3学期登校日。
笑顔の英梨々と浮かない顔の倫也が並んで登校中。
「腕組んだ方がいいかしら?」
「職員室に呼び出されるよ!」
「じゃあ、手をつなぎましょ」
「あのなぁ・・・そんなことしなくても十分注目浴びているみたいだぞ?」
二人を眺めている生徒たちが噂をしている。
「きっと、あんたのことがわからないんじゃないかしら?」
「そんなに変わる!?」
「うん。眼鏡のキモいヲタクぐらいにしか認識されてなかったんじゃないの」
「そんなひどかったかなぁ・・・」
「まぁいいじゃない、ほんとの倫也デビューみたいな感じで」
「はぁ・・・(ため息)」
詩羽合流。
「あら、澤村さんおはよう。順調のようね」
「おかげさまで」
「霞ヶ丘先輩。おはようございます」
「あら倫也くんもおはよう」
「どう?霞ヶ丘詩羽。あたし達カップルにみえる?」
「そうね、悔しいけれどいい感じなんじゃないかしら」
「だってさ、倫也」
「おまえ嬉しそうだな・・・」
「倫也は嬉しくないの?こんな美少女と付き合えて」
「ああ、見た目は確かに美少女かもしれないけどな」
「なによ」
「今朝5時に来たお前の18禁の原稿仕上げるのを手伝ってるからな」
「それはそれでいいじゃない、秘密を共有するカップルなんて理想的だと思うけど」
「秘密にしたいのはお前だけだろ」
詩羽がため息をつく。
「でも、油断は禁物よ澤村さん」
「どうして?」
「いい?あなたの立場は学園二大美女の一人なのよ?そしてあなたは好感度が非常に高かったことを忘れないで、でもそんな子がどうしてヲタクと突然付き合いはじめたのか、みんな訝しがるわ」
「そうね、あたしは気にしないけど・・・」
「すると、倫理君がなにか弱みを握って脅しているに違いない・・・みたいな噂がたつかもしれない」
「そんな噂を立てそうな人が味方なのよね?」
「それどういう意味かしらね?」
二人がにらみ合う。
「2人はケンカしてたほうが仲いいんじゃないか?」
「コホンッ・・・だからね、澤村さん、言動や行動には注意を払って、少しずつ倫理君の学園での好感度をあげていくのよ」
「わかったわよ」
「じゃ、私は先にいくわ。あまり3人でいない方がいいでしょうし」
笑顔で手を振る英梨々、ため息しかでない詩羽。
「もうすぐ学校ね」
「少し登校早すぎないか?」
「それよ倫也。わざとなの。いい?この登校イベントほど自然にみんなに仲の良さをアピールできるイベントはそうそうないわ」
「ふむ」
「あとできっと、『どうしたんだよ倫也?』みたいな質問を受けると思うの」
「ほうほう」
「そしたらミッションはほぼ成功ね。あなたはただ笑いながら『ああ澤村のこと?別になんでもねぇーよ』みたいに流してくれればいいわ。余計なことはいわない。いいわね?」
「それ、真実じゃね?」
「・・・あたしは友達に『うん・・・ちょっと気になることがあって・・・あの安芸くんって子は誰かと付き合ってる人とかいるのかなぁ?』みたいな、恋愛フラグを立てるわ」
「英梨々・・・よだれたれてんぞ・・・」
「じゅるるっ・・・」
よだれをふいて真顔に戻る英梨々。
「さぁ正門よ。ここで待つわ」
「何をだよ」
「どんな生徒も正門は通るからね、この正門の脇で会話するわよ」
「ここで?わざわざ?」
「止まって」
倫也と英梨々が正門の脇に立ち止まる。
「ここからは小声でね、あと自然な笑顔は絶やさないで」
「その演技指導・・・霞ヶ丘先輩かっ!」
「そうよ・・・ほら、笑顔笑顔」
「にこにこ」
「にこにこ」
通りがかる生徒たちが二人を見つめる。たいていの知り合いは朝の挨拶すらできず会釈して通りすぎていく。
「さすが霞ヶ丘詩羽ね・・・」
「なぁ、俺の方は殺意みたいなものを感じるのだけど」
「まぁあたしの熱烈なファンもいるからね」
「そうか・・・、ならこんなことやめた方いいんじゃないか?」
「もう大半の生徒が通ったわ。学園内のトップニュースはまずは独占ね」
「もう気がすんだろ・・・そろそろ教室行こうぜ、寒いし・・・」
「はぁ?あんたバカなのぉ?死ぬの?」
「なんだよ」
「恵を待たなくてどうすんのよ!?」
「・・・」
「なぁ英梨々・・・悪いが・・・もしあの『絶望の歌』がBGMで聴こえてきたらさ・・・」
「あのモンスターは紅坂朱音が固定していから大丈夫よ」
「それでも、聴こえてきたら何があるかわからないし、俺、告るから」
「・・・恵に?」
「そうだよ!」
「でも、何のフラグも立ってないケンカ状態で告白して物語がハッピーエンドで終われるの?」
「そんなの関係ない。英梨々、おまえ一つだけ間違ってるぞ」
「何よ。あと笑顔絶やさないで。にこにこ」
「俺の気持ちが関係ないわけないだろ?にこにこ」
「はぁ?霞ヶ丘詩羽のフラグ管理によると、倫也の気持ちはフラグとともに変わるはずなのよ。にこにこ」
「・・・にこにこ」
「まっ、くだらない話はここまでね。にこにこ」
「くだらなくねぇーよ!にこにこ」
英梨々が恵を視認する。距離120m。続いて倫也も恵を視認した。
「・・・きたわね・・・110」
「英梨々、笑顔は?」
「100、さすがに無理ね・・・90」
「大丈夫。音楽はなってない。平和な登校風景だよ。80」
「そうね、70。いつものようにフラットに挨拶して通りすぎていくはず。60」
「あっ・・・いない・・・」
「何よ?倫也・・・あれ・・・見失った?」
次の瞬間。恵が二人の前に立っている。
バッシーンッ!!!
恵の右手の平手打ちが倫也の頬を叩き振りぬいた。
通学中の生徒、校庭で取り巻く野次馬、校舎から校門の二人の様子を噂しながら眺める生徒、そして霞ヶ丘詩羽。その誰もが恵の動きを捉えることはできなかった。
ただ、倫也一人が、叩かれる瞬間に恵の目に涙が浮かんでいるのを確認しただけだった。
加藤・・・!?