当に悔やまれる。
僕にしてやれる唯一の事。
見届ける事だ。
彼女の高潔な”死”を最後まで見届けよう。
本心で言えば、僕が変わってやりたい位だ。
もし彼女が生き残れば、これからも多くの新兵たちを育て教導してくれるだろう。
……
こんなのアリかよ!
……
自爆装置が作動しない。
「――ッ!!――ッ!!――ッ!!――ッ!!――ッ!!――ッ!!」
如月中尉は、何度も何度もスイッチに拳を叩き付けている。
「――ッ!!――ッ!!――ッ!!――くっそおオォォォッッ!!」
だが起動する様子はなく、ウンともスンとも反応する気配はなかった。
「ハァッ…ハァッ…ハァッ、ファング4…、これを見たくない一心だったのかも知れないな……!」
地面を埋め尽くす戦車級に慄き高度を上げたファング4。
結果的レーザーに焼かれてしまったが、戦車級に生きたまま食い殺されたくない一心でとった行動だったのかも知れない。
「皇帝陛下…、征夷大将軍殿下……、任を果たせぬまま果てる不忠をお許し下さいっ!」
彼女は懐から拳銃を取り出す。
そうだな……。
それもアリだ。
誰も好き好んで生きたまま喰われる奴なんて居やしない。
僕だって同じ選択肢を取っただろう。
「山城…、篁…、能登…、後は頼むっ!」
それが彼女、如月佳織中尉の最後の言葉だった。
意外にも静かな発砲音が響き、彼女は果てた。
さようなら……高潔な戦士……如月中尉。
僕は彼女に敬礼を送った。
……
またもや場面が切り替わる。
如月中尉率いる部隊が全滅し、生き残った唯依たち。
師団規模のBETA群に包囲されるも、琵琶湖からの艦砲射撃により帝都ごとの面制圧が行われた。
全兵装をパージしギリギリの機体面積で、新老ノ坂トンネルを突破。
そこで彼女等は、
満身創痍だった篁唯依率いる生き残り達は、道中BETAの奇襲に遭うものの、真田大尉の部隊に助けられた。
必要最小限の装備だけ受け取り、唯依たちは再び目的地『京都駅』へと移動する。
そして彼女達に試練が圧し掛かった。
京都駅一歩手前の地点で、不意打ちを食らったのだ。
『――これは、衝角腕っ?!まさか、
気付いた時には手遅れだった。
建物の影から姿を現した、大型のBETA『要塞級』が立ち塞がったのである。
不味いな!
今の彼女達は充分な装備ではない。
真田大尉から一応の武器は受け取ったが、消耗と損傷を負った今、とてもではないが要塞級と張り合える状態ではない。
アレの恐ろしさは身を以て知っている。
僕が対処できたのは、常に装備が忠実していたお陰だ。
何とかしてやり過ごすか、強行突破すべきだろう。
光線級さえいなければ、高度を上げ跳び越える事も可能だ。
もし高度に制限が掛かるとなると、僕が思い付くのは
幸い此処は市街地。
壁には事欠かない。
問題は、混乱状態の彼女達にブーストドライブの発想が有るか否か。
あの戦術機、それなりの高性能機に見える。
決して不可能ではないだろう。
だがそんな僕の望みも空しく、強行突破を図る唯依機は衝角腕に撃墜されてしまった。
残る二人は、自動回避プログラムが機能しているのか、鞭の如く自在に振り回す衝角腕を何とか避け続けてはいるが、正直いつまで持つか。
誰かが囮となり、誰かを逃がす作戦しか残されていない。
射程内の要塞級とは、それ程恐ろしい相手なんだ。
やがて能登機は山城機と接触し、彼女の機体はバランスを崩し墜落してしまう。
最後に残されたのは、能登和泉…だけだった。
錯乱し、操縦桿から手を放す彼女。
「――やだヤダヤダヤダやだやだやだぁっ!!――うわあ…うあああぁぁぁやだぁッ!!」
要塞級は一切の容赦がなく、彼女を攻撃し続けた。
「――助けて、忠道っ!!――私を護ってぇええッ!!」
だが遂に衝角腕は彼女を捉え、機体は空しく墜落した。
こうしてファング中隊は全滅した。
……
もういいだろ?
何でこんな光景を見せられなければならないんだ?
何にもしてやれないじゃないか!
身代わりになってやる事も。
駆け付けてやる事も!
助けてやる事も!
BETAを殲滅する事も!
出来るのは……。
「んもう……、遅いよ……、忠道ぃいぐぶぃべばぉあぃっ!?」
能登和泉は死んだ。
BETAに食い殺された。
白色の小型BETA。
確か『兵士級』だったか?
何を思ったか彼女は、京都駅一階の改札口に向かい、其処で何かを待っていた。
最後に語った”忠道”という言葉で、大方察する事は出来た。
彼女は最後の最後まで、彼を寄る辺としていたんだ。
改札口へ向かう途中、彼女は呟いていた。
婚約者である忠道と出会った思い出の場所だと――。
その結末が
せめて、あの世で愛しい彼と再開できたらいいな。
僕がそう願うのは傲慢だろうか?
喰われゆく能登和泉の冥福を祈らずにはいられなかった。
「能登少尉の……KIAを……確認っ……」
それを目撃していたのは僕だけではなく、篁唯依もだった。
機体は撃墜されたものの、何とか脱出を果たし能登和泉と山城上総を捜索していたのである。
能登和泉が戦死した今、残るは山城上総一人。
だが、そんな僕は最も凄惨な光景を目にする羽目になる。
こんなのアリかよっ!
チクショウめっ!!
「お願い……私を……撃って……」
戦車級に取り付かれていた、山城機――。
唯依がそれを見付けた時には、そんな状態だった。
そのコックピット内に彼女は未だ取り残されていたのだ。
山城上総は脱出しなかった、否、出来なかった。
「撃ってよ……お願い……だから……!」
途切れ途切れながらも、精一杯懇願する上総。
墜落の衝撃で、彼女の手脚は骨折し身動きの取れない状態に陥っていた。
それを見付けた唯依に彼女は必死に介錯を頼む。
「……餌になる前に……殺してよぉ……っ!」
「あ…あ……ああ……」
篁唯は茫然とするだけで、銃すら満足に構えられない状態だ。
「――お願いっ撃ってッ!早くッ!撃ってよぉっ!こいつ等に食われる前にッ……!」
山城上総は最後の力で目一杯叫ぶ。
「――
…………。
もういい。
もう沢山だ……。
……。
結局…唯依は残り少ない弾丸を最後まで彼女に向ける事が出来なかった。
山城上総は生きたまま食われた。
戦車級に――。
ボリボリと戦車級に貪り食われ、最後に彼女の頭部が唯依の元へと転がり落ちて来た。
せめてもの救いは、山城上総は最後まで悲鳴や絶叫を上げる事無く、逝った事だろうか?
彼女の頭部を抱え込み、泣き叫ぶ篁唯依。
そして彼女に迫り来る複数の戦車級。
…それからどうなったのかは分からない。
気が付けば僕の目の前には、よく見知った
「……」
「――おいっ、大丈夫かっ?」
「……ユウ…キ…さん……?」
飛鳥は周囲を見回す。
其処はいつもの部屋。
自室だった。
「はぁ…はぁ…はぁ……ゆ…夢…か…?」
全身が気怠く汗を掻き喉がひどく乾く。
「取り敢えず飲め!」
ユウキがペットボトルを手渡す。
飛鳥は透かさず飲料水を一気に飲み干した。
少し落ち着いたのか、徐々に呼吸も静まり意識もクリアになる。
「ホントに大丈夫か?かなり、うなされていたぜ!?起こしても中々起きなかったからな、水でもぶっ掛けようかと本気で思った処だ」
あの出来事は、どうやら夢だったらしい。
正直水を掛けられてでも覚めたかったぐらいに、胸糞悪くなる悪夢だった。
「……もう朝か……」
「何言ってやがる、もう昼だぜ!」
朝はとっくに過ぎ去り、時刻は正午を過ぎていた。
「ミッションの依頼が来ていたがな、今回は勝手にパスの返信をさせて貰ったぜ。そんな状態じゃ先ず失敗するだろうからな!」
「……すいません、手数をお掛けしました」
「気にすんな!とにかく、今日はゆっくりと休みな!あと、風呂入って来い、汗だくじゃねぇか!」
ユウキは飛鳥を気遣い、シャワーで汗を流すよう促した。
「そうですね……そうさせて貰います」
飛鳥は言葉に甘える事にし、おぼつかない足取りシャワー室へと向かった。
「ホントに大丈夫か、アイツ?どんな悪夢を見たのやら」
そんな飛鳥の背を心配そうな顔で見送る、ギン・ユウキ。
やや温めの温水が飛鳥に降り掛かる。
熱めの温水で喝を入れても良かったが、時間に追われている訳でもない。
シャワーを浴びながら、飛鳥は床に座り込んだ。
そして大きく息を吐く。
「ふうぅぅぁぁぁ……」
先程まで見ていたあの悪夢が、再び蘇ってきた。
――チッ!!
温水のシャワーの中で、彼は顔を顰め舌打ちした。
目の前で次々と戦死していく少女達。
レーザーに焼かれた者、要撃級に粉砕された者、自害した者、そして生きたまま食われていった者。
何もしてやれなかった。
ただ見ている事しか出来なかったのだ。
どれだけ叫ぼうとも、必死に手を差し伸べようとも――。
彼女達は反応しなかった。
いや、あの戦場は実際に起こった事なのだろうか?
夢の中で聞いた会話に、『日本』『京都』といった名が出て来ていたのは覚えている。
あの戦場は日本の京都が舞台だ。
それに今、世界情勢はどうなっているのだろう。
BETAの侵攻が、世界にどれ程の影響を及ぼしているのか?
――どうせ今日は暇なんだ、少し調べてみるか。
飛鳥は立ち上がり身体を洗浄する。
シャワーを終え簡単な食事を済ませた後、自室の端末を起動させた。
……
今でも鮮明に覚えている。
あの
ファング中隊の隊員たち。
そして――。
彼女達の死に様を忘れる事など出来そうにない。
たとえそれが夢の出来事であったとしても、一生自分の心を刻み続けるだろう。
忘れない内に、紙に彼女達の名を書いておいた。
どう言う訳か漢字も理解出来た。
直接視覚で捕らえた訳でもないというのに。
本心で言えば、夢の彼女達が実在しない人物である事を、
あの戦場も過去に起こった事なのか、これから起こり得る未来の出来事なのかは、判断しかねる。
願わくば、あの
「……う~ん、出て来ないなぁ……」
世界中のサイトにアクセスするものの、BETAの進行状況に関しては余り順調ではなかった。
BETA関係の情報は、大抵企業や軍組織が独占状態にある。
民間の表のサイトでは大まかな情報が、大まかにしか記載されていなかった。
だが、そんな僅かな情報でも、ある程度は推察が付く。
「少なくとも、
――となれば、あの
「おいおい、真剣な真顔で女の名前まで書いて……そういう、お歳か……?」
ユウキに横槍を入れられた。
「……」
しかし飛鳥は、無言で、無表情で、彼に向き直るだけだ。
「……悪夢でも見たんだろ?話位なら聞いてやれる」
「……はい……実は……」
飛鳥の纏う雰囲気を察し、ユウキは彼の話を聞いてやる事にした。
それで全てが解決できる訳ではない。
しかし、抱かえ込んだ何かを吐き出す事で、その重石を軽くしてやる事位は出来る。
飛鳥はポツポツと語り出す……、あの燃ゆる都での
……
「……そうか」
あの山城上総という少女が、戦車級に食い殺され夢から覚めた処までを語り終えた。
飛鳥もユウキも小さく息を吐き、暫し無言でいた。
「――今の所、BETA共の進軍は大陸部で停滞している」
「――スミカ…さんっ…?」
「――セ…スミカさん……」
突如、声のした方に振り向く飛鳥とユウキ。
何時から居たのだろう。
傍には、カスミ・スミカが立っていた。
彼女の話によると、BETAは日本列島には上陸しておらず、アジア大陸で人類側と激戦を繰り広げられている状態だという。
「そうでしたか」
彼女の話なら信用できる。
飛鳥は一先ず安堵した。
「だが飛鳥よ。お前は近いうち、重要な岐路に立たされる。どういう選択肢を取るにせよ、悔いる事のないようにな」
「……どういう事です?」
スミカの言に飛鳥は聞き返すが、”今に分かる”と部屋を出ようとする。
「ああ、後、言い忘れていたんだが。国連と企業連の共同声明があってな、国家解体以前の旧暦…つまり『西暦』を使う事に同意したそうな」
当然告げられる驚愕の事実。
「――ええ!?旧暦…西暦が使用されるってッ!?」
「ああ。実は今日、区内速報が通達されたんだ。お前が寝ている間にな」
”後で端末を確認してみろ、更新されている筈だ”そうユウキに告げられた。
そしてスミカも、言葉を付け加える。
「因みに今日の日付はな――」
―― 1997年05月09日 ――
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ハイブースト
AⅭに装着されたブースターを、瞬間的に爆発的な推力で移動する機動法である。
主に緊急回避や相手を攪乱させる為に使用され、その用途は幅広い。
しかし使用の際は多くのエネルギーを消耗し、連続的な多用は推奨されていない。
ACネクストのクイックブースト比べれば、性能に明らかな隔たりはあるが
これのお陰で生存性は飛躍的な増した。
一刻も早い、通常兵器への実装が待たれる。
トータルイクリプスのヒロインたちが登場致しました。(夢の中だけど)
篁唯依、山城上総に人気が集まりがちですが、甲斐志摩子や能登和泉も中々に魅力溢れるヒロインだと思います。
家格替えって現状では不可能なんですかね?
良く分かりません。
それにしても帝都燃ゆは面白い。
アニメでは、たった2話で終わってしまったのが残念です。
如何だったでしょうか?
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
デハマタ。( ゚∀゚)ゝ