料亭の一間。紅坂朱音と伊織が待っていた。
「禁酒に禁煙って、何が楽しくて生きてるのかわかんねぇな」
「ははっ、クリエイターとしての楽しみがあるじゃないですか、朱音さん」
「ああん?けど、糞クライアントの要望でたまるストレスはどうすんだよ」
「僕がいるじゃないですか」
「くっ・・・お前もう高校生って感じじゃねぇな。どっかでホストでもやってこいよ」
「まだ未成年ですよ。僕」
「じゃあ、お前があたしにやったことはどう説明するんだよ」
「説明なんてしませんよ。そもそも合意のプライベートですからね」
「おまえ、恐ろしいやつだな・・・」
「誉め言葉と受け止めておきますよ」
そこへ詩羽と英梨々がやってきた。
「紅坂朱音っ!!」
「ああ、霞先生、そういうリアクションからやらんでいいから」
「・・・はい」
「って、なんで伊織がいるのよ!?」
「やぁ澤村さん。僕と朱音さんだけで短編立てるわけにはいかないからね、こうしてこっそり伏線立てているのさ」
「あっそ」
「まっ、細かいことは抜きにして、霞先生も柏木先生も座りな」
「なんか、キャラ丸くなったわね?」
「禁酒禁煙しているからな・・・どうにも調子がでん」
「また、どうして」
「まぁ私のことはいいだろう・・・」
伊織の主導でフィールズオブクロニクルの説明がなされ、設定資料を二人に見せる。
読みふける二人。
「あたしは参加しないわよ・・・」
「ああ、そういうのはいらんから柏木先生」
「ってどういう意味よ」
「霞先生と話しがついてんだわ」
紅坂はつまらなそうにお茶を飲む、それから伊織をにらむ。伊織は平然と笑顔で答える。
「私から説明するわ」
「どういうことよ霞ヶ丘詩羽」
「単純な取引よ。あの加藤恵@メインヒロイン型の件はわかるわね?」
「ああ、あのただでさえ少ない読者を1/3にした犯人ね・・・」
「そうよそれ、あれが動いているとあなたと倫理君が今以上に仲良くなるのは危険ね」
「なるほど・・・」
「だから、あれを固定してもらうのよ」
「そういうことだ柏木先生。あのモンスターを元の時間軸に固定する。もっともセカイ系の能力はどうにもならないが・・・突然襲われることはなくなるはずだ」
「・・・それってもう、あたしに拒否権がないじゃない」
「だから最初にそういったろ・・・」
「くっ・・・なんか納得いかないわね」
「それにな柏木先生。かっこ悪いじゃないか?」
「何がよ」
「男との恋愛のために、クリエイターをやめるなんてよ」
「別にやめるわけじゃないっ・・・」
「高みを目指さないなら死んだも同然だろ?屑を量産してどうすんだ?」
「・・・あたしは倫也と一緒に楽しくゲームを作りたいだけよ」
「別に作ればいいじゃねぇか・・・」
「こっちの仕事を引き受けたらできないでしょ」
「何もすぐじゃなくてもいいだろ。成長して最高のゲームを作れよ」
「・・・っ!!」
「澤村さん、もういいでしょ・・・紅坂さんの話はもっともだと思う。私だってもう一度柏木エリと一緒にゲームをつくってみたいし」
「・・・わかったわ、でもそれだと倫也との関係が・・・」
伊織が咳払いをし英梨々の方を向く。
「それについて、僕からいいかな?」
「なによ伊織」
「僕も協力するよ」
「あなたは妹の味方じゃないの」
「もちろんそれは大前提だけど・・・正直あまり出海は巻き込みたくないな」
「まぁいいわ。で、あなたに何ができるのよ」
「僕の能力は千里眼、プロットを覗き見ることができる」
「あなたらしい能力よね」
「だけど、このプロットがめまぐるしく変わっていく」
「意味がないわね」
「いや、未来が確定していたらそれこそ意味がない。それだと僕らはひどい道化のままだ」
「・・・」
「だからこそ、澤村さんがより良い方向へ導く選択肢を示せるかもしれない」
「どういうことよ?」
「例えば、この話の最初の問題。お嬢様のまま倫也くんと付き合うのは難しいといったね?」
「ええ、そもそもそれができるなら10年前にケンカなんてしてないっ・・・」
「そうだね。だけどだからってお嬢様を10年間演じてきた自分を否定することなんてない。多少は無理をしているのかもしれない、本当の自分ではないのかもしれない。でも、それもやっぱり澤村さんなんだと思う」
「そうね・・・あたしも別に嫌いじゃないわよ。お嬢様でいる自分は」
「だったら、何もヲタクの倫也くんに合わせることはない。それが僕からのアドバイスだよ」
「なるほど・・・」
詩羽が大きくうなずいた
「だから、なんで二人で納得しているのよ」
「それはね柏木さん、元々、私や波島さんは物語をスムーズに進行するための役割だったからよ。いわば作者の分身ね。私の設定なんて作家だったし」
「それで?」
「作中の会話もイベントも適当でいい、キャラに任せてしまえばいいのよ。それが成功しても失敗してもね」
「やっぱりよくわからない」
「だけど方向性は決められる。だから・・・倫理君をあなたにふさわしい方向に修正していけばいいんだわ」
「あたしは今の倫也が好きなんだけど?」
「そうじゃないわよ、例えばコンタクトにする、それだけで印象は変わるわよね。それに倫理君は高校生ながら十分な結果を残している。もうただのヲタクじゃないのよ。その成果をお嬢様のあなたがそれとなく学校で認めていく・・・すると倫理君の評価もあがるはず」
「なるほどっ!」
「もっとも、その役目は加藤さんがやっていたのだけどね・・・」
「・・・」
「まっ、なんにせよ、波島さんの協力を得て損はないわね。
私も対策を考えやすいし」
「わかったわ。お願いする」
「素直でいいね。澤村さん」
「でもあたし、あんたのその態度は好きになれないんだけど」
「僕は別にそれで問題ないよ」
伊織は涼しい顔をしている。一方朱音は退屈そうに食事をとっていた。
「あん?話はついたか。前もいったがガキの恋愛にはあまり口をはさみたくねぇ。ただあのモンスターだけは前回の事もあるしな、きっちり処理しておいてやるよ・・・」
「わかったお願い」
英梨々は少し納得がいかなかった。でも、この物語で自分が勝つルートが狭いことはわかる。
「これでいいのよ澤村さん。まずは私が、それに紅坂さんと波島さん。こうやって仲間を増やしていけば」
「そうね、霞ヶ丘詩羽のシナリオは間違いないわよね?」
「そうなるようにがんばるわ」
※※※
時間が遡って、春休みの早朝。例の坂の上である。紅坂朱音は加藤恵@メインヒロイン型を捕まえて、この時空間に連れてきていた。
「お前も難儀だな」
「がるるぅっ」
「犬はやめておけよ。まだ無言のほうがいい」
「・・・」
「そうだな。まぁ、冴えない役回りだろうけどさ、主人公を殺して物語を終わらすっていうのはよくなかったかもな」
「シラナイヨー」
「ははっ」
@メインヒロイン型を立たす。
「アブソリュート。お前はここから動けない」
「ギギッ!」
「そのうち、仲間がなんとかしてくれるんじゃねーか?」
「ナンダカナーダヨ?」
「キャラが定まらないっていうのも大変だな。やっぱ無言がいいよお前は」
「・・・」
「ああ、いい子だ」
こうして紅坂朱音が加藤恵@メインヒロイン型を配置し固定した。
やがて、ここでこの世界の倫也と出会うだろう。優しい音楽と舞い散る桜と悪戯な風を吹かせるために。
そして加藤恵と安芸倫也の物語がはじまる。
だが、この物語はそれを始めさせないために英梨々が戦う。自分の恋のために、それ以上に加藤恵・・・親友の恋のために。
(つづく)
感想・評価等あればよろしくです。
物語を進めるシーンに関しては基本的につまらんな(汗
次回は作戦会議になります。