秀明たちが、渡米する二人を見送っている頃、立花駅前のファーストフードには、正田舞の姿があった。
来店してから十五分ほどが経過し、二人掛けの席に座りながら、前日の吉野亜莉寿との通話の内容を思い返していると、彼女のもとに、同じ学校の生徒が姿を見せた。
「お待たせ〜。ゴメンね〜、舞ちゃん遅くなって〜」
「ツバ姉おそい!私との待ち合わせの時は、いっつも遅れて来るんやから!」
舞が、ツバ姉と呼ぶ生徒は、秀明たちが良く知る上級生であった。
「でも〜。今日は、舞ちゃんに会って来るって言ったら、お母さんが茉美さんに渡すモノがあるって引き止めてきたから〜」
高梨翼が、遅刻の理由を述べると、舞は呆れながら、
「はぁ〜。またなん?奈美さんから、色々してもらえるのはありがたいけど、その度に、ウチの母親が、『お姉ちゃん、こんな気をつかわんでもエエのに……』って、グチって来るねんで……」
と、ため息をついた。
気さくに語り合う二人の会話の内容からも想像できる様に、翼と舞は、お互いの母親同士が姉妹であり、彼女たちは、従姉妹同士の関係にあたる。
余談ながら、彼女たちが相手の親のことを名前で呼びあっているのは、二人の母親が各々の姪に、「叔母さん・伯母さん」と呼ばせない様に言いつけているからだ。
この日は、亜莉寿から受けた電話の内容について、翼の責任を追及しようと考えた舞が、従姉に招集を掛けていた。
「舞ちゃん、私も春休みからは、受験生やから〜。もう少し、気をつかってくれるとありがたいんやけど〜」
おっとりした口調ながら、呼び出されたことに苦言を呈する翼に、
「いや!私が、吉野さんとの会話に付き合ったのも、ツバ姉に原因があるんやから、私の話しにも付き合ってもらうで!」
と、舞は断言した。
「え〜。私は、何もしてないよ〜」
と、自らの関与を否定する翼に、
「ナニ言うてるん!?有間が、吉野さんにコクる様に仕向けたのは、ツバ姉やろう?」
舞は、食ってかかり、
「おかげで、吉野さんから電話が掛かってきて、三時間も話し相手になったんやから!」
と、前日の夕方、自らの身に火の粉が降りかかったことをアピールした。
翼は、話しをそらしつつも、
「あ〜、それで、ウチのお母さんが、正田家に電話しても話し中で繋がらない、って言ってたんや〜」
と、トボケてみたが、吉野亜莉寿の長時間に渡る電話回線の占拠は、高梨家にも実害をもたらしていた様である。
もっとも、舞からすると、娘の因果が親に報いた、ということになるのだが……。
舞の表情を見ながら、翼は
「私のせいにされても困る〜」
と、言いつつ
「それで~、有間クンは、吉野さんにキッパリ振られたの〜?」
と、ニヤニヤ笑いながら、従妹にたずねた。
しかし、舞は、少し困惑しながら、答える。
「う〜ん、それが、そうでもないみたいやねんなぁ……」
「!!!!!!!!ええっ!?どういうこと!?!?!?」
従妹の発した答えが、あまりにも予想外だったからなのか、いつものおっとりした口調も吹き飛び、
「いったい、二人に何があったン?」
翼は前のめりになって、たずねる。
「まあ、ツバ姉も、キャラ作りを忘れるくらい、ビックリするよなぁ」
舞が、そう言って苦笑すると、
「キャ、キャラなんか作ってないって、いつも言ってるやん~。舞ちゃんのイジワル~」
と、翼は、またいつもの口調に戻って、従妹に言い返す。
そんな従姉の様子を見つつ、
「まあ、今日は、その話しはイイとして、吉野さんが電話で話してくれたことを聞いてもらおうかな?」
と、前置きして、正田舞は、前日に吉野亜莉寿から受けた電話での報告を覚えている限り、仔細に渡って語り始めた。