ここはいつもの喫茶店。英梨々と詩羽が反省会を開いている。
「あなたにしては善戦したんじゃないかしら?」
「最後は邪魔がはいっている気がするんだけど」
「まぁ、主人公が一回のイベントで落ちるなんてことないから、それはしかたないでしょうね」
「でも、もう少しイベントを楽しんでもよかったような」
「それについては次の章でわかるわよ」
「・・・」
「あと、やはり選択肢の選び方よね」
「倫也かお嬢様友達かってことよね」
「そう。あなたが仮に倫理君と付き合うことになったとして、なんか腹立たしい仮定ね・・・」
「自分で選んだ役回りでしょ」
「そうなのだけど・・・まぁいいわ。学校ではどうするつもりなのよ?」
「わからない・・・。もう開き直って倫也と付き合えばいいんじゃいかしら」
「あなたのファンを幻滅させて?ヲタクの倫也君と日陰ですごすの?」
「だって、他に思いつかない」
「そうね、それも一つの選択肢ですものね」
「なにか含みのある言い方ね。いいたいことがあるならはっきりいいなさいよ」
「あなたが倫理君と結ばれない理由は大きく4つ。それを紐解いていけばたどり着けるのかもしれない。でもそれは、澤村さん、あなたがあなたでなくっているかもしれないわよ?」
「どういうことよ」
「まず一つ目は、今回のお嬢様問題ね」
「二つ目は?」
「柏木エリという才能ね。原作のようにトップクリエイターとして生きるのか、それとも倫理君のそばで、ただの同人作家として生きていくのか」
「でも、それは倫也があたしにクリエイターになることを望んで・・・」
「そこよ。倫理君があなたに望んだことを、あなたは受け入れたけれど・・・そうでない選択肢だってあるはず。それを模索することね」
「あたしが倫也の側で一緒に創作していく未来よね」
「そう・・・なるのかしらね」
「三つ目は恵との関係性よね」
「あなたが加藤さんの親友である以上、避けられない問題ね」
「恵はいつ倫也のことを好きになったのかしら?」
「明確にメインルートに入るのはバレタイン後の視聴覚室イベント・・・あの神回以後ということになるかしらね」
「なんどもみたわー」
「まぁあのフラグ以後に戦う気はしないわ」
詩羽がホットコーヒーを飲む。英梨々は真剣に考え込んでいる。
「あのイベントを見る限りでは、もう倫也は恵に・・・」
「倫理君視点でいうなら、この物語がはじまった坂の上の出会い以後ってことになるんじゃないかしら」
「でも、倫也は三次元には興味がないんでしょう?」
「ずっと同じキャラで成長しないならそうでしょうね」
「・・・倫也も成長しているのか」
「そうね。冴えない彼女の育て方だけど、みようによっては加藤さんが倫理君を育てた物語とも読めるのよ」
「ああ、コンタクトになったし、消費豚からクリエイターになっているし」
「何気に原作では眼鏡をとったとから注目されているような描写があったような」
英梨々がアイスティーを飲む。いつもストレートだ。レモンもミルクもガムシロップもいらない。
「まぁあなたが倫理君と結ばれたら、加藤さんは不幸になるわね、それが三つ目の最大の問題点なんじゃないかしら?」
「救済措置が一切ない・・・」
「そう、完璧なメインヒロインなのよ。あざとさも、めんどくささも、嫉妬も強欲もある・・・でもやっぱり一途なのが加藤さん。だから・・・倫理君と・・・結ばれなかったときの未来が用意されていない」
「・・・あたしが勝つためには恵に泣いてもらわないといけないってこと?」
「そうね、そうなるのかしらね・・・それが許されるなら」
「許されない?」
「それが4つ目の問題。冴えカノは加藤恵を理想的なメインヒロインにする物語だってこと」
「あたしは所詮、物語を盛り上げるためのサブヒロインってこと?」
「そうね。今のままではそう」
「そんなの勝ち目なんかないじゃない!」
「だからこそ、負け犬2でメインヒロインである加藤さんを具現化したんじゃないの」
「でも、あの怪物は倫也を殺しちゃったわね」
「ええ、おかげでコツコツ増えた読者もお気に入りも半減したわね・・・」
「そりゃあ、みんな気楽な物語が読みたいでしょうよ」
「そうなのかしらね。まぁ全員の賛同なんて必要ないんでしょうけど」
「霞ヶ丘詩羽も業の深い性格よね」
「そうね、そうかもしれない・・・」
詩羽が空になったカップを置く。
「そしてこれらを解決した先にいるのは、お嬢様でもなく、クリエイターでもなく、加藤さんの友達でもない、新しいメインヒロインの澤村スペンサー英梨々ってことになるわね」
「なんだか・・・ぞっとするわね、我ながら」
「そうね、あんたの魅力が損なわれているのは確かね」
英梨々は上を向いて考える。
「まぁ、加藤さんもけっこう楽しんでいるようだけどね。今回の話は」
「そうなの?」
「あの子にはあの子の未練があるんでしょうよ」
「未練?」
「メインヒロインを演じるのに必死で。倫理君と初詣を行ったり、バレンタインに手作りチョコを送ったり、そもそも学園イベントが作中にはないもの」
「なるほど・・・、でもそれは二人で篭ってゲーム制作することがそれ以上に楽しかったってことでもあるわよね?」
「もちろん。でもそれは『メインヒロイン』だからじゃないかしらね?普通の青春を普通に楽しめる子だと思うけど」
「そう考えると倫也も業が深いわね・・・」
「まっこうして同人とはいえ、オセチは倫也君に食べてもらえたようだけど」
「あれはあたしが勝手に・・・」
「そうね、勝手に手の平で踊ったのよね?サブヒロインとして、メインヒロインをサポートするのが宿命のように」
「・・・!」
「でもね、そこが澤村さん、あなたの魅力なんじゃないかしら」
「褒められているのか、けなされているのか・・・」
「まっ、とにかく物語を進めましょう。順調な立ち上がりだったし」
「で、次はどうするのかしら?」
「次回は加藤さんパートね。その次が紅坂朱音からのマルズイベントね」
「クリエイターとしての分岐かぁ・・・」
(つづく)
次回は休憩回です。