咲 -saki- 二人の少女のハイスクールメモリー 作:レイ・シャドウ
何たって受験生はこうも忙しいのか…
土曜日
公立高校であるうちの学校は土曜休みで人影も少なく、部室にいる私たちに聞こえてくるのは精々吹奏楽部の楽器の音色のみ。
「本当に来るの、廻?」
「無論だよ。実際、昨日に明日行くってメール送られて来たし…」
「…不安しかないのだけど。貴女の正体、向こうは知っているんでしょう?」
「正体って…そんな大げさな。まぁ来なかったらそれはそれでPC麻雀でもすればいいから問題ないんじゃない?」
「………ハァ。やっぱり私より貴女が部長した方がいいような気がするわ。メニュー決めとかに迷いがないもの。」
「私には統率力がないもの…才能がある人がはいって来たら、チームが内側から崩壊するわ。その分、私よりも統率力がある貴女の方が有事に対応できる気がするの。ほら、入ってすぐにクラス委員長任されてたりしてたじゃない。貴女の統率力とカリスマ性の恩恵よ。」
因みに私と久は同じクラスである。
唯、席順が出席番号順であるため、麻雀部入るまでは一切話したことはない。
さらに言うと、久は一人の推薦と多数の賛同者を経てクラス自体を統括するクラス委員長という役に就任した。早い話クラス代表である。そのおかげか、久の統率力は増加傾向にあり、部長を任せるほどに至ったのである。因みに名目上は私は副部長だ。とは言ってもすることなんてないのだが…
「それって、唯単に自分がやるのが面倒だったから、他人がなすりつけあって私に巡って来ただけじゃない!それにさりげなく貴女私を推薦してたわよね!!それってもしかして…(コンコン)」
「ワァ〜オ、グッドタイミーング。とってもナイスでーす!(久のお説教長いから助かった〜)」
「…廻、今何かやましいこと考えてない?」
「…………はーい!いーま開っけまーす。ちょっと待ってて〜」
「ちょっと、その間は何なの!?廻、無視するな!!!」
後ろの方で喚いている久を完全スルーしてドアを開けると、そこには二人の女性が立っていた。片方は…
「おはよう、廻。すまないな、少し用意に手間取ってしまって遅れてしまった。」
先日出会ったゆみさんが、そしてもう片方は…
「ワハハ〜、わざわざ練習試合のお招き感謝するぞ〜。」
大きな口を開けた笑みをたたえた女の人が立っていた…
鶴賀の方は個性豊かなメンツですこと…2人しかいないけど。
「 そちらの方はまだ挨拶していなかったな。私は加治木ゆみ、一応鶴賀学園高校麻雀部の副部長をしている。そして…」
「ワハハ、かの高名な伊奘諾 廻に会えて嬉しいよ。私は蒲原智美。ゆみちんと一緒に鶴賀の麻雀部を復活させて、そこの部長をしている。まぁ、大抵の人はゆみちんを部長と勘違いするんだけど…」
「何故なんだろうな?未だに理解できないのだが…経験的にも蒲原の方が上だし。」
「ワハハ、いつも言ってるじゃないか〜。ゆみちんのカリスマ性がそうさせるんだって。」
「…まぁいい。とにかく、よろしくお願いする。」
「よろしく、私は竹井久。一応清澄高校麻雀部の部長をやっているわ。」
「そして、知っているかと思うけど私は伊奘諾 廻。清澄の副部長だよ。よろしく。」
「ワハハ〜、呼び方はめぐりんとヒッサーでいいかい?」
「こら、蒲原!!そんな急に…」
「あら、呼称はなんでも構わないわよ。廻は?」
「特に抵抗はないです。ゆみさん、大丈夫ですよ。」
「はぁ、すまないな、うちの蒲原が…」
ゆみさんも苦労してるみたいですね。色々と…
「わはは〜、なんだかめぐりんの方からものすごい失礼なことを考えられていた気がするぞ〜」
「あら、自分の行動を顧みればわかるのじゃないかしら?蒲原さん。」
あなたの言動が一番失礼だと思うよ…久←自分自身の言動を棚に上げてます。
「はぁ…まぁいい。そろそろ始めようか、廻?」
「おぉ、そーでしたな。今回の目的を完全に忘れかけていました。いやー、参った参った。」
「…貴女がこの練習試合を組んだんだから、その辺しっかりして欲しいのだけど。」
久がジト目でこっちを見てくるが軽く右から左へ受け流し、雀卓を起動させ…
「んじゃ、4人打ちと行きましょうか!」
東風戦
赤ドラ4枚、アリアリ、ダブル役満無し、数え役満あり
持ち点25000点
東一局 ドラ{三}
東家 竹井 久
南家 加治木 ゆみ
西家 蒲原 智美
北家 伊奘諾 廻
(さてと…今回は他校の方がいらっしゃっていることだし…通常なら、初っ端からリミッターを外す…なんてことはしないんだけど)
配牌を見て、廻は心の中でそう呟く。
(この局は、最初くらい80%くらいの力で行きましょうかね。久に私の実力の片鱗を見せたことはないですし、下手にインターハイ予選でやってのけると、大変面倒なことになるでしょうから。インハイに向けてのウォーミングアップってことで。)
そういう廻の先に見えている牌は…
彼女の一番好きな大型手の一向聴だった。
久side
さてと、牌を確認してみたけど…
{四七九1589 ②④⑨東南白中}
酷い牌ね…幺九牌ばかりで狙うとしたら国士無双…イヤイヤ、現実からかけ離れすぎてるわよ。
うーん、ホンイツ狙いでもいいのだけど東一局だし、無理する必要もないわよね…
(ま、今回は素直に降りましょうか。)
打牌は{白}
ゆみside
(取り敢えず最初の段階は無理に鳴かずに聴牌して立直を狙った方がおい…と蒲原が言っていたな。)
それはそうだろうな…私自身、まだ役を覚えたばかりだ。配牌次第では、断幺九や対々を狙うのも問題ないらしいが、下手に鳴いて役なしとなってしまえば元も子もない。
それに…
{ニ三四34679③⑤⑧東西}
手牌がこれでは対々どころの問題ではないだろう。しいて狙うなら平和だ。
ここは素直に立直からのツモ和了・ロン和了を目指すとしよう。
打牌は{西}
そういえば、四風連打で流す方法もあったな。ただ、他家が{西}を出すかは分からないし、そもそも字牌を出した時常にそれに期待してては実力は伸びないからな。
蒲原の打牌はなんだろうか…
智美side
わはは〜これはこれはっと
{三四五 234 678 ③④ ⑧⑧発}
ついてるな〜初っ端からダブリー確定の上に、断幺、平和、ドラ1か…
最も、この牌から地和を狙ってなかったといえば嘘になるから、完全なラッキーとは言えないけど…。
ま、練習試合なんだし、あまり点棒の動向は気にしなくても大丈夫だろう。
ここはいっちょ
打牌{発}
「ダブル立直!」
攻めておこうかな〜わはは〜。
side out
(下家ダブリーですか…安牌ないから一発振り込みの不安がありますが…)
まぁ、非公式の練習試合なので別に点棒の事はさて置きましょう。今は、ゆみさんに私のプレースタイルを見せつけるのが得策ですし…自分の欲望に従うのが上策。
…というわけで
「追っかけダブル立直!」
動きましょうかね!
打牌{白}
side out
(よりにもよって追っかけダブリー!?速攻麻雀でもする気?)
(早い!上に切ったのは三元牌だと!?)
(ワハハ〜、即座に上家がダブリーだなんてさすがだねぇ〜女王は。めぐりんから一発で和了ってやりたかったけどそうは行かないか。)
三人が各々異なる考え方をする。だが方向性は同じく、廻の追っかけダブリーについて。
当たり前だ。初っ端から出にくいダブルリーチが出て来て警戒している最中に、さらにそれを追っかける…。プロの試合でも中々見られないだろう。そういった手牌になること自体少ないのだから。
ここで伊奘諾廻の能力について紹介するとしよう。
彼女は萬子に異様に愛されているというのは以前説明した通りだ。
なので今回はより具体的に説明する。
その能力は主に三つによって構成されている。
一.感覚的に自分の上がりに必要な萬子が山から分かる。
二.萬子が手牌の中に一順子もしくは一刻子などで存在した場合、初期の理牌時には必ず一〜三向聴以内。四向聴以下にはならない。
三.高打点
それぞれについて説明して行こう。
まず一つ目は、聴牌時に自分の和了り牌が萬子のときにだけ機能する。
待ち方に制約はないので、多面待ちの時にはかなり重宝する。そこから、清一色などに繋げるケースも多い。
続いて二つ目、但しこの能力に関しては廻自身あまりいい感情を抱いていない。
確かに、萬子が手牌の中にあるのであれば寧ろ喉から手が出るほど欲しい能力だ。しかし、仮にそういった類のものが一つもなかった時のデメリットが大きい。
可能性としてそこまで高いわけではないが、もし仮に、そう言った事例になってしまった場合廻の初期の手牌は四向聴以下になってしまうのだ。だから余程のことが無い限り選択肢としては流すしかなくなる。まさに諸刃の剣だ。
そして、最後の高打点。
これ自体は別に彼女にそういった能力があるわけではないが、チマチマ低い打点で和了るよりも一発ドカーンとでかいのを和了った方が楽のという本人の思想の元に実現されるものだ。実際、彼女の和了り方も低くても常に5200以上である。
とここまでが彼女の能力の説明である。
二巡目、廻以外の3人は既にツモをすませた。
手を変えることなく、3人揃ってツモ切り、普通ならなんら違和感を持つことはないが…久は何か奥歯に詰まったような違和感があることに気づいた。
(何なの、この違和感?追っかけダブリーの段階で薄々感じてはいたけど…ここになってさらに増して来た。こういう時ってだいたいその予感は当たる物なのよね。嫌なことだけど…)
しかし、何故このような予感が発生したのか、そもそも何処からこの予感は来たのか…
(…まさか、廻から!?)
隣で自分の番にも関わらずゆったりと缶のカフェオレを飲んでいる同級生に目を向ける。
その所作は非常にゆったりとしており、缶から口を離したときのホッとした表情と吐息は見るものに何処と無く微笑ましさを感じさせる。但し、久だけはそうは感じない。
(二週間、対局して来たけどあんな廻見たことない…もしや、来る!?いいやも知れぬ大型手が!!)
「廻?お前の番だぞ。」
「ん?あぁ、分かってますよ。」
ゆみの何気無い善意によって起こされた言動が女王を動かす引き金となる。
伸ばされた手に込められているのは自信。それとそれが私の和了り牌と言う確信。
(ダメ、その牌を引いたら!!)
ツモった牌に一瞥もせずに叩きつけ、全ての牌を倒す。言わば盲牌。
そして廻の手牌は…
「ツモ…」
{一一一二三四五六七八九九九} {一}
「天の衣に縫い目は不要
廻の能力の詳細をやっと判明させることが出来ました。
次回は、練習試合後からインターハイ予選、という流れで行こうと思います。
ご視聴ありがとうございました!!